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2024年8月20日火曜日

米国テキサス州石油生産施設で落雷による堤内火災、タンクは噴き飛びか?

 今回は、米国テキサス州チェンバーズ郡アナワク南部のダブル・バイユー地区にある石油生産施設の原油タンクに落雷があり、火災になった事例を紹介します。事故は落雷によって原油タンクが爆発し、タンク本体が噴き飛び、防油堤に流出した原油で堤内火災が起こったとみられます。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、米国テキサス州Texasチェンバーズ郡Chambersアナワク(Anahuac)南部のダブル・バイユー地区Double Bayouにある石油生産施設である。

■ 事故があったのは、イーグルロード(農道;FM563沿いにある石油生産施設のタンク設備である。


<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 202484日(日)午前4時頃、石油生産施設の原油タンクに落雷があり、火災になった。

■ 当時、ダブル・バイユー地区には雷雨が通過しており、雷が発生していたという。敷地内の石油タンクのうちの1基に落雷し、火災が発生したとみられる。

■ 落雷の音は非常に大きく、現場から約7マイル(11km)北に位置するアナワク市の住民は、その音で目が覚めたという。

■ 発災に伴い、消防隊が出動した。出動は複数のボランティア型消防署の消防隊が支援した。支援したのは、オークアイランド・ダブルバイユー、アナワク、スミスポイント、ハンカマー、ウォリスビル、コーブ、ビーチシティ、ウィニー、モンベルビューの各ボランティア型消防署である。

■ 地域の道路数本が封鎖された。

■ 近くにある給水塔も落雷で動かなくなっていた。

■ ボランティアの消防士のひとりは、「現場に到着すると、タンクが燃えているのが見えた。よし、消火しようと思った」と語っている。上空に炎と濃い黒煙が立ち昇っていた。

■ 施設内の複数のタンクが炎に包まれていた。タンクの内容物が原油で、消火は困難な状況だった。

■ 消防隊は近くの消火栓2基を使ってタンク側板を冷却し、内容物を冷却するのに数時間かかった。消防隊は特殊な泡薬剤を使用し、火災消火に努めた。

■ 防油堤内に燃えていた炎の上に消火泡を覆い、油の再着火を防いだ。

■ チェンバーズ郡緊急事態管理局は、郡内のすべてのボランティア消防署の支援要請の対応を調整した。

■ ユーチューブでは、消防活動状況のニュース番組が投稿されている。

 YoutubeEvery VFD in Chambers County fights oil storage tank fire early Sunday morning near Anahuac2024/08/06

被 害

■ 原油生産施設内の円筒タンク複数基が焼損した。内液の油が焼失した。

■ 負傷者は出なかった。

< 事故の原因 >

■ 原因は落雷によるものとみられる。

< 対 応 >

■ 消防隊は、各署の消防隊が協力して約6時間にわたり消火活動にあたり、火災を制圧した。火災は午前10時頃、鎮火した。

■ 住民の避難の必要はなく、負傷者の報告はなかった。 

■ 火災中は空気質を継続的に監視されたが、危険性は確認されなかった。

■ チェンバーズ郡緊急事態管理局OEMはテキサス鉄道委員会Texas Railroad Commissionとテキサス土地管理局Texas General Land Officeに連絡し、両局は現場に代理人を派遣した。施設の責任者も現場にいたという。

補 足

■「米国テキサス州」Texasは、米国南部にあってメキシコ湾岸に面し、メキシコと国境を接する人口約3,050万人の州である。

「チェンバーズ郡」Chambersは、テキサス州の東部に位置し、人口約46,500人の郡である。

「アナワク」Anahuacは、トリニティ湾沿岸にある町で、人口約1,980人の郡庁所在地である。

「ダブル・バイユー地区」Double Bayouは、チェンバーズ郡にある非法人コミュニティで、人口は約400人である。

■「発災タンク」は、イーグルロード(農道;FM563沿いにある石油生産施設の円筒タンクである以外の詳細仕様はわからない。グーグルマップで調べると、イーグルロード沿いに石油生産施設があり、6基のタンク設備がある。直径は約3.5mで、高さを5mとすれば、容量は約48KLである。

 報道記事によると、発災タンクは3基または4基と報じられており、被災写真ではタンクは4基である。グーグルマップによる6基のタンクと差異があるが、被災写真をよく見ると、発災現場の後方に損壊したタンク本体やタンク屋根などがある。また、被災して残った4基のタンク本体の形状に大きな変化は見られない。火災の燃焼で6時間曝されているが、いずれもタンク側板は熱による座屈が見られない。このような状況から推測すると、被災して残った4基のタンクは石油生産上の塩水タンクと思われる。

 原油タンクである「発災タンク」は落雷によって爆発し、本体が噴き飛び、現場の後方にある草地に飛んだものだと思われる。この際、タンク内の原油が防油堤内に多量に漏洩し、堤内火災になったものとみられる。もう1基の油タンクは、発災タンクの爆発から堤内火災に至ったときに同様に爆発してタンク屋根が噴き飛び、本体は長時間の炎により、形がわからなくなるほど燃焼の影響を受けたのではないかと思われる。

所 感

■ 消防隊が到着したとき、消防士のひとりが「現場に到着すると、タンクが燃えているのが見えた。よし、消火しようと思った」と語っているので、早い段階でタンク設備は防油堤火災によってタンクが炎に包まれていたとみられる。

 被災写真では4基のタンクが見られ、グーグルマップによる6基のタンクと数に差異があるが、被災写真をよく見ると、発災現場の後方に損壊したタンク本体やタンク屋根などがある。また、被災して残った4基は火災の燃焼で6時間曝されているが、いずれもタンク側板は熱による座屈が見られないので、油が上部に溜まった塩水タンクと思われる。

 「発災タンク」は落雷によって爆発し、本体が噴き飛び、現場の後方にある草地に飛んだものだと思われる。この際、タンク内の原油が防油堤内に多量に漏洩し、堤内火災になったものだろう。もう1基の油タンクは、発災タンクの爆発から堤内火災に至ったときに同様に爆発してタンク屋根が噴き飛び、本体は長時間の炎により、形がわからなくなるほど燃焼の影響を受けたのではないかと思われる。

■ 消火戦略には、積極的戦略・防御的戦略・不介入戦略の3つがあるが、防油堤内でタンクが炎に包まれていたので、最初は防御的戦略としてタンクに冷却放水を行ったとみられる。その後、泡消火による積極的戦略をとったが、鎮火までに6時間を費やしており、消防車の泡消火活動では、防油堤内火災において消火が難しいことを示す事例である。通常の泡モニターでは、中発砲の泡で消えるのが速く、高発砲泡の泡モニターが必要である。

 最近の高発砲に関する事例としては、「クリミア半島の石油貯蔵施設で無人航空機(ドローン)攻撃でタンク火災」20235月)では、はしご車の上部に取り付けた高発泡の泡消火モニターが使用されている。また、「燃焼を制御して火災の煤煙を減少させる新しい方法」20242月)では、カナダのドラゴーISI社のドラゴ” Dragoと呼ばれる消火砲は、高発泡の泡の放出が可能な水/空気/消火剤の分散や放射を制御する機能を有しているとみられる。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

      Tankstorage.com, Fire At Texas Storage Tank,  August  06,  2024

      12newsnow.com, Every VFD in Chambers County fights oil storage tank fire early Sunday morning near Anahuac,  August  05,  2024

      Bluebonnetnews.com, Multiple agencies respond to large-scale tank fire in Chambers County,  August  04,  2024

      Baytownsun.com, Chambers firefighters put out tank fire,  August  04,  2024

      Fox4beaumont.com, Large oil storage tank fire possibly sparked by lightning now out,  August  05,  2024


後 記: 今年のお盆時期は異常に暑かった(熱かったという表現の方がよいくらい)ですね。それに南海トラフ地震臨時情報が追い打ちを掛け、“いつもの通り生活してください” と言われても、いつもの気持ちにはならなかったです。

 ところで、今回の事故は最初に標題の写真を見たときに、1基のタンクが燃え盛っていると思い、つぎに別な写真を見て、防油堤内にある4基のタンクが火災になっていると感じました。ところが、グーグルマップで調べると、この石油生産施設のタンク数は6基です。発災写真をよーく見ると、爆発で噴き飛んだタンク本体などが写っており、考え方を改めました。報じたメディアは現地を確認していない(だろう)と思われ、報道記事をもとにした事故の状況および影響を見直しました。以前、米国の石油生産施設の事故について紹介したブログの後記に、“米国らしいおおらかさを感じます。陸上原油生産施設のひとつやふたつが火災になったところで取るに足らず・・・”と書きましたが、改めていい国だな(皮肉かな)と感じました。 

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