フェルミ原子力発電所 (写真はNukeworker.com
から引用)
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< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国ミシガン州(Michigan)モンロー郡フレンチタウン郡区にあるDTEエナージー社(DTE
Energy Co.)のフェルミ2原子力発電所(Fermi 2 Nuclear Power Plant)の施設である。
■ フェルミ2原子力発電所は沸騰水型原子炉で、1,198MWの発電能力を有する。1972年に建設が始められ、1985年に最初の臨界運転、1988年に商業運転が開始された。それ以前に、高速増殖炉のフェルミ1原子力発電所が1956年に建設が始められ、1963年に最初の臨界運転、1966年に商業運転が開始されたが、メルトダウン事故を起こし、1972年に廃炉とされた。
■ 発災があったのは、発電所と送電線をつなぐ120kV開閉所の近くにあった燃料用地下貯蔵タンクで、容量は2,250ガロン(8,500リットル)である。
エリー湖とモンロー郡付近 (写真はGoogle
Mapから引用)
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DTEエナージー社フェルミ原子力発電所付近 (写真はGoogle
Mapから引用)
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< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2016年7月14日(木)午前9時15分頃、エリー湖岸沿いにあるフェルミ2原子力発電所の燃料用地下貯蔵タンクで油が漏洩していることが発見された。120kV開閉所の地中ケーブルを取替えるため、掘削工事を行っているときに漏洩が分かった。
■ 当該タンクは1950年代に燃料油用の地下貯蔵タンクとして作られたものであるが、現在は使用されていない。そして、いつ最後に使用されたのか分からないという。
■ 油の量は分からないが、地下タンクまわりに漏洩し、発見されたときにはタンク近傍の土壌に滲み出ていた。現時点では、施設構外や水系へ達するような流れた跡は認められなかった。
被 害
■ 燃料油用地下貯蔵タンクが損傷を受けた。(ただし、使用されていなかった)
■ 地下貯蔵タンク内に残っていた燃料油がタンク外に流出し、まわりの土壌を汚染した。
事故に伴う被災者はいなかった。
< 事故の原因 >
■ 使用しない燃料油用地下貯蔵タンクが油の入ったまま、放置されていた。
(当該タンクは1950年代に作られたものであるが、いつまで使用されたか分かっていない)
■ タンク漏洩は腐食によるものと思われる。
< 対 応 >
■ フェルミ2原子力発電所は、貯蔵タンクと汚染土壌をどのように対処するのが最も適切かを決めるため、調査・検討を実施することとした。
補 足
■ 「ミシガン州」(Michigan)は米国中西部に位置し、五大湖地域に含まれる人口約980万人の州である。
「モンロー郡」(Monroe)はミシガン州ロウアー半島の南東隅に位置し、人口約15万人の州である。郡庁所在地はモンロー市(人口約2万人)である。
■ 「フェルミ原子力発電所」(Fermi
Nuclear Power Plant)は、正式には、原子核物理学者の名をとったエンリコ・フェルミ(Enrico
Fermi)原子力発電所である。
■ 高速増殖炉の「フェルミ1原子力発電所」は、1956年に建設が開始され、発電まで至ったが、1966年10月5日にメルトダウン(炉心溶融)事故を起こした。原因は、炉内の流路に張り付けた耐熱板が剥がれて冷却材(ナトリウム)の流路を閉塞したため、冷却材の循環が止まり、炉心の温度が上昇し続け、メルトダウンに至った。これが原子炉のメルトダウン事故の最初の例とされている。事故に伴う放射性物質の大気放出は無かった。
漏洩のあった地下貯蔵タンクは1950年代に作られたものとみられており、これはフェルミ1原子力発電所の建設時期(またはそれ以前)である。
建設中のフェルミ1原発 (写真はMonroenews.smugmug.comから引用)
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■ 沸騰水型原子炉の「フェルミ2原子力発電所」は、1972年に建設が始められ、1988年に商業運転が開始された。
発電した電力は2つの345kV送電線と3つの120kV送電線で需要者へ供給されている。
なお、フェルミ2の原子炉の終了年は2025年である。
■ 「フェルミ3原子力発電所」の計画が2008年に原子力規制委員会に提出された。建設場所は同じ敷地内でフェルミ2の南西側で、原子炉のタイプはGE日立ニュークリア・エナジー社の革新型単純化沸騰水型原子炉である。2015年5月に原子力規制委員会はフェルミ3の建設と運転ライセンスを承認した。しかし、DTEエナージー社は、認可を受けて発電の選択肢が増え、喜ばしいが、現時点で建設の計画はないと述べている。
■ 一般的に原子力発電所の「開閉所」は写真や図に示す例のとおりである。漏洩のあった地下貯蔵タンクの場所は特定できないが、フェルミ2原子力発電所の開閉所が敷地写真に示す場所付近と思われるので、原子炉南西の空地のどこかであろう。この場所は、フェルミ1原子力発電所の位置からかなり離れている。なお、地下貯蔵タンクは容量が8,500リットルなので、直径1.5m×長さ5m程度の大きさである。
フェルミ原子力発電所の構内 (写真はGoogle
Mapから引用)
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開閉所の例 (左写真:Rbbtoday.com、右図:
Kepco.co.jp から引用)
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所 感
■ 事象的には、地下タンクが腐食によって開口し、内液が漏洩するという珍しくはない事例である。しかし、つぎのような疑問が浮かぶ。
● 場所に制約があるように思えない敷地で、なぜ地下貯蔵タンクにしなければならなかったのか。
(自重を利用して排出する受入れ貯槽の役割ではなかったのか)
● タンク付帯の配管はどのようになっていたのか。
● タンク製作時期からフェルミ2原子力発電所と関係ないような印象であるが、管理機器として認識されていたのではないか。
● 内液が燃料油となっているが、本当に油だけなのだろうか。
● 土壌汚染はタンク近傍に限定されていないのではないか。
設備管理および運転管理が万全でなければならない原子力発電所において、適切な管理が行われていたとはいえない印象の事例である。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである
・Toledoblade.com,
Oil Leals from Tank at Fermi Plant , July
15, 2016
・Miningawareness.worldpress.com, Old Underground Oil Tank Leaking under Fermi
Nuclear Reactor Switchyardopoort ,
July 16, 2016
後 記: たまたま、「フェルミ(原子力発電所)の事故」というキーワードが気になって調べてみました。貯蔵タンクの事故情報としては内容が乏しく、疑問ばかりが残る事例でした。予断を持ってはならないといわれますが、原子力分野の隠蔽体質は日本だけでなく、米国でも同じような気がします。特に、米国では、第2次大戦中の軍事機密から始まっていますので、隠蔽でなく特定機密だという認識があるでしょうね。フェルミ1原子力発電所の事故を調べていたら、「報告義務が無かった」時代の日本における原子力関係の事故が結構あるようです。(「忘れてはならぬ 原子力事故」を参照) 原子力発電所に関わる事を調べると、なにか気分が落ち込みます。
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