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2015年11月23日月曜日

ベルギーの油槽所で油流出による運河や敷地の環境汚染(2002年)

 今回は、フランス環境省(現:フランスエコロジー・持続可能開発・エネルギー省)がまとめているARIA(事故の分析・研究・情報)の中のひとつで、2002年、ベルギーで起きた「燃料油の漏洩および水路への汚染/構内の汚染」(Leaks of fuel oil and pollution of waterway /Pollution of the site )の資料を紹介します。
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、ベルギーで石油製品の貯蔵・配給の卸業を行っている会社の油槽所である。事故は、この会社のブリュッセルにある施設の2つの別な現場で起った。両施設ともセベソ指令Ⅱに従う必要があった。施設は完全自動運転で、両方の施設の監督はひとりだけだった。施設間の距離は約1.5kmで、まずまず近い方だった。
ブリュッセルの運河と発災施設付近(現在)
(写真はグーグルマップから引用)
■ 事故が起った時点では、両施設とも土壌汚染に関する対策は確立していた。安全性評価は進行中だった。実施したセベソの検査官は、数点の不足点を指摘していた。

■ 運河沿いにあるこの施設を操業するプロセスは極めてシンプルである。油槽船が施設の貯蔵タンクへ油を輸送し、タンクからタンクローリー車へ油を移送する。
■ 発災のあった現場1は、暖房用オイル用で貯蔵量が6,000KLだった。現場2は、暖房用オイルとタイプC燃料用で貯蔵量が8,225KLだった。

< 事故の状況および影響 >
事例1: 2002年8月22日における現場1の事故
■ 流出の事態は、会社の対岸に住む女性からの通報でわかった。その人は当局とテレビ局へ知らせた。BIMEの検査官が現場に到着したときには、すでに警察がその目撃者に質問していた。

■ 流出は荷揚げ中の油槽船“ジョルジェ号”から起った。下図は現場の配置状況を示す。図中の赤色の長方形が油槽船である。
“ジョルジェ号”(赤色の船)、 “マルゲリータ号”(緑色の船)
■ 漏洩が分かってからすぐに、近くにいた“マルゲリータ号”(図の緑色の船)が“ジョルジェ号”の横に寄って行き、流出油を囲い込もうとした。しかし、作業は風と流れによって阻まれた。流出が広がらないように消防隊がオイルフェンスを二線展張した。消防隊は、水面の燃料油を移送するポンプ設備を保有していなかったので、民間防衛隊の出動を要請した。

■ ハーバー・オブ・ブリュッセル(ブリュッセル港組合)の環境保全の職員は運河の航行を止め、流出油を封じ込めるため、さらに二線のオイルフェンスを展張した。この後、民間防衛隊がフローティング・ポンプを持って出動してきた。運河からポンプで回収できなかった残りの油膜は界面活性剤で分散させた。

結 果
■ 事故に伴って運河へ流出した燃料油は約2KLだった。大半は消防隊と民間防衛隊によって回収された。

事例2: 2002年12月13日における現場2の事故
■ 2回目の事故は、1回目の事故のわずか数か月後に、同じ会社内の別な場所で起った。

■ 通常、油槽船は1番目のタンクから荷揚げを始める。油槽船の容量はタンクの容量より多いのが普通である。 1番目のタンクがほぼ一杯になれば、アラームが鳴る。このアラームによって、現場マネージャーは別なタンクへの切り替えを始めるタイミングであることを知る。

■ 当該事故では、油槽船からタンクへ通常どおり荷揚げを始めた。しかし、オペレーターは他の仕事のことで気が散っていて、アラームの音を聞き逃してしまった。このため、タンクから溢流させてしまった。
■ 検査官たちが現場へ到着したとき、消防隊とハーバー・オブ・ブリュッセル(ブリュッセル港組合)はすでに帰ったあとだった。彼らは、事故がタンクまわりの壁で封じ込められていると判断し、構外への環境汚染の恐れはないとみていた。
■ タンクと壁の間の距離がどのくらいの近さなのか確認するため、検査官たちはもう少し調査を続けると決めた。 
■ 溢流のあったタンクの上に立って、検査官たちは燃料油が封じ込めの壁を越えて外へ出ているのを発見した。壁自体も水密性では無かった。

結 果
■ 漏れた燃料油の量は、壁の内側で3KL、壁の外で2KLと推定された。油は回収され、それから当該事業所によって除染された。

欧州基準による産業事故の規模
■  1994年2月、セベソ指令を司るEU加盟国管轄庁の委員会は、事故の規模を特定するために18項目のパラメーターを用いる評価基準を適用した。わかっている情報をもとに検討された結果、当該事故は4つの分類項目に対してつぎのように評価された。
■ 「危険物質の放出」は、漏洩した燃料油が2KLと5KLだったので、レベル1と評価された。

< 事故の原因 >
事例1: 2002年8月22日における現場1の事故
■ タンクへの充填が終えると、ローディング用ホース内に少しエアを押し込み、残った油をタンク側へ入れ、ホースを空にするのが標準的な手順である。つぎに、油槽船から現場マネージャーへタンクのバルブを閉めるように連絡しなければならない。そうすることによって、油槽船はホースの接続を外すことができる。

■  しかし、このとき“ジョルジェ号”では、タンクのバルブをすでに閉めたと思い込み、タンク施設側との事前の確認無しにホースの接続を外してしまった。

■ この事故の原因は、すぐに相手に伝える連絡の方法が不十分だったことと、荷揚げ作業時のコミュニケーション不足である。
事例2: 2002年12月13日における現場2の事故
■ 当該事故では、運転手順を正しく遵守することを怠ったことが問題を引き起こした。また、使用されている装置も必ずしも適切なものとはいえなかった。

■ タンクと封じ込め用の壁が極めて近かったという事実のほかに、タンクの切り替え用のバルブが深いのぞき穴のようなところに設置されており、実際、操作はやりずらいものだった。
< 対 応 >
事例1: 2002年8月22日における現場1の事故
■ 事故後、公用水系の保護に関する1971年の法律違反および環境に関する1997年の条例違反によって、会社は罰金を科せられた。

■ 地元テレビ放送局が事故を報道しなかったことを知って、通報した女性は会社の環境に関する違反について訴えた。  

事例2: 2002年12月13日における現場2の事故
■ 流出した燃料油が運河に達することはなかったが、会社は環境に関する1997年の条例違反とされた。

■ これら2件の事故のあと、検査官は会社に対してつぎのような設備や機材の改善を要求した。
   ● オイルフェンス(総延長:油槽船の周囲×2倍)
   ● 油吸収材の保有
   ● 二か国語による荷役業務手順の説明書
   ● 安全標識および配管標示
   ● 油供給エリア内のピットの水密性の強化、およびピットからオイル・セパレーターへの接続化
   ● 各タンクに溢流防止装置の設置
   ● 損傷劣化しているピットの取替え、ただし、安全距離に従うこと
   ● 遮断バルブの設置
   ● 新しい油供給ピットエリアを設けること (油槽船と接続できること)
   ● 荷揚げ運転中にタンク液位を確認できるよう、タンク内にレーダー式検出器の設置
       (これには警報表示と聴覚警報を付けること)

< 教 訓 >
■ 2件の事故後、両現場における環境に関わる規制が見直された。

■ 当該会社は、ベルギーにおける全事業所の安全レベルを標準に達するように、アドバイザーを雇った。
さらに、会社は、また、いくつかの請負会社と契約を結び、設備と安全装置について定期的に点検することにした。オペレーターは、セベソ指令の義務(安全と環境保全)を果たすために、新しい行動計画をまとめた。

■ 結論として、これらの事故は、ほかの事業所でもありうるつぎのような問題点を提起した。
  ● この種の運転は、別な会社と一緒に遂行する必要がある。直面した問題について、会社の従業員でない人間といかに共同してコントロールしていくことができるか、また仕事において従業員でない人間にいかにして現場の手順、特に安全に関する事項を理解させることができるかである。
  ● この種の貨物船の場合、よそから来た人が話す言語が問題になる。特に、遠い外国から来た船との業務では、ブリュッセルにおいて通じる言葉がフランス語とドイツ語だけだという問題がある。
  ● 防油堤の壁とタンク間の距離は、少なくとも、タンク高さの1/2以上とすべきである。
  ● 会社で策定する運転手順書は、わかりやすく、簡単で、全現場で同じものにすべきである。

■ 会社に非常に良い防止システムをもっていたとしても、事故のときに、すぐ使えるように常に適切に整備しておくべきである。


補 足
■ 「ベルギー」(Belgium)は、正式にはベルギー王国で、西ヨーロッパに位置する連邦立憲君主制国家である。人口は約1,100万人である。
 「ブリュッセル」(Brussels)がベルギーの首都であるほか、欧州連合(EU)の主要機関の多くが置かれているため、“EUの首都”とも言われている。ブリュッセル市の人口約17万人のうち、約6万人が外国人(うち36,000人がEU市民、24,000人が非EU市民)となっている。 
                       ベルギーのブリュッセルの位置     (写真はグーグルマップから引用)
■ 発災のあった会社は、ベルギーの石油貯蔵・配給の卸業を行っているコンチネンタル・タンキング・カンパニー(Continental Tanking CompanyCotanco)とみられる。1964年に設立され、ブリュッセルにある油槽所の現場1はタンク7基で6,000KLの貯蔵能力を有し、現場2はタンク6基で8,225KLの貯蔵能力を保有していた。
 ブリュッセルにある発災のあった2つの施設をグーグルマップのストリートビューで見ると、下の写真のとおりである。事例2(2002年12月13日)のあった施設の防油堤兼境界壁は改造されているように見える。
事例1(2002822日)のあった施設(現在)
(写真はグーグルマップから引用)
事例1(2002822日)のあった施設と運河(現在)
(写真はグーグルマップ・ストリートビューから引用)
事例2(20021213日)のあった施設(現在)
(写真はグーグルマップから引用)
事例2(20021213日)のあった施設(現在)
(写真はグーグルマップ・ストリートビューから引用)
事例2(20021213日)のあった施設(現在)
(写真はグーグルマップ・ストリートビューから引用)
■  「フランス環境省 : ARIA」(French Ministry of Environment : Analysis, Research and Information on Accidents)は、フランス環境省(現:フランスエコロジー・持続可能開発・エネルギー省 French Ministry of Ecology, Sustainable Development and Energy)がフランスにおいて発生した事故について情報を共有化し、今後に活用するため、1992年から始めた事故の分析・研究・情報のデータベースである。有用な海外事故も対象にしている。

所 感
■ 漏洩量が少ない割に、ARIAの重大事故に選ばれたのは、ごく普通の油槽所においてよくありそうな失敗による事故であるためだと思う。(事故の状況や写真を見ると、漏洩量が少なすぎるように感じるが)
 ごく普通の油槽所は、自分ところでは事故は起こらないと思っていたり、小さな事故が発生してもたまたまだと思っているのではないだろうか。ところが、当該事故のように連続して起こってみて、第三者の評価を受けて、初めて自らの脆弱さ(例えば、報連相の不足、防油堤を兼ねた境界壁、操作しずらい切替え弁の設置場所など)に気がつく。 

■ 油槽所の管理者(経営者)に是非読んでもらいたいと思って、ARIAは当該事例をまとめただろう。それは、うすうす感じている弱点について事故が起こってから改善するのではなく、自ら先手を打って対応してもらいたいという思いがあるからだろう。これは、単にフランスやベルギーだけでなく、日本を含めてすべての油槽所が対象になると思う。

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Aria.development-durable.gouv.fr, Leaks of fuel oil and pollution of waterway /Pollution of the site,  
22 August and 13 December, 2002,  Brussels – [Brabant],  Belgium,  DPPR / SEI / BARPI - No. 26981 and 26982,  Sheet updated: November 2003


後 記: ARIA事例はフランスでまとめられた資料ですが、今回のベルギーで起こった事故をブログに載せようと思っているときに、フランスのパリで同時多発テロが起きました。この事件は隣国ベルギーと関係があると報じられ、ブリュッセルがテロリストの拠点だというニュースが流れている中で、このブログの補足でブリュッセルについて調べていました。ブリュッセル市の人口約17万人のうち、約6万人が外国人で、うち36,000人がEU市民、24,000人が非EU市民だということを初めて知りました。今回の事故情報で外国船とのコミュニケーションの問題が指摘されていますが、ブリュッセルには、もっと深刻な問題が潜んでいるようです。ベルギー(ブリュッセル)の場所を紹介する地図では、パリとの位置関係のわかる範囲にしました。捜査が行われているブリュッセルのモランベーク地区は、今回の発災施設から運河を少し北へ上ったところです。こぎれいな運河周辺の風景(グーグルマップ・ストリートビュー)を見ながら、油槽所のことだけでなく、いろいろ考えてしまいました。

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