このブログを検索

2025年9月1日月曜日

ロシア連邦コミ共和国で定期修理中の空タンクが爆発

 今回は、202577日(月)、ロシア連邦コミ共和国のクストヴォにあるルコイルーペルミ社の石油施設において定期修理のため空の貯蔵タンクが爆発した事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、ロシア連邦(Russia)コミ共和国(Komi)のクストフスキー地区(Kstovsky District)のクストヴォ(Kstovo)にあるロシアのエネルギー企業;ルコイル社(Lukoil)の子会社であるルコイルーペルミ社の石油施設(Lukoil-Perm facility)である。ルコイルーペルミ社の石油施設は製油所を運営しており、この地域の主要な石油貯蔵所のひとつとして、一般社会や近隣地域の企業向けに燃料の貯蔵と出荷を行っている。

■ 事故があったのは、石油施設内にある容量2,000KLの貯蔵タンク(タンク番号;RVS-2000)である。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 202577日(月)午後1時頃、石油施設の貯蔵タンクの1基が爆発起こした。

■ 爆発は非常に強力だった。地元住民によると、近隣の住宅街でも爆発音が聞こえたという。

■ 定期修理のためタンク内は空だった。爆発当時、タンク内には誰もいなかった。

■ 予備情報では、爆発は攻撃用ドローンやミサイルの飛来によるものではないという。

■ ルコイルーペルミ社は、従業員に負傷者はいなかったと発表した。火災の暫定的な原因はタンク内のガス蓄積とされている。

■ 事故タンクでは爆発はあったが、火災は記録されていない。予定されていた修理タンク内に火花が飛び、残留APGベーパーに引火したものと推定されると報じたメディアがある。

■ 監視カメラの映像がロシアのメディアで公開された。動画には、巨大なタンクが急激に持ち上げられ、そこから数メートルの高さの火柱が噴き出す様子が映っている。数秒のうちに、周囲は灰に覆われ、カメラレンズは煙に覆われた。タンクの屋根を一瞬にして噴き飛ばす様子が写っている。屋根が落ちる瞬間は映像に捉えられていないが、屋根の構造が著しく変形していることがわかる。

■ つぎのウェブサイトでは、タンク爆発の状況を伝える動画が投稿されている。

 Oilcapital.ru, На объекте ЛУКОЙЛа в Коми взорвался топливный резервуар — KomiLeaks2025/07/08

 ●Charter97.org,На нефтебазе «Лукойла» в Коми прогремел мощный взрыв2025/07/08

被 害

■ 容量2,000KLのタンク1基が損壊した。

■ 負傷者はいなかった。

< 事故の原因 >

■ 原因は調査中である。

 ルコイルーペルミ社は自然発火性堆積物と酸素の反応が原因であるとし、別なメディアは残留APGベーパーに引火したものだという推測が報じられている。

< 対 応 >

■ 202578日(火)、ルコイルーペルミ社はタンク爆発事故について、自然発火性堆積物と酸素の反応が原因であると暫定的な情報として発表した。自然発火性堆積物は、硫化水素による腐食の結果、機器や配管の表面に形成される黒色の堆積物で、硫化鉄化合物、有機樹脂、および機械的不純物で構成されている。これらの堆積物は空気と接触すると自然発火する可能性があり、火災や爆発の危険性があるという。

■ 202578日(火)、当局者によると、この施設は常時国家の監視下にあり、ロシア連邦原子力規制庁が今回の事故の原因を調査するための技術調査委員会を設置した。

■ ロシア連邦原子力規制庁によると、ルコイルーペルミ社の施設は、20256月、検査官が現場で20件の違反を指摘し、運営組織の職員が行政上の責任を問われている。


補 足

■ 「コミ共和国」は、ロシア連邦中北部の共和国で、人口約74万人である。

「クストフスキー地区」(Kstovsky District)は、人口約11万人の地区である。

「クストヴォ」(Kstovo)は、クストフスキー地区の行政の中心になる地域で、人口約66,000人の町である。

 コミ共和国の事故を紹介したのは、つぎのとおりである。

 ● 201711月、「ロシアのルコイル社の製油所でガソリン用タンク火災」

■「発災タンク」は容量2,000KLの円筒タンクである。このクラスのタンクは直径1520mとみられ、グーグルマップで調べると、直径が18mのタンク群があり、高さを8mと仮定すれば、容量は2,030KLである。発災タンクはこれらのタンク群のいずれかだと思われる。監視カメラのタンク群映像とグーグルマップをつき合わせしてみたが、特定には至らなかった。

 被災写真の発災タンクには銘板があるが、容量(2,000㎥)のほか、“火災の危険性あり”(ОГНЕОПАСНO)という危険物一般の表示で、内部液体の名称は書かれていない。

■ 発災は残留「APG」ベーパーに引火したものとメディアの一部で報じられている。通常、APGAssociated Petroleum Gasを指し、石油採掘時に石油と一緒に産出される天然ガスの総称である。

 ルコイルーペルミ社はタンク爆発に事故について、「自然発火性堆積物」と酸素の反応が原因であると暫定的な情報として発表している。「自然発火性堆積物」は、硫化水素による腐食の結果、機器や配管の表面に形成される黒色の堆積物で、硫化鉄化合物、有機樹脂、および機械的不純物で構成され、これらの堆積物が空気と接触すると自然発火する可能性があり、火災や爆発の危険性がある。

 空のタンクの事故としては、原油タンク内のスラッジで生成した硫化鉄が着火源になったと思われる火災(20171「東燃ゼネラル和歌山工場で清掃中の原油タンクの火災」)があるが、今回のような爆発ではなかった。

所 感

■ タンク爆発の原因は調査中で分かっていない。ルコイルーペルミ社は自然発火性堆積物と酸素の反応が原因であるとし、別なメディアは残留APGベーパーに引火したものだという推測が報じられている。

 20171月に日本の和歌山で清掃中の原油タンクが事故を起こしたが、このときは原油タンク内のスラッジで生成した硫化鉄、すなわち自然発火性堆積物が着火源になったとみられるが、爆発ではなく、火災だった。自然発火性堆積物で今回の事例のような爆発が起こるとは思えない。事象からみて、タンク内の爆発性の可燃性ガスが残留または導入して爆発事故が起こったと考えられる。

■ 消火戦略には積極的戦略・防御的戦略・不介入戦略の3つがあるが、今回のように爆発が一回のみで火災が起こっていないので、消火活動はとられていないめずらしい事例である。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Charter97.org,  There Was A Powerful Explosion At Lukoil's Oil Depot In Komi,  July 08,  2025

    Reuters.com, Russia's Lukoil-Perm says empty reservoir has exploded at an oil facility,  July  08,  2025

    Energynews.pro, Empty reservoir explodes at Lukoil-Perm facility: no casualties reported,  July 09,  2025

    Rbc.ru, ЛУКОЙЛ объяснил видео со взрывом резервуара для нефти в Усинске,  July  08,  2025

Gazeta.ru, Появилось видео взрыва резервуара с топливом в Коми,  July  8,  2025

Oilcapital.ru, На объекте ЛУКОЙЛа в Коми взорвался топливный резервуар,  July  8,  2025

    Vesti.ru, В Коми на объекте "Лукойла" взорвался топливный резервуар, момент попал на видео,  July  8,  2025

    Neftegaz.ru, На площадке установки подготовки нефти ЛУКОЙЛа в Республике Коми взорвался резервуар,  July  8,  2025

    Tass.ru, В Коми взорвался нефтерезервуар,  July  8,  2025

    Novosti.dn.ua, В России взорвался топливный резервуар «Лукойла»,  July  8,  2025


後 記: ロシア連邦コミ共和国の事例紹介は2例目です。前回(2017年)の事例でも難儀しましたが、今回もよくわからない事故です。まず、コミ共和国という国がよくわからない上に、ルコイルーペルミ社という事業者が判然としません。どうやら2017年の事故を起こした石油施設らしいと判断しました。はっきりしたのはグーグルマップによって2017年の発災タンクが当時特定できなかった有力タンクだったことがわかりました。一方、感心するのは監視カメラによる爆発の瞬間をとらえた映像が公開されたことです。もし、映像が無かったら、報道記事だけでは発災時間や発災タンクのサイズさえ分からなかったでしょう。

2025年8月24日日曜日

米国インディアナ州でトルエン用タンクが爆発・火災、負傷者なし

 今回は、2025723日(水)、米国インディアナ州ラファイエットにあるスウィフト・フューエルズ社でトルエン用タンクが爆発・火災を起こした事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、米国インディアナ州(Indiana)ティッペカヌー郡(Tippecanoe County)ラファイエット(Lafayette)にあるスウィフト・フューエルズ社(Swift Fuels)の施設である。

■ 事故があったのは、ティッペカヌー郡道400号線と国道52号線の近くにあるスウィフト・フューエルズ社の施設内にある容量10,000ガロン(38KL)のトルエン用タンク設備である。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 2025723日(水)午後1230分頃、スウィフト・フューエルズ社の施設にあるタンク設備が爆発し、火災になった。

■ 発災にともない、消防署の消防隊が出動した。少なくとも3つの消防署から出動した。

■ 爆発当時、容量10,000ガロン(38KL) のタンクには1,0002,000ガロン(3.97.6KL)のトルエンしか入っていなかった。

■ 消防隊は隣接するタンクに放水して冷却し、延焼を防止した。

■ スウィフト・フューエルズ社はジェット燃料を製造しており、トルエンはジェット燃料を製造するための成分のひとつとして使用されていた。

■ 事故にともなう負傷者はいなかった。

■ ユーチューブでは、タンク火災の状況を伝える動画が投稿されている。

 YoutubeTanker fire at SwiftFuels in Lafayette contained quickly2025/07/24

   ●YoutubeReported tanker explosion causes road closure in Tippecanoe County2025/07/24

被 害

■ 容量10,000ガロン(38KL)の円筒タンクが焼損した。内部に入っていたトルエンの一部が焼失した。 

■ 負傷者は出なかった。

< 事故の原因 >

■ 原因は分かっていない。 

< 対 応 >

■ 消防隊が出動から約30分後、火災は鎮火した。

■ 現場の消防隊は消防局に泡薬剤の追加要請をしていたが、取り消した。

補 足

■「米国インディアナ州」(Indiana)は、米国の中西部に位置し、人口約678万人の州である。

「ティピカヌー郡」(Tippecanoe County)は、インディアナ州の西部に位置し、人口約186,000人の郡である。

「ラファイエット」(Lafayette)は、ティピカヌー郡の中部に位置し、人口約70,700人の都市であり、ティピカヌー郡の郡庁所在地である。地元ではラーフィーエットと発音している。

 ところで、インディアナ州の事例の紹介は、つぎのとおりである。

 ●「米国ホワイティング製油所の装置爆発で貯蔵タンク70基に延焼(1955年)」20174月)

 ●「米国インディアナ州の石油タンク施設に落雷して火災」20177月)

■「スウィフト・フューエルズ社」(Swift Fuels)は、価値の低い炭化水素を価値の高い燃料に変換することに特化した独自の技術を有しており、具体的には、軽質の炭化水素のC2C5成分を高付加価値燃料に変換、低質油を高オクタン価ガソリンブレンド油に改質、改質油を芳香族化合物の特殊燃料および石油化学製品化などを製造している。

■「トルエン」(Toluene)は、芳香族炭化水素に属する有機化合物で、化学式はC7H8、無色透明の液体で水には極めて難溶だが、アルコール類、油類などには極めて可溶である。トルエンはペイントシンナー、接着剤などの製品に使用されている溶剤である。常温で揮発性があり、引火性を有する。日本では、消防法による危険物に指定されている。人体に対しては麻酔作用があるほか、毒性が強く、日本では毒物及び劇物取締法により劇物にも指定されており、管理濃度は20ppmである。

 トルエンは原油中にも少量存在するが、通常は粗製ガソリンであるナフサのエチレンプラントでの熱分解、石炭からのコークス製造で生成する粗軽油やコールタールのクラッキングにより製造する。

■「発災タンク」は施設の中の小型円筒タンクとみられる。グーグルマップで調べると、タンク直径は3.5m程度であり、容量が10,000ガロン(38KL)と報じられており、高さは約4.0mとなる。発災当時トルエンは1,0002,000ガロン(3.97.6KL)入っていたといわれており、液高さは0.40.8mである。

 しかし、発災タンクは消防隊が出動から約30分後に鎮火したと報じられている割にタンク側板全面が真っ黒に焼けている。これは実際には火災時間が長かったと思われることと、液高さが0.40.8mと低く、燃焼が激しかったためだろう。また、発災時の爆発でタンクはやや傾いており、これも燃焼の激しさを物語る。

所 感

■ タンク爆発の原因は分かっていない。タンク内液は満杯時の1020%しか入っていないので、爆発の前に液を抜き、タンク内に空気が入って爆発混合気が形成されたものとみられる。これに何らかの引火源が作用して爆発したものだろう。しかし、発災タンクの焼け方はひどいが、隣接タンクは黒煙による汚れなどは見られず、発災経緯に疑問は少なくない。

■ 消火戦略には積極的戦略・防御的戦略・不介入戦略の3つがあるが、まわりがタンク間距離の小さいタンク群があり、積極的戦略をとっている。消防隊は隣接するタンクに放水して冷却し、延焼を防止するとともに火災タンクには泡薬剤による消火を実施した。消防隊は泡薬剤が途中で切れることを懸念して、追加要請をしていたが、自署の泡薬剤で消火できると判断して取り消しているのは好判断である。また、毒性のあるトルエンの火災に対して前線の消防士はボンベを背負い自給式呼吸器を着用している。基本的な安全対策をきちんと実施しているという印象である。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Jconline.com, Fuel tank on U.S. 52 explodes; fire quickly doused with no injuries,  July  23,  2025

    Wlfi.com, New details on Lafayette fuel tank explosion,  July  25,  2025

    Msn.com.com, Fuel tank on U.S. 52 explodes; fire quickly doused with no injuries,  July  23,  2025


後 記: 今回の事例は米国のローカルで早く消火できたため、事故の詳細な経緯は報じられていませんが、インディアナ州でタンク事故が少ないのか分かりません。しかし、はっきり言えることは、近年、テキサス州やルイジアナ州などでは事故報道の質が深堀りしないことです。そして、それはインディアナ州でも同じだなあと感じています。

 ところで、最近、日本の大阪の火災で消防活動中にふたりの消防士が殉職されました。発災原因の追究することはもちろんですが、なぜ消防士が亡くなってしまったかについても同様に調査が必要でしょう。直接関係があるわけではありませんが、今回、米国ラファイエットの消防士が耐火服を着てさらに自給式呼吸器のボンベを背負っているのをみると、いかにも体力ありそうだなと感じました。

2025年8月16日土曜日

米国モンタナ州で貯蔵・廃棄施設のタンク火災からLPガスタンク爆発

 今回は、2025625日(水)、モンタナ州リッチランド郡シドニー近郊にある多くの油井やガス井、貯蔵施設が点在している中、貯蔵・廃棄施設でタンク火災が発生し、延焼した後にプロパンガス・タンクが爆発した事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、モンタナ州(Montana)リッチランド郡(Richland County)シドニー(Sidney)近郊にある貯蔵・廃棄施設(Storage and Disposal Plant)である。この施設は州境に近い田園地帯に位置し、多くの油井やガス井、貯蔵施設が点在している。

■ 事故のあったのは、シドニーの南約4.8kmにあり、ハイウェイ261号線沿いにある貯蔵・廃棄施設のタンク群である。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 2025625日(水)午後8時前、シドニー近郊にある貯蔵・廃棄施設で火災が発生した。施設には誰もいなかった。

■ たまたま近くの道路を車で通りかかった人が施設のタンク群が火災を起こしているのを見て消防署へ通報した。通報した人はストームチェイサー(竜巻や嵐などの気象現象を追跡し、観測・記録する専門家や愛好家のこと)で、嵐を追跡するためカナダへ向かう途中だった。通報後、消防隊の到着を待つ間、映像を撮影しようとドローンを飛ばした。

 ドローンの映像を確認しながら見ていたとき、突然、横型円筒タンクが大きな爆発を起こしたという。タンクは噴き飛び、数百フィート(100m)先に地面に落下した。爆発の衝撃波は映像を撮っていた車のところまで及び、ドローンも一時、行方不明になった。

■ 大きな爆発があり、地元住民は爆発音とともに、大きな揺れに見舞われた。地元住民のひとりは、爆発音を聞き、緊急通報の911番に通報した。 通報した人によると、「巨大な火の玉が上がりました。熱を感じましたし、プロパンガス・タンクと思われるものがおそらく200フィート(約60m)以上も空高く舞い上がるのが見え、その後落下しました」と語った。

■ ハイウェイ261号線沿いで火災が発生したという目撃者の通報により、午後8時頃、ボランティア型消防隊が現場に出動した。周辺地域の消防隊も支援で出動した。

■ 発災にともなう負傷者はいなかった。

■ 火災の影響範囲は貯蔵・廃棄施設のあるエリアにとどまった。現場に到着した消防隊によると、「爆発したタンクもあれば、爆発寸前のものもありました」といい、「現場と周辺地域における人命の安全に関わる懸念事項を確認しました。このような状況では、積極的に消火活動を行うことは安全とはいえません。このようなケースでは、通常、エリアを孤立して、火災が燃え広がらないようにし、火が自然に消えるまで待つのが最善策です」と語り、消防隊員の安全を確保した。消防隊の大半は午後11時以降に現場を離れることができた。

■ 消防隊によると、「施設には複数の貯蔵タンクとプロパンガス・タンクがあり、これらのタンクが加熱されて爆発を引き起こしたとみられます。初期の報告では、爆発は10マイル(16km)離れた場所でも感じられたといいます」といい、「火災による被害の大部分は施設自体に限定されています」と語っている。

■ ユーチューブでは、タンク火災の状況を伝える動画が投稿されている。  

   ●YoutubeMASSIVE MONTANA EXPLOSION CAPTURED BY DRONE!! - Sidney, Montana 6/25/252025/06/27

   ●YoutubeNo injuries reported at large explosion at Sidney industrial plant」 2025/06/27

   ●YoutubeEyewitnesses describe explosion south of Sidney2025/06/27

被 害

■ 貯蔵・廃棄施設の複数の貯蔵タンクが火災で損壊した。

■ プロパンガス・タンク1基が爆発して噴き飛び、全壊した。 

■ 負傷者はいなかった。

< 事故の原因 >

■ 火災・爆発の原因は調査中である。  

< 対 応 >

■ 消防隊の一部は夜通し現場を監視し、626日(木)朝7時に現場を撤退した。

■ 複数の貯蔵タンクが燃えたが、消防隊によると、タンクに何が入っていたのか、わからないという。

■ 爆発の原因は調査中である。現時点では、今回の火災が何らかの点で不審であるとする理由は何もないという。しかし、消防署によると、地元の地主であること以外、誰がこの場所を運営していたかは分からないという。

補 足

■「モンタナ州」(Montana)は、米国の北西部に位置し、人口約108万人の州である。州都はヘレナ市(人口約32,000人)である。

「リッチランド郡」(Richland County)は、モンタナ州の東部に位置し、人口約11,000人の郡である。

「シドニー」(Sidney)は、リッチランド郡の西部に位置し、同郡の郡庁所在地でもあり、人口約6,000人の町である。

 ■ 発災施設は「貯蔵・廃棄施設」(Storage and Disposal Plant)としたが、 「塩水処理施設」と報じたメディアもある。外観は塩水処理施設のように見えるが、消防署によると、地元の地主であること以外、誰がこの場所を運営していたかは分からないといい、判然としない。被災写真では、トラックやタンクローリーの車両が写っているので、稼動されているのだろう。施設は油田に関連したものと思われるが、雑多なタンクが無造作に放置されているようにしか見えない。円筒タンクは、どこかの油田の不要になった貯蔵タンクを並べているようで、内液は油田から出た油や塩水などではないだろうか。

■「発災タンク」は貯蔵タンクと報じられているだけで、タンク仕様の詳細はわからない。爆発を起こしたのは、被災写真によると、横型円筒タンクであり、爆発の状況からプロパンガス・タンクとみられる。通常、塩水処理施設では、横置き円筒タンクを置いているところは無い。油田の軽質油のプロパンやブタンなどを入れていたタンクが不要になって、この施設に受け入れたのではないだろうか。

所 感 

■ 爆発の瞬間をドローンから撮った映像がSNS(ソーシャルネットワーク)で流れたので、多くの人が知った事故であるが、映像以外、施設内容や事業者などは分からない。施設は「貯蔵・廃棄施設」(Storage and Disposal Plant)としたが、 消防署によると、誰がこの場所を運営しているかは分からないという。

 円筒タンクから火災が起こったとみられるが、円筒タンクはどこかの油田の不要になった貯蔵タンクを並べ、内液は油田から出た油や塩水などではないだろうか。しかし、どのようにして油が漏れて引火し、火災になったかは分からない。

■ 消火戦略ははっきりと不介入戦略をとったと報じられている。爆発がプロパンガス・タンクと思われるが、他のタンクの内液の種類も何かは分からない状況であり、消火作業に携わる消防隊員の安全を考えれば、妥当な判断である。 


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

     Kfyrtv.com, Eyewitnesses describe explosion south of Sidney,  June  27, 2025

     Montanarightnow.com, Fire crews respond to large explosion and fire at saltwater disposal site near Sidney,  June  26, 2025

     Apnews.com, Oil field disposal plant in eastern Montana explodes, no injuries,  June  27, 2025

     Montanafreepress.org, Oil field disposal plant in eastern Montana explodes, no injuries,  June  26, 2025

     My1035.com, Big Explosion in Montana,  June  26, 2025

     Isssource.com, Fire, Explosion at MT Oil Storage Site,  June  27, 2025

     Roundupweb.com, (Updated 6-26-25) Saltwater Disposal Plant Fire & Explosions Shake Community,  June  26, 2025


後 記: 今回の事例は今の米国をある面、象徴するような事故です。施設の目的が分からないだけでなく、事業者も分かっておらず、火災が起こっても地元の人たちは知らず、爆発が起こって初めて知ったなんて信じられない事故です。おおらかさというより、石油やガスといったリスクを伴う設備なのに、かなりいい加減な状況です。米国繁栄のベースは豊富な原油・天然ガス生産にあるわけですが、こんな状態がアメリカ・ファーストとは思いませんね。一方、この事故をたまたま通りすがりに見た人がストームチェイサーで、持っていたドローンで撮影したというのも、ほかの国では信じられないことですね。


2025年8月8日金曜日

米国ネブラスカ州のバイオ燃料製造工場で粉塵爆発、少女ら3名が死亡

 今回は、2025729日(火)、米国ネブラスカ州ドッジ郡フリーモントにあるホライゾン・バイオフューエルズ社のバイオ燃料を製造する工場で大きな粉塵爆発があり、少女を含む3名の死者を出した事例を紹介します。


< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、米国ネブラスカ州(Nebraska)ドッジ郡(Dodge County)フリーモント(Fremont)にあるホライゾン・バイオフューエルズ社(Horizon Biofuels)のバイオ燃料を製造する工場である。

■ 事故があったのは、サウスフリーモント(South Fremont)のシュナイダー通り(Schneider Street)とクローバリー道路(Cloverly Road)の近くにあるバイオ燃料工場の主プラントである。この工場は木材廃棄物を利用して、家畜の寝床や暖房・燻製用の木質ペレットを製造しているペレットミル・プラントである。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 2025729日(火)正午頃、バイオ燃料工場で大きな爆発があり、火災が起こった。

■ 現場から約半マイル(0.8km)離れた住民は、「爆発で家全体が揺れ、音が非常に大きく、敷地内にある建物に車を突っ込んだのではないかと思った」といい、「外を見ると、ものすごい煙が立ち昇っていました」と語った。

■ 発災にともない、消防署の消防隊が出動した。近隣の消防隊も支援に出動した。他の製造工場や食品加工工場に囲まれた火災現場に最初に到着した消防隊員は激しい炎と黒煙に直面した。

■ 警察は付近の道路の交通を閉鎖した。

■ バイオ燃料工場のメインタワーの頂上が破壊され、コンクリートと鉄筋が剥き出しになった。また、下の建物の金属製の壁と屋根は崩れ、黒焦げになった。消防隊によると、建物は「外側がセメント構造で、そこに金属フレームが固定されている」と述べていた。

■ 消防隊は、爆発事故からほぼ1日が経過した翌日も、瓦礫の中からくすぶる煙と炎と闘った。 消防隊によると、爆発で建物が不安定なため、消火活動中の隊員が建物内に入るのが困難になっているという。一晩中雨が降っていたにもかかわらず、炎は燃え続けた。

■ ホライゾン・バイオフューエルズ社は、施設全体が倒壊する可能性があるかどうかを評価しているという。 当局は、「作業は非常に時間がかかるだろう」といい、「行方不明者の捜索予定を立てられない」と述べた。

■ 瓦礫を撤去するために重機が持ち込まれ、復旧作業のために建物の一部にアクセスすることが可能になった。730日(水)、消防士らが24時間以上にわたり、くすぶる残骸と不安定な建物と格闘した後、行方不明だった3名を収容した。

■ 730日(水)、当局は、行方不明だった少女2名と成人1名の死亡が確認されたと発表した。ふたりの子供はホライゾン・バイオフューエルズ社で働く義父が仕事を終えるのを待って、その後、医者の診察を受けに行く予定だったという。亡くなった成人1名は少女たちの義父だった。少女の正確な年齢は不明だが、ふたりとも12歳未満だという。当局は現時点でふたりの氏名を公表していない。(その後、メディアの中には少女たちの名前などを報じたところがある)

■ 当局によると、爆発の原因は工場のメインタワーで発生した木材粉塵による可能性が高いという。米国労働安全衛生局(OSHA)によると、木材粉塵が大量に蓄積すると、火災や爆発の危険性があるという。一方、当局の捜査に協力的だと言われていたホライゾン・バイオフューエルズ社はメディアのコメントを求める取材には応じなかった。

■ 関係者によると、爆発が起きた時、少女たちは義父と一緒に職場にいたという。上司は、義父が少女たちを連れて行くのを許可していたからだ。少女ふたりは休憩室にいたとみられる。休憩室はメインタワーの一番下にあり、頑丈な部屋になっていたはずである。

■ ユーチューブでは、この事故の動画が投稿されている。

 YoutubeThree people ‘missing and unaccounted for’ after explosion at Horizon Biofuels plant in Fremont2025/07/29

   ●YoutubeCrews respond to explosion at plant in Fremont2025/07/30

   ●Youtube Drone Footage Shows Aftermath of Deadly Explosion at Nebraska Biofuel Plant2025/07/31

   ●YoutubeState Fire Marshal‘s Office reveals cause of deadly explosion at Horizon Biofuels plant2025/08/01

被 害

■ バイオ燃料工場のペレットミル・プラントと倉庫など主施設が爆発で損壊した。 

■ 死傷者が3名出た。従業員1名とその家族の少女2名である。

< 事故の原因 >

■ 爆発の原因は粉塵爆発で、工場のペレットミル・プラント内で発生した木材の粉塵によるとみられる。 

< 対 応 >

■ ネブラスカ州緊急事態管理局(NEMA)によると、ドッジ郡管理委員会が州の対応を要請したので、構造問題の専門家や救助犬チームを含むネブラスカ州タスクフォース1のメンバー14名が支援に派遣された。メンバーは、すでに現場にいた消防隊や他の緊急対応チーム、複数の法執行機関合流した。

■ 2012年に労働安全衛生局(OSHA)が安全上の問題を指摘し、ホライゾン・バイオフューエルズ社に罰金を科したと報じられている。安全上の問題には、従業員が作業中に機器に通電しないことを徹底していなかったこと、機械周辺の作業エリアを清潔に保っていなかったこと、特に製粉機周辺に木くずが蓄積していたことなどが含まれていた。

■ 2014年、ホライゾン・バイオフューエルズ社の建物で火災が発生し、電気系統が損傷したものの、建物自体は無傷だったという。

■ 木くずや木材関連バイオマスの処理と取り扱いには重大な火災と爆発の危険があり、米国では大規模バイオマス施設の増加に伴い事故も増加しているという。 

■ 専門家は、「ホライゾン・バイオフューエルズ社の工場で何が起きたのかを正確にいうのは時期尚早ですが、私自身の経験から、木質ペレットの取扱いがいかに難しいかを知っています。乾燥すると木粉は容易に飛散し、予熱炉(ハイビーム)や排気システムといった目立たない場所に堆積します」といい、「木質ペレットは、湿気があると塊のままだと自己発熱して発火する可能性があります。設計に内在する安全性、優れたメンテナンス、そして適切な運用手順が不可欠です」と語った。

■ 環境保護団体は、長年、燃料用木質ペレットの製造と保管が火災を引き起こす可能性があるとして警告してきた。ネブラスカ大学で農業安全を専門とする准教授は、ホライゾン・バイオフューエルズ社の爆発ビデオを見て、「大きな爆発が起こる数ミリ秒前に上部の窓から小さな炎が噴き出しているのに気づき、この瞬間、粉塵爆発だと思いました」と語った。准教授によると、これは穀物の粉塵爆発の研究でみてきたパターンに合致するといい、製造工場内の木材は微細な粉塵に粉砕され、それが酸素と火花や高温の表面などの発火源が存在する密閉空間の空気中に拡散すると、爆発につながる可能性があるという。

■ 730日(木)、ホライゾン・バイオフューエル社は初めて声明を発表した。

「ホライゾン・バイオフューエル社ファミリーの一員3名を失ったことに、深い悲しみで胸が張り裂けそうです。この悲しみは言葉では言い表せません。私たちは、何が起こったのかを理解すべく、徹底的かつ透明性のある調査に全力を尽くします。国民の安全は常に最優先事項であり、このような悲劇が二度と起こらないよう、あらゆる手段を講じます」と述べている。

補 足

■「ネブラスカ州」は、米国の中西部に位置し、人口約196万人の州である。

「ドッジ郡」(Dodge County)は、ネブラスカ州の東部に位置し、人口約37,000人の郡である。

「フリーモント」(Fremont)は、ドッジ郡の南部を位置し、人口約27,000人の都市でドッジ郡の郡庁所在地である。フリーモントは、製造業と農業の中心地であり、21世紀に入っても130社のアグリビジネス(農業に関連する幅広い経済活動)が立地している。

■「ホライゾン・バイオフューエルズ社」(Horizon Biofuels)は、2006年に設立されたバイオマス関連企業で、従業員は10名だという。バイオ燃料工場は、地元企業から廃棄された輸送用パレットや建築メーカーから廃棄された木材を用いて家畜の寝床や暖房・燻製用の木質ペレットを製造している。この工場は、ネブラスカ州内にある3つの商業用ペレット工場のうちのひとつで、廃木材から作られた木質ペレットを年間20,000ショートトン(18,100トン)生産する能力がある。同社は、これまで2009年、2010年、2018年、2021年に廃棄物削減を支援するためネブラスカ州から助成金を受けている。

■ 商業用ペレット工場は、通常、「ペレットミル・プラント」と呼ばれ、バイオマス・ディーゼルなどの液体燃料を製造するプラントと異なり、木質ペレットを最終製品として製造するため、プロセスは基本的にシンプルである。しかし、ホライゾン・バイオフューエルズ社がどのようなプロセスを採用して建設したかは分からない。一般的なペレットミル・プラントの例を下に示す。(ユーチューブでは、ペレットミル・プラントの例が投稿されている。

を参照)

所 感

■ バイオマス関連施設の爆発火災としては、20239月に起こった「米子市のバイオマス燃料発電所で爆発・火災事故」と類似性がある。米子市の事例では、燃料受入れ建屋1棟とエレベータ1基が被災した。調査結果では、木質ペレットの自然発火(建屋内に木質ペレットの屑が層状にたまって発酵して発生した可燃性ガスが着火)、建屋内での粉塵の充満(砕けて粉末状になった木質ペレットによる粉塵爆発)、の2つの可能性があるとされた。特定されなかったが、この種の施設では粉塵爆発のリスクが高い。

「米子市のバイオマス燃料発電所の爆発・火災事故の原因調査結果」2023/10/09を参照)

■ バイオ燃料工場の爆発・火災という馴染みの少ない施設の事故であり、被災者がふたりの少女ということで欧米の主要なメディアが記事にしている。米国のおおらかさ(粉塵爆発のリスクのある建物の休憩所に少女を受け入れる)が逆に働いた悲惨な事故である。

 しかし、2012年には、労働安全衛生局(OSHA)が安全上の問題(従業員が作業中に機器に通電しないことを徹底していなかったこと、機械周辺の作業エリアを清潔に保っていなかったこと、特に製粉機周辺に木くずが蓄積していたことなど)を指摘していたにも関わらず、今回の事故を起こしたことは、ホライゾン・バイオフューエルズ社の安全軽視の企業風土が招いた事故であると思う。 

■ 消火活動と被災者の捜索活動は難しかったという。メインタワー頂上以外の下部の構造が、外側はセメント構造で、そこに金属フレームが固定されていた。爆発で建物や壁が不安定な状態のため、消火活動中の隊員が建物内に入るのが困難になっていたという。ここでも見栄えの外観性を優先したホライゾン・バイオフューエルズ社の経営の価値観に疑問を感じる。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Edition.cnn.com, Nebraska plant explosion killed 2 girls and an employee, and the fire is still burning,  July  31,  2025

   Euronews.com, Two girls and one employee killed after explosion at Nebraska biofuels plant,  July  31,  2025

   Apnews.com,  Nebraska plant explosion killed 2 girls and an employee,  July  31,  2025

   Firerescue1.com, ‘It’s going to be very slow': Fire at Neb. plant explosion keeps crews from recovering bodies of girls and adult,  July  30,  2025

   Kptv.com, Search underway for missing people after explosion at Nebraska fuel pellet plant, officials say,  July  30,  2025

   Thechemicalengineer.com, Three dead following blast at biofuels plant in Nebraska, August 01,  2025

   Abcnews.go.com, 2 children, adult killed in explosion at Nebraska plant: Mayor,  July  30,  2025

   Cbsnews.com, Nebraska biofuels plant explosion kills 3 people, including 2 young girls,  July  30,  2025

   Jsonline.com, Drone footage shows deadly biofuel plant explosion in Nebraska,  July  31,  2025 

   Starherald.com, Dust deemed cause of Fremont plant explosion that killed 3; Horizon Biofuels officials make statement,  July  31,  2025


後 記: 本事故を初めて知ったときは、バイオ燃料の製造施設でタンクが爆発した事例だと思いました。ところが、情報を見ていくと、木質ペレットを最終製品とする施設の事故だということが分かりました。貯蔵タンク事故とは違いますので、投稿対象ではなく、やめようかと思いました。ところが被災者が少女ふたりということで、欧米の主要なメディアが取り上げる関心度の高い事故となっていたため、投稿することとし、調べていきました。事故の起こった初期段階は情報が混乱し、情報源が限られており、同じような記事が多く、調べても深堀りができませんでした。木質ペレットを最終製品とするペレットミル・プラントであることが分かり、粉塵爆発のリスクがあるにも関わらず、安全を軽視する企業風土のある会社の事故だということを理解しました。

2025年7月31日木曜日

中国で新しい消防機材を使った大型タンク火災訓練

 今回は、202568日(日)、中国において実機の訓練施設で行われた大型貯蔵タンク火災の事故対応の特別訓練の状況を紹介します。

< はじめに >

■ 20256月中旬から下旬にかけて、国家防災減災救援委員会と国務院安全生産委員会が主催する「緊急任務2025」の訓練が河南省濮陽市(ぼくようーし)などで実施された。「緊急任務2025」の事故想定は、巨大な炎と衝撃波により、火災警報システム、生産工程自動制御システム、冷却システム、泡消火システムの機能が停止し、爆発の破片が四方八方に飛び散ったというものである。球形貯蔵タンクが横転して上部の圧力逃し弁から可燃性ベーパーが噴き出して燃え、隣接する円筒貯蔵タンクは破片が貫通し、油が流出して燃えた。さらに、近くにある化学工場の3階建てプラットフォームを損壊させ、プロセスパイプラインが爆発して燃えた。炎は空高く舞い上がり、濃い黒煙が太陽を遮り、200m以内の熱放射は著しく高かったというものである。

■ この中で訓練の4つのテーマの一つである大型貯蔵タンク火災の事故対応の特別訓練が行われた。最新の科学技術成果を結集した耐高温の消防用ロボット、ドローン、大スパン屈折放水塔車、大容量泡放射砲などの装備が参画した。

■ 緊急救助を扱った映画などでは、大規模な火災や爆発が発生すると、消防隊員が自らの安全を顧みず、火災現場に駆けつけ、人々を救助する場面がよく見られる。生死を分ける訓練を経験する場面である。現在、人工知能(AI)、ドローン、知能ロボットといった科学技術が急速に発展している。現在、これらのハイテク技術が、消防隊員の代わりに高いリスクの現場へ入ることができるのだろうか。 

< タンク火災訓練の概要 >

■ 2025 68日(日)、訓練施設で大型貯蔵タンク火災事故の対応訓練が行われた。

■ 想定の訓練内容は、6月の暑い日、規模の大きいタンク貯蔵所において外部浮き屋根式貯蔵タンクの屋根が異常気象の影響で沈没した上、風の作用で1,000㎡近くの油面が激しく揺れ、揮発性の油が蒸発し、タンク上部には可燃性の油とベーパー滞留していた。雷雲が通過してタンクに落雷した後、激しく爆発し、あっという間に全面火災となった。

■ 訓練では、ドローンなどのハイテク機器が使用され、消防隊は火災現場から数十メートル離れた場所から活動するだけで済んだ。

■ 訓練の主催者は、大型貯蔵タンクの全面火災は世界共通の問題だと語った。石油産業が発展していく中で、世界では大型貯蔵タンクの火災事故が次々と起こり、事故に対して人による対応が成功する確率は非常に低い。「10KLの石油タンクは、直径が80m、表面積が5000㎡以上と、サッカー場とほぼ同じ大きさである。原油が満杯のタンクで火災が発生した場合、消火は極めて困難である。原油タンク内の原油がボイルオーバーを起こすと、沸騰液の飛散距離はタンクの高さの10倍以上、すなわち100200mに達する。この距離は、活動している消防隊員や消防車両が熱い油の飛散範囲内に入ってしまうことになる」

■ この訓練の狙いは、現場での火災状況を見極める難しさ、貯蔵タンクの冷却と防護の難しさ、火災拡大を遮断する難しさ、タンク全面火災を消火する難しさ、ボイルオーバーが起こったときの防護の難しさといった問題である。総合的な状況把握と処置判断の指揮、全方位冷却と防護、迅速かつ遠隔的な消火水の供給と泡消火剤の供給、化学工場における立体的な消火活動、貯蔵タンクにおける火災拡大の消火活動、外部浮き屋根式タンクにおける全面火災の消火活動など7つの重点テーマと21のサブテーマが焦点である。

■ 今回の訓練では、消防隊の準備と訓練に加え、科学技術手段を使って、燃焼中の大型タンクからの熱放射や熱伝導などのデータを収集し、3KL5KL 10KL、さらに15KLの貯蔵タンクで火災が発生した場合に必要な対応力を推測することにある。

■ 今回の訓練におけるもう一つの大きな特徴は、比較試験である。消防車、ロボット、ドローン、探知装備、個人用保護具、消火資材など9種類で合計227セットの新型消防機材が153部隊から集められ、現場での比較試験が複数回行われた。それらの中で優秀な機材としては、地上高さ65mの屈折放水塔車、最大流量570リットル/秒(34,200リットル/分)の大容量泡放水砲システム、100mの距離からレーザーでタンク表面をスキャンできるタンク火災監視レーダー、1,200℃の高温燃焼に耐えられる新型耐火服などが含まれている。各メーカーは自社の機材や装備が最も良いと言うが、訓練のタンク火災に対して性能が要求を満たし、実戦に向いているかを確認すべきである。



< 消防用ロボット >

■ 訓練では、1,000℃の高温にも耐える消防用ロボットも参画した。操作用のリモコンとロボットの距離は約1,000mでも操作可能だという。

■ タンク火災による訓練では、点火後、火は急速に燃え広がり、煙は数百mの高さまで上昇した。100m以上離れた場所にいても、熱波をはっきりと感じ取ることができた。しかし、タンク火災からわずか数メートル離れたところで消防用ロボットの赤い消防車両が水を噴射しており、高温の影響をまったく受けていないようだった。このロボットは耐高温・耐火性に優れ、比較試験でも優れた性能を発揮した。純国産のロボットは、1,000℃の高温下でも、放水能力と消火能力を正常に維持できることが分かった。

■ 訓練に参加した消防用ロボットは、高温に耐えて消火用水袋を運搬して消火活動を行う能力に加え、音声・動画撮影・伝送、火源自動判別などの技術も備えている。煙の充満した火災現場に進入後、ロボットは自力で最高温度の発生源を見つけ出し、消防ホースを運搬して消火剤を火災現場で噴射し、冷却・消火活動を行う。また、これらのロボットの遠隔操作距離は約1,000mで、消防隊員は安全な距離からロボットを操作し、遠隔操作装置を通して火災現場の最新状況を把握することができる。

■ ロボットがなければ、消防隊員が火災現場に接近することは非常に危険である。以前は、消防車を使って遠隔操作し、温度を下げることしかできなかった。消防隊員が現場に入るのは、煙、炎、温度が弱まってからだった。現在では、消防隊員が火災現場に入る際に耐熱性と断熱性のある防護服があるが、ロボットほど有効な活動をすることはできない。つまり、ロボットこそが人間の安全を最大限に確保できる。国家安全生産緊急救助隊の113隊は基本的にこのタイプの消防用ロボットを装備している。

■ 消防用ロボットが、将来、より大規模に活用され、火災対応においてより大きな役割を果たしていくためには、どのような点が最も重要で、改善が必要なのだろうか。主催者は、耐高温性は喫緊に改善が必要な技術だという。危険な化学物質の現場では、燃料が十分にあり、燃焼放出率が高く、発生する炎の規模や温度が非常に高いため、消防用ロボットの耐高温性に対する要求は高い。ロボットが高温に耐えられず、現場に接近して消防活動を行うことができなければ、消防用ロボットがもっている高い機能は発揮できない。

■ 訓練に参加した17台のロボットのうち、高温(800℃以上)に耐えられるのはわずか4台で、そのうち2台は高温試験前に撤退した。高温耐性を持つロボットの割合は依然として比較的低い。高温に耐えること自体は難しくないが、ロボットのエンジンと回路システムが高温の火炎下でも正常に動作することを保証することが難しいのが現状である。特に、壊れやすい電子部品を高温試験に耐えさせるために、断熱材と冷却方法をどのように活用するかが克服すべき課題である。

< ドローン >

■ 近年、ドローンは様々な産業で広く活用されており、消防の分野でも広く活用されている。大型タンクの火災や爆発事故において、ドローンはどのような役割を果たすことができるのだろうか。また、消火活動にも活用できるのだろうか。

■  68日の火災訓練では、上空で複数のドローンが参加しているのが目撃されたが、そのうち数機は火災現場の外で運用されており、直接消火活動に参画している様子は見られなかった。

■ 専門家は、ドローン自体の性能がまわりの環境に対して耐えるには力不足であるという。ドローンの精密機器は高温に耐えられず、空中飛行時の気流の影響を受けやすいため、用途には限界がある。石油火災では、高温で気流が乱れるため、ドローンは影響を受けやすい。さらに、ドローンは十分な大きさがなく、最前線の消防機材として使用するには大きなものを搭載できない。現状、ドローンは森林火災の消防機材に利用されつつある。

■ しかし、さまざまな制限があるにもかかわらず、ドローンは石油火災において依然として大きな役割を果たすことができる可能性を秘めている。ドローンは火災現場で赤外線撮影を行ったり、リアルタイムのオンラインガス分析を通じて大規模な漏洩や有害ガスの拡散の有無を判断したり、現場に照明を提供したりすることもできる。訓練では、ドローンを運搬手段として活用する試みが登場したことも注目された。

■ 現在のドローンの使い方としては、離陸後、現場の映像を指揮センターなどに送信し、ビッグデータモデルを活用して、現場の写真や動画をすぐに分析し、災害の状況を判断し、迅速に対応計画を作成する。これにより、車両や機材の動員、泡薬剤の数量計算などが行い、火災現場の指揮を支援する。

 一方、このシステムは現時点では完璧ではない。主な理由は、データベースに一部の消防活動のガイドしか含まれておらず、多くの事例の戦術や手動判断が組み込まれていなためだ。しかし、ビッグデータの最大のメリットは継続的な学習と改善にある。近い将来、このシステムは現場指揮官の判断処理能力を担うようになるだろう。


補 足 :

■ 中国の「緊急任務2025」訓練は、国家防災・減災・救援委員会と国務院安全生産委員会が主催し、黒龍江省大興安嶺地域東寧市、河南省濮陽市、広東省深圳市で同時に開催された。訓練では、回線・ネットワーク・停電時の緊急対応、原生林における大規模森林火災の消火活動、大型貯蔵タンクの火災・爆発事故時の緊急対応、都市高層ビルの火災消火活動の4つのテーマに焦点が当てられ、20256月に実施された。

■「屈折放水塔車」は、日本ではスクワート車や大型化学高所放水車と呼ばれている。日本では、狭い道路での作業性を重視し、地上高さを高くする傾向になく、最大22m級の屈折放水塔車が主流である。

 中国では、障害物回避能力の高い屈折放水塔車の開発に注力しており、地上高さ40m50m60mと高くする傾向にある。当然、アウトリガー張出幅は大きくなり、設置場所は限られる。

■ 中国の「消防用ロボット」は、記事にあるように「高温に耐え、消火用水袋を運搬して消火活動を行う能力に加え、音声・動画撮影・伝送、火源自動判別などの技術も備えており、煙の充満した火災現場に進入後、ロボットは自ら、最高温度の発生源を見つけ出し、消防ホースを運搬して消火剤を火災現場で噴射し、冷却・消火活動を行う。また、これらのロボットの遠隔操作距離は約1,000mで、消防隊員は安全な距離からロボットを操作し、遠隔操作装置を通して火災現場の最新状況を把握することができる」 というものである。

 日本でも、同様の目的をもった消防用ロボットは消防庁消防研究センター「エネルギー・産業基盤火災対応のための消防ロボットの研究開発」で行われている。ユーチューブでは、消防ロボットシステム「消防ロボットシステム説明用3DCGアニメーション(短縮版)」が投稿されている。

■ 火災事故の対象タンクは外部浮き屋根式貯蔵タンクと報じられている。記事の中で“1,000㎡近くの油面が激しく揺れとあるので、タンク直径は約35mである。高さを20mと仮定すれば、容量約19,000KLのタンクである。この大きさのタンクの全面火災では、必要な大容量泡放射砲は放水量10,000リットル/分である。

所 感

■ さすがに現在の中国だけあって、大型貯蔵タンクの火災事故への対応訓練が行われている。広大な土地に対応訓練のための実機の貯蔵タンクが作られている。日本でも、1980年代から1990年代にかけて北海道苫小牧市や静岡県御殿場市などで実機に近いタンクで燃焼試験が行われているが、これは油の燃焼による輻射熱量などのデータをとるためであり、貯蔵タンク火災事故への対応訓練ではなかった。

■ しかし、対応訓練は各メーカーの開発製品のデモンストレーションであるようで、たとえば参加した大容量泡放射砲システムで大型貯蔵タンクの火災が消せるかどうかの訓練は行われていない。2003年の十勝沖地震の際、苫小牧市の製油所でナフサタンクの全面火災が発生し、当時の大型化学消防車(放射量3,000リットル/分)が集結していたにも関わらず、鎮火できなかった。実際の火災対応では、予期しないことがある。これだけの施設を作っているのに、少しもったいない気がする。

 一方、消防用ロボットでは、大型貯蔵タンクの火災は消せないことは自明だが、防油堤内火災に対する対応は可能であり、ドローンや監視用ロボットの実火災への対応とともに興味ある点であろう。

■ 地上高さ60m級の屈折放水塔車の活用方法には関心がある。中国では、障害物回避能力が高く、屈折放水塔車の開発に注力しており、地上高さ40m50m60mと高くする傾向にある。当然、アウトリガー張出幅は大きくなり、設置場所は限られる。近年、高層建物が増えており、このような高い火災個所への対応を想定していると思うが、自走できない大容量泡放射砲システムの代替としての活用を考えているのではないだろうか。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

     Cj.sina.com.cn,一场世界级难题的演:足球大小油罐爆炸!无人机、智能机器人能代替救援队员灭

(世界レベルの訓練:サッカー場ほどの石油タンクが爆発!ドローンやスマートロボットは救助隊員の代わりに消火活動ができるのか?), June 11, 2025

     Yjglt.henan.gov.cn, 急使命·202519国家专业队聚濮阳助力破解世界难题,  June  26, 2025

     Mem.gov.cn, 数智赋能强基  多维实战  淬炼大型罐火灾急救援能力,  June  24, 2025 

     News.cctv.com,直击急使命·2025”演习:新装、新践比武真章,  June  26, 2025

     Nrifd.fdma.go.jp,  2回消防防災研究講演会資料「石油タンクの防災」,  January  22,  1999


後 記: いまの中国はやることが派手で華やかです。どう考えても日本には今回のような訓練の発想は出てこないでしょう。タンク火災が起これば仕方のないことと考えるのでしょうが、以前の経済が良い頃だって自らタンク火災を起こすことなど考えないでしょう。まして、今夏のように異常に暑い夏日が続くと、考えるだけで熱い輻射熱を感じますね。一方、訓練内容についてはいま一つ分からないことがあり、すっきりはしません。こちらは内容の深堀りを考えていますが、記事はやっている状況を伝えるのが主体ですので、やむを得ないでしょう。