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2013年12月27日金曜日

米国テキサス州でタンク建設中に屋根部が崩れ、作業員2名死亡

 今回は、2013年12月15日、米国テキサス州ニュエセス郡コーパスクリスティ市にあるトラフィギュラ社の石油施設においてタスコ社が建設中のタンク屋根部が崩れ、作業員2名が死亡するという事故を紹介します。
コーパスクリスティ市のトラフィギュラ社発注の建設中タンク 
 (写真はKRISTV.comから引用)
 <事故の状況> 
■  2013年12月15日(日)、米国テキサス州ニュエセス郡コーパスクリスティ市にあるトラフィギュラ社の石油施設において建設中のタンク屋根部が崩れ、作業員2名が死亡するという事故があった。
       コーパスクリスティ市サザン・ミネラルズ通り付近 (写真はグーグルマップ から引用)
■ 事故は、コーパスクリスティ市の高速道路37号線から入ったサザン・ミネラルズ通り1501にある施設で午後3時頃に発生した。作業員二人は貯蔵タンク屋根のI形鋼で作業中だったが、突然、屋根の一部が崩れ、二人は60フィート(18m)落下して死亡した。工事はグループに分かれて作業が行われていたが、事故時の状況ははっきりしていない。屋根が崩れるのを目撃していた別な作業員が警察へ連絡した。警察のマーク・チューレー警部補によると、救助隊が二人を助け出すのにタンクで使用されていたクレーンを使ったという。ニュエセス郡検視官事務所の検視官が現場で二人の死亡を確認した。
                                   現場へ立入りした関係機関  (写真はKZTV10.com の動画 から引用)
■ 二人の被災者は、トラフィグラ社から受注した下請け会社のタスコ社(本社:カリフォルニア)の従業員で、コルトン・ハフさん(19歳)とアンドレス・オリバレスさん(57歳)と判明した。トラフィグラ社は事故に関して、「私どもは被災者のご家族に哀悼の意を表します。現在、事故原因はOSHAおよび関係機関によって調査中であり、追って適切な時期に詳細な情報が発表されることになると思います」という声明を出した。

■ 米国労働安全衛生局(OSHA)は、事故原因を特定するため調査を始めた。現場は工事が中断されて、調査官による調べが行われている。

■ タスコ社は地上式貯蔵タンクの建設会社であるが、2011年11月にテキサス州の別な施設で作業員の墜落防止策が不十分だとしてOSHAから約3,000ドル(30万円)の罰金を科せられている。

■ 米国労働省は、労働者にとって最も危険な業界は建設業界だという統計結果を公表している。テキサスでは、最近、建設市場が急成長しており、建設業が活発化すると、事故発生や死亡件数が増えるということを意味する。建設現場では多くの危険要因が潜在しているので、建設業界はOSHAによって多くの規制を受けている。OSHAでは、つぎのような分類による違反事例を頻繁に公表している。
  ● 墜落防止         ● 墜落防止訓練
  ● 足場           ● 危険予知
  ● ラダー(はしご)       ● 電気事故
  ● 掘削           ● 建設事故
  ● 頭部保護
 労働統計によると、2010年の民間企業における労働災害死亡者は4,206名で、そのうち18.7%に当たる774名が建設関係である。建設業における労働災害死亡の最も大きな要因は墜落、感電、衝突・挟まれである。

                                         補 足                  
■ 「テキサス州」は米国南部にあり、メキシコと国境を接している州で、人口は約2,510万人と全米第2位である。
 「ニュエセス郡」は、テキサス州の南部に位置し、人口約34万人の郡で、郡庁所在地はコーパスクリスティ市である。
 「コーパスクリスティ」は、メキシコ湾の一部であるコーパスクリスティ湾にあり、人口は約28万人の港湾都市である。湾岸には油田が多くあり、石油精製工場や化学工場が発達し、また綿花や穀物類の集散地でもある。

■ 「タスコ社」(Tarsco Inc.)は、1982年に設立された建設会社で、貯蔵タンクの建設・補修・保全工事を専門に行っている。主に北米、南米、中南米、カリブ海において事業を展開している。
                          タスコ社の工事風景   (写真はタスコ社のウェブサイトから引用)
■ 「トラフィギュラ社」(Trafigura Inc.)は、オランダの独立系石油取引会社である。トラフィギュラ社は、米国法人Trafigura AG Inc.を設立し、原油・シェールガスの取引に進出している。テキサス州コーパスクリスティにあるテキサス・ドッグ&レイル社(Texas Docks & Rail Inc.)を2012年に買収し、貯蔵・輸送施設を確保し、本格的に事業展開を行っている。 
 報道では、事故のあった場所はコーパスクリスティ市の高速道路37号線から入ったサザン・ミネラルズ通り1501となっているが、タンク建設の目的はわからない。貯蔵タンクであれば、テキサス・ドッグ&レイル社の将来計画地に建設するのが常識的である。タンク場所が間違っている可能性はある。
コーパスクリスティ市にあるテキサス・ドッグ&レイルの施設
所 感
■ 今回の事故は、建設工事中のタンク屋根部からの墜落災害である。屋根の一部が崩れたとあるので、屋根部材が仮止め状態(あるいは単に置かれた状態)にあった可能性がある。このほか、安全帯、親綱、危険予知、現場状態などいろいろな事故要因に関する疑問がある。いずれにしても、このような失敗事例はルール違反、危険予知不足、情報の認識不足から起こる。このため、事故を無くすには、①「ルールを正しく守る」、②「危険予知を活発に行う」、③「報連相(報告・連絡・相談)を行い、情報を共有化する」ことが大切である。
■ 米国の建設業における三大災害について言及され、墜落による労働災害が多いとある。日本の建設業における三大災害は、「墜落・転落」、「建設機械・クレーン等災害」、「倒壊・崩壊」で、墜落・転落が最も多く、全体の4割を占める。この点、米国と日本は同じ傾向にあるといえる。昔はとび工のプロ意識から安全帯や親綱が嫌われていたが、現在、この意識は大分薄れてきた。しかし、依然として墜落・転落による労働災害は多く、国を問わず事故撲滅にはまだまだ課題は多いといえる。

備 考
  本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいてまとめたものである。
       ・KRISTV.com,  Work Halted on Oil Storage Tanks Following Death of Two Men,  December 16, 2013
       ・ABClocal-go.com, 2 Workers Killed in South Texas Tank Collapse, December 16, 2013  
       ・News92fm.com, Two Workers Killed in South Texas Tank Collapse, December 17, 2013
       ・Txinjuryblog.com, Two Workers Killed in Southern Texas by an Oil Storage Tank, December 18, 2013
       ・TexasWorkinjurylaw.com,  Two Construction Workers Die after a Storage Tank Roof Collapse in Corpus Christi,Texas, December 20, 2013
       Times-georgian.com,  OHSA, Law Firm Investigating Death of Temple Man in Texas, December 20, 2013 


後 記: 建設中のタンクと聞いて、ある面、米国の経済復興を示すものと思いました。しかし、調べを進めていくうちに少し独断的ですが、別な思いが出てきました。金融緩和で市場に出回っている資金を米国以外の海外商社が利用し、米国の物流企業が買収され、施設が建設されているのです。建設は最短工期という条件が出たのでしょう。日曜日も工事が行われていて、事故が起こったわけです。海外企業が儲け、米国の地道に働く若者が犠牲になっている構図が見えてきます。事故は時としてその国の国情を表すことがありますが、何かやり切れないものを感じながら本事例をまとめました。


2013年12月18日水曜日

中国・貴州省でパイプラインが破損してガソリン2,000トン流出

今回は、2013年11月27日、中国貴州省安順市の高速鉄道建設現場で建設用タワークレーンが倒壊する事故をきっかけに、シノペック所有の石油パイプラインが破損してガソリンの流出する事故について紹介します。
漏洩したパイプラインと補修工事を行う作業員
(写真はNews-qbnews.cnから引用)
 <事故の状況> 
■  2013年11月27日(水)午前0時40分頃、中国貴州省(きしゅう省/グイヂョウ省)で石油パイプラインの破損によってガソリンが流出する事故があった。26日(火)午後10時頃、貴州省安順市の建設現場で事故があり、この後、石油パイプラインが破損してガソリンが流出しているのが判明した。

■ 26日(火)午後10時頃、貴州省安順市(あんじゅん市/アンシュン市)ピンバ郡の高速鉄道の建設現場において建設用タワークレーンが倒壊する事故があった。この事故の後、 27日(水)午前0時40分頃、破損したガソリン配管からの漏洩が始まった。この配管は中国石油化工(シノペック)の所有する西南成品油パイプラインである。この事故によるガソリンの流出量は2,000トンに昇るとみられる。現場は、上海-昆明鉄道から約30m離れたところで、近くには民家もある場所だった。

■ 地方政府は、パイプラインのバルブ閉止など漏れ停止の緊急措置をとる一方、現場から半径2km以内の住民に対して避難するよう指示を出した。地方政府は漏洩現場の立入り禁止の措置を行い、漏洩油を回収するための配管の敷設を行った。環境担当は、ガソリン蒸気の刺激臭が漂う地区の環境モニタリングを開始した。貴州省労働安全監督局の李上官局長は、当面の優先作業は漏洩油の回収と二次災害を回避するため漏洩によるリスクを排除することに焦点を絞っていると語った。公安警察500名、武装警察370名が動員され、周囲3kmが封鎖され、発災地区近くの住民1,350名が避難した。

■ 倒壊事故によって3名の人が負傷し、近くの病院で治療を受けている。 油漏洩事故後、貴州省消防本隊114名が消防車18台で、消火用水130トン、泡薬剤15トンを搬送して現場へ出動した。 続いて、安順市消防署の消防隊89名が、消防車15台と30倍高発泡の泡放射装置を持って現場へ到着した。110名以上の作業員が動員され、破損した配管の補修と現場の清掃に携わった。

■ 鉄道当局は、安順市から省都の貴陽市までの運行を一時停止した。このため、約8,000人の乗客が足止めの影響を受けた。地方政府の合同調査チームが編成され、事故の原因究明が始められた。また、当地区全線で安全点検が行われてた。

■ 11月28日(木)午後7時50分、漏洩箇所の配管の溶接作業が終了した後、午後8時8分、上海-昆明線の貴陽地区の鉄道が運行を再開し、午後8時24分頃、貨物列車が現場を通過した。29日(金)午前0時、石油パイプラインの油供給が再開された。

■ 今回の事故は、シノペックにとって先週の11月22日に起こった山東省青島市における事故に続いて2番目の石油パイプライン事故であった。
建設用タワークレーン倒壊事故のあった高速鉄道の建設現場
(写真はNbd.com.cn から引用)
                  油回収作業  (写真はChina.org.cnから引用)
                倒壊した建設用タワークレーン  (写真はNbd.com.cn から引用)
             油回収用機材を手渡しする作業員  (写真はNbd.com.cnから引用)
油回収作業 
   (左写真はNbd.com.cnから引用)  (右写真はJzpilgas.comから引用)
構築された土のう                    避難した住民
  (写真はNbd.com.cnから引用)  
 (写真はEnglish.peopledaily.com.cnから引用)            (写真はGglobaltimes.cnから引用)

 (写真はEnglish.peopledaily.com.cnから引用)

<パイプラインの補修作業状況>
■ 建設用タワークレーンが倒壊し、石油パイプラインの上部にカウンターウェイトの重量物が落下した。このため、直径400mmの配管に長さ20cm、幅2cmの割れが生じていた。この破損部からガソリンが漏れ出し、300mほど流れてから畑の中に拡散した。この流出面積は約2,000㎡で、現場では、流出拡散防止用に深さ0.5m、幅1.2m、長さ110mの溝が掘られ、回収作業が行われた。

■ 油漏洩が続く現場では、落下した建設用タワークレーンの部品を撤去する作業が行われた。漏洩箇所からの漏れ止め対策がとられ、流出量は減少し、28日(水)午前6時、溶接補修を行うことが決定された。バックアップのため、高発泡の泡が張り込まれ、消防隊による消火体制がとられ、午前10時から工事が開始された。溶接作業員は、安全帯のロープをクレーンのフックに固定し、ぶら下がる形で補修箇所に降りて、消火器を持った消防士の見守る中、作業を行なった。午前10時20分頃、突如、現場から火の手が上がり、溶接作業員は緊急脱出した。火は周囲の土壌に浸透したガソリンに着火するためで、このためアスベストや不浸透性の素材を敷き詰めたあと、溶接工事を行なった。小さな火を含めると22回の中断をしながら、約9時間後の午後7時50分、破損部の当て板溶接工事が完了した。
                 高発泡の泡放出   (写真はNews-qbnews.cnから引用)
       工事作業員の降下  (写真はNbd.com.cnから引用
                    作業員による工事開始  (写真はNbd.com.cnから引用)
                        火災発生     (写真はNews-qbnews.cnから引用)
             当て板溶接補修された石油パイプライン (写真はNews-qbnews.cnから引用)
補 足
■ 「中国」は、正式には中華人民共和国で、1949年に中国共産党によって建国された社会主義国家である。人口約134千万人で、首都は北京である。
 「貴州省」(きしゅう省/グイヂョウ省)は、中華人民共和国の南西部に位置し、人口約3,900万人である。省都は貴陽市である。
 「安順市」(あんじゅん市/アンシュン市)は、貴州省の西方に位置し、人口約260万人の地級市である。

■ 「中国石油化工」は、正式には「中国石油化工集団公司」(ちゅうごくせきゆかこうしゅうだんこうし)といい、国務院国有資産監督管理委員会が監督・管理する国有企業である。英語名はChina Petrochemical Corporationで、通称「Sinopec(シノペック)」と呼ばれる。1998年、国務院の機構改革のもとに当時の中国石油化工総公司と中国石油天然気総公司が事業を再編され、中国石油化工集団公司(シノペック) と中国石油天然気集団公司(CNPC)の二大石油企業が誕生した。2000年、中国石油化工集団公司のうち、油田・工場・販売などの現業部門が分割民営化され、「中国石油化工股份有限公司」が誕生し、香港、上海、ロンドン、ニューヨークの各証券取引所に上場している。
 シノペックは、雲南省から広東州まで全長1,700kmの石油製品用の「西南成品油パイプライン」を敷設している。これはシノペック最初の石油製品用長距離パイプラインといわれ、石油供給ネットワークの動脈になっている。
 2013年11月22日、 シノペック所有の原油パイプラインにおいて「中国・青島で原油パイプライン漏れに伴う爆発で、多数の死傷者」を出す事故が起こっている。

所 感
■ 今回の事故は、建設用タワークレーンが倒壊して地下埋設の石油パイプラインを破損させたという。通常、地下埋設であれば、上からの荷重に耐えられるはずである。写真を見ると、配管まわりに石が点在しており、かなり荒い埋め戻しがされていると思われる。このため、配管の上にあった石を通じてカウンターウェイトの重量が瞬間的に集中してかかったことによって、段差のような割れが入ったのではなかろうか。現実の世界では、このような考えもつかない事故が起こるという事例である。

■ 避難情報が出されず、多くの死傷者を出した11月22日の青島・原油パイプライン事故があったばかりで、さすがに住民避難が優先的に行われたようだ。迅速に実施されたかわからないが、大量のガソリンの漏洩中、引火・爆発しなかったことは幸いだった。

■ 一方、相変わらず、油のクリーンアップ作業が完了していない段階で、溶接補修工事という非常に危険性の高い作業が行われている。今回は、倒壊した建設用タワークレーンの撤去作業や掘削作業なども油漏洩の中で実施されている。油漏洩が判明してからわずか一日半で補修工事を開始している。土壌に浸透していたガソリン蒸気に火が着くなどの問題がありながら、工事を続行している。
 今回は、鉄道が止まり、ガソリン供給の動脈が途切れるという経済への大きな影響がある中での判断だったにしても、安全やリスクに関する意識の違いがあり、日本における認識の差は大きい。中国では、このような緊急事態は戦時下と同じ認識だと思われ、軍隊と同じように補修に従事する作業員のリスクは覚悟するという考え方が根底にあると感じる。今回のパイプライン補修工事の写真を見ると、そのように感じざるを得ない。地方政府は、今回の対応を英雄的な行動として讃えている。その意味では、我々にとって危機管理に関する参考にはならないといえる。

備 考
 本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・English.PeopleDaily.com.cn,  Gasoline Pours from Broken Pipeline in SW China, November 27, 2013
      ・News.Xinhuant.com, Gasoline Pours from Broken Pipeline in SW China, November 27, 2013
      ・GlobalTimes.cn, Gasoline Pours from Broken Pipeline in SW China, November 27, 2013
      ・Guizhou.ChinaDaily.com.cn,  Gasoline Leak Strands 8,000 in SW China, November 27, 2013
      ・GlobalTimes.cn, 3 Injured, Oil Pipe Broken in Site Accident, November 28, 2013
      ・GlobalPost.com,  SW China Oil Pipe Broken in Construction Site Accident, November 29, 2013
      ・English.PeopleDaily.com.cn,  Guizhou Rail Line Reopens after Gasoline Leak, November 29, 2013
      ・Firedirect.net,  2,000 tonnes Gasoline Leaks as Pipeline Ruptures, November 29, 2013
      ・MPS.gov.cn,  贵州11・26事故抢险救援 50小时虎口拔牙通管道,  December 10, 2013
      ・News-qbnews.cn,  西南成品油“动脉”泄漏 46小时应急处置的贵州样本,  December 12, 2013
      ・Nbd.com.cn,  西南成品油“动脉”泄漏 46小时应急处置的贵州样本,  December 12, 2013



後 記: 今回は安全やリスクに関する意識の違いを感じる事例でしたが、最近の朝日新聞にこの種の興味深い記事が掲載されていました。特派員メモ「山火事取材の資格」と題し、郷富佐子さんが書いた記事で、内容はつぎのとおりです。「シドニー郊外で大きな山火事があり、現場に行ったら消防隊員に“山火事取材の認定証を見せて”と言われた。“何のこと?”と聞いたら、“お前はそれでもプロの記者か。試験を受けて出直して来い”と怒られてしまった。 オーストラリアでは山火事取材の講習を受け、さらに試験を合格しないと記者は現場に入れないという。 (中略) 試験はなんとか合格。認定証を首にかけ、指定の断熱防具を着てみた。乾燥した大陸で頻発する山火事の怖さが、少しわかったような気がした」  講習は、無線で使う符号や警報の意味、火の回る速さなど内容の濃いものだとのことです。もちろん、これは取材を制限するためでなく、人命を大切にするという意識が背景にあるわけで、国によって差があることを感じますね。


2013年12月12日木曜日

フィジーのモービル社オイルターミナルでタンク屋根が一部外れ

 今回は、2013年12月3日(火)、フィジー共和国スバのワル湾にあるモービル社フィジー・ターミナルにおいて、タンクの屋根が一部外れるという事故を紹介します。
(写真はFBC.com.fjから引用)
<事故の状況> 
■  2013年12月3日(火)午前11時30分頃、フィジー共和国スバのワル湾にあるモービル社(エクソンモービル)フィジー・ターミナルにおいて、タンクの屋根が一部外れるという事故があった。
                   スバ市ワル湾付近   (写真はグーグルマップから引用)

■ モービル社の声明によると、午前11時30分頃、通常の給油作業を行っているとき、大きな音が聞こえ、燃料貯蔵タンクのふた部が外れていたという。モービル社は、この事故によるけが人はなく、現時点において住民や従業員の安全についてリスクはないと発表している。オイル・ターミナルは一時的に操業を停止している。同社によると、このため燃料供給に最小限の影響が出るかもしれないという。

■ 消防と警察がアルゴ通り沿いにある現場に出動し、公共地区に立入り制限区域を設けた。アルゴ通りは全面閉鎖され、オイル・ターミナル前のフォスター通りは部分的に制限され、迂回道路を使用して通行する交通規制が行われた。

(写真はFBC.com.fjから引用)
■ 現段階では、事故の原因はわかっていない。国家消防庁は、現在の状況を監視していると語っている。 国家消防庁最高執行責任者のジョン・オコーネル氏は、道路脇に2台の消防車両を待機させていると語った。オコーネル氏は、「現在はモービル社によってコントロール下にありますが、事態が悪化した場合には、我々が対処します。しかし、重大な損傷の発生、火災の発生あるいは負傷者の発生がなければ、いつでも対応できるように待機状態を維持します。ワル湾とアーゴ通りは交通規制を行っていますし、各消防署には、いつでも出動できるように指示しています」と語った。国家消防庁によると、当該タンクには油が入っているという。

■ 原因調査はこれから本格的に始められる。
                                                         

補 足
■ 「フィジー」は、正式には「フィジー共和国」で、南太平洋のオセアニアにある300余の島と珊瑚礁からなる人口約86万人の国である。元はイギリス連邦加盟国であった。
 「スバ」は、ビチレブ島の南部にあり、フィジーの首都で、人口約85,000人の都市である。
 フィジーは年間を通して温暖で安定した天候に恵まれている。雨期(12~4月)と乾期(5~11月)の区別があるが、実際には1年のうちいつでも熱帯地方特有のスコールが降る。

■  「エクソンモービル社」(ExxonMobile Corp)は米国テキサス州に本拠地をもつ総合エネルギー会社で、スーパーメジャーの一つである。世界200ヵ国以上で展開し、21ヵ国に37の製油所を持ち、生産能力540万バレル/日、販売量640万バレル/日の巨大企業である。1999年、エクソン社とモービル社の合併で生まれた会社であるが、元々二社ともロックフェラーが1870年に設立したスタンダードオイルの流れをくむ企業である。
 フィジーにおけるエクソンモービル社が「エクソンモービル・フィジー」(ExxonMobile Fiji)であるが、フィジー内では一般にモービル社と呼ばれている。スバのワル湾にフィジー・ターミナルを有しており、グーグルマップでは数基のタンクが見えるが、詳細はわからない。アルゴ通りが全面閉鎖、フォスター通りが一部閉鎖という情報からすれば、アルゴ通り沿いの一番大きなタンクの屋根が一部外れたものと見られる。 
                  モービル社のフィジー・ターミナル   (写真はグーグルマップから引用)

所 感
タンク屋根の放爆構造の例
■ タンク屋根の一部が外れるということは、一般的には、タンク屋根の放爆構造が働いた、すなわち過剰な圧力がかかったことが考えられる。しかし、爆発以外で放爆構造が働くのは、水が沸騰して一気に水蒸気に膨張するときであるが、おそらく取扱い燃料油はガソリンまたはディーゼル燃料と思われ、アスファルトタンクのように水の沸騰する条件には該当しないと思われる。通常の操油(給油)作業におけるタンク液位の出し入れで放爆構造が働くことは考えづらい。

■ フィジーは比較的雨が降る地域なので、タンク屋根の放爆構造部が腐食によって外れることはありうる。タンクの写真を見ると、かなり汚れが目立ち、タンクの保守状態は必ずしも良いとはいえないので、腐食が放置されていた可能性はある。しかし、屋根を支える部材(ラフタ)があり、この部分も脱落することは考えづらい。

■ 考えられるのは複合要因の仮説である。タンク屋根の放爆構造部が腐食によって減肉し、強度がさらに弱くなったところで、通常より少し速い速度で液を受け入れ、過剰ガス分が大気ベントで抜けきれず、タンク屋根の放爆構造が働いたという仮説である。

備 考
 本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・FBC.com.fj,  NFA Monitors Fuel Tanks Incident, December 03, 2013
  ・FBC.com.fj, Investigation Underway at Fuel Terminal Incident, December 03, 2013   
  ・Fijivillage.com, Mobil Clarifies Incident at Walu Bay Terminal, December 04, 2013
  ・FijiSun.com.fj,  Fuel Tank Incident Raises Alert, December 04, 2013 


後 記: 今回の情報はインターネットの検索からたまたまひっかかったもので、通常は見過ごすようなローカルなニュースです。フィジーというこれまでよく知らない国に興味もあり、調べることにしました。タンク屋根が一部外れという特異な事象でしたが、結果的には、原因推測につながる状況はわかりませんでした。ところで、フィジーは気候が温暖、一年中泳げるという海の観光が有名で、ラグビーが盛んなところです。ガソリンスタンドはモービルのほかトタールがあります。トタールはシェルから譲り受けたもののようです。メジャー・オイルは世界各国に展開していますが、事故があると、こんなところにも進出していたのかということもわかりますね。


2013年12月8日日曜日

米国テネシー州の油タンク施設が爆発・火災、負傷者1名

 今回は、2013年11月18日(月)、米国テネシー州ベッドフォード郡シェルビービルにあるサザン・エナジー社の所有するタンク施設においてメタノールが爆発し、火災を起こして負傷者の出た事故を紹介します。
爆発・火災を起こしたサザン・エナジー社のタンク施設の消火活動
(写真はTullahormanews.comから引用)
 <事故の状況> 
■  2013年11月18日(月)午前10時30分頃、米国テネシー州ベッドフォード郡シェルビービルにあるサザン・エナジー社の所有する施設の油タンクで爆発・火災が起こり、負傷者の出る事故があった。
       シェルビービル市のレーン・パークウェイ付近  (写真はグーグルマップから引用) 
■ 警察署長のオースティン・スイング氏によると、午前10時30分頃、シェルビービル市のレーン・パークウェイ沿いにあるサザン・エナジー社の事務所施設にある複数のタンクが爆発・火災を起こしたとの報告を受けたという。火災発生に伴い、シェルビービル消防署が出動し、タラホーマ消防署の応援を得て消火活動に当たった一方、発災場所の近くの住民が避難した。避難指示は施設から半マイル(800m)以内での地区に出され、この中には軽犯罪者用の収容作業施設、動物保護施設、学校などがあった。

■ 保安官のランドール・ボイス氏は、“実に大きいボーンという音”を聞いたといい、事務所から外に飛び出すと、“真っ黒い煙が30~40フィート(9~12m)の高さにまで上がっている”のが見えたと語っている。シェルビービル消防署の消防士によると、爆発は数回あったという。

■ シェルビービルの市政担当官であるジェイ・ジョンソン氏によると、施設は事務所用の建物で、石油やガスを貯蔵していないが、裏手にバイオディーゼル燃料を貯蔵するタンクがあったという。消防隊は、最終的に油濁した水がダック川に流入しないよう、使用する水量を制限した状態で、午後の半ばまで消火活動に携わった。火災の消火活動中に出た排水は、裏の駐車場を横切り、ウェスト・ジャクソン通り沿いにある排水溝を流れ出していた。汚染水はダック川と通じている空の雨水排水系へ流れ、ある時点では、排水溝は50ヤード(45m)以上、消火用の排水などで溢れていた。消防隊は、ダック川への流入を防止するため、水門を上げる措置を行なっていた。シェルビービル市の公共作業員は、ウェスト・ジャクソン通りとノース・キャノン大通りの交差点まわりにダムを作り、流れてくる水をブルトーザで押し集めた。
 シェルビービル消防署のリッキー・マコーネル署長は、「川へ流れ込まないようにするのが最善策だったのです」と語っている。

■ 当初、負傷者は3名という情報があったが、当局は、19日(火)になって負傷したのは爆発でけがをした男性従業員1名だけだったと発表した。負傷した人は火災の起こった事故現場にいたとジョンソン氏は語った。男性従業員は重度の火傷を負っており、救命救急フライトでヴァンダービルト大学病院へ搬送された。その後の状況については発表されていない。
 マコーネル消防署長が語ったところによると、被災した男性従業員は、爆発時にトレーラー連結車からメタノールの荷下ろし作業を行っていたという。

■ テネシー州緊急事態管理局の広報担当であるジェレミー・ハイト氏によると、火災が起こったとき、収容作業施設の大半の模範囚は仕事をしていなかったという。ボイス保安官によると、用心のため副保安官が70名ほどの収容者を移動したという。
 発災場所に隣接していたベッドフォード郡動物保護施設の避難を支援するため、隣のラザーフォード郡から動物管理作業員が呼ばれた。動物管理作業員のクリスティーン・タッカーさんは、「実際、動物たちはよくやったわ。多分、私たちが移そうとしたとき、動物たちは何かを感じたのだわ。というのも、彼らはおとなしく、興奮することもなかったわ」と語っている。
 ハイト氏は、両施設とも煙の影響を受けたが、延焼はしなかったと語った。トーマス・マグネット校の学生はハリス中学校へバスで移動した。

■ ベッドフォード郡緊急事態管理部長のスコット・ジョンソン氏によると、当局は、燃えている施設から毒性ガスが流れ出ることを懸念して、隣接エリアに避難指示を出したという。午後遅くなって、火災はほとんど消えたので、避難した人たちは戻ることが許可された。

■ サザン・エナジー社のオーナーであるゲイリー・キング氏は、最近、施設をバイオ燃料の製造・配送基地へ切り替えたばかりだったと語った。この2年間、バイオ燃料を作っており、タンク内に入っていたのはメタノールだという。 “しかし、引火性が問題になる種類ではない”と言っている。

■ レイン・パークウェイ地区は商業用地域である。ジョンソン市政担当官によると、当該施設が実際に工業施設なのかどうかという問い合わせが年に何件か来ていたという。ニュースチャンネル5が入手した資料によると、キング氏は地域の法令を満足させるため、市の担当部署や消防署と手続きの作業を行っていたという。 18日(月)の時点では、キング氏は負傷した従業員のことが心配で、いかなる声明も出したくないという。資料によると、2012年6月時点で、施設には11基の貯蔵タンクがあると市に説明している。8基は料理用オイルの各種型式のタンクで、2基は混合汚染の水用で、残りの1基は容量6,000ガロン(22KL)のディーゼル燃料の残油用だという。サザン・エナジー社は、周辺地域のガソリンスタンドに燃料油やその他のものを供給している会社であるが、爆発は事務所用の建物のある場所で起こっている。

■ ジョンソン市政担当官は、爆発・火災がどのように起こったかについて詳しくわかっていないという。ジョンソン氏によると、州の消防保安官事務所からの支援を受けて調査が始ったところである。

■ 19日(火)、シェルビービル消防署は、サザン・エナジー社の施設にあった危険性に関する詳細な情報を持っていなかったと発表した。シェルビービル消防保安官のブライアン・ニコルソン氏は、「施設では燃料の移送作業が行われていました。問題の燃料はメタノールだったようです」と語った。タンク内にケミカルを入れるという判断した過程で、何かが間違っていた。ニコルソン消防保安官は、「出荷作業を行うためには、建家内にある配管を通じてタンク内の液位を下げなければなりませんでした」と語った。
 原因はわからないが、この系統でオーバーフローしてしまった。そのとき、ガスに引火し、爆発が起こり、近くにいた従業員が負傷した。火災はトレーラー連結車に延焼し、消防隊が見ている中で爆発を起こした。

■ ニコルソン消防保安官は、「消防署は、この種の燃料生産に関する知識を持っていませんでした。私たちは、料理用オイルを取り扱っている事業所だという認識でした。事故前には認識していませんでしたが、現時点で見てくると、いろいろ問題点が出てきました」と語っている。
 (写真はNewschannel5.comから引用)
         奥が発災場所、手前の空堀が調整池   (写真はNewschannel5.comから引用)
         爆発したトレーラー連結車への消火活動   (写真はNewschannel5.comから引用)
                 現場から流れ出る油濁水  (写真はNewschannel5.comから引用)
■ 爆発事故から3日経ったが、町ではまだ排液の処理作業が続いている。この中には、有害性の可能性のあるケミカル類のクリーンアップ作業を含んでいる。20日(水)の現場では、大半の作業は事務所裏で行われ、封じ込めた排液が流れ出すことのないよう図られた。シェルビービル市の公共作業部長のマーク・クラントン氏は、「今回の出来事は市民にとってこの先長く覚えていることになるでしょう」と語っている。

■ 市は環境専門家を呼んで、発災場所近くの調整池を見てもらった。18日の火災時に使用した消火排水が溢れてケミカル類が流れ、ダック川に達する直前までくるという危険な状況があった。火災発生から90分ほどの後、汚染水が流れ込まないようにシェルビービル市の公共作業員が池の水門を閉める措置を行なった。公共作業部クラントン部長は、「予防措置でした。というのも、どんなものが含まれているか我々にはよくわからなかったからです」と語った。しかし、20日(水)、公共作業部長は、調整池にある水門を閉めるのに時間がかかったため、ケミカル類の一部がダック川に流出したことを認めた。
 実際、現時点でも、排液の中に何が含まれているかはっきりしていない。おそらく、消火排水、料理用オイル、バイオ燃料が含まれていると推測されている。大型タンクのセットとポンプによって、約300,000ガロン(1,100KL)の汚濁水が回収・処分された。さらに、地下水への汚染を懸念して、公共作業員によって排水溝を掘り起こし、浄化する作業が行われた。

■ テネシー州環境保護庁の当局担当者は、22日(金)、サザン・エナジー社で起こった爆発・火災事故後のクリーンアップ状況を監視していると発表した。州環境保護庁は、サザン・エナジー社にクリーンアップを行う責任があるが、環境保護庁として適切な方法がとられているか現場でフォローすることになっていると語った。環境保護庁によると、これはメタノールのような有害な可能性のあるケミカル類が爆発した場合に通常とられる方法だという。
         汚染された土壌のクリーンアップ作業  (写真はNewschannel5.comから引用)
調整池での排液回収(右)と一部ダック川へ流出した排液(左)
 (写真はNewschannel5.comから引用)

補 足        
■ 「テネシー州」は、米国の南東部に位置し、人口約645万人である。州都はナッシュビル市である。
 「ベッドフォード郡」は、テネシー州の中部に位置し、人口約45,000人である。
 「シェルビービル」は、ベッドフォード郡の中央部に位置し、人口約21,000人で郡庁所在地である。

■ 「メタノール」は、化学式CH3OH でアルコールの一種である。メチルアルコールとも呼ばれ、日本では、危険物第四類アルコール類に指定されており、揮発性が高く、引火の危険性の高い液体である。保管場所や使用場所における火気や電気火花について十分な注意の必要な液体である。メタノールは、接着剤、農薬、塗料、合成樹脂、合成繊維の原料など多岐に使用されている。
 引火して炎上した際は、粉末消火器、二酸化炭素、砂を用いる。注水消火は、薄められたメタノールが溢れて、火災の広がる可能性があり、極少量の火災以外には用いるべきではない。噴霧注水は差し支えない。 泡消火は泡がメタノールに吸収されてしまうので、泡消火薬剤を用いる場合は耐アルコール性の泡消火薬剤を用いる必要がある。
 エタノールは、サトウキビやトウモロコシといったバイオマスからの生産方法が確立しており、ガソリン代替燃料として生産量が拡大している。一方、メタノールの生産は主として天然ガスなど化石資源を原料としており、生産量は低い。また、メタノールはエタノールより熱量が小さく、腐食性が強い上に、揮発性が高く有毒物質であるといった問題点が多い。

■ 「サザン・エナジー社」(Southern Energy Co.)は、テネシー州でコンビニエンス・ストアとガソリンスタンドを経営する地方の会社である。ガソリンスタンドは、BPとシェルの2つのブランドで燃料を販売している。
 シェルビービルの施設について同社のウェブサイトでは何の記述もない。今回の事故情報から推測すると、廃油の再処理施設ではないかと思われる。料理用オイル(植物油)の廃油などからディーゼル燃料を作るので、バイオ燃料を生産している施設という説明だと思う。この施設に当初計画にないメタノールを受け入れたのではないだろうか。メタノールは前記のように揮発性の高い液体であり、オーナーがいうような“引火性に問題はない” はずはない。考えられるのは、メタノールを使用する施設から排出される廃液で、通常は引火性の低くなった液の可能性である。しかし、このような廃液の性状は大きく変化する可能性がある。例えば、運転異常で緊急シャットダウンした場合、濃度の高い廃液、すなわち、メタノール分が高くて揮発性があり、引火性で危険な液が排出される可能性である。
シェルビービルにある事故のあったサザン・エナジー社の建物(正面側)
   (写真はグーグルマップのストリートビューから引用)
シェルビービルにある事故のあったサザン・エナジー社の建物(裏側)
(写真はグーグルマップのストリートビューから引用)
所 感
■ 今回の事故は曖昧な点が多く、断定はできないが、廃油の処理施設に受け入れた廃油が通常より揮発性の高いものだったと推測している。これがメタノール分の高い廃油で、受け入れた際、何らかの要因でタンクからオーバーフローさせ、引火・爆発したものであろう。このように性状のはっきりしない廃液を取り扱う場合の危険性を示す事例といえよう。

(写真はJapantimes.co.jpから引用)
<注記>この事故の3日前の2013年11月15日、千葉県野田市のエバクリーン社の千葉リサイクルセンターで死者2名、負傷者16名を出す爆発・火災事故が発生している。事故原因は調査中であるが、この廃油処理施設では、当日、ガソリンと軽油の混在した油を回収して通常より揮発性の高い廃油を受け入れており、これが爆発・火災の要因の一つと言われている。期せずして、日米で類似の事故が起こっている。



■ 事故要因に問題点が多いが、緊急事態発生後の危機管理対応にも問題がある。一つは、消防署が火災の液体にメタノールが含まれているということを認識していないことである。注水消火は薄められたメタノールが溢れて、火災の広がる可能性がある。泡消火は泡がメタノールに吸収されてしまうので、泡消火薬剤を用いる場合は耐アルコール性の泡消火薬剤を用いる必要がある。消火活動の写真を見ても、このような配慮がされているように見えない。

■ 二つ目は、消火排水について当初の判断が的確ではなく、構外に垂れ流されている。2005年英国バンスフィールドのタンク火災事故では、消防隊は消火活動によって発生する消火排水が構外に放出してしまうことを配慮して、消火活動が遅れることを承知で、流出防止用の土盛りを構築している。今回の事例でも、消火排水や排液の流出防止策を講じるべきだった。このため、事後処理として過大なクリーンアップ作業をすることになってしまった。

■ 三つ目は、市の水門を閉める処置が遅れて、川へ排液を一部流出させたことである。今回の事故情報では、初期の報道で消防署あるいは市役所は事前処置をとったように報じられたが、日が経つと、そうではなかったことがわかる。緊急事態対応部署は避難の対応に追われたかもしれないが、マネージャーは現場を広くみて、迅速で的確な判断をする必要がある。

備 考
 本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Knoxnews.com,  Explosion, Fire in Shelbyville Prompt Evacuation, November 18, 2013
  ・Timesfreepress.com, Explosion, Fire in Shelbyville, Tenn., Prompt Evacuation, November 18, 2013   
  ・Newschannel5.com, 1 Injured in Explosion at Shelbyville Facility, November 19, 2013
  ・WSMV.com,  Fire Crews Monitoring Site of Explosion in Shelbyville, November 19, 2013
  ・Hazardexonthenet.net,  Tennessee Oil Tank Blast and Fire Injured Three, November 19, 2013
      ・Tullahomanews.com,  Coffee County Man Critically Hurt in Shelbyville Plant Fire, November 19, 2013
      ・Myfoxal.com,  Questions Surround Production at Shelbyville Facility Prior to Explosion, November 20, 2013
      ・WFXG.com,  Cleanup Continues near Shelbyville Explosion Site, November 21, 2013


後記: 今回は断片的な情報を整理していくと、事故状況、消防活動、避難活動などの全体像が見えてきた事例でした。曖昧な点が残りますが、推測することのできる情報は出てきたと思います。消防活動や避難活動の現場第一線に携わった人たちはよくやったように思います。見えてきたのは、マネージャーというか現場指揮者の対応に問題があったことです。卑近な例かもわかりませんが、第2次対戦後に言われたことは、米軍の将校と日本軍の兵士を集めれば、最強の軍隊ができるという逸話がありました。この基本的な考え方はその後も続いていましたが、最近思うのは、米国の“将校” が将校にふさわしい人なのか疑問を感じるようになったことです。このようなことを考えながら、事例をまとめていました。