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2018年7月14日土曜日

マレーシアの製油所で原油タンク火災、負傷者4名

  今回は、2018年7月5日(木)、マレーシアのトレンガヌ州にあるケママン・ビチューメン・カンパニーのケママン・ビチューメン製油所で起こった原油タンク火災の事故について紹介します。
 (写真はFiredirect.netから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、マレーシア(Malaysia)トレンガヌ州(Terengganu)ケママン(Kemaman)にあるケママン・ビチューメン・カンパニー(Kemaman Bitumen CompanyKBC)のケママン・ビチューメン製油所(Kemaman Bitumen Refinery)である
 ケママン・ビチューメン・カンパニー(KBC)は、タイにあるTipcoアスファルト社(Tipco Asphalt Public Company Limited)の完全子会社である。ケママン・ビチューメン製油所の精製能力は30,000バレル/日で、アスファルト精製の製油所である

■ 発災があったのは、テルーク・カロング工業地帯(Teluk Kalong Industrial Area)にある製油所の2つある原油タンク地区のうちのひとつである。発災のあった原油タンク地区には、6基の原油貯蔵タンクがあった。なお、精製設備は618日(月)から定期保全期間に入っていた。
      トレンガヌ州のケママン・ビチューメン製油所付近  写真はGoogleMapから引用)
      ケママン・ビチューメン製油所の貯蔵タンク地区 (発災前、矢印が発災タンク)
(写真はKbc.com.myから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 201875日(木)午後605分頃、4,800KLの原油の入ったタンクの1基から火災が発生した。タンクは炎が高さ30m以上噴き出し、厚い真っ黒い煙がこの地区の大気を覆うように立ち昇り、数km先からも確認できた。

■ その後、タンク火災は隣接のタンクへ延焼した。さらに、午後930分まで3基目のタンクへと広がった。

■ 火災発生に伴い、ケママン・ビチューメン製油所の自衛消防隊が出動し、公設消防署には午後626分に通報が寄せられ、消防隊が出動した。ケママン消防署などの消防車両十数台と消防士100名が現場に急行した。

■ 消防隊は、テレンガヌ州で起こった最大の火災に立ち向かっていた。消防隊は、最初の2基のタンク火災を80%まで制圧することができたといい、さらに3基目のタンク火災の制圧に苦労していた
 76日(金)の午前中、火災は2基の原油タンクを損壊させ、3基目へと広がり、事故発生から16時間が経過していた。 3基目のタンク火災は比較的小さかった。

■ 事故発生に伴い、4名の負傷者が出た。4名の負傷者が出たが、ひとりは43歳の請負会社の人であり、顔と右手に火傷を負い、病院へ搬送されて治療を受けている。ほかの3名の被災者は病院で外来治療を受けた。 当時、被災者は事故のあった現場でメンテナンス作業をやっていたとみられる。

 火災のあった1基目のタンクには4,800KL2基目は1,580KL3基目のタンクには13,679KLの油が入っていたという。3基の合計で20,059KLである。この貯蔵タンク地区には6基のタンクがあった。

■ 消防隊は、タンクへ泡を使った消火試みた。消防隊は、消防署管内の泡薬剤とともに、数社の会社から泡の供給を受け、14,000リットルの泡薬剤を準備していた。さらに本部から泡薬剤の供給を受ける予定であるという。消火用水の供給には問題なかった。

■ 76日(金)午前9Tipco社から消防隊には、重質原油の入った火災タンクは制御できるならば、これらのタンクに限定して燃え尽きさせてもよいという指示が出された。

■ 火災は、3日目の77日(土)午前7時になって消された

被 害
■ 原油タンク2基が火災で損壊し、1基が損傷した。内部の原油が焼失した。発災当時、3基の原油タンクの総容量は101,000KL、入っていた容量の五分の一だったというが、焼失量は分かっていない。

■ 事故に伴い、負傷者4名が発生した。

< 事故の原因 >
■ 事故原因は分かっていない。調査中である。(3週間で報告書が出される予定)
(写真はYoutubeから引用)
(写真はLimaumanis.comから引用)
 (写真はBernama.comから引用)
(写真はFreemalasiatoday.comから引用)
(写真はHydrocarbonprocessing.comから引用)
< 対 応 >
■ 出動したのは、トレンガヌ州の消防隊員78人とパハン州の消防隊員33人が火災に対応した。このほか、
また、警察や民間防衛部隊を含む関係機関とともに、ケママン・ビチューメン・カンパニーとケママン・サプライ・ベース社の緊急対応チーム41名が支援した。

■ マレーシア国家消防救助局(State Fire and Rescue Department)によれば、火災の調査をするため特別なチームが編成され、原因調査は3週間かけて行われ、報告書が出される予定だという。現地には、石油精製タンクの設計者やコンサルタントが調査を支援するため呼ばれた。火災が消され次第、調査が開始される。

■ 発災から3日、火災対応に従事した消防士は200名を超えた。自らの命の危険をかえりみず、巨大な炎を消すために戦った。実際、このような状況に対応するのが初めての隊員もいた。

■ 2基目と3基目のタンク火災は48時間以内で終わると予想されていた。最初のタンク火災は完全に消火されていた。2基目のタンク火災は数%を残すだけになっていた。3基目のタンク火災はなおも燃えていた。現場で見積もられている油の減少によって、消防士は直接攻撃のテクニックが適用できるようになった。

■ Tipcoアスファルト社は、3基のタンク火災に対して製油所の生産能力は影響しないと語った。残ったタンクの運用についてよく管理しなければならないと付け加えた。マレーシアのタンク設備は8基の原油タンクがあり、総貯蔵能力は350,000KLである。火災に巻き込まれたタンクの総容量は101,000KLで、発災当時は、五分の一だったという。
(写真はNst.com.myから引用)
(写真はNst.com.myから引用)
(写真はNst.com.myから引用)
(写真はYoutube.comから引用)
(写真はYoutube.comから引用)
補 足
■ 「マレーシア」(Malaysia)は、東南アジアのマレー半島南部とボルネオ島北部を領域とする連邦立憲君主制国家で、人口約2,900万人である。イギリス連邦加盟国で、タイ、インドネシア、ブルネイと陸上の国境線で接し、シンガポール、フィリピンと海を隔てて近接する。通常、マレー半島部分が「マレーシア半島」、ボルネオ島部分が「東マレーシア」 と呼ばれる。一方、マレー半島とボルネオ島間の往来は、マレーシア国民であってもパスポートを必要とする。
 「トレンガヌ州」(Terengganu)は、マレーシア半島の東部に位置し、人口約630万人の州である。
 「ケママン」(Kemaman)は、トレンガヌ州の南部に位置し、人口約20万人の工業都市である。
 
 なお、マレーシアの事故としては、つぎのような事例がある。
              マレーシア周辺   (写真はGoogleMapから引用)
■ 「ケママン・ビチューメン・カンパニー」(Kemaman Bitumen CompanyKBC)は、2003年に設立され、精製能力30,000バレル/日のアスファルト精製に特化した石油会社である。トレンガヌ州ケママンに26ヘクタールの土地のケママン・ビチューメン製油所を有しており、2016年には、原油970万バレルを処理し、アスファルトおよび非アスファルト製品150万トンを生産した。重質ナフテン系原油を処理し、アスファルトAGO(常圧軽油)、VGO(減圧軽油)、ナフサなどを生産している。マレーシア国内のアスファルト需要の四分の一を供給しているほか、アジア各国にも輸出しているなお、ケママン・ビチューメン・カンパニー(KBC)は、タイにあるTipcoアスファルト社(Tipco Asphalt Public Company Limited)の完全子会社である。
ケママン・ビチューメン製油所の精製プロセス
(写真はKbc.com.myから引用)
■ 「発災タンク」は図の①のタンクである。2基目が②、3基目が③と続いた。タンクに入っていた量は、報道によれば、それぞれ4,800リットル、1,580リットル、13,679リットルで、3基合計で20,059リットルと報じられているが、明らかに単位が間違っている。このブログ本文では、KLのミスとして、1基目が4,800KL2基目が1,580KL3基目が13,679KLし、3基の合計で20,059KLとした。一方、Tipco社によれば、被災原油タンクの総容量は101,000KLで、発災当時、容量の五分の一だったというので、総容量は概ね合っている。

 グーグルマップによれば、タンク①と③の直径が約50m、タンク②が約65mである。タンク高さを約15mと仮定すれば、容量はタンク①が28,000KL、タンク②が50,000KL、タンク③が28,000KLとなる。総容量は106,000KLとなり、大体合っている。

 このタンク寸法によれば、タンク①の4,800KLは液位約2.4m、タンク②の1,580KLは液位約0.5m、タンク③の13,679KLは液位約7.0mとなる。ここで、ひっかかるのがタンク②の液位約0.5mである。今回のタンク火災の燃焼時間は約36時間で、このうちタンク②が全面火災の様相を呈し、最もひどく燃えている。仮に燃焼時間を30時間とし、燃焼速度30cm/h仮定すれば、液位は約9.0mである。この容量は約30,000KLでタンク容量の60%である。おそらく、タンク②には、30,000KLほどの油が入っていたとみる方が妥当だと思う。
 
(写真はGoogleMapから引用)
■ 火災タンクと隣接タンクとのタンク間距離が短い。タンク間距離は約10mほどしかない。また、火災タンクは原油タンクではあるが、固定屋根式になっている。なぜ、このような仕様になっているか分からないが、複数タンク火災の要因のひとつになっていると思われる 

■ 火災の状況であるが、最初2基目のタンクは屋根が噴き飛ばされているので、爆発的な燃焼があったものと思われる。従って、火災は「障害物あり全面火災」になった可能性がある。また、この2基のタンクの外まわりには、足場が組んであり、何らかの工事が実施されていたとみられる。

 これらのタンクの全面火災を消火するために必要な大容量泡放射砲の能力は、日本の法令では、つぎのようになる。
 ● タンク①と③(直径約50m: 20,000L/min
 ● タンク②(直径約65m:     40,000L/min
 タンク②の全面火災を消火するために必要な泡薬剤量(混合比率1%とし、2時間分を確保と仮定48,000リットルとなる。今回の事故で確保できた泡薬剤量は14,000リットルと言われており、能力40,000L/min大容量泡放射砲の35分間分の量である過去の成功した消火事例では、ノックダウン時間(泡消火剤投入後、火勢が急激に衰えた時間)が1030分といわれている。極めて適切な泡放射を行えば、消える可能性もあるが、 「障害物あり全面火災」であり、消火後も一定時間、泡放射を継続する必要があることから、泡薬剤量14,000リットルは不十分だといえる。

■ 発災タンクは原油タンクであり、「ボイルオーバー」の発生する可能性がある。報道では、この爆発的事象について言及されていないが、YoutubeCrude oil tank explosion in kemamanでは、少なくとも爆発的な燃焼が見られ、慌てた様子の動画が紹介されている。タンク②の液位を約9.0mとして、ヒートウェーブの降下速度を一般的にいわれている12m/hとすれば、火災から約4時間30分~9.0時間でボイルオーバーは発生する可能性がある。動画は75日に公開されており、事故当日の夜の場面と思われ、時間的には合う。これらから考えると、タンク②では、ボイルオーバーが発生したのではないだろうか。

所 感
■ 今回のタンク事故原因は、何も言及されていない。しかし、
 ● 請負会社の人が負傷している
 ● 発災タンクのまわりに足場が組んである
 ことからすると、タンク工事に関係しているのではないだろうか。この点からいえば、「タンク内外の火気工事における人身事故を防ぐ7つの教訓」が活かされていない事故ではないかと思う。

■ 今回の事故は、3基の複数タンク火災になっている。
 ● 最初のタンク火災で爆発的な事象が起きたのではないだろうか。この燃焼炎が隣接する固定屋根式タンクのブリーザー弁などの息継ぎ設備に着火したと思われる。
 ● それに加えて、タンク間距離が約10mと短いことも複数タンク火災の要因になった。

■ 消火活動は報道をみる限り、順調に経過したように受け取れるが、実際はそうでもないと思われる。
 ● Tipco社の情報公開では、燃え尽きさせてもよいと意見を出している。実際の火災時間も約36時間かかっており、2基目のタンク火災では、ボイルオーバーと思われる爆発的燃焼が起きている。
 ● 最初の2基のタンク火災は、結局、防御的消火戦略をとらざるを得なかったものと思われる。
 ● 泡消火が試みられており、さらに大容量泡放射砲も使用されているが、効果はあがっていなかったと思われる。この要因には、確保した泡薬剤量が不十分な上に、タンク配置が大容量泡放射砲システムに適していなかったとみられる。


 考
  本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいてまとめたものである。
   Nst.com.my,  Fire at Kemaman Oil Storage Facility Spreads to Third Tank,  July  07,  2018
          Freemalaysiatoday.com, 100 Firemen Battle Raging Oil Tank Fire in Kemaman,  July  06,  2018
          Thestar.com.my,  Special Task Force to Investigate Raging Oil Tanker Fire in Terengganu,  July  06,  2018
          Malaymail.com ,  Kemaman Refinery Fire: Firefighters Soldier on Despite Life-Threatening Hazard,  July  07,  2018
          Tanknewsinternational.com , Fire Breaks Out at Kemaman Oil Storage Facility,  July  06,  2018
          Sg.news.yahoo.com, Cause of Kemaman Refinery Blaze to Be Known in Three Weeks,  July  07,  2018
          Theedgemarkets.com,  Tipco Says Malaysia Refinery Production Capacity Unaffected by Fire,  July  06,  2018
          Hydrocarbonprocessing.com, Over 100 Firefighters Battle Massive Kemaman Refinery Fire,  July  06,  2018
          Tipcoasphalt.com, Notification of Fire Broke out in Three Crude Oil Storage Tanks of Kemaman Bitumen Company Sdn. Bhd. (KBC) ,  July  06,  2018
          Tipcoasphalt.com,  Update of Fire Broke out in Three Crude Oil Storage Tanks of Kemaman Bitumen Company Sdn. Bhd. (KBC) ,  July  07,  2018
          Youtube.com, Crude Oil Tanker Catches Fire in Kemaman Industrial Area,  July  05,  2018
          Youtube.com, Crude Oil Tank Explosion in Kemaman,  July  05,  2018
          Youtube.com, Seorang cedera kebakaran tangki simpanan minyak,  July  05,  2018
          Youtube.com, Viral Tangki Minyak Meletup Di Kemaman,  July  06,  2018
          Youtube.com, KEBAKARAN TINGKI MINYAK KILANG KBC - KEBAKARAN BERJAYA DIPADAMKAN SEPENUHNYA [8 JULAI 2018],  July  07,  2018



後 記: 今回の事故は分からないことの多い事例です。報道で一番惑わされたのが、タンクに入っていた油量です。最初に見た記事でリットル単位で書かれおり、ミスと思いました。その後、他の記事でも同様にリットル単位で、タンクの規模から明らかに違うのですが、結局、正しいと思われる記事が出てきませんでした。マレーシアはイギリス連邦加盟国ですので、体積単位に混乱があるのかと思いましたが、ハイドロカーボン・プロセッシング(Hydrocarbon Processing)という米国の化学雑誌の報道でも、同じミスがありました。米国や英国では、国際単位(メートル系)を使っていませんので、このような間違いが起こるのだろうと感じます。

 では、発災現場では、どのような単位が使われていたかというと、現地のニュース番組で流されていた中に、発災タンクの情報をホワイトボードに記載されている箇所がありました。これによると、タンク①と②の内部容量が書かれています。タンク①は4,800㎥とメートル系で表示されていますが、タンク②はIn3単位です。表示は、13666.220となっており、はっきりしませんが、13,666,220In3 だとすれば、22,352KLです。補足では、30,000KLほどが入っていたのではないかと記載しましたが、オーダー的には合っているように思います
 一方、単位が混在しており、どのような管理をしているのかと思う反面、これで実態が把握できるのかという疑問もありますこの油量だと、消防活動の状況も見方が変わってきます。報道では、消防による消防活動が十分成果を上げていたようになっていますが、補足で記載したように実際はかなり違っていたように思います


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