今回は、2021年8月10日(火)、イランのハールク島にあるハールク石油化学においてガソリンタンクが火災を起こした事例を紹介します。
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、イラン(Iran)のハールク島(Kharg island)にあるハールク石油化学(Kharg Petrochemical
Company)である。
■ 発災があったのは、本土から約25km離れたハールク島のハールク石油化学のタンク地区にある貯蔵タンクである。
< 事故の状況および影響
>
事故の発生
■ 2021年8月10日(火)朝(午前2時頃という情報もある)、ハールク石油化学で大規模の火災が発生した。公開された写真では、2基のタンクから黒煙が上がっているように見える。
■ 事故に伴い、ハールク石油化学の消防隊が出動した。
■ 発災から1時間ほどでタンク火災を制御でき、完全に消火するのに、4時間ほどかかったと報じられている。一方、午前10時時点で火災は消火できていないとも報じられている。
■ ハールク石油化学の広報担当は、タンクにガソリンが入っており、何らかの引火源の火花によって炎上したものとみられると発表した。
■ 事故に伴う死傷者は無かった。
被 害
■ ガソリンタンクが火災で損傷した。詳細な被害は不詳である。
■ 事故に伴う負傷者の発生はない。
< 事故の原因 >
■ 事故の原因は分からない。
< 対 応 >
■ 消火後、消防隊は影響を受けたタンクの冷却作業を継続した。
補 足
■「イラン」(Iran)は、正式にはイラン・イスラム共和国といい、西アジア・中東に位置し、人口約8,000万人のイスラム共和制国家である。
「ハールク島」(Kharg Island)はブーシェフル州に属し、イラン本土から約25km離れた位置にあり、日本では英語のつづりからカーグ島とも呼ばれる長さ8 km×幅4 kmの小島である。イラン石油の主要な輸出基地で、かつては世界最大のオフショア原油ターミナルであった。しかし、1980年代のイラン-イラク戦争でイラク空軍によるハールク島の施設への激しい爆撃が行われ、ほとんどのターミナル施設が破壊された。1988年に戦争が終結した後も、施設の復興は遅く、 2009年に原油の輸出が再開された。
イランで起こった事故でブログに紹介した事例は、つぎのとおりである。
● 2016年7月、「イランの石油化学工場でナフサ貯蔵タンク火災」
● 2016年7月、「イランの石油化学工場でまた貯蔵タンク火災」
● 2016年10月、「イランでサイバー攻撃が疑われる中、精油所でタンク火災」
● 2017年2月、「イランのテヘランで石油施設に落雷後、タンク火災」
■「ハールク石油化学」(Kharg Petrochemical Company)は国有のイラン石油会社系列で、1967年に設立され、ハールク島で原油からプロパン、ブタン、ペンタン、硫黄などを製造する石油化学であるとともに、原油輸出の石油ターミナルがある。
■「発災タンク」は内液がガソリンと報じられているだけで、大きさ(容量、直径×高さ)は分からない。発災写真を見ると、タンク型式はアルミニウム製ドーム型内部浮き屋根式タンクと思われる。グーグルマップで調べると、島の南側にドーム型タンクがある。この付近のタンク群の配置が発災写真のタンク群に似ている。このドーム型タンクが発災タンクならば、直径は約51mであり、高さを18mと仮定すれば、容量は36,000KL級とみられる。
一方、このタンクの後ろ側には、直径約35mのドーム型タンクがあり、高さを15mと仮定すれば、容量は14,000KL級とみられる。さらに、これらのタンクの間には、直径約10mの小型タンク(300KL級)が4基ある。黒煙が出ている高さから直径約10mの小型タンク群が火災の起点ではないかと思われる。なお、発災写真の左側タンク付近からも黒煙が上がっているが、これもタンク本体でなく、後ろ側にある配管やプラントの一部から出ているのではないかと思う。
所 感
■ 今回の事故は、発災写真で見られる容量36,000KL級(直径約51m)のドーム型タンクではなく、このタンクの後ろ側にある容量14,000KL級(直径約35m)のドーム型タンク、またはこれらのタンクの間にある小型タンク(300KL級、直径約10m)が起点の火災ではないかと思う。黒煙が出ている高さから直径約10mの小型タンク群の可能性の方が高いと思われる。なお、発災写真の左側タンク付近からも黒煙が上がっているが、これもタンク本体でなく、後ろ側にある配管やプラントの一部から出ているのではないかと思う。
■ 事故は石油ターミナルのタンクではなく、原油からプロパン、ブタン、ペンタンなどを製造するハールク石油化学のプラントにおける貯蔵タンク関連設備であろう。運転中だったと思われるプラント関連であり、原因は設備不具合または運転ミスにかかわる事項ではないかと思う。
■ 発災写真が何時頃(発災後の経過時間)撮影されたものか分からないが、印象としては発災後、比較的早い時間帯ではないかと思う。「大規模の火災が発生した」と報じられており、発災写真が撮影された後、さらに火災の規模が大きくなっているのではないだろうか。消防隊による活動で1時間後には火災は制御されたという報道もあるが、どのような状態を“制御” と言っているか分からないし、疑問が残る。ガソリンを主とした軽質分の火災であり、消防活動は難航しただろう。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Tankstoragemag.com, Fire at Kharg petrochemical terminal put
out, August 11, 2021
・Iranintl.com, Blaze Breaks Out In Iran's Kharg Oil and Petrochemical
Terminal, August 10, 2021
・Reuters.com, Fire put out at Iranian petrochemicals plant - state
media, August 10, 2021
・Jpost.com, Fire breaks out in Iranian petrochemical factory –
report, August 10, 2021
・Iranpress.com, Gasoline reservoir of Iran's Kharg Petrochemical
Company catches fire, August 10, 2021
・Theiranproject.com, Production not affected after fire at Iranian petrochemical
plant, August 10, 2021
後 記: 今回の事故情報も内容の乏しいものでした。ハールク島という離れ小島で起こっていますし、新型コロナウイルスによるメディア活動制限で仕方ないのかも知れませんが、もう少し何とかならないものかと思ってしまいます。実際、多くのメディアは写真すら無い状態で、どのような経緯で得たのか分かりませんが、公開されたのも被災写真は1枚だけです。唯一の被災写真に文句を言ってはなんですが、どのように解釈すればよいか分かりづらい状況の写真です。しかし、この写真をもとにグーグルマップで根気よく調べていったら、どうやらタンクの後ろ側に本当の被災部がありそうなことが分かりました。
ところで、イランでは新型コロナウイルスの感染者と死者数が急増し、過去最悪の水準に達しているそうです。コロナ対策の規制が緩く、ワクチン接種も進んでおらず、封じ込めに苦戦(失敗?)しています。米国の制裁による影響が新型コロナウイルスの感染にも出ているようです。
イランといえば、隣国アフガニスタンの政局変化は速かったですね。この春頃、イランとパキスタンからアフガニスタンへの帰還が続いているといわれていました。イランからの帰還者が今年3月には約6万人のピークがあったようで、今も多くのアフガン難民が帰還しているそうです。アフガニスタンにおける新型コロナウイルスの感染者データは図のように減少傾向のように見えますが、国の混乱で実態を表していないでしょう。政局の安定化の課題のほか、新型コロナウイルス感染対策も大変でしょう。(日本ものんびり構えている状況ではありませんが)
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