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2023年2月7日火曜日

米国カンザス州で原油の埋設パイプラインが漏洩、小川へ流出

 今回は、2022127日(水)、カンザス州ワシントン郡でキーストン・パイプラインから石油が漏洩し、牧草地に流れ出て、一部が近くにあったクリーク(小川)に流出した事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、カナダ(Canada)のエネルギー会社であるTCエナージー社(TC Energy)の原油用のキーストン・パイプライン(Keystone Pipeline)である。 TCエナージー社は旧トランスカナダ社である。

■ 事故があったのは、カンザス州(Kansas)ワシントン郡(Washington County)の牧草地である。キーストン・パイプラインは、希釈ビチューメン(Diluted Bitumen)と呼ばれるタールサンド・オイル(Tar Sands Oil)をカナダのアルバータ州から米国オクラホマ州まで移送している。



<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 2022127日(水)夜、カンザス州ワシントン郡でキーストン・パイプラインから石油が漏洩し、牧草地に流れ出て、一部は近くにあったクリーク(小川)に流出した。

TCエナージー社は、127日(水)午後8時にキーストン・パイプラインを運転停止した。 

■ 夜が明け、空撮による映像によって、油漏洩が住民の農地に影響を与えた範囲が分かった。油が漏洩した区域は約1.5エーカ(6,070 ㎡)とみられる。

■ 流出現場近くの家では、油のにおいで目が覚めたと語っている。

  128日(木)、TCエナージー社はキーストン・パイプラインの警報システムが圧力低下を検出したと述べた。問題のあった個所を特定し、漏洩を制御するツールを展開しているという。

■ TCエナージー社は、漏洩の推定量が14,000バレル(2,226KL)だと発表した。しかし、漏洩の原因は明らかにされなかった。

■ カンザス州は、水のサンプリングと影響を受けた動物の保護に取りかかっている。死んだ動物の総数は明らかではないが、治療を試みたにもかかわらず死亡したビーバーが少なくとも1匹いるという。


被 害

■ パイプラインが損傷し、内部の油14,000バレル(2,226KL)が漏洩した。

■ 牧草地約1.5エーカ(6,070 ㎡)が油によって土壌汚染された。

■ 漏洩した油の一部がクリーク(小川)に流出し、水質汚染の被害が出た。動物への被害も出ている。

< 事故の原因 >

■ パイプラインが破損したものであるが、破損の原因は明らかにされていない。 

< 対 応 >

■ 127日(水)の夜に漏れが判明して以来、 TCエナージー社は復旧に取り組み始めた。油が注ぎ込んだクリークにオイルフェンスを展張し、複数のバキュームカーを使用して油の回収を行っている。1211日(日)時点では作業員250名が動員されている。また、 TCエナージー社は大気を含むモニタリングも実施している。

■ 住民の中には、 TCエナージー社が漏洩した油をどうするつもりなのか、埋めるのか、運び出して燃やすのかという素朴な疑問を呈している人がいるという。

■ 128日(木)、米国環境保護庁は、現時点で飲料水用の井戸や一般市民への影響はないとみられると述べた。米国環境保護庁は 地域コーディネーター2 名を現場に派遣した。

■ 環境専門家によると、希釈ビチューメンと呼ばれるタールサンド・オイルはピーナッツバターのように非常に粘りのある物質で、クリーンアップが難しい油だという。タールサンド・オイルの災害が発生した場合、従来の油流出よりも深刻であり、クリーンアップがはるかに困難で費用がかかり、毒性がはるかに高い。タールサンド・オイルの流出災害は何年もかかることがわかっている。

■ 128日(木)、米国パイプライン・危険物安全局(Federal Pipeline and Hazardous Materials Safety Administration PHMSA)はTCエナージー社に対して是正措置命令を出し、油漏洩の根本原因を調査するとともに10年間の検査を見直し、パイプライン漏洩のリスクを評価する是正作業計画を作成するよう指示している。パイプラインは連邦規制当局が認可した後に運用を再開できるという。

■ 1214日(水)、TCエナージー社は、牧草地に漏洩した部分の掘削を始めた。

■ 1215日(木)、 TCエナージー社は、クリークから4,125 バレル(656KL)の油を回収したと発表した。 1216日(金)、対応者は400名を超え、午後5時時点でクリークから 6,973 バレル(1,108KL)の油を回収した。1218日(日)までに7,233バレル(1,150KL)の油を回収した。しかし、 TCエナージー社によると、回収率はこの地域の今後の寒さによって遅くなる可能性があるという。寒さのため清掃が難しくなり、作業員は氷の生成を防ぐために間接的な熱を加える必要がある。

■ 1220日(火)、 TCエナージー社はパイプラインの漏洩部を切り取り、米国パイプライン・危険物安全局(PHMSA)の指示に従って金属試験を行うため研究所へ送った。

■ 1222日(木)、米国パイプライン・危険物安全局(PHMSA)はTCエナージー社が提出したキーストン・パイプラインの再開計画を承認した。これに基づき TCエナージー社はパイプラインのテストと検査を含め、再スタートの準備を始めた。米国パイプライン・危険物安全局(PHMSA)は、パイプラインが破裂したときよりも低い圧力で運転することを要求している。圧力は、127日の流出事故時の圧力よりも 20% 低く維持する必要があるという。しかし、 TCエナージー社と連邦政府機関は、127日の運転圧力がどのようなものであったかを明らかにしていない。

■ 202313日(火)、流出のあったクリークには封じ込め用のダムが作られ、パイプライン漏洩地点の上流から封じ込めダムの下流に一時的に迂回させる作業が進められている。流出したところから約3マイル(4.8km)下流部のクリークを封鎖し、集中的な清掃を容易にし、汚染を封じ込めようというものである。迂回路には水移送ポンプと地上のバイパスラインが設置され、毎分5,000ガロン(19KL/分)以上の水を移送できるという。

■ 2023123日(月)時点でTCエナージー社によると、油回収作業は順調に進んでいるという。現在までに推定流出量の約90%を回収した。作業員はスキマーやバキューム車などを使用してクリークと川岸から油と水を回収している。

■ カンザス州ワシントン郡の新聞は、キーストン・パイプラインが群を抜いてワシントン郡の最大の税収源であると報じた。郡における10の最大の納税者のうち7つはパイプラインに関与しているという。同紙によると、郡、2 つの学区、その他の地方自治体は、今年キーストン・パイプラインから合わせて190万ドル(247百万円)以上の税金を受け取っているという。TCエナージー社の最新の年次報告書では、133 億ドル(17,300億円)を超える年間収益と20億ドル(2,600億円)を超える純利益が報告されている。

■ キーストン・パイプラインは 2011年に操業を開始して以来、米国内で少なくとも 5件の漏洩が報告されている。

 注; 201711月に米国サウス・ダコタ州で起こった漏洩事故については、「米国サウス・ダコタ州で原油パイプラインから流出事故」を参照。






補 足

■「カンザス州」(Kansas)は、米国中西部に位置し、ネブラスカ州、オクラホマ州、コロラド州、ミズーリ州と隣接し、人口約294万人の州である。州全域がグレートプレーンズ(大平原)にあって土地が平坦であり、大規模農業に適しているため農業や牧畜業が盛んな州である。

「ワシントン郡」(Washington County)は、カンザス州の北部に位置し、人口は約5,800人の郡である。

■「キーストン・パイプライン」 (Keystone Pipeline)は、 1日あたり約60万バレルの石油をカナダから米国オクラホマ州に移送するパイプラインである。カナダのアルバータ州フォートマッケイ近くのオイルサンド採掘場から産出した原油(希釈ビチューメンと呼ばれるタールサンド・オイル)は米国のクッシングまで移送し、そこからメキシコ湾岸の製油所へは別のパイプラインに接続し、移送される。 TCエナージー社のパイプライン保有距離は、計画中のキーストンXLパイプラインを含めると、全長2,687マイル(4,300km)になる。

 キーストンXLパイプライン計画はオバマ政権時に凍結されたが、トランプ大統領は20173月に連邦政府の許可を出した。しかし、キーストンXLパイプラインは環境保護団体、アメリカ先住民族、地主の一部から強固な反対に遭い、バイデン大統領によって再び計画は凍結されている。なお、キーストンXLパイプラインはモンタナ州、サウス・ダコタ州、ネブラスカ州を横断する計画であるが、 TCエナージー社(旧トランスカナダ社)の流出解析によれば、1.5バレル(240リットル)以下の漏洩は10年間に2.2回と推定されている。1,000バレル(159KL)を超えるような漏洩は100年間に1回と推定されている

■「 TCエナージー社」(TC Energy)(旧トランスカナダ社;TransCanada)は、1951年に創業したカナダのカルガリーに本拠をおくエネルギー会社で、北米で原油、天然ガス、発電事業を展開する。 20195月 、同社は TransCanada Corporation から TC Energy Corporation に社名を変更し、カナダ、米国、メキシコでのパイプライン、発電、エネルギー貯蔵事業を含む同社の事業をよりよく反映させるものとしている。

所 感

■ 漏洩原因は、事業者(TCエナージー社)と規制当局(米国パイプライン・危険物安全局)が明らかにしていないが、パイプラインの建設時に問題であろう。問題としては溶接欠陥、防食コーティングの不良、配管敷設上の不良などである。201711月に起こった「米国サウス・ダコタ州で原油パイプラインから流出事故」では、水の浮力対策としてパイプラインの上にコンクリートのサドルを載せる工法に疑問が出されている。

■  201711月の「米国サウス・ダコタ州で原油パイプラインから流出事故」とは異なり、今回の事故はクリーク(小川)に流出したので、発災事業所としての対応は速いとはいえない。パイプライン漏洩事故の標準的な対応マニュアルはできているようだが、牧草地だけでなく、川への流出の場合、オイルフェンスの展張や油回収の作業が加わる。さらに、軽質の原油でなく、希釈ビチューメンと呼ばれるタールサンド・オイルの場合、油が川底に沈むので、クリーンアップは厄介な作業であることを示す事例である。

■ 一方、 201711月の事故と同様、配管漏洩原因を明らかにせず、クリーンアップ作業中(川の水質汚染や汚染土壌の浄化)が終わっていないにもかかわらず、運転再開計画を認める米国の進め方に疑問を持つ。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

      News.wgcu.org, The Keystone pipeline leaked in Kansas. What makes this spill so bad?,  December  17,  2022

      Nebraskapublicmedia.org, Watch: Aerial footage reveals extent of Keystone Pipeline spill,  December  10,  2022

      Tcenergy.com, Milepost 14 Incident,  December  8 February 01,  20222023

      Abcnews.go.com, Oil spill in rural Kansas creek shuts down Keystone pipeline system,  December  10,  2022

      Latimes.com, Oil spill into a rural Kansas creek shuts down the Keystone pipeline,  December  09,  2022

     Kcur.org,  Crews have cleaned up most of the oil that spilled out of the Keystone pipeline in Kansas,  January  18,  2023

     Nytimes.com, Oil Spill in Kansas Prompts Shutdown of Keystone Pipeline System,  December  09,  2022

     Kwch.com, Crews in Washington County report progress in cleanup from historic oil spill,  December  14,  2022

     Pbs.org, Keystone pipeline shuts down after oil spill in Kansas creek,  December  11,  2022

     Theguardian.com, Keystone pipeline raises concerns after third major spill in five years,  December  21,  2022

   Reuters.com, Keystone operator recovers about 2,600 barrels of oil from Kansas creek,  December  13,  2022


後 記:以前、パイプライン漏洩事故に対して信じられないくらい米国民は鈍いと感想を述べたことがありますが、今回は多量漏洩で川に流出した事故で対応が完了していないにもかかわらず、早々とパイプラインの再開を認めることになりました。ロシアのウクライナ侵攻で世界的な石油不足という背景があるので、政治的な判断があることは感じます。しかし、はっきり言えるのは、キーストン・パイプラインの生まれが悪く、今後も漏洩事故は起こりうるということです。

 一方、新型コロナによるメディアへの取材制限などの影響が少なくなってきたことを感じます。今回のメディアの記事の中で出色なのは、キーストン・パイプラインがワシントン郡の最大の税収源であり、そのほか学区や地方自治体が税金を受け取っていると報じた記事です。この構図は日本の原発の設置地区と同じだと感じました。「地獄の沙汰も金次第」(じごくのさたもかねしだい) ということわざは日本だけではないようですね。

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