今回は、2021年9月11日(土)、ウクライナのドネツク州地区にある石油貯蔵所の油タンクの屋根で爆発があり、火災が発生した事故を紹介します。
< 発災施設の概要 >
■ 発災施設は、ウクライナ(Ukraine)のドネツク州(Donetsk)のキロフスキー(Kirovsky)地区にある燃料会社ネフテバザ(Нефтебаза)の石油貯蔵所である。
■ 事故があったのは、ドネツク独立派の“ドネツク人民共和国”にある石油貯蔵所の油タンクである。
< 事故の状況および影響
>
事故の発生
■ 2021年9月11日(土)午後12時30分頃、石油貯蔵所の油タンクで爆発があり、続いて火災が発生した。
■ 発災に伴い、地元の消防署が出動した。
■ この爆発によって1,300kgの石油が失われた。
■ 油タンクの爆発が起こった約5時間前の午前7時30分頃、石油貯蔵所の燃料油タンクや潤滑油タンクから約50m離れた場所で最初の爆発があったという。
■ この2つの事件の調査過程で、爆発現場で焦げた胴体や翼の一部などが発見された。このことから破壊行動はドローンによる攻撃だったといわれている。爆発のあったタンク屋根には大きな穴が開いていた。ドローンから爆発物が投下され、ドローン自体は爆発によって破壊されたという。その残骸の一部が油タンクの屋根で発見された。
■ 事故による死傷者はいなかった。
被 害
■ 爆発によって油タンクの屋根が大きな穴が開いた。その後の火災で1,300㎏の油が焼失した。
■ 事故による死傷者はいなかった。
< 事故の原因 >
■ ドネツク独立派の“ドネツク人民共和国”は、事故がドローン攻撃によるテロと主張している。
■ ウクライナ政府は事故に関してコメントをしていない。
< 対 応 >
■ 火災は、9月11日(土)午後4時10分、消防隊の泡消火によって消された。
■ 9月12日(日)、ドネツク独立派の“ドネツク人民共和国”の外相は、石油貯蔵所の爆発はテロ攻撃であるといい、「ウクライナの武装勢力は、既存の和平協定、国際法、ヒューマニズムの概念に反した行動を続けている。ドローンを使用して爆発物を投下することはテロリストによって広く採用されている」と述べている。
■ ウクライナ政府はこれらの情報についてコメントせず、過去24時間にわたって“ロシアの占領軍” が停戦に繰り返し違反し、ウクライナ軍に死傷者が出たと述べている。
■ 停戦統制調整センター(JCCC)のドネツク・オフィスから、タンク屋根に開いた穴とドローンの残骸と思われる映像が投稿されている。つぎのユーチューブを参照。
●YouTube 「На нефтебазе Донецка прогремело два взрыва」(2012/09・12)(ドネツクの石油貯蔵所で2回の爆発が雷鳴)
■ ドネツク人民共和国(DPR)の情報省から、消火活動の映像が投稿されている。つぎのユーチューブを参照。
●YouTube 「Пожар на нефтебазе Донецка был полностью ликвидирован
в 16:10 - МЧС ДНР」(2021/09/12)(ドネツク石油貯蔵所の火災は16:10に完全に消火された-DPR緊急事態省)を参照。
補 足
■ 「ウクライナ」(Ukraine)は、東ヨーロッパに位置し、南に黒海と面する人口約4,500万人の国である。天然資源に恵まれ、鉄鉱石や石炭など資源立地指向の鉄鋼業を中心として重工業が発達している。2014年3月に、クリミア半島についてロシアによるクリミア自治共和国の編入問題があり、世界的に注目された。
「ドネツク州」は、ウクライナの東部にある州で人口は約460万人である。州都ドネツクを中心に、同国有数の工業地帯として知られる。一方、2013年に同国内で親ロシア派と親欧米派の対立が激化し、2014年に州庁舎を占拠した親ロシア派が一方的にドネツク州の一部を「ドネツク人民共和国」の樹立を宣言した。同5月に行われた住民投票では独立支持が多数を占めたが、ウクライナ政権や欧米は投票の正当性を否定しており、情勢は混乱している。
「ドネツク人民共和国」の実行支配地は州の東部で、首都はドネツク市にあり、人口は約230万人である。
「キロフスキー」(Kirovsky)地区は、ドネツク市の市街地にある人口約17万人の地区である。
なお、ウクライナのタンク事故で過去に紹介したのは、つぎのとおりである。
●「ウクライナの石油貯蔵施設でタンク火災後に爆発炎上、死者5名」(2015年6月)
■ 火災は画像が公表されているが、通常の油火災とは異質で限定的である。タンク屋根の穴まわりだけが変色しているだけで、タンク側板などは焼けていない。油種は、軽油以上の重質油または潤滑油だと思う。燃焼した油量は、1,300トンと1.3トン(1,300㎏)の2つが報じられており、1,300トンの火災規模の状況とは思われないので、1.3トン(1,300㎏)を採用した。
所 感
■ 今回の事故は、よく分からないというのが率直な感想である。
● 報道の中には、「大規模」なタンク火災という表現もあったが、そのような火災には思えない。
● 爆発物でタンク屋根に穴が開くほどの爆発威力があったにも関わらず、タンク側板が焼けるような火災ではない。
● タンク液面のベーパーに着火したはずだが、タンク屋根の穴からだけ炎が出るようなタンク火災はありえるのか。状況によっては、ほぼ完全燃焼の状態で煙がほとんど出ていない。類推ではあるが、タンクは空に近く、底部に溜まった油しかなかったのではないだろうか。油が無く、スラッジ分が燃えた事例の画像は「東燃ゼネラル和歌山工場で清掃中の原油タンクの火災」(2017年1月)を参照。
● 午前7時30分頃に石油貯蔵所から約50m離れた場所で最初の爆発があったのに、5時間後の午後12時30分頃に再びドローンによるテロ攻撃を受けるような弱体なセキュリティ体制はありうるのか。
■ 設備的な面での疑問点はつぎのとおりである。
● 火災を想定したタンクの配置になっていないし、消防車の配置が考慮されていない。
● 防油堤が機能する配置になっていない。タンク地区を大きく囲む防油堤はあるが、個々のタンクを対象にした仕切り堤がなく、堤内火災が発生すれば、他のタンクが巻き込まれる。
● 防油堤内に草木が伸び放題になっている。このような堤内の放置は見たことがない。(消火活動時に伐採作業が行われている)
■ 消火活動の面での疑問点はつぎのとおりである。
● タンク冷却作業に異常にこだわっている。確かにタンク火災では、火が消えた後も、タンクの残熱は高く、残っていた油によって再出火する可能性はあるが、今回はそのような状況ではない。現在のタンク消火活動では、堤内に過剰な水を入れないし、タンク側板に放射した水が蒸発していなければ、冷却水を止める戦術である。
●タンクの消火資機材が整っていない。最終的にはしご車が配備されているが、泡を遠くへ放射できる泡モニターが付いていない。ホースの先端に高発泡ノズルを付けて対応しているが、はしご車の到達能力が不足し、火災の穴に届いていない。仕方なく、手前に泡放射し、屋根伝いに泡を穴に入れようとしている。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Tankstoragemag.com, Claims: Donetsk oil
terminal blast caused by Ukraine attack,
September 13, 2021
・Dnronline.su, Two explosions hit an oil
depot in Donetsk, September 13, 2021
・Tass.com, Donetsk foreign minister
describes oil depot blast as terror attack,
September 12, 2021
・Topwar.ru, Удар украинского беспилотника
привёл к взрыву с возгоранием на нефтебазе в Донецке, September 12, 2021
・World-today-news.com, У An explosion
thundered at the oil depot in Donetsk,
September 11, 2021
・Urdupoint.com, Explosion Occurs At Tank
Farm In Donetsk In Eastern Ukraine - Local Authorities, September 12, 2021
・112.international, Explosion thundered at
oil depot in Donetsk: Terrorist attack announced by occupational
authorities, September 12, 2021
・Iz.ru, Появились кадры последствий взрыва
на нефтебазе в Донецке, September 11,
2021
後 記: 今回の事故で最初に調べたことは、ウクライナの政情でドネツク州と“ドネツク人民共和国”の関係です。前回のウクライナの事例を紹介したとき、2014年3月にクリミア半島についてロシアによるクリミア自治共和国の編入問題があり、注目されたことは知っていましたが、今回はドネツク州やドネツク人民共和国が出てくるので、頭の整理が必要でした。前回もテロ攻撃の話が出ていましたが、結局、デマと分かりましたので、今回も疑いから始めました。タンクに穴が開いているのは本当なのでしょうが、これがドローン攻撃によるものなのか、またタンクからの炎は真実のタンク火災なのか確信のもてない事例でした。