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2015年11月15日日曜日

米国オクラホマ州で消火活動中に横型円筒タンクが爆発、3名負傷

 今回は、2015年10月12日、米国オクラホマ州タルサ郡オワッソの採石場にあるベッコ・コントラクター社所有の舗装用アスファルトを製造するタルサ・アスファルトにおいて、消火活動中に横型円筒タンクが爆発して負傷者の出た事故を紹介します。
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国オクラホマ州タルサ郡オワッソ(Owasso)にある採石場のアスファルト施設である。施設はベッコ・コントラクター社(Becco Contractors Inc.)所有の舗装用アスファルトを製造するタルサ・アスファルト(Tulsa Asphalt)で、場所はオワッソ郊外の66北通りと北4040道路の交差点近くにある採石場の中にある。ベッコ・コントラクター社は1988年に設立され、オクラホマ州タルサを本拠地にして、主に舗装事業を行っている。

■ タルサ・アスファルトは、この地区に2箇所のアスファルト施設を有し、オワッソの南にある施設で発災した。発災のあったアスファルト施設には、7基の横型円筒タンクがあり、アスファルト・エマルジョン用3基、バーナー燃料用3基、ディーゼル燃料用1基だった。
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2015年10月12日(月)午前8時頃、アスファルト施設で火災が起った。ロジャー郡緊急事態対応局長のスコット・ストークス氏によると、12日月曜の朝、従業員がタンクを掃除しているときに火災が始まったという。7基のタンクまわりで火炎が上がり、火災による黒煙は数マイル離れたところからも見えた。

■ 火災発生に伴い、ライムストーン消防署など地元の消防署が出動した。消防隊は発災場所にある7基のタンクまわりの火と戦い、主にタンクへの冷却放水を実施した。

■ 火災がほぼ消えかかっていた12日(月)午前11時35分、突然、バーナー燃料用タンク1基が爆発を起こした。爆発によって破片が少なくとも100ヤード(90m)の範囲に飛び散った。また、燃料油が流出したため、火炎が広がった。

■ この爆発によって消防士3名が負傷した。うちふたりは病院へ搬送されて治療を受けているが、生命を脅かすほどではないという。ひとりは軽い火傷を負い、現場で手当てを受けた。

■ 当局は、爆発したタンクの安全弁が故障していたのではないかとみている。オクラホマ州自治体委員会の話によると、火災に巻き込まれているタンクは7月に検査され、大きな問題は無かったという。

■ 12日(月)午後3時過ぎ、火災は鎮火した。

被 害
■ 事故に伴い、消防士3名の負傷者が出た。
■ 施設のタンク1基が爆発し、そのほか6基のタンクが火災で被災しているが、被災の程度や範囲はわかっていない。また、爆風によってフロントガラスが粉々に割れた消防車両があるが、被災した車両数や程度はわからない。


(写真はいずれもTulsaworld.comから引用)
< 事故の原因 >
■ タンクを掃除しているときに火災が始まったというが、火災の起きた原因は分かっておらず、原因は調査中である。
■ OSHA(米国安全衛生労働局)が爆発の原因調査に乗り出すという。

■ 事故の直接原因に関係していないが、メディアのFOX23はつぎのように報じている。
  ● ベッコ・コントラクター社は、2007年以降、オクラホマ州労働局から7件の法律違反の指摘を受けている。
  ● この5月には、建設現場において掘削要件を満たしていないとして1,500ドル(33万円)の罰金を科せられている。
  ● 2013年の別な違反では、保護システムの必要事項を満たしていないとして7,000ドル(150万円)の罰金を科せられている。
  ● 同社は、過去に2名の死者を出す人身災害を起こしている。2013年には、ピックアップトラックによる作業者の死亡事故があり、2008年には、ブルドーザーによる作業者の死亡事故を起こしている。2013年の事故では、安全規則違反と教育実施違反により7,500ドル(160万円)の罰金を科せられている。

< 対 応 >
■ ライムストーン消防署は火災発生の通報を受け、出動した。そして、他の消防署へ応援を要請した。オワッソ消防署、カトゥーサ消防署、クレアモア消防署、予備役の空軍州兵の消防士などが応援で駆けつけた。

■ 消防隊は、当初、防御的戦略をとり、タンクが火炎によって熱くならないよう主に冷却放水を行った。ロジャー郡緊急事態対応局のストークス氏は、「7基のタンクはいずれも爆発性の高いものとはいえないが、タンク内の圧力が高くなると、爆発を引き起こす可能性がある」といい、このための冷却放水だったという。

■ 爆発で負傷者が発生したときの消防隊の状況について、ロジャー郡緊急事態対応局のストークス氏は、「出動したのは全員地元の消防士で、感情的に動揺が走った。彼らは全員が友達であり、全員が兄弟姉妹というつきあいの仲間だった。けが人が出たことを知ると、火災への注力が削がれ、落ち着きを取り戻して持ち場に戻るまでにやや時間がかかった」と語った。

■ 風が強く、消防活動は難航した。しかし、消防隊の最大の懸念事項はタンクの冷却が保持できるかどうかだった。消防隊によると、消防活動で最も難儀したのは発災現場近くに消火栓が無く、最も近いところで1マイル(1.6km)離れた消火栓まで行き、給水車6台を折り返し運転して対応した。さらに、この消火栓が壊れてしまったので、さらに遠い2マイル(3.2km)先の消火栓を使用して対応せざるを得なかった。しかし、消防隊は水の供給を絶やすことなく、懸命な消防活動に努めた。

■ 消防隊は、火災を消すための消火泡を放射する装置を現場に搬入した。また、消防隊は近くにあるクリーク(小川)に流れ込まないよう遮断にも努めた。

■ 12日(月)正午を少し過ぎた頃、消防隊が消火泡で火炎を覆った結果、炎の勢いは次第に弱まっていった。火災は午後3時頃に鎮火した。

■ 火災は66北通りと北4040道路の交差点近くにある採石場で発生したので、警察は西66北通りと南145東大通りを閉鎖し、通行規制を行った。

■ 現場にいた報道記者は、消防隊が火災と戦っているのもかかわらず、採石場のプラントは通常どおり運転していたように見えたと報じている。ロジャー郡緊急事態対応局のストークス氏は、鎮火後、自分が現場を離れる前に採石場は運転を再開したが、アスファルト施設は長期間停止することになるだろうと話している。

■ ライムストーン消防署の消防士がヘルメットに装着していたビデオカメラに爆発の瞬間が映っており、その映像が公開された。この消防士は、1基のタンクに放水している消防士2名をモニタリングしていた。その距離は約40ヤード(36m)だった。このとき、突然、安全弁が吹き出し、それからタンクの端部が噴き吹飛んだ。なお、この消防士にケガは無かった。ライムストーン消防署のドン・ボイル署長は、「最初の画面では、誰もがタンクは安全だと思うだろう。しかし、事は突然に起った。このビデオは全国にいる消防士の訓練に有効だと思った」と公開の目的を話した。
安全弁からの吹き出しの瞬間(矢印)
(写真はJob.aol.comの動画 から引用)
タンク爆発の瞬間
(写真はJob.aol.com の動画から引用)
噴き飛んで落下するタンク端部(矢印)
(写真はJob.aol.comの動画 から引用)

補 足
■ 「オクラホマ州」は、米国南中部にあり、人口約375万人の州である。州都および最大都市はオクラホマシティであり、タルサ市がそれに続く。
 「オワッソ」(Owasso)は、オクラホマ州の北東部にあり、ロジャー郡とタルサ郡に属し、人口約33,000人の市である。オワッソはタルサ市と約20kmの距離である。
(写真はグーグルマップから引用)
■ 発災した「横型円筒タンク」の大きさを報じた情報はなかった。グーグルマップで発災場所を確認し、7基のタンクの大きさを推定すると、直径2.6m×長さ6.0mのタンク(容量30KL級)が2基、直径2.6m×長さ8.3mのタンク(40KL級)が1基、直径3.0m×長さ6.5mのタンク(45KL級)が1基、直径3.5m×長さ17mのタンク(160KL級)が3基である。従って、横型円筒タンクの全貯蔵容量は625KL級となる。
発災のあったアスファルト製造施設と横型円筒タンク群
(写真はグーグルマップから引用)
所 感
■ 今回の事故は分からないことの多い事例であるが、消防活動はなかなか興味深い内容だった。
 ● 消火用水の供給に苦労している。施設内に消火栓がなく、遠い消火栓まで給水車を折り返し運転して対応していたら、その消火栓が故障してしまい、さらに遠い消火栓を使用しなくてはならなかった。現場では、このような予期せぬことが起きるので、その度に迅速な判断を行い、対応しなくてはならない。
 ● 爆発によって負傷者が出たときの消防士の動揺について述べられている。このような消防士の心情まで語られる事例情報は稀である。消防士は冷静沈着さを求められるが、実際には、このような心の葛藤があるだろう。米国のローカルな話であるが、人間味を感じる話である。
 ● 消防士がヘルメットに装着したカメラによる爆発時の映像が公開されている。消防署長は貴重な記録として自分たちだけに留めておくのではなく、全国の多くの消防士の参考にしてもらうため、公開したという。最近では、日本の消防分野でも情報共有化の意識が出始めているが、今回のような例はない。

■ 最初の火災発生については情報がなく、推測しようがない。しかし、発災写真を見ると、かなり広い範囲で火の手が上がっている。おそらく、いずれかのタンク(または配管)から漏れた油による火災だと思われる。つぎに起ったタンク爆発の映像から受ける印象は、当該タンクに入っていた油が少なく、気相部が多かったように見える。なぜ、安全弁が吹いた後に爆発が起こっているか判然としないが、気相部が火災による熱でかなり高温になって圧力が上がっていたものだと思う。OSHA(米国安全衛生労働局)が爆発の原因調査を行うというので、この調査結果に期待したい。(公表される可能性が高い。また、人身災害回避の観点から爆発の事前徴候について調査されるだろう)

備考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Fox23.com,  Rock Quarry Fire out, Three Firefighters Recovering,  October 12, 2015  
    ・Fox23.com,  OSHA: Company That Owns Burned Owasso Asphalt Plant Faced Violations in Years Past,  October 12, 2015
    ・Tulsaworld.com,  Fuel Tank Explodes in Fire at Owasso Rock Quarry; Three Firefighters Hurt,  October 12, 2015   
    ・Claremoreprogress.com,  Explosion Following Fire in Owasso Injured Firefighters,  October 13, 2015
    ・Dailyjournal.net,  Officials: 3 Firefighters Injured in Rock Quarry Explosion in Owasso,  October 13, 2015
    ・Tulsaworld.com, Video: Tank Explosion at Owasso Rock Quarry Captured on Helmet Camera,  October 14, 2015
    ・Fireapparatusmagazine.com,  Explosion at Owasso Quarry (OK) Damages Fire Apparatus,  October 14, 2015
    ・Newson6.com,  Firefighter Catches Owasso Tank Explosion On Helmet Cam,  October 15, 2015



後 記: 最初に火災が起ったのは、タンクをクリーニング(Cleaning)しているときという表現だったので、またタンク開放作業中の事故だと思いました。ところが、状況をみていくと、全タンクに油が入っており、このクリーニングとは掃除という意味に解釈しました。(火災との関係は薄いようです) 消火活動中の爆発もタンクが火炎に曝され続けているときに起ったと想像していましたが、情報を読み合わせていくと、ほぼ火災を制圧した状況下で起ったことが分かりました。ひとつの情報源だけだと予断を抱きやすいですが、複数の情報源を読んでいくと、見えてくるものがあります。タンク内の液についてもディーゼル燃料用3基、バーナー燃料用3基、残りの1基も油という情報がありましたが、アスファルト施設ということから本文のようにしました。
 しかし、見えないものもあります。複数の情報として、タルサ・アスファルトは採石場に施設をリースしているというのです。親会社が舗装の会社であり、この場合のリースとはどのような形態をいうのよく分かりません。また、現時点では、リース形態に重要な意味がある訳ではなさそうなので、本文中には触れませんでした。また、出動した消防士の人数ですが、全体でdozens of firefightersとあり、二・三十人なのか、数十人なのか、あるいはもっとたくさんなのかよくわかりません。しかし、予備役である空軍州兵の消防士が4名だったという情報があり、各消防署の規模は大きくなく、総員で30~40人程度だったのではないでしょうか。

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