今回は、2025年1月24日(金)、イラクのバスラ市にあるバスラ・オイル社のルマイラ油田にある第5ガス分離施設の容量10,000KL のNo.2石油タンク設備で爆発・火災があり、負傷者6名が出たほか、石油生産量が減少した事例を紹介します。
< 発災施設の概要 >■ 発災があったのは、イラク(Iraq)バスラ県(Basra)バスラ市にあるバスラ・オイル社(Basra Oil Company)のルマイラ油田(Rumaila Oil Field)である。ルマイラ油田は、推定石油埋蔵量が170億バレルとされる世界最大級の油田の一つで、生産量は1日当たり約145万バレルで、現在は120万バレル/日である。バスラ・オイル社は、BP社とペトロチャイナ社の技術助言とサポートを提供されている。
■ 事故があったのは、ルマイラ油田のガス処理プラントにある第5ガス分離施設(The Fifth Gas Separation Station;DS5)のNo.2石油タンク(容量10,000KL)である。
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2025年1月24日(金)午後1時30分頃、第5ガス分離施設のNo.2石油タンク(付近)で爆発・火災が発生した。(NASAのFIRMS衛星追跡システムによって複数の熱源と熱活動が検出され、火災が確認された)
■ 発災にともない、消防隊が出動した。出動したのは、ルマイラ北部消防隊、南部消防隊、バスラ・オイル社消防隊で、消防車20台、特殊車両10台、消火水16,000リットルを積んだ給水車10台を伴っていた。
■ さらに、ルマイラの治安部隊と石油警察が出動し、火災現場の周囲に厳重な警戒線が張られた、緊急事態発生時にともない、人員や車両の円滑なアクセスと迅速な移動を確保した。
■ No.2石油タンクは孤立操作が行われ、作業員は避難をした。
■ 消防隊はNo.2石油タンクに隣接するタンクの冷却作業を行った。
■ 石油関係者によると、ルマイラ油田の操業には影響はなかったという。しかし、火災により13万5,000バレル(21,400KL)を超える石油が失われ、さらにルマイラ油田の60基の油井が停止したという。当局者によれば、イラクの巨大なルマイラ油田の原油生産量は火災の影響で日量30万バレル減少した。これはイラク全体の石油生産量の約1/3を占める同油田の通常の生産量約150万バレルから大幅に減少したことになる。
■ ユーチューブでは、火災の状況などの映像が投稿されている。主なものはつぎのとおり。
●Youtube、「Fire
Breaks Out at Iraq‘s Rumaila Oilfield Crude Processing Facility | DRM News |
AP11」(2025/01/25)
●Youtube、「اندلاع حريق في منشأة لمعالجة النفط الخام بحقل الرميلة النفطي في العراق」(2025/01/24)
●Youtube、「حريق هائل في خزان نفط بحقل الرميلة الشمالية بالعراق 」(2025/01/25)
●Youtube、「 حريق ضخم في حقل الرميلة النفطي بالبصرة جنوبي العراق」(2025/01/25)
被 害
■ No.2石油タンク(容量10,000KL)が破損した。タンク設備の配管などに損害が発生した。
■ 火災によって20万バレル(31,800KL)
の石油が失われた。
■ 60基の油井が停止し、ルマイラ油田の生産量は12万バレル/日(19,000KL/日)減少した。
■ 負傷者が6名出た。
< 事故の原因 >
■ 爆発・火災の原因は、タンク稼動初めの操作ミスによるものとみられる。操作ミスの詳細はわからない。
< 対 応 >
■ 火災は、発災から約4時間後の1月24日(金)午後5時30分までに鎮圧された。焼損した石油タンク設備に大きな損害が発生した。
■ 火災の拡大を食い止めた重要な要素は、第5ガス分離施設(DS5) に供給していた油井を迅速に閉鎖し、原油の流出量を減らしたことだという。消防士を含む緊急対応チームは、隣接タンクへの延焼を防ぐためにタンクを冷却し続けた。
■ 1月24日(金)、石油省は、ルマイラ油田で発生した火災は鎮圧されたと発表し、重傷者は出ていないと付け加えた。しかし、関係筋によると、地元の石油作業員2名が軽度の火傷を負ったと報じた。1月27日(月)、負傷者は作業員6名だったことがわかった。
■ 石油省は、第5ガス分離施設(DS5)のNo.2石油タンクに原油が投入された後に火災が発生したといい、火災が発生したのは技術的な理由によるもので、原因はまだ特定されていないと述べている。
■ 1月24日(金)、石油省は、すべての安全手順を確認し、被害状況を調査した後、施設を再稼働する予定だと発表した。また、「火災の原因はおそらく操作ミスであり、爆発と火災の原因を調査するために技術委員会を設置した」と述べた。
■ 停止した油井の数は60基から120基に増え、損失は20万バレル(31,800KL)の石油と推定された。
■ 石油専門家は、ルマイラ油田において開放工事が終わったばかりの石油タンクが翌日に火災を起こしたことに驚きを隠せなかった。(引火源について)ルマイラ油田では、フレアー装置にホット・フレアー装置でなくコールド・フレアー装置を使っており、炎が出ることはない。フレアー装置はタンクの停止時に炎が上がることがあり、この種の引火事故は1970年代に2度発生しているが、今回の事故では、石油タンクは稼動を始めたばかりである。石油タンクはエジプトの会社によって丸1年かけて開放工事が行われていたが、再稼動し始めた際に爆発したという。石油専門家は、爆発の原因はおそらく操作ミスであるとし、このような事故は過去にはよくあったが、現代の安全基準では稀になってきているという。
■ 1月27日(月)、火災に関する初期調査で、運営会社の管理体制に問題(過失)があったこととが指摘された。イラク議会石油ガス委員会は、ルマイラ油田におけるインフラストラクチャーには、近代的な安全システムが欠如しており、同様の事故が起こる可能性があると苦言している。
最近、保守点検を受けたが、使用停止中であった貯蔵タンクを稼動させるように従業員に指示した事業者の過失が指摘された。ルマイラ油田の外国事業者が一部の従業員に稼働停止中のタンクの操作を命じたことは、明らかな過失を示しているとし、この事故の責任を「外国の事業者」に負わせる一方で、この施設で同様の事故が再発しないよう警告した。
■ 2月2日(日)時点で、ルマイラ油田の生産量は、火災による甚大な被害への対応に追われ、依然として少なくとも12万バレル/日(19,000KL/日)減少している。
補 足
■「イラク」(Iraq)は、正式にはイラク共和国で、中東に位置する人口約4,022万人の連邦共和制国家である。首都はバグダードで、古代メソポタミア文明を擁した土地にあり、世界第5位の原油埋蔵国である。石油輸出国機構(OPEC)で第二位の輸出国で、日量平均400万バレルの原油を生産している。 民族はアラブ人(シーア派約6割、スンニ派約2割)、クルド人(約2割、多くはスンニ派)などから構成される。言語はアラビア語とクルド語が公用語である。
「バスラ市」(Basra)は、アラビア半島の北東端、イラク国境近くに位置し、ペルシャ湾に注ぐシャット・アル・アラブ川沿いにあるイラク南部の港湾都市で、人口約148万人の都市である。同名のバスラ県(290万人)の県都であり、バグダッドとモスルに次いでイラクで3番目に大きな都市である。夏の気温は50℃を超えることもあり、イラクで最も暑い都市の一つである。
■「ルマイラ油田」 (Rumaila Oil Field)は、1953年に発見され、約170億バレルの回収可能な原油が埋蔵されていると推定され、イラクの原油生産量の約1/3を占め、イラクにとって重要な収入源である。ルマイラ油田の主契約者はバスラ・オイル社(Basra Oil Company)で、BP社とペトロチャイナ社が技術助言とサポートを提供している。なお、バスラ・オイル社は油田の運営者であるイラク石油公社(ROO )と連携している。
■「発災タンク」は、ルマイラ油田のガス処理プラントにある第5ガス分離施設のNo.2石油タンク(容量10,000KL)だと報じられているが、その他の仕様は分からない。グーグルマップで調べると、第5ガス分離施設(DS5)には、3基のドーム型円筒タンクがあり、1基は直径約30mで、他の2基は直径約45mである。容量10,000KLからすれば、直径約30mのタンクでは、タンク高さは約14mになる。直径約45mのタンクでは、タンク高さは約6mである。発災タンクの被災後の写真を見ると、タンクは半地下式ドーム型円筒タンクである。
一方、爆発・火災を起こしたタンクにしては、屋根や側板部に煤が若干付着している程度で、爆発の形跡が無い。このことから、火災の主部はタンク本体ではなく、防油堤内と思われる。火災写真を見ると、広いエリアで黒煙が立ち昇り、タンクは見えないが、火の手は複数個所から上がっている。タンク周辺の焼損配管を撮った写真では、かなりひどい焼け方をしており、堤内火災があったといえる。
なお、被災写真を見ると、発災タンクの後方に見えるドーム型円筒タンクのタンク番号がNo.1と識別でき、半地下式ではない。また、このタンクには屋根のトップまで太い配管が設置されており、グーグルマップで調べると、東側のタンクである。
総合して判断してみると、「発災タンク」は西側の直径約45mのタンクで、タンク深さ(高さ)は約6mだと思われる。
所 感
■ 事故は第5ガス分離施設のNo.2石油タンクで起こったと報じられているが、大きな火災は堤内火災だったと思われる。事故原因は操作ミスと結論付けられている。第5ガス分離施設のNo.2石油タンクに原油が投入された後に火災が発生したというので、配管系への原油移送の操作にミスがあり、大量流出して大きな火災になったのではないだろうか。今回の火災時間(約4時間)を考えれば、 No.2石油タンクにはそれほど多くの原油が張り込まれてはおらず、タンクや配管系のバルブを閉めて、燃え尽きさせる措置をとったと思う。
■ 昨年、イラクで起こった「イラクのクルド人自治区の石油施設でタンクが爆発、消防士14名が負傷」(2024年6月)では、「英国バンスフィールド油槽所タンク火災における消火活動(2005年)」(2016年6月)や「最近の貯蔵タンク過充填事故からの教訓」(2015年8月)のタンク過充填による操作ミスの可能性を指摘したが、今回は過充填とは異なる操作ミスであろう。事故原因の要素として、ルマイラ油田のインフラストラクチャーに近代的な安全システムが欠如しており、同様の事故が起こる可能性があると指摘されており、運転面や設備(技術)面について根の深い問題を抱えていると思われる。
■ 消防活動は出動人員や資機材について報じられているが、実際の消火活動の詳細は分からない。今回の消火戦略としては、「積極的戦略」、「防御的戦略」、「不介入戦略」の3つうち、堤内火災の配管系の火災は「積極的戦略」、隣接タンクは冷却を主とした「防御的戦略」がとられたと思われる。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Iraqoilreport.com, Large fire causes partial shutdown of Rumaila
production, January 25,
2025
・Reuters.com, Fire at Iraq's Rumaila oilfield extinguished, oil
ministry says, January 25,
2025
・Iraqoilreport.com, Rumaila still reeling after large fire, February
02, 2025
・Shafaq.com, Exclusive: Fire at Rumaila Oil Field causes 120 wells
shut down, January 25,
2025
・Wam.ae, Massive fire at oil field in southern Iraq brought under
control, January 25,
2025
・Boomberg.com, Iraq’s
Rumaila Oil Field Output Down 300,000 Barrels a Day After Fire, January
27, 2025
・Chemanalyst.com, Iraq’s Rumaila Oil Field Sees 300,000 bpd Drop in
Output After Fire Incident, January 28,
2025
・Shafaq.com, Iraq’s Rumaila Fire: Cause “unclear;” lawmakers blame
negligence, January 27,
2025
・Ognnews.com, Massive fire breaks out at oil field in southern
Iraq, January 26,
2025
・Skynewsarabia.com, وزارة النفط العراقية: إخماد حريق في حقل الرميلة, January 25,
2025
・Arabi21.comstory, السيطرة على حريق ضخم بحقل الرميلة النفطي في جنوب العراق (شاهد), January 25,
2025
・Shafaq.com, السيطرة على حريق ضخم بحقل الرميلة النفطي في جنوب العراق (شاهد) لجنة نيابية تكشف نتائج التحقيق بحريق حقل الرميلة وتحذر من تكراره, January 27,
2025
後 記: イラクの事故情報は疲れます。石油タンクの火災ということで、情報を調べ始めましたが、原油の供給問題の話題の方が多く、なかなかタンク火災の事実に近づきません。当初は“重傷者なし”の情報(真実ですが?)が、負傷者2名になり、結局6名に修正されるなど情報が不確かな上、フェークニュースらしい情報も入り乱れ、ブログをまとめきれませんでした。被災後の写真を見ても、これもフェークの一種ではないかと懐疑的になりました。そこで、初めに戻って、タンクに限った火災ではなく、堤内火災ではないかと思い直してまとめ直しました。