今回は、2014年9月27日、イタリアのシチリア島北東海岸のミラッツォにあるエニ社とクウェート・ペトロリアム社の共同企業体であるミラッツォ製油所にあるガソリン用貯蔵タンクで起こった火災事故を紹介します。
イタリアのシチリア島ミラッツォ製油所のタンク火災
(写真はMaritime-executie.com
から引用)
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<事故の状況>
■ 2014年9月27日(土)午前0時55分頃、イタリアのシチリア島北東海岸のミラッツォにある製油所で貯蔵タンクが火災を起こす事故が発生した。事故があったのは、イタリアの大手石油会社のエニ社(Eni)とクウェート・ペトロリアム社(Kuwait
Petroleum)の共同企業体であるミラッツォ製油所(Milazzo
Refinery)にあるガソリン用貯蔵タンクNo.513で起こった。
シチリア島のラッフィネリア・ディ・ミラッツォ(ミラッツォ製油所)付近
(写真はグーグルマップから引用)
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■ 事故は、ガソリン用で貯蔵能力50,000KLの浮き屋根式タンクから出火し、火災となったものとみられる。地元の報道では、ミラッツォ製油所から立ち上る炎は夜空を明るく照らし、数マイル(5~8km)離れたところからも見えたという。近くの住民は自分たちの住むエリアまで広がってくるのではないかという恐怖を感じた。
■ ミラッツォ製油所の巨大な炎は一晩中輝きを放ち、周辺の住民が避難しようとして交通は大渋滞し、混乱をきたした。ミラッツォ港は事故の影響を受け、すべてのバースの入出荷を停止している。
■ 火災発生後、メッシーナ消防署とミラッツォ消防署が出動し、消火活動が行われた。しかし、強い風がタンク内の火災面に絶えず空気を供給し続け、火炎の勢いはすさまじく、消火活動を困難にした。消防隊は、27日(土)の朝、火災は制圧下にあり、事故に伴うケガ人も出ていないと発表した。緊急対応部署が火災は住宅地まで広がらないという声明を出しても、住民は無視して車を出し、島の道路は渋滞の長い列が続いた。火災は、土曜日中も燃え続け、煙の厚い雲を放出し続けた。消防隊は、タンクが燃え尽きるまで待つことになると語った。
■ 火の手が上がったとき、施設内でメンテナンス作業が行われていたが、これが火災の原因だったかは現時点でははっきりしていない。メッシーナ消防署のサルバトーレ・リゾー氏によれば、火災はタンク屋根が陥没したことが原因だと、イタリアTVチャンネルのライ・ニュース24は伝えている。バルチェッローナ・ポッツォ・ディ・ゴット町の検事は火災の原因を調査中だと語った。
■ ミラッツォ製油所では、1993年、爆発によって7名の作業員が亡くなるという事故が起こっている。
(写真はLainfo.esから引用)
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(写真はTempostretto.it
から引用)
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(写真はRT.comから引用)
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(写真はRT.comから引用)
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(写真はAmnotizie.it
ら引用)
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(写真はCorriere.itら引用)
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(写真はTempostretto.it
ら引用)
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(写真はNotizie.tiscali.it
ら引用)
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<事故状況の動画>
補 足
■ 「イタリア」は正式にはイタリア共和国で、南ヨーロッパに位置する共和制国家である。イタリア半島と地中海に浮かぶ2つの大きな島(サルデーニャ島、シチリア島)からなり、人口約6,000万人で、首都はローマである。
「シチリア島」はイタリア半島の西南の地中海に位置する島で、周辺の島を含めてシチリア自治州を構成している。シチリア州はイタリアに5つある特別自治州のひとつで、人口約500万人、州都はパレルモである。
■ 「エニ社」(Eni)は、イタリアの半国有の石油企業で、イタリア最大の工業会社であり、70か国に展開する。1926年、イタリア政府が60%出資して設立したイタリア石油公団(Agip)が母体である。当初は100%国有だったが、現在は政府保有率は30%である。社名のEniは炭化水素公社(Ente
Nazionale Idrocarburi)
の略である。
■ 「クウェート・ペトロリアム社」 (Kuwait
Petroleum Corporation:KPC)は、1980年に設立されたクウェート国営の石油会社で、クウェート石油公社と訳すことがある。国際事業は子会社の「クウェート・ペトロリアム・インターナショナル社」(Kuwait
Petroleum International:KPI)が担当しており、ミラッツォ製油所には1996年に合弁事業の参加を行っている。なお、KPCは1960年に設立された「クウェート国営石油会社」(Kuwait
National Petroleum Company:KNPC)とは異なる。
■ 「ミラッツォ製油所」(Milazzo
Refinery)は1961年に操業を開始した製油所で、精製能力は16万バレル/日である。当初は独立系の石油会社であったが、1982年にエニ社が保有し、その後、1996年にクウェート・ペトロリアム社が50%の株式を取得し、合弁事業の製油所に移行した。貯蔵施設はタンク数170基、貯蔵能力410万KLである。
ミラッツォ製油所の全景 (写真は同社ウェブサイトから引用)
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ミラッツォ製油所の計器室 (写真は同社ウェブサイトから引用)
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■ 発災タンクの大きさについて報道では、1,000,000ガロン(3,780KL)、5,000リットル(22,700ガロン)、50,000KLと様々な数値があり、実際のところはっきりしていない。事故の写真とグーグルマップで見比べてみたが、特定には至らなかった。タンク地区に直径約58mクラスの浮き屋根式タンク群があり、これらのタンクは容量40,000~50,000KL級であり、このタンク群のうちの1基が発災タンクと思われる。
ミラッツォ製油所のタンク地区 (写真はグーグルマップのストリートビューから引用)
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ミラッツォ製油所のタンク地区の浮き屋根式タンク(直径約58mクラス)
(写真はグーグルマップから引用)
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所 感
■ 発災原因は特定されていないが、浮き屋根式タンクの浮き屋根が沈降し、何らかの引火源によって全面火災になったものと思われる。火災の勢いが弱まり、側板が座屈した事故状況写真をみると、座屈が片側に偏っている。これは、強風の影響とともに浮き屋根が一様に沈降せず、傾いたまま沈んだのではないかと思われる。日本では、浮き屋根の沈下事故を契機に屋根の沈降対策が行われつつあるが、世界的にみても、浮き屋根の沈降事故は現実に起こりうると考えるべきである。
■ 消火活動の観点でみると、最も消火困難な火災だったと思われる。強風、障害物あり全面火災のほか、泡モニターの配置場所も適切なところがなかったと思われるし、消防資機材としての大容量泡放射砲システムが配備されていたかも疑問である。
結局、積極的戦略はとりえず、燃え尽きるのを待つ防御的戦略しかなかったと思う。ガソリンの燃焼速度を33cm/hとし、タンク液位を15~20mと仮定すれば、燃え尽きるまでは45~60時間(二日~二日半)かかる。発災から三日経った9月30日も完全に鎮火していない様子なので、実際に燃え尽きたものと思われる。
備 考
本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・ChannelNewsAsia.com,
Panicked Residents Flee Italy Refinery Fire, September 27, 201
・RT.com,
Huge Blaze at Sicily’s Oil Refinery Sparks Panic, Prompts Locals to Flee,
September 27, 2014
・Trust.org,
Italy Refinery Blaze at Milazzo under Control, September 27,
2014
・Lainfo.es, Large Fire at Oil
Refinery in Italy, September 27, 2014
・LiveLeal.com, Huge Blaze at
Sicily’s Oil Refinery Sparks Panic, September 28, 2014
・Dsecurity.info, Refinery in
Southern Italy Fires Occurred 1000000 Gallons of Fuel Crisis, September 28,
2014
・MariTime-Executive.com, Italian Oil
Refinery Fire Hampers Vessels’ Operations, September 29, 2014
・AgoraMagazine.it,
Sicily Refinery Fire under Control, Authorities Say, September 29, 201
・FireDirect.net,
Italy – Milazzo Refinery Fire Forces Evacuation,
October 02, 2014
・Jiji.com,
ラッツォ製油所の火災=伊, September 27, 2014
後 記: 夜の火災は人にとって実際よりも極めて大きく感じます。ましてタンク火災の火炎は大きく、昼間に見るより夜空に照らされる分、さらに大きくなり、今にも自分の方へ迫ってくるという恐怖を感じるのは普通です。今回の真夜中に突然起こった火災事故時、ほとんど情報が流されない中、当局が大丈夫だというだけでは、シチリア島の住民が車で避難し始めるのは異常とはいえないでしょう。夜の火災写真を見ても、タンク1基の火災とは思えないほどです。隣接するタンクに延焼しなかったことは幸運だったといえます。過去の火災に直面したときのことを思い出しながらまとめました。
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