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2025年9月1日月曜日

ロシア連邦コミ共和国で定期修理中の空タンクが爆発

 今回は、202577日(月)、ロシア連邦コミ共和国のクストヴォにあるルコイルーペルミ社の石油施設において定期修理のため空の貯蔵タンクが爆発した事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、ロシア連邦(Russia)コミ共和国(Komi)のクストフスキー地区(Kstovsky District)のクストヴォ(Kstovo)にあるロシアのエネルギー企業;ルコイル社(Lukoil)の子会社であるルコイルーペルミ社の石油施設(Lukoil-Perm facility)である。ルコイルーペルミ社の石油施設は製油所を運営しており、この地域の主要な石油貯蔵所のひとつとして、一般社会や近隣地域の企業向けに燃料の貯蔵と出荷を行っている。

■ 事故があったのは、石油施設内にある容量2,000KLの貯蔵タンク(タンク番号;RVS-2000)である。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 202577日(月)午後1時頃、石油施設の貯蔵タンクの1基が爆発起こした。

■ 爆発は非常に強力だった。地元住民によると、近隣の住宅街でも爆発音が聞こえたという。

■ 定期修理のためタンク内は空だった。爆発当時、タンク内には誰もいなかった。

■ 予備情報では、爆発は攻撃用ドローンやミサイルの飛来によるものではないという。

■ ルコイルーペルミ社は、従業員に負傷者はいなかったと発表した。火災の暫定的な原因はタンク内のガス蓄積とされている。

■ 事故タンクでは爆発はあったが、火災は記録されていない。予定されていた修理タンク内に火花が飛び、残留APGベーパーに引火したものと推定されると報じたメディアがある。

■ 監視カメラの映像がロシアのメディアで公開された。動画には、巨大なタンクが急激に持ち上げられ、そこから数メートルの高さの火柱が噴き出す様子が映っている。数秒のうちに、周囲は灰に覆われ、カメラレンズは煙に覆われた。タンクの屋根を一瞬にして噴き飛ばす様子が写っている。屋根が落ちる瞬間は映像に捉えられていないが、屋根の構造が著しく変形していることがわかる。

■ つぎのウェブサイトでは、タンク爆発の状況を伝える動画が投稿されている。

 Oilcapital.ru, На объекте ЛУКОЙЛа в Коми взорвался топливный резервуар — KomiLeaks2025/07/08

 ●Charter97.org,На нефтебазе «Лукойла» в Коми прогремел мощный взрыв2025/07/08

被 害

■ 容量2,000KLのタンク1基が損壊した。

■ 負傷者はいなかった。

< 事故の原因 >

■ 原因は調査中である。

 ルコイルーペルミ社は自然発火性堆積物と酸素の反応が原因であるとし、別なメディアは残留APGベーパーに引火したものだという推測が報じられている。

< 対 応 >

■ 202578日(火)、ルコイルーペルミ社はタンク爆発事故について、自然発火性堆積物と酸素の反応が原因であると暫定的な情報として発表した。自然発火性堆積物は、硫化水素による腐食の結果、機器や配管の表面に形成される黒色の堆積物で、硫化鉄化合物、有機樹脂、および機械的不純物で構成されている。これらの堆積物は空気と接触すると自然発火する可能性があり、火災や爆発の危険性があるという。

■ 202578日(火)、当局者によると、この施設は常時国家の監視下にあり、ロシア連邦原子力規制庁が今回の事故の原因を調査するための技術調査委員会を設置した。

■ ロシア連邦原子力規制庁によると、ルコイルーペルミ社の施設は、20256月、検査官が現場で20件の違反を指摘し、運営組織の職員が行政上の責任を問われている。


補 足

■ 「コミ共和国」は、ロシア連邦中北部の共和国で、人口約74万人である。

「クストフスキー地区」(Kstovsky District)は、人口約11万人の地区である。

「クストヴォ」(Kstovo)は、クストフスキー地区の行政の中心になる地域で、人口約66,000人の町である。

 コミ共和国の事故を紹介したのは、つぎのとおりである。

 ● 201711月、「ロシアのルコイル社の製油所でガソリン用タンク火災」

■「発災タンク」は容量2,000KLの円筒タンクである。このクラスのタンクは直径1520mとみられ、グーグルマップで調べると、直径が18mのタンク群があり、高さを8mと仮定すれば、容量は2,030KLである。発災タンクはこれらのタンク群のいずれかだと思われる。監視カメラのタンク群映像とグーグルマップをつき合わせしてみたが、特定には至らなかった。

 被災写真の発災タンクには銘板があるが、容量(2,000㎥)のほか、“火災の危険性あり”(ОГНЕОПАСНO)という危険物一般の表示で、内部液体の名称は書かれていない。

■ 発災は残留「APG」ベーパーに引火したものとメディアの一部で報じられている。通常、APGAssociated Petroleum Gasを指し、石油採掘時に石油と一緒に産出される天然ガスの総称である。

 ルコイルーペルミ社はタンク爆発に事故について、「自然発火性堆積物」と酸素の反応が原因であると暫定的な情報として発表している。「自然発火性堆積物」は、硫化水素による腐食の結果、機器や配管の表面に形成される黒色の堆積物で、硫化鉄化合物、有機樹脂、および機械的不純物で構成され、これらの堆積物が空気と接触すると自然発火する可能性があり、火災や爆発の危険性がある。

 空のタンクの事故としては、原油タンク内のスラッジで生成した硫化鉄が着火源になったと思われる火災(20171「東燃ゼネラル和歌山工場で清掃中の原油タンクの火災」)があるが、今回のような爆発ではなかった。

所 感

■ タンク爆発の原因は調査中で分かっていない。ルコイルーペルミ社は自然発火性堆積物と酸素の反応が原因であるとし、別なメディアは残留APGベーパーに引火したものだという推測が報じられている。

 20171月に日本の和歌山で清掃中の原油タンクが事故を起こしたが、このときは原油タンク内のスラッジで生成した硫化鉄、すなわち自然発火性堆積物が着火源になったとみられるが、爆発ではなく、火災だった。自然発火性堆積物で今回の事例のような爆発が起こるとは思えない。事象からみて、タンク内の爆発性の可燃性ガスが残留または導入して爆発事故が起こったと考えられる。

■ 消火戦略には積極的戦略・防御的戦略・不介入戦略の3つがあるが、今回のように爆発が一回のみで火災が起こっていないので、消火活動はとられていないめずらしい事例である。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Charter97.org,  There Was A Powerful Explosion At Lukoil's Oil Depot In Komi,  July 08,  2025

    Reuters.com, Russia's Lukoil-Perm says empty reservoir has exploded at an oil facility,  July  08,  2025

    Energynews.pro, Empty reservoir explodes at Lukoil-Perm facility: no casualties reported,  July 09,  2025

    Rbc.ru, ЛУКОЙЛ объяснил видео со взрывом резервуара для нефти в Усинске,  July  08,  2025

Gazeta.ru, Появилось видео взрыва резервуара с топливом в Коми,  July  8,  2025

Oilcapital.ru, На объекте ЛУКОЙЛа в Коми взорвался топливный резервуар,  July  8,  2025

    Vesti.ru, В Коми на объекте "Лукойла" взорвался топливный резервуар, момент попал на видео,  July  8,  2025

    Neftegaz.ru, На площадке установки подготовки нефти ЛУКОЙЛа в Республике Коми взорвался резервуар,  July  8,  2025

    Tass.ru, В Коми взорвался нефтерезервуар,  July  8,  2025

    Novosti.dn.ua, В России взорвался топливный резервуар «Лукойла»,  July  8,  2025


後 記: ロシア連邦コミ共和国の事例紹介は2例目です。前回(2017年)の事例でも難儀しましたが、今回もよくわからない事故です。まず、コミ共和国という国がよくわからない上に、ルコイルーペルミ社という事業者が判然としません。どうやら2017年の事故を起こした石油施設らしいと判断しました。はっきりしたのはグーグルマップによって2017年の発災タンクが当時特定できなかった有力タンクだったことがわかりました。一方、感心するのは監視カメラによる爆発の瞬間をとらえた映像が公開されたことです。もし、映像が無かったら、報道記事だけでは発災時間や発災タンクのサイズさえ分からなかったでしょう。