今回は、2022年4月15日(金)、メキシコのオアハカ州サリナ・クルス市にあるペメックス社のサリナ・クルス製油所でガソリン・タンクの火災が起こった事故を紹介します。
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、メキシコ(Mexico)のオアハカ州(Oaxaca)サリナ・クルス市(Salina Cruz)にあるメキシコ国営石油会社ペメックス社(Petroleos Mexicanos: Pemex)のサリナ・クルス製油所である。
■ 発災があったのは、製油所の貯蔵タンク地区にある容量10万バレル(15,900KL)のガソリン貯蔵タンクである。
< 事故の状況および影響
>
事故の発生
■ 2022年4月15日(金)午後2時30分頃、ガソリン貯蔵タンクで火災が発生し、製油所内から煙が立ち上った。ペメックス社によると、火災はタンクの上部から始まったという。
■ 火災に伴い、ペメックス社の自衛消防隊が出動した。消防隊は泡消火活動とタンクの冷却作業を実施した。■ 4月16日(土)、火災は現場から何キロも離れたところからも確認できた。火災によって放出される黒煙による大気汚染と相まって、火災が収まらないので、近くの住民は心配になってきた。
■ ペメックス社は、火災が収まらないため、安全のため製油所のプラント操業の停止に入った。
■ 地方自治体と警察は、トラブル発生を避けるため、この地区の封鎖を行った。近くの住民には避難指示が出された。
■ 火災の状況がユーチューブに投稿されている。(YouTube、「Salina Cruz se declara en emergencia por incendio de refinería en
Oaxaca」(サリナクルスがオアハカの製油所火災による緊急事態を宣言)、「Incendio en
refinería de Salina Cruz, Oaxaca - Sábados de Foro」(オアハカのサリナクルス製油所で火災-土曜日 2022/4/17)を参照)
被 害
■ 容量10万バレル(15,900KL)のガソリン貯蔵タンクが焼損した。内部のガソリンが33,000バレル(5,200KL)焼失した。
■ 事故に伴う負傷者はいなかった。
■ 近くの住民には避難指示が出された。(150世帯と報じられている)
■ 石油の燃焼で排出される有害物質による大気汚染が発生した。
< 事故の原因 >
■ 原因は調査中である。
■ 火災は分配配管に関する技術的ミスが発端だという情報や、プレートの切断作業時の火花で火災が起こったという不確かな情報がある。
< 対 応 >
■ ペメックス社は、発災翌日の4月16日(土)、同社のウェブサイトにサリナ・クルス製油所のガソリン貯蔵タンク(TV-102 )で火災があったことを発表した。
■ 火災の消火活動は、当初、ペメックス社の自衛消防隊だけで行っていたが、その後、火災の勢いが増したため、地域の消防署や他社からの消防士が参加して行われた。 4月15日日(金)の夕方までの最初の数時間で火災は消火できそうなところまで来たが、翌16日土曜に風が強くなり、午前5時頃、火災の勢いが増した。炎の高さは100mに達するほどだった。
■ 消防士は、ときには炎が数メートルの高さに達した火を消すために戦った。
■ 消火用の泡薬剤が不足し、他地区のカデレイタ製油所(Cadereyta)、ヌエボレオン製油所(Nuevo León)、ミナティトラン・ベラクルス製油所(Minatitlán
Veracruz)が泡薬剤の供給を要請された。メキシコ海軍には、消火に必要な泡薬剤の移送が要請され、空輸を行った。
■ 住民からは石油の燃焼で排出される有害物質による大気汚染の深刻さを訴えられている。
■ 消火活動によって一旦火災は消えた。その後、4月16日(土)午前5時頃、消えた火災が再燃した。その後、消火するまでに発災から30時間かかった。
■ タンクの火災によって内部のガソリンが33,000バレル(5,200KL)焼失した。
■ 4月18日(月)時点で、製油所で停止したプラントは26装置である。
■ 火災事故に伴う負傷者は発生しなかった。
補 足
■「メキシコ」(Mexico)は、正式にはメキシコ合衆国で、北アメリカ南部に位置する連邦共和制国家で、人口約1億3,000万人の国である。
「サリナ・クルス市」(Salina Cruz)は、「オアハカ州」(Oaxaca)の南東部の太平洋側にあり、人口約76,000人の港湾都市である。
■「ペメックス社」(Petroleos Mexicanos: Pemex)は1938年に設立された国営石油会社で、原油・天然ガスの掘削・生産、製油所での精製、石油製品の供給・販売を行っている。ペメックス社はメキシコのガソリンスタンドにガソリンを供給している唯一の組織で、メキシコシティに本社ビルがあり、従業員数約138,000人の巨大企業である。
オアハカ州サリナ・クルス市には、1979年に操業を開始した精製能力330,000バレル/日のサリナ・クルス製油所(Salina Cruz Refinery)がある。サリナ・クルス製油所では、2017年6月に火災事故が起こっている。
なお、ペメックス社の関連事故については、つぎのような事例がある。
● 2014年7月、「メキシコのペメックス社でタンク火災、負傷者も発生」
● 2014年7月、「メキシコで原油パイプラインからの油窃盗失敗で流出事故」
● 2017年3月、「メキシコのペメックス社の石油ターミナルで爆発、死傷者8名」
● 2017年6月、「メキシコのペメックス社の製油所で浸水による火災で死傷者9名」
■ 「発災タンク」をグーグルマップで調べてみると、貯蔵タンク地区北側にある直径約42mの浮き屋根式タンクであることが確認できる。発災タンクは、容量10万バレル(15,900KL)で直径約42m×高さ約11.5mほどの大きさである。発災タンクの隣には同様の浮き屋根式タンクが1基あり、さらに隣接して同様の大きさの固定屋根式タンクが4基ある。ペメックス社はこれらのタンクへの延焼を気にしていたとみられる。
所 感
■ 今回の事故は、初期消火の失敗から大きなタンク火災に至ってしまったという印象をもつ。最初の数時間で火災は消火できそうなところまで来たという情報から、当初は屋根火災とみられる。被災写真でも、側板が焼けていない初期とみられるタンク火災の状況は煙の量が薄く、大きな火災ではない。どのような消火活動が行われたか分からないが、この段階では、つぎのような対応をすべきだったと思う。
● ドローンまたははしご車(スクアート車)のカメラによる映像を撮影し、火災の箇所やまわりの状況を確認する。
● 手持ちの消防資機材の能力から消火が可能ならば、泡モニターで消火活動を行う。
● タンク上部へのアクセスが可能な場合、完全防備の消防士がタンクへ上がって、活動する方法があり、この判断の是非を行う。(日本では行われていないが、米国では一般的な対応策である)
● 消防資機材(泡モニターや泡薬剤)の能力が不足と判断すれば、能力を有する資機材の応援を要請し、調達できるまでは消極的消火戦略(冷却など)をとる。
推測であるが、この初期段階では、浮き屋根が一部沈降している状況ではなかったろうか。この段階で、能力不足の消防資機材(泡モニター)を使用すれば、水を注いで浮き屋根をさらに沈降させ、火災を拡大させてしまう恐れがある。
■ 初期消火に失敗したのち、風も強くなり、タンク全面火災に近い状況になったとみられる。この段階では、タンク直径約42mであり、日本の法令では、放射能力10,000L/分の大容量泡放射砲が必要である。何度か消えそうな状態になったらしいので、浮き屋根の沈降と固着、泡の覆いと途切れを繰返していたのかも知れない。この点、
同じガソリン・タンクで起こった2021年11月の「インドネシアの製油所でアルミニウム製ドーム型浮き屋根タンクが火災」と類似事例のような印象である。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Reuters.com,
Mexico‘s Pemex says fire under control at Salina Cruz refinery, April
17, 2022
・Tankstoragemag.com, Tank fire stops operations at Pemex Salina Cruz
refinery, April 19,
2022
・Stacks921.com, Mexico’s Pemex
battles fire at Salina Cruz refinery,
April 19, 2022
・Infobae.com, Gasoline storage tank caught fire at Salina Cruz
refinery due to mechanical failure,
April 16, 2022
・Mexicobusiness.news, Fire Sets PEMEX’s Salina Cruz Refinery
Ablaze, April 18,
2022
・Riviera-maya-news.com, Pemex refinery fire at Salina Cruz burns for
nearly 24 hours, April 18,
2022
・Ginaserranotv.mx, Incendio en refinería de Pemex de Salina Cruz; el
fuego está controlado, hay saldo blanco,
April 18, 2022
・Eluniversal.com.mx, Tras más de 30 horas, controlan incendio en
refinería de Salina Cruz, en Oaxaca,
April 18, 2022
・Hoydinero.com, Incendio en refinería Salina Cruz: PEMEX trabaja para
sofocarlo, April 18,
2022
・Nvinoticias.com, Pemex pierde 95 millones de pesos por incendio en
refinería de Oaxaca, April 17,
2022
・Ororadio.com.mx, Semar-Armada de México, dispuso equipo y personal
para sofocar incendio en Salina Cruz,
April 18, 2022
後 記: 前回(2017年)の事故時、国営企業のペメックス社はウェブサイトを通じて事故情報(声明)を3日連続で発信しており、情報公開がオープンだと思いました。これに比べると、今回はペメックス社のミスが存在しているようなので、“失敗は隠れたがる”で情報発信が少なかったと感じます。さらにメディアの情報の質が低下していると思いました。情報の量(数)は結構あるのですが、通信社から発信される1次情報が多く、インターネットで調べていっても、事故状況の時系列が曖昧で、事故の内容はそれほど深まらなかったという感じです。
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