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2025年2月20日木曜日

米国テキサス州のパイプライン火災の原因は自殺者の車による破壊

 今回は、2024916日(月)、米国のテキサス州ハリス郡ディアパークを通っているエナジー・トランスファー社が所有する地下埋設の天然ガス用パイプラインで、地上に出ているバルブ設備に車が衝突して、内部の天然ガスが噴き上がり、火災が発生し、4日間燃え続けた事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、米国のテキサス州Texasハリス郡Harris CountyディアパークDeer Parkを通っているエナジー・トランスファー社Energy Transferの地下に埋設された天然ガス用パイプライン設備である。

■ 事故があったのは、口径20インチ(50cm)の地下パイプラインの地上に出ているバルブ設備である。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 2024916日(月)午前930分頃、ディアパークで大規模なパイプライン火災が発生し、巨大な火柱が噴き上がった。火災発生当初、炎の柱が100m上空まで上がり、濃い黒煙が一帯を漂い、煙は10マイル(16km)離れた場所から見えた。

■ 住民のひとりは、朝食を食べていた午前930分頃、爆発音を聞いたという。「突然、大きな音が聞こえて、裏口からオレンジ色のような明るいものが飛んでくるのが見えました」と語った。

■ 発災にともない、午前10時前に消防隊が出動した。消防隊は、住民に周辺地域から避難を促すとともに、近隣の住宅が火災に巻き込まれないように努めた。

■ パイプラインの爆発・火災で広範囲にわたって炎が地面を焦がし、隣接する送電線を切断し、停電が生じた。エナジー・トランスファー社は、火災によって数千の住宅や事業所で停電が発生し、広範囲にわたる避難を促したと述べた。

■ 当局は、一時、約1,000軒の住民を避難させ、近隣の学校の生徒に屋内退避を命じた。

■ 発災現場近くの公園が被害を受け、消防隊が隣接する住宅に放水した。正午までに少なくとも数軒の住宅が火災に見舞われ、屋根から煙が吹き出していた。近くにはスーパーマーケットのウォルマートなどの店舗がある。

■ 消防隊は火災を監視し、火災が他の住宅に広がらないようホースで水をかけたりした。しかし、消防士4人が熱中症を負い、現場で治療を受けたほか、住宅5軒が被災した。

■ エナジー・トランスファー社の作業員はパイプライン内の天然ガス液の流れを止めたが、配管内には大量の天然ガスが残っていたため、消防隊は消火活動をできなかった。

■ エナジー・トランスファー社によれば、パイプラインから出る炎は自然に消えるはずだという。同社は、天然ガスの流れは遮断したが、内部の残留液で数時間燃え続ける可能性があると述べた。

 しかし、閉じられた2つのバルブの間には20マイル(32キロ)のパイプラインが走っており、火が消える前に内部の天然ガスがすべて燃え尽きるにはさらに時間が必要であった。

■ トランスファー社とハリス郡当局は、炎と黒煙が一帯に漂ったにもかかわらず、大気質モニタリングでは人に対する即時の危険は見られなかったと述べた。

■ 917日(火)、火災は小さくなっていったものの、地元住民の一部は次第に疲れを感じ始めていた。 

住民は衣服やその他の品物を持ってくるために家に戻り、その後すぐに出発する様子が見られた。住民のひとりは、「私たちは文字通り、着ている服とペットだけを持って、どこへ向かうのか全く分からないまま家を出てきたのです。いらだちを隠せません」と語った。

■ 918日(水)に3日目を迎え、当局は919日(木)夕方まで鎮火しない見込みだと述べた。しかし、火災の勢いは弱まり、当局は918日(水)夕方から住民の帰宅を許可し始めた。

■ ユーチューブでは、事故を伝える映像が投稿されている。主なものはつぎのとおり。なお、英語版を日本語字幕への変え方については、当ブログの「米国化学物質安全性委員会(CSB)の新たな安全ビデオの日本語字幕」202524日)を参照。

YoutubeFire still burning after gas pipeline blast near Houston, Texas2024/9/17

    ●YoutubePipeline explosion in La Porte, Texas, forces evacuations2024/9/17

    ●YoutubeTexas pipeline explosion forces thousands to evacuate2024/9/17

    ●YoutubePipeline explosion forcing evacuations in Houston, Texas2024/9/17

被 害

■ 口径20インチ(50cm)の地下パイプラインの地上のバルブ設備が破損し、内部に入っていた天然ガスが流出して焼失した。 

■ 事故を起こした車の運転手が死亡したほか、消防士4人が熱中症を負った。

■ 数千の住宅や事業所で停電が発生したほか、約1,000軒の住民が避難した。  

■ 天然ガスの焼失によって大気を汚染させた。

< 事故の原因 >

■ 原因は、天然ガスパイプラインの地上に出ていたバルブ設備に車が衝突して破損し、パイプラインから天然ガスが噴き出し、火災になった。車の運転手は故意にバルブ設備に衝突させ、自殺したとみられる。

< 対 応 >

■ 4日間燃え続けていたパイプライン火災は、919日(木)にようやく鎮火した。916日(月)の朝に発生してから約80時間後にようやく鎮火した。

■ 火災から逃げざるを得なかった住民らは、919日(木)に被害状況を確認するため、自宅に戻った。住民らは、車や郵便受けなどが猛烈な熱で部分的に溶け、近隣の公園が焼け焦げてしまい、フェンスが焼け落ちているのを目にした。発災場所から100mほど離れたところにある自宅の住民は、火災の延焼を防ぐために消防隊が水をかけたため、住宅がひどく損傷しているのを見て、「悲しくて、心が動揺しています。これからどうしたらいいのか分からない」と語った。 

 ■ 当局は、パイプライン火災の発生以来、炎のそばにあったSUVSport Utility Vehicle;スポーツ用多目的車)の中から人骨が発見されたと発表した。当局によると、地下パイプラインはウォルマートと住宅街の間の芝生のエリアにある高圧送電線の下を通っており、SUVの運転手が店舗の駐車場を出て広い芝生のエリアに入り、バルブ設備を囲むフェンスを突き抜け、損傷させたという。

■ 目撃者によると、車のスピードは速くなく、運転手が事故前に何らかの病気を患っていた可能性があると語った。車はウォルマートの舗装駐車場から出て公益事業用地の芝生を通り抜け、地上のバルブに衝突して爆発を起こし、空中に舞い上がった瞬間を説明した。

 しかし、車は不可解なことにウォルマートの駐車場から芝生を横切る際にスピードを上げ、天然ガスパイプラインを囲む金網フェンスを突き破った。

■ SUVの車に乗っていたのは、地元に住む51歳の男性だとわかった。

■ 爆発・火災は事故だったとみられ、警察と地元FBI捜査官はテロ攻撃の証拠を発見していないと述べた。しかし当局は、車がフェンスを突き破ってパイプラインのバルブに衝突した原因についてはほとんど詳細を明らかにしていない。

■ テキサス州鉄道委員会 (Texas Railroad Commission)はパイプライン火災の原因調査を開始した。

■ 920日(金)、ディアパーク市長はパイプライン爆発・火災の原因となった車の衝突は、運転手が健康上の問題を抱えていたことによるものでもないと語った。しかし、ディアパーク市長の声明は、裏付けとなる詳細や証拠を示さずになされており、事故前に運転手が発作を起こしていたという家族の考えと矛盾している。

■ ハリス郡法医学研究所のウェブサイトに、地下パイプラインの地上に出ていたバルブ設備に突っ込んだSUVを運転していた男性は、「鈍的外傷および熱傷」で死亡し、死因は「自殺」だったという判断を下した。ハリス郡検視官の報告書によると、この男性は過去に自殺未遂の経歴があり、最近アルコール依存症のリハビリセンターから退院したばかりだったという。報告書では、この2つの要素と、パイプラインに向かって加速する車両の監視ビデオ映像を、死因が自殺であると断定する証拠として挙げている。 

■ パイプラインのバルブ設備は、上部に有刺鉄線を張った金網フェンスで保護されていたとみられる。エナジー・トランスファー社は、設置されていたその他の安全対策についての質問には回答していない。当局は、エナジー・トランスファー社のような企業に対し、パイプラインや地上バルブの周囲にコンクリート構造物を設置するなど、より優れた安全対策を講じるよう要求できるかどうか検討すると述べた。

■ パイプラインの安全専門家は、流出物質の燃焼が止まるまでに1日以上かかったのは驚くことではないと述べた。また、破裂による死亡事故や環境被害を減らすことを目的とした2022年に改正された規制は、ガスパイプラインを対象としており、液体を輸送するパイプラインには適用されないという。また、多くの新しい安全規制は、既存のパイプラインに遡及的に適用されないと付け加えた。

 テキサス州最大の都市ヒューストンは、米国の石油化学産業の中心地であり、製油所や工場が集まり、何千マイルにも及ぶパイプラインが張り巡らされている。爆発や火災は日常茶飯事で、中には死者も出ており、住民と環境を守るための業界の取り組みに疑問が投げかけられている。

■ 環境活動家は、2021年の冬の嵐「ウリ」の後に起きた天然ガス会社による価格つり上げと同様に、今回の巨大火災は、テキサス州が安全よりも規制緩和と開発を重視することがいかにテキサス州の住民を不必要な危険にさらしているかを示していると述べている。

■ メディアによると、1996年にエナジー・トランスファーを設立した経営者は、同社を地域パイプライン会社から年間540億ドル規模の大会社に築き上げた。パイプライン王である経営者は、その過程で、共和党大統領候補やテキサス州知事のような規制緩和を支持する政治家を支援するために多額の選挙資金を投じてきた。

■ 一方、パイプラインを監視する役目をもつテキサス州鉄道委員会の記録を調べたところ、エナジー・トランスファー社は、2021年以降、パイプラインに関連する事故を53件報告しており、2024年に入ってからも8件の事故を発生させ、140万ドルの損害が報告されている。しかし、州による重大な規制対応の記録はない。

■ 調査によると、2019年以降、全国で地上の危険な液体やガスの輸送パイプラインに車やトラックなどの車両が衝突する事故が少なくとも36件報告されている。そのうち12件はテキサス州で発生した。これらの衝突により3人が死亡、2,100万ドル以上の物的損害が発生し、避難、火災、ガスや石油の漏れ、環境汚染が生じた。

 この調査を行った団体によると、多くの場合、危険で可燃性の化学物質を輸送するパイプラインは、近くの道路や駐車場を走行する車両による損傷に対してほとんど保護されていないことがわかった。規則により、パイプライン運営者はパイプラインに必要な保護の種類を決定できるが、記録によれば、車両に衝突されたパイプラインの多くは金網や木製のフェンスしか備えていなかった。

 今回の事故で、車が衝突したディアパークのパイプラインは、交通量の多いスペンサー・ハイウェイやウォルマートの駐車場の近くにあったにもかかわらず、金網フェンスで囲まれているだけだった。

■ 2025211日(火)、テキサス州規制当局は、昨年起きたディアパークのパイプライン爆発に関する調査で、パイプラインを運営するエナジー・トランスファー社による安全違反は発見されなかったと語った。しかし、この決定は、爆発中に家から避難しなければならなかった人々から怒りを買っている。当局はメディアのインタビューに応じないだけでなく、質問にも答えなかった。全国的な安全擁護団体であるパイプライン・セーフティ・トラストの事務局長は、ディアパークの爆発で違反が指摘されていないことは、国のパイプライン安全法の重大な問題を示していると述べた。安全規則では、パイプラインは偶発的および意図的な損傷の両方から保護する必要がある。 

■ 20249月にパイプラインのバルブによる事故があった後、エナジー・トランスファー社は以前の金網フェンスをコンクリートバリアに交換した。コンクリートバリアの設置は建設作業のためであり、「建設作業員の境界として機能していた」と述べた。当時、同社は「バリアが撤去されるかどうか、いつ撤去されるかは不明」としている。

■ ディアパークで起こった事故現場の近くには、シェル・ケミカル社を含む他社が運営するパイプラインのバルブが数個ある。交通量の多いスペンサー・ハイウェイのそばにあって可燃性・爆発性の化学物質を輸送しているが、金網フェンスで保護されているだけだ。  

補 足

■「テキサス州」Texasは、米国南部にあってメキシコ湾岸に面し、メキシコと国境を接する人口約3,050万人の州である。

「ハリス郡」Harris Countyは、テキサス州の東部に位置し、人口約480万人の郡である。

「ディアパーク」Deer Parkは、米国テキサス州のヒューストン・シュガーランド・ベイタウン大都市圏にある都市である。この都市はハリス郡の南東部に位置し、人口は約34,000人である。

■「エナジー・トランスファー社」Energy Transfer LPは、1996年に設立され、米国において130,000マイル(20km)以上のパイプラインと関連施設を備えるエネルギー物流会社である。天然ガス、原油、NGL、精製製品などのパイプライン輸送、保管、ターミナル処理を行っている。事故のあったパイプラインは、ヒューストンの南東にあるディアパークやラポート(La Porte)を経由して天然ガス液を輸送している。

■「テキサス州鉄道委員会」Texas Railroad Commissionは、名前が示すように元来は鉄道に関する公共業務を行うために設立された。その後、石油工業の発達によってパイプラインに関する業務を行うようになり、現在は鉄道、パイプライン、石油・天然ガス、石炭・ウランの鉱物資源に関する業務を行っている。

■「発災したバルブ」の種類は報じられていない。発災写真を見ると、パイプラインの孤立用のゲートバルブではなく、パイプライン用の安全弁またはエアベントバルブ(空気抜き弁)ではないかと思われる。

所 感

■ 今回のパイプライン爆発・事故の原因は、最初、意識を失った運転手の車の衝突によるバルブの破損だと思っていた。また、口径20インチ(50cm)パイプラインの孤立用のゲートバルブであれば、車の衝突で内部の天然ガスが噴き上がるような破壊は起こるとは思えず、ゲートバルブのフランジ部が開口したのではないかと思った。 

 しかし、実際は運転手が自殺するために車を地下パイプラインの地上バルブ設備へ衝突させたものだという。発災写真を見ると、損傷部は開口した配管であり、パイプライン用の安全弁またはエアベントバルブ(空気抜き弁)ではないかと思う。これらであれば、パイプラインより口径が小さく、車の衝突による破壊は可能であろう。

■ 報道記事では、テキサス州のパイプラインの安全対策に問題があるという指摘をするメディアが多かった。日本では考えられないほど甘い印象である。今回も、法規制の解釈上、「パイプラインを運営するエナジー・トランスファー社による安全違反は発見されなかった」という。

■ 消火戦略には、積極的戦略・防御的戦略・不介入戦略の3つがあるが、天然ガスは消火してしまうと再着火して被害が拡大してしまう。記事にあるように、住宅の延焼防止を行う防御的戦略を行い、流出する天然ガスが燃え尽きるまで不介入戦略をとっている。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Firerescue1.com,  Pipeline explosion sets fire to Texas houses, causes evacuation, September 16, 2024

    Nbcdfw.com,  A fire that burned for 4 days after Texas pipeline explosion has finally gone out, September 20, 2024

    Pbs.org, WATCH: Pipeline explosion and fire forces evacuations in Houston suburb, September 16, 2024

    Apnews.com, Massive pipeline fire burning near Houston began after a vehicle struck a valve, officials say, September 17, 2024

    Abc13.com, 51-year-old man's remains identified in Deer Park pipeline blast, dayslong fire, police say,  October 01, 2024

    Edition.cnn.com, A pipeline fire sparked by an SUV crash has burned for more than 24 hours and prompted evacuations in a Houston suburb, September 17, 2024

    Foxcarolina.com, Pipeline explosion, fire in Houston suburb forces evacuations, September 17, 2024

    Nbcnews.com, Texas pipeline fire is out, vehicle and human remains are found, September 21, 2024

    Cbsnews.com, Pipeline fire outside Houston dies down but continues to burn; some evacuation orders remain, September 17, 2024

    Texasobserver.org, Pipeline Explosion in Deer Park Reveals Hidden Hazards Texans Face, September 17, 2024

    Pipeline-journal.net, Fire at Energy Transfer’s Texas LNG Pipeline Affects Thousands of Residents and Businesses, September 18, 2024 

    Reuters.com, Energy Transfer pipeline catches fire in La Porte, Texas, September 17, 2024

    Nytimes.com, Officials Open Criminal Inquiry Into Crash That Caused Pipeline Fire Near Houston, Texas, September 19, 2024

   Houstonlanding.org, Deer Park mayor says deadly pipeline explosion and fire ‘wasn’t an accident’, Texas, September 20, 2024

   Houstonlanding.org, Autopsy cites driver’s mental health history for suicide ruling in pipeline explosion, Texas, January 29, 2025 

   Houstonlanding.org, Autopsy cites driver’s mental health history for suicide ruling in pipeline explosion, Texas, January 29, 2025


後 記: 今回の事故で運転手が乗っていたSUVはレクサスだということです。(事故には直接関係ないですが) 米国に輸入している車の関税を上げると米国大統領が話しているようですが、レクサスは米国インディアナ州とケンタッキー州に工場をもち、現地で車両を生産しているそうです。

 ところで、米国では大統領が変わり、つぎつぎと大統領令へのサインする映像がテレビで流されています。このブログでは、4年前に「米国バイデン大統領が原油パイプライン建設認可を取消し」20211月)を投稿しました。政治的な話は取り上げないようにしていますが、またぞろ出てくるかも知れませんね。米国では、AIのような創造的な技術の進歩にはびっくりさせられますが、今回のような事故では、安全が進歩しているとはいえません。

 トランプ大統領は、“掘って、掘って、掘りまくれ”(Drill, Baby, Drill)と言っています。米国の原油・天然ガス生産が増えることになるでしょう。それとともに事故は増えていくでしょう。(報道では、米国は現在でも世界一の原油・天然ガス生産国であり、それほど増えないのではないかという意見もありますが) 

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