今回は、2014年4月26日、中国陝西省延安市の陝西延長石油の製油所にある軽質原油タンク貯蔵タンクが爆発・火災を起こし、3名の負傷者が発生した事故を紹介します。
延安市の陝西延長石油の製油所において爆発・火災したタンクと消火作業
(写真はNews.xinhuanet.com
から引用)
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<事故の状況>
■ 2014年4月26日(土)朝、中国陝西省(せんせい/シャンシ-省)延安市(えんあん/イェンアン-市)の製油所にある貯蔵タンクが爆発・火災を起こした。事故があったのは、中国北西部にあたる延安市の陝西延長石油(Shaanxi
Yanchang Petroleum)の延安製油所で、軽質原油タンクが爆発を起こして火災となった。この事故に伴い、3名の負傷者が発生した。
(写真はNews.hsw.cnから引用)
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■ 延安製油所において、26日(土)午前1時48分、軽質原油用のNo.9532タンクがフラッシュ爆発を起こした。このため隣接する容量500KLタンク2基に延焼した。現場ではもうもうとした煙が立ち上り、刺激臭の臭いが漂った。この事故に伴い、製油所の従業員3名が火傷を負い、地元の病院へ搬送された。
■ 事故発生後、ただちに製油所緊急事態対応基準が発動され、自動シャットダウンや避難対応の作業が開始された。延安市は、緊急事態対応計画に基づき、警察、消防、救助隊が出動した。延安消防署は120名以上の消防隊員と33台の消防車が現場に急行した。
■ 消防署によると、26日午前6時頃に火災は制圧下に入ったという。さらに午前11時時点で、消防隊は2基のタンクの火災を消火し、爆発に伴って被災したタンク2基のうちの1基は制圧下に入った。消火したタンクには冷却処置が継続された。午後2時45分に残っていた火災タンクも鎮火した。その後、現場では、再燃する恐れのないことが確認された午後5時45分まで泡放射が続けられた。
■ タンクから直接的に漏れたような原油は見つかっていないが、製油所の近くのフル川へわずかに原油の混じった消火排水が流れた。消防隊は、タンクへの消火活動を実施する一方、フル川近くに堰止めの堤を7個所構築し、洛河(ルオ河)への汚染リスクを無くすよう努めた。
■ 延安の地方自治体は住民900人を避難させた。近隣地区はモニタリングが行われているが、顕著な石油系物質の排出は見られていない。
■ 事故の原因は分かっておらず、調査中である。
(写真はNews.hsw.cnから引用)
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(写真はNews.xinhuanet.com
から引用)
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(写真はEnglish.cri.cn
から引用)
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(写真はNews.xinhuanet.com
から引用)
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(写真はNews.xinhuanet.com
から引用)
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(写真はNews.xinhuanet.com
から引用)
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補 足
■ 中国(中華人民共和国)の「陝西省」 (せんせい/シャンシ-省)
は中国北西部に位置する省の行政区画で、人口約3,700万人である。省内には黄河が流れ、中国のほぼ中央にあり、省都は西安市である。
「延安市」 (えんあん/イェンアン-市) は、陝西省にある地級市で、人口約210万人の都市である。
■ 「陝西延長石油」は、通常、「延長石油」(ヤンチャン・ペトロリアム)と呼ばれ、正式には陝西延長石油(集団)有限責任公司(Shaanxi
Yanchang Petroleum Group)といい、1905年に設立された中華人民共和国の国有企業で、現在は陝西省が直接関与している石油会社である。陝西省を拠点として原油・天然ガスの生産から石油製品・石油化学製品の供給まで総合的に行っている。陝西延長石油は延安・永坪(ヤンピン)・榆林(ユウリン)の3箇所に製油所を保有している。
延安製油所は、1988年、陝西省延安市洛川県交口河鎮(延安と西安の間)に建設され、生産能力は年間800万トン(約16万バレル/日に相当)である。
なお、陝西延長石油では、2013年年7月15日、豪雨をきっかけに「陝西省で地すべりによってパイプラインから原油流出」の事故があった。
陝西延長石油の延安製油所 (写真は陝西延長石油のウェブサイトから引用) |
陝西延長石油の延安製油所 (周囲がわかるように俯瞰した写真を採用)
(写真はグーグルマップから引用)
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■ 発災タンクは、グーグルマップの写真から直径約8mであり、300KL級タンクと推定される。隣接して火災となった2基のタンクは、報道記事では容量500KLと報じられているが、グーグルマップの写真から直径約10mであり、700KL級と推定される。
爆発タンクは軽質原油を貯蔵していたが、その後の火災でボイルオーバーは起こっていないようだ。仮に油面高さを5mとし、全面火災のヒートウェーブ速さを50~100cm/hと仮定すれば、ボイルオーバーは5~10時間で起こる。午前1時48分に発災し、約4時間後の午前6時頃に制圧下に入ったというので、ボイルオーバーの起こる前に消火できたことになる。一方、300KL級や700KL級という比較的小型のタンクであり、通常の大型化学消防車クラスで消火可能な火災条件の割に鎮火までに時間がかかっている。
陝西延長石油延安製油所の火災タンク地区付近
(写真はグーグルマップから引用) |
■ 「フラッシュ爆発」(Flash
Explosion)という用語が使用されているが、通常の爆発との違いははっきりしない。フラッシュ・ファイヤー(Flash
Fire)という用語は、可燃性ガス、可燃性または爆発性液体あるいは可燃性粉体と空気の混合気が着火して突然、激しい火災を起こすことをいう定義付けがされており、高温、短時間、急速な火炎前面が特徴である。米国などの消防専門分野ではフラッシュ・ファイヤーと爆発を区別して使っているが、一般には区別せず爆発という言葉で表現している。
所 感
■ 今回の発災タンクはドーム屋根式円筒タンクだと見られる。このタンクに軽質原油を貯蔵する場合、タンク上部の空間部に不活性ガスを導入しておかないと、爆発混合気が形成する可能性は高い。不活性ガス導入式あるいは内部浮き屋根式になっていたかは分からない。
従業員3名が火傷を負っているが、通常、午前1時頃にタンク近傍で多くの人間が操業上の作業を行なうことはない。計器の不調あるいは何らかの異常兆候があり、その点検で集まったときに爆発が起こったものと思われる。
■ 事故現場の写真を見ると、爆発したとみられるタンクは上部が座屈しており、爆発後にかなり火災が続いたものと思われる。また、最後まで燃え続けたタンクも側壁が傾くほど座屈している。ボイルオーバーの起こり得る原油であれば、比較的小型のタンクではあったが、複数基対応と合わせ、消火活動としては難しかったと思われる。
■ 消火排水に混じった油が構内に留まらず、構外の川へ漏れ出ている。この点は、消火活動だけに目が向いて、消火排水への考慮が足らなかったと思われる。過去の火災事故をみても、消火排水の配慮不足の例は少なくないので、ボイルオーバーの可能性の考慮とともに、消火活動を始める前にチェックすべき事項である。
備 考
本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・English.cri.cn, Three Injured in NH China Light
Crude Tanks Fire, April 26, 2014
・News.Xinhuant.com, Three
injured in NW China Light Crude Tanks Fire,
April 26, 2014
・China-Daily.com, China-Crude Tank Explosion, April
26, 2014
・Newscontent.cctv.com, China-Crude Tank Explosion, April 26, 2014
・Wantinews.com, Yan’an
Refinery Tank Explosion Accident Continued: Flames Have Been Extinguished,
April 26, 2014
・Like-news.us, Yan’an
a Three Light Oil Refinery Storage Tanks Flash Explosion Occurred, April 26, 2014
・News.hsw.cn,延安炼油厂油罐闪爆3人烧伤
少量油污进入葫芦河, April 26, 2014
・News.xinhuanet.com,延长石油延安炼油厂油罐闪爆 3人烧伤上千人撤离, April 27, 2014
後 記: 今回、事故情報を発信しているメディアはたくさんありましたが、大体、同じような内容です。おそらく延安市当局から出された情報のみに基づいているようです。事故はすぐに収束するような印象の記事ですし、負傷した3名の人についても死亡という記事もあり、複数の情報を読みくらべながらまとめました。文章の記事は内容が乏しいと言わざるをえませんが、意外に写真についてはオープンです。メディアも意識して複数の写真を公表し、文章を補っているように感じます。
一方、一番難儀して時間を費やしたのは、延安製油所の場所です。延安市の中心地にはなく、郊外の場所をグーグルマップで探しましたが、なかなか見つからず、諦めては探す、探しては諦めるというのを何回繰り返しました。結局、延長石油のウェブサイトには立地条件のよいところだと述べてありますが、日本では考えられないような山々に囲まれた川沿いの場所でした。
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