本情報はつぎのような情報に基づいてまとめたものである。
・nhk.or.jp, 原発タンク水漏れ 薬品で腐食か, July
03, 2013
・Tepco.co.jp, 東京電力報道配布資料;福島第一原子力発電所多核種除去設備(ALPS)バッチ処理タンク2A
点検状況, July 02, 2013
・Tepco.co.jp, 東京電力報道配布資料;多核種除去設備のホット試験の実施状況, July
02, 2013
・nsr.go.jp, 多核種除去設備ホット試験の状況(東京電力), June 28,
2013
・meti.jp, 多核種除去設備のホット試験の実施状況と今後の対応について(東京電力), May
17, 2013
・nsr.go.jp, 多核種除去設備(B系、C系)ホット試験開始について(原子力規制庁),
May 24,
2013
・nsr.go.jp, 多核種除去設備に関する補足説明(東京電力),
January 24, 2013
<漏れの概要>
■ 2013年6月15日(土)、福島県双葉郡大熊町・双葉町にある東京電力福島第1原子力発電所にある放射能汚染水処理装置である多核種除去設備(ALPS)の汚染水タンクから漏れていることがわかった。漏れたのはALPSの前処理設備にあるバッチ処理タンクで、大きさは高さ6m、直径3m、容量約33㎥、厚さ9mmのSUS316Lステンレス鋼製竪型タンクの下部にある溶接部から内液の汚染水がにじみ出ていた。
■ 東京電力は、18日(火)に漏れたバッチ処理タンク(2A)について水抜きを行ったうえで外面調査を行い、溶接部の浸透探傷検査結果、2箇所の微小孔(ピンホール)を確認したと発表した。
NHKによると、東京電力では、タンクを2012年7月に設置する前に溶接部分に孔がないことを確認しており、溶接作業が不十分だったために孔が開いた可能性があるとみているという。毎日新聞によると、東京電力は製造時か設置時に問題があったとみて調べていると報じている。
■ 東京電力は、20日(木)にバッチ処理タンク(2A)と同様の構造のバッチ処理タンク(1A)について浸透探傷検査を実施した結果、タンク表面の1箇所に液体のにじみがあったことを発表した。1Aタンクにも2Aタンクと同様のピンホールがあるものと考えているという。
<漏れの原因> 「原発タンク水漏れ 薬品で腐食か」
NHKで報じられるタンク漏れ原因
(写真はNHKの動画から引用) |
■ 7月3日(水)、NHKによると、東京電力は漏れのあったバッチ処理タンクの水を抜いて溶接部を内側から調べたところ、直径2~5mmほどの孔のように削れている箇所が十数か所で見つかり、そのうち2か所がタンク外側へ貫通していたという。東京電力によると、バッチ処理タンクは処理前の汚染水から鉄などの不純物を取り除くもので、使っている薬品がステンレス鋼製のタンクと反応して腐食した可能性が高いとしている。東京電力は、「この薬品による腐食は想定していたが、予想を超えていた」として、タンク内側に腐食防止の樹脂を塗るなどの対策を検討し、処理設備の運転再開を目指したいとしているが、見通しは立っていない。
<東京電力の公式発表>
設備の材料選定から漏れ発生以降の東京電力の見解を公表されている資料から時系列に整理する。
◆ 設備の材料選定の評価
2013年1月24日(木)「多核種除去設備に関する補足説明資料」
(原子力規制委員会「第2回特定原子力施設監視・評価検討会」
1月24日開催の資料)
■ 福島第1原子力発電所の状況について原子力規制委員会へ東京電力から報告された補足資料の中から、多核種除去設備(ALPS)の概要と材料選定に関する箇所を抜粋して以下に示す。
多核種除去装置やバッチ処理タンクはSUS316Lステンレス鋼が採用され、材料選定の腐食環境に関する評価結果が記載されている。腐食要因は塩化物イオンのみで行われ、材料選定は妥当とされた。ただし、
「“すきま腐食”が発生する可能性は否定できないため、“すきま腐食”が発生する可能性のある箇所について定期的な点検・保守を行っていく」という結論である。
バッチ処理タンクには、鉄共沈のため、次亜塩素酸ソーダ、塩化第二鉄を添加した後、pH調整のために苛性ソーダを添加して水酸化鉄を生成させ、さらに凝着剤としてポリマーが投入されるが、これら薬品類(次亜塩素酸ソーダ、塩化第二鉄、苛性ソーダ、ポリマー)の腐食要因に関する評価は行われていない。
◆ バッチ処理タンク系統の別な漏れ事例
5月17日(金)「多核種除去設備のホット試験の実施状況と今後の対応について」
(原子力規制委員会「第11回特定原子力施設監視・評価検討会」
5月24日開催の資料)
■ 多核種除去設備のホット試験の実施状況について原子力規制委員会へ東京電力から報告された資料の中に、以下のような漏れ事例が記載されている。
「バッチ処理タンク1A上部の塩化第二鉄供給ラインからの微小漏洩(非放射性液体)が確認された。原因は、局所的な腐食の進行によりピンホールが発生し、微小漏洩に至ったものと推定。ステンレス鋼材と塩化第二鉄が接液しないよう、タンクフランジ部にインナー管を設置する予定」
タンク上部配管の漏れ箇所(応急補修材ベロメタルで補修後、ポリ袋で養生)と近傍の同種配管形状(左)
(写真は原子力規制事務所の報告書から引用)
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◆ バッチ処理タンクの点検検査中の報告
6月28日(金)「多核種除去設備ホット試験の状況」
(原子力規制委員会「第13回特定原子力施設監視・評価検討会」
6月28日開催の資料)
■ 多核種除去設備のホット試験の実施状況について原子力規制委員会へ東京電力から報告されているが、その中に漏れたバッチ処理タンクの点検検査結果が以下のように示されている。ただし、内容は内面検査は実施中とあり、目視検査では「有意な欠陥は確認できず」と記載されている。
◆ 漏れ原因はステンレス鋼のすきま腐食
7月2日(火) 「福島第一原子力発電所の状況」(記者会見資料)
■ 定期的に報道関係者へ報告される「福島第一原子力発電所の状況」
の中に、つぎのように記載されている。
「6月15日(土)23時頃、ALPSのバッチ処理タンク(2A)において、当社社員が結露状況を確認した際に、当該タンク下の漏洩水受けパン内に、変色(茶色)した水の滴下跡があることを発見。6月18日(火)、当該タンクの水抜きを行った上で、タンク下部の外面調査における浸透探傷検査の結果、変色が確認された溶接線に2か所の微小孔(ピンホール)を確認。その後、内面に入り詳細調査を実施した結果、原因はすき間環境等に起因するステンレス鋼の局部腐食による欠陥であり、すき間腐食が進行したことにより貫通に至ったと推定。当該箇所については今後補修を実施予定」
◆ 内部検査の結果のみで、原因にはふれず
7月2日(火) 「多核種除去設備(ALPS)
バッチ処理タンク2A 点検状況」(報道配布資料)
■ 報道配布資料としてバッチ処理タンク(2A)の内部検査結果が以下のように報告されている。溶接線の切削によって貫通する欠陥が確認されたとあるが、製作時の欠陥か運転中の腐食によるものかなど原因に関する記載はない。
所 感
■ 今回のバッチ処理タンク漏洩原因の情報を見ていると、混乱しているというより恣意的に隠しているという印象を持たざるを得ない。要因としては、新規開発プロセスであり、ノウハウを含めて都合の悪いことは表に出さない、原子力規制委員会での評価を悪いものにしたくないという背景があるにしても、福島第1原子力発電所のメルトダウン事故時と同様、疑問が次々に湧いてくる。少し長くなるが、その理由を列記する。
① 6月18日にバッチ処理タンクの漏れが判明した際、記者会見で「溶接作業が不十分だったために孔が開いた可能性があるとみている」として運転上の問題はまったく無いかのように回答している。
② 7月2日に「多核種除去設備(ALPS)
バッチ処理タンク2A 点検状況」を報道配布資料として公開しているが、「貫通している欠陥が見つかった」という内容で、原因についてまったく触れていない。(6月18日の報道と7月2日の点検結果の情報を見た人の中には、このように多数の欠陥が製作時に見逃されていたのかと思った人もいる)
③ 7月2日の「福島第一原子力発電所の状況」(記者会見資料)の中に、「その後、内面に入り詳細調査を実施した結果、原因はすき間環境等に起因するステンレス鋼の局部腐食による欠陥であり、すき間腐食が進行したことにより貫通に至ったと推定」と記載している。このことについて議論された様子はない。(翌日の「福島第一原子力発電所の状況」には、この箇所が削除されている。おそらく、事前のステンレス鋼(SUS316L)材料評価において「“すきま腐食”が発生する可能性は否定できないため、“すきま腐食”が発生する可能性のある箇所について定期的な点検・保守を行っていく」という結論を意識した文章だと思われる)
④ 6月28日の原子力規制委員会「第13回特定原子力施設監視・評価検討会」の資料「多核種除去設備ホット試験の状況」では、バッチ処理タンクの点検の結果を紙幅を割いて報告しているが、溶接線の切削・確認前の内容で基本的には6月18日と変わりなく、委員会の委員がコメントできる内容でない。おそらく、この時期にはもっと検査結果が出ていたと思うので、なぜ広く専門家の意見を聴くことを回避するのか。
⑤ 7月3日、NHKだけが「バッチ処理タンクの漏れは使っている薬品がステンレス鋼製のタンクと反応して腐食した可能性が高い」と報じ、東京電力は「この薬品による腐食は想定していたが、予想を超えていた」とある。突如、「薬品」という話が出てきたが、薬品名が語られておらず、曖昧さが残る。
⑥ 東京電力は「この薬品による腐食は想定していたが、予想を超えていた」というが、材料選定で薬品による腐食要因の評価は行われていない。試運転に入ってから、バッチ処理タンクの上部にある塩化第二鉄のステンレス鋼配管フランジ部で漏れ事例が起こっているが、この事例との関係について語られていない。おそらく、「薬品」とは塩化第二鉄を指し、「この薬品による腐食は想定していた」というのは、漏れ事例からの経験を言っていると思われる。
⑦ バッチ処理タンクには、次亜塩素酸ソーダ、塩化第二鉄、苛性ソーダ、ポリマー(薬品ではないが)の4種類が投入されている。このうち、苛性ソーダとポリマーはSUS316Lステンレス鋼で問題ないと思われるが、次亜塩素酸ソーダと塩化第二鉄に対してSUS316Lステンレス鋼の選定は疑問である。次亜塩素酸ソーダや塩化第二鉄を取り扱っている工業分野では、常識的な話である。建設を急いだためか、十分な検討が行われていないという印象をもつ。
⑧ 次亜塩素酸ソーダや塩化第二鉄の配管材料の選定について問題があったとしても、バッチ処理タンクで汚染水と混合攪拌される薬品が腐食へどのように関与したという推測が不明である。さらにいえば、バッチ処理タンクによる鉄共沈は理論とラボテストのみで、実証規模の設備が作られたので、実際にどのような問題が起こるのかわかっていないのではないか。
(この点、漏洩で問題となった「汚染水地下貯水槽」のメーカーと東京電力の間に認識差があったのと同様、ALPSでもメーカーの東芝と東京電力の間に認識差があると思われる)
⑨ 東京電力から出される情報は小出しで、東京電力が総合的にどのような見解をもっているのかを出さない。メーカーである東芝はまったく意見を出していない。実際には、腐食原因についてもっと多くの見解をもっているのではないかと疑ってしまう。もし、もっていなければ、なぜ、もっと腐食・材料の専門家の意見を求めないのか。また、原子力規制委員会の委員は原子力関係の有識者であり、この種の化学プラントの現場的な腐食・材料問題についてリコメンドできる知見をもっていない。なぜ、知見をもっている専門家の意見を聴く場を設けないのか。
■ 前回、バッチ処理タンクの漏れ事例を紹介したとき、東京電力のいう製作工場における溶接品質の問題だという見方に疑問をもった。共沈処理のための投入されている次亜塩素酸ソーダ、塩化第二鉄、苛性ソーダ、ポリマーの腐食要因の未評価、溶接線が増えた構造による溶接部での塩化物による応力腐食割れの可能性、共沈させたスラッジの中での腐食の可能性、タンク内の攪拌による侵食の可能性などを指摘した。今回、薬品による腐食というのが東京電力の見解ということがわかったが、完全に納得いく原因推定ではない。
東京電力福島原発では多くの問題が山積しており、多核種除去設備の中でも付帯設備扱いの前処理設備(バッチ処理タンク)については軽く扱われているように思う。これまでの経験でいえば、メインのプラントでなく、付帯設備の不具合で全体が稼動できないという事例は少なくない。
後 記; 東京電力福島原発の情報を調べていると、疲れますね。廃炉方法、地下水流入問題、汚染水タンク問題など解決すべき課題が山積していますし、ALPSも一部物質(コバルト60、ルテニウム105、アンチモン125、ヨウ素129)の除去性能が目標未達成という試運転状況で、メインの多核種除去装置が順調ではありません。今回のALPSの問題でいえば、一番疲れているのは東芝の現場第一線で働いている人たちでしょう。 2012年7月に大々的に報道陣へ発表している手前、順調に行かせるのが当たり前という東芝本社からハッパがかかってくるでしょう。東京電力はわらにすがる気持ちで導入したでしょうが、ここに至っては発注者の立場できつい要求を言っているでしょう。
第三者的な見方でいえば、トリチウムが除去できないALPSの処理水を海に放流できない状況で、難しいALPSの試運転をなぜやっているのでしょう。基本的に放射性汚染物質(水)は貯蔵保管するしかなく、そして最終処分地で埋設するしかないと思いますね。処理しようとすれば、するほど汚染物質が増えていくだけです。それだけ放射能は厄介なものだと思います。
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