このブログを検索

2017年6月10日土曜日

中国重慶市の石油化学工場で含油廃水タンク爆発

 今回は、2017年4月21日、中国重慶市涪陵区にある龍海石油化学の含油廃水タンクが爆発した事例を紹介します。
发生爆炸的储藏罐(爆発が発生した貯蔵タンク)
(写真はThechinesenews.netから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、中国重慶市(じゅうけい/チョンチン市)涪陵区(ふりょう/フーリン区)にある龍海石油化学(龙海石化有限公司: Longhai Petrochemical Co.)の工場である。

■ 発災があったのは、石油化学工場の廃水処理施設に設置された含油廃水を入れる地上式円筒型タンクである。タンクの容量は5,000KLで、事故当時、タンク内には、約2mの深さまで約500KLの含油廃水が入っていた。
重慶市涪陵区の龍海石油化学工場付近 (矢印が発災タンク)
  (写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2017年4月21日(金)午前10時頃、施設の含油廃水タンク1基で爆発事故が起った。
 
■ タンクからは火の手と黒煙が噴き出した。発災現場から100mほど離れたところにいた人によれば、大きな音が聞こえた後、黒煙が見えたという。

■ 発災に伴って地元の消防隊が出動し、午前11時頃には、火災は制圧下に入った。

■ 廃水処理施設はメンテナンス中であり、タンクの近くでは、工事請負会社の作業員3名が火気作業を行っていた。作業員はタンクまわりのバルブの切断工事を行っていた。

■ 幸いなことに、工事を行っていた作業員は現場から逃げ出すことができ、事故に伴う死傷者はいなかった。
(写真は、左:Thechinesenews.net、右:My.tv.sohu.comから引用)
被 害
■ 含油廃水タンク1基が爆発で損傷した。設備の被害額は180万元(2,880万円)と推定されている。

< 事故の原因 >
■ 爆発の原因は、火気作業にかかわらず、適切な防護策をとらずに実施したためとみられている。
 含油廃水タンクの液上層部には油分があり、この2・3日暑い日が続いたため、油分が蒸発して可燃性混合気が形成したとみられている。

< 対 応 >
■ 発災に伴い、地元消防と警察が出動した。現場に出動した人員や車両の詳細は分かっていない。
(写真はThechinesenews.netから引用)
補 足
■ 「重慶市」(じゅうけい/チョンチン市)は、中国(中華人民共和国)中央部の長江上流の四川盆地東部に位置する中華人民共和国の直轄市で、総人口約2,880万人(市区人口約670万人)である。重慶市は盆地のため、夏は暑く、7~8月の平均気温は28℃を超え、湿度も高く、蒸し暑い。一方、冬季は泰嶺山脈が寒気をさえぎり、1月の平均気温は8℃と内陸盆地にあるにも関わらずかなり温暖である。一年を通して曇りや雨の日が多く、中国で最も日照時間が少ない都市のひとつである。
  「涪陵区」(ふりょう/フーリン区)は、重慶市の中央部に位置する市轄区で、総人口約170万人(市区人口約55万人)の区である。
              中国各省と重慶市の位置 (図はCafefabulous2.blog.so-net.ne.jpから引用)
■ 「龍海石油化学」(龙海石化有限公司: Longhai Petrochemical Co.)は、重慶市に工場を持つ石油化学の会社であるが、会社や工場の詳細はわからない。

■ 「発災タンク」は容量5,000KLで、当時約2mの深さまで約500KLの含油廃水が入っていたという情報以外の仕様は分からない。グーグルマップによれば、タンク直径は約18mである。これからタンク高さは約20mとなる。タンク写真などから判断すると、これらは妥当な値と思われ、発災タンクは直径約18m×高さ約20mで、容量5,000KLの固定屋根(コーンルーフ)型の地上式円筒型タンクだったとみられる。
                  発災場所周辺 (矢印が発災タンク)  (写真はGoogleMapから引用)
所 感
■ この事故は、米国CSB(化学物質安全性委員会)がまとめた安全資料「タンク内外の火気工事における人身事故を防ぐ7つの教訓」( 2010年2月)に書かれている事例と同種の事故だと思われる。
 しかし、疑問も残る。ひとつは、タンクのまわりのバルブの場所である。この種のタンク爆発事例では、タンク屋根部で火気工事を行っていて、タンクベントから放出していた可燃性ガスに引火して爆発を起こし、作業していた人が死傷する例が多い。今回の事例では、作業していた人はケガをしていないので、タンク屋根部ではない。
 もうひとつは、タンク側板部に亀裂が入るような爆発である。通常は、爆発時、タンク屋根の意図的に弱くした溶接部が外れるようになっている。このような設計が行われていないか、あるいは工事施工ミスのあった可能性があるが、それにしても異常な破裂形態である。

■ 地上における火気工事で可燃性ガスに引火して爆発を起こしたとすれば、タンクベントから大量のガスが放出されたものとみられる。しかし、施設はメンテナンスのために運転を停止しているはずで、タンクの液深さは約2mとタンクの満杯高さ(20m)に比べて極めて低い。このような状況で、気温が上がったからといって、タンクベントから大量のガスが放出され得るだろうか。タンクの運転状況に疑問の残る事例である。 


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
   Tankstoragemag.com,  Oil Tank Explosion at Chongqing Petrochemical Company,  May  17,  2017 
  ・Thechinesenews.net,  Reporter Watch Chongqing Storage Tank Explosion Scene,  April  21,  2017
  ・Thechinesenews.net,  Chongqing Oil Tank Explosion Tragic Scene,  April  21,  2017
  ・Thechinesenews.net,  Chongqing, a Petrochemical Enterprise Storage Tank Explosion Billowing Smoke Billowing Sky ,  April  21,  2017
    ・Thechinesenews.net,  Sudden: Chongqing Petrochemical Enterprise Tank Explosion No Casualties ,  April  22,  2017
    ・Baike.baidu.com,  4·21重庆储油罐爆炸事故,  May  21,  2017
    News.xinhuanet.com突发:重庆一石化企业储油罐发生爆炸 暂无人员伤亡,  May  21,  2017
    Ehscity.com ,   重庆龙海石化储油罐发生爆炸大火已经扑灭,  May  22,  2017



後 記: 今回の事例では、情報公開がオープンなのかどうかよくわからないと感じました。厳しい報道管制が行われている風ではないのですが、事故の内容はほとんど同じで、いろいろな情報源を調べても内容が深まりません。一方で、標題に使ったように事故後の俯瞰した写真が公開されています。
 そのような中で、2つの情報は採用しませんでした。ひとつは、「作業員が規則違反の火気作業を行っているのを、工場のパトロール隊が見つけ、指導したが、その後も作業員は改善せずに続けていた」という話です。事実はわかりませんが、内容に保身的なところを感じる話であり、いわゆる「印象操作」的な情報だと思いました。
 もうひとつは発災写真です。鮮明さに欠ける写真の中で、火炎がはっきりと写ったタンク火災の写真(下記写真)です。しかし、よく見ると、タンク側板のらせん階段の向きが違います。メディアの中には「イメージ」とことわって別な発災写真を掲載することがありますが、そうではないようなので、明らかに「印象操作」の写真ですね。実際の火災写真は報道管制が働いているために、このようなイメージ写真が出たのではないかと思っています。
 

0 件のコメント:

コメントを投稿