流出油を覆うために放射される泡 (写真はFreenews.auの動画から引用)
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本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Caltex.com.au, Caltex
Statement on Banksmeadow Terminal Incident, July 12,
2013
・TheAustralian.com.au, Three
in Hospital after Major Fuel Spill at Caltex Terminal in Sydney, July 12,
2013
・ABC.net.au, 130,000 litres
of Unleaded Fuel Spills from Caltex Oil Terminal in Sydney, July 12,
2013
・DailyTelegraph.com.au, Caltex Plant Sealed off after Huge Fuel
Spill, July 12, 2013
・FireDirect.net, Australia-Caltex
Plant Sealed off after Huge Fuel Spill,
July 16, 2013
・NorthernDailyLeader.com.au,
Faulty Valve Blamed for Spill of 130,000 litres
of Fuel, July 12, 2013
・SkyNews.com.au,
Caltex Starts Clean up after Fuel Spill, July 12, 2013
・HeraldSun.com.au,
130,000 litres-Petrol Spill in Sydney 12, 2013
・FreeNews.au(YouTube),
Disaster avoided after major fuel spill in Caltex Oil Refinery at Port Botany ,
July 11, 2013
<事故の状況>
■ 2013年7月12日(金)午前1時30分頃、豪州ニューサウス・ウェールズ州シドニーにある石油ターミナルのタンクから油の流出する事故があった。事故があったのは、シドニー南東部のポート・ボタニー港湾地区にあるカルテックス・オーストラリア社バンクスメドー・ターミナルの石油タンクで、バルブの故障によって130KLの無鉛ガソリンがタンク外に漏れ出た。漏れは、防油堤の名で知られているフェイル・セーフ機能の堤内に限定された。
ポート・ボタニー港湾施設とカルテックス社の石油ターミナル (写真はグーグルマップから引用)
■ 流出の通報を受けて消防隊が出動し、2名の消防士が化学防護服を着用し、バルブを閉止して漏れを止めた。ハズマット隊は油面に泡を厚く放射して、爆発混合気の形成防止と大気へのガソリン・フュームの放散防止の対応を行なった。
■ 流出したガソリンはタンク防油堤内の約1,000㎡の面積(50m×25m)に広がったため、港湾作業は制限され、周辺道路は閉鎖された。13日(土)午前8時までに、カルテックス社の請負者によって油が近くの排液タンクへポンプで移送され、消防隊によって油面が泡で覆われて安全が確保しつつあったので、警察によってとられていた除外区域は当初の1,000mから500mに縮小した。
■ カルテックス社広報担当のサム・コリアー氏は、2,000KLタンクから流出した無鉛ガソリンは排液タンクへ全量回収したと語った。コリアー氏は、今回の流出規模は尋常ではなかったといい、「私自身はこの種の事故の最新情報についてよく把握していませんが、私どもが異常事態の対応として想定していた範囲内でした。ただ、これまで幸いなことに起きたことがありませんでしたが」と語った。さらに「しかし、私どもは、なぜこのような事態が起きたかについて原因を究明していきます」と語った。
■ ニューサウス・ウェールズ州消防・救援隊のトム・クーパー指揮官は、カーネルから出動した部隊は空港用の特別な泡剤を供給するためトラック輸送しなければならなかったと語った。ガソリン蒸気が引火しないように、また毒性のあるフュームによる人への影響を避けるために、泡剤は油面上を覆うように放出された。しかし、消防士1名がひどい頭痛のため自分の足で病院へ行った。クーパー指揮官は、「燃料油の流出事故は常に危険が伴います。ガソリンは常温でも揮発性が高く、空気中の混合ガスは人への影響が問題となります。このため、重要なのが泡剤なのです」と語った。現場には、消防・救援隊の泡搬送車6台が出動したほか、泡の保持のため空港用化学消防車が配置された。
目撃した人によれば、消防隊が漏れを安全な状態に封じ込める作業をしていたときは、“水があらゆる方向に空中高く噴き上がっていた”という。最近の事故の中では大きなハズマット対応として、大量の泡が漏れた油の上に放射された。カルテックス社では、油と泡の混合液は分離して再使用する計画である。
■ クーパー指揮官によれば、カルテックス社の請負作業員がタンクのバルブの作業中だったといい、そのバルブが故障したため、漏洩の原因になったと語っている。作業員2名がガソリンの飛沫を浴びたため、現場で手当てされ、大事をとってプリンス・オブ・ウェールズ病院で診断を受けたあと、退院した。
ニューサウス・ウェールズ州消防・救援隊の広報担当によれば、現場にいた二人の作業員はその場を逃げ出さざるを得なかったといい、その後、消防隊員が徐々に近づき、バルブを閉止させたと語った。
■ ポート・ボタニー警察署のカレン・マッカーシー指揮官は、ただちに事前準備されていた“防災計画”に基づき、対応が実施されたといい、「そのときの状況は大きな危険性をはらんでいました」と語った。マッカーシー指揮官は「迅速な対応と油の封じ込めは“良好な結果”といえます」と話した。また、マッカーシー指揮官によると、この地区の大気状況を監視するため6~8台の測定器が配備され、避難が必要になったときのために職員が配置されたという。
封鎖された道路は13日(土)にはすべて解除になったが、入出荷ターミナルは終日閉鎖されたままだった。
現場に集結した消防車両 (写真はThetelegraph.com.auから引用)
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出動した救急車(左)と空港用消防車(右)
(写真はThetelegraph.com.auから引用)
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噴出する液体(矢印) (写真はFreenews.auの動画から引用)
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噴出する液体(矢印)を確認する消防士 (写真はFreenews.auの動画から引用)
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作業を行う消防士とカルテックス社員
(注;本写真の解説はないが、消火用泡剤タンクからの抜取り作業と思われる)
(写真はThetelegraph.com.auから引用) |
<事故への関心・反響>
■ シドニーにあるカルテックス社の石油ターミナルで油流出事故が起こったとき、地元の消防署には出動できる消防士が一人もいなかった。政治家や労働組合は、一人の死者も出なかったことは幸運としかいえないと語っている。ボナニーにあった地元の消防署は事故現場からわずか3kmの場所にあったが、事故前日の11日(木)午後6時に閉鎖され、職員は15km離れたキャンプシーにある消防署に異動していた。
■ 歳出削減の方針のもと、消防署の閉鎖に対してニューサウス・ウェールズ州政府に猛烈な批判が浴びせられている。ボナニーのベン・キニーリー町長は、大災害が避けられたのは奇跡だといい、「大量の燃料油が貯蔵されているのだから、何か起こっても不思議でない。ガソリンは揮発性の高い油で、ちょっとした火花で爆発してしまう」と語った。キニーリー町長は、一人の死者も出さずに済んだのは幸運だったといい、「先週7月6日、カナダでは貨物列車の脱線により、大量の石油が爆発した事故があったでしょう」とカナダのケベック州ラック・メガンティックで起きた貨物列車の脱線によって爆発・火災事故がおき、50名の死者を出した事例を引き合いに出した。ボナニー近郊には石油化学や化学工場があり、さらに空港や港があり、リスクの高い地区であることをキニーリー町長は付け加えた。
■ 消防職員労働組合のミック・ネアン氏によると、マトラビルとマルブラからの消防車は約10分遅れて現場に到着したといい、「時間が命にもかかわらず、火災が起こったとき、いつも遠いところの消防署から対応に駆けつけるというのが現実です。消防署を閉鎖するという判断は極めて危険なことです。政府や消防署では、いつ、どこで火災や流出が起こるかということを予測できないでしょう」と語った。ネアン氏は、決定過程において地元の声がまったく聞かれていないことに懸念を示し、「ボタニー消防署では、定期的にカルテックス社と模擬訓練を行っていました。それによって、消防士は石油ターミナルの配置や消防方法について多くのことを学んでいました」と語った。
■ 消防職員労働組合やキニーリー町長は、消防署の閉鎖方針に対してニューサウス・ウェールズ州政府へ撤回するように求めている。
補 足
ニューサウス・ウェールズ州 |
■ 「豪州」(オーストラリア)は、南半球オセアニアに位置する連邦立憲君主制国家で、イギリス連邦王国の一国でもあり、人口は約2,100万人である。漢字による当て字は濠太剌利と表記され、濠洲(ごうしゅう)とも呼ばれたことから、常用漢字の「豪」を代用して現在では豪州と書かれる。歴史的には、1770年、スコットランド人のジェームズ・クックがシドニーのボタニー湾に上陸して領有を宣言し、入植が始まり、このとき、東海岸をニューサウス・ウェールズと名付けられた。
「ニューサウス・ウェールズ州」(The
State of New South Wales)は、略称NSWと表記され、オーストラリア東南部に位置する州で、人口約670万人とオーストラリアの中で最も人口が多く、最も工業化された州である。
「シドニー」は、ニューサウス・ウェールズ州の州都で、人口約460万人で、南半球を代表する都市で、ビジネス・文化・政治の中心であるほか、国際的な観光都市でもある。2000年に夏季オリンピックが開催された。
■ 「カルテックス・オーストラリア」は、シェブロン社が50%、豪州が50%の株を保有する豪州におけるカルテックス・ブランドの石油会社である。約3,500名の従業員を擁し、製油所、石油物流、石油製品販売を行うほか、コンビニエンス・ストア事業を行っている。
シドニーには、ポート・ボタニーにバンクスメドー・ターミナルがあるほか、ボタニー湾対岸にはカーネル製油所がある。しかし、2012年7月にカルテックス社はカーネル製油所について2014年後半に閉鎖すること発表した。発表では、カーネル製油所の規模が10万バレル/日に対して、アジアの新しい製油所施設は100万バレル/日規模で、太刀打ちできないので、製油所を輸入ターミナルに改造して、シドニー圏への燃料安定供給を果たすという。
シドニーにあるカルテックス社のバンクスメドー・ターミナル (写真はグーグルマップから引用)
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カルテックス社のバンクスメドー・ターミナル (写真はグーグルマップのストリートビューから引用)
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所 感
■ 今回の油流出事故はバルブの故障によるものであるが、どのような故障かはわからない。事故の写真の中に、防油堤内で液体が噴出する状況の写真があるが、これが事故によるガソリンの流出であれば、開口部はかなり大きいものと思われ、例えば、バルブ・グランド部のパッキン喪失やバルブ・ボンネット上部の破損などが考えられる。当ブログで紹介した「貯蔵タンク事故の研究」(2011年8月)によれば、タンク事故総数242件のうち原因が「配管損傷・漏れ」によるものは15件で、割合としては6%で、多くはないが、少ないともいえない。タンク下部には、入出荷配管、浮き屋根用排水配管、水切り配管などがあり、バルブの故障によってタンクから直接、大量の油が外部へ漏洩する危険性が現実に起こることを示す事例である。
■ 今回、ガソリン流出に伴って引火して爆発・火災が起きなかったことは本当に幸運だったといえる。防油堤内1,000㎡に130KLのガソリンが流出しているので、堤内の液位は約13cmとなる。流出を止めるために消防士がバルブを閉止する作業を実施しているが、かなり危険な行動を選択したものと思われる。カルテックス社は「異常事態の対応として想定していた範囲内」だったと言っているが、事業所の管理者や消防署の指揮者は、状況によっては、このような選択の是非・可否を迫られるということを認識しておくべきである。
後 記; この7月の初めに3つの流出事故の情報がありました。米国アーカンソー州メイフラワーにおけるエクソンモービル社のペガサス・パイプラインからの重質原油の流出事故(2013年3月29日ですが、原因発表が2013年7月10日)、2013年7月12日、15日に中国の陝西省延安市におけるペトロチャイナと延長石油のパイプラインが地すべりによって破損して油が流出するという事故、そして、今回の豪州におけるガソリンタンクからの流出事故です。ほぼ同じ頃に情報を入手し、当ブログで紹介しようとまとめ始め、やっと一区切りしました。
ところで、今回の事故でもハズマット部隊が活躍しましたが、日本では大都市圏の消防署だけに限られていたハズマット隊が地方のコンビナート地区にある消防署にも発隊しました。2012年12月28日に広島県大竹市の市消防本部にできた化学機動隊「OTAKE HAZMAT(ハズマット)」です。このような質の向上が各地に広がることを期待しますね。
(写真は大竹市役所ホームページから引用) |
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