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2023年3月18日土曜日

インドネシアの燃料油貯蔵所でガソリン火災、民家に延焼して死者21名

 今回は、202333日(金)、インドネシアのジャカルタにあるプルタミナ社の燃料油貯蔵所でガソリン配管の漏洩から火災となり、事業所外の民家に延焼し、死傷者21名を出した事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、インドネシア(Indonesia)ジャカルタ(Jakarta)のプランパン(Plumpang)にあるプルタミナ社(Pertamina)の燃料油貯蔵所である。この貯蔵所の貯蔵容量は約30KLで、インドネシアの燃料需要の25%を供給している。

■ 事故があったのは、プランパン燃料油貯蔵所である。同燃料油貯蔵所は、ジャカルタのタナメラ地区の人口密集地域の近くにある。


<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 202333日(金)午後8時頃、プランパン燃料油貯蔵所で火災が発生した。

■ 火災が始まった直後、大きな爆発音が聞こえた。黒煙とオレンジ色の炎が夜空に立ち昇った。

■ プランパン燃料油貯蔵所の境界外側には民家が密集しており、火災が燃料油貯蔵所から民家側に広がった。複数の家屋を焼き払い、人口密集地域の住民はパニックに陥り、持ち物を持って逃げた人も出た。 住民のひとりは、「現場は大騒ぎで混乱し、身体に火傷を負った人とともに逃げ惑い、パニックを引き起こしていました」と語った。

■ 発災に伴い、消防署に通報があり、現場に51の部隊が出動した。少なくとも260人の消防士と52台の消防車が火災を封じ込めようと活動した。

■ 300人以上の人が自宅から避難し、近くのモスクに避難した。避難した人のためにテントが4つ建てられた。その後、避難した住民は1,300人以上になり、10の政府機関、赤十字の指揮所、スポーツ・スタジアムが避難場所になった。

■ 発災に伴い、少なくとも17人が死亡し、こども1人を含む50人が負傷した。死亡した中には、こども2人が含まれるという。314日(火)、死亡者は21人になったと報じられた。

■ 負傷した人のほとんどはやけどを負っていた。政府は負傷者の治療費を負担するという。

■ プルタミナ社は、33日(金)発災直後ウェブサイトで事故の原因は分かっておらず、現在、避難の努力が進行中であると述べた。また、同社は、他の石油ターミナルからの供給を計画しているため、ジャカルタ地域の燃料供給は引き続き確保できると語った。

■ 火災はタンクではなく、プランパン燃料油貯蔵所の燃料配管から発生したとみられる。

■ 火災は、3日(金)午後1030分頃に制圧された。しかし、その後も住民の家のまわりで火災が見られた。 火災は34日(土)午前220分頃に消火された。

■ 消防士が遺体袋を運んでいる貯蔵所の近くでは、大勢の住民が詰めかけた。


■ 発災時の状況や避難の状態などがユーチューブの動画に投稿されている。

   Indonesia: Deadly fire breaks out at Pertamina fuel storage station in Jakarta | Oneindia News2023/03/04

  ● Moment flames shoot up at petrol depot explosion in JakartaThe Sun)」2023/03/04

  ● Fire at Indonesian fuel storage depot kills at least 18, displaces over 1300 in JakartaGlobal News)」 2023/03/05

被 害

■ 燃料油貯蔵所内の燃料配管などの設備が焼損した。また、燃料油貯蔵所近くの民家に延焼した。

■ 死傷者は71人以上だった。内訳は死亡者21人、負傷者50人だった。

■ 近くの住民1,300人以上が避難した。

< 事故の原因 >

■ 火災の要因は、ガソリン配管からの漏洩から何らかの引火源によって火災になったものとみられる。漏洩に至った要因は調査中で分かっていない。 

< 対 応 >

■ プルタミナ社は、34日(土)のウェブサイトで自衛消防隊と公設消防隊によって火災は午後10時頃に消火したと発表した。その後に出したウェブサイトでは、燃料受入れパイプライン・エリアの火災処理は3時間(午後8時~午後11時)で消火したと発表した。

■ 公設消防は、今回の消火活動について、プランパン地域の水源が比較的遠くにあり、水の確保に苦慮したと語っている。また、すぐに火を消すのが難しかったのは、消防士が下から放水した場合、風化した建物が倒壊する恐れがあったため、建物の側面から散水する方法をとったからだという。

■ プルタミナ社は、 「犠牲者の家族に深い哀悼の意を表します。この事件についてお詫び申し上げます」という声明を出した。

■ プルタミナ社は、 34日(土)のウェブサイトで、火災が33日(金)午後8時頃に受入れ配管の1本から発生したという。また、33日(金)の午後733分頃、燃料受入れ配管に漏れが発見され、その後住宅地で火災が発生したため、プルタミナ社は直ちに緊急事態を宣言したという。

■ 予備調査の一報によると、大雨が降っている最中に燃料油パイプラインが破裂した。落雷による可能性があるという。インドネシア政府は、プルタミナ社に対して事故原因調査と施設を監査することを要求した。

■ 近くに住んでいる人によれば、「火災が起こる約30分前に燃料の臭いがした」と語った。別な目撃者は「息ができないほど強い臭いがした」と話している。

■ インドネシア政府は、今回の火災事故によってプランパン地域が地元地域にとって安全ではないことを示しており、燃料油貯蔵所の火災の近くに住む住民を移転するか、燃料油貯蔵所を移すか検討するという。

■ 34日(土)、国家警察署長が火災のあった燃料油貯蔵所を訪問した。その際、事故はバロンガンから移送されるガソリンを燃料油貯蔵所で受入れまたは充填しているときに発生したといい、この時、技術的な問題で過剰な圧力が発生し、その後、火災が起こったと説明した。火災の原因や火元がどこにあったのかなどはチームによって調査中だという。バロンガンには、製油所と貯蔵所があり、210kmのパイプラインを介してプランパン燃料油貯蔵所に石油製品を供給している。

■ 35日(日)、救助隊と消防士は、焼け焦げた家や建物のがれきの中をまだ行方の分からない3人を捜索した。

■ 2014年には、同じ燃料油貯蔵所で火災が発生し、少なくとも40棟の家屋が焼失したが、死傷者は出ていない。







補 足

■「インドネシア」(Indonesia)は、インド洋と太平洋の間にある東南アジアとオセアニアに属し、スマトラ島、ジャワ島、ボルネオ島(カリマンタン)など17,000以上の島々で構成される人口約27,000万人の国である。

「ジャカルタ」(Jakarta)は、ジャワ島北西の海岸に位置するインドネシアの首都で、人口約1,050万人の都市である。

■「プルタミナ社」(Pertamina)は、 1957年に設立され、インドネシア政府が株式を所有する国有の石油・天然ガス会社である。国内に6箇所の製油所を持ち、5,000箇所以上のガソリンスタンドを有している。

 プルタミナ社の事故を紹介したのは、つぎのとおりである。

    201610月、「インドネシアの製油所でアスファルト・タンクが爆発・火災」

  ● 20183月、「インドネシアのボルネオ島で海底パイプラインから油流出、死者5名」

   20213月、「インドネシア西ジャワ州で製油所の大型ガソリン・タンクが複数火災」

   20216月、「インドネシア中部ジャワ州で製油所のベンゼン・タンクが火災」

   202111月、「インドネシアの製油所でアルミニウム製ドーム型浮き屋根タンクが火災」

■「プランパン燃料油貯蔵所」 は、1974年に約48,000ヘクタールの面積で60,000KLのタンク容量で操業を開始した。1978年には貯蔵容量が80,000KLに、1987年には200,000KLに増加し、現在、324,000KLに達している。元々、燃料油貯蔵所には周辺に緩衝地帯があり、1987年までは周囲に広大な空き地があった。しかし、時間が経つにつれて、現在のようなプランパン周辺地域は人口が密集してきた。

所 感

■ 事故発生に関する断片的な情報を整理すると、つぎのようになる。

 ● 事故の前に、移送されてくるガソリンを燃料油貯蔵所で受入れまたは充填していた。

 ● 午後733分頃、燃料受入れ配管に漏れが発見された。(その後住宅地で火災が発生した)

 ● 火災が起こる約30分前に住宅地で燃料の臭いがした。

 ● 技術的な問題で過剰な圧力(過圧)が発生した。(その後、火災が起こった)  

 ● 火災は午後8時頃に受入れ配管の1本から発生した。

 このような経緯で事故が起こったとすれば、原因の推測はつぎのようになる。

 ● ガソリンの受入れ配管に経年劣化の腐食孔による漏れまたはフランジ継手の漏れが発生した。

 ● このガソリンの漏れを事業所作業員が発見した。その旨、計器室へ連絡した。

 ● ガソリン漏洩はかなり多く、ベーパーが事業所境界を越えて民家に達した。

 ● 民家側に流れて行ったガソリンベーパーが住宅地の何らかの引火源(裸火など)で火災が発生した。

 ● 計器室で漏洩の報告を受けたオペレーターは、配管の流れを停止する操作を行った。

 ● タンク受入れ配管の遮断弁を閉止した。

 ● 当時移送されていたガソリンは長距離のパイプラインを介していた。このため、高い圧力で運転されていたため、バルブ閉止で水撃現象の過剰な圧力(過圧)が発生した。

 ● 受入れ配管に過剰な圧力がかかったため、配管が破裂またはフランジ継手が緩み、大量のガソリンが噴出した。

 ● 大量のガソリンベーパーが構内の電気機器などの引火源または発生していた火災の裸火によって爆発した。

 今回の事故は、計装システムや運転マニュアルに問題がありそうであるが、事業所の幹部やオペレーターの判断力にも課題があるように感じる。

■ インドネシアは落雷の多いところであるが、今回の事故では引火源が落雷の可能性は低いと考える。タンク事故であれば、落雷が引火源となることはあるが、低い場所にある配管に対してピンポイントで落雷することは考えにくい。

■ 消防活動の概況は報じられているが、活動の詳細は分からない。特に“鎮火時間”が情報によってバラバラである。この要因は、プルタミナ社の発表が事業所内の火災の消火時間を指しているからだといえる。事業所境界から民家側は確かに社外であり、事業所の消防活動の適用外であるが、もともと民家の火災もガソリン漏れによるものである。火災に境界はなく、この点を認識して情報を発表すべきである。

 事業所内外の区別を明確にするような事故は日本で起こらないと考えてはならないと思う。いま南海トラフ地震の話が出ているが、2011年の東日本大震災のときのように地震被害が広範囲になると、貯蔵タンクだけでなく、パイプラインや桟橋設備からの発災で事業所外への影響が出ることを想定しておく必要があろう。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

      Reuters.com, Fire at Indonesia's Pertamina fuel storage station kills 17,  March  04,  2023

      Tankstoragemag.com,  17 killed at Indonesian fuel storage,  March  06,  2023

      Apnews.com,  Fire at Indonesian oil depot kills 17; thousands evacuated,  March  04,  2023

      Aljazeera.com, Hundreds evacuated as Pertamina fire kills at least 17 in Jakarta,  March  04,  2023

      Time.com, Indonesia Fuel Depot Fire Kills 18. More Than a Dozen Remain Missing,  March  04,  2023

      Thejakartapost.com, Government to relocate residents or move fuel facility after fire,  March  05,  2023

      Ndtv.com, In Pics: Homes "Completely Destroyed" In Massive Indonesia Fire,  March  04,  2023

      Pertamina.com, Pertamina Focuses on Providing the Best Handling for Victims,  March  03,  2023

      Pertamina.com,  Moving Swiftly, Pertamina Focuses on Providing the Best Handling for Victims,  March  04,  2023

      Pertamina.com, Emergency Team Extinguished the Fire in 3 Hours, Fuel Distribution Back in Operation,  March  04,  2023

      Pertamina.com, Visiting the Plumpang Fuel Terminal, the National Police Chief Ensures Refugees' Handling and Needs Are Fulfilled,  March  04,  2023

      Dailypioneer.com, 19 killed in fuel depot fire in Indonesia,  March  06,  2023

      Channelnewsasia.com, Explainer-Indonesia's Pertamina faces pressure to move oil terminal after deadly fire,  March  10,  2023

      Cnbcindonesia.com, Dugaan Ahli: Ini yang Jadi Pemicu Kebakaran Depo BBM Plumpang,  March  06,  2023

      Kompas.id, Relokasi Terminal BBM Plumpang dari Lokasi Strategis Tidak Disarankan,  March  05,  2023

      Suarasurabaya.net, Dirut Pertamina: Insiden Kebakaran di Depo Plumpang Bukan dari Tangki BBM,  March  05,  2023

      Antaranews.com, Korban jiwa kebakaran depo Pertamina Plumpang menjadi 21 orang,  March  14,  2023

      Manado.antaranews.com, Lokasi kebakaran terminal BBM Plumpang ditinjau Wapres Ma‘ruf Amin,  March  04,  2023

      Megapolitan.kompas.com, Dinginkan Depo Pertamina Plumpang Usai Api Padam, Damkar: Agar Tak Ada Panas Penyebab Kebakaran Lagi,  March  04,  2023


後 記: インドネシアの事故情報を調べるのは、掛けた時間の割に内容が薄いと感じます。インターネット記事はあり過ぎるほどたくさんあります。第一報の記事を読むと、とにかく時間や死傷者数などがメディアによってバラバラだし、どのように発災しているのかよく分かりませんでした。この点、毎度のことですが、理解の手助けになったのは上空からの発災写真でした。また、特に今回のように亡くなった人が大勢出ると、どうしても死傷者や避難者の記事になります。このブログで必要な事故の原因につながる内容の記事を見つけるのは、時間を掛けた割に少なかったですね。今回の事故が夜に起こっているので、さらに発災事業所自身が曖昧な情報しか持っていないのではないかと思ってしまいます。結局、頭の体操として断片的な情報から事故要因を推測する機会を得た(?)といえる事故でした。

2023年3月11日土曜日

ノルドストリーム海底パイプラインの漏れは人為的な爆発による破断(推測原因)

 今回は、2022926日(月)にロシア‐ドイツ間の天然ガス用海底パイプラインであるノルドストリームが強力な爆発によって破壊され、天然ガスが流出した事故について、202337日(火)、ニューヨークタイムズは実行者が親ウクライナ派の攻撃だった可能性と報じたことを紹介します。

 これまでの経緯は、つぎのブログを参照。

ロシア‐ドイツ間の天然ガス用海底パイプラインの漏れは止まった?2022年10月6日)

ノルドストリーム海底パイプラインの漏れは強力な爆発によるパイプ破断」(2022年11月19日)

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、欧州のバルト海(Baltic Sea)ボルンホルム島(Bornholm)のデンマーク(Denmark) とスウェーデン(Sweden)沖の海底である。

■ 事故があったのは、海底パイプラインのノルドストリーム(Nord Stream)の敷設場所付近である。ノルドストリームはロシア(Russia)のガスプロム社(Gazprom)が所有し、ロシア・サンクトペテルブルク近くの沿岸からドイツ北東部まで約1,200kmにわたる天然ガスパイプラインである。


<事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2022926日(月)の夜、ノルドストリーム2パイプラインのオペレーターは、105バールからわずか7バールまで急激に圧力が低下したことを確認した。その後、バルト海の海面にガスで泡立っていたのが確認された。

■ 927日(火)、デンマーク国防司令部は、バルト海にあるボルンホルム島沖の3か所でガス漏れが確認されたことを明らかにした。ガス漏れ源は天然ガスパイプラインのノルドストリームだとみられる。ガス漏れは、2本あるパイプラインのうち、ノルドストリーム1の2か所、ノルドストリーム2の1か所で起き、ガス漏れが原因とみられる泡(最大のものは直径1km)が海面に発生している。海面のガス漏れによる泡の状況は映像が公開され、ユーチューブに投稿されている。YouTubeFootage shows Russia's Nord Stream gas pipelines leaking under Baltic Sea2022/09/28)を参照)

■ スウェーデンとデンマークの地震学者はガス漏れの近くで2つの爆発の可能性を記録したが、爆発は海底ではなく、水中で発生したとみられるという。英国の防衛関係筋は、爆発はおそらく計画的で、水中地雷やその他の爆発物を使用して遠くから爆発させたとみられると語っている。 

■ 102日(日)、デンマークのエネルギー庁は、ノルドストリーム1とノルドストリーム2のパイプラインからの漏れが止まったと語った。


被 害

■ 海底パイプラインのノルドストリーム1とノルドストリーム2が、ボルンホルム島沖の海底で破損した。

■ 海底パイプライン内の天然ガス(主にメタンガス)8億㎥が海中へ漏出して、海面から大気へ放散し、環境汚染を引き起こした。  

< 事故の原因 >

■ パイプラインが強力な爆発によって破損した。 

デンマークとスウェーデンは水中検査を行い、パイプラインの破損状況を確認した。爆発物による破壊工作の疑いがあるというが、両国ともそれ以上は語っていない。

■ 202337日(火)、ニューヨークタイムズは、つぎのように報じた。

 ● 米国当局の精査した情報では、親ウクライナ派がノルドストリーム・パイプラインへの攻撃を行ったことを示している。

 ● 当局者によると、実行者はウクライナ人またはロシア人、あるいはその両方である可能性が高いと考えているという。


< 対 応 >

■ 海底パイプラインのノルドストリーム1とノルドストリーム2が破壊工作を受けた疑いがあることを受け、欧州各国は、928日(水)、石油・天然ガス関連施設周辺のセキュリティを強化すると発表した。一方、EU(欧州連合) に加盟していないノルウェーは、石油と天然ガスの施設を保護するために軍隊を配備すると述べた。石油が豊富な国で、欧州最大の天然ガス供給国でもあるノルウェーは、陸上・海上設備のセキュリティを強化するとエネルギー相は述べた。

■ 101日(土)、ロシアの国営ガス会社のガスプロム社は、「8億㎥のガス漏れが起きていると思われる。漏れたパイプラインには、8億㎥のガスが入っていると推定され、これはデンマークの3か月間の消費量に相当する」と明らかにした。

■ 1015日(土)、ドイツの放送局アード(Ard)によると、ドイツ政府の情報源を引用して、ノルドストリーム・パイプラインに生じた損傷は爆発によってのみ説明されるという。これはドイツ政府の調査団が水中ドローンによって撮影された写真を調べた後、調査官が到達した結論である。水中ドローンで撮影した写真には、長さ8mの切り傷が記録されていたという。 

■ 1018日(火)、デンマークの警察は、バルト海のデンマーク沖にある2本のノルドストリーム・ガスパイプラインの損傷に関する予備調査の結果、ガス漏れは強力な爆発によって引き起こされたことが判明したと発表した。警察によると、調査では、パイプラインに広範囲の損傷があることが確認されたという。

■ 1018日(火)、ノルウェーのロボット企業であるブルーアイ・ロボティクス社(Blueye Robotic)は、スウェーデンの新聞社Expressenと協力して、水中ドロ-ンのカメラを使って水深80mのノルドストリーム・パイプラインの損傷部を撮影した映像を発表した。この映像によると、ノルドストリーム1のパイプが破断している様子が見てとれる。ブルーアイ・ロボティクス社によると、損傷を受けたと思われるパイプラインの大部分が海底に埋もれているか、完全に失われているという。

 撮影は午前11時頃から始められたが、最初、パイプラインの敷設ルートを示す位置にはパイプは映っていなかった。しかし、海底には強い変化を示していた。突然、ノルドストリーム1の厚さ数十ミリの鋼管のねじれた残骸が画面に表示された。パイプライン外側の保護コンクリーから曲がった鉄筋とともに、ぽっかりと開いたパイプの切り口が見えた。パイプの一部は真っ直ぐで鋭いエッジがあり、他の部分ではパイプが大きく変形していた。視界は悪いが、カメラが近づくと、パイプ内側に赤い部分があることがわかる。カメラをパイプ内に入れると、底には泥の薄い層があった。

 パイプ周辺の海底への影響が非常に大きかったことがわかる。パイプが敷設されていた海底には大きな溝があり、パイプの部品のように見える破片を見ることができた。パイプラインの爆発例では、爆発の圧力によってパイプに沿って長い亀裂が生じる場合があるという。カメラで周辺を捜索したが、パイプ断面の反対側の端を見つけることはできなかった。少なくとも50mが失われているか、海底の下に埋まっていると思われる。

■ 1025日(火)、ブルーアイ・ロボティクス社で水中ドローンの担当者は、インタビューでつぎのように語っている。

 ● パイプが破裂すると、3,200psi218bar)の高圧のガスが海底を乱し、損傷した一部を埋めているように見えた。

 ● 西に向かうパイプラインの一部がまだ海底に埋もれており、東に向かうパイプラインの端が海底から持ち上がっているのを見たと思う。

 ● このエリアの残骸は少ないようにみえた。おそらく、ガスの噴流で押し流されたか、すでに捜査しているスウェーデンの調査団によって撤去されたのではないか。


■ スウェーデン治安当局は、
103日(月)に捜査のための専門船を現地に派遣しており、106日(木)に水中調査を終えた後、現場で証拠物を押収したと述べた。しかし、スウェーデン当局の調査で現場エリアをどのように変えたのかは明らかではない。スウェーデンは調査によって破壊工作の疑いが裏付けられたと発表した。

■ デンマークは、専門船によって実施するパイプラインの捜査について1021日(金)までに完了予定で、結果は11月初めまでに判明する予定だという。

■ デンマークは、スウェーデンやドイツなどとの国際協力の枠組みについてはいくつかの要因に左右されるため、何かを言うのは時期尚早だと述べている。爆発物が故意の妨害行為に使用されたことを認める以外に、捜査官は調査結果の詳細をほとんど明らかにしていない。デンマーク、スウェーデン、ドイツはパイプラインの破壊箇所を調査しているが、誰がどのような理由で損傷を引き起こしたのかについては固く口を閉ざしている。

■ 112日(水)、スイスに拠点をおき、ノルドストリーム1を実質的に運営していたノルドストリームAG社(Nord Stream AG)は、スウェーデン沖のパイプライン損傷の場所で調査していたが、初期データ収集を完了したと発表した。予備的な結果によると、海底に深さ35mの人工的なクレーターを発見したという。クレーターは互いに約248m離れていた。クレーター間のパイプの部分が破壊されており、少なくとも半径250mのエリアにパイプの破片が拡散していた。

■ ユーチューブには、ブルーアイ・ロボティクス社の撮影したパイプラインの破損状況の一部映像がメディから投稿されている。代表例はつぎのとおりである。

YouTube,Nord Stream pipeline damage captured in underwater footage2022/10/18)を参照)

 詳細な映像は、スウェーデンの新聞社Expressenのインターネット誌Första bilderna från sprängda gasröret på Östersjöns bottenを参照。

■ ユーチューブには、2010年に実施されたフルスケールのガス配管に関する爆発試験の映像が投稿されている。ブルーアイ・ロボティクス社が指摘している「パイプラインの爆発例では、爆発の圧力によってパイプに沿って長い亀裂が生じる場合があるという」のが理解できる。

YouTube,FORCE Technology Full scale burst testing of gas pipes」(2010/02/22)を参照)

■ 202337日(火)、ニューヨークタイムズはパイプラインの天然ガス流出について取材を通じて、つぎのように報じた。

 ● 米国当局の精査した情報では、親ウクライナ派がノルドストリーム・パイプラインへの攻撃を行ったことを示している。

 ● 当局者によると、実行者はウクライナ人またはロシア人、あるいはその両方である可能性が高いと考えているという。

 ● ウクライナ政府と軍の諜報当局者は攻撃には関与しておらず、誰が実行したかは分かっていないと述べている。

 ● 爆発物は、軍や情報機関でない経験豊富なダイバーの助けを借りて仕掛けられた可能性が高いという。しかし、実行者が過去に国の専門的な訓練を受けていた可能性はある。

 ● 米国の当局者は、これからの新しい情報を精査することによって、実行者について確固たる結論に達することができるという。そのプロセスにどのくらいの時間がかかるかは不明である。米国の当局者は、最近、この事件の捜査を行っている欧州の関係者と情報交換を行った。

■ 38日(水)、通信社ロイターは、ニューヨークタイムズが、米国当局の照査によって親ウクライナ派グループがノルドストリーム・パイプラインを攻撃したことを示していると報じたことを伝えた。このほか、世界のメディアが同様にニューヨークタイムズの記事を紹介している。

■ 38日(水)、英国のBBCは、ニューヨークタイムズによる記事を紹介したあと、この破壊をめぐってはドイツ紙ディ・ツァイトも、爆発物を仕掛けるために使われた小型船を捜査当局が特定したもようだと伝えた。爆発物を仕掛けるのに使われた小型船はポーランドの会社が貸したヨットだと分かったと報じ、所有者は2人のウクライナ人だったという。破壊を実行した人物の国籍は不明だとした。ドイツ捜査当局はまだ誰が破壊を命じたのかの証拠を発見していない。また、ウクライナに責任をなすりつける偽旗作戦の可能性も残されているという。

補 足

■「バルト海」(Baltic Sea)は、欧州の北に位置する地中海で、ヨーロッパ大陸とスカンディナビア半島に囲まれた海域である。ユーラシア大陸に囲まれた海域ともいう。 西岸にスウェーデン、東岸は北から順にフィンランド、ロシア、エストニア、ラトビア、リトアニア、南岸は東から西にポーランド、ドイツ、デンマークが位置する。

「ボルンホルム島」(Bornholm)は、バルト海上にあるデンマーク領で、人口約4万人の島である。スウェーデン、ドイツ、ポーランドに挟まれており、行政面ではデンマーク首都地域のボルンホルム基礎自治体を成している。ボーンホルム島と表記されることもある。

■ 「ノルドストリーム」 (Nord Stream)は、ロシアの国営企業ガスプロム社(Gazprom)が所有し、ロシア・サンクトペテルブルク近くの沿岸からドイツ北東部まで約1,200kmにわたる天然ガスパイプラインである。パイプラインは長さ12mのパイプ約20万本で構成され、直径48インチ径で厚さ約40mmの鋼製ラインパイプで、厚さ110mmのコンクリートの被覆が施されている。 

 名称のノルドには「北」、ストリームには「流れ」という意味がある。ノルドストリームは大きく2本あり、それぞれ「ノルドストリーム1」「ノルドストリーム2」と称している。ノルドストリーム1は、2012108日に開通し、全長1,222kmで世界最長の海底パイプラインとなった。2018年から2021年にかけてノルドストリーム2の敷設が行われ、20219月に完成した。

 ノルドストリーム・プロジェクトは、パイプラインが欧州におけるロシアの影響力を強めるという懸念や、中・東欧諸国の既存パイプラインの使用料が連鎖的に削減されるという理由から、米国、中・東欧諸国から反対を受けていた。ロシアがドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国を承認すると表明したことを受けて、この決定が領土保全と国家主権の尊重という国際法の原則に反する行為であるとして、ドイツの首相は2022222日にノルドストリーム2の認証作業を停止した。

 2022224日(木)のロシアによるウクライナ侵攻以降の影響は、つぎのとおりである。

 ●「ノルドストリーム2」はまだ一度も稼働したことはない。ロシアによるウクライナ侵攻の直前にドイツにより運用開始が延期された。しかし、20229月の時点で、パイプライン内に3億㎥の天然ガスが入っていたという。

 ● 稼動していた「ノルドストリーム1」は、20226月に輸送量が 75%削減され、1日あたり 17,000万㎥が約 4,000万㎥になった。

 ● 20227月、 「ノルドストリーム1」は定期的な点検作業を理由に10日間停止された。再開したとき、流量は 1日あたり2,000万㎥と半分になった。

 ● 20228月下旬、「ノルドストリーム1」は機器の不具合を理由に完全に閉鎖された。それ以来、パイプラインは稼動していない。

所 感 (前回)

■ バルト海のガス漏れの事象は、ノルドストリーム・パイプラインから発生したことがはっきりした。さらに、その原因は強力な爆発によってパイプが破断したことも分かった。デンマークやスウェーデンは10月初旬から水中カメラなどの調査(捜査)によってパイプラインの損傷状況を把握しているとみられる。

■ パイプラインへの攻撃という破壊工作の疑いが裏付けられたとしているが、誰が行ったかという決定的な証拠が確認されるまで、詳細は発表されないとみられる。

■ ノルウェーのロボット企業であるブルーアイ・ロボティクス社とスウェーデンの新聞社Expressenが協力して、水中ドロ-ンのカメラを使ってパイプラインの損傷部を撮影した映像が発表された。この映像を見ると、厚さ40mmのパイプラインが破断されるほどの爆発の威力を知ることができる。

■ パイプラインと周辺の損傷状況は、ブルーアイ・ロボティクス社の映像のほかに、いくつかの取材による情報が出ている。これらの損傷情報がどこの位置を指すのかはっきり示されていないが、仮にブルーアイ・ロボティクス社の撮ったノルドストリーム1のパイプライン破断位置の周辺とみた場合のパイプラインの状況を図のように推測した。この状況について考えてみると、つぎのとおりである。

 ● パイプが破断して大量の天然ガスが放出されると、反動とパイプラインの拘束がなくなり、東(ロシア側)に移動したと思われる。

 ● クレーターは爆弾跡というより、天然ガスの放出によってできたのではないだろうか。

 ● クレーター間の距離(248m)はパイプラインの移動距離ではないだろうか。

 ● クレーター間に散乱していた破片はスウェーデンの調査(捜査)で回収されたとみられる。

 ● パイプラインにできた8mの切り傷はパイプラインの破断時または移動時に擦過したものではないだろうか。あるいは、破断部下流側にあれば、爆発の圧力によってパイプに沿って生じた長い亀裂かも知れない。

 ● パイプ内側にあった赤い部分は何か分からないが、爆弾の破裂時についたものではないだろうか。


所 感 (今回)

■ 関心の高い話題であるが、外交上の機微のある話から欧州各国は詳細を伝えていなかった。今回、米国のニューヨークタイムズが爆破実行者について報じると、すぐに各国のメディアが、“ニューヨークタイムズによる情報” として記事を出すという近年では珍しい報道になった。

■ 前回までは、パイプラインへの攻撃という破壊工作の疑いが裏付けられたが、誰が行ったかという決定的な証拠が確認されるまで、詳細は発表されないとみられると所感に書いた。今回の報道をきっかけに徐々に調査結果が出てくると思われる。


備 考

 本情報はつぎの情報に基づいてまとめたものである。

   Abcnews.go.com,  Nord Stream pipeline leaks caused by 'powerful explosions,' Danish police say,  October  18,  2022

     Newcivilengineer.com,  Nord Stream explosions caused 50m of damage to ruptured pipeline,  October  20,  2022

     Aljazeera.com,  Denmark confirms ‘extensive damage’ in Nord Stream pipelines,  October  18,  2022

     Expressen.se, Första bilderna från sprängda gasröret på Östersjöns botten,  October  18,  2022

     Upstreamonline.com, Investigations reveal severe explosive damage to Nord Stream gas pipelines,  October  18,  2022

     Theguardian.com,  Nord Stream 1: first underwater images reveal devastating damage,  October  18,  2022

     Cbc.ca, 50-metre section of Nord Stream gas pipeline missing, drone footage reveals,  October  18,  2022

     Nytimes.com , Three Inquiries, but No Answers to Who Blew Holes in Nord Stream Pipelines,  October  25,  2022

     Bbc.com,  Nord Stream blast 'blew away 50 metres of pipe’,  October  18,  2022

     Agenzianova.com,  German media: the damage to the Nord Stream can only be explained by an explosion,  October  15,  2022

     Gcaptain.com,  Journalists Film Nord Stream Blast Damage,  October  18,  2022

     Offshore-energy.biz,  Nord Stream operator finds ‘technogenic craters’ at damaged pipeline,  November  07,  2022

     Safety4sea.com, Watch: Underwater drone reveals damage of Nord Stream pipeline,  October  20,  2022

     English.alarabiya.net,  Fifty meters of Nord Stream 1 pipeline destroyed or buried under seafloor,  October  18,  2022

     Nytimes.com, Intelligence Suggests Pro-Ukrainian Group Sabotaged Pipelines, U.S. Officials Say,  March  07,  2023

     Reuters.com, U.S. says intel indicates pro-Ukrainian group sabotaged Nord Stream pipelines -NY Times,  March  08,  2023

     News.cgtn.com,  New intelligence points to pro-Ukraine group in Nord Stream attack: NYT,  March  08,  2023

     Edition.cnn.com,  Ukrainian government denies involvement in Nord Stream pipelines sabotage,  March  08,  2023

     Theguardian.com, Officials believe pro-Ukraine group may have sabotaged Nord Stream – reports,  March  08,  2023

     Bbc.com,  ノルド・ストリーム爆破、親ウクライナ勢力が実行かと米報道 ウクライナは否定,  March  08,  2023

     Edition.cnn.com,  Ukrainian government denies involvement in Nord Stream pipelines sabotage,  March  08,  2023


後 記: 英国メディアのガーディアンは、ドイツの新聞ディ・ツァイトの報道を引用して、親ウクライナの妨害工作員グループについてさらに詳細な情報を報じています。

 「ドイツの捜査官は、パイプラインへの攻撃は 6人のチームによって実行されたと考えており、実行に使われた船はポーランドで登録され、2 人のウクライナ人が所有する会社によって雇われていた。爆発物を現場に運ぶ作業には、船の船長、ダイバー 2 名、潜水助手2名、医師 1 名の 6名が関与した。6 名全員が専門的に偽造されたパスポートを使用していたとみられ、本当の身元はまだ不明である。船は20229 6 日(火)にドイツの港湾都市ロストックから出航した。作戦のための装備は配送トラックで港に運ばれていた。帰還後、捜査官は雇われた船内のテーブルのひとつに爆発物の痕跡を発見した。捜査官はパイプラインがどのように爆破されたかを大まかに再現できたものの、偽旗作戦がまだ行われており、誰がグループに攻撃を実行するように命じたのかについての証拠は見つかっていない」と記事で書いています。人員構成などかなり詳しい内容ですが、ほかのメディアはまだ伝えていませんので、本文には入れませんでした。

2023年3月4日土曜日

オランダのタンク貯蔵分野における環境保全の将来

 今回は、2023年2月15日付けのTank Storage Magazineに載った“Much to be Gained in Tank Storage Safety ”(タンク貯蔵の安全性で得られるものは大きい)について紹介します。

< はじめに >

■ オランダのロッテルダム市を囲む大都市圏はラインモンド地域(Rijnmond Area)と呼ばれています。 この地域にDCMRという環境保護機関があります。DCMRはラインモンド地域にある13の市町村における共同の環境保護機関として約50年前に設立され、同地域の120万人の住民のために清潔で健康的で安全な生活環境に取り組んでいます。ラインモンド地域には、たくさんの人が住んでいるだけでなく、多くの企業や重工業があります。自治体はこの地域の経済発展を進めて生活の質と安全性を両立させたいと考えています。

 DCMRの業務は、この目標を実現することに重点を置いています。環境保護機関として、企業への許認可、環境規制の遵守状況のモニタリング、規制に違反した場合の統制を行っています。また、土壌保全、騒音防止、大気質、安全性などの分野では、諮問機関としての役割も担っています。さらに、オランダにはBrzoHazards of Major Accidents Decree)と呼ばれる「重大事故の危険性に関する法令」が 2013年に制定され、こうしたBrzoの企業がラインモンド地域に140社あり、DCMRは許可の付与、監督、執行を行う役割を担っています。

■ ロッテルダム地域のタンク貯蔵容量は過去10年間で倍増し、3,000KLに達しました。一方、2013年に1件の環境汚染事故がありましたが、それ以降、環境に関して重大なリスクを伴う事故は繰り返されていません。これは大きな成果ですが、一部の企業がいまだに規制当局に強く依存していることには驚かされます。もっと責任を持って、積極的に行動しないのでしょうか?

■ 例えば、ある規模の大きな貯蔵タンクの会社で6か月に1回、ポンプ送液に際して同じ場所でラプチャーディスクが故障するとします。半年毎に油漏れが発生し、近隣住民から油の臭いがするという苦情が相次ぎます。そして、この状況は規制当局が対応を講じるまで続きます。

■ しかし、なぜ環境保護機関であるDCMRが対応するのを待つのでしょうか? 自分自身で調べて、自分の改善計画を立ててみてはどうでしょう? たとえ安全計画が整っていても、定期的に現場検証を行い、検査官の目で自分の設備を見てみてはどうでしょうか?

規制および協力 

■ 私たちのいるDCMRは規制機関である以上、時には即座に行動しなければならないこともあります。半世紀にわたる活動で学んだことは、私たちの仕事はチェックして罰するだけではないということです。一般に、私たちはできるだけ早い段階で、企業との対話を進めるようにしています。ルールについて駆け引きすることはなく、お互いの信頼関係があれば、安全文化について話し合う機会が生まれます。多くの場合、そのことがコンプライアンスの向上につながります。また、透明性を確保するために、安全意識調査のモデルを公開し、企業自身に活用してもらうことで、検査のポイントを予測できるようにしています。

■ オランダには、VOTOBVereniging van onafhankelijke tankopslagbedrijven)というタンク貯蔵会社の業界団体があります。VOTOB1980 年に設立され、現在19のメンバーを擁しています。1990 年代、VOTOB は欧州における統括組織である FETSA (欧州タンク貯蔵協会連合) の発起人のひとつでした。現在、FETSA には12か国からメンバーが参加しています。

■ 欧州におけるタンク貯蔵部門の役割は、今後数年で変化していくでしょう。例えば、欧州では水素を大量に輸入するようになりますが、この分野では重要な役割を果たすことになります。VOTOBとそのメンバー会社は、このために集中的に準備を進めています。例えば、バイオ燃料貯蔵への取組み、臭化水素電池の容量拡大、バイオディーゼルやバイオケロシンなどの新しいバイオ燃料の原料としてリサイクルされたフライ油脂や動物性脂肪の貯蔵などです。

■ 環境保護機関のDCMRは、安全性向上のための検討手法についてタンク貯蔵の業界団体であるVOTOBに協力を求めました。そして、私たちは総合的な共同改善プログラムを立ち上げました。現在、VOTOBは変更管理、事故の管理、物質管理、安全性の研究のためのモジュール・システムである安全成熟度ツール(Safety Maturity ToolSMT)を提供しています。企業は自ら監査を取り計らうことできます。私たちは、企業が規制当局の意見を待つのではなく、安全ポリシーとして何が必要かを考えていくようになるのを期待しています。

■ VOTOBは、関連メンバーとともに、タンク貯蔵部門に適用される法規やガイドラインを用いて、安全に関する安全成熟度ツール(SMT)を開発しました。この安全成熟度ツールは、企業のハードウェア(タンク、配管)、ソフトウェア(管理システム)、マインドウェア(安全文化)を評価するものです。安全成熟度ツールは紙上で書かれた事象を見るだけでなく、実際の安全性をテストします。監査はモジュール方式で、その都度新しいモジュールを追加していくことが可能です。独立性を保証するために、安全成熟度ツールは外部の監査人によって実施されます。監査は、“成熟した” 企業がどのように安全に対処しているかを示し、継続的に改善していくためのツールを提供します。安全成熟度ツールは単なる監査ではなく、安全分野における企業の成熟度をテストするためのアプローチなのです。VOTOBは、安全成熟度ツールに基づいて関連企業のメンバーが互いに学ぶことができるようにしています。これにより、業界全体がより高い安全性のレベルに引き上げられるのです。結局のところ、成熟とは、常に自分を磨き、他人を助けることなのです。

コンプライアンス 

■ ルール(規則)への対応にはエネルギーと時間がかかることを私たちは知っています。しかし、オランダには、危険物質の保管と輸送に関して幅広いコンプライアンス・システムがあります。危険物質に関する出版物のシリーズは、欧州のREACH (リーチ)規則に沿った運用管理の基礎となるものです。

REACHRegistration, Evaluation, Authorisation and Restriction of Chemicals)は、 2007年からスタートした欧州における化学物質の総合的な登録・評価・認可・制限の制度です。欧州では、既存化学物質の安全性評価が進まないことなどを克服するため、新たな化学物質規制への取組を始め、20076月から施行されました。REACH規則の主な特徴は次のとおりです。 

 ・既存化学物質と新規化学物質の扱いをほぼ同等に変更

 ・これまでは政府が実施していたリスク評価を事業者の義務に変更

 ・サプライチェーンを通じた化学物質の安全性や取扱いに関する情報の共有を双方向で強化

 ・成型品に含まれる化学物質の有無や用途についても情報の把握を要求

■ これには、いろいろな方法でアプローチすることができます。ひとつの例をあげると、できるだけ長く無視しようとすることです。しかし、それでは業務上のリスクをどんどん負うことになり、会社の将来を危うくすることになります。コンプライアンスを守らない会社ほど、私たちは頻繁に訪問し、より多くの罰金を課します。場合によっては、操業を停止することが唯一の解決策となることもあります。

■ 問題を無視するのではなく、そのルールがある以上、問題に先んじることです。長い目で見れば、私たち全員が恩恵を受けることになります。社会全体がより良くなるのはもちろん、企業自身も安全レベルが向上するためです。事故によって操業ができなくなることは、大きな代償を払うことになりますからね。

将来を見据えた運用

■ 貯蔵タンクの業界分野はさまざまな形で変化しています。ドローン技術はテクノロジーが検査の専門をどのように変えていくかを示す一例にすぎません。ドローンは、インスペクターにとって確認しずらいオイルタンクの部分を見ることができます。

■ もう一つの進展分野はサイバーセキュリティです。私たちは、企業がデジタルに強くなるよう積極的に働きかけています。ロッテルダムでは、私たちは港湾局と協力して専門の作業部会をつくって実施しています。

■ そして、つぎにエネルギーの移行があります。現在、私たちは実際にその結果を目にしています。

タンクターミナルは、ディーゼルや燃料油のような黒物製品の貯蔵から、バイオ製品のような白物製品への切り替えが進められています。そのためには、貯蔵について異なった方法が必要になり、別なルールを適用する必要があります。

■ また、それらの物質の中には、腐食性が強く、タンクの劣化を早めるものもあります。これらは、あなた方の安全ポリシーの中で考慮しなければならないことです。さらに、もう一つ検討しなければならないことがあります。この種の製品は、多くの場合、加熱タンクでの貯蔵を必要とします。屋根に断熱材がない加熱タンク1基は年間300世帯分のエネルギーを消費します。これからも、私たちの検査官は省エネ義務の遵守をますます厳しく監視するようになるでしょう。タンク事業者はこれらのことを考慮して計画を立てる必要があります。メンテナンス周期の計画に入る場合、または新しいタンクを建設する予定がある場合は、計画に断熱材の設置を含めることです。“ここではまだ義務化されていない”なんて考えないでください。自ら率先して行動してください。エネルギー価格が高くなっているので、かなりの節約を生み出すでしょう。

補 足

■ 将来を見据えた運用の中で「エネルギーの移行」が挙げられている。そして、「現在、私たちは実際にその結果を目にしています。タンクターミナルは、ディーゼルや燃料油のような黒物製品の貯蔵から、バイオ製品のような白物製品への切り替えが進められています。そのためには、貯蔵について異なった方法が必要になり、別なルールを適用する必要があります」と述べられている。

 このエネルギー移行についてはオランダのハーグ戦略研究センター(HCSS)の 「新しいエネルギー・システムにおける欧州のタンク貯蔵部門」20223月)に触れられており、その中で、「e-fuels、アンモニア、液体有機水素キャリアー(LOHC)などの貯蔵と取扱いは、タンク貯蔵の新たな役割になる」としている。

 日本では、経済産業省(資源エネルギー庁)が積極的に燃料アンモニア導入の検討を進めているが、先日、ニュースで出光興産が燃料アンモニア・サプライチェーン実現に向け、山口県周南市の徳山事業所をアンモニア基地化の計画をしていると発表した。 オランダで「現在、私たちは実際にその結果を目にしています。黒物製品の貯蔵から白物製品への切り替えが進んでいる」という話が日本でも現実化してきた。

■ 同じく将来を見据えた運用の中で「サイバーセキュリティ」が取り上げられている。そして「私たちは、企業がデジタルに強くなるよう積極的に働きかけています。ロッテルダムでは、私たちは港湾局と協力して専門の作業部会をつくって実施しています」という。

 サイバーセキュリティについては、「タンク施設におけるサイバーセキュリティの危険性」20185月)について紹介したが、実際に、つぎのようなサイバー攻撃が起こっている。

 ●「米国東海岸に石油を供給するコロニアルパイプラインにサイバー攻撃(身代金払う)」 20215月)

 ●「ドイツの石油タンクターミナルにサイバー攻撃、石油サプライチェーンに混乱」 20222月)

 このサイバー攻撃に対するサイバーセキュリティについて紹介したのは、つぎのとおりである。

 ●「米国における石油パイプラインのサイバーセキュリティの動向」20229月)

 ●「制御システムへのサイバー攻撃が増加、いま、あなたは何ができるか?20211月)

所 感

■ 環境保護や将来を見据えたタンク貯蔵の話は、米国のような広大な土地に恵まれたところよりも欧州での実情の方が日本にとって参考になる。オランダの環境保護機関であるDCMRが建前でなく、本音の話をしているのが良い。例えば、「なぜ環境保護機関であるDCMRが対応するのを待つのでしょうか? 自分自身で調べて、自分の改善計画を立ててみてはどうでしょう?」という話は日本でもありそうであるが、このような情報公開の場で話をしている自由さがよい。

■ 意外に思ったのは、「ロッテルダム地域のタンク貯蔵容量は過去10年間で倍増し、3,000KLに達した」ということである。確かに産油国などを中心にタンク貯蔵基地が増えているが、成熟した欧州のオランダでこの10年間に大幅に増えているという。日本との情勢の違いを感じる。資料では、話題が広範囲で、「エネルギーの移行」や「サイバーセキュリティ」といった単なる環境保護の規制機関の役割だけでなく、「補足」の中で記載したように最近の世界的な課題にも触れているのが興味深い。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Tankstoragemag.com,  Much to be Gained in Tank Storage Safety, February  15,  2023

    Votob.nl, Voor een veilige en duurzame opslag van vloeibare producten,  2023

    Dcmr.nl, DCMR Environmental Protection Agency,  2023

    Meti.go.jp, 欧州の新たな化学品規制(REACH規則)に関する解説書, March,  2008

    Mofa.go.jp,  EUの新たな化学物質規制(REACH規則案)の動向, June,  2007


後 記: 興味深い話が記載されていたので、紹介することとしました。しかし、オランダの組織や法規制が出てくるので、すぐには理解しずらい資料でした。そのため、本来は「補足」の中で書き添えるのですが、それでは分かりにくいので、今回は資料の文章中に追記する形をとりました。

 ところで、所感で「米国のような広大な土地に恵まれたところよりも欧州での実情の方が日本にとって参考になる」と述べましたが、書きながら明治維新前後に欧州へ勉学のために出かけた各藩や明治政府のようで、歴史は繰り返すのかなあと思いました。