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2020年11月4日水曜日

米国オハイオ州でイネオス社の使用していないタンクが崩壊

  今回は、 20201025日(日)、米国オハイオ州アレン郡ライマにあるイネオス社の化学工場で大きな音がして、工場内にあった使用していないタンクが崩壊した事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 事故があったのは、米国オハイオ州(Ohio)アレン郡(Allen)ライマ(Lima)のイネオス社(INEOS)の化学工場である。イネオス社の化学工場はハスキーエナジー製油所に隣接している。

■ 発災があったのは、化学工場内にあるタンクである。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 20201025日(日)午後8時頃、化学工場で大きな音がして、地元地域を揺るがした。爆発のような音は数マイル(58km)離れたところでも聞こえたという。

■ 発災に伴い、ショーニー・タウンシップ消防署が出動した。消防隊は、現場に到着すると、崩壊したタンクを見た。

■ タンクの構造物が崩壊したが、地域社会に脅威を与えるような影響はなかった。

■ 消防隊は、数時間、現場に待機した。

被 害

■ 化学工場のタンクが崩壊した。タンクは使用されていなかった。

■ 負傷者は無く、地元への影響も無かった。

< 事故の原因 >

■ 事故の原因は不明である。

< 対 応 >

■ 消防署は、事故は調査中であると地元のニュースサイトに語った。消防署によると、事故が起こったとき、崩壊したタンクはすでに使用されていなかったという。なお、このタンクが貯蔵していたものについて語られていない。

補 足

■「オハイオ州(Ohio)は、米国の北東に位置するが、中西部の州で、人口約1,170万人である。

「アレン郡」(Allen)は、オハイオ州の北西に位置し、人口約102,000人の郡である。

「ライマ」(Lima)は、アレン郡の中央部にあり、人口約36,600人の市で、郡庁所在地である。

■「イネオス社」(INEOS)は、1998年に設立された化学会社で、石油化学製品、特殊化学製品、石油・ガスの製造会社である。世界24か国に171箇所の製造施設を有する。同社の創業者は、エッソのケミカルエンジニアであり、1995年に事業家と組んでBP社から酸化エチレン事業を買収し、その後単独で買取り、イネオス社を設立した。その後も、つぎつぎと化学会社を買収し、短期間に世界的な化学会社に成長した。

■ イネオス社の「ライマの化学工場」では、アクリロニトリル、アセトニトリル、シアン化水素、触媒を製造している。ライマ工場は、アンモ酸化プロセスを使用してアクリロニトリルの商業的に製造した発祥の施設である。アクリロニトリルの用途は、ABS、アクリルアミド、衣類・カーペット・毛布用アクリル繊維の主要成分である。副産物として生産されるアセトニトリルは、インスリンや抗生物質の生産における溶媒や、天然由来の農薬生産における原料として使用される。副産物のシアン化水素は猛毒であるが、殺虫剤、電気メッキ、鉱石の濃縮などに用いられている。アクリロニトリルプロセスで使用される触媒もライマ工場で製造されている。ライマ工場の敷地面積は92.4エーカー(373,800㎡)で、全生産能力は224,000トン/年で、従業員は157名である。アクリロニトリルのプロセスは図に示す。

■「発災タンク」に関する情報は、「すでに使用されていなかった」という以外まったく報じられていない。イネオス社はウェブサイトを設けているが、事故に関して一切コメントしていない。アクリロニトリルのプロセスに関係しているのか、まったく関係のないタンクなのかも分からない。グーグルマップでイネオス社のライマ工場を調べたが、 手掛かりがなく、見当もつかなかった。 

所 感

■ 今回の事故は状況が分からない。タンクが崩壊としたが、報道原文は“collapse”であり、崩壊する、つぶれる、くずれる、陥没するのいずれの意味合いが妥当なのかよくつかめない。

 消火用水タンクがバラバラに破裂した例(「消火用水タンクが破裂して死者2名の事故」20114月)やタンク底板部から大量流出し、屋根板が陥没した例(「ロシアのシベリアで発電所の燃料タンク底板部から大量流出(原因)」20205月)はあるが、今回の事故はこれらの事例とは異なるのであろう。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである

    Industrialfireworld.com, Tank Explosion Reported at Ohio Chemical Plant,  October 26,  2020

    Limaohio.com, INEOS tank collapse rattles region,  October 26,  2020

    Uk.reuters.com, Tank collapses at Ineos plant in Lima, Ohio, no injuries,  October 27,  2020

    Spaglaw.com, Explosion at INEOS Chemical Plant - Spagnoletti Law Firm,  October 26,  2020

    Hometownstations.com, Shawnee Fire: tank collapse at INEOS not a cause of alarm,  October 25,  2020

    Poandpo.com, Tank collapses in INEOS plant in U.S.,  October 27,  2020

    Powderbulksolids.com, Tank Collapse Reported at INEOS Chemical Plant,  October 26,  2020

    Hazardexonthenet.net, No injuries as tank collapses at INEOS chemical plant in US,  October 27,  2020


後 記: 今回の事故は情報を今後に活かすという点において内容が無いという感じですね。失敗学でいう事故を小さく見せたり、無かったことにする典型です。それも事業者でなく、現場を確認した消防署が状況を語っていないのはなぜでしょう。日本で流行っている“丁寧な説明”が必要で、説明をしなければ、何かを隠しているのではないかと疑ってしまいます。

 イネオス社のライマの化学工場にあるアンモ酸化プロセスのアクリロニトリル製造装置は猛毒のシアン化水素(第2次大戦でナチスがホロコーストのガス室で使用したと言われている)が副産物として出てきます。そのような工場でタンク崩壊の事故が起こっているので、当然のことながら大丈夫かなと思ってしまいます。米国は自由の国というイメージがありますが、2019年版「世界報道の自由度ランキング」で3年連続下落し、報道の自由のレベルが初めて「問題あり」に格下げとなり、ランキングは48位に落ちています。2020年では45位と若干上がり、「問題あり」から脱出はしていますが、どうなんでしょうね。

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