今回は、2012年6月2日、米国テキサス州ヒューストンにあるオイルタンキング・パータナーズ社の石油基地で、構内において溶接作業を行っていたところ爆発が起こり、死者1名、負傷者1名の出た事故の情報を紹介します。
本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいて要約したものである。
・ABCLocal.go.com, 1 Killed,1Injured in Channelview Explosion, June 4, 2012
・Chron.com, Channelview Plant Blast, June 2 2012
・Vbattorneys.com, Oiltanking Partners Plant in Channelview Explodes, June 4, 2012
・SmithandHasslerBlog. com, Houston Personal Injury Attorneys, June 3, 2012
<事故の状況>
■ 2012年6月2日(土)、米国テキサス州ヒューストンにある石油施設で爆発があり、死傷者の出る事故が起こった。事故があったのは、ヒューストンのオイルタンキング・パートナーズ社のチャンネルビュー石油基地で、午前8時10分頃、構内において溶接作業を行っていたところ爆発が起こった。
■ この日、サウス・シェルドン道路近くのジェイシントポート通りにあるオイルタンキング・パートナーズ社の石油基地構内で働いていた作業者にとって、いつもと同じ平常な日になるはずだったが、溶接事故によって事情は一変した。
■ 当局によると、危険性物質は放出されておらず、火災の発生はなく、地元への環境や健康への影響はないという。
■ オイルタンキング・パートナーズ社によれば、亡くなった被災者はエル-コン建設の男性従業員(47歳)である。エル-コン建設はヒューストンに本社を置く独立系の請負会社で、構内に入って工事を行う協力会社であった。
負傷した男性もエル-コン建設の従業員(26歳)であった。この男性のケガの程度はわからないが、病院へ搬送されている。 死傷した2名の氏名は公表されていない。
■ ABC放送は、発災場所から約100ヤード(90m)離れたところで、爆発を目撃した人から状況を聞くことができた。この目撃した人によると、“ボン”という音が聞こえたあと、足元の地面が揺れるのを感じたという。
マック・マクレイントンさんは、「地面がドーンと揺れたよ。むこうに見えるタワーのあたりにいた人間はみんな感じたね。仲間の一人がそっちの方で働いていたので、心配になったよ」と語った。
■ オイルタンキング・パートナーズ社の広報担当から出された発表によると、「会社として“不幸な事故に遺憾の意を表し”、“現在、気にかかっていることは負傷された方の早い快復と、お二方のご家族のこと”です」と述べ、更につぎのように言っている。「石油施設は安全な操業を続けており、調査が終わり次第、事故に関する情報を公表する予定です」
■ 被災者が死亡したのは、溶接機の不良による偶発的な事故のためだと思われる。被災者が貯蔵タンクの近くで溶接作業を行っていたとき、不慮の事故が起こったと、ハリス郡保安官事務所の広報担当であるトーマス・ジリランド副所長は語っている。 負傷した被災者も同じ場所にいた。
被災者の死因は上半身と頭部に大きな外傷を負ったことによると、ジリランド副所長は語った。
■ ジリランド副所長によると、調査はハリス郡消防署の管轄になったという。 OSHA(米国労働安全衛生局)が爆発について調査し、原因報告書をまとめることになると思われる。オイルタンキング・パートナーズ社と爆発時に関連していた会社も、同様に社内調査を行うことになるだろう。
■ チャンネルビュー緊急時対応部署がテレビ放送会社へ語った話によれば、配管の溶接作業していたところ、配管内のガスが引火し、午前8時頃に爆発したという情報もある。
補 足
■ 「テキサス州」は米国南部に位置し、人口約25百万人で、州都はオースティンである。 「ハリス郡」はテキサス州の南東部にあり、人口約340万人である。
「ヒューストン」はテキサス州ハリス郡の南部に位置し、人口約210万人で、テキサス州最大の都市である。石油産業によって発展してきたほか、NASA(アメリカ航空宇宙局)のジョンソン宇宙センターがあり、宇宙の街として知られている。
■ 「エル‐コン建設」(L-Con Constructors Company)は、テキサス州ヒューストンに本社を置き、石油精製、石油化学、電力、重工業、石油ターミナルなどの建設関連事業を行っている企業である。1968年以降、鉄鋼会社のレキシコン(Lexicon Inc.)の系列会社になっている。
■ 「オイルタンキング・パートナーズ社」(Oiltanking Partners L.P.)は、原油、石油製品、石油化学、石油ガスの貯蔵・輸送を専門に行い、2011年7月には株式上場した石油企業で、オイルタンキング・グループの子会社である。
オイルタンキング・グループは、北米、欧州、アジア、中東、中米、南米など世界22か国に72の石油ターミナルを有し、その貯蔵能力は121百万バレル(1,920万KL)に達する。
ヒューストンのチャンネルビュー石油基地は12百万バレル(192万KL)の貯蔵能力があり、タンクは62千KL×12基、48千KL×6基、32千KL×8基、15千KL×8基、12千KL×13基など合計63基を有し、入出荷用桟橋は13万DWTクラス×6基を持っている。
所 感
■ 今回の事故は、タンクの爆発でなく、溶接機の不良に起因する事故であると思われる。ただ、溶接機がどのような要因で爆発に関与したかは不明である。
過去のタンク火災事故における原因としての工事ミスの内容は、「貯蔵タンク事故の研究」(当ブログでは2011年8月に紹介)によれば、「短絡」、「接地不良」、「変圧器の火花」という要因がある。しかし、これらはタンク火災につながった着火原因であり、今回のように溶接機の不良による爆発事故という事象は聞いたことがなく、極めて稀な事例だと思われる。
しかし、タンク施設内における溶接作業は、極めて危険性の高い火気工事であり、作業マニュアルの安全性を確保するとともに、使用する資機材の機能確保の重要性を再認識させる事例である。ともすれば、以前から使っているから問題ないとしがちであるが、勝手な予断によって起こる事故は多く、資機材の正しい点検を行わなければならない。
■ オイル・メジャーが下流部門から撤退していく中で、貯蔵・輸送を専門とする会社の石油施設内で起こった事故であることに社会の変化を感じる。オイルタンキング・パートナーズ社は2011年7月に株式上場した会社で、このように石油精製・石油化学のプロセス装置を除いた石油物流企業が台頭してきている。
日本でも、製油所の閉鎖が行われているが、石油物流という観点から貯蔵・輸送に関わる部門は継続される。このことから、タンクに関わる技術や安全性の継承は確実に行わなければならないといえよう。
後記; 先日、昨年度の日本アカデミー賞を独占した映画「八日目の蝉」を観ました。セミは何年も地下で過ごし、地上に出たあと7日間という短い寿命ということから、生き延びて8日目を迎えた蝉は一体何を見るのだろうという意味から付けられた題名です。原作は角田光代著の同名の小説ですが、主人公である娘の4歳まで育ててくれたお母さんが実は誘拐犯だったというサスペンス・ストーリーでなかなか重い内容です。映画では、大人になった主人公の現在と4歳までの過去の生活を交互に映像にしており、小説を読んでいない人(私)にとって面白い展開でした。
小説は時間の流れに沿って書かれているそうで、映画として作った脚本が良かったと感じます。日本映画では、ややもすると間延びして情緒的すぎる展開が多いと思いますが、日本アカデミー賞では主演女優賞、助演女優賞を獲っており、この裏には一番の脚本ではなかったかと思います。ちなみに脚本は奥寺佐渡子さんです。映画(小説)が母性を扱った女性の強さを描いたものですが、現実にもいろいろな分野で優秀な女性が出てきましたね。
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