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2021年3月22日月曜日

福島事故から10年: 原子力プラントで何が起こったのか?

 今回は、2021311日(木)の東日本大震災の福島原発事故から10年を迎え、英国放送協会がまとめた「原子力プラントで何が起こったのか?」(What happened at the nuclear plant?)の記事を紹介します。

< 背 景 >

■ 10年前の311日(金)の午後、日本でこれまでに記録された中で最も激しい地震が東日本を襲った。マグニチュード9.0の地震は激烈で、地球の軸がズレるほど強かった。地震によって津波が引き起こされ、本州の太平洋岸の町を襲い、18,000人以上の人たちの命を奪った。

■ 福島原子力発電所では、巨大な津波が防衛線(防潮堤)を越えて原子炉建屋に入って浸水させ、大災害を引き起こした。当局は、プラントからの放射線漏洩量が大きくなるにつれて立入禁止区域を広く設定し、150,000人以上の人びとが自宅から避難することを余儀なくされた。

■ 10年経った今も、この区域はそのままの状態で、多くの住民は自宅に戻れていない。 当局は、作業にすでに何兆円もの費用をかけているが、完了するのに最大40年かかると考えている。

< プラントはどこにあるか >

■ 福島第一原子力発電所は福島県大熊町にある。この地域は首都東京の北東約220kmの東海岸に位置している。

■ 2011311日(金)午後246分、東日本大震災あるいは2011年東北地方太平洋沖地震として知られる地震が仙台市の東方沖、発電プラントから北97kmで発生した。

■ 津波が海岸を襲うときに、住民にはわずか10分前に警告が発せられた。

■ 地震、津波、原発事故の結果、国内全部で50万人近くが家を離れることを余儀なくされた。

< 福島で何が起こったのか? >

■ 原子力発電所のシステムが地震を検知し、原子炉は自動的に停止した。非常用ディーゼル発電機が起動し、原子炉内のコアの周りに冷却剤を送り続けたが、原子炉は反応が停止した後も信じられないほど高温のままであった。

■ しかも、すぐに高さ14mを超える津波が福島を襲った。海水は防潮堤を圧倒し、プラントを浸水させ、非常用発電機を打ちのめした。

■ 従業員たちは電力を回復させようと急いで行動したが、3基の原子炉の核燃料は過熱してコアを部分的に溶融させた。これは核のメルトダウン(炉心溶融)として知られている。

■ また、プラントは何度か水素爆発に見舞われ、原子炉建屋がひどい損傷を被った。放射性物質が大気と太平洋に漏れ始め、避難区域と立入禁止区域が拡大していった。

< 何人が負傷したか? >

■ 原発事故の最中や直後に、死者は出なかった。爆発で少なくとも16人の作業員が負傷し、さらに原子炉の冷却やプラントの安定化に取り組んでいた数十人が放射線にさらされた。報告によると、三人の従業員が放射線によって高レベルに被ばくした後、病院に運ばれた。

■ 放射線の長期的な影響についてはいろいろな議論がある。世界保健機関(WHO)が2013年に出した報告では、この事故によってこの地域のがん発生率が目に見えるほど増加した傾向はないという。国内外の科学者は、プラント直近の地域を除けば、放射線のリスクは比較的低いままであるとみている。

■ 震災から10周年を前に、 202139日(火)、国連の報告書では、災害による放射線に直接的に関係した福島の住民に健康への悪影響はないと書かれている。放射線に関する将来の健康への影響については、識別できそうにないと述べられている。

■ しかし、多くの人たちは危険性がはるかに大きいと思っており、地域の住民は警戒を続けている。当局は多くの地域で規制を解除しているにもかかわらず、ほとんどの人は自宅に戻っていない。2018年、日本政府は、ひとりの従業員が放射線の被ばく後に死亡したと発表し、家族は補償されるべきであることに同意した。一方、放射線のために避難して移動しなければならなかった病院の入院患者数十人が亡くなったのを含め、多くの人々が避難先で死亡したことが確認されている。

■ 福島原発事故は、国際原子力機関によってレベル7の事象に分類されており、事象評価の中では最も高く、チェルノブイリ事故につづいて2番目の災害である。

< 誰が誤っていたのか? >

■ 評論家は、プラント操業者の東京電力(Tepco)と日本政府双方の慌てふためいた対応と同様、レベル7の事象への準備の不十分さを批判した。

■ 日本の国会によって設立された独立した委員会の調査では、福島原発事故は“深刻な人為的災害” と結論付け、安全の要件を満たさず、今回のような事象を検討してこなかったエネルギー会社を批判した。 しかし、2019年、日本の裁判所は、災害から出てきた唯一の刑事事件であることで、東京電力の元幹部3人の怠慢をしりぞけた(無罪とした)。

■ 2012年、当時の日本の野田佳彦首相は、国が原発事故の責任を分担すると述べた。2017年、裁判所は、政府に部分的な責任があり、避難者に補償を支払うべきであるとの判決を下した。

< クリーンアップ作業はどうなっているか? > 

■ 10年経った今も、日本の福島県のいくつかの町は立入り禁止のままである。当局は、住民が帰還できるように地域の汚染除去に取り組んでいる。

■ 大きな課題が残っている。現場に残された核廃棄物の除去、燃料棒の取り出し、100万トンを超える放射能汚染水の処理を安全に行うためには、今後3040年間、数万人の労働者が必要になる。

■ しかし、放射線が恐いという理由や、すでに他の場所で新しい生活を築いているという理由、あるいは災害が発生した場所に帰りたくないという理由で、住民の一部は二度と戻らないことに決めている。

■ 2020年の報道によると、政府は放射能を減らすためにフィルターを通した水を早ければ来年にも太平洋に放出し始めるという。

■ 一部の科学者は、巨大な海が放出した水を薄め、人間や動物の健康へのリスクが低くなると信じている。しかし、環境保護団体のグリーンピースは、水には人間のDNAにダメージを与える可能性のある物質を含んでいると述べている。

■ 当局は、液体をどうするかについて最終的な決定はなされていないと述べている。

 

■「国際原子力機関によるレベル7の事象」は、原発事故の深刻さの度合いを示す指標である国際原子力事象評価尺度の中の最も深刻なレベルの事象である。国際原子力事象評価尺度は図を参照。

■「英国放送協会」は、 British Broadcasting Corporation、略称:BBC で、イギリスのラジオ・テレビを一括運営する公共放送局である。インターネットでは、ニュースを配信している。

所 感

■ 東日本大震災から10年を迎え、日本のテレビや新聞のメディアでいろいろな特集番組があった。地震や津波による自然災害を風化させないという意図は効果があっただろう。この災害の中で福島原発事故も取り上げられていたが、海外ではどのように見ているかよくわかった。

■ 今回の英国放送協会(BBC)のインターネット情報は、この10年の動きを海外の第三者的視点でまとめられており、つぎのようなハッとする事項があった。

    ● 水素爆発で16人が負傷し、3人の従業員が放射線による被ばくで病院に搬送されたが、原発事故の最中や直後に、死者は出なかったという指摘は、改めてあれだけの大事故で死者が無かったのだと思った。一方、2018年にひとりの従業員が放射線の被ばく後に死亡したという話は初めて知ったし、放射能被ばくの怖さを感じる。

 ● 国連の報告書で、福島の住民に“健康への悪影響はなく”、放射線の将来の健康への影響は“識別できそうにない”という。多くの地域で規制を解除しているにもかかわらず、ほとんどの人は自宅に戻っていないことに合理的で率直な疑問をもっていると感じた。

 ● 国会による委員会では、事故は“深刻な人為的災害” と結論付け、対策を検討してこなかった東電を批判し、また、当時の首相は国が事故の責任を分担するとしている。 しかし、裁判所は東京電力の元幹部3人の怠慢をしりぞけた。この矛盾は、日本の刑事事件の裁判のあり方に疑問を呈していると感じた。

 ● 汚染水の処理について、一部の科学者は、海への放出によって希釈すれば、人間や動物の健康へのリスクが低くなると信じていると今の状況を述べ、一方、環境保護団体のグリーンピースが水には人間のDNAにダメージを与える可能性のある物質を含んでいるとして、対応策の見直しや丁寧な説明を求めていると感じた。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Bbc.com, Fukushima disaster: What happened at the nuclear plant?,  March  10,  2021       

    Firedirect.net, Japan – 10 year Anniversary – Fukushima Disaster,  March  11,  2021


後 記: 311日の東日本大震災10年を契機にいろいろな特集が組まれていました。そのひとつにテレビで映画「Fukushima 50」が放映されたのを観たきっかけで、インターネット情報の“FireDirect” に福島原発事故を振り返る記事に興味が出ました。この記事のオリジナルは“BBC”のインターネット情報でした。表現は日本人からみるとやや大袈裟な気もしますが、できるだけ趣意に沿った日本語にしました。たとえば、「海水は防潮堤を圧倒し、非常用発電機を打ちのめした」は、「海水は防潮堤を越え、非常用発電機を停止させた」ではあまりにも味のない文章です。 また、標題の写真は原発事故ではありませんが、東日本大震災のすさまじさを表しているので、そのまま引用しました。 FireDirect” では、下のような千葉のLPGタンク火災事故の写真を標題に使用されていました。


  

2021年3月16日火曜日

サウジアラビアの石油ターミナルが無人機攻撃されるが、迎撃される

  今回は、202137日(日)、サウジアラビアのペルシャ湾沿岸のラスタヌラにあrサウジ・アラムコ社石油ターミナルが無人機によるテロ攻撃があった事例を紹介します。

< 事故施設の概要 >

■ 事故があったのは、サウジアラビア(Saudi Arabia)ペルシャ湾沿岸のラスタヌラ(Ras Tanura)にある国営石油会社のサウジ・アラムコ社(Saudi Aramco)のラスタヌラ石油ターミナルである。ラスタヌラ石油ターミナルは石油の輸出港で3,300万バレル(525KL)の貯蔵能力がある。


< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 202137日(日)夜、ラスタヌラ石油ターミナルに無人機による攻撃があった。

■ 攻撃はイエメンの親イラン武装組織フーシ派によるもので、海側から飛来した無人機(ドローン)で狙ったものである。しかし、死傷者はなく、施設の損害もなかった。サウジアラビア国防省によると、この無人機は目標に到達する前に迎撃され、破壊されたという。

■ その後、弾道ミサイルによる2回目の攻撃がダーラン(Dhahran)にあるサウジ・アラムコの居住施設にあった。弾道ミサイルは迎撃され、破片が施設近くに落下したが、死傷者はなく、施設の損害もなかった。

■ フーシ派は、サウジアラビアでラスタヌラへの攻撃を含め、14機の無人機と8発の弾道ミサイルを発射したと述べた。このうち、10機はサマド-3型無人機で、弾道ミサイルの1機はゾルファガル型だという。なお、ラスタヌラ石油ターミナルを狙ったのは、無人機1機だという。

■ 弾道ミサイルに対してはパトリオット地対空ミサイルによる迎撃が成功し、無人機に対してはF-15戦闘機による迎撃が成功しており、赤外線映像で撮影した撃墜する様子の動画が公開されている。

(ツイッター 「https://twitter.com/mbks15/status/1368666935098019850」を参照)

被 害

■ サウジ・アラムコ社のラスタヌラ石油ターミナルの設備に損害は無かった。

■ 無人機攻撃に伴う死傷者は無かった。

< 事故の原因 >

■ 事故の直接原因は、無人機攻撃という「故意の過失」である。しかし、攻撃は戦闘機によって迎撃され、失敗だった。

< 対 応 >

■ 今回の37(日)の攻撃では、サウジ・アラムコ社の生産・輸出施設の大部分がある東部州の湾岸が標的となった。今回攻撃を受けた施設からわずか数kmの場所では、2019年に石油施設がミサイルや無人機(ドローン)の攻撃を受け、サウジアラビアが原油生産の半分以上の一時停止を強いられた結果、原油価格の急上昇につながった。

■ サウジアラビアの石油ターミナルなどの施設がテロ攻撃を受けた事例で、本ブログで取り上げたのはつぎのとおりである。

 ● 20199月、「サウジアラビアの石油施設2か所が無人機(ドローン)によるテロ攻撃」

 ●  202012月、「サウジアラビアの石油流通ステーションの貯蔵タンクをミサイル攻撃」

 

■ サマド-3型無人機(ドローン)は、中東で使用されている無人偵察機から派生した機種である。サマドにはサマド-1型、サマド-2型、サマド-3型の3種類がある。サマド型の無人機は主にイエメン内戦のフーシ派によって使用され、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)で標的を攻撃するため、無人偵察機の長距離用が使用されている。


所 感

■ 今回のテロ攻撃の状況ははっきりいって分からない。サウジアラビア側の報道で石油ターミナル施設に被害の報告がないので、タンク設備に損害は無かったのだろう。

 これまでの、

 ● 20199月、「サウジアラビアの石油施設2か所が無人機(ドローン)によるテロ攻撃」

 ●  202012月、「サウジアラビアの石油流通ステーションの貯蔵タンクをミサイル攻撃」

2件のテロ攻撃では、サウジアラビアの防空システムの脆弱性を露呈したが、今回は機能したと思われる。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

   Tankstoragemag.com,  Houthi attacks at Aramco facilities fail,  March  08,  2020

   Jp.reuters.com,  イエメンのフーシ派、サウジ石油産業拠点にミサイル・無人機攻撃,  March  08,  2020

   Tokyo-np.co.jp,サウジアラビアの国営石油会社の施設に攻撃 隣国イエメンの反政府武装組織フーシ派が犯行声明,  March  08,  2020

   Jiji.com ,  サウジ東部の石油施設攻撃 イエメン武装組織が主張、被害なし,  March  08,  2020

   News.yahoo.co.jp,  サウジアラビア戦闘機がフーシ派のドローン多数を撃墜し防空に成功,  March  09,  2020

   Spglobal.com, Saudi Aramco facilities reportedly targeted by Houthi missile bombardment,  March  07,  2020

   Aljazeera.com, Houthis fire missiles, drones at Saudi oil facilities,  March  07,  2020

   Wionews.com, Yemen's Houthi rebels target Saudi Arabia's Aramco oil facilities,  March  08,  2020  


後 記: 一応、テロ攻撃としていますが、実際は戦争であり、攻撃側は過大に伝えますし、攻撃を受けた方は被害を小さく伝える傾向にあります。無人機やミサイルの数に整合性がありませんし、すべてが撃墜されたのかはっきりしません。無人機に対するF-15戦闘機による迎撃の動画も映像は事実でしょうが、今回の撃墜を示すものなのかは疑問もあります。しかし、報道のひとつとして、ブログでは紹介しました。報道内容の真偽は別として、少なくとも貯蔵タンクに損害は無いようです。

2021年3月10日水曜日

危険物質の事故対応で、もはやドローンは欠かせない!

 今回は、Hazmat Nationのインターネットに掲載された「消火技術:危険物質の対応―ドローンは必需品である」(Fire Technology: Hazmat Response—Drones Are a Necessity)を紹介します。

< ドローン活用の背景 >

■ 危険物質の事故は、消防関係機関にとって最も危険で、最も困難な対応のひとつである。これらの事故は、危険性の物質(化学的物質、生物学的物質、放射性物質、核物質、爆発物など)を含み、住民や緊急対応する隊員への環境上の危険性があり、問題の原因追究時などに分からないことを伴うことがある。危険物質への対応には、通常、自給式呼吸器を装着した防護服が必要であり、消防士には危険な環境の潜在するところへ立ち入ることが強いられる。

■ このときの活動は、通常、目視で監視されることはなく、連絡は無線機による会話に限定される。さらに、活動中に資機材が必要になった場合は、隊員のひとりが“ウォームゾーン” (Warm Zone)まで戻り、資機材を入手するか、新たな隊員を派遣して資機材を現場に持ち込む必要がある。このため、事故を収束するまでの時間が長引いてしまう。(もちろん、わかっている資機材は事前に運び込むが) また、危険物質に関わる作業が進行中、施設や近隣の道路を何時間も、場合によっては何日も閉鎖することも念頭にいれておく必要がある。

■ 近年、ドローンを使うことによって安全性の向上、道路や施設の早期再開による時間短縮など劇的に改善されることが期待されている。

< ドローンによる変革 > 

■ 事故現場に到着すると、ドローンを発進させ、空中偵察を行い、生命と健康を損なう恐れのある環境の遠隔監視や識別を行うことができる。

■ これには、つぎのような機能がある。

 ● 負傷者をすばやく識別する。

 ● 曝露する恐れを識別する。

 ● タンクの漏れや破裂の状況、バルブの破損状況を識別する。

 ● 火災における火炎の状況、構造物の健全性を識別する。

 ● 漏出の流れる方向を識別する。

 これらの機能は、人への危険に関する重要な情報や、事故を早く収束するための資機材や防護装置の判断情報を教えてくれる。

■ これらの機能は、隊員に無用な危害が加えられないようにしながら、活動や汚染の除去を成し遂げるまで行うことができる。

■ 熱画像カメラを搭載したドローンは熱の兆候を識別できる。これにより、つぎのようなことがわかる。

 ● 点火源の存在を示したり、危険物質容器内の液面を表示したりできる。

 ● 他の方法では見えない危険な蒸気雲やベーパー群を視覚化できる。

 ● タンクへの火炎衝突の影響を見ることができ、沸騰液体による壊滅的な蒸気爆発につながる可能性を判断することができる。

 ● 夜間や煙が視界をさえぎる状況下で、活動している隊員や負傷者が発する熱の兆候を確認できる。

■ ドローンを使用して火災事故の鎮圧活動を観察し、視覚映像と熱画像を使って消火活動の効果を直接的に知ることができる。この情報は、危険にさらされる恐れのある人たちが避難の必要性があるかの状況判断に有用である。

■ 危険物質の流出事故では、封じ込め作業の有効性に関して監視できるほか、流出の進行方向や水面上の光沢を監視できる。

■ ドローンで見張っていれば、危険物質に対応している隊員が認識していない危険な状態や変化の兆候を知ることができる。

■ リアルタイムの状況把握のため、動画配信を現場や別なところへ必要に応じて提供することができる。

■ スピーカーを備えたドローンは警報を出すときに役立つ。これは、従来の無線通信が使えそうにない場合には重要になる。

■ 危険物質のモニタリング装置を装備したドローンを着陸させ、ローターを停止すれば、ドローンはあたかも定点の危険物質の遠隔検出器として長い時間使用することができる。

■ ドローンは、活動中の隊員のすぐ近くに必要な資機材を届けることができる。また、照明器を装着したドローンは、昼間や夜間にかかわらず、活動中の暗い領域を照らすのに役立つ。

■ 視覚画像を撮っておけば、後で3次元モデルに変え、分析・評価することができる。また、画像を撮っておけば、損害の評価を行うことができ、必要に応じてメディアや地域社会と共有することができる。

■ 列車の脱線事故は、都会から離れた農村地域で発生することが多い。すぐにドローンを発進させれば、脱線の規模と巻き込まれた車両の数を確認できる。ドローンを使って上空から見れば、火災が発生しているのか分かるし、危険物質の車両が巻き込まれていないのか分かる。また、流出や漏出が発生しているのか判断できる。 ドローンによれば、書かれている字を読むことができるほか、近くで影響を受けている人、住宅、学校などを確認することができる。

< 活用に積極的な消防部門 >

■ ドローンを活用したパイオニアで、リーダー的存在は、フロリダ州マナティ南部消防救助隊(Southern Manatee, FL, Fire and RescueSMFR)である。たとえば、困難な硫黄火災事故(高温、有毒、遮られた視界)や無水アンモニアの漏出事故(非常に揮発性で有毒)の際、フロリダ州マナティ南部消防救助隊はドローンを使用して、現場エリアの360度俯瞰図を介して初期状況の評価を行った。このような状況下で重要な評価を実施することによって、問題点を的確に指摘し、消防士に影響を与えるベーパー群や現在の状態を判断して、現場に立入るのに十分な安全性を確保することができる。

■ 硫黄火災事故では、ドローンを使うことをひらめいたフロリダ州マナティ南部消防救助隊(SMFR) は、ほかの方法でほとんど検知できなかったホットスポットをドローンで特定することができた。無水アンモニアの漏洩事故では、肉眼では見えなかった漏洩源をドローンの熱画像カメラによって特定した。

■ フロリダ州マナティ南部消防救助隊(SMFR)では、事故の最初の段階でドローンを発進させ、事故中には常にドローンを操作して、物質の監視や識別、活動状況の観察、必要に応じて資機材の搬送、照明の提供、バックアップ通信に活用するのが危険物質対応時のポリシーになっている。

< 火山の噴火、原子力発電所のメルトダウン >

■ ハワイでは、最近の火山活動の間、新しい亀裂や溶岩流が形成されて住宅地に近づいているかどうかを監視するためにドローンが使われている。二酸化硫黄の検知器を備えたドローンを飛ばして、有毒なガス状雲(通常は見えない)の存在と流れの方向を特定し、人々を安全な場所に避難させた。また、被害の評価や状況の確認にも使用された。

■ 福島第一原子力発電所の被災地では、ドローンによって放射能が測定され、危険区域が特定された。その後、チェルノブイリ事故の現場や近隣地区で計測されたように、ドローンは残留放射能の影響を決めるために使用された。仮にドローンが汚染された場合でも、ドローンを処分することができる。

■ ドローンは活動時に大きな役割を果たすほか、活動後のレポート作成に大いに役立つ。危険物質事故時の画像やビデオは、学びえた教訓をはっきりさせるし、将来のために改善すべき方法を対応者に教えることができる。トレーニング時の活動状況や模擬訓練をビデオ録画することができるし、後で確認して教えることができる。

■ 主要施設や重要なインフラの火災事前計画は、ドローン画像と3次元モデルによってより良いものにできる。

■ 事故が起こった場合、対象の化学プラント、石油貯蔵施設、エタノール精製施設、車両基地、原子力発電所などにおける施設の配置図、アクセス性、大きな特徴、危険性、対応の方法に関して貴重な情報が収集できる。

■ 施設の観点でいえば、上方からアクセス性の困難な場所や危険な場所を見つけだすのと同様、ドローンは定期的に安全やセキュリティの点検を行って保安区域に入っている許可のない人や異常者を見つけたり、漏洩や火災を発見したりすることができる。

■ フロリダ州マナティ南部消防救助隊(SMFR)などの部署によるドローンの活用は、安全性を高め、活動の効率を改善し、リアルタイムの情報を提供する機器としての存在価値を高めている。いまやドローンは危険物質を対応するチームの必需品になっている。

 

■「ウォームゾーン」 (Warm Zone)は、発災部中心からのハザード・ゾーンに関する領域のひとつで、危険域のホットゾーンと安全域のコールドゾーンの中間部の領域をいう。詳細は、「石油貯蔵タンク火災の消火戦略」を参照。


■ 資料でいう「硫黄火災事故」がどのような事故かわからないが、硫黄の燃焼事例は、20177月の「米国ワイオミング州で硫黄の山の幻想的な災の火災」を参照。

 列車の脱線事故としては、つぎのような事例がある。

 ● 20137月、「カナダで石油タンク車が脱線して市街地で爆発・炎上」(原因は「カナダのラック・メガンティック列車脱線事故の原因(2013年)」を参照。

 ● 20186月、「米国アイオワ州で石油タンク車が脱線し、洪水の川へ油流出」

所 感

■ 一般にドローンが普及しており、事故時の報道にドローンを使用した画像や動画が掲載されることが多くなった。日本での活用例は、「ドローンによる貯蔵タンク内部検査の活用」20204月)に紹介した。

■ 総務省消防庁は、「ドローン運用アドバイザー育成研修」(20201月、3日間)を実施しているし、全国の消防本部のドローン保有率は2017年の約10%より年々増加し、20206月には約28%になり、43都道府県の消防本部がドローンを保有しているという。実際に消防防災分野では、ドローンは火災時の状況確認や、山間部での要救助者捜索、水災・土砂災害等の大規模災害時の被害状況確認などに活用され始めている。

■ 国内のドローンの使用は視覚的な静止画や動画に限られている。しかし、今回の資料では、熱画像、ガス検知器(モニタリング装置)、スピーカー、資機材運搬などの機能を活用している。日本では、操縦の安全性や高価という“制限”の思考性が高いが、もっと柔軟性と創造性をもった若い世代の活躍を期待したい。 


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Hazmatnation.com, Fire Technology: Hazmat Response—Drones Are a Necessity,  December 01, 2020     

    Drone-journal.impress.co.jp, 消防ドローンのスペシャリストを養成する「ドローン運用アドバイザー育成研修」 ,  March 12, 2020

    Viva-drone.com,ドローンを全国43都道府県の消防が導入、操縦士の需要が高まる,  September  08, 2020


後 記: ドローンの情報を耳にすると、デジタル社会だなと実感します。話が危険物質の対応からそれますが、山岳テレビを見ていると、数年前に比べてドローンの場面が多くなりましたし、画面の構成が上手になってきたと感じます。上から目線で運用者を育成しなければならないという固定概念ではなく、若い人たちに任せれば、ゲームで培った(?)若者が進出して自然ともっと進展するでしょう。