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2024年8月24日土曜日

米国ルイジアナ州のタンクターミナルで原油タンクが火災(原因)

 今回は、いまから1年ほど前の202343日に米国ルイジアナ州セントローズにあるインターナショナル-マテックス・タンクターミナル社のタンク貯蔵施設で起こった原油タンクの火災について202475日(金)に原因が報じられたので、その内容について紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、米国ルイジアナ州Louisianaセントチャールズ郡St. Charles ParishのセントローズSt. Roseにあるインターナショナル-マテックス・タンクターミナル社International-Matex Tank Terminalの石油・ケミカルの貯蔵施設である。施設の総容量は1,630万バレル(259KL)で、207基の貯蔵タンクがある。

■ 事故があったのは、川沿いにある石油・ケミカルの貯蔵施設の原油用の容量250,000バレル(40,000KL)貯蔵タンクである。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 202343日(月)の午後2時頃、インターナショナル-マテックス・タンクターミナル社の貯蔵施設でタンク火災が発生した。タンクからは炎が見え、黒煙が空に流れた。

■ 発災に伴い、自衛消防隊と公設消防隊が出動した。出動した消防士は24名以上で、現場で消火活動を行った。

■ 事故に伴い、請負業者の社員2名が負傷し、病院へ搬送された。

■ 事故は容量250,000バレル(40,000KL)の原油タンクで起こったが、タンクはカラにされた後の残留物しか入っていなかったといわれ、保全作業中だった。

■ 安全対策上、近くを通っている鉄道が閉鎖された。

■ 当局は、火災からの煙は大気中の低い位置を樹木が茂った地域に向かって流れており、一般市民への脅威にはなっていないようだといい、市民の避難は必要ないと語った。当局は、煙が州間高速道路310号線に向かう可能性を監視しており、必要であれば、閉鎖すると述べた。

■ 43日(月)の午後8時時点で、消防隊はまだ活発な火災スポット2か所と戦っていた。現場は、消防隊が支援で要請していた12インチの泡放射装置が到着したところだった。火災から敷地外に吹き出す煙は北東から真北の方向に移っていた。近くの貯蔵タンクは延焼を防ぐために冷却されており、消火に使用された水の流出を敷地内で食い止めていた。

■ インターナショナル-マテックス・タンクターミナル社は施設付近の空気の質を監視しており、敷地外への影響はないとみているという。

■ インターナショナル-マテックス・タンクターミナル社は出火原因を調べている。

■ ユーチューブでは、タンク火災の状況を伝える動画が投稿されている。 

 Youtube Fire reported at IMTT chemical storage facility in St. Charles Parish2023/04/04

被 害

■ 容量250,000バレル(40,000KL)の原油タンクが焼損した。内部に残量していた油が焼失した。

■ 消火水の廃液が発生したが、構内に留まり、構外への影響は報告されていない。

■ 黒煙などで環境汚染が発生した。住民への影響は報告されていない。

■ 安全対策上、近くを通っている鉄道が閉鎖された。住民の避難は無かった。

< 事故の原因 >

■ 請負会社の作業員が大型原油タンクの上で溶接作業をしていた際にタンク内の残留油の可燃性ガスに引火したことが火災の原因である。

■ インターナショナル‐マテックス・タンクターミナルが、容量250,000バレル(40,000KL) のタンクから残留原油を排出せずに作業員に溶接を許可し、その他の安全手順にも従わなかったことが人身災害の要因である。

< 対 応 >

■ 2023年43日(月)の午後8時時点で火災は消火されていない。消防隊が支援で要請していた12インチの泡放射装置が到着したので、その後、制圧されたものとみられる。

■ 202475日(金)、メディアのThe Advocateインターナショナル・マテックス・タンクターミナルで202343日に起こったタンク火災の原因などについて、つぎのように報じた。

 ● インターナショナル‐マテックス・タンクターミナルは、タンク内部に原油が残っているにもかかわらず、残留原油を排出しないで、作業員に溶接を許可した。

 ● 請負会社の作業員が原油タンクの上で溶接作業を行っている際に、残留油の可燃性ガスに引火して火災となった。

 ● その結果、インターナショナル‐マテックス・タンクターミナルはすでに連邦環境・労働規制当局などに罰金を支払っている。このほか、危険性のある排出ガスや悪臭を削減するための設備に少なくとも150,000ドルを投資しなければならなくなった。

 ● インターナショナル‐マテックス・タンクターミナルは、緊急対応計画について事故で起こったような可燃性ベーパー放出や火災を想定していなかった。このため、施設には安全設備の不備があり、作業員が負傷する要因のひとつとなった。

補 足

■「ルイジアナ州」Louisianaは、米国の南部にあり、テキサス州に隣接し、人口約465万人の州である。州都はバトンルージュで、最大の都市はニューオーリンズである。ルイジアナ州は石油と天然ガスの資源が豊富である。

「セントチャールズ郡」St. Charles Parishは、ルイジアナ州の南部に位置し、人口約52,000人の郡である。

「セントローズ」St. Roseは、セントチャールズ郡にある人口約7,500人の町で、ニューオーリンズ大都市圏の一部である。

■「インターナショナル-マテックス・タンクターミナル社」International-Matex Tank Terminal LLC IMTT) は、1939年に設立されたエネルギー会社で16の貯蔵ターミナル施設を所有・運営している。石油製品、植物油、再生可能燃料、アルコール、メタノールなどのケミカル類を取り扱い、北米で事業を展開している。

■「発災タンク」は原油用で容量250,000バレル(40,000KL)と報じられているが、そのほかの仕様は分かっていない。グーグルマップと被災写真をもとに調べると、鉄道が通っている近くに発災タンクとみられるタンクがある。屋根付きで屋根外周の周囲に20個ほどの特別通気口が設置されているので、内部浮き屋根式タンクと思われる。このタンクの直径は約65mであるので、高さは約12mとなる。

所 感 (前回)

■ 今回の火災と人身事故の原因はタンクの保全工事に関わる要因だと思われる。 米国CSB(化学物質安全性委員会)がまとめた「タンク内外の火気工事における人身事故を防ぐ7つの教訓」は10年以上前に公表されたものだが、この教訓が活かされていないと思われる。代替方法の検討、危険度の分析、作業モニタリング、作業エリアのテスト、着工許可の発行、徹底した訓練、請負者への監督 の7つのうちのいくつかが不徹底のために事故が起こったのであろう。 

■ タンクの火災状況の写真によると、側板が内側に座屈しているように見える。このような座屈は火災が長時間続き、側板が炎に曝露され続けるために内側に座屈するのであるが、今回のタンクは残留液しか入っていなかったといわれており、このような条件に当てはまらない。タンク内が原油のベーパーで充満し、何らかの引火源によって爆発が起こり、屋根がタンク内に落下して側板が引きずられて内側に座屈したのかも知れない。しかし、考え難い推測であり、別な要因があるのかも知れない。

■ 火炎の勢いは大した状態ではないように見えるが、火災は6時間を経過した午後8時にも消火できておらず、消火活動は難航している。タンクはカラにされた後の残留物しか入っていなかったといわれているが、タンク内からの油の抜き出しが不十分で、結構な量の油が残っていたものと思われる。全面火災ではないが、屋根が障害物になり、的確な泡放射ができず、保有の泡放射装置では対応できず、もっと大容量の泡放射装置を要請したものとみられる。しかし、直径65mのタンクの全面火災では、放射能力40,000リットル/分の大容量泡放射装置が必要であり、内部浮き屋根式タンクという認識で事業所としての事前準備に課題があったと思われる。 一方、ルイジアナ州では、「米国ルイジアナ州における消防活動の相互応援の歩み」のように消防資機材の応援体制が整っているともいえる。

所 感 (今回)

■ 火災と人身事故の原因はやはりタンクの保全工事に関わる要因だった。 しかし、その主因は、インターナショナル-マテックス・タンクターミナルが原油が残っているにもかかわらず、残留原油を排出しないで、作業員に溶接を許可したことである。このため、請負会社の作業員が原油タンクの上で溶接作業を行っている際に、残留油の可燃性ガスに引火して火災となった。インターナショナル-マテックス・タンクターミナル社は1939年に設立されたエネルギー会社で16の貯蔵ターミナル施設を所有・運営しているが、このような安全に関する基本事項が2023年の時点で実施されていないというのは驚きである。

■ “大丈夫だろう”という安易な考えが人身事故を招いてしまった。長年、このような考え方でタンク設備を運営してきてたまたま問題がなかったのかも知れない。米国には、CSB(化学物質安全性委員会)がまとめた「タンク内外の火気工事における人身事故を防ぐ7つの教訓」がある。この教訓は、代替方法の検討、危険度の分析、作業モニタリング、作業エリアのテスト、着工許可の発行、徹底した訓練、請負者への監督 の7つの教訓事項がいずれも行われていない。 他所の誤った言動を自所の行いの参考とすべき事例である。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Powderbulksolids.com, 2 Injured in Chemical Storage Facility Fire in Louisiana, April 05, 2023

    Fox8live.com, 2 injured in fire at chemical storage facility in St. Rose, April 04, 2023

    Wwltv.com, Fire reported at IMTT chemical storage facility in St. Charles Parish, April 03, 2023

    Wdsu.com, Storage facility fire reported in St. Charles Parish, April 03, 2023

    Wgno.com, Homeland Security and Emergency Preparedness monitoring storage facility fire in St. Rose, April 03, 2023

    Theadvocate.com, Louisiana chemical facility fined, must carry out $150K in upgrades after 2023 fire ,  July  05,  2024


後 記: 今回の情報については、ルイジアナ州におけるタンクに関する事故情報をインターネットで検索していてたまたま見つけたものです。米国では州単位でものごとが動きますので、事故直後のように大手(全国版)メディアが報じる場合以外は、州単位で検索していく方がよいと最近思っています。今回の事故は保全工事が関係していることは分かっていましたが、原因がはっきりすると、こんなことが現在も起こり得るという驚きがあります。タンク事故が起こっても原因が分からず、調査中という報道が少なくありませんが、今回のような原因に関する報道が出ているとすれば、調査する価値があるなという感想をもちました。 

ところで、前回、この事故について“最新の情報をもっていない”と回答したチャットGPTに再度聞いてみました。今回は回答がありましたが、無難な答えでした。

質 問: 202343日、米国ルイジアナ州セントチャールズ郡のセントローズにあるインターナショナル-マテックス・ タンクターミナル社でタンク火災がありましたが、なぜ、どのようにして起こったのでしょうか。

回 答; 202343日にルイジアナ州セントチャールズ郡のセントローズにあるインターナショナル-マテックス・タンクターミナル社で発生したタンク火災は、いくつかの要因によって引き起こされた可能性があります。以下にその原因や経緯についての情報をまとめます。

火災の原因: 漏れやスパーク: タンク内での化学物質や燃料の漏れ、またはタンクの外部で発生したスパーク(火花)が引火することがあります。これが火災の直接的な引き金となる場合があります。

設備の不具合: タンクや関連設備の老朽化やメンテナンス不足が原因で火災が発生することがあります。例えば、タンクの構造的欠陥や、過熱による事故が考えられます。

火災の拡大: 燃料の種類: タンクに貯蔵されていた物質が可燃性であった場合、火災が急速に拡大することがあります。特に石油や化学薬品は引火しやすく、大規模な火災を引き起こす可能性があります。

風や気象条件:  強風や乾燥した気象条件が火災の拡大を助長することがあります。

対策と対応: 消火活動: 火災が発生した場合、消火活動や避難、地域住民への警告などの対応が行われます。初期の消火活動が遅れると、火災が大規模化することがあります。

原因調査: 火災後には原因調査が行われ、再発防止のための対策が検討されます。これには、設備の点検、手順の見直し、安全基準の強化などが含まれます。

具体的な原因や詳細については、火災後の調査結果に基づく情報が提供されることが多いです。そのため、公式な報告書やニュースソースなどを確認することが推奨されます。

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