2013年7月6日、ラック・メガンティックで貨物列車が脱線し、原油を積んだタンク車が爆発・炎上
(写真はCBC.caから引用) |
本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Gurdian.co.nk, Fires Still Burning in Quebec Town 24 Hours
after Runaway Train Crash, July 07, 2013
・Nationalpost.com,
‘Wall of Fire’ Engulfed Bar that Has Become Ground Zero for Quebec Rail
Disaster that Killed at Least Five People, July 07, 2013
・Foxnews.com, Quebec Train Disaster Highlights Pipeline
Shortage, July 08, 2013
・TheAtlantic.com, Freight Train Derails and Explodes in Lac-Megantic,
Quebec, July 08, 2013
・News.Nationalpost.com, Hope Fading for 40 Missing in Quebec Train
Disaster, Officil Confirm Five Dead, July 09, 2013
・CSMonitor.com,
NTSB Warned of Rail Car Used in Quebec Train Fire, July 10, 2013
・CBC.ca, Beloved Mother First Victim Identified in
Lac-Megantic,
July 11, 2013
・AFPbb.com, カナダ列車脱線事故は「消防隊のブレーキ解除が原因」、鉄道会社, July 07, 2013
・Exite.co.jp, 列車脱線、不明の40人の捜査難航 カナダ、火災はほぼ鎮火, July 08, 2013
・Newsphere.jp, カナダ列車脱線事故が、カナダ・米国の原油輸送戦略に与える影響とは?, July 08, 2013
・Yomiuri.co.jp,
カナダ原油貨物列車脱線炎上、死者33人に, July 14, 2013
・jp.WSJ.com,
カナダの列車脱線事故、運転士のブレーキかけ忘れか,
July 11, 2013
<事故の状況>
■ 2013年7月6日(土)午前1時過ぎ、カナダのケベック州ラック・メガンティックで貨物列車が脱線し、石油タンク車が爆発・火災を起こす事故があった。石油タンク車の脱線したのが、ラック・メガンティックの市街地の一角で店や住宅が隣接している場所であったため、爆発炎上により周辺4区画が壊滅的な被害を受けた。最初の爆発以降も午前4時頃まで爆発が続き、建物30棟が倒壊し、多くの死傷者が出たほか、約6,000人の住民のうちおよそ2,000人が避難を余儀なくされた。
火災は翌日も続き、7日(日)午後7時にやっとほぼ鎮火し、9日(火)には多くの住民が帰宅し始めた。しかし、発災現場では建物が倒壊しており、行方不明者の捜索は難航した。
事故から1週間経った7月13日(土)、地元警察は新たに5人の遺体を確認し、死者数は33人となったと発表した。依然、行方が確認されない17人の生存も絶望視されており、死者数は50人に上る見通しである。
(写真はtheatlantic.comから引用)
(写真はtheatlantic.comから引用) |
(写真はtheatlantic.comから引用) |
(写真はCBC.caから引用) |
■ 列車は米国のレール・ワールド社の子会社であるモントリオール・メイン&アトランティック鉄道が運行していたもので、5台の機関車に引かれた72両編成の石油タンク車には原油が積まれており、米国ノースダコタ州バッケン地区からカナダ東部のニューブランズウィック州の製油所へ輸送中だった。
列車は事故の前、ラック・メガンティックから約10km西のナントで停車しており、運転士はいなかった。ナントは丘の上にあり、ラック・メガンティックの町へは緩やかな下り坂になっており、事故の原因は列車が暴走したものだとみられる。
■ 目撃していた人によると、多くの住民が爆発で眠りから覚まされ、驚いた様子で通りに出てきたという。脱線事故が起こったとき、バーの中庭に居たバーナード・ザバーグさんは、最初の爆発が起こった後、人気店のミュージック・カフェの中に居た人たちの安否が気になった。「走って逃げ出す人たちが見えたと同時に火の手が上がりました。映画を見ているようでした。台本にあるような爆発シーンでした。でも、それは現実だったのです」と右腕に火傷を負いながら、運良く逃げることのできたザバーグさんは語った。
消防隊が出動し、炎に向かって水をかけ続けたが、デニス・ロウゾン署長は、現場はまるで戦場のようだったと説明した。
爆発後、多くの住民が安全な場所まで離れ、心配そうに状況を見つめていた。爆発現場の近くでレストランを開業しているバーナード・デマーさんは、「すてきな夕べで、バーでは多くのお客さんが楽しんでいました。そこに大きな爆発ですよ。驚くばかりで、お客さんは恐怖で顔が引きつっていました」と語った。爆発のあった場所から200mほど離れたところに住んでいたチャールス・クーエさんは、爆発音を聞いた後、すぐに奥さんを連れて家を飛び出して逃げる途中で熱さを感じたという。「ボーンという音が聞こえたと思ったら、ファイアボールからの熱を感じました」とクーエさんは語った。別な住民のクロード・ベダードさんは、「恐ろしい光景でした。メトロ・ストアやドラーラマ店などがみんな無くなっているのですから」と爆発後の現場について説明してくれた。
(写真はtheatlantic.comから引用) |
(写真はtheatlantic.comから引用) |
(写真はo.canada.comから引用) |
■ ケベック州環境庁の広報担当であるクリスチャン・ブランシェット氏によると、量は未確認だが、オタワ川にかなりの油が流れ込んでいるという。同氏によると、72両の石油タンク車には原油が入っており、少なくとも4両が爆発と火災によって損傷しているといい、「心配していた湖と川に流出してしまいました。地方自治体に、オタワ川から取水しているところでは注意するよう連絡しています」と語った。ブランシェット氏は、大気の汚染状況をモニタリングするため、移動監視車を配置したことを付け加えた。
■ モントリオール・メイン&アトランティック鉄道は、昨年、300万バレル(47万KL)の石油を輸送している。石油タンク車は1両当たり30,000ガロン(114KL)の石油を積むことができる。
■ 6日(土)の午後9時30分時点では、5両の石油タンク車が制御できない状況で炎上していた。7日(日)の朝には、燃え続けていたのは2両のみになった。ラック・メガンティック消防署のデニス・ロウゾン署長によると、消防隊はケベック・シティにあるウルトラマー製油所から搬送してきた特殊泡薬剤を使って、一晩中、火災と戦ったという。ラック・メガンティック消防署は近隣のシャーブルックや隣接する米国のメイン州からの消防隊の支援を受け、150名の消防士が消火活動に従事した。
7日(日)の朝に燃えていたのは2両だったが、当局はその日の夕方までに消火できるか心配していた。ロウゾン署長によると、消防隊を炎上している石油タンク車から150m離れた所に配置して、タンク車が過熱しないように水や泡を放射する消防活動を行なったという。ロウゾン署長は、「我々は、消防士の命が大切だと思っており、火炎の熱によってタンク車が噴き飛んだ場合に危険に陥る場所まで前進させようとは思っていません。我々は、注意を払いながら、一歩一歩段階的に進めていきます。しかし、本日、日曜日中には、良い知らせを言えるだろうと思っています」と語っていた。
(写真はtheatlantic.comから引用) |
■ 運輸安全委員会の調査官は、7月8日(月)、暴走した貨物列車のブラックボックスを回収したことを発表し、これが事故原因の手掛かりになるだろうと話した。調査官のロナルド・ロス氏は、無人の列車の暴走を止められなかったブレーキ・システムの問題に焦点が当てられるだろうといい、「確かなことは、列車にはエア・ブレーキと手動ブレーキの両方が付いていて安全を担保しているということです。これは、かなり良い仕組みだと見ています」と述べている。
バークハート氏の記者会見(写真はo.canada.comから引用) |
■ レール・ワールド社の最高経営責任者(CEO)であるエドワード・バークハート氏は、当初、列車は適切にブレーキが掛けられていたと思うと話していたが、7月10日(水)の記者会見で、「運転士が会社で規定されたブレーキ操作手順に従っていたか疑わしい」と述べ、「運転士は11個の手動ブレーキを掛けたと言っているが、私は事実ではないとみている。最初は信じていたが、いまはそうは思っていない」と語った。
CEOのバークハート氏は、事故直後、ナントに停車していた列車でボヤ騒ぎがあり、この消火活動で出動した消防隊がブレーキ系統を解除したのが原因ではないかと語っていた。また、現地に入ったのは事故後5日を経過した10日(日)で、ラック・メガンティックの町長や住民から非難を浴びた。
(写真はnews.nationalpost.comから引用) |
(写真はtheatlantic.comから引用) |
被災者の捜索 (写真はo.canada.comから引用) |
<パイプラインと鉄道輸送の問題>
■ カナダ国内および米国ノースダコタ州バッケン地区から原油を輸送するパイプラインの容量は限界に来ており、原油生産者が製油所への油輸送を鉄道に依存する割合は増加傾向にある。今年にはいって、カナダにおける原油輸送中の貨物列車の事故は4件発生しており、ケベック州の事故は4番目である。
■ ケベックの貨物列車事故は、石油移送についてパイプラインと鉄道輸送の問題に関心が集まっている。北米における石油生産は増加しているが、環境団体の反対よって、新しいパイプラインの建設は実質的に不可能な状況である。このため、石油の輸送は鉄道に依存している割合が増えている。エネルギー会社にとって、北米を横断する鉄道は原油を製油所へ輸送し、石油製品を市場へ出すための最後の手段となっている。カナダ鉄道協会によると、石油タンク車による原油輸送は、2009年の500両に対して2013年は140,000両に増加すると推測している。米国鉄道協会によると、昨年、米国とカナダを行き来した石油タンク車は234,000両で同期間で10倍に増加している。ちなみに、1両当たりの積込み容量は714バレル(114KL)である。
■ 交通省によると、脱線件数は前年比で20%減少しており、一方、石油の総輸送量に対する列車による輸送割合はカナダで2%未満、米国で10%である。しかし、死者を出したラック・メガンティック脱線事故のような流出や災害に至る事故が多すぎるという声も多い。
カナダ首相は、この5月に、アルバータのオイルサンドをテキサスの製油所へ輸送するためカナダと米国を縦断するパイプライン計画を認めてもらうためのロビー外交でニューヨークを訪問した際、貨物列車による原油輸送が増加していることについて憂慮する発言を行っていた。スティーブン・ハーパー首相は、「私どもは、パイプライン輸送あるいは鉄道輸送のいずれにしろ、カナダからの原油量を増やしたいと思っていますが、ここに現実的で直近の課題としての環境問題があります。もし、パイプラインを望まないならば、鉄道輸送を増やすことになりますが、そこには、VOC排出やリスクという解決すべき難しい問題が横たわっています」と述べていた。
<石油タンク車の問題>
■ もうひとつの問題は、
1991年の漏洩試験結果以来、米国当局が懸念を表明しているにもかかわらず、ラック・メガンティック脱線事故でも使われていた石油タンク車が広く使用され続けていることである。米国のレポートでは、流出を防ぐため、タンク車の外壁に補強を施すべきだというものです。カナダは同様の勧告を採択しているが、新規車両だけに適用することとしている。当時、環境団体のグリーンピースは、「問題を一部解決する代わりに、政府は石油会社に鉄道による石油輸送を劇的に増やすことを認めたものである。これは“安全の前に経済優先”したものである」と述べていた。カナダ鉄道協会のポール・ボーク会長は、毎年、実質的に事故もなく、鉄道によって多くの貨物が輸送されていると述べ、憂慮されていることについて軽く見ている。皮肉なことに、ここ10年間、林業製品の需要低迷に対して油輸送の増加がモントリオール・メイン&アトランティック鉄道の経営を助けていたとデイリー・グローブ&メイル紙は伝えている。
■ DOT-111型と呼ばれるタンク車は、数社のメーカーによって製作されているポピュラーな貨物車で、北米において有害廃棄物の輸送に多く使用されている。鉄道の安全機関は、事故時に漏洩や火災のリスクを軽減するため全タンク車を改造するよう提唱してきたが、残念ながら、鉄道会社はこの計画に反対してきた。
米国の国家運輸安全委員会(NTSB)のデボラ・ハースマン委員長は、「NTSBは長い期間かけて多くの事故を調査してきた結果、DOT-111型タンク車は事故時にタンクの破損する確率が高いと指摘してきました」と語った。2009年6月に死者1名を出したイリノイ州の脱線事故を調査してきたNTSBは、DOT-111型タンク車の設計上の固有の欠陥が、おそらく流出を悪化させたと結論付けている。他のタンク車のモデルは、高圧輸送の仕様で、シェル肉厚は厚く、漏洩の危険性を少なくした設計になっているという。
補 足
■ 「ケベック州」はカナダ東部にあり、米国のメイン州やバーモント州と国境を接する州で、人口は約780万人である。州都はケベック・シティであるが、州の最大都市はモントリオールで、公用語はフランス語である。
「ラック・メガンティック」は、ケベック州の南東部に位置し、人口約6,000人で、農業・林業を主とする町である。
■ 「モントリオール・メイン&アトランティック鉄道」(Montreal
Maine & Atlantic Railway)は、米国のレール・ワールド社(Rail
World inc.)の子会社で、2003年1月に設立され、総延長510マイル(800km)の線路を保有し、カナダのケベック州、ニューブランズウィック州、米国のメイン州、バーモント州の顧客に物流サービスを提供している鉄道会社である。
レール・ワールド社は、1999年、エドワード・バークハート氏によって設立された鉄道管理および鉄道の民営化・再編に関する投資・コンサルタントを行う会社である。カナダおよび米国における「モントリオール・メイン&アトランティック鉄道」のほか、欧州のエストニア、ポーランドに傘下の鉄道会社を保有する。
■ 「DOT-111型」タンク車の安全性は米国の国家運輸安全委員会(NTSB)から指摘されているが、NTSBがまとめた「DOT-111 Tank
Car Design」(パワーポイント資料)の概要はつぎのとおりである。
●過去、1991年安全性の検討、1992年ウィスコン州スーペリア事故、2003年イリノイ州タマロア事故、2006年ペンシルバニア州ニューブライトン事故などを調査した結果、タンク破損の発生率が高い。
●使用されているタンク車の69%はDOT-111型で、危険性物質の輸送に広く使われている。最近、バイオエタノール燃料の輸送にはDOT-111‘S型が使用されている。
●米国鉄道協会(AAR)は、事故後の対応として、2011年10月からエタノールおよび原油の輸送にはすべて新しいDOT-111型を使用し始めた。この型式は、ヘッド部とシェルの肉厚増加、焼きならし鋼の使用、1/2インチ厚のヘッド・シールドの採用、上部付属物の保護などの変更を行っている。
●米国鉄道協会は既設タンク車の取扱いについて明確にしていない。新旧のタンク車が混在した場合、実質的に安全が強化されたとはいえない。
● DOT-111型の設計上の問題はつぎのとおりである。
①タンクのヘッド部およびシェルが破損しやすい。肉厚増加などの新型は事故時の激しさを減じることができるかもしれない。
② DOT-111型の上部付属物の保護用覆いは脱線時にかかる力に耐え得ない。
③底部にある3個のバルブは、開いて内部液を放出しやすい。事故時の衝撃でも、バルブのハンドルは閉止を保持できるようにしておく必要がある。
日本でも、以前は、製油所に貨物車用の引込み線路があり、多くの石油タンク車が使用されていた。しかし、石油輸送はローリー車に代わっていき、現在では、石油タンク車は一部の地域でしか使用されていない。
DOT-111型タンク車 (写真はnorfork.egalexaminer.comから引用)
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事故時の写真 (写真はNTSB.govから引用) |
上部覆い (写真はNTSB.govから引用) |
バルブハンドル (写真はNTSB.govから引用) |
所 感
■ 世の中には、予期せぬ悲惨な事故が起こるものだというのが第一印象であった。週末の夜、住民6,000人の穏やかな町が、突然、戦場のように建物が壊され、炎上し、多くの人が亡くなるという最悪の事故に巻き込まれたのである。
米国オハイオ州のエタノールタンク車の脱線爆発事故 |
■ しかし、北米では、列車の脱線事故は少なくない。2011年2月6日、米国オハイオ州ハンコック郡アーカディア付近で貨物列車が脱線し、移送していたエタノールのタンク車がファイアーボールを伴う爆発事故があった。この事故を調べてみると、その潜在危険性は高いということがわかった。その要因は、①バイオエタノール生産の増加、 ②多くの生産工場から集約して輸送する必要性、 ③エタノールの水親和性から、製油所でなく各地方の配送ターミナルでガソリンに添加する必要性、 ④貨物列車による輸送の効率性、 ⑤北米の鉄道における脱線事故が少なくないことである。
■ 今回の事故も、報じられているように、原油のパイプライン輸送の代替手段として鉄道輸送が増え、使われている石油タンク車が、1991年以降、米国の国家運輸安全委員会(NTSB)から安全性に疑問が投げかけられている型式だった。北米で鉄道の脱線事故が少なくないことを考えれば、脱線・爆発・炎上事故の潜在危険性が高く、「起こる可能性のあることは、いつか実際に起こる」というマーフィーの法則どおりだといえる。明らかに、石油タンク車の構造改善は問題先送りされてきた。今回の事故により、中途半端は許されず、抜本的な対応がとられなければならない。一方、脱線が起こりやすいと思われる線路の保線についても目を向ける必要があるように思う。
■ 今回の事故でもう一つ注目するのは、鉄道会社の事故後の危機管理対応のまずさである。事故直後の7月6日に会社のホームページにニュース・リリースを出し、さらに7日に続報を出している。内容は必ずしも適切だといえないが、初期対応としては悪くない。しかし、トップ(最高経営責任者)の言動がまったく不適切である。トップの危機管理意識の欠如か、トップに不適切な情報を流した組織の問題かはわからないが、「最悪のシナリオを考える米国」にもほころびが現れてきたようにも感じる事例である。
後 記: 6月下旬から7月上旬にかけて北米で大きな事故が続きました。 米国アリゾナ州の山火事で消防士19名死亡、サンフランシスコ国際空港における韓国アシアナ航空機の事故、そして今回のカナダ・ケベック州における石油タンク車の脱線事故です。このうち2件を当ブログで紹介し、一区切りしました。
世界を見ると大きな事故が続いていても、自宅のまわりは平穏です。今年も高校野球の時期を迎え、すぐ近くの球場(周南市野球場;津田恒美メモリアルスタジアム)で山口県の予選が始まりました。蝉の声と球場内の応援を聞くと、今年も夏がやってきたという気持ちになっています。
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