今回は、 2020年5月23日(土)
、山口県周南市にある東ソー南陽事業所の電解プラントで工業塩と水を混ぜるタンクが空の状況下でボヤが発生した事例を紹介します。
< 発災施設の概要 >
■ 発災があったのは、山口県周南市開成町にある東ソー南陽事業所の電解プラントである。
■ 事故は電解プラントにある直径約7m×高さ約11mの鋼製タンクである。
東ソー南陽事業所の配置 (図はTosoh.co.jpから引用)
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東ソーの原塩ヤードと電解プラント付近 (写真はGoogleMapから引用)
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<事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2020年5月23日(土)午前7時50分頃、カセイソーダ・プラントにあるタンクでボヤ(小火)があった。
■ 消防署に近くの住民から「黒い煙が上がっている」という119番があり、消防隊が出動した。
電解プラントの反応 (図はTosoh.co.jpから引用)
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■ 電解プラントはカセイソーダなどを製造する設備で、タンクは原料となる塩と水を混ぜるもので、発災当時は運転停止中でタンク内には液体は入っておらず、空だったという。タンクには内側部を覆うゴムがあり、一部が焼けたという。有毒ガスの発生は無かった。
■ 発災当時、タンク付近に従業員はおらず、発災に伴う負傷者はいなかった。
被 害
■ タンク1基がボヤで一部を焼損した。
■ 負傷者は出なかった。
< 事故の原因 >
■ 事故原因は調査中である。
< 対 応 >
■ 火は約1時間50分後の消された。
補 足
■「山口県」は、中国地方に位置する人口約1,347,000人の県で、県庁所在地は山口市(人口約194,000人)で、最大の都市は下関市(人口約254,000人)である。
「周南市」は、山口県の」東南部に位置し、人口約138,000人の市である。周南市の主要産業は重化学工業であり、旧徳山海軍燃料廠から発展した石油コンビナート(周南コンビナート)が形成され、東ソー、トクヤマ、出光興産、日本ゼオン、日本精蝋などの事業所がある。製造品出荷額等は山口県内第1位で、瀬戸内工業地域の重要な位置を占めている。
(図はTosoh.co.jpから引用)
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■「東ソー㈱」は、1935年に設立され、旧社名は東洋曹達工業といい、総合化学メーカーである。
カセイソーダ、塩化ビニルモノマー(VCM)、ポリウレタンといった「ビニル・イソシアネート・チェーン」事業に加え、石油化学事業(オレフィン、ポリエチレン、合成ゴム等)や機能商品事業(無機・有機ファイン製品、電解二酸化マンガンなど)をコアとして事業展開を行っている。南陽事業所のビニル・イソシアネート・チェーン事業は図に示す。
東ソー南陽事業所のビニル・イソシアネート・チェーン事業 (図はTosoh.co.jpから引用)
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■「電解プラント」は、塩を水に溶解し、不純物を取り除く塩水精製を行い、電気分解によってカセイソーダ、水素、塩素を生産する。東ソー南陽事業所では、年間約150万トン以上の工業塩を豪州やメキシコから輸入している。
■ この事故のメディアによる報道では、「火」という言葉は使っているが、「火災」という言葉は使用していない。このため、本ブログでは「ボヤ」という用語にした。
消防庁では、火災の焼損程度を「ボヤ(小火)」、「部分焼け」、「半焼」、「全焼」
の4つに分類している。また、火災損害では「全損」、「半損」、「小損」の3段階に分けている。ボヤは、建物の焼き損害額が火災前の建物の評価額の10%未満で、焼損床面積が1㎡未満のものまたは収容物のみ焼損したものをいう。一般の人は火災保険に関わるので、火事になってしまえば、大きな分類の方がよい。昔から、柱1本残っていることで全焼ではなく、半焼だというので、残っている柱を見たら倒してしまえという逸話がある。一方、事業所では、事故(火災)件数や報告義務のわずらわしさから、火災とせず、ボヤという用語を使う傾向にある。
■ 「発災タンク」は、直径約7m×高さ約11mの鋼製タンクと報じられているので、容量は400KL級である。目的は原料となる塩と水を混ぜるものとあるので、電解プラントの塩水精製の前処理設備に使われる単なる混合槽だとみられる。また、タンクには内側部を覆うゴムがあったとされているので、塩水の腐食対策としてゴムライニングのタンクではないかと思われる。
所 感
■ 今回の発火要因は分かっていないが、状況からすれば、自然発火の可能性が高い。リサイクル施設などの場合、油が付着したウェスが酸化・発熱して火災の要因になることがある。石油工業であれば、硫化鉄が自然発火の要因である事例は少なくない。たとえば、つぎの事例がそうである。
● 2017年1月、「東燃ゼネラル和歌山工場の清掃中原油タンクの火災原因(最終報告)」
■ 電解プラントに使用する輸入の工業塩には、カルシウムやマグネシウムなどの不純物を含んでおり、自己発火性の物質は存在する。ただ、塩水精製の前処理として工業塩と水を混ぜるタンクにおいて堆積物に自然発火性の物質が生成し、発火したという事例は聞かない。
上記で紹介した「清掃中原油タンクの火災原因」の事故報告書はよくまとめられている。結果的にいうと、タンク関係者であれば常識的な内容である。しかし、長年の技術的知見を有している製油所でなぜ起きたかについて調査された極めて有用な事故報告書である。今回の電解プラントのタンク事故はわからないことの多い事例であり、教訓として調査結果を公表されることを期待する。
備 考
本情報はつぎの情報に基づいてまとめたものである。
・Asahi-shinbun,
タンクから煙,
May 24,
2020
・Yamaguchi-shinbun, 東ソー南陽事業所 タンク一部を焼く,
May 24,
2020
・Chugoku-shinbun, 東ソーのプラント焼く,
May 24,
2020
後 記: 今回の事故はインターネットの事故情報で知ったのではなく、ローカルな情報で知りました。このため、新聞をコンビニエンスストアで買い求め、記事を読み比べてまとめました。しかし、メディアの記事は新型コロナウイリスの影響で十分な取材ができないためか、記事に深みが欠けるように感じました。また、事業所も火災でなく小火(ボヤ)という解釈なのか、メデイアに情報を提供しているようですが、同社のウェブサイトにはなにも言及されていません。これは新型コロナウイリスの所為とはいえないでしょう。海外では被災写真を消防署など公的機関が提供することがありますが、日本では稀です。このため、標題の写真は事故に関係ないプラントの写真としました。現代の情報社会の中では、時代遅れ感は否めませんね。