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2023年2月21日火曜日

トルコ南部の地震、死者数45,000人を超す、港ではコンテナが火災

今回は、202326日(月)、トルコの南部で起こった地震による被災の状況を紹介します。特にこのブログの趣旨から産業施設に関する被害について紹介します。

< 発災地域の概要 >

■ 発災があったのは、東ヨーロッパと西アジアにまたがるトルコ(Turkey)と中東のシリア(Syria)の国である。

■ 地震によって多くの被災者や被害が出たのは、トルコ南部とシリア北部である。


<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 202326日(月)午前4時17分頃、トルコ南東部のガジアンテプ市付近でマグニチュードM7.8の地震が発生した。同日午後124分頃には、再びトルコ南東部で大きな地震が発生した。震源はカフラマンマラシュ県エルビスタン地区で、マグニチュードM7.5だった。この地震でトルコ南部とシリア北部にまたがる広い地域で多くの建物が倒壊し、死傷者が出た。

■ 発生した地震によってトルコとシリアにおける死者数が日々明らかになって増えている。210日(金)までに死者数は21,700人を超えた。現地では倒壊した建物の下敷きになった市民が最大20万人にのぼるという推定がある。トルコの死者数は18,342人で、シリアでも3,377人が死亡したと集計された。地震発生から4日目までにトルコとシリアの両国の犠牲者数は21,700人になったが、これは2011年に発生した東日本大震災の人命被害規模(18,500人)を上回る。両国の負傷者も78,000人を超えている。

■ 218日(土)、トルコの死者数が39,672人に達し、シリアの死者数は5,800人超となった。両国合わせた死者数は45,000人を超えた。

■ 今回の地震の被害が大きい背景のひとつは揺れの影響を受けた範囲が非常に広いということがある。被害の範囲は南北で300km×東西で450kmと、日本の関東・中部・近畿地方を合わせた広さに及ぶ。


■ 地中海に面するイスケンデルンでは、トルコ国内屈指の港があるが、26日(月)、港に積まれていた輸送用のコンテナが崩れて火災が発生した。当初は少数のコンテナ火災だったが、つぎつぎと近くのコンテナに延焼し、一晩中燃え続けて真っ黒い煙が空に立ち昇るような大規模な火災となった。消火艇などによって火災は27日(火)に一旦消えかかったが、その後再燃した。陸と海からの消火活動だけでなく、軍のヘリコプターや飛行機が出動し、火災を制御下に入れるようと試みられた。消火活動には、トルコ最大の都市イスタンブールの消防士も参加した。28日(水)午後、火災はほぼ消され、現場では引き続き冷却作業が続けられた。

 出火原因は可燃性の工業用オイルが入ったコンテナから出火した可能性が高いという。この火災のため、貨物船の出入港ができなくなった。210日(金)には、火が消し止められ、貨物船の出入港が再開されたが、物流が通常どおりに戻るには時間がかかることも予想される。  初期の火災から大規模な火災になるまでの映像が投稿されている。

(ツイッタ https://twitter.com/abdbozkurt/status/1622862607114809344  を参照)


■ イスケンデルン港の沿岸施設に行われた被害評価によってドッグが壊れていることが判明した。この港以外の他の商業港は影響を受けていないとみられる。トルコ運輸省は、イスケンデルン港を除いて他の港の操業を継続すると述べた。

■ イスケンデルン港に近いトルコ南部ハタイ県でシリア国境に近いドルチョルに係留されている最新鋭の「浮体式LNG貯蔵・再ガス化装置」Floating Storage and Regasification UnitFSRU の状況について具体的な情報はない。この浮体式LNG貯蔵・再ガス化装置エルトゥールル号は2021年に韓国で建造され、トルコ国営の石油・天然ガスパイプライン会社であるボタス社(Botas)が所有する17万㎥のトルコ船籍の船である。

■ トルコ南部のアダナ県にあるセイハン・オイルターミナル(Ceyhan Oil Terminal)は、地震の影響によって操業を停止したと報じられた。その後、213日(月)、原油を積み込んだ石油タンカーが出航した。

■ 26日(月)、石油・天然ガスパイプライン会社であるボタス社は、地震による石油パイプラインの被害はなかったが、予防措置として震源地に近いハタイ県を含む地域において天然ガスの供給を停止すると発表した。また、キリス県のガスパイプラインの損傷によって内部の天然ガスが漏れ出ているとも述べている。

 一方、ハタイ県のトップボガズ村の長によると、地震の後、ハタイ県で天然ガスパイプラインの2個所で爆発があったと話している。2個所は約3kmの距離があるという。ハタイ県の天然ガスパイプラインの火災映像がツイッタに投稿されている。

https://twitter.com/Lerpc75/status/1622430411681931266 を参照) (またはツイッタからダウンロードした動画Natural gas pipelines in Amik plain in Hatay burst with the force of the earthquake」を参照)



■ ソーシャルメディアでは、地震によって欧州にアゼルバイジャンの天然ガスを供給する主要なガスパイプラインが損傷し、ヨーロッパ大陸がガス不足のリスクにさらされているという情報が流れている。しかし、アゼルバイジャンからトルコを通る天然ガスパイプラインは震源より遠く離れており、ガス供給に支障はなくフェークニュースだという。

■ 地震を生き延びた人も避難場所や飲み水、食料を確保できていない人もいて、凍てつく寒さで命が脅かされている。

■ シリアでは内戦が10年にわたって続いていて、被災地には政権側と反政府勢力、それぞれの支配地域が含まれている。シリア国内の被災者は1,000万人を超え、人口の半数にのぼるとみられている。しかし、シリア北西部の反政府勢力が支配する地域では、支援ルートが限られており、十分に行き届いていないうえ、詳しい被害が分からない状態が続いている。

 こうした中、214日(火)、国連の衛星センターは国境に近い北西部のジャンデレスの町の様子を撮影した衛星画像の分析結果を公表した。 赤い点は被害を受けたことが確認できる建物でその数は228棟にのぼり、黄色い点は被害を受けたおそれがある建物で318棟にのぼる。ジャンデレスの町の広い範囲が赤や黄色の点で覆われており、町の全域が地震の被害に見舞われたことがわかる。

被 害

■ トルコの死者が39,672人に達し、シリアの死者は5,800人超となった。両国合わせた死者数は45,000人を超えた。

■ 地震によって多くの建物が倒壊したが、今回の地震は揺れの影響を受けた範囲が非常に広く、被害の範囲は南北で300km×東西で450kmと、日本の関東・中部・近畿地方を合わせた広さに及ぶ。

< 事故の原因 >

■ 2度の地震による自然災害である。

< 対 応 >

■ 28日(水)、日本の国際緊急援助隊・救助チームが震源近くのカフラマンマラシュで本格的な活動を始めた。日本各地の消防、警察、海上保安庁から選抜された救助チームは、地震発生の翌日の27日(火)に先発隊18名が現地入りし、8日(水)には後発隊55名が加わり、総勢73名態勢で捜索・救助にあたった。その後、日本の国際緊急援助隊・救助チームは任務を終了し、215日(水)に帰国した。

■ 210日(金)、日本政府は、トルコ政府からの要請を受け、数十名規模の国際緊急援助隊・医療チーム(団長、医師、看護師、薬剤師、医療調整員、業務調整員で構成)を現地に向けて派遣することを決定した。 同日夜、先発隊が羽田空港から出発した。また、政府は支援に必要な資材の輸送に自衛隊機を用いることを決め、トルコに向けて出発した。さらに214日(火)、国際緊急援助隊・医療チームの第3陣、215日(水)に第4陣を派遣した。

■ 210日(金)、東京大学渡邉教授は、米国の企業が配信している衛星画像を解析して、被害が確認できた場所を地図に記した画像とともにウェブサイトで公開し始めている。これまでに100個所以上を掲載しており、このうち、トルコ南部のカフラマンマラシュでは、多くの高層マンションなどが潰れるようにして全壊していることが確認できる。また、シリア国境沿いのハタイ県では、広い範囲で高層マンションが横倒しになったり、倒壊した建物のがれきが道路をふさいだりするなど、甚大な被害が出ていることが分かる。さらに、震源に近いトルコ南部のヌルダギでは、地表に現れた活断層の一部とみられる地割れなどが確認できる。(解析した情報は、ツイッタ https://twitter.com/hwtnv を参照)


■ トルコの建物6,000棟余りが無惨に押しつぶされて倒壊したことに対してその杜撰(ずさん)な建築慣行が俎上に載せられている。耐震設計条件を満たしていない建物が今回の地震で莫大な人命被害を出すことになったという指摘がある。建築専門家は今回の地震で多層建物の上の階のフロアが下の階にそのまま重なるように崩れ落ちる、いわゆる「パンケーキクラッシュ」が多かったことに注目した。このような形の崩壊は耐震設計条件を十分に満たしていない状態で、耐震性の弱い資材で建築されたことを意味する。

■ 210日(金)、多くの建物が倒壊したが、その中には、耐震性能をうたう比較的新しいものも含まれている。英国メディアのBBCは、がれきと化した新しい建物3棟に注目し、その安全性について調べた。

 トルコ・マラティヤに建っていた新築ビル3棟のうち1つは、ソーシャルメディアに投稿された映像によると、マンションの下半分が崩れ、そのがれきの上に建物の下半分が傾いて載る様子が見える。昨年完成した新築の建物ならば、2018年に改正された最新の建築基準に沿って建てられ、鉄骨・鉄筋で補強した高品質コンクリートの使用が義務づけられているが、もろくも倒壊している。

 地中海沿岸にある港湾都市イスケンデルンでも、比較的新しい集合住宅が大きく崩れた様子が撮影された。16階建ての建物と横面と後ろ側が完全に崩れ、建物の一部だけがわずかに残っている。この建物は2019年に完成した物件で、2018年に改正された建築基準に沿って建てられたはずだ。建設会社に取材を試みているが、回答を得られていないという。

 被災地であまりに多くの建物が倒壊したことから、トルコでは多くの人が、建築基準法の内容を疑問視するようになっている。確かに今回の地震は強力だったが、適切に建てられた建物ならば倒壊はしなかったはずだと、複数の専門家が指摘している。

 トルコでは、安全基準を満たさない違法建築に対し、政府が「行政処分免除」を繰り返し提供してきた。安全基準を満たさなくても、一定の金額を払えば、法的に見逃されるという仕組みだ。これは1960年代から続き、最近では2018年にこうした「処分免除」が実施された。いざ大地震が起きれば、政府のこの政策が大惨事を引き起こす危険があると、もう長いこと批判されていた。


■ 214日(火)、日本メディアのNHKによると、今回の地震被害と地図で見ていくと、遠く離れた複数の街で同じような壊滅的被害が出ている現状がわかってきた。今回の地震で大きな被害が確認されている街を地図に示した。例えば、震源に近いカフラマンマラシュと西南にあるアンタキヤは約170km離れているが、同じように建物が倒壊する被害が出ている。


■ 専門家は、今回動いたとされる断層の中でも長い間、大きな地震がない「空白域」で発生したと分析している。今回の地震はトルコ東部にのびる「東アナトリア断層」がずれ動いたことで発生したとみられるが、この断層では過去、繰り返しマグニチュードM7クラスの大地震が起きている。しかし、東京大学地震研究所の三宅准教授によると、今回の震源地の近くのエリアは1513年を最後に500年以上にわたって大地震の記録がなく、こうした「空白域」では大地震の起こる可能性が高いという。


補 足

■「トルコ」(Turkey)は、正式にはトルコ共和国で、西アジアに位置するアナトリア半島と東ヨーロッパに位置するバルカン半島東南端の東トラキア地方にある共和制国家である。人口約8,400万人で、首都はアナトリア中央部のアンカラである。トルコは、アジアと欧州の2つの大州にまたがり、北は黒海とマルマラ海、西と南は地中海(西はエーゲ海)に面する。陸上国境は、西でブルガリア、ギリシャと、東でジョージア(グルジア)、アルメニア、アゼルバイジャン、イラン、イラク、シリアと接する。

「シリア」(Siria)は、正式にはシリア・アラブ共和国で、中東にある共和制で、人口約2,150万人である。北にトルコ、東にイラク、南にヨルダン、西にレバノン、南西にイスラエルと国境を接し、北西は東地中海に面し、首都はダマスカスである。 2011年にシリアの政府軍と反政府勢力による武力衝突が本格化し、内戦が起こっている。シリアでは多くの難民が生まれ、国外に逃れている人々は660万人で、うち550万人が近隣国で避難生活を強いられている。さらに、今回の地震による被災地が反政府勢力の影響下にある地域で支援が滞っているという。

所 感

■ イスケンデルン港に積まれていた輸送用コンテナが崩れて火災が発生した被災事故は、大きな地震後の対応が平時の対応ができず、大きな火災事故に至ったと思われる。原因は可燃性の工業用オイルが入ったコンテナから出火したのとみられるが、通常であれば、消防車による泡消火で消せるはずである。しかし、町全体が混乱して地震対応している中で、有効な消防資機材がなく、まさか工業用オイルから出火しているとは思っていなかったのではないだろうか。消防艇の海水の放水によって油が水の表面を広がっていったと思われる。トルコと同じく地震国である日本にとって考えるべき教訓であろう。

■ ハタイ県の天然ガスパイプラインの爆発・火災は事実なのかどうかよく分からない。村の長によると、地震の後、天然ガスパイプラインの2個所(約3kmの距離)で爆発があったと話しているし、ツイッタに離れた個所での火災映像が流れていることを考えれば、実際に爆発・火災があったと判断されよう。トルコ国営の石油・天然ガスパイプライン会社であるボタス社が情報公開に積極的でないため、事実が埋没してしまうという印象である。 


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

      Bbc.com,  トルコでなぜあれほど多くの建物が倒壊したのか 耐震対策は,  February  10,  2023

      News.yahoo.co.jp, <トルコ地震>無惨に押しつぶされた建物耐震設計されていない不法建築、被害を拡大させた,  February  09,  2023

      News.yahoo.co.jp,  トルコ・シリア大地震の被害が急増、「世界でこれほどの災難見たことないはず」,  February  12,  2023

      Nhk.or.jp,  トルコ南部の大地震 被害実態のデジタル地図を公開 東京大学,  February  13,  2023

      Yomiuri.co.jp,  がれきの中からうめき声、日本の援助隊も懸命の捜索トルコ地震「72時間」経過,  February  09,  2023

      Jica.go.jp,  トルコ共和国における地震被害に対する国際緊急援助-物資供与-,  February  10,  2023

      Nhk.or.jp, トルコ・シリア大地震 広範囲にわたる被害 地図と画像で詳しく,  February  14,  2023

      Scienceportal.jst.go.jp, プレート境界で長大な活断層が動いたトルコ大地震 もろい建物を直撃し、犠牲者3.5万人を超える,  February  14,  2023

      Gsi.go.jp, 202326日トルコ共和国の地震に伴う地殻変動,  February  09,  2023

      Eri.u-tokyo.ac.jp, 202326日トルコ南部の地震,  February  10,  2023

      News.yahoo.co.jp, トルコの地中海沿岸で港湾火災、操業停止 地震の影響,  February  08,  2023

      Gcaptain.com, Fire Erupts in Containers Toppled by Earthquake at Turkish Port,  February  06,  2023

      News.am,  Explosion occurs in natural gas pipeline of Turkey’s Hatay Province, after earthquake,  February  06,  2023

      Offshore-technology.com, Earthquake in Turkey damages natural gas pipeline,  February  06,  2023

      Rt.com,  Quake ruptures gas pipeline in Türkiye (VIDEOS),  February  06,  2023

      Pipeline-journal.net,  Quake ruptures gas pipeline in Türkiye (VIDEOS),  February  07,  2023

      France24.com,  No, Turkey's earthquakes don't threaten Europe's gas supply,  February  10,  2023

      Bbc.com,  Turkey-Syria earthquake: Fire at Iskenderun port extinguished,  February  08,  2023

      Jp.reuters.com,  トルコ地震、死者4.5万人突破 278時間ぶりに3人救出,  February  18,  2023


後 記: トルコで大きな地震があり、連日テレビや新聞で報道されましたが、大半は建物の倒壊と救出あるいは支援活動に関するものでした。産業施設への影響は報じられていなかったのですが、これだけ大きい地震があれば、大なり小なり被害があったのではないかと思い、調べてみました。コロナ禍の影響もあり、期待しませんでしたが、日本の報道とは若干異なり、産業施設の被災記事はありました。しかし、地震で混乱している時には、SNSでフェークニュースが飛び交い、ご丁寧に爆発写真まで掲載されているものもあります。海外のテレビ番組の中には、フェークニュースについて真実かどうかを話題にしたものもあります。 

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