落雷による事故のあったナイジェリアのクワイボエ・ターミナル
(写真はグーグルマップから引用)
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<事故の状況>
■ 2014年6月27日(金)正午頃、ナイジェリアのアクワ・イボム州(Akwa
Ibom)にあるエクソンモービル社の石油ターミナルで落雷による火災があった。火災があったのは、モービル・プロデューシング・ナイジェリア社のクワイボエ・ターミナル(Mobil
Producing Nigeria、 Qua Iboe Terminal)で、貯蔵タンクのリムシール部で発生した。
モービル・プロデューシング・ナイジェリア社のクワイボエ・ターミナル付近の風景
(写真はグーグルマップから引用)
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■ エクソンモービル社は、雷を伴った嵐によって6月27日(金)にアクワ・イボム州にあるモービル・プロデューシング・ナイジェリア社クワイボエ・ターミナルにおいてタンク1基が火災を起こし、
6月29日(日)に油流出があったことを発表した。この事故に伴う死傷者は出ていないという。
■ 会社によると、火災によって大量の油が焼失したといい、流出した油量は分かっていないという。会社の発表では、6月27日(金)現地時間の正午頃、タンクに落雷があり、火災が発生したが、その日のうちに鎮火したという。6月29日(日)再び、ターミナルに落雷があり、停電となり、その結果、油流出が起こった。会社の発表では、油封じ込めの緊急対応システムが発動され、海岸の環境復元作業を開始し、関係機関と地域社会のリーダーに連絡したという。
■ 米国の石油巨大企業であるエクソンモービル社は、ナイジェリアのニジェール・デルタ東部地区においてクワイボエ・ターミナルを操業しているが、取扱量はナイジェリアの国内生産量の20%に相当し、主に輸出されている。この施設は原油生産が沖合であるため、ほかの地区で起こっているような破壊活動や油の窃盗は見られない。
■ 6月30日(月)のエクソンモービル社広報担当は、落雷による停電のために起こった油流出は“極く少量”だと語った。
■ 原油の流出はわずかだっという会社側の簡単な発表に対して、地元住民は漏れた原油がイベノ海岸線に広がっている証拠があると主張している。地域社会のリーダー達は、責任回避のため流出があったことを否定するかのような会社側を非難している。いくつかの沿岸地域では、大量の油流出による影響を受けていると付け加えた。
■ イベノ地域社会のイウオ・オクポム・コミュニティの長であるオコン・アクパヌボング氏は、エクソンモービル社の子会社であるモービル・プロデューシング・ナイジェリア社によって操業されているタンク基地から確かに油が流出していると語った。アクパヌボング氏は、会社の経営者として流出油のクリーンアップを早急に終わらせるべきだと強く主張し、さらに経営陣は現場を査察して、コミュニティに対して復旧を約束すべきだと語った。
ナイジェリア職人漁師協会のイベノ地区コーディネータであるジョン・エティム氏は、今回の油流出によってイベノ地区漁業コミュニティは言い表せないほどの難儀を受けることになると語った。この地域の魚たちは隣国の領海の方へ移動していくことになり、この地域の漁業は今後数か月、悪い影響を被ることになるだろうと、エティム氏は語った。
■ 油流出によって、アクワ・イボム州イベノ地区のヌクパナ、エイェット・イコット、エスカ・エケメの3つのコミュニティが影響を受けている。村長(むらおさ)は、会社が進出して以来、一連の流出事故があり、このような形でモービル社への信頼が失われることは非常に残念だと語っている。村長の話によると、「土曜(6月28日)の夜、激しい豪雨と雷雲が通過した後、貯蔵施設から別な大量流出があった。流出は海へ流れ、沿岸のコミュニティ地域へ漂着した」という。
■ モービル・プロデューシング・ナイジェリア社クワイボエ・ターミナルのアカニヌィエンス・エシエレ広報部長は、構外に流出した油の量は約12バレル(2KL)だと語った。同社は、先週、火災事故があったことを報告しているが、落雷のせいだとしている。今回の流出事故が落雷や火災事故に関連しているのかはっきりしていない。
■ 環境保護団体のピース・ポイント・アクションは、今回の流出事故についてつぎのように伝えている。
「エクソンモービル社のナイジェリア部門であるモービル・プロデューシング・ナイジェリア社は、アクワ・イボム州の操業基地において、また別な流出事故を起こした。流出は2014年6月29日(日)に起こったもので、地元コミュニティによると、漏れ量は15,000バレル(8,850KL)で大西洋の海岸線に流れ出ている。地元コミュニティのニュース源によれば、油流出は夜の漁に出かけた漁師によって最初に発見されたという」
■ 7月6日(日)、エクソンモービル社のタンク基地には、多くのデモ隊が押し寄せ、環境復元作業に失敗した会社側へ抗議をいい、地域コミュニティへの賠償を要求した。この騒ぎの背景には、2012年8月13日の大量流出事故の経緯がある。油流出の影響は海岸線35kmにわたったが、伝えられるところによると、エクソンモービル社は、最初、油流出事故を否定していた。その後、地域コミュニティにクリーンアップを約束し、賠償に応じるとした。しかし、流出対応は最小の努力しか行われず、賠償も払われていないと、この地区のコミュニティ・リーダー達は不満を述べている。この最初の流出事故以来、小さな油流出は何度も起こっているが、地域コミュニティはエクソンモービル社から何の賠償も受け取っていないという。
海岸に漂着した油膜
(写真はsaharareporters.com
から引用)
注:死んだ魚が写っているが、油汚染によるものかは疑問が残る。
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補 足
■ 「ナイジェリア」は、アフリカ西部に位置し、正式にはナイジェリア連邦共和国で、イギリス連邦加盟国である。南部は大西洋に面しており、かっては奴隷海岸と呼ばれていた。人口は1億7,400万人で、首都はアブジャである。
「アクワ・イボム州」(Akwa
Ibom)は、ナイジェリア南部に位置し、大西洋に面しており、人口は約480万人、州都はウヨ(Uyo)である。アクワ・イボムの名称はクワイボエ川(Qua
Iboe River)からとったもので、近年、ナイジェリア国内で最大規模の石油・ガス生産の州として知られている。
■ 「ニジェール・デルタ」は、ナイジェリア南西部に位置するニジェール川の三角州地帯である。1950年代後半に始まった油田開発以降、ニジェール・デルタは産油地帯となり、アフリカ最大の石油産出国となり、生産量は日量200万バレルに上る。
一方、ニジェールデルタ地域の大半は沼地という脆弱な環境にあり、原油の流出が頻繁に起きている。環境保護団体は規制取締りの手ぬるさに加え、パイプラインから日量15万バレル以上の原油を盗む犯罪集団を非難している。このように石油生産に伴う環境破壊が深刻な上に、石油収入の配分の偏りなどから国内紛争の要因のひとつになっている。
ニジェール・デルタの油汚染の例
(写真はourworld.unu.ed
から引用)
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■ 「モービル・プロデューシング・ナイジェリア社」(Mobil
Producing Nigeria)は、エクソンモービル社とナイジェリア国営石油公社(Nigerian National Petroleum
Corporation:NNPC)の合弁企業で、1955年に設立された。権益はナイジェリア連邦政府が60%、残り40%をエクソンモービル社が持っている。モービル・プロデューシング・ナイジェリア社は、ビアフラ湾の30~60km沖合から日量40万バレルのクワイボエ原油を生産し、アクワ・イボム州のクワイボエ・ターミナル(Qua
Iboe Terminal)へ海底パイプラインを通じて送油している。クワイボエ・ターミナルはクワイボエ川東岸に位置し、原油タンク9基で71万KLの貯蔵能力を有する。着船能力312,000DWT、水深22mの桟橋を有している。(グーグルマップによると、直径約90mの浮き屋根式タンクが見え、容量は8万KL級となる。このほか6基の大型タンクが見える)
モービル・プロデューシング・ナイジェリア社のクワイボエ・ターミナル(奥側)
(写真はpanoramamio.comから引用)
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所 感
■ 世界で最も雷活動の高い地域は中央アフリカであり、このほかアフリカでは、ナイジェリアを含め、大西洋に面した沿岸国も雷活動は高い。ナイジェリア付近は落雷の多い米国メキシコ湾岸の各州と同じレベルにある。(「NASAによる世界の雷マップ」を参照) まわりの樹木などの状況によるが、ナイジェリアの石油タンクで落雷による火災が起こっても不思議ではないといえる。
NASAの雷マップ
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■ 今回のモービル・プロデューシング・ナイジェリア社で起こった落雷によるタンク火災は、消火活動の状況を含めてよく分からないが、リムシール火災でとどまったようである。直径90m、容量8万KL級の大型原油タンクであり、火災が進展すれば、ボイルオーバー発生の危険性もあり、全面火災にならなかったことは幸いだった。
■ 今回、落雷によるタンク火災が収まったのち、油流出事故が起こっている。この事故の方は状況がまったくはっきりしない。今回の報道と過去のナイジェリア国内の石油汚染状況も加味して総合的に考えると、つぎのように推測する。
● 石油ターミナルから構外への油流出は6月29日(日)に起こった。この要因が落雷による停電が本当に関係しているかはわからないが、おそらく、雨水排水系統から少量の油(会社発表で2KL)が漏れたものと思われる。
● 6月28日(土)に海岸線を汚染する油が漂着しているが、当日も激しい豪雨があり、これはクワイボエ川を通じて流れ出た上流の油田地帯における汚染油ではないかと思われる。(地元コミュニティによると8,850KLとあるが、量の信ぴょう性は疑問)
過去の油流出事故後の対応のまずさから、地元住民とモービル・プロデューシング・ナイジェリア社の信頼関係は希薄になっており、問題が複雑化した。本来は、ナイジェリア国営石油公社ーナイジェリア政府が前面に立って、実際に汚染されている海岸線のクリーンアップを行なうべきであろう。(上流の油田地帯の汚染をクリーンアップする必要性に発展するが)
備 考
本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Bloomberg.com, Exxon Mobil Reports Fire, Oil Spill
at Nigeria’s Terminal, June 29, 2014
・Nasdaq.com,
Exxon Mobil Confirms Small Oil Spill, Fire at Nigeria
Operation, June 30, 2014
・Nigeriannet.com,
Fire at Exxon-Mobil Nigeria’s Qua-Iboe Facility, June
30, 2014
・Saharareporters.com, Fresh Oil
Spill Recorded in Ibeno Local Government Area of Akwa
Ibom State, July 01, 2014
・Shipsandports.com, Mobil’s Oil
Spill Pollutes 3 Communities in Akwa Ibom,
July 04, 2014
・Sciencythoughts.blogspot.jp, Exxon
Mobil Facility in Akwa Ibom
State, Nigeria, Occupies by Protestors, July 07, 2014
・Leadership.ng, Oil Spill: Akwa
Ibom Community Shuts Down ExxonMobil,
July 07, 2014
後記: 今回のナイジェリアにおける事故の最初の報道は簡単なものでしたが、一週間ほど経つと社会問題化した報道に変わりました。ナイジェリアの石油汚染、破壊活動、油の窃盗の問題は複雑で、容易に踏み込めない領域です。いうことで、この点の情報は最小限にとどめました。
新幹線の車窓からの風景 |
ところで、以前の後記で出光徳山製油所のプラント解体工事を紹介しましたが、そのときプラントに沿って新幹線が走っているので、車窓からよく見えるのではないかと書きました。先日、新幹線に乗る機会があり、注視していましたが、クレーンは見えても、緑地帯の樹木の影になり、解体状況はほとんどわかりませんでした。木々は40年ほど前に植樹されたものですが、プラントは衰退していくのに比べ、木は随分大きくなるものですね。
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