このブログを検索

2022年9月30日金曜日

アルゼンチンの製油所で原油の円筒タンクが爆発・火災

 今回は、2022922日(木)、アルゼンチンのネウケン州プラザ ・フインクルの町にあるニューアメリカン・オイル社のプラザ ・フインクル製油所で原油の円筒タンクが爆発し、3名の死者が出た事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 事故があったのは、アルゼンチン(Argentina)ネウケン州(Neuquen)プラザ ・フインクル(Plaza Huincul)の町にあるニューアメリカン・オイル社(New American Oil NAO)のプラザ ・フインクル製油所である。同製油所の精製能力は25,000バレル/日(4,000KL/d)で、2000年に運転開始した。

■ 発災があったのは、製油所にある原油の円筒タンクである。


< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2022922日(木)午前420分頃、製油所にある原油の円筒タンクが爆発し、火災が発生した。

■ 近くの住民によると、最初に大きな爆発音が聞こえ、その後炎が出たといい、その後、最初の消防隊が現場に到着し始めたという。爆発音に続いて消防車のサイレンの鳴る音が聞こえ、近隣の住民はほとんど起こされた。目が覚めた人たちは、夜空が明るくなっており、製油所の方角に火災の炎を見た。

■ 火災に伴い、消防隊が出動した。近隣の町から消防隊の応援がやってきた。

■ 消防隊は火災を制御しようと消防活動を行った。消防隊は隣接する他のタンクに延焼しないようにできるだけ早く火災を抑え込もうとしていた。

■ 発災直後、行方不明だった製油所従業員が亡くなっていたことが分かった。死亡したのは、夜勤で従事していた製油所の従業員で、31歳、34歳、58歳の男性だった。このほか爆風で危険を脱した4人目の従業員(警備員といわれている)も火傷を負った。

■ 消防隊は泡消火薬剤を使って消火活動を行った。

■ 火災の炎は12mの高さに達し、火災はプラント全体に急速に広がり、施設から煙の黒い雲が立ち昇った。施設のほぼ 80% に影響を与えた。

■ 午前10時頃には、国道22号線の40km以上離れた場所でも火災の噴煙が確認できた。

■ 予防措置と発災地への消防車両等の自由な移動を容易にするために、近隣の5つの小学校が休校になった。

■ 爆発があったのは、原油または重油の入った貯蔵タンクとみられ、その後に起こった火災は建物、タンクローリーやプラントへ広がった。タンクローリーは6台が被災に逢っている。

■ ユーチューブには、爆発の瞬間をとらえた道路の監視カメラの映像を含めた火災の状況を伝えるニュースが投稿されている。主なものはつぎのとおりである。

 Así fue el momento de la explosión en la refinería en Plaza Huincul(プラザ ウインクルの製油所での爆発の瞬間)(2022/09/22

 ●Plaza Huincul I Explotó una refinería: murieron tres operarios y no logran controlar el fuego(プラザ ・フインクル製油所が爆発: 3 人の労働者が死亡し、火を制御できなくなった)(2022/09/22

 ●EXPLOSIÓN y TRAGEDIA en una REFINERÍA de NEUQUÉN - Telefe Noticias(ネウケン製油所での爆発と悲劇)(2022/09/23

 ●Explosión de una refinería en Plaza Huincul: hay al menos tres muertos(プラザ ・フインクル製油所の爆発: 少なくとも 3 人が死亡)(2022/09/23

被 害

■ 原油の円筒タンクが爆発し、損壊した。内部の油が火災で焼失した。

■ 火災の延焼によって原油の円筒タンク以外の設備が被災した。詳細はわかっていない。

■ 爆発によって製油所従業員4名が死傷した。うち3名は死亡で、1名はやけどによる負傷である。また、消防活動によって消防士6名が一酸化炭素中毒などによって入院した。

■ 近隣の道路が封鎖され、小学校5校が休校になった。

 ■ 石油の燃焼で排出される有害物質による大気汚染が発生した。

< 事故の原因 >

■ 原因は調査中で分からない。



< 対 応 >

■ 近隣の町から数十人の消防士が応援が来て、消防隊は6時間以上戦い続けた。最終的に出動した消防士は90名だった。

■ 火災は午前1030分頃、制圧され、正午頃に消火された。火を消した後は、隣接するタンクを高温から冷やす必要があった。

■ 消火活動によって一酸化炭素中毒と一時的な高血圧のために6名の消防士が入院したという。

■ 消防活動では、水の供給に問題があった。消防署は、貯水槽付き給水車の購入の要請していたという。

■ 922日(木)、人が亡くなったため、火災がどのように始まったか不明であるが、石油労組は安全対策の強化を求めてストライキを呼びかけた。この組合はアルゼンチン国内最大で、約25,000人の労働者を代表している。石油労組は「この地域における石油産業の前例」という報告書を出しており、2018年から2022年上半期までにシェールオイル施設などで11名の労働者が死亡したと詳述している。

■ 922日(木)の夜、ニューアメリカン・オイル社はプレスリリースの中で哀悼の意を表し、「すでに連絡を取り合っているご遺族の皆様には、この苦痛に対し連帯と無条件の支援をいたします。製油所の火災は午前中に鎮圧され、正午頃には完全に鎮火し、当局はすでに対応する調査を開始しています。事件を引き起こした理由は不明であり、司法捜査と消防の調査結果を待つことになります」と表明した。

■ 923日(金)、爆発の1週間前に、ネウケン州環境局がニューアメリカン・オイル社のプラザ・フインクルの製油所に視察が行われており、異常な状態が指摘されていたことが明らかになった。環境検査官は、製油所施設内の8ヘクタールを視察したところ、石油が貯蔵されている蓋のないタンクやフレアの近くに炭化水素が存在する大きなラグーン(湖沼)があったという。ただし、これが事故の原因だったというわけではない。

■ ユーチューブには、事故後の製油所の状態をドローンで撮影した映像が投稿されている。主なものはつぎのとおりである。

 ●Drone footage show the aftermath of oil refinery fire around Neuquen(ドローンの映像はネウケン周辺の石油精製所の火災の余波を示している)(2022/09/23

 ●Tres trabajadores muertos en refinería de Plaza Huincul(プラザ ・フインクル製油所で3人の労働者が死亡)(2022/09/23





補 足

■「アルゼンチン」(Argentina)は、正式にはアルゼンチン共和国で、南アメリカ南部に位置し、人口約4,520万人の連邦共和制国家である。首都はブエノスアイレスである。

「ネウケン州」(Neuquen)は、アルゼンチンの中西部に位置し、人口約54万人に州である。

「プラザ ・フインクル」(Plaza Huincul)は、ネウケン州の中東部に位置し、人口約13,000人の町である。

 アルゼンチンのタンク火災について紹介した事例は、つぎのとおりである。

 ●「アルゼンチンでバイオディーゼル用タンクが爆発・火災、死傷者3名」20202月)

■「ニューアメリカン・オイル社」(New American Oil NAO)は、2000年に設立されたアルゼンチン国内の石油会社である。比較的小型の精製能力25,000バレル/日の製油所がプラザ・フインクルにあり、主に軽油(ディーゼル燃料)のほか、灯油、ナフサなどを製造し、販売している。製油所には8基のローリーステーションがあり、年間9,000台のタンクローリーなどのトラック(300,000KLの燃料に相当で輸送している。

■ 「発災タンク」は原油タンクと報じられているが、貯蔵タンクエリア(明確なエリア区分になっていないが)のタンクではなく、プロセスエリア内の防油堤に囲まれた比較的小型の円筒タンクだとみられる。その理由は、発災タンクが爆発を起こして後、火災になってまわりの機器に延焼したと報じられているが、貯蔵タンクエリアのタンク群は塗装が剥離しておらず、きれいな状態のままである。円筒タンクは爆発を起こして屋根が噴き飛んでいることと、そのほかに屋根などが噴き飛んだような機器は見当たらないことである。

 一方、簡易トッパーのような製油所であるが、プロセスエリア内に原油タンクが設置されているのは疑問が残る。隣のタンクは発災タンクより高く、屋根はドームルーフ型であり、両方とも保温が設置されていた。爆発したタンクの保温材は完全に脱落している。隣接のドームルーフ型のタンクは保温外板が外れ、保温材の一部は脱落しかかっている。

 発災タンクが円筒タンクであるとして、グーグルマップで調べると、直径は約5.3mであり、高さを7mと仮定すれば、容量は約150KLである。


所 感

■ 午前420分頃の発災後、間がないとみられる火災現場の写真を見ると、爆発で屋根が噴き飛んだ円筒タンクから炎が出ているほか、別な離れた場所でも炎が上がっている。報道によると、発災は原油タンクの爆発から始まったと報じられているが、発災は設備内の配管などによる漏洩から始まっているのではないだろうか。発災写真では、撮影の時刻が分からないが、いずれも円筒タンクだけでなく、複数箇所から火災が発生している。特に、蒸留設備の塔槽、配管、加熱炉、構造物は真っ黒に汚れており、床面からの不完全燃焼の火災に長時間曝されていたと思われる。

 一般には見られないプロセスエリア内の原油タンクの爆発・火災事故であり、爆発の要因はいろいろ考えられるが、製油所全体の設備管理や安全管理についてみていく必要があろう。

■ 燃焼時間は午前420分頃から正午までの約7時間40分かかっている。複数箇所の火災で、且つ給水車不足の問題があったにしては短い時間で済んだ消火活動のように感じる。発災写真によると、円筒タンクに最後まで消火泡が投じられており、消火薬剤の不足は無かったものと思われる。プロセス装置は油の供給を停止すれば、内部の保有油量は比較的少なく、また、爆発した円筒タンクも火災を起こしているが、側板が座屈するほどではなかったことが激しい火災にならなかったと思われる。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

  ・Reuters.com, Argentine oil workers strike after refinery explosion kills three,  September  23,  2022

    Tankstoragemag.com,  Plaza Huincul refinery explosion,  September  23,  2022

    Washingtonpost-com,  Fire in Argentina refinery kills three,  September  22,  2022

    Apnews.com,  Fire in Argentina refinery kills three,  September  23,  2022

    Batimes.com.ar,  Oil and gas workers strike after three killed in Neuquén refinery explosion,  September  22,  2022

    Hydrocarbonprocessing.com,  Striking Argentina oil workers demand talks after deadly refinery blast,  September  23,  2022

    Ladatamix.com, Neuquén. Explotó una refinería de Plaza Huincul y las autoridades confirmaron tres muertos,  September  22,  2022

    Perfil.com, Videos: así fue la impactante explosión de la refinería de Neuquén que dejó 3 muertos,  September  23,  2022

    Lavoz.com.ar,  Neuquén: días antes de la explosión fatal, se detectaron irregularidades en la refinería,  September  23,  2022

    Rionegro.com.ar,  Incendio en la refinería de NAO en Plaza Huincul: por qué estalló uno de los ocho tanques,  September  23,  2022

    Infobae.com,  Explotó un tanque en una refinería de Neuquén y hay al menos tres muertos,  September  26,  2022

    Lanacion.com.ar,  Neuquén: el momento de la explosión de una refinería que dejó tres muertos,  September  22,  2022


後 記: アルゼンチンのタンク火災の事故情報を取り上げるのはこれで2回目です。前回の事例のときは、情報はたくさんありましたが、事故状況は判然としませんでした。今回も、また、事故状況ははっきりしませんでした。初期の情報(情報源といった方がよいかも)では、消防隊が火災を制御しようと消防活動をやっているときに、製油所の従業員が3名亡くなったとか、消防隊が構内に入ったときに、燃えていたタンクが倒壊するところで、タンクが倒壊したため、避難しなければならなかったというように受け取られる情報があり、当分の間、このような認識でいました。しかし、被災写真をみたり、ほかの情報を読んでいくと、状況が違うように感じました。多分、消火活動をやっているときに従業員が亡くなったという情報を聞いたということだと思います。タンクが倒壊したのは保温外板や保温材が剥がれるのを見たということでしょう。(これらの情報はブログからカットしました)

 一方、報道の自由度ランキング2022では、アルゼンチンは世界29位で、日本の71位はもちろん米国の42位より自由度ランクは高い結果です。報道について自由に伝えることは確かに高いのかも知れませんね。事実より本人がどのように感じたかを伝えるのでしょう。

2022年9月18日日曜日

ウクライナのクリヴィー・リフの石油貯蔵所がミサイル攻撃でタンク火災

 今回は、202296日(火)、ウクライナのドニプロペトロフスク州のクリヴィー・リフにある石油貯蔵所がロシアによるミサイル攻撃によって貯蔵タンクが損壊・炎上した事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災施設は、ウクライナ(Ukraine)ドニプロペトロフスク州(Dnipropetrovsk)のクリヴィー・リフ(Kryvyi Rih)にある石油貯蔵所である。

■ 発災があったのは、石油貯蔵所の燃料油タンクである。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 202296日(火)午前930分頃、クリヴィー・リフにある石油貯蔵所でタンク火災が発生した。現場からは大きな黒煙が立ち昇った。

■ 前日の95日(月)、ロシア軍がクリヴィー・リフ地区を2発のミサイルで攻撃している。96日(火)午前8時過ぎ、この地区に空襲警報が発令され、市へのミサイル攻撃があった。約1時間後に、石油貯蔵所で爆発音が聞こえた。石油タンクが炎上し、貯蔵されていた燃料油が燃えた。

■ 発災に伴い、消防隊が出動した。出動したのは、消防士48名と消防車両14台である。

■ 消防隊が現場に到着したとき、石油貯蔵所では4基のタンクが破壊され、そのうち2基が炎上して燃えていた。

■ 近くの住民には、窓をしっかりと閉め、外に出ないよう勧告された。

■ 発災に伴う死傷者は報告されていない。

■ ドニプロペトロフスク州の他の地域では、穏やか夜だった。97日(水)の朝も今のところ穏やかだという。

■ ユーチューブに、石油貯蔵所から黒煙と炎が立ち昇っている映像が投稿されている。

Youtube、「Росіянизавдали ракетних ударів по Кривому Розі. (ロシアはクリヴィー・リフにミサイル攻撃を開始) 」(2022/09/06)を参照)


被 害

■ 石油貯蔵所の石油タンクが砲撃を受け、タンク4基が破壊・損傷した。 

■ 石油タンク内に入っていた燃料油が焼失した。

■ 死傷者は出なかった。

< 事故の原因 >

■ 戦争による軍事行動である。(平常時の“故意の過失”に該当)

< 対 応 >

■ 消防隊は、一晩中、消火活動に従事した。発災から16時間以上かかったが、タンクの火災を消火した。

■ ユーチューブに、高発泡の泡モニターを使用して消火活動を行っている映像が投稿されている。

 Youtube、「Firefightersextinguishing a fire at a Kryvyi Rih oil depot caused by an attack by Russianinvaders(ロシアの侵略者による攻撃によって引き起こされたクリヴィー・リフの石油貯蔵所の火災を消火する消防士)」(2022/09/08

 ●Youtube、「У містіКривий Ріг внаслідок ракетного обстрілу сталося масштабне займання на нафтобазі(クリヴィー・リフでは、ロケット弾の火災により、石油貯蔵所で大規模な火災が発生)」(2022.09.07


補 足

■「ウクライナ」(Ukraine)は、東ヨーロッパに位置し、南に黒海と面する人口約4,500万人の国である。天然資源に恵まれ、鉄鉱石や石炭など資源立地指向の鉄鋼業を中心として重工業が発達している。20143月に、クリミア半島についてロシアによるクリミア自治共和国の編入問題があり、世界的に注目された。その前年の2013年に同国内で親ロシア派と親欧米派の対立が激化し、2014年に州庁舎を占拠した親ロシア派が一方的にドネツク州の一部を「ドネツク人民共和国」の樹立を宣言した。同5月に行われた住民投票では独立支持が多数を占めたが、ウクライナ政権や欧米は投票の正当性を否定しており、情勢は混乱していた。

 そして、2022224日(木)、ロシアが、突如、ウクライナに侵攻し、軍事衝突が起こった。ロシアがウクライナに侵攻して以降、タンクへの攻撃を紹介したのは、つぎのとおりである。

  ●「ウクライナ各地で石油貯蔵所が攻撃によってタンク火災」20223月)

  ●「ウクライナ各地の石油貯蔵所がミサイル攻撃によってタンク火災」20224月)

  ●「ウクライナで化学工場の硝酸タンクがロシアの攻撃で爆発」20226月)

  ●「ロシアのベルゴロド石油貯蔵所にヘリコプターによる攻撃」 20225月)

  ●「ロシアのふたつの石油貯蔵所でタンク爆発・火災、テロ攻撃か」20224月)

「ドニプロペトロフスク州」(Dnipropetrovsk)は、ウクライナの南東部に位置し、人口314万人の州である。

「クリヴィー・リフ」(Kryvyi Rih)は、ドニプロペトロフスク州の西部に位置し、人口約646,000人の都市である。

■「石油貯蔵所」や「発災タンク」の仕様は報じられておらず、詳細はわからない。クリヴィー・リフにある石油貯蔵所をグーグルマップで探したところ、詳細の位置が報じられていないので、はっきりしないが、そばに枕型タンク群のある石油貯蔵所が見つかった。この石油貯蔵所には、円筒タンクが6基、枕型タンクが36基(9×4列)ある。円筒タンクは6基とも同じ大きさである。この円筒タンクは直径約10mであり、高さを10mと仮定すると、容量は約785KLとなる。おそらく、タンクの容量は5001,000KLとみられる。

所 感

■ 20224月に紹介した 「ウクライナ各地の石油貯蔵所がミサイル攻撃によってタンク火災」の所感と同様の感想をもった。ミサイル攻撃による石油貯蔵所の火災が従来の事故やテロ攻撃によるタンク火災と異なる点は、つぎのとおりである。

 ● 被災は複数タンク( 6基中の4基が被災)に及んでいる。容量は5001,000KLほどの比較的小型のタンクと思われるので、タンク配置による影響があるのかもしれない。

 ● 火災は、タンクが炎上しているほか、堤内火災になっている。従来のタンク火災では、熱によってタンク側板が座屈するが、このような座屈は見られないようだ。

 ● ミサイルの爆発によってタンク設備の一部が吹き飛んで、破片が散乱しているものがみられる。これらのタンクでは、内部の石油がほとんど無かったのではないだろうか。

 今回のタンクは容量5001,000KLほどのタンクが6基あるうち、4基がミサイル攻撃によって損傷を受けたとみられ、上記の所感を裏付けるものとなっている。

■ また、タンク被災はウクライナにおける異常な戦争状態であるが、日本国内のテロ対策について考えるべき事項はつぎのとおりである。 

 ● 複数タンクの火災を考慮すべきである。日本のタンク火災は1基だけに起こるという前提であるが、複数タンク火災が起こった場合の対応について想定すべきである。

 ● 防油堤内の火災を想定すべきである。タンク側板に穴があくような被災を受けると、堤内火災が起こり、被害が拡大する。

 ● 日本では、タンク火災について大容量泡放射砲システムが導入されたが、堤内火災では、このシステムは有効に機能しない。今回の事例を見ても、高発泡の泡消火モニターが使用されている。堤内火災用の高発泡設備を導入すべきである。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

   Kyivpost.com, Russian Forces Strike Oil Depot in Kryvyi Rih,  September 06,  2022

    Tankstoragemag.com, Russian forces strike oil depot in Kryvyi Rih, Ukraine,  September 07,  2022

    Babel.ua, A rocket attack on an oil depot in Kryvyi Rih caused a fire,  September 06,  2022

    English.nv.ua, Russian attack on Kryvyi Rih sets oil depot on fire,  September 06,  2022

    Ukranews.com, Invaders Hit Kryvyi Rih. Oil Depot On Fire, September 06, 2022

    Pravda.com.ua, Dnipropetrovsk Oblast: Large fire at Kryvyi Rih oil depot extinguished,  September 07,  2022

    Fakty.com.ua, In Kryvyi Rih, as a result of an enemy missile strike, a severe fire broke out at an oil depot,  September 06,  2022

    Bykvu.com, Kryvyi Rih struck by Russian missiles: fire localized,  September 06,  2022

    Edition.cnn.com, Missile attack on central Ukrainian city causes heavy fire at oil depot, Ukrainian military official says,  September 06,  2022

    Veskr.com.ua, ФОТО: В Кривому Розі 48 рятувальників гасили пожежу на нафтобазі,  September 07,  2022

    Tsn.ua, Кривий Ріг: ракета вгатила в нафтобазу - вибухи і сильна пожежа,  September 06,  2022


後 記: 今回の情報を調べていると、戦時下の報道といった感じがします。空襲警報が発令されているのですから、取材には行けないですし、どうしても自治体からの発表に頼らざるを得ないでしょう。また、被災写真を見ていると、はっきりとしないものが多いですね。自治体から提供されたものであれば、攻撃者の成果を物語るものは出さないでしょう。メディアも国や自治体に忖度して事実をぼかして伝えない傾向もあるでしょう。今回の報道の中では、一社だけがまともに正対した記事と写真を報じていました。この報道が無ければ、ロシアが石油貯蔵所をミサイル攻撃したらしいという程度の内容になっています。 

2022年9月12日月曜日

パキスタンで洪水、国土の3分の1が水没、 3,300万人が被災

 今回は、20226月から9月までの雨によってパキスタン各地で激しい洪水が発生し、パキスタンの3分の1が浸水したという自然災害について紹介します。

< 被災施設の概要 >

■ 被災国は、パキスタン・イスラム共和国、通称パキスタンである。パキスタンは、南アジアに位置する連邦共和制国家で、東にインド、西にアフガニスタン、南西にイラン、北東に中華人民共和国と国境を接している。

■ 被災地区は、パキスタンの4州であるバロチスタン州、カイバル・パクトゥンクワ州、パンジャーブ州、シンド州の全土に及び、被害は家屋や農場のほか道路、橋、学校、病院、公衆衛生施設などの重要な社会基盤施設である。


< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 20226月から始まった雨によってパキスタン各地で激しい洪水が発生した。 2022829日(月)、パキスタンの気候変動相が「国土の3分の1」が浸水しているとした上で、「想像を絶する規模の危機だ」と語った。

■ 20226月中旬から9月初めにかけてモンスーンに伴う大雨が続き、政府の統計によると、全国の7月の平均雨量は平年の2.8倍の177.5mmに上り、1961年以降で最多だった。

■ 被害が大きかった地域の一つのカイバル・パクトゥンクワ州のカブール川近くの集落を92日(金)に訪れると、多くの家屋が損傷し、水圧によって壁にヒビが入った家も見られた。住民によると、8月末に近くの川のダムが決壊し、決壊から約1週間がたった今も一部の家や集落を通る道は冠水したままだという。住民のひとりは、「夜、寝ているうちに川が決壊して水が家の中まで入ってきた。避難して自分の命は助かったが、家財道具はすべて失ってしまった」と語っている。パキスタンでは、かねて食料品などの物価上昇が深刻で、洪水被害は庶民の生活苦に追い打ちをかけている。

■ 避難所に身を寄せる住民は、「牛を飼って牛乳を売って生活していたのに、牛は洪水で流され、家も壊れてしまった。どうやって家を修理しろと言うのだ」と訴えた。

■ 人口5,000万人で国の食料の半分を生産するシンド州では、年間の平均よりも464%も多い雨量を記録し、作物の90%がダメになっている。パキスタンの半分を占めるバロチスタン州の75%以上が被害を受けている。また、バロチスタン州は、30年間の平均の436%も大量の雨が降っており、州内の少なくとも12のダムが決壊し、主要な鉄道や道路網が流され、通信や電力の施設が壊れるなど広範囲にわたって被害が発生している。

■ パキスタン災害当局によると、6月中旬以降に住宅約146万軒が全壊または部分的に損傷した。また、5,000km以上の道路と243の橋が被害を受けたという。

■ パキスタンの洪水被害が深刻化している。災害当局は614日(火)~93日(土)までに全国で1,282人が亡くなったと発表した。洪水による犠牲者のほぼ3分の1は子どもだった。パキスタン政府は少なくとも3,300万人が被災し、被害総額が100億ドル(約14,000億円)に上ると試算している。94日(日)時点での死亡者は少なくとも1,314人となった。

■ 主要な河川の中には、堤防が決壊し、ダムが氾濫して、家屋や農場のほか道路、橋、学校、病院、公衆衛生施設などの重要な社会基盤施設が破壊された。

■ パキスタンの洪水は最悪と言われた2010年の洪水よりもひどい。山間部カイバル・パクトゥンクワ州では、「ボートやラクダなど使える手段は何でも使って、最大の被害を受けた地域に救援物資を届けている。最善を尽くしているが、この州の被害は2010年の洪水の時よりひどい」と語っている。

■ パキスタンに甚大な被害をもたらした豪雨の原因はパキスタン上空に居座り続けた寒気である。そこへインド洋から湿った空気が流れ込み、雨雲が発達しやすい状態が続いた。さらに、インドからの暖かい空気がヒマラヤの氷河を溶かし、洪水被害が拡大していったとみられる。パキスタンの気候変動大臣は、「氷河が溶けるのは地球温暖化の結果です。パキスタンのCO2排出割合は世界で1%以下です。世界の気候を生き地獄にする温室効果ガスの排出にはほとんど加担していません」 と語っている。 

■ 欧州宇宙機関(ESA)の衛星画像によると、インダス川が川岸をはるかに超えて流れ出し、幅10km以上、長さ100kmを超える湖を作り出していることを示している。パキスタンの3分の1以上の土地が水没しており、ひどい洪水が二次災害を引き起こす恐れがある。例えば、世界保健機関(WHO)によると、800以上の医療施設が被害を受け、そのうち180は完全に破損しており、多くの人がヘルスケアや医療を受けることができない状態となっている。

■ NASAは衛星画像による洪水の状況を発表した。画像は、それぞれ84日と28日にLandsat 8Landsat 9衛星に搭載されたOperational Land Imagersによって取得された。画像は、短波赤外線、近赤外線、および赤色光 (バンド 6-5-4) を組み合わせて、自然のチャネルを超えた洪水(深い青色) をよりよく区別できる。2022831日にNOAA-20衛星の可視赤外線イメージング放射計スイート (VIIRS)によって取得された上の画像は、この地域の洪水の範囲を示している。この画像は、近赤外光と可視光を組み合わせて使用​​し、川が堤防から離れて氾濫原に広がっている場所を簡単に確認できるようになっている。


■ ユーチューブにパキスタンの洪水の映像が投稿されている。主なものをつぎに示す。

 ●「パキスタン洪水 被害拡大の原因に多発する「山津波」の脅威」(2022/9/3)

 ●「パキスタンで続く洪水、水が引かず路頭に迷う人々」 2022/08/28

 ●Pakistan Flood 20222022/09/11

 ● Pakistan Flood 2022 Live | Pakistan Flood 2022 Update Today | Pakistan Floods2022/09/02

被 害

■ 災害当局は614日~93日(土)までに全国で1,282人が亡くなったと発表した。洪水による犠牲者のほぼ三分の一は子どもだった。パキスタン政府は少なくとも3,300万人が被災した。94日の時点での死亡者は少なくとも1,314人となった。

■ 6月中旬以降に住宅約146万軒が全壊または部分的に損傷した。また、5,000km以上の道路と243の橋が被害を受けた。家屋や農場のほか道路、橋、学校、病院、公衆衛生施設などの重要な社会基盤施設が破壊された。石油施設も被害を受けていると思われるが、被害が広範囲に及ぶので、報道されていないとみられる。

■ 復興には100億ドル(約14,000億円)以上を要する見通しである。


< 事故の原因 >

■ 6月中旬から9月初めにかけてモンスーンに伴う大雨が続いたのと、地球温暖化の影響で山岳地帯の氷河が溶けたことによる洪水による。

< 対 応 >

■ 830日(火)、パキスタン政府と国連はイスラマバードとジュネーブで「2022年パキスタン洪水対応計画」を共同で立ち上げた。この時点で、3,300 万人以上に影響を与えた壊滅的な雨、洪水、地滑りを背景に立ち上げられた。「2022年パキスタン洪水対応計画」 では、まず大きな被災を受けた520万人のニーズに焦点を当て、16,030万米ドル(224億円)の救命対応活動を行うという。これには、食糧安全保障、農業・家畜の支援、避難所と食糧以外のもの、栄養プログラム、一次医療サービス、水と衛生、女性の健康、教育支援などを含む。

■ 830日(水)、パキスタン軍は、軍用ヘリコプターで洪水の犠牲者を避難させ、遠隔地に食糧を届けている。救助と救援活動を支援するために6,500人の兵士が動員されている。

■ 91日(木)、欧州宇宙機関(ESA)は、救助活動を支援するため、地球環境モニタリング計画「コペルニクス」の衛星データを使用して宇宙から洪水の規模を測定したと発表した。6月中旬以降の降雨量は「通常の10倍」であり、これが国土の三分の一を水没させる洪水を引き起こしたと説明した。

 91日(木)、パキスタン当局によると、同国の7人に1人に当たる3,300万人以上が被災しており、復興には100億ドル(約14,000億円)以上を要する見通しだという。国連の事務総長は「気候大災害」だとして、16,000万ドル(約224億円)の緊急支援を各国に呼び掛けている。

■ パキスタン政府は2010年~2012年にかけて甚大な水害に見舞われた後、氷河融解の新たな監視システムに加え、洪水の早期警戒システムを整えると約束した。20228月の洪水では早期警戒システムによって救われた命もあった。しかし、2010年から5回の政権交代を経験し、多額の債務を抱えた同国は、約束した措置を全て実行したわけではない。

■ 2100年までに、世界が温暖化目標の1.5℃に抑えたとしても、パキスタンの上流にあるミャンマーからアフガニスタンにかけて広がる広大な山岳地帯の氷河の3分の1が消滅するという。気温がもっと上がれば、破滅の日が近づくが、分かっていても誰も口に出さない危機である。今回、パキスタンが経験した洪水は、この危機の兆候の一つである。気候の破局は、いまや誰の目にも明らかである。にもかかわらず、主要経済国は、排出削減に関する合意に達することができないでいる。数え切れないほどのサミットや国際会議が開かれてきたが、2050年までに正味ゼロを達成する道にはまだ乗っていない。パキスタンのように「気候変動に最も脆弱な国」という不運な国にとっては、気候サミットが失敗するたびに悪い知らせがもたらされる。豊かな国々が排出量の削減をめぐって駆け引きをしている一方で、私たちが命と暮らしに関わる代償を以前よりはるかに多くを払い続けていることに、いらだちを感じる。

■ 多くの国から援助が寄せられ、フランスからの最初の人道支援便が93日(土)の朝、パキスタンの首都であるイスラマバードに着陸した。しかし、パキスタン最大の慈善団体は、援助や救援活動が届いていない人々がまだ何百万人もいると語った。

■ 2010年の壊滅的な洪水は、1,800万人以上に影響を与え、2,000人近くの死者を出した。 今回の洪水被害は深刻で損害の費用は100億ドルという推定が出ているが、それよりもはるかに大きいという。正確な数字が判明するまでにはおそらく68週間かかるだろう。2010年の洪水と比較すると、浸水した土地は 4 倍になった。

 





所 感

■ 環境汚染に関する感度が段々悪くなっていると感じる。2010年の「パキスタン洪水に伴う油流出による環境汚染」では、パキスタンがモンスーンの豪雨による洪水に襲われ、石油貯蔵施設で油が流出した事故を紹介したが、今回の洪水の報道では、石油貯蔵施設の流出について報じたところは無かった。おそらく、無かったのではなく、「東日本大震災時の気仙沼オイルターミナルの壊滅(20113月)」あるいは佐賀県の大雨洪水で工場浸水して熱処理用の焼入油が流出(20198月)のような被害が起こっていたと思われるが、パキスタン全土における被害が甚大で、個々の石油貯蔵施設の被害に目が行き届いていないのだろう。油流出による環境汚染を考える余裕がないほど温暖化による気候変動の問題が大きいということである。

■ 今回の海外報道で特徴的なことは、洪水によってパキスタンが気候変動に最も脆弱な国であることが示されたこととともに、主要経済国が温暖化のガス排出削減に関する合意に達することができないでいることに対する意見を伝えるメディアが多かったことである。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

   Mainichi.jp,  パキスタン、洪水で1290人死亡 「国土の3分の1」が浸水,  September  04,  2022

   Yews.yahoo.co.jp, 「国土3分の1が水没」パキスタン史上最悪洪水日本も輸入している綿花が壊滅状態 パキスタン大臣「温暖化の結果」,  September  03,  2022

   Toyokeizai.net,  パキスタンの「洪水」ここまで深刻にした真犯人,  August  31,  2022

   Afpbb.com,  パキスタン洪水、雨量は平年の10倍 インダス川が「湖」に,  September  02,  2022

   Jp.reuters.com,  アングル:パキスタン大洪水の教訓、求められる多角的リスク対策,  September  01,  2022

   Cnn.co.jp,  洪水で幅100キロの「湖」が出現 パキスタン南部,  August  31,  2022

   Edition.cnn.com, A third of Pakistan is underwater amid its worst floods in history. Here‘s what you need to know, September  02,  2022

   Earthobservatory.nasa.gov,  Devastating Floods in Pakistan,  August  28,  2022Theguardian.com, Rich countries caused Pakistan’s catastrophic flooding. Their response? Inertia and apathy, September  05,  2022

   Reuters.com,  Pakistan flood toll rises with 25 children among 57 more deaths, September  03,  2022

   Fortune.com, Pakistan’s ‘biblical’ flooding is coming with a huge price tag: ‘Far greater’ than $10 billion and counting, official says, September  07,  2022

   News.un.or,  Pakistan: WHO warns of significant health risks as floods continue,  August  31,  2022

   Dw.com, Pakistan floods: Authorities breach largest freshwater lake,  September  04,  2022

   Thenewhumanitarian.org,  Pakistan floods pose urgent questions over preparedness and climate reparations,  September  05,  2022

   Dw.com, پاکستان: سیلاب کے بعد صحت کے بحران کا خطرہ (パキスタン:洪水後の健康危機のリスク),  September  01,  2022 


後 記: 今回の洪水による報道と被災写真は数多くありました。2010年パキスタン洪水で石油貯蔵施設の問題を指摘した報道がありましたので、今回も調べることとしました。しかし、被害地区があまりにも広すぎるため、高所(?)に立った記事が多く、石油貯蔵施設の問題としてとらえることができませんでした。被災写真については、こども達がボートで助けられている写真などは湖で舟遊びしているようにも見え、臨場感に欠ける写真になっていました。洪水の恐ろしさを伝えるような写真も少なく、激流を撮った写真(下)がありましたが、よく見ると、これは2010年のパキスタン洪水のときに撮られたものでした。迫力のある写真を求めたのでしょうが、こういうやり方は事実を追及するメディアの基本姿勢として感心しないですね。という訳で、多くの記事と多くの被災写真を見ましたが、骨折り損とは言いませんが、くたびれ儲けという気のする回でした。(被災者を思うとそんなことは言えませんが)