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2025年10月14日火曜日

米国オハイオ州の石油生産施設にある油井タンクが爆発・火災、負傷者なし

 今回は、2025104日(土)、米国オハイオ州セブリングの石油生産施設で油井タンクが爆発を起こした事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、米国オハイオ州(Ohio)マホニング郡(Mahoning County)セブリング(Sebring)にある石油生産施設である。

■ 事故があったのは、ジョンソン・ロードの少し西でコートニー・ロードの近くの石油生産施設にある油井タンクである。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 2025104日(土)午後1時頃、石油生産施設にある油井タンク1基が爆発した。現場では黒煙が上がった。

■ 住民のひとりは、爆発があったとき、自宅が揺れるのを感じたと語った。

■ 発災に伴い、セブリング消防署の消防隊が出動した

■ 消防隊には、応援のため、ジョージタウン、レキシントン、ディアフィールド、ホームワース、アライアンスの消防署から消防士が支援のために現場に到着した。

■ 消防隊は石油生産施設の爆発事故に対応した。

■ 消防署によると、油井タンクには容量の4分の1しか入っていなかったという。

■ 事故にともなう負傷者はいなかった。

■ 事故原因は不明で、セブリング消防署が調査中である。

被 害

■ 石油生産施設内の貯蔵タンク1基が損傷した。 

■ 負傷者は出なかった。

< 事故の原因 >

■ 火災原因は分かっておらず、消防署が調査中である。

< 対 応 >

■ 乾燥した天候のため、周囲の野原が火事になったが、すぐに消し止められた。

■ オハイオ州では、この事故のおよそ1か月前に、ワシントン郡の石油掘削施設で爆発があり、負傷者6名を出す事故があった。

補 足

■「オハイオ州」(Ohio)は、米国北東部の五大湖に接し、人口約1,200万人の州である。

「マホニング郡」(Mahoning County)は、オハイオ州の東部に位置し、人口約226,000人の郡である。

「セブリング」(Sebring)は、マホニング郡南西部に位置し、人口約4,100人の町である。

■「発災タンク」は石油生産施設内の円筒タンクである。グーグルマップで調べても、ジョンソン・ロードの少し西でコートニー・ロード近くにあるという発災施設らしい場所は特定できなかった。発災現場の被災写真を見ると、直径は34m程度で、高さを5.07.0mと仮定すれば、容量は3588KLとなる。円筒タンクには容量の4分の1しか入っていなかったというから、922KLの液が入っていたとみられる。

所 感

■ 発災タンクの大きさなどの仕様はもちろん発災状況も分からない。この種の施設では、落雷による火災原因も考えられるが、被災写真を見る限り、天候は良いようなので別な要因であろう。タンクには容量の4分の1しか入っていなかったというから、空気がタンク内に導入され、爆発混合気が形成し、何らかの引火要因で爆発したものと思われる。

■ 消防隊によるタンクの消火活動の状況は報じられていないが、「乾燥した天候のため、周囲の野原が火事になり、すぐに消し止められた」というので、タンク火災はあったとみられる。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

     Yahoo.com, Fire departments called for explosion at oil well,  October 05,  2025

     Wkbn.com, Fire departments called for explosion at oil well,  October 04,  2025

     Wfmj.com, Sebring oil well explosion, no injuries,  October 04,  2025

     Youtube.com, Multiple injured after oil well explosion in Ohio,  August 27,  2025

     Youtube.com, Explosion at Ohio orphan well had 6 life-flighted, 5 in critical condition,  August 26,  2025


後 記: 20257月に紹介したオクラホマ州のタンク火災では、テキサス州の無味乾燥な情報と若干異なるメディアの記事だと後記に書きました。それでも火災タンク基数や消防活動の鎮火時間が分からない尻すぼみの内容で、石油生産施設は油を生産することが優先で、施設の安全などは二の次といった考え方が首をもたげ始めてきているようですと書きました。今回は、米国の北東部に位置し、首都圏に近いオハイオ州における石油生産施設のタンク爆発事故ですので、違っていると期待しましたが、残念ながら憂慮した事項が現実化してきました。タンク事故のメディア情報くらいで大げさだという声が聞こえてきそうですが・・・

2025年10月11日土曜日

米国カリフォルニア州のシェブロン製油所で爆発・火災、貯蔵タンクに延焼なし

 今回は、2025102日(木)、米国カリフォルニア州エルセグンドにあるシェブロン社の製油所のジェット燃料製造装置(アイソマックス;水素化分解装置)で爆発・火災が起こった事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、米国のカリフォルニア州(California)ロサンゼルス郡(Los Angeles)エルセグンド(El Segundo)にあるシェブロン社(Chevron)のエルセグンド製油所(El Segundo Refinery)である。エルセグンド製油所の精製能力は285,000バレル/日で、貯蔵容量は約150基の貯蔵タンクに1,250万バレルである。

■ 事故があったのは、エルセグンド製油所のジェット燃料製造装置(Jet fuel production unit)である。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2025102日(木)午後930分頃、シェブロン社エルセグンド製油所の南東の角にあるプロセス装置で爆発・火災が発生した。

■ 製油所の近くで作業していた人は、「最初、シューッという大きな音が聞こえました。風みたいな音でしたが、圧力のある風のような感じでした」といい、「次の瞬間、目の前のすべてが突然明るくなって、タワーや機器の影が見えました。火事だと感じました。顔に熱波が襲ってくるのを感じて夢中で走って逃げました」と語った。

■ 発災にともない、警察と消防隊が出動した。エルセグンド警察によると、複数の爆発の通報を受けたという。

■ 午後10時頃に発生した大爆発により、製油所から数マイル離れた場所からも見えるほどのオレンジ色の炎が上がった。目撃者によると、爆発は小さな地震のようだったという。火災が発生した際に現れた火の玉はロサンゼルス西部の空をオレンジ色に染め、火災により点火された製油所のフレアも同様にオレンジ色に染めた。フレアは高い炎の柱を放出するもので、製油所が炭化水素を正常に処理できない場合に使用される。

■ シェブロン社の自衛消防隊を含む消防隊は火災の制圧に努めた。

■ 火災現場の近くには貯蔵タンクエリアがあり、延焼しないかという心配があったが、火災エリアは限定されている。

■ エルセグンドの消防隊のほか、ロサンゼルス郡消防局の隊員も現場に駆けつけ、救援活動を行った。カリフォルニア州知事緊急事態管理局は、州と地方当局と連携していくと述べた。

■ 事故にともなう負傷者は報告されていない。

■ 火災は製油所のアイソマックス7ユニット(Isomax 7 unit)で発生したという。この装置は中間留分燃料油をジェット燃料に変換する装置である。

■ 製油所付近の空気はガソリンの臭いがした。

■ 火災はエルセグンドや周辺都市の空気質に影響を与える懸念が出た。南海岸大気質管理局は、毒性物質のレベルの上昇は確認されていないものの、状況は変化する可能性があると指摘した。 「今晩、煙が収まれば状況が変わるかもしれません」といい、住民には煙が流れてきたり、臭いがしたりした場合はドアや窓を閉めるよう勧告した。 

■ 空気質に影響を与えるだけでなく、地表に沈着して最終的には雨水溝や水路に流れ込むため、水質汚染にも影響を与えるだろうと注意喚起された。

■ 油はまだ燃えているが、消防署は、火は自然に消えるか、時間を経て消し止められると考えているという。

■ 製油所はロサンゼルス国際空港にジェット燃料を供給しており、空港は製油所のすぐ北に位置する。ロサンゼルス市長は、「現時点ではロサンゼルス国際空港への影響はない」と述べた。火災発生直後から欠航、迂回、遅延などの便は発生していないという。

■ 大きな製油所で発生した大規模の火災により、カリフォルニア州全域でのガソリン価格上昇への影響が心配されている。AAAAmerican Automobile Association;全米自動車協会)と南カリフォルニア大学の専門家は、州全体のガソリン価格が急騰する可能性が高いと予測している。AAAは、「この施設は、この地域の燃料供給において非常に重要な役割を果たしており、今後のガソリン価格の動向に注目が​​集まっている」と語っている。 この製油所は285,000バレル/日の原油を処理しており、西海岸最大の石油生産量を誇っている。製油所はカリフォルニア州内の自動車用燃料の20%とジェット燃料の在庫の40%を生産している。

■ 当局は、消防隊が製油所内の一区画に火災を封じ込めたと述べた。住民は避難する必要はないものの、当面の間、屋内にとどまるよう勧告した。

■ ユーチューブには、火災の状況を伝えるニュースや撮影された動画などが投稿されている。

 YouTubeMassive fire breaks out after explosion at Chevron oil refinery2025/10/04

 ●YouTubeMassive blaze erupts at Chevron oil refinery in California2025/10/03

    ●YouTubeWATCH: Camera Captures Exact Moment Of Explosion At Chevron Oil Refinery In El Segundo, California2025/10/04

    ●YouTubeMassive fire erupts at Chevron refinery in El Segundo2025/10/03

被 害

■ ジェット燃料製造装置が火災で被災した。   

■ 死傷者は出ていない。

■ 火災による大気汚染の懸念があり、火災現場の近くの住民に屋内にとどまるよう勧告が出た。

< 事故の原因 >

■ 事故原因は調査中である。

< 対 応 >

■ 消防隊は、夜遅くまでに火災を施設の南東隅に封じ込め、翌日103日(金)の朝に鎮圧した。

■ 火災は午前7時頃までにほぼ鎮圧されたものの、消防隊は現場に残り、製油所の南東隅にあるプロセス装置で発生した炎を完全に消火した。

■ シェブロン社は103日(金)に複数のプロセス装置の稼働を停止した。

■ シェブロン社は火災の原因を調査している。

■ 専門家は、「シェブロン社の製油所が1週間停止するごとに、価格はおそらく13セントずつ上昇するだろう」といい、「不足が生じた場合、州は韓国か中国から石油を輸入しなければならなくなり、サプライチェーンに負担がかかり、商業航空旅行に影響が出る可能性があると考えている」という。

 当初の予測では1ガロン当たり3090セント上昇すると見込まれていた。しかし、製油所への被害が限定的となった現在では価格の急騰はそれほど急激にはならないだろう。現時点では、地元のガソリンスタンドでの価格上昇は1ガロンあたり5セントから15セント程度にとどまると予想されるという。

■ エルセグンド製油所は西海岸最大の石油生産施設だが、ここで爆発が起きたのは今回が初めてではない。2016年以降、エルセグンド製油所では少なくとも4件の火災が発生したと報告されている。

 OSHA(労働安全衛生局)の記録によると、同局は2020年以降、エルセグンド製油所を12回検査した。そのうち4回の検査で14件の違反が発覚し、OSHAから合計44,000ドルの罰金が科された。なお、可燃性化学物質を扱う施設としてはこの数字は大きくないという。

補 足

■「カリフォルニア州」(California)は米国西海岸に位置し、メキシコとの国境から太平洋沿いに細長く伸び、人口約3,950万人の州である。

「ロサンゼルス郡」(Los Angeles)は、カリフォルニア州の南部に位置し、人口約1,000万人の郡である、

「エルセグンド」(El Segundo)は、ロサンゼルス郡の西に位置し、 サンタモニカ湾に面する人口約17,000人の町である。

■「シェブロン社」(Chevron Corp.)は、米国カリフォルニア州のサンラモンに本社を置く石油企業である。

「エルセグンド製油所」(El Segundo Refinery)は、精製能力は285,000バレル/日で、貯蔵容量は約150基の貯蔵タンクに1,250万バレルの規模を誇る。この製油所は約1.5平方マイルの敷地面積で、パイプラインの総延長は1,100マイル(約1,800km)を越える。製油所は1911年から操業しており、ガソリン、ジェット燃料、ディーゼル燃料を生産している。

■「発災場所」はジェット燃料製造装置(Jet fuel production unit)で、アイソマックス7ユニット(Isomax 7 unit)で発生したという。装置は水素化分解装置で、中間留分燃料油をジェット燃料に変換する装置である。

 アイソマックス装置は重質油の水素化分解装置である。もともとはプロセス開発会社のUOP社が開発したもので発表当初はロマックス法と呼ばれていたが、シェブロン・リサーチ社で開発した水素化分解法(アイソクラッキング法)と特許上で共通した点があったため、両プロセスの統合が行われ、この水素化分解法をアイソマックス法(Isomax=Isocracking Lomax)と呼ぶことになった。 しかし、同じ名前ではあるが、両社から提供される水素化分解法は触媒においては独自に開発したものを使用している。 このアイソマックス法は重質油から軽質油への水素化分解のみな らず、LPガスの製造にも適用されている。アイソマックス(水素化分解)装置のプロセスフローの例と一般的な加熱炉の例は下に示す図を参照。

■ 発災場所は製油所のジェット燃料製造装置(アイソマックス;水素化分解装置)ということは報じられているが、事故内容の詳細は伝えられていない。事故写真を見ると、発災設備は加熱炉(または予熱炉)とみられる。目撃者の話を加味すると、加熱炉内のチューブの噴破(ふんぱ)ではないだろうか。 蒸気ボイラーでは聞くことはあるが、プロセス・ヒーターでは無い。突然、加熱管がわずかな欠陥によって開口し、炉内に急激に液が噴出して火災になったのではないだろうか。事故写真の中にはかなり大きな火炎になっているものがある。

■ 通常、プロセス装置の火災では、プロセスへの原料油張込みを停止(ポンプ停止やバルブ閉止)すれば、燃料源が無くなり、消防署が語ったように火は自然に消えるのが普通である。しかし、今回は火災の鎮圧に10時間を要している。なにか別な燃え続ける要因があったのかも知れない。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

     Cbsnews.com,  How the Chevron refinery fire in El Segundo could affect California gas price,  October  3,  2025

     Abc7.com,  What to know about air quality and your health after El Segundo refinery fire,  October  4,  2025

     Chevron.com, Fire at chevron el segundo refinery is now out,  October  3,  2025

     Reuters.com, Chevron's Los Angeles refinery down after large fire erupted in jet fuel unit,  October  3,  2025

     Latimes.com, ‘I thought we got nuked or something.’ Massive explosion, fire at Chevron refinery rocks El Segundo,  October  2,  2025

    Bbc.com,  Massive fire at Chevron refinery in California contained, officials say,  October  3,  2025

    Calmatters.org, Refinery fire spotlights California’s gas supply crunch and high prices at the pump,  October  7,  2025

     Theguardian.com, Fire still burning at California Chevron refinery following explosion,  October  3,  2025

     Nbclosangeles.com, Large fire erupts at Chevron refinery in El Segundo,  October  3,  2025 

     Energynow.com, Massive Fire Erupts in Jet Fuel Unit at Chevron’s Los Angeles Refinery,  October  3,  2025


後 記: 今回の事故は米国の製油所の事例で、貯蔵タンクではありませんが、爆発事故ということもあり、調べることとしました。最近のローカルな事故ではメディアの情報内容が今一つ物足らないというものでしたが、本事例はメジャーの製油所事故なので、主要なメディアが揃って報じていました。住民の声やガソリン価格への影響などを伝える記事の多さにさすがだと思い直しました。しかし、肝心の事故内容を報じている記事は少なく、ちょっと期待外れでした。発災事業者が事故について話さないという前提というか思い込みがあるということを感じました。事故写真はドローン(ヘリコプター)による撮影など数多くのものが報じられましたが、夜ということもあり、出来の良い写真はありませんでした。

 ところで、“米国のガソリンは安い” という印象がありますが、カリフォルニア州では特有の税金・環境規制などの影響で、現在は日本とほぼ変わらない、あるいはやや高いレベルになっているようです。

2025年10月5日日曜日

米国ケンタッキー州の食用油製造工場で水素タンクが爆発、1名死亡

 今回は、米国ケンタッキー州シブリーにある食品企業AAK社の食用油製造工場で起こった水素タンクの爆発事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、米国ケンタッキー州(Kentucky)ジェファーソン郡(Jefferson county)シブリー(Shively)にある食品企業AAK社の食用油製造工場である。AAK社はスウェーデンに本社があり、植物油を専門とする食品企業で、施設では大豆油の漂白、水素化、脱臭、精製が行われている。

■ 事故があったのは、セブンス・ストリートロード沿いにあるAAK社ルイビル工場(Louisville Plant)の製造で使用する水素タンクである。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 2025921日(日)1230分頃、食用油製造工場で水素爆発が起こった。

■ 発災にともない、現場での火災警報を受けて消防隊が出動した。

 午後1230分過ぎ、消防署がセブンス・ストリートロード2500番地の火災警報が鳴ったという通報を受けた。  

■ 消防隊が現場に到着した際、目に見える火災は確認できなかった。消防隊は工場職員の案内で爆発現場に案内され、そこで致命傷を負った作業員を発見した。作業員は、その後、死亡が確認された。

■ 消防署長は、「AAK社は油を使用可能な製品に変換するために大量の水素を使用しており、爆発は水素の取扱い中に起きた」と語っている。

■ 当局は、水素タンクのコンバージョン・プロセスで爆発が発生したと述べた。爆発の影響は建物の外部に限定された。注;水素タンクのコンバージョン・プロセス(a hydrogen tank conversion process

■ 通りの向かい側で働き、工場から漂ってくる臭いに悩まされてきたという住民は、「時々恐いことがあります」といい、「消防署の消防車がAAK社の工場に駆けつけるのを何度も目にしました。こんな生活は嫌ですし、周りの人たちもこんな生活を嫌がっているのは分かっています。何か対策を講じなければなりません」と語った。別な住民のひとりは、「本当に悲しいです。何か対策を打つ必要があることは、これまでAAK社は認識していたはずです。誰かが亡くなったということですが、本当に辛いことです」と語った。

■ この事故を受け、ルイビル工場の一部が閉鎖された。

■ ユーチューブでは、事故の速報を伝えるニュースの動画はあるが、タンク爆発の状況を伝える動画は無かった。

被 害

■ 水素タンクが損傷した。 

■ 作業員1名が死亡した。

■ 爆発は建物の外部に限定されたが、この事故を受け、ルイビル工場の一部が閉鎖された。

< 事故の原因 >

■ 爆発の原因は調査中である。

< 対 応 >

■ AAK社は、事故後、つぎのような声明を発表した。

2025921日(日)、ケンタッキー州にあるAAK社ルイビル工場で事故が発生したことを深くお詫び申し上げます。誠に残念なことに、当社の従業員のひとりが亡くなりました。ご遺族、ご友人、そしてこの事故に遭われた皆様に心よりお見舞い申し上げます。緊急対応部署は直ちに対応し、当社は当局の捜査に全面的に協力しております。予防措置として、工場の関連部分の操業を停止いたしました。AAK社は安全を最優先に考えております。事故の真相究明に努め、このような事故が二度と発生しないよう、必要な措置を講じる所存です」

 ■ AAK社ルイビル工場では、1年前にも事故があった。202412月に水素タンクで火災が発生したが、負傷者は出なかった。この事故では、食用油製造工場で不具合の生じたガスケットから漏れ出し、発火したという。このため、メトロ危険物局などが現場に立ち入った。労働安全衛生局は20252月にAAK社ルイビル工場を調査対象としたが、その後調査は終了し、違反は記録されていないという。

■ AAK社は、2025921日の水素タンク爆発と202412月のタンク火災は別々のタンクで発生したと語っている。

補 足

■「米国ケンタッキー州」(Kentucky)は、米国の中東部に位置し、人口約450万人の州で、州都はフランクフォート(Frankfort)である。

「ジェファーソン郡」(Jefferson county)は、ケンタッキー州の中部に位置し、人口約58万人の郡である。

「シブリー」(Shively)は、ジェファーソン郡の西部に位置し、人口約15,000人の町である。

■「AAK社」は、スウェーデンに本拠を置く世界的な植物油脂生産企業で、以前はオーフスカールスハムンとして知られていた。従業員数は全世界で約4,000人で、米国法人はオーフスカールスハムンUSA社(AarhusKarlshamn USA, Inc.)である。

■「食用油製造」は、原料油によって大豆や菜種などの植物からとる植物油脂と、豚や牛などの動物からとる動物油脂の2種類に分けられる。原料油は採油、精製、加工の3つの工程を経て食用に適するものにされる。油脂の加工方法は3種類あり、用途や目的に応じて方法を変える。油脂の脂肪酸の二重結合に水素を加える加工法を「水素添加」といい、水素添加は「硬化」とも呼ばれる。

 AAK社は植物油脂の生産企業で、水素を使用しているので、油脂の加工方法として水素添加をしているプロセスと思われる。

■「発災タンク」は、屋外にあるコンバージョン・プロセスの水素タンク(a hydrogen tank conversion process)というだけで、詳細の仕様は分からない。第一に “a hydrogen tank conversion process”という用語の意味がよく分からないが、植物油の製造で水素を使用する切替えプロセスを指しているのではないだろうか。

 グーグルマップや上空から撮った施設のタンク写真を見たが、特定できなかった。また、水素タンクが爆発と報じられているが、タンク本体の爆発でなく、接続フランジや付属機器からの漏洩や流出などによる爆発ではないかと思う。

所 感

■ タンク爆発の原因は分かっていない。このブログでは、水素タンクの事故はあまり取扱ってこなかったが、つぎのような事例がある。いずれも今回の事例との類似性はない。

 ●「韓国の燃料電池開発会社で水素タンク爆発、死傷者8名」201911月)

 ●「山形県のバイオマスガス化発電所の水素タンクの爆発(原因)」20196月)

 ●「固定屋根式の軽油タンクで水素混合気による爆発火災 (1997) 20231月)

■ 水素タンクが爆発と報じられているが、タンク本体の爆発でなく、接続フランジや付属機器からの水素の流出や漏洩による爆発ではないだろうか。この製造工場では、202412月に水素タンクで火災事故を起こしているが、要因は不具合の生じたガスケットから漏れ出し、発火したという。火災と爆発の違いはあるが、今回の事故も同様の事例ではないだろうか。1年に2回も水素タンクの事故を起こすということは組織的な欠陥があるのだろう。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Hydrogeninsight.com, One person killed in hydrogen explosion at food-grade oil factory,  September 22,  2025

    Wlky.com, Get the Facts: Shively plant explosion kills one, but it's not the only incident there,  September 22,  2025

    Fox56news.com,  Hydrogen tank explosion at Louisville plant leaves 1 dead,  September 22,  2025

    Courier-journal.com, One dead after explosion at AAK plant in Shively,  September 22,  2025

    Whas11.com, Deadly blast at Shively food plant under investigation,  September 22,  2025

    Isssource.com, Worker Killed after Hydrogen Tank Blast,  September 23,  2025

    Wdrb.com,  Explosion at cooking oil plant in Shively kills 1 person, prompts investigation,  September 22,  2025

    Wave3.com, 1 dead after explosion at AAK plant in Shively,  September 22,  2025


後 記: 今回の事故は食用油製造工場の水素タンク爆発という聞いたことのない事例だったので、調べることとしました。しかし、分かったことは、事故の詳細な状況が報じられていないということです。最近、事故のあったインディアナ州のほか、テキサス州やルイジアナ州などで事故報道の質が深堀りしないと思っていますが、米国中東部のケンタッキー州でも同じでした。事業者(経営者)の自主性を重んじるためか、メディアが衰えて勢いが無くなっているのか分かりませんが、米国全体でまん延しているようで、今回、近くの住民が「何か対策を講じなければなりません」という言葉がむなしくなってきますね。



2025年9月26日金曜日

米国ワイオミング州の製油所でアスファルトタンク火災

 今回は、2025920日(土)、米国ワイオミング州シンクレアにあるHFシンクレア社の シンクレア製油所でアスファルトタンク火災が起こった事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、米国ワイオミング州(Wyoming)カーボン郡(Carbon County)シンクレア(Sinclair)にあるHFシンクレア社(HF Sinclair Corp.)の シンクレア製油所(Sinclair Refinery)である。シンクレア製油所の精製能力は94,000バレル/日である。

■ 事故があったのは、シンクレア製油所内にあるアスファルトタンクである。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 2025920日(土)正午頃、製油所のアスファルトタンクで火災が起こった。

■ 黒煙が立ち昇り、何マイルも離れた遠い場所からも濃い煙が見えた。

■ 住民の間には、町や製油所が危険にさらされているのではないかという不安が広がっていた。一方、カーボン郡緊急管理コーディネーターはメディアに対し恐れる必要はないと語った。

■ 発災にともない、消防隊が出動した。

■ 当局は、製油所付近のワイオミング州道76号線の東側を封鎖した。

■ この地域の元ボランティア型消防署長は、「製油所内やその付近で火災が発生することは稀です。ここ数年、ここで火災があったという話は聞いていません」といい、「臭いがきつい。あまりいい匂いじゃないね。煙が人に危険でないことを願っています」と語った。

■ 緊急管理当局は、煙が町まで到達しない限り、火災による健康被害はないと発表した。

緊急管理当局は、国立気象局と協力して、この地域の風速を監視し、3時間ごとに煙が移動する速度と方向をモデル化して予測した。緊急調整官らは、シンクレア製油所とシンクレアの町とも直接連絡を取っており、「現時点では懸念はない」と語った。

■ 消防隊は泡消火剤を使って消火活動を行った。

■ 事故にともなう負傷者はいなかった。

■ 当局は火災の原因を調査中だという。

■ ユーチューブでは、タンク火災の状況を伝える動画は投稿されなかった。

被 害

■ アスファルトタンク1基が焼損した。

■ 負傷者はいなかった。

< 事故の原因 >

■ 爆発・火災の原因は調査中である。

< 対 応 >

■ 消防隊は泡消火活動によって午後1時までに火災を鎮圧した。シンクレア警察は緊急警報で午後110分に鎮火したと報告した。

■ シンクレア製油所はメディアに対し、消防隊員が午前1115分にタンク火災の現場に駆けつけ、対応計画に従って消火したと語った。また、シンクレア製油所は、「人々と地域社会の安全は依然として私たちの最優先事項です」と述べた。

補 足

■「ワイオミング州」(Wyoming)は、米国西部の山岳地域に位置し、人口約57万人に州である。

「カーボン郡」(Carbon County)は、ワイオミング州の南部に位置し、人口約14,500人の郡である。

「シンクレア」(Sinclair)はカーボン郡の中部に位置し、人口約400人の町である。

■「 HFシンクレア・コーポレーション」HF Sinclair Corp.は、ガソリン、ディーゼル燃料、ジェット燃料、再生可能ディーゼル、特殊潤滑油、特殊化学品、特殊アスファルト・改質アスファルトなどの製品を製造・販売するエネルギー会社である。米国テキサス州ダラスに本社を置いている。同社は7つの複合製油所を運営しており、総原油処理能力は1日あたり678,000バレルである。ワイオミング州シンクレア(94,000バレル/日)のほか、ワイオミング州シャイアン(52,000バレル/日)、カンザス州エルドラド(135,000バレル/日)などである。

■ タンク火災と報じられているが、タンクの仕様や被災写真は無く、「発災タンク」は分からない。アスファルトタンクということなので、容量はそれほど大きくなく、1,0003,000KL程度の固定屋根式円筒タンクと思われる。

所 感 

■ タンク火災の状況は分からない。事故の写真を見れば、結構大きな炎が出ており、タンクは大きな損傷が発生しただろう。黒煙の幅が大きく、タンクから防油堤に漏れ、堤内火災になっていることも考えられる。

 アスファルトは重質分であり、火災を起こしにくいと考えがちであるが、アスファルトタンクで注意すべきことは、水による突沸、軽質油留分の混入、運転温度の上げすぎ、屋根部裏面の硫化鉄の生成などにより火災を引き起こすことの多いタンクである。最近の事例を下記に示す。

 ●「米国イリノイ州の石油プラントでアスファルトタンクが爆発、死傷者2名」20235月)

 ●「米国ワシントン州のアスファルト・プラントで爆発・火災、タンクへ延焼」 202010月)

 ●「米国ミズーリ州セントルイスでアスファルトタンクが火災」 20226月)

■ 一方、消火活動は消防隊が出動し、泡消火活動を行ったという。消火活動は1時間程度で制圧したと報じられている。大容量泡放射砲システムは必要なく、放水能力3,000リットル/分の大型化学消防車で消火できると規模だったとみられる。通常、消火活動は泡放射後20分以内に制圧できなければ、難しいタンク火災だとみられるが、この点、適切な消火活動だったと思われる。ただ、炎が大きく、本当に1時間程度で消火できたか疑問は残る。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

     Cowboystatedaily.com, Asphalt Tank Catches Fire At Sinclair Refinery, Black Smoke Seen For Miles, September 21, 2025

     Timesnownews.com, Sinclair Refinery Fire Captured On Video, Thick Black Smoke Seen For Miles | Watch, September 21, 2025

     Bigfoot99.com, Black Smoke Plume Concerns Residents of Sinclair, September 22, 2025


後 記: 今回の事例は歴史のある製油所のタンク火災です。住民約400人のシンクレアという町で起こったもので、グーグルマップで見ると、製油所の隣に住宅地があり、おそらく住人は製油所に勤務していると思われます。23年前に従業員の一部が解雇され、住民数は350人程度に減っているようです。日本から見れば、こんなところに製油所があるの?という気がします。安価な原油を通油できるから成り立っているので、日本だったらとうの昔に無くなっているでしょう。世の中、景気が良くなると、事故が増えるように感じていますが、今回の事故はそうではなく、モチベーションの下がった人為的な要因があるのではないでしょうか。それにしても、製油所のタンク火災でありながら、ドローンによる空撮画像が無いのは久方ぶりのニュースです。

2025年9月21日日曜日

米国テキサス州のITCの貯蔵タンク火災の状況と原因

 今回は、2025910日(水)、米国化学物質安全性委員会(CSB)が“Terminal Failure: Fire at ITC(ターミナル事故:ITCにおける火災)をユーチューブに投稿した。この事故は、20193月に起こった米国テキサス州ディアパークのインターコンチネンタル・ターミナル社(ITC)のタンク大火災の原因を調査した結果をアニメーションの動画にまとめたものです。

 ●Youtube, Terminal Failure: Fire at ITC”2025/09/10Youtubeの動画は、画面の設定ボタンを押して字幕をオンにして自動翻訳を日本語にすれば、画面上に和訳の文章が出てきます)

 今回のブログはユーチューブ動画の画面を静止画にして和訳の説明を付けたものです。一部和訳の文章がおかしいところは修正しました。なお、詳細はCSBの調査報告書をもとにまとめたブログ「米国テキサス州ディアパークのタンク大火災の原因(2019年)」20238月)を参照してください。

< 発災施設の概要 >

■ 事故があったのは、米国のテキサス州(Texas)ハリス郡(Harris County)ディアパーク市(Deer Park)にあるインターコンチネンタル・ターミナル社(Intercontinental Terminals Company; ITC)のタンク施設である。インターコンチネンタル・ターミナル社(ITC)は様々の企業石油製品や化学製品を保管するために使用されているバルク液体貯蔵ターミナルである。

■ 発災は、ヒューストン(Houston)都市圏にあるターミナル施設のタンク設備で起こった。ターミナル施設には合計242基のタンクがあり、石油化学製品の油やガス、燃料油、バンカー油、各種蒸留油を貯蔵しており、総容量は1,300万バレル(207KL)である。


< 事故の状況および影響 >

■ 2019317日の事故当日、ポンプが壊滅的に故障し、貯蔵タンクから周囲の防油堤区域に大量の可燃性液体が漏れ出した。可燃性液体が発火して大規模の火災が発生し、インターコンチネンタル・ターミナル社(ITC)は流出を遮断したり、止めたりすることができなかった。




■ 火災は燃え広がり、勢いを増し、同じ防油堤内にある14基に燃え移り、最終的に3日後に鎮火した。インターコンチネンタル・ターミナル社(ITC)の事故は施設におけるいくつかの重大な問題が原因だった。特にインターコンチネンタル・ターミナル社(ITC)には、ポンプが故障したことをオペレーターに警告するためのモニターが無かった。


■ また、可燃性液体の放出を安全に止めることのできる遠隔操作の緊急遮断弁が無かった。タンク貯蔵所の設計は他のタンクも非常に脆弱であることを意味していた。ポンプが故障すると、壊滅的な火災を防ぐには手遅れだった。

■ 事故当時、インターコンチネンタル・ターミナル社(ITC)のディアパーク・ターミナルには、242基の貯蔵タンクが設置されていた。それらのタンクの1基はTank80‐8と呼ばれていた。それは地元企業がリースした地上式常圧貯蔵タンクだった。このタンクは容量80,000バレル(12,700KL)で、ブタンとナフサの可燃性液体混合物でブタンリッチのナフサ製品を貯蔵するために使用されていた。

■ 2019年、316日夕方、ブタンを積んだタンクローリー2台がターミナルに到着した。これらのタンクローリーから360バレル(57KL)のブタンがTank80‐8に降ろされた。タンク循環ポンプは新たに追加されたブタンをすでにタンク内にあるブタンリッチのナフサと混合した。ポンプは一晩中オンのままだった。



■ その日の荷下ろし後、Tank80‐8はほぼ満杯になった。インターコンチネンタル・ターミナル社(ITC)は翌日正午頃、タンク内液をケミカルタンカーに移送する予定だった。しかし、317日午前725分頃、タンクのデーターが一連の予期せぬ変化を示した。これらには、ポンプの作動圧力、タンクの平均流量、およびタンク全体の容量の変化が含まれる。しかし、これらの変化はいずれも中央制御室で警報を鳴らすほど重大なものではなかった。そのため、中央制御室のオペレーターには発生しつつある問題について警告されなかった。


■ のちに実施した調査時、米国化学物質安全性委員会(The U.S. Chemical Safety Board ; CSB)は、ポンプシャフトのモーター側に取付けられた軸受が故障していることを発見した。これにより、ポンプの位置ずれが生じ、ポンプが作動し続けると、大きな振動が発生した。振動により、ポンプのメカニカルシールを固定していたグランドナット4個が緩んでしまった。グランドナットの緩みが大きくなって、午前930分までにメカニカルシールが部分的に開いてしまった。ポンプがまだTank80‐8内の液体を循環させていたため、タンク内のブタンリッチのナフサ製品が部分的に開いたシールから漏れ始めた。




■ 945分頃までに4個のグランドナットが完全に外れ、ポンプのメカニカルシールが完全に機能を失った。故障したポンプからさらに多くの可燃性液体が漏れ出した。漏れた液体はポンプ周囲に溜まり、可燃性ベーパーが地面近くに漂い、低地に集まった。しかし、Tank80‐8付近の屋外で作業していたオペレーターは異常なことに気が付いていなかった。また、ターミナルには、可燃性ガスモニターやポンプの過剰な振動を記録する機器モニターなどオペレーターに問題を警告できるようなモニターは設置されていなかった。

■ さらに、タンク容量の減少によって中央制御室で警報が鳴ることもなかった。その結果、Tank80‐8からの流出を隔離または安全に保つための措置は講じられなかった。30分で流出した可燃性液体の量はコンクリートミキサー車3台分に相当した。


■ 午前10時、ポンプ付近の可燃性ベーパーが引火し、大きな火災が発生した。数分以内にインターコンチネンタル・ターミナル社(ITC)の緊急対応チームのメンバーが現場に到着したが、タンクには遠隔操作の緊急遮断弁が装備されていなかった。


■ また、火災が周辺地域を包囲していたため、緊急対応要員はタンクのメインバルブにアクセスして手動で締めることができなかった。そのため、インターコンチネンタル・ターミナル社(ITC)はTank80‐8内の大量の可燃性液体の流出を阻止することができなかった。このタンクは共通の防油堤区域内にある他の貯蔵タンク14基に囲まれていた。各タンクを区切る区画がなかったため、これらのタンクは地面に沿って広がる大規模の火災に対して無防備だった。




■ その日遅く、他の緊急対応要員が追加の消防設備と資機材をもって到着し、インターコンチネンタル・ターミナル社(ITC)の緊急対応チームを支援した。しかし、彼らの懸命な努力にもかかわらず、火災は拡大し続けた。最終的には防油堤区域内にある他の14基の貯蔵タンクに広がった。


■ 翌日の318日の夕方までにインターコンチネンタル・ターミナル社(ITC)は追加の資機材が必要だということを認識した。彼らは緊急対応サービス・プロバイダーに支援を要請し、プロバイダーは、翌朝319日に現場に到着した。救助隊が到着すると、事態は収拾し、残りのタンク火災を消火し、再燃を防ぐことができた。火災は最終的に320日の午前3時頃に消し止められた。

■ 3日間燃え続けた大規模の火災により、インターコンチネンタル・ターミナル社(ITC)の職員や緊急対応要員に負傷者は出なかった。しかし、地元コミニュティは深刻な混乱を経験した。これには、ベンゼンに関連する空気質に関する懸念による何回かの屋内退避命令が含まれている。322日午後1215分頃、タンク貯蔵所を囲む二次防油堤の壁が部分的に崩壊した。放出された炭化水素製品、消火泡、汚染水の混合物が漏れ出し、最終的にヒューストン船舶航路に到達した。その結果、ヒューストン船舶航路の7マイル(11km)区間と近隣の多くのウォーターフロント公園が閉鎖された。汚染を除去する作業は数週間にわたって続いた。




< 事故の原因(安全上の問題点 >

■ 米国化学物質安全性委員会(CSB)は調査を開始し、インターコンチネンタル・ターミナル社(ITC)における事故の重大性に5つの安全上の問題が影響していることを突き止めた。これらはポンプの機械的完全性、可燃性ガス検知システム、遠隔操作の緊急遮断弁、タンク貯蔵所の設計、PSMRMPの適用性である。

■ 最初の安全性の問題は、ポンプの機械的な完全性である。機械的な完全性は、重要なプロセス機器が正しく設計・設置され、適切に操作および保守されていることを確認するための管理として定義される。機械的な完全性により、不十分なメンテナンスや頻度の少ないメンテナンスによる予期しない機器故障の可能性が軽減される。米国化学物質安全性委員会(CSB)はインターコンチネンタル・ターミナル社(ITC)がポンプを含む特定の機器に対して機械的完全性手順を実施していたものの、その手順にはメンテナンス手順、ポンプの交換および再構築のトレーニング、定期的な予防保全活動など、ポンプの管理に関する具体的な要件が記載されていないことを発見した。

■ さらに、同社の機械的完全性の手順は、同社が規制化学物質としてリストした物質を取扱う、または保管するために使用される機器にのみ適用され、そのリストにはNAPAとブタンは含まれていなかった。従って、Tank80‐8とそれに関連するポンプは同社の機械的完全性検査手順の対象ではなかった。すべてのポンプに対する正式な機械的完全性プログラムと非常に危険な化学物質のサービスがあれば、この事故は防げたはずである。この種の予防保全プログラムによりインターコンチネンタル・ターミナル社(ITC)は、循環ポンプが壊滅的に故障する前に、循環ポンプの問題を特定して修正する追加の機会を得ることができたはずである。




■ インターコンチネンタル・ターミナル社(ITC)で発見された2番目の安全上の問題は、可燃性ガス検知システムである。ガス検知システムは多くのプロセス産業において、事故による放出の潜在的な影響から人、財産、近隣コミュニティを保護するために使用されている。たとえば、ガス検知システムはガスまたはベーパー濃度が通常よりも高いことを感知すると、警報を発する。この場合、火災や爆発が発生する前に放出を止める措置を講ずることができる。


■ インターコンチネンタル・ターミナル社(ITC)では、2014年に危険性検討チームが、Tank80‐8の近くに可燃性ガス検知システムを設置することを推奨したが、米国化学物質安全性委員会(CSB)は、インターコンチネンタル・ターミナル社(ITC)がこの推奨を実施しておらず、設置を行わなかった理由を文書化していなかったことを発見した。そのため、2019年には可燃性ガス検知システムが設置されていなかったため、タンクから可燃性液体が最初に放出されたことを職員に知らせる警報は鳴らなかった。その結果、誰も気づかず、止めようともせず、火災が発生するまで約30分間、放出が続いた。大量の可燃性物質または非常に危険な物質を扱うターミナルやその他の貯蔵タンク所では、施設に可燃性ガス検知システムを設置する必要がある。


■ こうしたタイプのシステムは、可燃性物質の存在についてオペレーターに警告を発し、大規模の火災や爆発が発生する前に対策を講じることができる。そのため、米国化学物質安全性委員会(CSB)はAPI(米国石油協会)に対し、ターミナルおよびタンク施設のAPI規格を更新し、可燃性ガス検知システムに関する説明を含めるよう勧告した。

■ 米国化学物質安全性委員会(CSB)が発見した3番目の安全上の問題は、遠隔操作できる緊急遮断弁である。インターコンチネンタル・ターミナル社(ITC)の火災に関したタンクには、遠隔操作の緊急遮断弁が装備されていなかった。これらのバルブは、液体漏出の際に地上貯蔵タンクの内容物をポンプなどの関連機器から隔離するために使用される。その代わりにTank80‐8 には手動遮断弁が装備されていたが、タンクの周囲で火災が発生すると、安全にアクセスすることができなくなった。その結果、タンク内の可燃性液体が故障したポンプを通って流れ続け、拡大する火災に燃料を供給してしまった。

■ 可燃性物質または非常に危険な物質を地上の大気圧貯蔵タンクを所有する企業は、遠隔操作の緊急遮断弁をせっちする必要がある。これらのバルブは安全な場所から遠隔的に迅速に放出を停止できるように設計されており、それによって、より大きな事故を軽減することができる。

■ インターコンチネンタル・ターミナル社(ITC)で発見された4番目の安全上の問題は、タンク貯蔵所の設計である。全米防火協会(NFPA)は、NFPA30“Flammable and Combustible Liquids Code”と呼ばれる引火性および可燃性液体の基準で、タンク貯蔵所の設計に関する最低要件を定義している。米国化学物質安全性委員会(CSB)調査中に、インターコンチネンタル・ターミナル社(ITC)のタンク貯蔵所が、建設当時適用されていたNFPA30の要件にほぼ準拠して設計されていたを発見した。 しかし、タンク貯蔵所の設計上の要素により、緊急対応者が最初の火災を遅らせることが困難になり、タンク貯蔵所内の他のタンクに火災が広がることになった。これらの要素には、多数のタンクが密集していることや、封じ込めエリア内に区画がないことなどが含まれる。その結果、炭化水素や化学製品、消火泡、汚染水が、タンク貯蔵所内に溜まってしまい、最終的に施設内の二次防止堤の壁を破壊し、地元の水路を大規模に汚染してしまった。

■ 米国化学物質安全性委員会(CSB) は、NFPA30がタンク貯蔵所の設計と間隔に関する最低要件を定義している一方で、FM GlobalAPI(米国石油協会)によるその他の自主的な業界ガイドライン文書では、より堅牢なタンク貯蔵所の設計基準が提供されていると指摘している。 

 インターコンチネンタル・ターミナル社(ITC)は、追加の業界ガイダンスの推奨事項が自主的なものであり、また、それらの多くがタンク貯蔵所の建設後に制定されたものであるため、実施する必要はなかったという。しかし、制定された基準どおりにすることで、この事故の拡大を防ぐことができたかもしれない。


 そのため、米国化学物質安全性委員会(CSB) は、インターコンチネンタル・ターミナル社(ITC)に対してディアパーク・ターミナルのすべての新規および既存のタンクについて、タンク貯蔵所の設計評価を実施するよう勧告した。評価では、消火活動の影響を考慮して、封じ込め設備の壁と排水システムの設計の妥当性を評価する必要がある。

■ 最後に、インターコンチネンタル・ターミナル社(ITC)で特定された5番目の安全性の問題は、PSM Process Safety Management)とRMP(Risk Management Program)の適用性である。Tank80‐8のような常圧貯蔵タンクは、米国労働安全衛生局(OSHA) のプロセス安全管理またはPSM基準の対象外である。これは、タンクの危険性を効果的に特定し、制御する正式なプロセス安全管理プログラムを実施する必要がインターコンチネンタル・ターミナル社(ITC)に無かったことを意味する。たとえば、Tank80‐8が米国労働安全衛生局(OSHA)PSM基準の対象であった場合、インターコンチネンタル・ターミナル社(ITC)には、故障する前に循環ポンプの問題を特定できる機械的完全性プログラムが必要になっただろう。また、同社は、可燃性ガス検知システムを設置するという2014年の勧告に従い、その解決策を適時に文書化する義務があった。

■ 米国化学物質安全性委員会(CSB)は、別な2件の事故についても調査を行い、常圧貯蔵タンクの免除が事故の重大性に影響したと判断した。これらの事故により、死者、多数の負傷者、そして重大な環境被害が発生した。米国化学物質安全性委員会(CSB)は、この免除を廃止されるべきだと考える。その結果、米国化学物質安全性委員会(CSB)は米国労働安全衛生局(OSHA) に対して、PSM基準から常圧タンクの免除について勧告した。さらに、米国環境保護庁(EPA)のリスク管理計画または RMP基準はTank80‐8に適用されなかった。これは、この基準は全米防火協会(NFPA)のNFPA30の可燃性等級が4の材料にのみに適用されるのに対して、ナフサとブタンの混合物は3と評価されているため、免除されたからである。米国労働安全衛生局(OSHA) PSM基準と同様、米国環境保護庁(EPARMP規則がタンクに適用されていれば、たとえばポンプが漏れていたとしても追加の安全対策が講じられていたはずである。これらには、可燃性ガス検知装置や遠隔隔離装置が含まれる。放出をすばやく特定して止め、大規模の火災を防ぐことができたはずである。

■ NFPA3の定格材料は重大な爆発や火災を引き起こしており、そのうちのいくつかは米国化学物質安全性委員会(CSB) によって調査している。米国化学物質安全性委員会(CSB)は、これらの材料がRMP基準の対象になるべきだと考えている。そのため、米国化学物質安全性委員会(CSB)は米国環境保護庁(EPA)に対して RMP基準の適用範囲をNFPA3以上の可燃性等級を持つすべての可燃性液体(混合物を含む)にまで拡大するよう勧告した。

■ これは非常に大規模かつ混乱を招く出来事だった。大規模の火災は3日間燃え続け、施設に150百万ドル以上の物的損害を与え、周辺地域に深刻な危険をもたらした。環境にも大きな影響を与えた。施設に適切な安全対策が講じられていれば、この悲惨な出来事は防ぐことができたはずである。連邦規制における重大な欠陥も、この事故の深刻さの一因となった。米国化学物質安全性委員会(CSB) は、特に米国労働安全衛生局(OSHA) と米国環境保護庁(EPA)に対して、こうした種類の化学物質や施設に対する規制監督の拡大を勧告することで、今後、同様な事故が発生しないようにすることができると信じている。米国化学物質安全性委員会(CSB) の安全ビデオをご覧いただきありがとうございます。