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2023年8月16日水曜日

米国テキサス州ディアパークのタンク大火災の原因(2019年)

 今回は、 2019317日(日)、米国テキサス州ディアパーク市にあるインターコンチネンタル・ターミナル社のタンク施設で起こった13基の貯蔵タンクの火災事故を調査していたCSB(米国化学物質安全性委員会)が202376日(木)に最終報告書を発表し、タンク火災の発端になる原因が明らかになったので、その内容を紹介します。

 なお、事故直後の情報については「米国テキサス州で13基の貯蔵タンクが6日間火災」20194月)「米国テキサス州で13基の貯蔵タンクが6日間火災(火災拡大の要因)」201911月)を参照。

< 発災施設の概要 >

■ 事故があったのは、米国のテキサス州(Texas)ハリス郡(Harris County)ディアパーク市(Deer Park)にあるインターコンチネンタル・ターミナル社(Intercontinental Terminals Company)のタンク施設である。インターコンチネンタル・ターミナル社は日本の三井物産が所有する施設である。

■ 発災は、ヒューストン(Houston)都市圏にあるターミナル施設のタンク設備で起こった。ターミナル施設には合計242基のタンクがあり、石油化学製品の油やガス、燃料油、バンカー油、各種蒸留油を貯蔵しており、総容量は1,300万バレル(207KL)である。発災タンクは、1980年代に作られた第1期・第2期タンク群の13基である。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2019317日(日)午前10時過ぎ、容量80,000バレル(12,700KL)のTank80-8(ナフサ)近くで火災が起こった。

■ Tank80-8に接続されている循環ポンプが故障し、タンク内のブタンリッチのナフサが漏洩した。ポンプは故障したまま約30分間ナフサを流出し続け、この区域に滞留したのち、可燃性ベーパーに引火して火災が発生した。火災はTank80-8の配管マニホールドを巻き込んだ。続いてナフサ・タンクが火災となり、隣接するタンクに延焼していった。火災が発生しても、インターコンチネンタル・ターミナル社は放出個所を縁切りしたり、停止ことができなかった。

■ 発災に伴い、消防隊が出動し、火災への対応を行ったが、効果的な成果が得られないまま、同じ防油堤内にある計15基の貯蔵タンクのうち空のタンク2基を除き、つぎつぎと延焼していった。

■ 火災は3日間燃え続け、320日(水)午前3時頃、やっとすべてのタンク火災が消えた。

■ 322日(金)午後1215分頃、タンク基地の防油堤の一部が損壊し、タンク群から出た石油、水、消火泡が流出し、ヒューストン運河を含む周辺の水路に流れ出した。さらに、午後345分頃、タンク基地ではタンク火災が再燃した。この火災は2時間ほどで消された。

■ 米国沿岸警備隊は、港湾内に流出した油と泡を封じ込めるため、オイルフェンスの展張強化を行った。

事故の背景(ナフサーブタンのブレンド運転)

Tank80-8はナフサ用の地上式常圧貯蔵タンクで、容量は80,000バレル(12,700KL)だった。タンクは1972年に運転を供され、インターコンチネンタル・ターミナル社ディアパーク・ターミナルの操業開始以来の設備である。 Tank80-8は別の会社にナフサ貯蔵のために賃貸され、ナフサ-ブタンのブレンド運転に供された。インターコンチネンタル・ターミナル社は、外部配管設備(パイピング・マニホールド)を使用してナフサ製品にブタンを注入するようにした。図3を参照。

■ ブタンは、常設のブタン注入システムによってタンクローリーから受入れ配管を通じてTank80-8へ流れる。ブタン注入システムは、タンクローリーのローディング・ラックから始まり、タンク基地の南西部を通り、Tank80-8の循環ラインである配管マニホールドの注入箇所につながる。制御システムは、 Tank80-8のポンプが確実にナフサを循環していなければ、ブタン注入システムをスタートできないように設計されている。この条件に合致していれば、インターコンチネンタル・ターミナル社のオペレーターはタンクローリーのローディング・ラックにあるONボタンを押してアクチュエータ弁を開にし、ブタンの受入れを始めることができる。ブタンは、タンクローリーのタンクから4インチ径の配管を流れ、最後に2インチ径に細くなった配管を通じて既存ナフサとつながる循環ラインへ受け入れられる。ナフサとブタンの混合が十分行われるように、ポンプは受入れ運転モードによって数時間そのままの状態になる。(図4を参照)

■ インターコンチネンタル・ターミナル社はTank80-8の配管マニホールドに緊急または遠隔の縁切りバルブを設置していなかった。縁切りバルブは、例えばポンプや配管が損傷したときのような制御できない事象が起きたときに閉止させることができる。しかし、現設備では、ポンプなどの機器と縁切りさせるためにオペレーターは、Tank80-8からポンプへの供給バルブ、およびポンプからタンクへ返すリターンバルブの両方を手動で閉止しなければならない。このため、この設備近くで漏洩によって生じた火災においてオペレーターや消防隊はこのエリアに近づくことができず、手動でバルブを閉止することができなかった

事故時の事実

■ 2019316日(土)の夕方、ブタンのタンクローリーからTank80-8に受入れ予定が2件あり、この準備のため、オペレーターA1980年代に作られた第1期・第2期タンク群の担当オペレーター)がTank80-8の配管マニホールド部の現場に到着した。オペレーターAは、ポンプ循環に備えて、配管マニホールドの各バルブを開または閉の位置に操作した。

■ 午後654分頃、バルブ開閉の位置操作を確実に終えた後、オペレーターAはポンプの運転を開始した。ポンプはTank80-8の配管マニホールド部にあったので、ポンプの運転・停止は手動で行わなければならなかった。オペレーターAはポンプを運転し始めた後、オペレーターB(タンクローリー・ローディングラックの担当オペレーター)に、ブタンの荷卸し系統が確立した旨連絡した。オペレーターBはタンクローリー・ローディングラックにおいて荷卸し作業を開始した。図4に示すようにタンクローリーからTank80-8へブタンが流れた。

■ 2回予定されていたブタン受入れの第一回目は午後723分頃開始され、午後815分頃に終わった。この間、Tank80-8へは約170バレル(27KL)入った。第二回目のブタン受入れは午後929分から午後1029分に行われ、約193バレル(30KL)入った。この2回のブタン受入れが終わった後も、ポンプはそのまま運転され、製品を循環し続けた。インターコンチネンタル・ターミナル社では、次の日に船が到着し、Tank80-8から船へタンク全量を移送する予定だった。

■ 317日(日)の朝、インターコンチネンタル・ターミナル社のコンピュータDCSDistributed Control System:分散制御システム)には、監視しているポンプの運転圧力とタンク容量のデータに予期しないような一連の変化を示していた。これらの変動はポンプ循環システムに機械的な問題が発生していることを示唆していた。午前725分頃にポンプ吐出圧がゆっくりと上がり始めていた。午前845分頃までにポンプ吐出圧は80psiから84psi0.56MPaから0.59MPa)に上昇していた。午前934分にナフサ製品の漏洩が始まったとみられ、タンク容量が確実に減少し始めていた。同時間に、ポンプ吐出圧が突然80psi0.56MPa)に落ちた。午前945分頃、ポンプ吐出圧は80psi0.56MPa)から75psi0.52MPa)に2度目の急落を示していた。その頃、同じ時間帯にタンク容量は減少し続けた。

■ 午前934分から午前1001分の間に、タンク容量は約221バレル(35KL)減少していたことをDCSのデータは示していた。タンク基地には常設のガス検知器を設置していなかった。そのため、インターコンチネンタル・ターミナル社の従業員に石油漏洩を知らせる警報は鳴らなかった。Tank80-8からナフサが漏洩してタンク液位や容量が減少しているにも関わらず、計器室では何の警報も鳴らなかった。このため、従業員は、火災が発生する以前にナフサが漏洩していることを知らなかった。

■ 午前1000分頃、Tank80-8の配管マニホールド(図5を参照)の近くで火災が発生した。その直後の午前1001分に、コントロール・システムの事象記録ではポンプが停止したことを示し、その後、DCSでは、Tank80-8の設備との情報が途絶えた。この時間以降、Tank80-8やポンプのコントロール・システムのデータは利用できなくなった。

被 害

■ 13基の貯蔵タンクが火災で焼損した。内液の石油が焼失(量は不詳)したほか、防油堤や配管が損傷した。発災時や消防活動によるけが人は無かった。

■ 物的損害は15,000万ドル(210億円)以上と推定されている。

■ ベンゼンなどの大気放出で1,000名以上の住民に健康被害が出た。 

■ 油や消火泡が港湾(水路)に流出し、海水の水質汚染が出た。魚やカメの死体が浮かんだり、油まみれの鳥がいた。

< 事故の原因 >

CSB(米国化学物質安全性委員会)による原因究明

■ 事故時にTank80-8の配管マニホールドに設置されていた循環ポンプは遠心ポンプで、グールズ社のモデル 3196 XLTX Goulds Model 3196 XLTX)だった。 遠心ポンプはフレームアダプターによって接続され、液体側と電力側で構成されている。(図21を参照)

■ 事故後、Tank80-8の循環ポンプは分解検査するため第三者施設に運ばれた。 (図22を参照) ポンプは分解され、構成部品の目視検査が行われ、その状態が記録された。ポンプシャフト、シール、外側の軸受部にかなりの劣化と摩耗損傷がみられた。内側の軸受箱にあるシール部付近のポンプシャフトには、激しい磨耗が見られた。(図23を参照) また、シールグランド部にも広範囲の接触摩耗が見られた。(図24を参照)


■ 図25に示すように、4個のグランドナットでシールグランドをシール室カバーに固定し、ナフサがポンプから漏れるのを防ぐようになっている。事故後、ポンプを点検したところ、4個のグランドナットのうち1個も残っておらず、シールグランドがシール室カバーから完全に外れていることが明らかになった。(26を参照) さらに、シールグランドを介してメカニカルシールに潤滑剤を補給するための鋼製チューブは外部シールポット部から切断され、ポンプシャフトに巻き付いていた。

■ 事故後、シールグランドを支持する3本のシール室ボルトのねじ山を検査したところ、シールグランドの切込み式穴から外れた部位に不均一な変形が見られた。 (27を参照) ボルトの1本について金属組織検査を実施したところ、ねじ山の頂部が平らになっているのが確認された。 (28を参照) シールグランドの切込み式穴から外れたねじ山の不均一な変形やねじ山の頂部が平らになっていたのは、ねじ山へのせん断力による接触ではなく、半径方向の圧縮接触を示している。したがって、損傷は、グランドナットが緩んでボルトから外れるときに、シール室の切込み式穴と振動接触したために生じたと考えられる。ポンプの事故後の検査にもとづき、ブタンリッチのナフサが流出したのは、Tank80-8の循環ポンプのグランドナットが緩み、シールグランドがシール室のカバーから外れた結果、ナフサの放出経路ができたときに始まったと、 CSB(米国化学物質安全性委員会) は結論付けた。

■ ポンプを分解する際、ポンプシャフトには軸受フレームのアウターボード側で半径方向の変位が観察された。これは、通常、軸受(ベアリング)が故障していることを示す。その後、軸受箱を分解したところ、アウトボードのスラスト軸受に故障が確認された。

■ Tank80-8の循環ポンプは2019317日の朝には運転状態にあった。アウトボード側の軸受が破損すると、ポンプシャフトは荷重を支えなくなり、その結果、ポンプシャフトのアウトボード側の端が上向きに大きくたわみ(ポンプシャフトのインボード側の端にあるインペラの重量による)が発生し、シャフトのセンターラインがずれた。このような状態で循環ポンプが運転を続けたため、支えがほとんどないポンプシャフトの高速回転によってポンプに大きな振動が発生し、位置ズレが拡大するにつれて振動は大きくなったと考えられる。

■ 事故当日、運転の変更が行われていないにもかかわらず記録されていたデータでは、午前930分頃からタンク内容量が減少し始め、タンクへの平均流量が増加し始めた。これは、シール室のボルトからグランドナットが緩み、シールグランドがシール室のカバーから外れた結果、ブタンリッチのナフサがポンプから放出されやすい開孔部(すきま部)ができたからだと考えられる。事故後の検査によってアウトボード側スラスト軸受とシール室のボルトまでの広範囲に損傷状態が見られたことにもとづけば、 循環ポンプがブタンリッチのナフサを循環させながら、アウトボード側軸受の故障時点以降も運転し続けた可能性が高いと、CSB(米国化学物質安全性委員会) は結論づけた。軸受の損傷によってポンプに大きな振動が発生し、メカニカルシールを所定の位置に固定していたグランドナットが緩み、シール部が分解して可燃性混合物を放出したとみられる。

■ Tank80-8の循環ポンプは、午前10時頃に火災が発生するまでの約30分間、故障したままブタンリッチのナフサを大気中に放出しながら運転を続けた。この危険物質のベーパー密度は重いため、ブタンリッチのナフサの可燃性ベーパーは地上近くに漂い、Tank80-8のポンプ周辺の低地に溜まった可能性が高い。Tank80-8の循環ポンプには、振動監視システムは設置されておらず、また、この周辺には放出が進行していることを職員に警告するためのLELガス検知システムも設置されていなかった。

■ ポンプシャフトが回転し続けると、ふたつの金属表面が高速で研磨され、軸受箱のインボード側に近いポンプシャフト表面に溝ができた。金属同士の接触によってポンプシャフトに形成された溝の深さから、シールグランドがシール室のカバーから完全に外れた後も、ポンプは数分間運転を続けていたことがわかる。(図23を参照) ポンプ周辺に溜まった可燃性ベーパーは、ポンプシャフトと外れてしまったシールグランドの金属接触で発生した熱によって発火した可能性が高いと、CSB(米国化学物質安全性委員会) は結論づけた。

事故に関する問題点

■ CSB(米国化学物質安全性委員会)の最終報告書では、以下の5つの安全上の問題を指摘している。

 ● ポンプの機能維持; インターコンチネンタル・ターミナル社は、Tank80-8と循環ポンプを含む関連機器の機能を維持するための要領や手順を導入していなかった。危険性の高い化学物質を使用するポンプの機能を維持するためのプログラムがあれば、事故の前にポンプの問題を特定できただろう。2019317日にポンプのメカニカルシール部が破損したにもかかわらず、運転を続けている間にブタンリッチのナフサをポンプから流出させてしまった。

 ● 可燃性ガス検知システム; Tank80-8には、タンクや関連機器からの漏れ(封じ込め喪失)による危険な状態を職員に警告するための可燃性ガス検知システムが装備されていなかった。2014年、ハザード検討チームがTank80-8付近に可燃性ガス検知システムを追加するよう推奨していた。しかし、インターコンチネンタル・ターミナル社は、この推奨事項を実施せず、実施しなかった理由を文書化していなかった。可燃性ガス検知システムがないため、Tank80-8の配管マニホールド周辺にブタンリッチのナフサが流出したことを職員に知らせる警報がなかった。その結果、ナフサや可燃性ベーパーが故障したポンプから約30分間放出し続け、引火して火災が発生した。

 ● 遠隔操作式の緊急遮断弁; Tank80-8のタンク区域には、安全な場所から遠隔操作で漏洩した油の流出を止めるような緊急遮断弁が設置されていなかった。遠隔操作式の緊急遮断弁などの必要性の判断は、米国安全衛生労働局(OSHA)のプロセス安全管理基準(PSM)や米国環境保護庁(EPA)のリスク管理プログラム基準(RMP)で義務付けられているハザード評価、あるいは保険会社の監査や企業のリスク評価結果などである。事故当日、Tank80-8のブタンリッチのナフサは、遠隔操作や自動隔離ができず、故障したポンプから放出され続け、タンクまわりの火災を大きくした。Tank80-8まわりの火災が拡大するにつれ、火災による炎はタンク区域内あった配管マニホールドに広がり、設備を損傷させ、配管の破断を引き起こし、貯蔵タンク内のブタンリッチのナフサを防油堤内に放出させてしまった。

 ● タンク施設の設計; 1980年の前半に作られたタンク施設は全米防火協会のNFPA30Flammable and Combustible Liquids Code)の基準に従って設計されてはいたが、タンクの配置、タンク間距離、堤内に設置したポンプの管理、排水系統などタンク施設の個々の設計要素によって、緊急対応要員が初動時において火災の拡大を遅らせたり、防止したりすることを難しくさせており、タンク区域内の他のタンクへの延焼を許してしまった。

 ● 安全管理要領(PSM)やリスク管理要領(RMP)の適用; インターコンチネンタル・ターミナル社は、米国安全衛生労働局(OSHA)のプロセス安全管理基準(PSM)や米国環境保護庁のリスク管理プログラム基準(RMP)をTank80-8に適用していなかった。というのも、米国安全衛生労働局(OSHA)のプロセス安全管理基準(PSM)や米国環境保護庁のリスク管理プログラム基準(RMP)も、規則内に記載されている適用除外のため、タンクとその関連機器に適用されなかったからである。OSHA PSM基準では常圧貯蔵タンクを除外されており、EPA RMP基準ではブタンリッチのナフサ混合物の規則で可燃性評価が除外されていたため、Tank80-8と関連機器には適用しなかったという。インターコンチネンタル・ターミナル社はタンク施設全体に対していくつかプロセス安全管理を適用していたが、同社は危険性の高い化学物質を取扱う常圧貯蔵タンクにプロセスハザード分析や機械の機能維持ための管理基準を適用しなかった。 これらの管理基準を適用していれば、Tank80-8まわりの危険性を予知し、安全に管理する機会が得られたはずである。このように、インターコンチネンタル・ターミナル社がプロセス安全管理プログラムを検討し、実施していれば、事故は防げたはずである。

補 足

■「テキサス州」(Texas)は、米国南部にあり、メキシコと国境を接し、人口約2,915万人の州である。

「ハリス郡」(Harris County)は、テキサス州南東部に位置し、人口約478万人の郡である。

「ディアパーク」(Deer Park)は、ハリス郡の南東にあり、人口約34,500人の市である。

■「インターコンチネンタル・ターミナル社」(Intercontinental Terminals Company)は、1972年にMitsui&CompanyUSA Inc.によって設立された石油ターミナル会社で、日本の商社である三井物産の子会社である。ディアパーク市の施設には約270人が働いているが、役員を含めて従業員は米国人である。

 ディアパーク施設は242基のタンクで総容量は1,300万バレル(207KL)である。タンクの大きさは1,20025,000KL級である。最長182mの船が着桟できる桟橋など5つのタンカー・バースがある。


■ 最初に発災したナフサ・タンクは内部浮き屋根式で、容量が80,000バレル(12,700KL)である。グーグルマップによると、直径は約33mであり、高さは約15mとなる。今回の発災したタンク地区には15基の貯蔵タンクがあり、同じ防油堤内にある。15基の貯蔵タンクはいずれも同じ大きさで、内部浮き屋根式とみられる。油種はナフサ、ガソリン・ブレンド、キシレン、熱分解ガソリン、潤滑油ベースオイルといろいろあるが、内部浮き屋根を必要とする油を対象にしたタンク地区だと思われる。このタンク地区のタンク間距離は、グーグルマップによると約11mで、タンク直径の1/3であり、防油堤内に仕切り堤はない。

所 感

■ CSB(米国化学物質安全性委員会)による最終報告書が出されたが、事故の発端はタンクの循環ポンプの故障であることが判明した。たった1台のポンプが故障しただけで、同一防油堤内にあったタンク13基が火災で損壊し、内部の油が焼失するという大事故が技術の高い米国内で起きたことに驚きである。しかも、シールグランドのナットの緩みが最初だとみられている。ナットの緩みであれば、緩みが始ったのはかなり前からと思われ、事故が起こる前の日常点検で発見できただろう。よく言えば、事業者はタンク施設設計者、製作者、保全請負者などを信頼し、事故など起こらないと信じていた。悪く言えば、運転操作以外、日常はなにもしなかった。いつかは事故が起こったと思われる事例である。

■ CSB(米国化学物質安全性委員会)の最終報告書は歯切れの悪い表現が多いように感じた。 (特に、5つの安全上の問題を指摘した項) それはCSBが、インターコンチネンタル・ターミナル社以外に、米国安全衛生労働局(OSHA)や米国環境保護庁(EPA)などの基準設定団体に対して今回の安全上の問題に関連するギャップに対処するよう勧告しているが、この措置に関して議論があったのではないかと思う。 CSBは、事故から半年の20191030日に予備調査報告書を発表し、最終報告書を20203月までに公表する予定だったが、コロナウィルス感染者対応があったにしても、20237月まで3年も延びていた。確かに米国は自由の国であり、事業者の自立性を大事にするところがあるが、これが裏目に出たと思う。

 日本の法令は細かすぎる点があるが、防油堤内に可燃性液体のポンプを設置しない(指導レベル)ことになっているし、容量1KL以上のタンクには遠隔操作の緊急遮断弁の設置が義務づけられている。日本ですでにこのように対処にしていることを米国は知らないだろう。米国内のタンク施設が悪い方向へ向かっていないことを望む。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

   Hazmatnation.com,  Report: 5 Key Findings from 2019 Tank Farm Explosion, Fire,  August 3, 2023

     Csb.gov, Storage Tank Fire at Intercontinental Terminals Company, LLC (ITC) Terminal.  Investigation Report, July 06, 2023


後 記: 前回の201910月に出た事故の予備調査報告書のブログを出した後記に「ハインリッヒの法則(ひとつの重大事故の背後には29の軽微な事故があり、その背景には300の異常が存在する)を地で行くような事例で、問題点が多すぎてまとめの収拾がつかないので、事故から半年を期に予備調査報告を出したのではないかと思ってしまいます」と書き、さらに「世界の石油産業を牽引してきた米国(テキサス州)の実情がこの程度なのかと思うとともに、ロイター通信は三井のITC”と伝えており、インターコンチネンタル・ターミナル社(ITC)を所有する日本の三井物産がどの程度関与していたのかも気になるところです」と書きました。ディアパーク市のタンク大火災の原因が出ていないことを忘れていました。最終報告書で原因が明らかになり、驚きはしましたが、前回の後記は当たらずとも遠からずで、大きく外れてはいなかったですね。原因が発表になってすっきりしました。 

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