今回は、 2020年5月11日(月)
、インドネシア北スマトラ州メダンのベラワン港にあるワルナ造船所で、ドック入りして修理中の石油タンカーが爆発して火災が起こり、作業員29名が死傷する事故を紹介します。
(写真はThejakartapost.comから引用)
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< 発災施設の概要 >
■ 発災があったのは、インドネシア(Indonesia)北スマトラ州(North
Sumatra)メダン(Medan)のベラワン港(Belawan
Port)にあるワルナ造船所(Waruna Shipyard)である。
■ 事故があったのは、修理のために4月11日(土)にドック入りしていた石油タンカーのジャグ・リーラ号(Jag
Leela)である。ジャグ・リーラ号は1999年に建造された原油タンカーで、全長243m×幅42m、積貨重量トン105,148DWTのインドネシア籍で、所有者はインドネシアのワルナ・ヌサ・センターナ社(Waruna
Nusa Sentana)である。
北スマトラ州メダンのベラワン港付近(矢印が発災場所) (写真はGoogleMapから引用)
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<事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2020年5月11日(月)午前8時30分頃、ドック入りしていた石油タンカーで爆発があった。事故は船尾の方で2回の爆発音があったあと、炎とともに真っ黒な煙が噴き上がった。
■ 爆発によって近くの家が軽微な損傷を受けた。地元住民のひとりは、「爆発音を聞いて家を出たところ、ワルナ造船所から煙が上がっているのが見えた」と語った。
■ 発災に伴い、救助隊員と消防隊が出動した。発災当時、タンカーには60名の作業員がおり、救助隊員は、船上に取り残された作業員を助けるために活動した。作業員は少なくとも22名が負傷し、病院へ搬送された。
■ 消防隊は、陸上から消防車6台を使って活動を行うとともに、タグボート3隻に消火銃を配置して消火活動を行った。石油タンカーのオイルタンクに保管されていた残油に火がつき、消火活動をさまたげた。火の勢いは激しく、発災した石油タンカーの隣にドック入りしていた船舶に広がった。
■ 救助隊は、現場から7人の焼死体を発見した。亡くなった人は、炎に囲まれて逃げ道を見つけることができなかったとみられる。
■ 事故の状況は動画でインターネットに流れており、難を逃れてきた人たちが船首に集まっているのがわかる。 (YouTube「Kapal Tangker MT Jag Leela Terbakar」を参照)
(写真はinterestingengineering.comから引用)
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(写真はMaritime-executive.com
から引用)
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(写真はWaspada.co.idから引用)
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被 害
■ 人的被害は死傷者29名で、内訳は死亡者7名、負傷者22名である。
■ 石油タンカーが船尾を中心に火災による焼損を受けた。 発災した石油タンカーの隣にドック入りしていた船舶にも被害が出た。両船の被害の範囲や程度は不詳である。
< 事故の原因 >
■ 事故原因は調査中である。
■ 火災の着火要因は、タンカーのオイルタンクにおいて短絡によって発生した火花と報じられている。
< 対 応 >
■ 消火活動は7時間に及び、午後3時頃に火災は鎮圧された。
(写真はWaspada.co.idから引用)
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(写真はSumatra.bisnis.comから引用)
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■「インドネシア」(Indonesia)は、正式にはインドネシア共和国といい、インド洋と太平洋の間にある東南アジアとオセアニアに属し、スマトラ島、ジャワ島、ボルネオ島(カリマンタン)など17,000以上の島々で構成される人口約2億6,700万人の国である。
「北スマトラ州」(North Smatra)は、スマトラ島の北西部にあり、1,400万人の州である。
「メダン」(Medan)は、スマトラ島東北部に位置し、人口約210万人の北スマトラ州の州都である。
インドネシアと周辺国 (写真はGoogleMapから引用)
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■「ワルナ造船所」(Waruna
Shipyard)は、1990年に設立され、現在、7基のドックを有している。最大100,000DWTのドックを保有する造船所である。
発災のあったドックはもっとも大きい第7ドックだとみられる。ワルナ造船所のウェブサイトでは、建設中となっているが、石油タンカーのジャグ・リーラ号(全長243m×幅42m、積貨重量トン105,148DWT)が入る大きさは第7ドックしかない。
ワルナ造船所 (写真はWarunashipyard.co.idから引用)
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(1) 消防活動の原則
● 消防活動は人の救助を最優先とする。消火活動の実施は、消火水による損害や積載物の損傷の被害を最小限度にとどめるよう行う。
● 被災船の船長を確保して、船体構造、
船舶消防設備、積載物、乗員などの情報を早期に把握し、活動方針(消火戦略)を立てる。消防活動は、被災船の乗組員と連携して行う。
● 指揮本部長は、消防活動の開始前に船長に通知し、被災船の乗組員の協力を求める。
● 船舶火災は、鎮火の確認が容易でなく、再発火の防止に配意する。
(2) 消火活動
● 消火手段は、原則として、①被災船の固定消火設備、②ポンプ車・消防艇による放水、③積み荷の処分の順位で行い、本船乗組員の意見を考慮して決定する。
● 船舶は、構造上、熱伝導が速いため、まず船体外壁へ放水して冷却作業を行う。
● 注水による消火の場合、水損(水による被害)や船体バランスへの影響を考慮する。
● 延焼拡大防止のため、燃焼している積み荷を船外に搬出する場合、被災船の船長の要請または合意を必要とし、
搬出作業は船舶や埠頭のクレーンなどを活用する。
● 爆発などにより他船や陸上施設に重大な影響が予想される場合、被災船の移動を検討する。
(3) タンカー火災における留意事項
● 余裕をもった爆発危険区域を設定し、可燃性ガスによる二次災害(引火、誘爆)を防止する。可燃性ガスが周辺に滞留する恐れがあり、ガス検知器によりガス濃度を測定し、安全を確保する。
● 消防活動は、原則として、風上および爆発危険区域外か ら活動する。
● 人命危険がある場合、誘爆防止のため大量の放水による冷却を実施し、早期に人命救助を行う。
所 感
■ 火災の原因は調査中で分かっていない。
石油タンカーの構造例 (図はWikiwand.comから引用)
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火災の着火要因はタンカーのオイルタンクにおいて短絡によって発生した火花と報じられているが、この爆発・火災については、つぎのような疑問がある。
● オイルタンクとは、原油用のカーゴタンクなのか、タンカー燃料用の燃料油タンクなのか明確でない。
● カーゴタンクであれば、修理前に洗浄するのが基本であるが、なぜ洗浄しなかったか。あるいは、洗浄した場合、なぜ完全にやらずに油が残る程度に終わったのか。
● カーゴタンク内の原油は、引火源があれば、容易に可燃性ガスに着火する。しかし、燃料油タンクであれば、重油クラスであり、容易に引火はしない。燃料油タンクの場合、短絡による火花で引火するか疑問である。
● 石油タンカーの修理であれば、いろいろな火気を取り扱うと思われるが、短絡による火花に限定したのはなぜか。
いずれにしても、タンカーの洗浄の要否や工事中の安全管理など人為的な要因が潜んでいる事例である。
■ 船舶の消防活動は、陸上の設備とは違って、船長や船主の意見を聞いて消防戦略を立てる必要がある。今回のように修理のためにドック入りし、船長や乗組員が不在の石油タンカーの場合はより複雑であろう。詳細な消防活動は分からないが、船舶の消防活動の基本である人命救助が最優先にとられていると感じる。修理に携わっている作業員の生命が脅かされており、救助隊と消防隊に分け、連携をとりながら救助活動を行ったと思われる。それでも火の回りが早かったためか、7名が亡くなってしまった。
■ 本ブログで紹介した船舶事故には、つぎのような事例がある。
● 2018年1月、「イランの石油タンカーが中国沖で衝突・炎上して漂流後沈没、死者32名」
● 2019年2月、「ソロモン諸島の世界遺産海域近くで貨物船が座礁、油流出」
今回の事故も石油タンカーにおける火災事故の対応の厳しさを示す事例である。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Afpbb.com,
インドネシアの港で石油タンカー火災、22人負傷,
May 11, 2020
・Cannelnewsasia.com, At
least 7 dead from Indonesia oil tanker fire, May 12,
2020
・Firedirect.net, Indonesia
– 7 Killed, At least 22 Injured In Oil Tanker Fire,
May 13, 2020
・Thejakartapost.com, Seven victims of oil tanker fire in
North Sumatra identified, May 13, 2020
・Maritime-executive.com,
VIDEO: Explosion Causes Injuries Aboard Tanker in Indonesian Shipyard,
May 13, 2020
・Offshore-energy.biz,
Tanker fire kills seven at shipyard in Indonesia, May 14,
2020
・Xinhuanet.com, Fire breaks out on oil tanker at
Indonesian port, several missing, May 11,
2020
・Industrialfireworld.com,
Indonesian Tanker Burns While Under Repairs at Home,
May 13, 2020
・Job.or.id, Heboh..Kapal
Tanker Jag Leela Terbakar
di Belawan, Belasan
Pekerja Dilarikan
ke Rumah Sakit,
May 11, 2020
・Insurancemarinenews.com, Seven dead from Jag Leela
fire, May 18, 2020
・Bairdmaritime.com, FIRE KILLS SEVEN ON DRYDOCKED TANKER IN SUMATRA, INDONESIA,
May 14, 2020
後 記: 今回の事故情報は連絡を受けて知った事例で、早速調べ始めました。そうすると、3月以降に事例掲載をやめていた“FireDirect”
というインターネット情報誌が再開しており、その最初の事例投稿が本事故情報でした。新型コロナウイリスの影響で事故情報を伝えるメディアが少なくなっていましたが、取材を再開し始めたのかもしれません。マスクと同じですね。新型コロナウイリスでまったくマスクが手に入らなくなっていましたが、1週間ほど前から薬局の店頭に出始め、売り切れることなく棚に積まれています。政府から支給される予定のマスクについて山口県はまだ配布されていません。実際、マスクより取材制限の無い状況を望みますね。
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