今回は、2023年4月25日(火)、米国イリノイ州レモントにあるセネカ・ペトロリアム社の石油プラントでアスファルトタンクが爆発・火災を起こし、死傷者2名が出た事故を紹介します。
< 発災施設の概要 >
■ 発災があったのは、米国イリノイ州(Illinois)レモント(Lemont)にあるセネカ・ペトロリアム社(Seneca Petroleum)の石油プラントである。
■ 事故があったのは、石油プラントのアスファルトタンクである。セネカ・ペトロリアム社は、道路建設に使用されるアスファルトの生産者でイリノイ州運輸局から承認された数少ない供給者のひとつである。
<事故の状況および影響>
事故の発生
■ 2023年4月25日(火)午前9時30分頃、アスファルトタンクが爆発し、火災となった。
■ 爆発によりタンクの屋根が噴き飛ばされ、プラントから炎とともに黒煙が空に向かって立ち昇った。
■ 発災に伴い、レモント消防署の消防隊が出動した。このほか、ロメオビル消防署とダウナーズグローブ消防署のほか、隣接するシットゴー製油所の消防隊が支援のために出動した。
■ 事故に伴い、 産業クリーニング業のM&Jインダストリアル・サービス社(M&J Industrial Services)の従業員2名が死傷した。内訳は男性1名が亡くなり、ひとりが負傷した。負傷者は地元に病院へ搬送された。
■ 爆発によって送電線の一部が切断された。しかし、市民への影響はないという。また、安全対策のため、ノースバウンド・ニュー
アベニューとハイロードの道路が、火災の間、135番街で閉鎖された。
■ 爆発時の衝撃は郊外のホームウッズでも感じられた。住民のひとりは、「一度でも起きれば、また起きる可能性があると思います。事業所はもっと真剣に対処すべきです」と語った。事故はこの地域に住む人たちに不安を募らせた。
被 害
■ アスファルトタンクが屋根を噴き飛ぶほどの損傷をした。まわりのタンクにも損傷があった。タンク内のアスファルトが焼失した。
■ 死傷者2名が出た。内訳は死者1名、負傷者1名である。
■ 爆発によって送電線の一部が切断された。また、黒煙により環境汚染があった。住民への影響は報告されていない。
■ 複数の道路が閉鎖された。
< 事故の原因 >
■ 火災の原因は調査中である。
< 対 応 >
■ 火災は放水銃2台を使用して消火され、約1時間後の午前10時23分に鎮圧が確認された。
■ ウィル郡検死官事務所とイリノイ州消防保安官事務所が爆発の原因を調査している。さらに、労働安全衛生局 (Occupational Safety and Health Administration ;OSHA) がセネカ・ペトロリアム社と M&Jインダストリアル・サービス社の両方に対する調査を開始した。労働安全衛生局(OSHA)の調査は法律により完了までに6か月かかるという。
■ ユーチューブに事故後の現場の状況を撮った映像が紹介されている。(YouTube、「1 dead, 1 injured in Lemont, illinois refinery fire, explosion」を参照)
■ アスファルトタンクは、原料の加熱や貯蔵に伴ってベーパーが蓄積されるため、火災や爆発の危険性があることが以前から知られている。エネルギー・環境専門誌のInside Climate Newsの2021年の記事では、過去10年間に国内のアスファルト・プラントやタンクターミナルで少なくとも17件の爆発事故が報告されており、このほかに未報告の事故がある可能性もあると指摘されている。また、この記事では、各企業が製品を強化するために、過去30年間に添加物の使用を増やしたが、これが蒸気圧を高めることにもなると指摘している。
補 足
■「イリノイ州」(Illinois)は、米国中西部に位置し、人口約1,280万人の州である。 イリノイ州は工業生産の中心地であるほか、アブラハム・リンカーン大統領が生まれた州でもある。
「レモント」(Lemont)は、イリノイ州のクック郡、デュページ郡、ウィル郡にまたがる村で、シカゴの南西郊外に位置し、人口約17,600人の町である。
■「セネカ・ペトロリアム社」(Seneca Petroleum)は1921年に設立されたエネルギー会社で、ガソリン、灯油、燃料油、残留燃料油、潤滑油などの石油製品の生産を行っている。また、道路建設に使用されるアスファルトの生産者であり、イリノイ州運輸局から承認された数少ない供給者のひとつである。レモントにある石油プラントは隣接しているシットゴー社(Citgo) レモント製油所から原料油を入手している。
■ アスファルトタンクで注意すべきことは、水による突沸、軽質油留分の混入、運転温度の上げすぎ、屋根部裏面の硫化鉄の生成などである。「米国ニュージャージー州でアスファルト処理工場のタンクが爆発(原因)」(2021年10月)では、興味深いコメントがある。要約すると、つぎのとおりである。
● 製油所はガソリンやジェット燃料などのより収益性の高い石油製品を生み出すため、 原油から貴重な一滴をより効率的に搾り(しぼり)出すようになっている。このため、舗装や屋根材シールなどを扱うアスファルト会社は過去に比べ取扱いがむずかしくなっている。そこで、添加剤が登場してくる。
● この添加剤は軽質の炭化水素やケミカルなどである。米国では、添加剤として軽質の炭化水素を含むことを認めている。このような添加剤は、揮発性が高く、タンクからの排出を増やし、添加剤を含まないアスファルトよりも低い温度で爆発する可能性がある。
要は製油所で搾り(しぼり)上げたアスファルトが取扱いにくいので、アスファルト・プラントでは軽質の炭化水素を混入させて、爆発の危険性を大きくしているという皮肉である。
■ アスファルトタンクの爆発・火災事故で本ブログに取り上げた事例は多く、つぎのとおりである。
● 2002年5月、「フランスのアスファルト製造所で添加剤タンクが爆発(2002年)」
● 2004年9月、「イタリアの製油所でアスファルト貯蔵タンクの破壊事故(2004年)」
● 2009年9月、「ニュージランドでアスファルトタンクが爆発、死者1名(2009年)」
● 2011年5月、「米国カリフォルニア州でアスファルトタンクが爆発して火災」
● 2013年3月、「韓国の慶尚北道で重油タンクが爆発」
● 2013年3月、「中華人民共和国の山東省でアスファルトタンク爆発・火災」
● 2013年5月、「フィリピンでアスファルト・プラントのタンクが爆発して死傷者2名」
● 2014年11月、「米国ウィスコンシン州でアスファルトタンクが爆発・火災」
● 2015年4月、「米国ウィスコンシン州の製油所でアスファルトタンク火災」
● 2016年12月、「米国カリフォルニア州の製油所でアスファルトタンクが火災」
● 2020年6月、「米国ニュージャージー州でアスファルト処理工場のタンクが爆発」
●(「米国ニュージャージー州でアスファルト処理工場のタンクが爆発(原因)」(
2021年10月)
● 2020年10月、「米国ワシントン州のアスファルト・プラントで爆発・火災、タンクへ延焼」
● 2022年6月、「米国ミズーリ州セントルイスでアスファルトタンクが火災」
アスファルトタンクの事例については、「この10年間の「世界の貯蔵タンク事故情報」について(その3)」(2020年9月) において18件の事故件数があり、軽質の液化石油ガスやナフサより事故の多い結果となった。「アスファルトは安全だという意識を取り去る必要がある」と指摘した。
■「発災タンク」は、被災写真を除いて仕様について報じられていない。グーグルマップで調べると、発災タンクは直径約6mである。高さを10~12mと仮定すれば、容量は280~340KLとなり、300KL級の固定屋根式タンクとみられる。
所 感
■ 今回の報道の中に「アスファルトタンクは、原料の加熱や貯蔵に伴ってベーパーが蓄積されるため、火災や爆発の危険性があることが以前から知られている。エネルギー・環境専門誌のInside Climate Newsの2021年の記事では、過去10年間に国内のアスファルト・プラントやターミナルで少なくとも17件の爆発事故が報告されており、このほかに未報告の事故がある可能性もあると指摘されている。この中では、各企業が製品を強化するために、過去30年間に添加物の使用を増やしたが、これが蒸気圧を高めることにもなると指摘している」とあり、この記事は妥当である。
■ 過去の事例からアスファルトタンクで注意すべきことは、水による突沸、軽質油留分の混入、運転温度の上げすぎ、屋根部裏面の硫化鉄の生成などである。以前の事例の「米国ニュージャージー州でアスファルト処理工場のタンクが爆発(原因)」(2021年10月)では、つぎのように指摘されている。
● 製油所はガソリンやジェット燃料などのより収益性の高い石油製品を生み出すため、 原油から貴重な一滴をより効率的に搾り(しぼり)出すようになっている。このため、舗装や屋根材シールなどを扱うアスファルト会社は過去に比べ取扱いがむずかしくなっている。そこで、添加剤が登場してくる。
● この添加剤は軽質の炭化水素やケミカルなどである。米国では、添加剤として軽質の炭化水素を含むことを認めている。このような添加剤は、揮発性が高く、タンクからの排出を増やし、添加剤を含まないアスファルトよりも低い温度で爆発する可能性がある。
今回の事故要因について何も報じられていないが、アスファルトタンクで留意すべき事項を守らなかった可能性が高い事故であろう。添加剤(軽質の炭化水素やケミカルなど)を使用する場合には安全対策の必要性がさらに重要である。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Nbcchicago.com, OSHA
Investigating After Worker Dies in Tank Explosion at Seneca Petroleum Plant in
Lemont, April 26,
2023
・Abc7chicago.com, Lemont explosion: Andrew HS
mourning wrestling coach killed at Seneca Petroleum plant, April
26, 2023
・Tankstoragemag.com, One dead in asphalt tank
explosion, April 27,
2023
・Wsws.org, One worker dies and at least one
other injured in asphalt tank explosion near Illinois refinery, April
26, 2023
・Apnews.com, 1 dead, 1 injured in blast at
Chicago area petroleum plant, April 26,
2023
・Chicago.suntimes.com, Federal safety agency
investigating explosion at Lemont refinery that killed a man and injured
another person, April 26,
2023
・Patch.com, 25-Year-Old Killed In Explosion At
Seneca Petroleum In Lemont, April 26,
2023
・Chicagobusiness.com, There's been a fatal
explosion at a refinery near Lemont: reports,
April 25, 2023
・Wsaz.com, 1 dead, 1 injured in blast at Chicago
area petroleum plant, April 26,
2023
・Cbsnews.com, Explosion, fire at petroleum plant
near Lemont leaves 1 dead, 1 injured,
April 25, 2023
・Fireengineering.com, One Dead in IL Petroleum
Plant Fire, Explosion, April 25, 2023
後 記: 今回の事故について再びチャットGPTを使ってみました。
質 問: 米国ではアスファルトタンクの爆発や火災事故が多いですが、なぜでしょうか。そして、事故を回避するためには、どのようにすればよいでしょうか。
回 答:アスファルトタンクの爆発や火災事故が米国で頻繁に発生する原因には、いくつかの要因が考えられます。最も一般的な要因のひとつは、アスファルトが非常に高温であり、そのためタンク内の圧力が高くなり、容器が爆発することがあることです。また、タンクの設計や製造上の欠陥や、操作や保守上のヒューマンエラー、不適切な防火対策などが原因となることもあります。
これらの事故を回避するためには、いくつかの対策を講じる必要があります。まず、タンクの設計や製造の品質を確保し、タンクに必要な保守と点検を適切に行うことが重要です。また、適切な防火対策を講じることも重要であり、これには、タンク周辺に消火器を備え付けたり、火災発生時の適切な対応プロトコルを策定することが含まれます。さらに、従業員に適切な訓練を提供し、安全意識を高めることも重要です。これらの対策を講じることによって、アスファルトタンクの爆発や火災事故を減少させることができます。(終)
質問に対する答えとしてはそれなりの一般的な回答でした。最近の添加剤の話はもちろん、昔からいわれている水による突沸、軽質油留分の混入、運転温度の上げすぎ、屋根部裏面の硫化鉄の生成などの文言は出てきませんでした。逆にいえば、米国でのアスファルト・プラント事業者の認識がチャットGPTの回答と同レベルではないのでしょうか。事例を活かすことの難しさを感じます。
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