今回は、2012年6月12日、スロバキアの首都プラチスラヴァの港において油の出荷中に漏洩し、ドナウ川へ流入するという事故を紹介します。
本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいて要約したものである。
・BusinessGhana.com, Thousands of Liters of Oil Leak into Danube in Bratislava, June 12, 2012
・Spectator, Sme.sk, Oil Leaks into Danube River in Bratislava , June 13 2012
・TheComingCrisis.Blogspot.jp, Thousands of Liters of Oil Leak into Danube in Bratislava, June 13, 2012
・Tasr.sk, Most of Diesel Removed from Danube River after Tuesdays Leak, June 13, 2012
<事故の状況>
■ 2012年6月12日(火)、スロバキアの首都ブラチスラヴァにある港で油が漏洩し、ドナウ川へ流出する事故が起こった。事故があったのは、ブラチスラヴァのウィンター・ポートにあるメイル・パレニスコ積替え用ターミナルで出荷中に漏洩したものである。
漏洩したのはディーゼル油で、漏洩量は約13,600リットル(13.6KL)であった。 当初、スロバキアの通信社TASRの情報では、移送配管が損傷して、油が漏れたという話で報じられた。 また、油種についても油性の液体という不特定な情報で報じられたあと、原油という話もあった。
■ 12日火曜の早朝、船へ油を移送していた従業員からの緊急連絡を受け、事故に対応するため、消防車両19台と消防士39名が出動した。
市の港管理組合は、港や川に浮いた油によるリスクを回避するため、港施設を一時的に閉鎖し、船の出入りを禁止する措置を行った。
■ 漏洩した油の量は17,000~30,000リットル(17~30KL)と伝えられたが、消防署の活動によってそのほとんどは港地区に限定することができたという。 しかし、量ははっきり分からないが、一部は港内からドナウ川やリトル・ドナウ川へ流れたという。
Smeデイリー誌によれば、油はドナウ川だけでなく、支流のリトル・ドナウ川へも流出したが、ザレジー村近くのオイルフェンスによって止まったという。
■ TASRによると、漏洩は人為ミスによるもので、量は約13,600リットル(13.6KL)と発表された。 Smeによれば、漏洩した油のほとんどは回収され、環境への重大な影響にはつながらないという。
■ 一方、警察は、水質および大気汚染防止法違反の刑事事件として捜査を開始した。
TASRによれば、容疑者が有罪判決を受ければ、罰金168,000ユーロ(1,680万円)、懲役1~5年の罪になるだろうと報じている。
補 足
■ 「スロバキア」は、正式には「スロバキア共和国」で、中央ヨーロッパの共和制国家である。ユーロ圏に属し、人口は約540万人である。 第一次大戦後、オーストリアとハンガリー帝国からチェコと合併する形で独立し、1989年チェコスロバキア共産主義支配が終わった後、1993年にチェコとスロバキアに分離独立した。 スロバキアは、北西にチェコ、北にポーランド、東にウクライナ、南にハンガリー、南西にオーストリアと接する。
「ブラチスラヴァ」はスロバキアの首都で、人口約43万人、政治的、文化的、経済的にスロバキアの中心である。中世の塔のある古い町並みと近代的な都市を分けるように街の中央をドナウ川が流れている。 「ブラチスラヴァ」は大陸性気候で、国内で最も温暖な都市である。7~8月の平均最高気温が27℃、1~2月の平均最低気温が-2~-3℃である。
「ブラチスラヴァ港」の南東方向に「スロブナフト製油所」がある。同製油所は1949年に建設され、年間5.5~6.0百万トン(11~13万バレル/日相当)の精製能力を有しているが、2000年以降、ハンガリーの石油・ガス会社MOLのグループ傘下となっている。
今回の事例は、港の積替え用ターミナルから油の出荷中に漏洩事故を起こしたものであるが、港周辺に油貯蔵用タンクが確認できないので、おそらくスロブナフト製油所の貯蔵タンクから配管(パイプライン)で移送したものと思われる。
■ 「TASR」(Tlacova Agentura Slovenskai Republikv)は、スロバキアのニュース通信社で、一部公的な組織の情報機関である。 「Sma」はスロバキアの新聞社で、Spectatorのインターネット情報を出している。
■ 「ドナウ川」は、英語で「Danube」(ダニューブ)といい、独語で「Donau]である。ヴォルガ川に次いで欧州で2番目に長い川である。全長は2,860㎞で、ドイツ西部の森林地帯(黒い森)を源流に、オーストリア、スロバキア、ハンガリー、クロアチア、セルビア、ルーマニア、ブルガリア、モルトバ、ウクライナーの10か国を通って黒海に注ぎ込む。
ドナウ川は、ブラチスラヴァの市域中心を西から南東方向へ向けて流れている。市の東部郊外で「リトル・ドナウ川」に分流し、再びドナウ川と合流する。「リトル・ドナウ川」はドナウ川と並行に流れ、約128㎞の長さである。
ドナウ川の環境汚染事故としては、スロバキアより下流に当たるハンガリーで2010年10月に起きたアルミニウム工場から大量の赤泥廃液が流出した事例がある。この事故はアルミニウム精錬で発生した酸化鉄を主成分とする赤泥廃液を貯水する鉱滓ダムの堤防が決壊し、100万㎥の赤泥廃液が流出し、周辺の町や村に流れ込んだほか、一部は70㎞離れたドナウ川へも流れ込んだ。赤泥廃液には、重金属や強塩酸基などの毒性および腐食性の高い物質が含まれており、多数の魚類の死骸が確認され、大きな環境汚染問題となった。
所 感
■ 今回の事例は、積替え用ターミナルから船に油を出荷する際に人為ミスで漏洩させてしまったものであるが、内陸地で川沿いの港というスロバキア特有の場所で起こった事故として興味深い。
海の港湾施設とは違った様子である。昔の日本でも有効な交通手段として川や運河を使った船輸送があったが、スロバキアでは、この規模を大きくした形で運用されているという感じである。
一部の報道によると、事故を起こした船はタグボートという情報もあったが、詳細はわからない。しかし、写真で紹介したようにブラチスラヴァ港で運行している船は底の浅い形式の船であり、海運とは違った操船の特殊性があると思われる。
■ スロバキアはまわりがすべて国境を接する国で、かつドナウ川という10か国を流れる川における流出事故ということで、事故の情報が広く流れたものと思うが、内容は乏しい。事故の内容も報道によって少し違っている。事故の翌日には、油はほとんど回収されたという記事になっているが、ドナウ川の下流のリトル・ドナウ川まで流れており、過去の油漏洩事故の状況から考えても、1日で回収が完了するとは思えない。おそらく、下流各国からの懸念を払拭させるために出された情報だと思われる。
後記; 今回の事故はタンクに直接関連した内容ではありませんでしたが、スロバキアという国で起こった稀な情報でしたので、紹介することとしました。島国の日本からすると、地続きでまわりがいろいろな国と接しているスロバキアという国に興味をもったからです。
スロバキアとして分離独立した以降に生まれた平成生まれの人は違和感がないでしょうが、学校の地理で「チェコスロバキア」として習った私(たち)にとってはまだなじみがありません。もともと、ヨーロッパの中でも、スロバキアという国に関する知識が不足しているからですが。 しかし、以前、日本の首相が「チェコ」を訪問したときに、訪問国を「チェコスロバキア」と発言してひんしゅくを買ったといいますが、外交においては、このような失敗は許されないでしょう。
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