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2013年7月27日土曜日

東京電力福島原発 汚染水処理施設のタンク漏れの原因(2)

 今回は、2013年7月25日、東京電力が福島第1原子力発電所にある放射能汚染水処理装置である多核種除去設備(ALPS)の汚染水タンク漏れの原因について公式発表した内容について紹介します。本件についてはすでに当ブログで2回紹介していますので、漏れ状況と原因追求に関する事項は東京電力福島原子力発電所の汚染水処理施設のタンクから漏れ」(2013年6月)および東京電力福島原発 汚染水処理施設のタンク漏れの原因」(2013年7月)を参照してください。
(写真および解説はAsahi.comから引用) 
本情報はつぎのような情報に基づいてまとめたものである。
  ・Tepco.co.jp,  東京電力報道配布資料;福島第一原子力発電所の状況,  July 25,  2013
  ・Asahi.com,  ALPS水漏れ、腐食が原因 汚染水処理の新装置, July 26,  2013
    ・Jiji.com,  薬液・塩分でタンク腐食=放射能低減装置の水漏れ-福島第1, July 26,  2013 
    ・Mainichi.jp,  <放射性汚染水>除去装置「アルプス」の試験運転停止へ,  July 26,  2013

 <漏れの原因> 
■  2013年7月25日(木)、東京電力は、福島第1原子力発電所にある放射能汚染水処理装置である多核種除去設備(ALPS)の汚染水タンクからの漏れ原因について公式発表した。報道配布資料(記者会見資料)をそのまま引用すると、つぎのとおりである。

■ 「水漏れの原因は、バッチ処理タンクのすき間腐食によるものと推定しており、腐食を拡大させた要因は、海水由来の塩化物イオンが存在していることに加え、次亜塩素酸や塩化第二鉄の注入によって腐食が加速される液性であったこと、また、付着したスケール等がすき間環境を形成していたものと評価。再発防止対策として、当該欠陥部の補修を行った後、バッチ処理タンク内面が腐食環境にさらされないようにゴムライニングを施工する。
 また、多核種除去設備A系のその他の機器について腐食状況を調査したところ、一部の前処理設備のフランジ面に腐食を確認。本事象の原因は、バッチ処理タンクで注入された薬液の影響が残存していること等と推定。また、前処理設備の一部に限定されるが、次亜塩素酸が徐々に分解され、残留塩素濃度が低下したこと、また、共沈タンクでアルカリ液性となること等を原因として推定。再発防止対策として、フランジとガスケットの間に犠牲電極を挟む対策を行うとともに、今後、信頼性を高めるために全面ライニング配管への取替を検討。 なお、多核種除去設備(B系、C系)についても、同様に再発防止対策を行っていく」

■ 東京電力の発表を受け、翌26日(金)に一部の報道機関がその内容を報じた。
 朝日新聞は、「東京電力福島第1原発の汚染水から放射性物質を除去する新装置ALPS(アルプス)で試験運転中にタンクから水漏れが起きた問題で、東電は25日、溶接部が腐食し、穴が開いたのが原因だったことを明らかにした。試運転終了は8月中旬の予定だったが、対策をとるのに時間がかかり、4か月後倒しになる。増え続ける汚染水の管理がさらに厳しくなる。この日、政府と東電の廃炉対策推進会議に報告された」と報じている。
 
■ 時事通信は、「東京電力福島第1原発で汚染水の放射性物質を除去する“多核種除去装置(アルプス)”のタンクから汚染水が漏れた問題で、東電は25日、汚染水に含まれる塩分と処理用の薬剤によって腐食が進んだことが原因と推定し、政府などとつくる廃炉対策推進会議に報告した。
 東電はアルプスの3系統のうち、A系統を3月から、B系統を6月から試運転していた。しかし、6月にA系統で処理前の汚染水をためるステンレス製タンクから水が漏れ、溶接部に微細な穴が見つかった。詳しく調べたところ溶接部が腐食しており、他のタンクでも変色やさびがあることが判明。汚染水に含まれる塩分や、処理に使う次亜塩素酸などの薬剤が腐食を進行させたことが分かった」と報じた。
 
■ 毎日新聞は、「政府と東京電力は25日、福島第1原発の廃炉対策推進会議を開き、放射性汚染水から62種類の放射性物質を取り除く多核種除去装置“アルプス”について8月上旬から約1か月半、試験運転を停止することを決めた。東電によると、運転停止によって推計約2万㎥の汚染水処理が遅れる見通し。
 アルプスはA〜C系の計3基。A系は4月から試験運転していたが、6月にタンクの腐食による水漏れトラブルが発生したため、東電が原因を調べていた。8月初旬までにすべての運転を停止させ、腐食防止のゴム処理などをしたうえで9月中旬には1基目の運転再開を目指している。処理できない汚染水は地上タンクへ移送するが、移送先のタンクは原発の敷地境界に近く、周辺の放射線量の増加が懸念されている」と報じている。

所 感
■ やっとバッチ処理タンク漏洩の「要因」が公式発表された。内容を見ると、漏洩の直接原因ではなく、腐食開口に至る可能性のある「要因」が網羅されたという印象である。本来は、これらの「要因」をもとに材料選定が行われるべきであった。冶金学的な調査を行えば、腐食生成物などからもう少し腐食過程がはっきりするだろうが、もともと適正な材料選定を行っていないので、対応を急いだものと思われる。

■ 対応方針として、タンクはゴムライニング、配管は全面ライニング配管とする内容は妥当なものと思われる。ただし、ゴムライニングやライニング配管は製作時の品質管理(検査でなく、製作工程)をきちんとしていなければ、欠陥による問題が潜在して、ある日突然、漏れなどの問題が顕在化してしまう。




後 記; 7月26日(金)にALPSのタンク腐食の原因が報道されましたので、すでに当ブログで2回にわたって紹介してきた関係で、また取り上げました。「共沈用攪拌槽」というような名称が付いていれば、「貯蔵タンク」を対象としている当ブログに取り上げることはなかったでしょうが、 「バッチ処理タンク」という曖昧な名称にされたことから、3回も取り上げることになってしまったというのが、本音ですね。 



2013年7月25日木曜日

米国モンタナ州で落雷によるタンク火災

 今回は、2013年7月7日、米国モンタナ州マッスルシェル郡ラウンダップの北にある油井用の石油貯蔵タンクに落雷があり、火災となった事故を紹介します。
モンタナ州ラウンダップ近くの油井用石油施設の落雷によるタンク火災 
(写真はMissoulian.comから引用)
本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・BillingsGazette.com, Lightning Sparks Fire at Oil Storage Tank near Roundup,  July 08,  2013
      ・KRTV.com,  Lightning Strike Causes Oil Storage Tank Fire North of Roundup,  July 08,  2013  
  ・Missoulian.com,  Lightning Strikes Roundup Oil Storage Tank, Starts Fire,  July 08,  2013   
  ・KBZK.com, Oil Storage Tank Fire Burns Out; No Oil Spilled, July 08,  2013 

 <事故の状況> 
■  2013年7月7日(日)午後7時過ぎ、米国モンタナ州にある石油貯蔵タンクに落雷があり、火災となった。事故があったのは、モンタナ州マッスルシェル郡ラウンダップの北にある油井用の石油貯蔵施設で、火災によって2基の小型タンクが損壊した。

■ マッスルシェル郡災害・緊急時対応部署のコーディネータであるジェフ・ゲイツ氏によると、高速87号線とシップ通りが交差している所の近くにある石油貯蔵タンクに落雷があり、午後7時15分頃に火災が発生したという。火災によって小型タンクの2基が損壊し、内部の油が燃えてしまった。ゲーツ氏によると、タンク内の油はすべて燃え尽くし、土壌への汚染は無かったという。

■ マッスルシェル郡消防署のほか、隣接しているペトロリアム郡消防署とラウンダップの消防団が出動し、午後11時30分頃に火災は鎮火した。ゲーツ氏は、燃えているタンクより大きなタンクが近くにあり、消防活動が難しかったが、延焼を食い止めることができたといい、「油が一杯に入った大きい方のタンクを守ることができ、消防隊は実にいい仕事をしたよ」と語った。
 今回の事故では、消防署のほか、両郡の副保安官、ペトロリアム郡救急車の隊員が出動した。事故に伴う負傷者は発生しなかった。

■ マッスルシェル郡災害・緊急時対応部署のジェフ・ゲイツ氏は、7月8日(月)、火災が発生したとき、油井から生産される原油はタンクと接続されていたが、火災はタンクに限定できたと語った。さらに、ほかの構造物は火災で損壊していないと付け加えた。
(写真はKRTV.comから引用) 
(写真はKBZK.comから引用) 

補 足
モンタナ州 
■ 「モンタナ州」は米国西北部にあり、カナダと国境を接している州で、人口は約99万人である。陸地面積では全米第4位であるが、人口では少ない方から第7位、人口密度では小さい方から第3位である。東部では牧畜業、小麦農業、石油と石炭の採掘、西部では林業、観光業および岩石採掘業が盛んな州である。
 「マッスルシェル郡」は、モンタナ州中央部に位置し、人口は約4,500人である。隣接するペトロリアム郡は人口約490人である。
 「ラウンダップ」はマッスルシェル郡の郡庁所在地で、人口は約1,700人の町である。発災のあった石油施設はラウンダップの町から高速87号線を北へ上り、シップ通りと交差するところにある牧場の中にある油井施設である。
高速87号線とシップ通りが交差するところにある火災のあったと思われる石油施設
 (写真はグーグルマップのストリートビューから引用)

所 感
■ やはり、米国は落雷によるタンク火災の多い国である。2013年に入ってから今回で6件目の落雷によるタンク火災の事故情報を紹介したことになる。(取り上げなかった落雷タンク火災事故もあるので、実際に起こった件数はもっと多い) ただし、今回は落雷の多いメキシコ湾岸の州でなく、米国の中でも比較的落雷頻度が少ないモンタナ州で起こっている。落雷頻度については当ブログの「NASA(アメリカ航空宇宙局)による世界の雷マップ」(20126月)を参照。
■ もともと人口密度の小さいモンタナ州の広野の中で起こった落雷による石油タンク火災であり、事故の状況の情報は少ない。ほとんど一人(マッスルシェル郡災害・緊急時対応部署のジェフ・ゲイツ氏)からの情報によっており、写真を見てもよくわからない。燃えた量が50ガロンという情報もあったが、単位の間違いと思われ、引用しなかった。(注:50ガロン=189リットル)



後 記: 東日本大震災で爆発・火災事故のあったコスモ石油千葉製油所の液化石油ガスタンクの復旧工事が終ったそうです。7月18日に報道陣に公開されました。千葉日報によると、「点検のため水で満たされていたタンクが重量に耐えられず倒壊したことが事故の原因となったことから、新タンクは満水状態の重量でも耐えられる設計にした。建設費には約100億円を費やした。2011年6月から被災タンクの撤去に取りかかり、2012年1月から建設工事に着手、2013年4月完成し、検査を終えてこの7月中に本格稼働を始める。
 新タンクは容量1,600~5,000㎥の全13基で、総容量は30,000㎥である。現行の法令により各タンクの配置間隔が広がり、被災前に比べて4基減少し、総容量も2割減ったが、ニーズの低い種類のLPG(液化石油ガス)の貯蔵を減らすことにより、対応できるようにするという」
 法規制や官庁の指導事項が相当あったでしょうし、設計の見直しや資材の調達などいろいろな課題があったでしょうが、企業の復旧はさすがに速いという印象ですね。東日本大震災で被害を受けた東北各県の復興はなかなか進みませんが、何が違うのでしょうか。
2013718日公開された液化石油ガスタンクの復旧状況     右は201182日公開された被災状況 
(写真はChibanippo.co.jpおよびAsahi.comから引用) 

2013年7月22日月曜日

カナダで石油タンク車が脱線して市街地で爆発・炎上

 今回は、2013年7月6日、カナダのケベック州ラック・メガンティックで貨物列車が脱線し、石油タンク車が爆発・火災を起こし、爆発炎上により周辺区画が壊滅的な被害を受け、多くの死傷者を出した事故を紹介します。狭義に見ると、貯蔵タンクの事故ではないかもしれませんが、約6,000人の住民のうちおよそ2,000人が避難を余儀なくされるなど、日本でも報道されましたので、事故要因の背景を含めて紹介します。
2013年7月6日、ラック・メガンティックで貨物列車が脱線し、原油を積んだタンク車が爆発・炎上
        (写真はCBC.caから引用)
本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Gurdian.co.nk,  Fires Still Burning in Quebec Town 24 Hours after Runaway Train Crash,  July 07,  2013
      ・Nationalpost.com, ‘Wall of Fire’ Engulfed Bar that Has Become Ground Zero for Quebec Rail Disaster that Killed at Least Five People, July 07,  2013 
  ・Foxnews.com,  Quebec Train Disaster Highlights Pipeline Shortage,  July 08, 2013   
  ・TheAtlantic.com,  Freight Train Derails and Explodes in Lac-Megantic, Quebec,  July 08, 2013
    ・News.Nationalpost.com,  Hope Fading for 40 Missing in Quebec Train Disaster, Officil Confirm Five Dead,  July 09, 2013
      ・CSMonitor.com,  NTSB Warned of Rail Car Used in Quebec Train Fire,  July 10, 2013
      ・CBC.ca,  Beloved Mother First Victim Identified in Lac-Megantic,  July 11, 2013
      ・AFPbb.com, カナダ列車脱線事故は「消防隊のブレーキ解除が原因」、鉄道会社,  July 07, 2013
      ・Exite.co.jp, 列車脱線、不明の40人の捜査難航 カナダ、火災はほぼ鎮火,  July 08, 2013
      ・Newsphere.jp, カナダ列車脱線事故が、カナダ・米国の原油輸送戦略に与える影響とは?,  July 08, 2013
      ・Yomiuri.co.jp, カナダ原油貨物列車脱線炎上、死者33人に,  July 14, 2013
      ・jp.WSJ.com, カナダの列車脱線事故、運転士のブレーキかけ忘れか,  July 11, 2013 
 
<事故の状況> 
■  2013年7月6日(土)午前1時過ぎ、カナダのケベック州ラック・メガンティックで貨物列車が脱線し、石油タンク車が爆発・火災を起こす事故があった。石油タンク車の脱線したのが、ラック・メガンティックの市街地の一角で店や住宅が隣接している場所であったため、爆発炎上により周辺4区画が壊滅的な被害を受けた。最初の爆発以降も午前4時頃まで爆発が続き、建物30棟が倒壊し、多くの死傷者が出たほか、約6,000人の住民のうちおよそ2,000人が避難を余儀なくされた。
 火災は翌日も続き、7日(日)午後7時にやっとほぼ鎮火し、9日(火)には多くの住民が帰宅し始めた。しかし、発災現場では建物が倒壊しており、行方不明者の捜索は難航した。
 事故から1週間経った7月13日(土)、地元警察は新たに5人の遺体を確認し、死者数は33人となったと発表した。依然、行方が確認されない17人の生存も絶望視されており、死者数は50人に上る見通しである。
(写真はtheatlantic.comから引用)

(写真はtheatlantic.comから引用) 

(写真はtheatlantic.comから引用) 
(写真はCBC.caから引用) 
■ 列車は米国のレール・ワールド社の子会社であるモントリオール・メイン&アトランティック鉄道が運行していたもので、5台の機関車に引かれた72両編成の石油タンク車には原油が積まれており、米国ノースダコタ州バッケン地区からカナダ東部のニューブランズウィック州の製油所へ輸送中だった。
 列車は事故の前、ラック・メガンティックから約10km西のナントで停車しており、運転士はいなかった。ナントは丘の上にあり、ラック・メガンティックの町へは緩やかな下り坂になっており、事故の原因は列車が暴走したものだとみられる。

■ 目撃していた人によると、多くの住民が爆発で眠りから覚まされ、驚いた様子で通りに出てきたという。脱線事故が起こったとき、バーの中庭に居たバーナード・ザバーグさんは、最初の爆発が起こった後、人気店のミュージック・カフェの中に居た人たちの安否が気になった。「走って逃げ出す人たちが見えたと同時に火の手が上がりました。映画を見ているようでした。台本にあるような爆発シーンでした。でも、それは現実だったのです」と右腕に火傷を負いながら、運良く逃げることのできたザバーグさんは語った。
 消防隊が出動し、炎に向かって水をかけ続けたが、デニス・ロウゾン署長は、現場はまるで戦場のようだったと説明した。
 爆発後、多くの住民が安全な場所まで離れ、心配そうに状況を見つめていた。爆発現場の近くでレストランを開業しているバーナード・デマーさんは、「すてきな夕べで、バーでは多くのお客さんが楽しんでいました。そこに大きな爆発ですよ。驚くばかりで、お客さんは恐怖で顔が引きつっていました」と語った。爆発のあった場所から200mほど離れたところに住んでいたチャールス・クーエさんは、爆発音を聞いた後、すぐに奥さんを連れて家を飛び出して逃げる途中で熱さを感じたという。「ボーンという音が聞こえたと思ったら、ファイアボールからの熱を感じました」とクーエさんは語った。別な住民のクロード・ベダードさんは、「恐ろしい光景でした。メトロ・ストアやドラーラマ店などがみんな無くなっているのですから」と爆発後の現場について説明してくれた。
(写真はtheatlantic.comから引用) 
(写真はtheatlantic.comから引用) 

(写真はo.canada.comから引用)


■ ケベック州環境庁の広報担当であるクリスチャン・ブランシェット氏によると、量は未確認だが、オタワ川にかなりの油が流れ込んでいるという。同氏によると、72両の石油タンク車には原油が入っており、少なくとも4両が爆発と火災によって損傷しているといい、「心配していた湖と川に流出してしまいました。地方自治体に、オタワ川から取水しているところでは注意するよう連絡しています」と語った。ブランシェット氏は、大気の汚染状況をモニタリングするため、移動監視車を配置したことを付け加えた。

■ モントリオール・メイン&アトランティック鉄道は、昨年、300万バレル(47万KL)の石油を輸送している。石油タンク車は1両当たり30,000ガロン(114KL)の石油を積むことができる。

■ 6日(土)の午後9時30分時点では、5両の石油タンク車が制御できない状況で炎上していた。7日(日)の朝には、燃え続けていたのは2両のみになった。ラック・メガンティック消防署のデニス・ロウゾン署長によると、消防隊はケベック・シティにあるウルトラマー製油所から搬送してきた特殊泡薬剤を使って、一晩中、火災と戦ったという。ラック・メガンティック消防署は近隣のシャーブルックや隣接する米国のメイン州からの消防隊の支援を受け、150名の消防士が消火活動に従事した。
 7日(日)の朝に燃えていたのは2両だったが、当局はその日の夕方までに消火できるか心配していた。ロウゾン署長によると、消防隊を炎上している石油タンク車から150m離れた所に配置して、タンク車が過熱しないように水や泡を放射する消防活動を行なったという。ロウゾン署長は、「我々は、消防士の命が大切だと思っており、火炎の熱によってタンク車が噴き飛んだ場合に危険に陥る場所まで前進させようとは思っていません。我々は、注意を払いながら、一歩一歩段階的に進めていきます。しかし、本日、日曜日中には、良い知らせを言えるだろうと思っています」と語っていた。
(写真はtheatlantic.comから引用) 

■ 運輸安全委員会の調査官は、7月8日(月)、暴走した貨物列車のブラックボックスを回収したことを発表し、これが事故原因の手掛かりになるだろうと話した。調査官のロナルド・ロス氏は、無人の列車の暴走を止められなかったブレーキ・システムの問題に焦点が当てられるだろうといい、「確かなことは、列車にはエア・ブレーキと手動ブレーキの両方が付いていて安全を担保しているということです。これは、かなり良い仕組みだと見ています」と述べている。

バークハート氏の記者会見(写真はo.canada.comから引用) 
■ レール・ワールド社の最高経営責任者(CEO)であるエドワード・バークハート氏は、当初、列車は適切にブレーキが掛けられていたと思うと話していたが、7月10日(水)の記者会見で、「運転士が会社で規定されたブレーキ操作手順に従っていたか疑わしい」と述べ、「運転士は11個の手動ブレーキを掛けたと言っているが、私は事実ではないとみている。最初は信じていたが、いまはそうは思っていない」と語った。
  CEOのバークハート氏は、事故直後、ナントに停車していた列車でボヤ騒ぎがあり、この消火活動で出動した消防隊がブレーキ系統を解除したのが原因ではないかと語っていた。また、現地に入ったのは事故後5日を経過した10日(日)で、ラック・メガンティックの町長や住民から非難を浴びた。
(写真はnews.nationalpost.comから引用) 
(写真はtheatlantic.comから引用) 
                         被災者の捜索      (写真はo.canada.comから引用) 

 <パイプラインと鉄道輸送の問題>
■ カナダ国内および米国ノースダコタ州バッケン地区から原油を輸送するパイプラインの容量は限界に来ており、原油生産者が製油所への油輸送を鉄道に依存する割合は増加傾向にある。今年にはいって、カナダにおける原油輸送中の貨物列車の事故は4件発生しており、ケベック州の事故は4番目である。

■ ケベックの貨物列車事故は、石油移送についてパイプラインと鉄道輸送の問題に関心が集まっている。北米における石油生産は増加しているが、環境団体の反対よって、新しいパイプラインの建設は実質的に不可能な状況である。このため、石油の輸送は鉄道に依存している割合が増えている。エネルギー会社にとって、北米を横断する鉄道は原油を製油所へ輸送し、石油製品を市場へ出すための最後の手段となっている。カナダ鉄道協会によると、石油タンク車による原油輸送は、2009年の500両に対して2013年は140,000両に増加すると推測している。米国鉄道協会によると、昨年、米国とカナダを行き来した石油タンク車は234,000両で同期間で10倍に増加している。ちなみに、1両当たりの積込み容量は714バレル(114KL)である。

■ 交通省によると、脱線件数は前年比で20%減少しており、一方、石油の総輸送量に対する列車による輸送割合はカナダで2%未満、米国で10%である。しかし、死者を出したラック・メガンティック脱線事故のような流出や災害に至る事故が多すぎるという声も多い。
 カナダ首相は、この5月に、アルバータのオイルサンドをテキサスの製油所へ輸送するためカナダと米国を縦断するパイプライン計画を認めてもらうためのロビー外交でニューヨークを訪問した際、貨物列車による原油輸送が増加していることについて憂慮する発言を行っていた。スティーブン・ハーパー首相は、「私どもは、パイプライン輸送あるいは鉄道輸送のいずれにしろ、カナダからの原油量を増やしたいと思っていますが、ここに現実的で直近の課題としての環境問題があります。もし、パイプラインを望まないならば、鉄道輸送を増やすことになりますが、そこには、VOC排出やリスクという解決すべき難しい問題が横たわっています」と述べていた。

<石油タンク車の問題>
■ もうひとつの問題は、 1991年の漏洩試験結果以来、米国当局が懸念を表明しているにもかかわらず、ラック・メガンティック脱線事故でも使われていた石油タンク車が広く使用され続けていることである。米国のレポートでは、流出を防ぐため、タンク車の外壁に補強を施すべきだというものです。カナダは同様の勧告を採択しているが、新規車両だけに適用することとしている。当時、環境団体のグリーンピースは、「問題を一部解決する代わりに、政府は石油会社に鉄道による石油輸送を劇的に増やすことを認めたものである。これは“安全の前に経済優先”したものである」と述べていた。カナダ鉄道協会のポール・ボーク会長は、毎年、実質的に事故もなく、鉄道によって多くの貨物が輸送されていると述べ、憂慮されていることについて軽く見ている。皮肉なことに、ここ10年間、林業製品の需要低迷に対して油輸送の増加がモントリオール・メイン&アトランティック鉄道の経営を助けていたとデイリー・グローブ&メイル紙は伝えている。

■ DOT-111型と呼ばれるタンク車は、数社のメーカーによって製作されているポピュラーな貨物車で、北米において有害廃棄物の輸送に多く使用されている。鉄道の安全機関は、事故時に漏洩や火災のリスクを軽減するため全タンク車を改造するよう提唱してきたが、残念ながら、鉄道会社はこの計画に反対してきた。
 米国の国家運輸安全委員会(NTSB)のデボラ・ハースマン委員長は、「NTSBは長い期間かけて多くの事故を調査してきた結果、DOT-111型タンク車は事故時にタンクの破損する確率が高いと指摘してきました」と語った。2009年6月に死者1名を出したイリノイ州の脱線事故を調査してきたNTSBは、DOT-111型タンク車の設計上の固有の欠陥が、おそらく流出を悪化させたと結論付けている。他のタンク車のモデルは、高圧輸送の仕様で、シェル肉厚は厚く、漏洩の危険性を少なくした設計になっているという。

補 足
■ 「ケベック州」はカナダ東部にあり、米国のメイン州やバーモント州と国境を接する州で、人口は約780万人である。州都はケベック・シティであるが、州の最大都市はモントリオールで、公用語はフランス語である。
 「ラック・メガンティック」は、ケベック州の南東部に位置し、人口約6,000人で、農業・林業を主とする町である。

■ 「モントリオール・メイン&アトランティック鉄道」(Montreal Maine & Atlantic Railway)は、米国のレール・ワールド社(Rail World inc.)の子会社で、2003年1月に設立され、総延長510マイル(800km)の線路を保有し、カナダのケベック州、ニューブランズウィック州、米国のメイン州、バーモント州の顧客に物流サービスを提供している鉄道会社である。
 レール・ワールド社は、1999年、エドワード・バークハート氏によって設立された鉄道管理および鉄道の民営化・再編に関する投資・コンサルタントを行う会社である。カナダおよび米国における「モントリオール・メイン&アトランティック鉄道」のほか、欧州のエストニア、ポーランドに傘下の鉄道会社を保有する。


■  「DOT-111型」タンク車の安全性は米国の国家運輸安全委員会(NTSB)から指摘されているが、NTSBがまとめた「DOT-111 Tank Car Design」(パワーポイント資料)の概要はつぎのとおりである。
 ●過去、1991年安全性の検討、1992年ウィスコン州スーペリア事故、2003年イリノイ州タマロア事故、2006年ペンシルバニア州ニューブライトン事故などを調査した結果、タンク破損の発生率が高い。
  ●使用されているタンク車の69%はDOT-111型で、危険性物質の輸送に広く使われている。最近、バイオエタノール燃料の輸送にはDOT-111‘S型が使用されている。
 ●米国鉄道協会(AAR)は、事故後の対応として、2011年10月からエタノールおよび原油の輸送にはすべて新しいDOT-111型を使用し始めた。この型式は、ヘッド部とシェルの肉厚増加、焼きならし鋼の使用、1/2インチ厚のヘッド・シールドの採用、上部付属物の保護などの変更を行っている。
 ●米国鉄道協会は既設タンク車の取扱いについて明確にしていない。新旧のタンク車が混在した場合、実質的に安全が強化されたとはいえない。
 ● DOT-111型の設計上の問題はつぎのとおりである。
   ①タンクのヘッド部およびシェルが破損しやすい。肉厚増加などの新型は事故時の激しさを減じることができるかもしれない。
   ② DOT-111型の上部付属物の保護用覆いは脱線時にかかる力に耐え得ない。
   ③底部にある3個のバルブは、開いて内部液を放出しやすい。事故時の衝撃でも、バルブのハンドルは閉止を保持できるようにしておく必要がある。

 日本でも、以前は、製油所に貨物車用の引込み線路があり、多くの石油タンク車が使用されていた。しかし、石油輸送はローリー車に代わっていき、現在では、石油タンク車は一部の地域でしか使用されていない。  
                    DOT-111型タンク車  (写真はnorfork.egalexaminer.comから引用)
                     事故時の写真  (写真はNTSB.govから引用) 
                 上部覆い      (写真はNTSB.govから引用) 
                    バルブハンドル  (写真はNTSB.govから引用) 


所 感
■ 世の中には、予期せぬ悲惨な事故が起こるものだというのが第一印象であった。週末の夜、住民6,000人の穏やかな町が、突然、戦場のように建物が壊され、炎上し、多くの人が亡くなるという最悪の事故に巻き込まれたのである。
米国オハイオ州のエタノールタンク車の脱線爆発事故 
■ しかし、北米では、列車の脱線事故は少なくない。2011年2月6日、米国オハイオ州ハンコック郡アーカディア付近で貨物列車が脱線し、移送していたエタノールのタンク車がファイアーボールを伴う爆発事故があった。この事故を調べてみると、その潜在危険性は高いということがわかった。その要因は、①バイオエタノール生産の増加、 ②多くの生産工場から集約して輸送する必要性、 ③エタノールの水親和性から、製油所でなく各地方の配送ターミナルでガソリンに添加する必要性、 ④貨物列車による輸送の効率性、 ⑤北米の鉄道における脱線事故が少なくないことである。
■ 今回の事故も、報じられているように、原油のパイプライン輸送の代替手段として鉄道輸送が増え、使われている石油タンク車が、1991年以降、米国の国家運輸安全委員会(NTSB)から安全性に疑問が投げかけられている型式だった。北米で鉄道の脱線事故が少なくないことを考えれば、脱線・爆発・炎上事故の潜在危険性が高く、「起こる可能性のあることは、いつか実際に起こる」というマーフィーの法則どおりだといえる。明らかに、石油タンク車の構造改善は問題先送りされてきた。今回の事故により、中途半端は許されず、抜本的な対応がとられなければならない。一方、脱線が起こりやすいと思われる線路の保線についても目を向ける必要があるように思う。

■ 今回の事故でもう一つ注目するのは、鉄道会社の事故後の危機管理対応のまずさである。事故直後の7月6日に会社のホームページにニュース・リリースを出し、さらに7日に続報を出している。内容は必ずしも適切だといえないが、初期対応としては悪くない。しかし、トップ(最高経営責任者)の言動がまったく不適切である。トップの危機管理意識の欠如か、トップに不適切な情報を流した組織の問題かはわからないが、「最悪のシナリオを考える米国」にもほころびが現れてきたようにも感じる事例である。 



後 記: 6月下旬から7月上旬にかけて北米で大きな事故が続きました。 米国アリゾナ州の山火事で消防士19名死亡、サンフランシスコ国際空港における韓国アシアナ航空機の事故、そして今回のカナダ・ケベック州における石油タンク車の脱線事故です。このうち2件を当ブログで紹介し、一区切りしました。
 世界を見ると大きな事故が続いていても、自宅のまわりは平穏です。今年も高校野球の時期を迎え、すぐ近くの球場(周南市野球場;津田恒美メモリアルスタジアム)で山口県の予選が始まりました。蝉の声と球場内の応援を聞くと、今年も夏がやってきたという気持ちになっています。

2013年7月14日日曜日

米国アリゾナ州の山火事で消防士19名死亡

 今回は、貯蔵タンクとは関係のない山火事について紹介します。2013年6月28日、米国アリゾナ州の州都フェニックスから北に135km離れたヤーネルヒルで落雷とみられる山火事が発生し、この消火活動中、6月30日、同州プレスコット市から出動していた“ホットショット”と呼ばれるエリート消防士20人からなる消防部隊が、ひとりを除く19人が死亡した事故です。このブログでは、消防士の活動状況が出てきますが、なぜ多くの消防士が亡くなるという事故になったかについて紹介します。
アリゾナ州の山火事に対応する現場へ向かう消防士(最後の写真といわれる)
 (写真はrrstar.comから引用) 
本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Foxnews.com,  Portable Shelters Couldn’t Save 19 Members  of  Elite Hotshots Firefighting Crew Killed  in  Arizona Blaze,  July 02,  2013
      ・USnews.NBC.com,  For Now, We Mourn:  Few Answers after 19 Killed in Arizona Wildfire,  July 01.  2013
      ・BBC.co.uk,  Arizona Wildfires: The Life of a ‘Hotshot’Firefighter,  July  01, 2013
      ・KOAMTV.com,  19 Killed in Arizona Wildfire; Local Technician Shows Tents Used to Try to Save Lives, July 02, 2013
      ・Freep.com,  Firefighter’s Final Photo Used as Evidence in Deadly Fire,  July 04,  2013
      ・BBC.co.uk,  Arizona’s Deadly Yarnell Wildfire Nears Endgame, July 05,  2013
      ・News.Yahoo.com,  Convoy Takes Remains of Fallen Arizona Firefighters Home,  July 07,  2013
      ・AFPbb.com,  米アリゾナ州の山火事、延焼面積4倍に 強風でさらに拡大の恐れ, July 02,  2013
     ・CNN.co.jp,  山火事で消防士19人が死亡 米アリゾナ州, July 01,  2013
      ・Fujisankei.com,  米アリゾナ州 19人の消防士が犠牲になる山火事, July 03,  2013

 <山火事の状況> 
■  2013年6月28日(金)、米国アリゾナ州は記録的な猛暑が続く中、州都フェニックスから北に135km離れたヤーネルヒルで落雷とみられる山火事が発生した。6月30日(日)時点で8平方キロメートルだった焼失面積は、翌7月1日(月)には32平方キロメートルに広がった。地元当局は近隣のヤーネルなど2つの町の住民に避難指示を出した。山林管理当局によると、これまでに住宅約100棟が全焼したという。地元テレビの映像では、稜線に沿って広がる炎が確認でき、灰褐色の煙がもくもくと上がっている。
         (写真はbusinessinsider.comから引用)                                         (写真はtheblaze.comから引用) 
(写真はbusinessinsider.comから引用)
          (写真はmotherjones.com から引用 )                                    (写真はmissoulian.com から引用 ) 

■ この山火事に200人の消防士が動員されていたが、71日には400人に増やされた。しかし、強風で火の勢いは強くなり、消火活動は困難をきわめた。このような中、630日の夜、同州プレスコット市から出動していた“ホットショット”と呼ばれるエリート消防士20人からなる消防部隊が、ひとりを除く19人の死亡が確認された。無事だったひとりは、当時、部隊のトラックを運転するため現場を離れていた。“ホットショット” は厳しい訓練を経て最も過酷な山火事の現場で消火活動を行う先鋭部隊で、山火事の多いこの季節には常に各地での出動要請に備えている。今回犠牲になった部隊は、ニューメキシコ州の山火事の消火活動から戻ったばかりだった。
(写真はBBCnews.co.ukから引用) 
■ 州の森林当局によると、消防士は延焼を防ぐための防火帯を設ける作業にあたっていた。同局のアート・モリソン氏は「通常、防火帯を作る場合は、退却ルートを確保する必要があります。今回は明らかに十分なスペースが確保できておらず、炎が消防士を襲ったのだと思います」と状況を説明した。AP通信が州当局者の話として伝えたところによると、消防士らは、火や熱から身を守るための緊急シェルターにいたという。このような部隊は、消火活動中に逃げ場を失った時に備えて260℃までを耐えることができる携帯用の小型シェルターを持ち歩いている。最悪の事態の時はシェルターの中に入り、火が通り過ぎるのを待つ。しかし、記録的な猛暑と強風という最悪の条件が重なり、“パーフェクトストーム”とも呼ばれる今回の山火事は緊急シェルターで防げないほど猛烈なものだったと見られている。

 ■ アメリカ森林サービスのウエブサイトによると、米国には“ホットショット”は110チームある。各“ホットショット”のチームは20名のメンバーで構成され、特別な訓練を受けている。 “ホットショット”メンバーの主要な役割は山火事と近隣の住宅の間を分断するための“防火帯”を構築することで、このため山火事の燃料源になる雑木林、木々、草木などを取り除くことである。これはきつい作業である。常に火の手の位置と退却ルートに注意を払いながら、土を掘り起こし、チェーンソーで伐採し、地面を削り取って運んだりしなければならない。元“ホットショット”のアボス氏によると、“ホットショット”に必要な資質は、モチベーションの高さ、協調性、堅実な仕事へのこだわり、楽観的な思考だといい、さらに必要な要件は頑健な体力だという。例えば、20kgの荷物を背負って3マイル(4.8km)の距離を45分以内で歩けなければ、 “ホットショット”には向かないという。
(写真はnationalpost.comから引用)                                            (写真はBBC.co.ukから引用)
“ホットショット”の防火帯構築の作業例 
■ アリゾナ州林業部の広報担当マイク・ライヒリング氏は、19人全員が訓練通りに緊急シェルターを装備して使用していたと語った。最後の手段として、消防士は緊急シェルターを出し、地面に伏せて、耐火性の生地の中に身体をすっぽりと覆うように入る。シェルターは、山火事が人の上を通過する数分の間、熱を遮断して暑くないように保ち、内側で息ができるように設計されている。しかし、その効果は、消防士が燃えるものから十分離れた場所で、荒れ狂った地獄のような灼熱と熱いガスに直接曝されない場合に限られる。シェルターの内部層を保持している接着剤は約500℃で剥がれ始め、300℃を超えると人はほとんど死亡する。プレスコット消防署のジェフ・クノテク署長は、「緊急シェルターは有効ですが、短時間の場合に限られます。火災が人の上を速く通り過ぎれば、多分大丈夫でしょう。しかし、火災の勢いが強く、長い時間だった場合には、無理だと思います」と語った。

■ 連邦規則では、山火事に出動するメンバーは、毎年、緊急シェルターの使用方法の復習を受けなければならない。ローカルのKOAMテレビは、ミズーリー州自然保護部のテリー・クックさんに緊急シェルターの使い方を見せてもらった。緊急シェルターを使用するような状況になったら、メンバーの指揮者が外に出てもよいというまで、隊員は緊急シェルターの中で空気清浄器を使って呼吸し、うずくまっていなければならない。クックさんは、緊急シェルターから出てもよいというOKが出されないまま長い時間が経ったのでしょうと語った。
                 緊急シェルターの使い方   (写真はKOAMtv.comから引用) 
■ プレスコット市会議員レン・スキャマルド氏によると、消防隊が逃げ場を失うことになった30日日曜の午後3時頃、突然、風の向きが変わり、風の強さは4050mph1722m/s)になり、火災エリアはあっという間に200エーカ(81万㎡)から2,000エーカ(810万㎡)へ拡大してしまったという。

■ 犠牲になった“ホットショット”チームは、この二・三週間をニューメキシコとプレスコットの山火事の消火活動に従事した後、週末にはバックパック(背負い袋)を背負って、雑木林や木を除去するためのチェーンソーやその他の重い機材をもってヤーネルヒルのくすぶっている荒地に入っていった。

■ 山火事はどのようにして広がっていくか。
 ● 火災には、燃えるもの、酸素、燃焼のための熱源が必要となる。ヤーネルの町を震撼させた山火事は落雷によって始まり、折からの猛暑と乾燥と強風によってまたたく間に広がった。
 ● 山火事の中で最も移動速さが高く、最も危険な箇所は“ヘッド”という名で知られている。火災の先部分は熱く、風に乗って飛んでいく“スポット・ファイア”が生じ、さらに先へ進んでいく。
 ● ある種の草木類は他のものより燃えやすいものがあり、炎の“フィンガー”を形成する。一方、これによって地上部分には“ポケット”が生じ、火との戦いを難しいものにする。
 ● 熱や煙は上方へ昇っていくので、火災の進展速度は上り斜面の方が下り斜面より速い。このため、丘の上の方が熱くなり、風も丘に向かって吹き上がり、火炎をさらに推し進めるようになる。そして、飛び火が丘を転がり落ちるようになり、新たな火の手を生じる。
(図はBBC.co.ukから引用) 
■ 19名の犠牲者を出したヤーネルヒルの山火事は、アリゾナ州内で発生している複数の山火事の中でも最も規模が大きかった。2週間前にもコロラド州で山火事が発生し、2人が死亡し、360棟の家屋が焼失するという同州史上最悪の被害を出したばかりだった。
 6月下旬は、米国南西部の多くの場所で観測史上最高またはそれに近い気温が記録され、カリフォルニア州デスバレーでは、6月の気温としては同国の過去最高記録に並ぶ53℃を観測するなど、山火事の起こりやすい天候が続いている。また、今年は米国南西部における山火事の集中発生期が例年より早く訪れており、中でもカリフォルニア州、アリゾナ州、ニューメキシコの3州が最も大きな被害を受けている。

■ ヤーネルヒルの山火事では19名の消防士が亡くなったが、これは消防士の死者数としては2001911日の同時多発テロ後では最も多く、米国の山火事関連では過去80年で最多となった。

■ 7月5日(金)、BBCニュースは、アリゾナ州の山火事は80%ほど制圧できており、対応に出動していた消防隊も多くが戻っており、規模が縮小されていると報じている。穏やかな天候に恵まれ、消防隊は防火帯を構築することができた。最も多い時には680名の消防士が対応していた。山火事が始まって以降、避難していたヤーネルの住民も週末には帰宅できる見通しである。

■ 亡くなったプレスコットの消防士はつぎの19名で、20歳代が7割を占める若いチームだった。
 ケビン・ウォイジェックさん(21歳)       クリス・マッケンジーさん(30歳) 
 アンドリュー・アッシュクラフトさん(29歳)  アンソニー・ローズさん(23歳)
 エリック・マーシュさん(43歳)           ロバート・コールドウェルさん(23歳)
 クレイトン・ワイテッドさん(28歳)       スコット・ノリスさん(28歳)
 ダスティン・デフォードさん(24歳)        ショーン・ミスナーさん(26歳)
 ギャレット・ザピンガーさん(27歳)       トラヴィス・カーターさん(31歳)
 グラント・マッキーさん(21歳)         トラヴィス・タービフィルさん(27歳)
 ジェス・スティードさん(36歳)          ウェイド・パーカーさん(22歳)
 ジョー・サーストンさん(32歳)            ウイリアム・ワーネックさん(25歳) 
 ジョン・パーチンさん(24歳)
プレスコットの“ホットショット”のメンバー
(写真はnew.com.auから引用) 
■ アリゾナ州の州都フェニックスでは、7月7日(日)、警察のオートバイに先導された19台の白い霊柩車が厳かに行進し、山火事で犠牲になった19名の消防士のホームタウンへ最後の旅に立った。アリゾナ州議会議事堂の通りには、大きなアメリカ合衆国の国旗が消防はしご車から吊り下げられ、この前を通過してプレスコットへ向かった。
州都フェニックスにおける19台の白い霊柩車の厳かな行進
(写真はNews.yahoo.comから引用) 

所 感
■ 貯蔵タンクの事故情報では、よく消防隊の活動状況が報じられる。米国では消火戦略・消火戦術の思考が徹底していると感じており、そのような消防隊において山火事で19名の消防士が殉職したことに驚くとともに、なぜという疑問が出て、調べてみることにした。
 米国における山火事の消火活動が予想以上に苛酷で、特に今回のヤーネルヒル山火事は異常といえる猛暑・乾燥の天候の中で、風の急変がもたらした悲劇であることがわかった。
 “ホットショット”という危険な仕事に敢えて挑戦する屈強な消防士に敬意を払うとともに、19名の犠牲者のご冥福を祈る。ヤーネルヒル山火事では、調査官が現地に入って調査を行っているという。ある面、天災の一つであり、危機管理の観点で防ぎ得なかったかという課題は重いが、今回の事故が活かされることを期待したい。



後 記: 米国南西部で記録的な猛暑が続いていた中で、今回の山火事があったわけですが、日本も梅雨が明けた翌日から各地で猛暑です。一気に気温が上がったので、身体がついていきませんでしたが、やっと暑さに慣れてきました。しかし、20kgの荷物を背負って3マイル(4.8km)の距離を45分以内で歩いてみようかという気持ちにはなりませんね。
 ところで、以前、日本の豪雨や落雷の強さが昔より大きくなってきたと書きましたが、7月初めに気象庁の分析が発表になり、感覚を裏付ける結果でした。1時間に50mm以上の非常に激しい雨が降る頻度が、過去30~40年で3割余り増えたそうです。なにかアメリカで起こっている天災(落雷、竜巻、山火事)が日本でも身近な問題に感じますね。