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2022年7月23日土曜日

カナダのタンクターミナルで建設機械がタンクへ衝突し、堤内に漏洩

 今回は、202278日(金)、カナダのノバスコシア州シドニーにあるインペリアル・オイル社のタンク・ターミナルにあるガソリン貯蔵タンクに建設機械のフロントエンド・ローダーが衝突し、タンクが破損し、内部のガソリンが防油堤内に漏洩した事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、カナダ(Canada)のノバスコシア州(Nova Scotia)シドニー(Sydney)にあるインペリアル・オイル社(Imperial Oil)である。同社は石油製品の貯蔵・物流を行っており、エクソンモービルのガソリンスタンドに石油製品を卸している。

■ 事故があったのは、インペリアル・オイル社のタンク・ターミナルにあるガソリン貯蔵タンクである。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 202278日(金)午前1130分頃、タンク・ターミナルの貯蔵タンクから約60万リットル(600KL)のガソリンが漏洩した。

■ 発災に伴い約60名の消防隊と警察が出動した。

■ この漏洩事故によってデスバレス通り北側に位置する約60世帯の住民に避難勧告が出された。住民のひとりは、「家の玄関に警官が来て、石油が流出しているので、避難できますか、と尋ねられたので、私は、はい、1分で」と応え、外に出てきたという。警察によると、住民へ避難勧告をするために約1時間かかったという。また、近隣の道路は通行が制限された。

■ 消防署長は、「私たちは、住民を強制的に避難させたわけではありません。現在、私たちが対処している状況について彼らに助言し、避難することが住民にとって最善の策であることを伝えたことです。事態が悪化した場合、私たちは住民の地域に対応を広げる必要が出てきます」と語っていた。

■ 漏洩した油は、土盛り式の防油堤内に溜まった。タンク内に残ったガソリンは別なタンクへ移送し、漏洩油はポンプで汲み上げる予定である。同社によると、流出した油を除去するのに24時間かかると予想している。

■ 78日(金)の午後、J.A.ダグラス・マッカーディ・シドニー空港から泡消火剤を積んだ消防車が、オイルタンクの周囲に築いた土盛り堤内に消火泡を放出した。消防署長は、空港用特殊消防車が出動できたのは幸運だったと語っている。空港用特殊消防車は消火泡を継続的に放出して、漏れたガソリンのベーパー拡散を抑制し、ガソリンが引火する恐れを軽減した。しかし、泡は夜を通して崩壊されていくため、再度、適用する必要がある。

■ 避難した住民は78日(金)の午後7時に自宅に戻ることが許可された。

■ 79日(土)、インペリアル・オイル社は、貯蔵タンクから石油が漏洩したのは、建設機械のフロントエンド・ローダー(ホイールローダー)がタンクに衝突し、タンクが破損したためだと発表した。

■ 発災に伴う負傷者は報告されていない。

■ 火花対策として近隣地域の電気を遮断した。このため、下水処理場の排水ポンプが停止し、下水が未処理のまま流された。停電は徐々に復電しているという。  

■ インペリアル・オイル社は78日(金)から出荷を停止した。シドニーの一部ガソリンスタンドでは燃料不足が生じている。

被 害

■ ガソリン・タンクが1基損傷し、内部のガソリン600KLが構内に漏洩した。  

■ 負傷者はいなかった。

■ 近くの住民約60世帯が避難した。また、近くの道路が交通制限で閉鎖した。

< 事故の原因 >

■ 事故の原因は工事ミス(建設機械の操作ミス)である。建設機械のフロントエンド・ローダー(ホイールローダー)がタンクに衝突し、タンクが破損し、内部の油が漏洩した。

< 対 応 >

■ 防油堤内に漏洩した油の回収は79日(土)の夜に始まり、710日(日)朝に完了した。インペリアル・オイル社は、漏れた600KLのうちどれだけ回収できたか明確でないという。これは一部が封じ込め用の消火泡に吸収されたり、蒸発した可能性があるためである。なお、通常、現場で放出された油は土壌に浸透されていくが、封じ込めエリアは粘土と砂利の層があり、通常、漏れたガソリンが地中に入り込む可能性は低いということだった。

■ 711日(月)、漏洩した燃料が回収できたので、今度は浄化の作業工程に移るという。インペリアル・オイル社によれば、環境の観点からどのような影響があるのかを調べるために、環境保護の関係者を招聘している。23日の間に浄化計画がどのようなものであるかを把握できるという。

■ 711日(月)、インペリアル・オイル社は浄化計画についてノバスコシア州環境・気候変動の規制当局と現地で検討作業を行う予定である。

■ インペリアル・オイル社は発災後から環境大気モニタリングを行っており、711日(月)時点で地域住民の安全や健康へ懸念点は検出されていない状況である。

■ 消防署によると、消防当局は定期的にタンク・ターミナルを視察しているし、今回のような事故に備えて計画を立てているという。

■ シドニーはかつて製鉄所の進出によって“シドニー・タール・ポンド”(Sydney Tar Pond)と呼ばれた北米で最大の有毒廃棄物処分場で自然環境を汚染されるだけでなく、近くに住む人々に健康上の問題を引き起こしたところである。シドニーに長年住んでいる住民にとって、今回の漏洩事故に不信感をもっている人は多い。「78日金曜日の漏洩事故は、もっとひどい状態になっていたかもしれないという警告としてとらえるべきです。今回の事例はヒヤリハットですが、もっと大事故になっていたかもわかりません。もう十分です。施設はこのような場所にはふさわしくありません」と語っている。

補 足

■「カナダ」(Canada)は、北アメリカ大陸北部に位置し、10の州と3の準州からなる連邦立憲君主制国家で、人口約3,770万人である。首都はオタワで、米国と国境を接し、イギリス連邦加盟国である。

 「ノバスコシア州」(Nova Scotia)は、カナダ東部に位置し、大西洋沿いあり、人口約92万人の州である。

 「シドニー」(Sydney)は、カナダのノバスコシア州にある都市共同体で、ケープブレトン島の東海岸に位置し、人口約24,000人で、行政上はケープブレトン地域に属する。 シドニーの名前はシドニー男爵にちなんで付けられた。1904年に自治体となったが、1995年に解散され、ケープブレトン地域に併合された。市歴は古く、1820年に島がノバスコシアと統合されるまで、ケープブレトン島の首都として機能していた。人口は特にスコットランドからの多数の移民の流入により19世紀初頭に大幅に増加し、製鉄所が開設された後の20世紀初頭に増加した。

■「インペリアル・オイル社」(Imperial Oil)は、1880年に設立したカナダの統合石油会社である。原油、オイルサンド、天然ガスの生産者で、カナダに3つの製油所を有し、石油精製・石油化学製品の生産者・販売者である。なお、2016年にすべてのガソリンスタンドをエクソンモ-ビル社(ExxonMobil)に売却し、現在は卸売で石油製品を供給している。

■「発災タンク」は、ガソリンで北端にあるタンクと報じられているだけで、タンク仕様は分かっていない。グーグル・アースで調べると、直径は約14.5mの固定屋根式タンクである。高さを約12mとすれば、容量は約2,000KLとなる。漏洩した油が600KLであり、この相当液位は約3.6mである。

■「シドニー・タール・ポンド」(Sydney Tar Pond)は、ノバスコシア州のケープブレトン島にあるタール池には、カナダで最も汚染された場所のひとつとして知られている地域に、推定750,000トンの有毒な化学汚染物質が含有されていた。汚染物質は100年以上にわたって操業していたシドニー製鉄所から出たもので、シドニー郊外のシドニー湾に流れる川に流れ込んだ。汚染地域のクリーンアップに関しては多くの政治的論争があり、修復作業は遅れてしまった。クリーンアップ・プロジェクトが始まったのは1980年代になってからである。方法は池から汚染されたスラッジを燃やすための焼却炉を用いた。しかし、配管で有毒廃棄物を移送する計画だったが、うまく行かなかった。これに続いて、スラッジを安定させるために池にセメントを注いだ。2014年には、4億カナダドルの浄化が完了したといわれ、タール・ポンドは遊び場、スポーツ、ウォーキング施設のある公園になっている。


所 感

■ 事故は、建設機械のフロントエンド・ローダー(ホイールローダー)がタンクに衝突し、タンクが破損したためだと報じられているが、詳細は伝えられていない。通常、防油堤内に建設機械が入ることはなく、また入ったとしても危険物の入ったタンクのそばで作業を行う場合は細心の注意を払うはずである。タンクに孔が開くほど強い衝突だったとみられ、明らかに工事ミスであり、そのような作業を承認した管理ミスである。

■ 一方、発災後の対応は良好だと感じる。漏洩後、すぐに油回収を実施する計画であったようであるが、漏洩油面を泡で覆う方法を優先し、泡が不足すると判断して、空港用特殊消防車で対応したのは適切な判断だった。なお、感心したのは消防署・警察署の住民への避難勧告のやり方で、住民一人ひとりに配慮している。

■ 今回、火災や海上流出に至らなかったのは不幸中の幸いであった。 住民が語った“78日金曜日の漏洩事故は、もっとひどい状態になっていたかもしれないという警告としてとらえるべきだという意見は拝聴すべきである。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Cbc.ca, Front-end loader colliding with storage tank caused Sydney gas spill, company says,  July  09,  2022

    Cbc.ca, Gas spilled in Sydney fuel leak recovered, says Imperial Oil,  July  11,  2022

    Tankstoragemag.com, Punctured Imperial tank leaks 600,000 L of fuel,  July  11,  2022

    Atlantic.ctvnews.ca, 'No immediate danger': after 600,000 litres of gas leaks from Sydney Imperial Esso Station,  July  09,  2022

    Saltwire.com, 'We have to do something:' Fuel recovered from Cape Breton facility's gas leak, but incident rattles residents,  July  10,  2022

     Themoonlightersguide.com, Sydney evacuees return home after major gasoline spill at fuel depot,  July  10,  2022

     1015thehawk.com, No injuries after 600K in gas spilled at Imperial Oil plant in Sydney,  July  11,  2022

     Geotvnews.com, After the gas leak, untreated sewage was dumped in the port of Sydney.GTN News,  July  12,  2022

     Nsbuzz.ca,  600,000 Litres of Fuel Has Leaked At Sydney Imperial Esso Storage Facility,  July  09,  2022


後 記:  今回の事例は、建設機械がタンクに衝突し、タンクに孔が開くという通常起こらない事故です。メディアはこの点の深掘りについて意外に淡泊です。しかし、久しぶりに住民の声を取材した記事が多かったですね。新型コロナによってメディアが現地を取材しない傾向が続いていましたので、やっと元に戻ったという気がしました。そのおかげで、シドニー・タール・ポンドの環境汚染事例を知ることができました。日本の公害問題と同じような環境に配慮しないひどい事業所がカナダにもあったことを初めて知りました。

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