今回は、2021年6月11日(金)、インドネシア中部ジャワ州にあるプルタミナ社チラチャップ製油所のベンゼン・タンクで火災が発生した事故を紹介します。
< 発災施設の概要 >
■ 発災があったのは、インドネシア(Indonesia)中部ジャワ州(Central Java)にあるインドネシア国営石油会社;プルタミナ社(Pertamina)のチラチャップ製油所(Cilacap refinery)である。チラチャップ製油所の精製能力は348,000バレル/日で、貯蔵タンクは約200基ある。
■ 事故があったのは、製油所の貯蔵地区39にあるタンク番号39T-205の容量3,000バレル(477KL)のベンゼン・タンクである。発災タンクは小容量でデイタンク(Day Tank)と呼ばれ、事故当時、容量の約三分の一の1,100バレル(175KL)のベンゼンが入っていた。
<事故の状況および影響
>
事故の発生
■ 2021年6月11日(金) 午後7時45分頃、貯蔵地区39にあるタンク番号39T-205のベンゼン・タンクで火災が発生した。
■ 発災に伴い、消防隊が出動した。現場に派遣された消防士は約50名である。
■ 消防隊は、消火泡を使用してベンゼン・タンクの火災に対応するとともに、周囲のタンクを冷却した。
■ プルタミナ社は、火災場所が住宅地や道路から遠く離れた製油所施設の奥だったため、地元住民に影響を与えなかったと語った。製油所の操業や燃料供給に影響していないという。テレビの映像では、製油所から大きな炎と煙が上がっているのが映し出されていた。(YouTube、「Kilang Pertamina Cilacap Terbakar, Pasokan BBM dan LPG Aman(プルタミナチラチャプ製油所の火災、燃料およびLPG供給安全:2021.6.12)を参照)
■ 火災タンク39T-205は1時間ほどで制御されたが、タンク冷却中に隣接する39T-203タンクの出口配管で火災が発生した。
■ 火災は6月12日(土)も続き、火災による煙や灰が雨水に混じり、近郊の村民の井戸に懸念が出た。このため、プルタミナ社は住民に清水を配給するために人員を配置した。
■ 事故に伴う負傷者はいなかった。
被 害
■ ベンゼン貯蔵タンク1基が火災で損傷し、内部のベンゼンが焼失した。また、隣接タンクの出口配管から火災が発生し、関連設備が被災した。設備の被災状況や焼失量は不明である。
■ 人的被害は無かった。
■ 火災による煙や灰が雨水に混じり、近郊の村民の井戸に懸念が出たため、住民に清水を配給された。
< 事故の原因 >
■ 事故原因は調査中で、プルタミナは事故原因の追及するため、内部調査を開始した。
■ 事故当時、落雷を伴う大雨が現場を襲ったが、落雷が原因であることは確認されていない。
< 対 応 >
■ 消火活動は、火災のホットスポットに向けて泡の噴霧が実施された。消防隊は、タンク火災をなんとか制御することができたが、防油堤内で起こった火災を引き続き、消そうと試みた。また、火災が再燃しないように冷却作業も続けた。
■ 火災は2021年6月13日(日)午前10時50分に消された。
■ この事故は、最近、プルタミナにとって2番目のタンク火災である。2021年3月29日、西ジャワ島にある125,000バレル/日のバロンガン製油所のタンク地区で大規模な火災が発生し、消火されるまでに2日間燃え続けた。
■「インドネシア」(Indonesia)は、正式にはインドネシア共和国といい、インド洋と太平洋の間にある東南アジアとオセアニアに属し、スマトラ島、ジャワ島、ボルネオ島(カリマンタン)など17,000以上の島々で構成される人口約2億7,000万人の国である。
「中部ジャワ州」(Central Java) は、ジャワ島の中央にあり、人口約3,650万人の州である。
「チラチャップ」(Cilacap)は、中部ジャワ州の西に位置し、人口約194万人である。
■ 「プルタミナ社」(Pertamina)は、1957年に設立され、インドネシア政府が株式を所有する国有の石油・天然ガス会社である。国内に6箇所の製油所を持ち、5,000箇所以上のガソリンスタンドを有している。
「チラチャップ製油所」(Cilacap refinery)は、プルタミナ社の保有する6つの製油所のひとつで、1974年に建設を開始し、1976年から操業を開始した。製油所内には、約200基のタンクがある。
プルタミナ社の事故例は、つぎのとおりである。
● 2016年10月、「インドネシアの製油所でアスファルト・タンクが爆発・火災」
● 2021年3月、「インドネシア西ジャワ州で製油所の大型ガソリン・タンクが複数火災」
■「デイタンク」(Day Tank)は小容量のタンクの総称で、一般的にはメインの貯蔵タンクから小容量のデイタンクを通じて送液される。今回のデイタンクは400~500KLであり、他のプロセス装置などに送液されているかどうかは分からないが、直径約8m×高さ約8mクラスのタンクであり、単に大型タンクに比べて小型タンクのことを指しているのではないか。発災タンクは固定屋根式タンクまたは内部浮き屋根式タンクとみられる。発災タンクを被災写真をもとにグーグルマップで探したが、該当しそうなタンクは判別できなかった。
■「ベンゼン」(Benzene) は、分子式 C6H6、分子量 78.11 の最も単純な芳香族炭化水素である。 原油に含まれており、石油化学における基礎的化合物のひとつである。一般に、石油化学工業ではナフサの接触分解、リフォーミングによりベンゼンのみならずトルエン、キシレンを含む炭化水素油をつくり、これから分留してベンゼンを製造する。外観は無色透明の液体で、引火点は -11℃と低く、有毒性で呼吸器系への危険性が高い。
所 感
■ 火災の状況が今ひとつはっきりしないので、引火原因を推測することができない。当時、激しい雷雨だったといわれ、最初の火災原因は落雷によることも考えられる。一方、第2の火災がタンク出口配管から発生しており、これは配管漏洩を起点にした防油堤内火災に拡大したものだと思われる。推測になるが、単に自然災害(落雷)でなく、保守や運転に伴う人間によるミスも考えられる。
■ タンク火災の消火活動はかなり苦労している印象である。火災時間は約39時間であり、タンクの規模(400~500KLクラス)にしては長い。隣接タンクの出口配管から漏れ、堤内火災になったとみられる。このような火災の対応は、奇しくも最近のつぎのブログで紹介した。
●「防油堤内の配管フランジ漏れ火災に対処する方法」(2021年5月24日)
今回の事故では、どのような消火戦略・戦術がとられたか分からないが、被災写真によると、無駄な冷却と思われる状況があるようで、つぎの指摘は当たっているとみられる。
「直接火炎に触れているか、塗装が焦げるほどの輻射熱を受けていない限り、隣接するタンクの冷却は一般的に不要である。過剰に冷却水を使うことを警告しており、われわれの経験と一致している。防油堤内に放出された冷却水は溜まっていき、その表面で燃えている燃料が他のタンクや配管に広がっていく可能性がある」
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Pertamina.com, Pertamina Manages to Control a Fire in One of
Cilacap Refinery Tank Area, June 11, 2021
・Jp.reuters.com, Indonesia Pertamina says fire at refinery
extinguished, June 13,
2021
・Tankstoragemag.com, Pertamina
extinguishes Cilacap refinery tank fire,
June 15, 2021
・Argusmedia.com, Fire hits benzene tank at Indonesia’s Cilacap
refinery, June 14,
2021
・Newswep.com, 50 People Deployed To Put Out The Fire At The Pertamina
RU IV Cilacap Oil Factory, June 11,
2021
・Hydrocarbonprocessing.com, Indonesia's Pertamina contains fire at
Cilacap refinery, June 11,
2021
・Uktimenews.com, Indonesia Pertamina says refinery fire has been
extinguished, June 13,
2021
・Cnnindonesia.com, Pertamina: Masih Ada 1 Titik Api Menyala di Kilang
Cilacap, June 12,
2021
・Liputan6.com, 40 Jam Menjinakkan Kebakaran di Kilang Pertamina
Cilacap, June 14, 2021
・Antaranews.com, Pertamina
masih berupaya padamkan satu titik api di Kilang Cilacap, June
12, 2021
後 記: また、インドネシアのプルタミナ社でタンク火災が起こりました。しかし、この情報をいち早く知ることができませんでした。というのは、パソコンの調子がおかしくなり(検索ができない)、設定をやり直したり、電源を入切したり、ケーブルをきれいにして差し込み直したり、いろいろ試しましたが、よく成らず、パソコンの初期化までやりました。ところが、それでも直りませんでした。結論からいうと、WiFiのモデム(ルーター)が悪くなって本体のパソコンに影響を及ぼしていました。WiFiの環境設定をしている人も多いと思いますが、パソコンの調子が悪くなった場合、 WiFiのモデムが悪さをしている可能性があることを知っておくことは肝要です。WiFiのモデムを新しくしたら、良くなりました。そういうわけで、パソコンの検索ができずにブログの更新が遅れました。この間、頭の疲れる日々を過ごしました。