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2019年11月12日火曜日

米国テキサス州で13基の貯蔵タンクが6日間火災(火災拡大の要因)


 今回は、 2019317日(日)に米国テキサス州ハリス郡ディア・パーク市にあるインターコンチネンタル・ターミナル社のタンク施設で起こった13基の貯蔵タンクの火災事故を調査していたCSB(米国化学物質安全性委員会)が、1030日(木)に予備調査段階の事実情報を発表したので、この内容を踏まえた事故情報を紹介します。なお、事故直後の情報については「米国テキサス州で13基の貯蔵タンクが6日間火災」20194月)を参照してください。
(写真はAbrahamwatkins.com から引用)
 < 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国のテキサス州(Texas)ハリス郡(Harris County)ディア・パーク市(Deer Park)にあるインターコンチネンタル・ターミナル社(Intercontinental Terminals Company)のタンク施設である。インターコンチネンタル・ターミナル社は日本の三井物産が所有する施設である。

■ 発災は、ヒューストン(Houston)都市圏にあるターミナル施設のタンク設備で起こった。ターミナル施設には合計242基のタンクがあり、石油化学製品の油やガス、燃料油、バンカー油、各種蒸留油を貯蔵しており、総容量は1,300万バレル(207万KL)である。発災タンクは、1980年代に作られた第1期・第2期タンク群の13基である。
          テキサス州ハリス郡ディア・パーク周辺   (写真はGoogleMapから引用)
            火災のあったタンク地区 写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2019年3月17日(日)午前10時20分頃、容量80,000バレル(12,700KL)のTank80-8(ナフサ)で火災が起こった。ナフサ・タンク内には90%の油が入っていた。
1 インターコンチネンタル・ターミナル社のTank80-8(ナフサ)の火災317日)
■ 発災に伴い、消防隊が出動し、火災への対応を行った。午後3時頃、火災が拡大しないよう、防御的消火戦略をとった。しかし、午後7時に、火災は2基目のTank80-5(キシレン)へ延焼した。消火用水の水圧が一時低下し、消防活動を妨げ、さらに2基のタンクが爆発的に燃焼して、火災は夜通し激しく燃えた。

■ 3月18日(月)午前1時30分時点、火災は隣接していた5基のタンクへ拡大した。新しく火災になったタンクの内液はガソリン用のブレンド油と潤滑油のベースオイルだった。

■ 3月18日(月)午前5時30分時点で、タンク火災は8基に広がった。

■ 3月18日(月)午前10時時点で、火災になったTank80-8(ナフサ)の内液を減らすために、ポンプで別なタンクへの移送を始めた。また、火災のタンクは7基になったが、1基は空のタンクである。この時点で、火災を封じ込めることができず、あと2日間燃え続けるという予測であった。
 燃えている6基のタンクは同じ防油堤内にあり、この防油堤には計15基の貯蔵タンクが設置されている。消防隊は、これ以上火災が広がらないように消防活動を続けた。

■ 3月18日(月)午後3時時点で、消防隊が直面している火災タンクは、Tank80-2(ガソリン・ブレンド)、Tank80-3(ガソリン・ブレンド)、Tank80-5(キシレン)、Tank80-6(ガソリン・ブレンド)、 Tank80-8(ナフサ)、Tank80-11(潤滑油ベースオイル)の6基である。

■ 3月18日(月)、現場に消火水を供給していた消防艇の水ポンプ2台が故障し、午後4時から10時までの6時間、水源が途切れたため、火炎が強まった。

■ 3月19日(火)早朝、インターコンチネンタル・ターミナル社から派遣要請されていたタンク火災の経験豊富な消防士15名が現場に到着した。派遣されたのはルイジアナ州の消火専門のUSファイアポンプ社で、大容量の泡放射砲と泡薬剤を搬送してきた。

■ 3月19日(火)午前10時時点の火災のタンクは計8基だった。従来のTank80-2(ガソリン・ブレンド)、Tank80-3(ガソリン・ブレンド)、Tank80-5(キシレン)、Tank80-6(ガソリン・ブレンド)、 Tank80-8(ナフサ)、 Tank80-11(潤滑油ベースオイル)の6基に加え、ほかにTank80-9とTank80-12の空タンクも火に包まれた。このうち、空のTank80-9(空タンク)とTank80-11(潤滑油ベースオイル)は火災の熱で崩壊した。

■ 3月19日(火)午後3時45分時点で火災が続いているタンクは、Tank80-2(ガソリン・ブレンド)、Tank80-3(ガソリン・ブレンド)、Tank80-4(潤滑油ブレンドオイル)、 Tank80-5(キシレン)、Tank80-6(ガソリン・ブレンド)、 Tank80-7(熱分解ガソリン)、Tank80-8(ナフサ)、 Tank80-11(潤滑油ブレンドオイル)の8基で、火に包まれているのがTank80-9とTank80-12の空タンクである。

■ 消火活動に参加しているチャンネル・インダストリー・マチュアル・エイド(CIMA)は、3月19日(火)に防御的戦略から積極的戦略へ移行し、Tank80-7(熱分解ガソリン)とTank80-8(ナフサ)に攻撃を開始した。CIMAは、火災がタンクの配置されている施設の区画外に広がるとは思っていなかったと語った。

■ 3月19日(火)、はっきりと火災が続いているタンクは、Tank80-2(ガソリン・ブレンド)、Tank80-3(ガソリン・ブレンド)、Tank80-5(キシレン)、Tank80-6(ガソリン・ブレンド)の4基だった。

■ 消防隊は、10,000~20,000ガロン/分(37,800~75,700 L/min)の消火泡をタンク施設へ放出した。タンク周辺から流れ出てくる油や消火泡は高さ6フィート(1.8m)の防油堤内に封じ込めようとした。しかし、油と水の一部が現場から出て、近くの水路と港に流出した。このため、漏れ出た液を回収するため、オイルフェンスが展張された。

■ 3月19日(火)夜、新たにTank80-14(熱分解ガソリン)が火災になった。熱分解ガソリンはエチレンとプロピレン製造時の副産物で芳香族の高いナフサ留分である。午後9時45分時点での火災タンクは、Tank80-2(ガソリン・ブレンド)、Tank80-3(ガソリン・ブレンド)、Tank80-5(キシレン)、Tank80-14(熱分解ガソリン)の4基だった。以前に燃えていたタンクの消火ができたため、燃えているタンクへ集中して泡薬剤による泡放射が可能となった。

■ 3月20日(水)午前3時頃、すべてのタンク火災が消えた。しかし、現場では、蒸気と煙が目でわかるくらいに立ち昇っており、再引火の可能性があるため、消防隊は泡と水による冷却作業を続けた。

■ 火災が消えた3月20日(水)の午後、タンク施設から煙が上がっているのが見えた。Tank80-5(キシレン)で覆っていた泡が切れたため、まだタンクの熱い金属部によって再引火したものだった。この火災は約30秒で消えた。

■ 3月20日(水)の夜、風向きが変わり、ベンゼンを含む熱分解ガソリンのTank80-14(熱分解ガソリン)を覆っていた泡が移動した。このため、ベーパーが大気へ放出され、住民に避難勧告が出た。インターコンチネンタル・ターミナル社は熱分解ガソリンを別なタンクへ移送する計画だという。

■ 3月21日(木)の午前6時20分、火災は消えたがベンゼン濃度が上昇しており、火災の影響が終わっていないことが明らかになった。施設の東側境界線でベンゼン濃度が検出されたので、午前6時55分、この地区の避難勧告が出された。
 
■ 問題のタンクは最後に火災になったタンクのひとつで、通常は浮き屋根で保護されているが、火災によって屋根が損傷し、代替として泡で覆っていた。風が変わったとき、Tank80-14(熱分解ガソリン)には20,000バレル(3,180KL)弱の油が入っていたが、その後、別なタンクへ移送を始めた。この作業は8~10時間かかる見込みであるという。

■ 3月22日(金)午後3時45分頃、Tank80-2(ガソリン・ブレンド)、Tank80-3(ガソリン・ブレンド)、Tank80-5(キシレン)が再引火し、状況が激しくなった。火災は防油堤から漏れ出た液が広がっていった。新たに発生した火災に対して、ただちに水と泡を放射し始め、発災から約1時間後の午後4時45分頃に消された。防油堤の壊れた原因は分かっていない。漏れ出した液は火災で燃えたタンクの内液と消火で使った泡と水の混合液だった。その後、堤の修復部分を補強するとともに、ほかの防油堤についても調査が実施された。

■ 米国沿岸警備隊は、港湾内に流出した油と泡を封じ込めるのため、オイルフェンスの展張強化を行った。海へ流れ出た液による影響は約2マイル(3.2km)にわたるエリアであったが、大半は封じ込めができた。3月23日(土)は8,500フィート(2,590m)のオイルフェンスを展張したが、場所によっては2重、3重にする必要があり、 3月24日(日)は27,000フィート(8,230m)を展張した。

■ ハリス郡公衆衛生局によれば、発災のあった週に1,000人以上の人が郡の診療所を訪れた。その多くは、呼吸器の問題、頭痛、肌の刺激、吐き気に関連したものだったという。この地域の大気モニタリングでは、先週、ベンゼン濃度が急に高くなった。これらの数値は長期的な健康への影響を引き起こすほど高いものでなかったが、空気質の監視は継続するという。

■ 3月27日(水)、熱分解ガソリンの入ったタンクの油移送は完了した。

■ 3月27日(水)午前6時時点、タンク施設からの水の混じった油と消火泡の回収量は約35,724バレル(5,680KL)である。港湾(水路)からの油と水の混合液の回収量は約28,528バレル(4,500KL)である。

被 害
■ 13基の貯蔵タンクが火災で焼損した。内液の石油が焼失(量は不詳)したほか、防油堤や配管が損傷した。発災時や消防活動によるけが人は無かった。

■ ベンゼンなどの大気放出で1,000名以上の住民に健康被害が出た。 

■ 油や消火泡が港湾(水路)に流出し、海水の水質汚染が出た。魚やカメの死体が浮かんだり、油まみれの鳥がいた。
2 インターコンチネンタル・ターミナル社のディアパーク・ターミナル(矢印が発災地区)
< 事故の原因 >
■ 事故原因の詳細は、米国化学物質安全性委員会;CSB(The U.S. Chemical Safety Board)で調査中である。

■ ナフサ・タンクの配管マニホールドで油漏洩が起こった。この漏れた油に引火し、配管マニホールド内で火災となり、続いてナフサ・タンクが火災となり、隣接するタンクに延焼していったとみられる。

< 事故の背景 >
 2019年10月30日(水)にCSB(米国化学物質安全性委員会)から予備調査段階の事実情報が発表された。
ナフサーブタンのブレンド運転
■ Tank80-8(ナフサ)は地上式常圧貯蔵タンクで、容量は80,000バレル(12,700KL)だった。タンクは1972年に運転を供され、インターコンチネンタル・ターミナル社ディア・パーク・ターミナルの操業開始以来の設備である。 Tank80-8は別の会社にナフサ貯蔵のために賃貸され、ナフサ-ブタンのブレンド運転に供された。インターコンチネンタル・ターミナル社は、外部配管設備(パイピング・マニホールド)を使用してナフサ製品にブタンを注入するようにした。図3を参照。
3 Tank80-8の配管マニホールド
 この写真は2016年以前のもので、Tank80-8と配管マニホールドを示す 
■ ブタンは、常設のブタン注入システムによってタンクローリーから受入れ配管を通じてTank80-8(ナフサ)へ流れる。ブタン注入システムは、タンクローリーのローディング・ラックから始まり、タンク基地の南西部を通り、Tank80-8(ナフサ)の循環ライン(配管マニホールド)の注入箇所につながる。制御システムは、 Tank80-8(ナフサ)のポンプが確実にナフサを循環していなければ、ブタン注入システムをスタートできないように設計されている。この条件に合致していれば、インターコンチネンタル・ターミナル社のオペレーターはタンクローリーのローディング・ラックにあるONボタンを押してアクチュエータ弁を開にし、ブタンの受入れを始めることができる。ブタンは、タンクローリーのタンクから4インチ径の配管を流れ、最後に2インチ径に細くなった配管を通じて既存ナフサ製品とつながる循環ラインへ受け入れられる。ナフサとブタンの混合が十分行われるように、ポンプは受入れ運転モードによって数時間そのままの状態になる。(図4を参照) 
4 ブタン・ブレンディング・システムの概略図
  図中の矢印は配管を通るブタンの流れとナフサ循環の流れを示す。
■ インターコンチネンタル・ターミナル社はTank80-8(ナフサ)の配管マニホールドに緊急または遠隔の縁切りバルブを設置していなかった。縁切りバルブは、例えばポンプや配管が損傷したときのような制御できない事象が起きたときに閉止させることができる。しかし、現状設備では、ポンプなどの機器と縁切りさせるためにインターコンチネンタル・ターミナル社のオペレーターは、Tank80-8(ナフサ)からポンプへの供給バルブ、およびポンプからタンクへ返すリターンバルブの両方を手動で閉止しなければならない。このため、この設備近くで漏洩によって生じた火災においてインターコンチネンタル・ターミナル社のオペレーターや消防隊はこのエリアに近づくことができず、手動でバルブを閉止することができなかった。

■ ブタン注入システムは2014年8月に設置された。2016年1月、インターコンチネンタル・ターミナル社は、タンクローリーの荷卸し時間を短縮するため、移送配管の大部分を占める2インチ径の配管を4インチ径の配管に取替えた。
     図5 Tank80-8配管マニホールド部 (事故後の写真)
事故時の事実
■ 2019年3月16日(土)の夕方、ブタンのタンクローリーからTank80-8(ナフサ)に受入れ予定が2件あり、この準備のため、オペレーターA(1980年代に作られた第1期・第2期タンク群の担当オペレーター)がTank80-8の配管マニホールド部に到着した。オペレーターAは、ポンプ循環に備えて、配管マニホールドの各バルブを開または閉の位置に操作した。

■ 午後6時54分頃、バルブ開閉の位置操作を確実に終えた後、オペレーターAはポンプの運転を開始した。ポンプはTank80-8(ナフサ)の配管マニホールド部にあったので、ポンプの運転・停止は手動で行わなければならなかった。オペレーターAはポンプを運転し始めた後、オペレーターB(タンクローリー・ローディングラックの担当オペレーター)に、ブタンの荷卸し系統が確立した旨連絡した。オペレーターBはタンクローリー・ローディングラックにおいて荷卸し作業を開始した。図4に示すようにタンクローリーからTank80-8(ナフサ)へブタンが流れた。

■ 2回予定されていたブタン受入れの第一回目は午後7時23分頃開始され、午後8時15分頃に終わった。この間、Tank80-8(ナフサ)へは約170バレル(27KL)入った。第二回目のブタン受入れは午後9時29分から午後10時29分に行われ、約193バレル(30KL)入った。この2回のブタン受入れが終わった後も、ポンプはそのまま運転され、製品を循環し続けた。インターコンチネンタル・ターミナル社は、次の日に船が到着し、Tank80-8(ナフサ)から船へタンク全量を移送する予定だった。

緊急事態対応の経緯事実
■ 火災発生して数分後、インターコンチネンタル・ターミナル社の緊急事態対応班の消防隊が火災への対応に直面していた。最初に取組んだことは、Tank80-8(ナフサ)配管マニホールドに何本かの放水を向けることに集中した。インターコンチネンタル・ターミナル社は、ヒューストン・メトロポリタン地域で結成している「チャンネル・インダストリー・マチュアル・エイド」(CIMA)という石油工業界の緊急時相互応援の非営利活動団体のメンバー会員だった。従って、 他のCIMAメンバー会員である近隣の会社は消防活動設備の機材を伴ってインターコンチネンタル・ターミナル社のタンク基地に出動した。

■ 対応を調整し、全体をみる統一指揮所が立ち上げられた。統一指揮所には、インターコンチネンタル・ターミナル社、米国環境保護庁、テキサス環境品質委員会、ハリス郡消防署が参画した。また、対応には、連邦政府、州政府、地元自治体が支援した。 

■ Tank80-8(ナフサ)は1980年代に作られた第1期・第2期タンク群の真ん中に位置し、まわりは他の80,000バレル(12,700KL)の貯蔵タンクに囲まれていた。(図6を参照) インターコンチネンタル・ターミナル社は、Tank80-8(ナフサ)からナフサが漏洩するのを止めることや孤立させることができなかった。このため、火災は激しく燃え続けた。3月17日(日)夕方、Tank80-8 (ナフサ)の西にある隣接タンクが完全に火災に巻き込まれた。消防隊は火災を制御しようと冷却水や泡消火を放射し続けた。しかし、風が変化し、火災は広がり続ける要因となった。
6 タンク基地の配置図
1980年代に作られた第1期・第2期タンク基地を示す
■ 3月18日(月)の朝には、火災の貯蔵タンクは4基になっていた。この4基のタンクはいずれもTank80-8 (ナフサ)の西に位置していた。この時点で、インターコンチネンタル・ターミナル社は、火災を消すための方策として第三者の緊急事態対応サービスを行うUSファイアポンプ社と連絡をとっていた。夕方には、さらに2基の貯蔵タンクが火災になっていた。緊急事態対応の消防隊は、冷却水と泡消火を実施して火災を制御しようと努めていた。
 
■ 3月19日(火)の朝の午前0時13分頃、インターコンチネンタル・ターミナル社はUSファイアポンプ社と緊急事態対応同意書を交わした。 USファイアポンプ社は、この時すでにルイジアナ州ホールデンの本部からインターコンチネンタル・ターミナル社のディアパーク・ターミナルへ資機材を搬送し始めていた。この午前中に、消火水の過大な需要によって、一時的に水圧の低下があった。そして、さらに2基の貯蔵タンクが火災となった。午前6時48分頃、 USファイアポンプ社が発災現場に到着した。最初に現場の状況を評価した後、 USファイアポンプ社は対応計画を立て、午後1時00分頃に消防活動を始めた。

■ 3月20日(水)の午前3時03分頃までに、インターコンチネンタル・ターミナル社は、CIMAとUSファイアポンプ社の支援を受けてディアパーク・ターミナルにおけるタンク基地の火災を消すことができた。(図7を参照)  火災は、1980年代に作られた第1期・第2期タンク群まわりだけに限られ、周辺地区に拡大しなかった。
7  1980年代に作られた第1期・第2期タンク基地
写真は2019319日(火)時点の火災と320日(水)時点の消火状況を示す
■ 3月22日(金)午後12時15分頃、タンク基地の防油堤の一部が損壊し、タンク群から出た石油、水、消火泡の混合液が流出し、ヒューストン運河を含む周辺の水路に流れ出した。さらに、午後3時45分頃、タンク基地ではタンク火災が再燃した。この火災は2時間ほどで消された。

CSB(米国化学物質安全性委員会)による今後の原因調査予定
■ CSB(米国化学物質安全性委員会)は当該事故の原因調査を続けている。Tank80-8(ナフサ)の構成要素は問題のあった貯蔵設備ではないことが分かった。CSBは配管とポンプの最初の目視検査を実施した。さらに検査を実施していく予定である。CSBでは、ナフサの漏れ出た箇所と発火場所を明らかにし、なぜ発火に至る前にナフサの漏洩を発見できなかったか、なぜ火災後にナフサの漏洩を孤立できなかったかを明らかにする予定である。また、CSBでは、緊急事態対応にも注目しており、最終的に火災を消すまでになぜ長時間かかったかについても調査する。このため、事故時の記録、写真、ビデオ、ドローンの映像を含むいろいろな情報を整理する必要がある。調査結果は最終報告書として公表する予定(2020年3月までに)である。

補 足
■「テキサス州」(Texas)は、米国南部にあり、メキシコと国境を接し、人口約2,510万人の州である。
「ハリス郡」(Harris County)は、テキサス州南東部に位置し、人口約465万人の郡である。
「ディア・パーク」(Deer Park)は、ハリス郡の南東にあり、人口約32,000人の市である。

■「インターコンチネンタル・ターミナル社」(Intercontinental Terminals Company)は、1972年にMitsui&Company(USA) Inc.によって設立された石油ターミナル会社で、日本の商社である三井物産の子会社である。ディア・パーク市の施設には約270人が働いているが、役員を含めて従業員は米国人である。
ディア・パーク施設は242基のタンクで総容量は1,300万バレル(207万KL)である。タンクの大きさは1,200~25,000KL級である。最長182mの船が着桟できる桟橋など5つのタンカー・バースがある。 
 
■ 最初に発災したナフサ・タンクは内部浮き屋根式で、容量が80,000バレル(12,700KL)である。グーグルマップによると、直径は約33mであり、高さは約15mとなる。今回の発災したタンク地区には15基の貯蔵タンクがあり、同じ防油堤内にある。15基の貯蔵タンクはいずれも同じ大きさで、内部浮き屋根式とみられる。油種はナフサ、ガソリン・ブレンド、キシレン、熱分解ガソリン、潤滑油ベースオイルといろいろあるが、内部浮き屋根を必要とする油を対象にしたタンク地区だと思われる。このタンク地区のタンク間距離は、グーグルマップによると約11mで、タンク直径の1/3であり、防油堤内に仕切り堤はない。

所 感(前回のブログ)
■ 今回のタンク火災の消火活動は、つぎのように極めて難しい条件にあった。
 ● タンク地区の同じ防油堤内に多く(15基)の貯蔵タンクがあった。
 ● 発災タンクが15基の真ん中であり、消火活動の最も困難な位置だった。
 ● 最初の発災がナフサの防油堤内火災だった。堤内には仕切り堤が無く、油が堤内に広がる恐れがあった。
 ● タンク型式が内部浮き屋根式タンクで、固定屋根が覆われたまま、火災になり、消火方法が難しかった。
 ● タンク油種がナフサのほか、ガソリンブレンド、キシレン、熱分解ガソリンと危険性の高いものが多かった。
 ● タンク間距離が直径の約1/3(11m)と狭く、延焼しやすかった。
 ● タンクに固定泡消火設備や散水配管は無かったものと思われ、移動式の泡消火設備や散水ノズルに頼らざるを得なかった。

■ さらに、緊急事態の対応組織に問題があったように思う。
 ● 発災日が日曜であり、発災事業所の緊急事態対応の体制が整っていなかったと思われる。
 ● 発災事業所の消防隊は、CIMAという消防協同組合組織であり、プラント内の設備や油種に熟知していなかったのではないか。
 ● 市の公設消防はボランティア型消防署であり、プラントの火災は発災事業所に頼らざるを得ないと思われる。このように主導する緊急事態対応の長が曖昧であったと思われる。
 ● 初期のタンク火災戦略ついて防御的戦略をとってしまった。
 ● 大容量の泡消火砲を保有していたものと思われるが、有効に活用できなかった。

■ このタンク火災の経緯や消火活動の詳細が明らかにされ、教訓として広く知らしめるべきだと思う。
 ここでは、現在の情報からとるべきだった初期の消火戦略・戦術を考えてみた。
 ● 発災が配管マニホールド漏れによる防油堤内火災であり、まず配管からの漏れを最小限に抑える。(関連配管のバルブを閉めるなど)
 ● 防油堤内に仕切り堤がないので、漏洩の油が止められない状態であれば、堤内に広がることを念頭に置いておく。(散水によって水が溜まれば、油は表面に浮き、堤内に広がる)
 ● 堤内火災に引き続き、タンク火災になれば、積極的消火戦略を指向し、大容量の泡放射砲と泡薬剤の確保(手配)を行う。必要な資機材が整うまで待つ。
 ● タンクへの延焼を防止しなければならないので、隣接タンクへの曝露対策(散水)を行う。曝露対策として冷却放水をしている場合、タンク側板部に水蒸気が出ている限り、冷却効果があると見て放水を継続する。散水量は、「タンク火災への備え」を参考にすれば、1基あたり3,780L/分である。今回の場合、内部浮き屋根式タンクであり、特に固定屋根の金属温度上昇に気を配る必要がある。(固定屋根の通気口付近で引火する恐れが高い)
 ● 隣接タンクへの散水によって配管から漏れた油が浮遊して遠い場所で引火する恐れがあるので、消火泡で覆う。高発泡の泡放射設備があれば、そちらを使用する。
 ● 大容量の泡放射砲と泡薬剤が揃った段階で、タンク上部に一斉に泡を放射する。通気口からの火炎の場合、一方向だけでは死角になる場所が出てくるので、2方向から放射する。

所 感(今回のブログ)
■ 今回CSB(米国化学物質安全性委員会)の報告の中で、設備や運転に関して新たに分かった問題点は、つぎのとおりである。
 ● Tank80-8(ナフサ)の配管マニホールドに緊急または遠隔の縁切りバルブが設置されていなかった。
 ● Tank80-8は別の会社にナフサ貯蔵のために賃貸され、ナフサ-ブタンのブレンド運転に供されていた。
 ● 配管マニホールドのブタン注入システムは2014年8月に設置された。
 ● 事故前日にブレンド用ブタン受入れを終わった後も、ポンプはそのまま運転され、ナフサを循環し続けた。 
 ● 監視しているポンプの運転圧力とタンク容量が変化したのも関わらず、 DCS(分散制御システム)に警報は設置されておらず、またオペレータも気がついていない。
 ● 当該タンク地区に常設のガス検知器は設置されていなかった。

 5年前の2014年8月に設置されたブタン注入システムに問題点が内在していたが、基本的に当該配管マニホールドでナフサ(C6~C10留分の液体)にブタン(C4留分の気体)を完全にブレンドできるか疑問がある。ブレンドが十分行われるように、ポンプを数時間運転するとしているが効果は疑問である。注入されたブタンはすぐにタンク内に入ってかなりの量がタンク内の気相として存在していたのではないだろうか。 Tank80-8と配管マニホールドは、インターコンチネンタル・ターミナル社と賃貸された会社の責任が曖昧で不明確な点も問題である。

■ 前回の所感で、緊急事態の対応組織の問題について「市の公設消防はボランティア型消防署であり、プラントの火災は発災事業所に頼らざるを得ないと思われる。このように主導する緊急事態対応の長が曖昧であったと思われる」と述べたが、「統一指揮所には、インターコンチネンタル・ターミナル社、米国環境保護庁、テキサス環境品質委員会、ハリス郡消防署が参画した」とあるので、市の公設消防でなく、ハリス郡消防署が指揮所長を務めたもものと思われる。しかし、初動対応が重要なタンク火災の統一指揮所としては心もとなかったと感じる。 


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
   ・Abrahamwatkins.com, Storage Tank Fire at Intercontinental Terminals Company, Factual Update,  October 30,  2019
     ・Khou.com, ITC chemical facility did not have gas alarms or shutoff valves when massive fire erupted,  October 30,  2019
     ・Reuters.com, Chemical leak set off fire at Mitsui's ITC Houston-area terminal: U.S.,  October 31,  2019
     ・Insurancemarinenews.com, Fuel leak set off March fire on Houston Ship Channel,  November 01,  2019
     ・Houstonchronicle.com, Report: ITC did not have emergency shutoff valve or alarm before massive blaze ,  October 30,  2019



後 記: 最近における最悪のタンク火災事故の調査報告書で期待したのですが、原因はなおも調査中とのことで、標題に「原因」の言葉を使えず「火災拡大の要因」としました。予備調査報告の内容を見ると、「ハインリッヒの法則」(1つの重大事故の背後には29の軽微な事故があり、その背景には300の異常が存在する)を地で行くようないろいろな異常(問題点)がどんどん出てくるという感じです。うがった見方をすれば、問題点が多すぎてまとめの収拾がつかないので、事故から半年を期に予備調査報告を出したのではないかと思ってしまいます。
 ブログをどのようにまとめようかと悩みました。事故時の事実や緊急事態対応の経緯事実は書かれていますが、前回のブログで記載した「事故の状況および影響」や「対応」に置き換えるには、簡単すぎるので、前回のブログの内容を残すこととしました。ところどころ予備調査報告の時間と異なる点などがありますが、新たな報告書が出た後に直すこととしました。ブログの「事故の原因」以降が新たに追加した内容です。「所感」についても記載した内容の疑問点を払拭できるものでないので、これも残して新たに「所感(今回のブログ)」として追記しました。世界の石油産業を牽引してきた米国(テキサス州)の実情がこの程度なのかと思うとともに、ロイター通信は「三井のITC」と伝えており、インターコンチネンタル・ターミナル社(ITC)を所有する日本の三井物産がどの程度関与していたのかも気になるところです。

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