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2023年4月6日木曜日

英国の陸上油田のパイプラインから漏洩、海へ流出して環境汚染

 今回は、2023326日(日)、英国でエネルギー会社ペレンコ社のウィッチ・ファーム油井施設の原油パイプラインから漏洩し、水路を通って海へ流出して環境汚染を起こした事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、英国(England)ドーセット州(Dorset)にある英仏のエネルギー会社ペレンコ社(Perenco)のウィッチ・ファーム(Wytch Farm)と呼ばれる油井施設である。ペレンコ社は1日あたり約40,000バレル(6,360KL)の石油を生産しており、そのうち約14,000バレル(2,226KL)がウィッチ・ファームから生産されている。

■ 事故があったのは、ウィッチ・ファームの原油パイプラインである。油井施設は陸上油田と呼ばれているが、実際には、油田は陸上部のウィッチ・ファームから海側のプール・ハーバーに広がっている。パイプラインは各油井からの集積用で、ファーゼイ島の油井などからウィッチ・ファームまで通っている。



<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 2023326日(日)午後130分頃、ペレンコ社の油井施設の原油パイプラインから漏洩する事故が起こった。漏れはオワー・ベイ付近の陸上部を通る原油パイプラインから発生したとみられる。  

■ 約200バレル(32KL)の塩水混じりの油がプール・ハーバーに至る川に漏れた。漏れた液体は、80%が塩水で残りの20%が原油だという。

■ 港の活動を規制する独立機関であるプール・ハーバー港湾委員会 (PHC) は緊急油流出対応計画を発動し、パイプラインを停止させ、オイルフェンスを展張した。

■ プール・ハーバー港湾委員会は、詳細が判明するまでプール・ハーバー内のビーチの利用を控えるよう警告した。

■ 英国保健安全保障局も、市民はプール・ハーバーの海で泳ぐべきではないとし、「流出した油に触った人はすぐに石鹸と水で洗う必要があります。もし、眼に入った場合、水で洗い流してください」と注意喚起した。

■ ドーセット警察は、今回の事故については多くの地元の機関が注目し、監視していると語っている。

■ 近くの住民のひとりは、「毎日のように犬を公園に連れて行ったのですが、油の臭いがしました。とてもショックでした。車庫の前庭で軽油をこぼしたときのような臭いがしました」と語っている。

■ 別な住民は、日曜の朝(326日)に歩いていて海で臭いがし、薄い油の層が流れているのを見たといい、流出がすでに325日(土)に起こったに違いないとみている。

■ 環境保護の専門家は、プール・ハーバーでの油流出が、この地域の繊細な自然保護区に壊滅的な影響を与える可能性があると述べている。プール・ハーバーの湾内にあるブラウンシー島は、国際的に重要な湿地帯で海洋保護区域の一部である。サウサンプトン大学環境科学のハドソン博士は、 「流出の全容はまだ分かっていませんが、プール・ハーバーにおける油流出は特に憂慮されます。プール・ハーバーは閉鎖されたような大きな湾であるため、汚染物質が潮の流れによってすぐに洗い流されない可能性があります。また、非常にエネルギーの低い環境であるため、開けた海岸で流出した場合とは異なり、油の分解や拡散に役立つ波の作用が余りありません」と語っている。

■ 環境保護団体は、「海鳥の繁殖期が始まろうとしており、プール・ハーバーの海岸線で繁殖するユリカモメ、地中海カモメ、レッドシャンク、ミヤコドリなどの多くの鳥類が生息し、港の干潟でエサ求めており、環境が悪くなる可能性があります」と憂慮している。

■ 事故後、プール・ハーバーの周辺で油だらけになった鳥が目撃された。その後331日(金)には、その数は15羽以上に増えた。油に接触した鳥は羽が傷つき、耐水性が低下する。また、油に影響を受けた鳥は絶え間なく毛づくろいし、有害な油を摂取してしまう可能性がある。

■ 329日(水)、当局は、プール・ハーバーの周辺の貝類生産者に油による汚染の可能性があるため、事故後に採った貝類の販売を停止するよう勧告した。

■ 329日(水)、英国政府は調査を開始する意向を示した。

被 害

■ 原油パイプラインに油漏洩に至る損傷が発生した。

■ 原油が漏洩し、水路を経て海に流出した。流出量は約200バレル(32KL)の塩水混じりの油である。液体は80%が塩水で残りの20%が原油だという。

■ 生態系に影響を及ぼす環境汚染が発生した。貝類生産者に販売停止するよう勧告が出された。油だらけになった鳥が少なくとも15羽以上目撃された。

< 事故の原因 >

■ 原油パイプラインの漏洩による。漏洩原因は分かっていない。




 

< 対 応 >

■ ペレンコ社は事故管理チームを立ち上げて活動をしはじめ、漏洩は止まったと発表した。また、ペレンコ社は、当局と緊密に協力し、クリーンアップ作業が進行中であると述べた。

■ 328日(火)、プール・ハーバー港湾委員会(PHC) は、クリーンアップ作業には100人以上が従事しており、このほかヘリコプターやドローンが支援していると語った。

■ 328日(火)、プール・ハーバー港湾委員会は、油の漏洩源に近いプール・マリーナとオワー・ベイに2つの油の塊が残っていると発表した。 また、プール・ハーバー港湾委員会によると、漏れた原油量は最大で6トン(6,000リットル)の可能性があると語っている。

■ 329日(水)、プール・ハーバー港湾委員会は、これまでのクリーンアップ作業によって1.5トンの堆積物を回収したと発表した。これは油水混合物として14,000リットルとなる。一方、ペレンコ社は、推定排出油量の約60%が回収されたと語っている。

329日(水)、油が漏れた場所は特定されたが、原因はまだ調査中だという。ペレンコ社は、パイプラインについて10か月前に徹底的に検査したと語っている。

■ 329日(水)、クリーンアップ作業を行っている対応者によると、破損した石油パイプラインから依然として原油の混合物が水路に漏れているという。

■ 331日(金)、プール・ハーバー内のブラウンシー島の西側と北側の海岸線に油が漂着したという報告があった。

■ 2022年、ペレンコ社は、ガボンのキャップ・ロペス石油ターミナルで漏洩を起こしている。



補 足

■「英国」(England)は、グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国(イギリス)を構成する4つの国(カントリ)の一つである。人口は約5,300万人で、面積はグレートブリテン島の南部の約三分の二を占める。北はスコットランド、西はウェールズと接し、北海、アイリッシュ海、大西洋、イギリス海峡に面している。

「ドーセット州」(Dorset)は、イングランドの南西部に位置し、人口約77万人の州である。

■「ペレンコ社(Perenco)は、1975年にシンガポールを拠点とするマリンサービス会社として設立された後、1980年に掘削会社を立ち上げ、ロンドンとパリに本社を置く独立した英仏エネルギー会社である。世界16か国(北海、カメルーン、ガボン、コンゴ共和国、グアテマラ、エクアドル、コロンビア、ペルー、ベネズエラ、ブラジル、ベリーズ、チュニジア、エジプト)で探鉱・生産活動を行っている。


■「ウィッチ・ファーム」(Wytch Farm)は、欧州最大の陸上油田のひとつで、英国ドーセット州のプールから27km、ウェアハムから10kmに位置し、1979 年以来、石油貯留層から原油と随伴ガスを抽出してきた油田である。運用寿命を21年延長して 2037年まで延ばすための開発が行われた。ウィッチ・ファームは、ペレンコ社が95%のシェアを持っている。2011年にペレンコ社が買収したが、それまではBP社によって運営されていた。

 ウィッチ・ファームでは、長年にわたって200を超える生産井が掘削されてきたが、現在は拡張リーチ掘削(水平掘削)として知られる技術を使用している。これにより一個所から複数の井戸を掘削でき、港と周辺の湿地の環境に敏感なプール・ハーバーの地下の原油を生産している。しかし、1999 年のピーク時には、1日あたり約100,000バレル(15,900KL)の原油を生産していたが、現在は、1日あたり約14,000バレル(2,226KL)に落ちている。原油は大量の水とともに抽出され、通常、油と水の比率は油田の寿命とともに減少するが、今回の漏洩事故で20%の油と80%の水であると報じられた。メディアによって油15×85%と報じているところもある。


所 感

■ 事故の要因は原油パイプラインの漏洩である。はっきりしていないが、漏洩場所は、おそらく、油井からの地下埋設パイプラインであろう。湿地帯であるようなので、配管の腐食開口ではないかと思う。

■ 漏洩場所や漏洩要因のほか、油の漏洩量もはっきりしない。漏洩量は約200バレル(32KL)の塩水混じりの油で、80%が塩水で残りの20%が原油だといい、このデータからは油量は6.4KLとなる。一般に発災事業所は漏洩量を少なく見積もる傾向にあるが、クリーンアップ作業の動員や資機材の手配上、漏洩の推測量は重要な因子である。実際、クリーンアップ作業による回収作業がどのくらい進んでいるのかはっきりしない。

 破損した石油パイプラインから依然として原油の混合物が水路に漏れているという情報やプール・ハーバー内のブラウンシー島の西側と北側の海岸線に油が漂着したという報告があることから、漏洩量はもっと多いのではないか。

■ 英国の主要なメディアが報じているが、プール・ハーバーの湾内にあるブラウンシー島が国際的に重要な湿地帯で海洋保護区域の一部であることから生態系への環境汚染問題の話題が主となり、漏洩部の配管径や漏洩要因などの事故の再発防止への関心が薄いのが気になる。  


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Theguardian.com, Poole harbour: major incident declared over leak from oilfield,  March  27,  2023

      Rueters.com, Perenco UK says oil leak occurred at well site in Southern England,  March  27,  2023

      News.sky.com, Major incident declared after oil leak from large onshore field in Dorset,  March  27,  2023

      News.sky.com, Dorset oil spill: Everything you need to know including unrevealed location,  March  29,  2023

      Independent.co.uk, Major incident declared after oil leak at Poole Harbour,  March  27,  2023

      Bbc.com,  Poole Harbour oil spill: Shellfish sales warning issued,  March  29,  2023

      Theconversation.com, Poole oil spill expert Q&A: why is there an oil field in Dorset anyway? ,  March  29,  2023

      Dorset.live, Pipe ‘still leaking’ into Poole Harbour following oil spill, Dorset Wildlife Trust boss says,  March  29,  2023

      Thesun.co.uk, LEAK ALERT Dorset oil leak: Major incident declared as 200 barrels of ‘fluid’ spills into Poole Harbour from onshore oil field,  March  26,  2023

      Dournemouthecho.co.uk, Concerns raised that Poole Harbour oil leak still poses ‘significant threat’,  March  31,  2023

      Tankstoragemag.com, Oil spill at Pernaco in Dorset,  March  29,  2023

      Energyvoice.com, Perenco oil spill ‘potentially catastrophic’ says Dorset MP,  March  28,  2023

      Hansard.parliament.uk, Oil Spill: Poole Harbour,  March  29,  2023


後 記: 英国の北海油田は有名ですが、ウィッチ・ファームの陸上油田のことは初めて知りました。環境のよい地域ではありますが、油田のある所としては最悪の場所ですね。油流出があれば、プール・ハーバーという湾内の環境汚染が大きくなるような所です。英国のメディアも最初は油漏洩の事故を伝えていましたが、続報は自然環境の生態系に影響を及ぼす懸念の方を報じています。英国らしいといえばそうなんですが、今後の憂慮事項に記事の焦点が移っています。それにしても、ペレンコ社があまり事故情報を語っていません。実際に事故の状況を把握していない可能性がありますが、鋭い英国のメディアの質問を避けているのではないかと疑ってしまいますね。

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