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2017年10月1日日曜日

米国テキサス州バレロ社ポートアーサー製油所で重油タンク火災

 今回は、2017年9月19日(火)、テキサス州ジェファーソン郡ポートアーサーにあるバレロ・エナージー社のポートアーサー製油所で、コーカー装置への原料供給用の重油タンクが爆発して火災となった事例を紹介します。
(写真はBeaumontenterprise.com から引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、テキサス州(Texas)ジェファーソン郡(Jefferson County)ポートアーサー(Port Arthur)にあるバレロ・エナージー社(Valero Energy Corp.)のポートアーサー製油所のタンク施設である。

■ 発災があったのは、ポートアーサー製油所の重油タンクで、重質油分解用のコーカー装置への原料供給タンクとみられる。発災タンクがあるところは、ポートアーサー市の西部でハイウェイ82号線と87号線の交差点近くの製油所構内である。

■ バレロ・エナージー社ポートアーサー製油所は精製能力33.5万バレル/日である。今年8月下旬に襲来したハリケーン・ハービーによる豪雨よって市が洪水になり、ポートアーサー製油所は操業を停止したが、9月上旬から運転を再開し始めていた。
ポートアーサーにあるバレロ・エナージー社のポートアーサー製油所付近 
(写真はGoggleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2017年9月19日(火)午前11時50分頃、ポートアーサー製油所のタンク施設にある重油タンクで爆発が起った後、火災となった。タンクから真っ黒い煙が立ち昇った。

■ 発災に伴い、ポートアーサー製油所の自衛消防隊が消防車3台と泡原液搬送車を出動させて対応し、さらにポートアーサー消防署が支援で出動した。

■ 製油所内から立ち昇る黒煙の柱は午後1時頃まで続き、その後、煙は黒色から黄色へ変わり、その後灰色へと変化していった。火災は午後5時頃には制圧された。

■ 地元の住民によると、昼頃に大きな爆音が聞こえたという。市は予防的対処として、午後12時30分、市の西部地区の住民に避難または身の安全を確保するよう指示を出した。この中には、地域内にある学校の生徒も含まれた。解除されたのは午後2時30分だった。バレロ・エナージー社は地元自治体と連携をとって対応しているといい、作業員と地域住民の安全を確保することが重要だと語った。

■ タンク火災に伴い、ハイウェイ82号線沿いはハイウェイ87号線から7番通りまで交通規制が行われた。

■ この事故に伴ってケガをした人は無かった。
(写真はBeaumontenterprise.com  から引用)
(写真は12newsnow.com から引用)
被 害
■ 重油タンク1基が爆発・火災で損壊した。また、タンク内の重油の一部が焼失した。

■ 油燃焼により約100万ポンド(454,000kg)の汚染物質が大気に放出された。

■ 事故に伴う負傷者は無かった。
 火災発生に伴い、地元住民の一部が避難した。

< 事故の原因 >
■ 事故原因は調査中であり、不詳である。

■ 9月22日(金)にプラントの関係者が明らかにしたところによると、19日(火)の火災が起こる前に、製油所のコーカー装置供給用重油タンクを補修していたという。重油タンクは、9月11日の週に内部の残渣油が燃焼して、その熱によって一部が焼損し、機能していなかったという。関係者は損傷や補修が火災に要因となる可能性についてはよく分からないと語っている。この件について22日(金)時点では、バレロ・エナージー社の回答はない。

< 対 応 >
■ 地元メディアは、バレロ・エナージー社にはハリケーン・ハービーに続いて製油所の操業復旧を阻止するような事故だと報じている。バレロ・エナージー社CEO(最高経営責任者)のジョー・ゴーダー氏は、先週、 9月上旬に操業を再開し始め、製油所の稼働は40~50%まで回復したと語っていた。しかし、専門家によると、フル稼働になるまでには9月一杯かかるだろうと分析していた。

■ コーカー装置は、損壊した重油タンクをバイパスして9月22日(金)に運転を再開した。コーカー装置には予蒸留装置があるが、この予蒸留装置は停止したまま、稼働率を落として運転している。

■ 損壊した重油タンクの補修には数か月かかるだろうとみられる。隣接しているタンクも損傷している模様である。

■ タンク火災によって約100万ポンド(454,000kg)の油の燃焼物質が大気に放出された。テキサス州環境品質委員会へ提出された報告によると、煙、煤、埃、粉塵などの粒子状物質は約64,000ポンド(29,000kg)が放出された。これらの物質を一度吸入すると、肺や心臓に影響を与え、重大な健康への影響を与える。このほかに一酸化炭素が約135,000ポンド(61,000kg)、二酸化硫黄が約120,000ポンド(54,000kg)が放出された。環境保護市民団体である“環境テキサス”は、データが当事者会社による速報値にもかかわらず、火災によって大量の汚染物質が明らかに放出されたことを示すものであると指摘した。最終報告は事故後、2週間以内に提出されることになっている。
(写真はExpressnews.com から引用)
(写真はExpressnews.com から引用)
(写真はExpressnews.com から引用)
補 足
■ 「テキサス州」(Texas)は、米国南部にあり、人口約2,780万人の州で、州都はオースティンである。
 「ジェファーソン郡」(Jefferson)は、テキサス州の東南部に位置し、人口約25万人の郡である。   
 「ポートアーサー」(Port Arthur)は、ジェファーソン郡の東南部に位置し、人口約54,000人の都市である。
                テキサス州のポートアーサー周辺   (写真はGoggleMapから引用)
■ 「バレロ・エナージー社」(Valero Energy Corp.)は、1980年に設立された石油を主としたエネルギー会社で、テキサス州サンアントニオを本部に米国、カナダ、英国、カリブ海で事業を展開している。
 ポートアーサーには、精製能力33.5万バレル/日の製油所を保有している。このほか、テキサス州には、コーパスクリスティ製油所(20.5万バレル/日)、ヒューストン製油所(10万バレル/日)、マッキー製油所(20万バレル/日)、テキサスシティ製油所(22.5万バレル/日)、スリーリバーズ製油所(8.9万バレル/日)を保有している。

 バレロ・エナージー社は今年8月下旬に襲来したハリケーン・ハービーによって影響を受け、テキサス州にあるポートアーサー製油所、コーパスクリスティ製油所、ヒューストン製油所、テキサスシティ製油所、スリーリバーズ製油所の5つの製油所の運転停止または減産を強いられた。また、ポートアーサーから西へ140kmほど離れたところにある同社のヒューストン製油所では、浮き屋根式タンク1基の浮き屋根が豪雨により沈降し、貯蔵されていた原油が防油堤内に漏洩した事故が起きている。(「米国テキサス州でハリケーン上陸による石油施設の停止と油流出」を参照) 環境保護庁(EPA)は、ヒューストン製油所のタンク事故に関してベンゼン放出の同社の分析は過小評価だと指摘している。

■ 発災した重油タンクはコーカー装置の原料(常圧蒸留装置または減圧蒸留装置の残渣油)供給用であるので、固定屋根式タンクで内部に加熱コイルが設置され、保温付きタンクである。タンクの場所を発災写真をもとにグーグルマップで調べてみたが、特定できなかった。従って、タンクの大きさを推定することができなかった。

所 感
■ 今回の重油タンク事故は、タンク屋根が崩壊するような爆発が起こって火災になったものとみられる。従って、何らかの要因で軽質油が混入し、タンク上部に爆発性混合気が形成し、爆発したのではないかと思われる。この点、 2006年5月、神奈川県川崎市で起った「東亜石油京浜製油所のアスファルトタンク火災事故」(および「減圧残渣油貯蔵タンク火災」を参照)に類似した事例のように思う。

■ 一方、 火災が起こる前の週に、重油タンクでは内部の残渣油が燃焼して、その熱によって一部が焼損し、機能していなかったという情報がある。重油タンクは補修されたようだが、損傷や補修が火災に要因となる可能性についてはよく分からないという。これは硫化鉄による発火事象のように思う。しかし、短期間に内部の油を抜いて清掃し、補修を行うということは難しい。事実はよく分からないが、運転・保全関連に非定常作業があったと思われる。
 今年8月下旬に襲来したハリケーン・ハービーによる影響で、バレロ・エナージー社ポートアーサー製油所(精製能力33.5万バレル/日)は操業の停止を強いられ、9月上旬から運転を再開し始め、所内はてんてこ舞いの状況だと思うが、事故の情報公開に消極的なように感じる。(所内では、現場の状況について正確に把握できていないのかも知れない)

■ 米国では、タンク事故への対応のひとつとして、大気汚染(空気質)への影響(評価)について厳しく追及される時代になっている。これまでは、地域住民の避難は事故の拡大を懸念して行われるのが通常だったが、現在は大気汚染(空気質)への影響を考慮される。そして、事業者は油の燃焼(あるいは油面の大気曝露)によって発生した汚染物質の量について定量的なデータを報告しなければならない。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
      ・12newsnow.com, Shelter-in-place Lifted following Heavy Oil Tank Fire at Va Refinery in Port Arthur,  September 19,  2017   
      ・News.morningstar.com, Valero says No Injuries at Port Arthur Refinery Tank Fire,  September 19,  2017     
    ・Sfgate.com, Crews Respond to Fire at Port Arthur Refinery,  September 19,  2017     
      ・Expressnews.com, Fire at Valero Port Arthur Refinery Appears to Damage Storage Tank,  September 19,  2017
      ・Hazmatnation.com, Heavy Oil Tank Fire at Valero Port Arthur,  September 20,  2017
      ・Beaumontenterprise.com, Valero Fire Released 1M pounds of Emissions,  September 21,  2017
      ・Reuters.com, Valero Port Arthur Tank being Repaired Shortly before Fire,  September 23,  2017
      ・Reuters.com,  Valero Restarts Port Arthur Texas Refinery Coker: Sources,  September 25,  2017



後 記: 今回の事故情報で時間を費やし、悩んだのが、発災タンクの場所です。複数の発災写真があり、グーグルマップで製油所内外を探し始め、ストリートビューで確かめていきましたが、特定に至りませんでした。
 その最大の要因が、最も鮮明に写っているタンク火災の写真(下記)です。ほかの写真と異なり、障害物のないものです。米国では、敷地内に入って撮影することはほとんどありません。この写真を見ると、敷地境界線からそれほど離れた場所ではなさそうなので、公共の道路まわりに近い場所を探しました。しかし、該当しそうなところがありません。コーカー装置の原料供給タンクであり、コーカー装置に近い場所に設置されているのではないでしょうか。結局、タンクの場所を特定することは諦めました。
 このことによって、鮮明に写っているタンク火災の写真に真偽の疑問が出てきました。この写真にはピックアップトラックが写っていますが、ほかの発災写真にもピックアップトラックが見られます。しかし、比較してみると、窓の形やドアの模様が違っています。写真は発災直後に構内で撮影されたものかもしれませんが、判断がつきません。最初は標題の発災写真にしようと思っていましたが、疑問を感じた以上、当該事故の写真として扱うことはやめました。


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