テキサス州ベイタウンで火災のあったタンク施設 (写真はKens5.comから引用)
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<事故の状況>
■ 2014年9月17日(水)午後1時頃、米国テキサス州にあるタンク施設で落雷による爆発・火災があった。事故があったのは、テキサス州ベイタウンにあるリンク・エナジー社(Link
Energy Ltd)所有の油井用の石油タンク施設で、落雷を受けてタンク1基が爆発を起こした。
テキサス州ベイタウン付近
(写真はグーグルマップから引用)
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■ 17日(水)の昼食時間頃に、この地区に激しい雨を伴った嵐が通過していた。当局によると、午後1時頃、ベイタウンのエバーグリーン100区にあるタンク1基に雷が落ちたという。落雷によって最初の原油タンクが爆発し、内部の油が漏れ出た後、二番目のタンクに火が付いた。巨大な真っ黒い煙が空に向かって立ち昇った。この煙のため、ハイウエイ146号線バイパス道路は上下線とも交通遮断された。
■ 爆発によって約1,400バレル(220KL)の原油が入ったタンク2基のほか、塩水の入ったタンク3基が破壊したと、ベイタウン消防署関係者は語った。塩水は精製プロセスにかけてスキミンングされる。石油タンク施設はオーストラリアを本拠地とするリンク・エナジー社の所有で、油井の掘削・生産はホリモン・オイル社(Hollimon
Oil Corp.)によって操業されているという。
■ 発災後、ベイタウン消防署が現場へ出動した。油の燃焼は非常に速く、漏れた油の大半も燃えたので、消防隊は残った油の火を制圧するのみで、その時間は10分ほどだったという。火災は、油が燃え尽きて鎮火するまで45分間程度だった。
■ 爆発事故によるケガ人は無かった。ベイタウン消防保安官のバーナード・オリーブ氏によると、落雷のあった時間に油井には何人かの作業員がいたが、無事だったという。オリーブ氏は、「余りにも劇的な爆発事故だったので、彼らはすぐに通報したんだ」と語っている。
■ タンク事故による湾内への環境汚染は無かった。ベイタウン消防署のティム・ロジャーズ氏は「バキューム車を搬送して発災現場に到着するまでに気掛かりだったのは、油が構外へ流出しないかということでした。というのも、猛烈な雨が降っており、大量の雨で油が堤内から出れば、湾に流れ込まないように流出防止堤を構築しなければならなかったからです」と語っている。
(写真はAbc13.comから引用)
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(写真は左:Commtank.comおよび右:Houstonpublicmedia.orgから引用)
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タンクの雷対策
■ 落雷は鋼製タンクの火災要因としてよく知られている。地上式タンク火災の約1/3が落雷に起因している。異常気象の発生頻度が多くなっており、夏季期間の落雷数は15%増加しているとみられる。落雷は、タンク内に貯蔵している油の火災要因だけでなく、タンクに接続されている電子機器にも影響を及ぼす。
■ 落雷によるリスクを最小にするため、タンクに取り付けられている接地設備は重要である。雷はタンク爆発の引火源になりうるが、多くの場合、これだけでない。鋼製あるいはファイバーグラス製タンクの接地が適切でない場合、静電気の蓄積が生じる。タンクや配管では、電荷は分散するよりも速く表面に蓄積しやすい。落雷は、雲と地表の間の電位の差で雲に溜まった電荷が大地に向かって放電することによって生じる。落雷した点に向かって周囲の地表電荷が突入することによって静電放電が形成されるが、間隙部でアークが飛ぶと、油ベーパーの引火につながることがある。
■ タンク設備に静電気が蓄積しないようにするためには、適切な接地を行い、大地と同じ電位になるようにしなければならない。タンク、配管、電気設備、タンクローリーは、静電気の形成しないよう、またアークが飛ばないように接地しなければならない。特に荷役用ホースとノズルは、油が流れるとき静電気が生じやすいので、配慮が必要である。
■ 浮き屋根式タンクは落雷に対して特に弱点がある。浮き屋根式タンクの火災では、浮き屋根と側板の間隙にアークが飛んで発災することが多い。API
RP 545「可燃性・燃焼性液体の地上式貯蔵タンクにおける雷対策(推奨基準)」では、浮き屋根式タンクに対して3つの改造案を推奨している。
① 既存のシール部上部に曝露しているシャンツは撤去し、タンク円周上の3m毎にタンク屋根と側板を液中で接する浸漬型のシャンツを設ける。
② シール構成部品(バネ、シザー部品、シール層を含む)、ゲージ、ガイドポールはタンク屋根と電気的に絶縁しておく。
③ タンク周囲には30mを越えない毎にタンク屋根と側板の間を連結するバイパス用導線を設ける。このバイパス用導線は、できる限り短くし、屋根周囲に均等に設置すべきである。
■ API RP 545によれば、タンク底板が直接、地表や基礎の上に設置されている場合は、当該タンクは適切に接地されているとみなされる。これは、タンク底板の下部または下にエラストマーのライニングが適用されているかどうかで決まる。可燃性範囲内のベーパーと酸素が一緒に存在しなければ、引火が起こることはない。浮き屋根式タンクにおいて危険な状態となるのはつぎの4つである。
① 浮き屋根が損傷して可燃性ベーパーが曝露している状態
② タンクの過充填の状態、あるいはタンクの限界を超えた蒸気圧で製品が貯蔵されている状態
③ シール部の破損、浮力不足、浮き屋根デッキの損傷
④ API Std 650「溶接式石油貯蔵タンク」附属書Hの規定を超えた通気
■ 原油や石油製品だけが落雷のリスクを有する地上式タンクに貯蔵されているわけではない。ベンゼン、トルエン、キシレンなどのケミカル類は原油中に含まれているが、単独の製品として塗料、ゴム、接着剤、ペットボトル、繊維などの原料として使用されている。固定式コーンルーフ型貯蔵タンクは、爆発を回避するような設計が可能である。頂部の継ぎ目を意図的に弱くし、過圧時に屋根部が外れるようになっている。この設計は消防隊が油面の火災時の消火作業をやりやすくする。消防隊は火炎に直接、泡消火を放射し、火災の制圧ができる。
■ 固定屋根式タンクでは、メンテナンス・エラーが火災の最初の要因になることが多い。貧弱な接地状況において液が漏れて可燃性混合気の形成された状態で落雷があれば、容易に引火する。通気設備、過充填防止設備、漏洩検知システムは、日常の定期的なタンク検査によって正しい作動を確認することを推奨する。落雷を防止することは不可能かもしれないが、リスクを軽減する方策をとることはよいことである。地上式貯蔵タンクをAPI(American
Petroleum Institute)、STI(Steel Tank Institute)、NFPA(National Fire Protection
Association)、UL(Underwriters Laboratories Inc.)などの国際的な基準にもとづいて建設すれば、自然災害によって起こる損害のリスクを大幅に減らすことにつながるだろう。
補 足
■ 「テキサス州」は米国南部にあり、メキシコと国境を接している州で、人口は約2,510万人と全米第2位である。
「ベイタウン」(Baytown)は、テキサス州南東部、メキシコ湾岸のハリス郡に位置する都市であり、一部がチェンバーズ郡に入っている。ヒューストン/ザ・ウッドランズ/シュガーランド大都市圏に入っており、人口約72,000人の都市である。ベイタウン経済の中心は、市が創設した3つの工業団地にある石油精製と石油化学が主である。主要会社としてエクソンモービル、バイエル、シェブロン・フィリップスがある。特に、エクソンモービル・ベイタウン複合施設は1919年に設立され、世界最大級の工業複合地帯となっており、その中のベイタウン製油所は560,500バレル/日である。
テキサス州ベイタウン周辺地区
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■ 「リンク・エナジー社」(Link
Energy Ltd)は、1996年に設立されたオーストラリアのエネルギー企業で、石油・天然ガスのほか石炭やクリーンエネルギーの生産を行なう会社である。リンク・エナジー社は、オーストラリアのほか、北米、イギリス、ポーランド、南アフリカ、中国、ベトナム、ウズベキスタンなどで事業を展開している。北米では、メキシコ湾岸のほかアラスカなどでも原油生産に進出している。
「ホリモン・オイル社」(Hollimon
Oil Corp.)は、1980年に設立された米国の石油・天然ガス掘削・生産の専門会社で、テキサス州サンアントニオを本拠地としている。
ベイタウンのエバーグリーンにある油井とタンク施設群
(矢印部が発災タンクと思われるが、特定できなかった)
(写真はグーグルマップから引用)
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エバーグリーンにある油井とタンク施設群
(写真はグーグルマップのストリートビューから引用)
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シャンツの例
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■ 「シャンツ」(Shunts)はタンクの浮き屋根に取り付けられた避雷設備で、側板と常に接触している一種の分流回路である。しかし、近年、シャンツと側板にわずかな間隙ができ、落雷時にここにアークが飛ぶことで逆に火災の要因になっていることがわかった。米国の避雷設備およびシャンツについては当ブログ「可燃性液体の地上式貯蔵タンクの避雷設備」を参照。また、「中国における石油貯蔵タンクの避雷設備」も参照。
所 感
■ 落雷時期になると、毎年起こる米国テキサス州の落雷によるタンク火災事故である。今回はタンク規模が大きくなく、公共への影響(汚染や避難)はなかったが、複数のタンクが被災しており、落雷時の爆発は激しかったものと思われる。一方、ベイタウン消防署は、火災とともに油の流出(海への環境汚染)に配慮しており、経験とはいえ、油井地区のタンク火災のリスクについてよく理解しているという印象をもった。
■ 今回の記事の中で異常気象について言及された個所があるが、その中で落雷頻度が15%増えたと指摘されている。日本でも、総じて落雷頻度が多くなっている。ただし、地域や年によって差があり、例えば、北海道や九州・沖縄では多くなっているが、雷地域といわれる関東・甲信では必ずしも増えていない。しかし、落雷の頻度が増え気味で、そのエネルギーも大きくなっている現状では、記事で指摘されているようにタンクの避雷設備のメンテナンスを確実に行う必要がある。
地域別落雷数 2008年~2013年(陸域)
(表はフランクリン・ジャパン:Franklinjapan.jpから引用)
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備 考
本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Chron.com, Explosion after Lightning Strikes
Oil Tank in Baytown, September 17 , 2014
・Khou.com,
Lightning Sparks Oil Tank Fire in Baytown, September 17 , 2014
・Abc13.com,
Lightning Strikes Oil Tank, Causing Big Explosion, September 17 , 2014
・HoustonPublicMedia.org,
Lightning Ignitions Oil Tank Fire in Baytown, September 17 , 2014
・Click2houston.com, Crude Oil Tank
Explosions after Lightning Strike in Baytown, September 17 , 2014
・Uticamarceilusfinancing.com,
Explosion after Lightning Strikes Oil Tank in Baytown , September 23 , 2014
・Commtank.com, Lightning Sparks Oil
Tank Fire, September 26 , 2014
後 記: 今回の落雷によるタンク爆発・火災事故では、Comm
Tankというタンク設置・撤去を行なう会社が情報を整理した上で、タンクの雷対策に関する所見をまとめてインターネットで発信しており、私の所感を述べる必要がないくらいでした。しかし、落雷とは気まぐれですね。ベイタウンには世界で最大級のエクソンモービル社ベイタウン製油所があります。そこには巨大なタンクがありますが、そのようなタンクとは比較にならないくらい小さなタンクに雷が落ちています。(製油所の設備にも雷が落ちているのかも知れませんが) メキシコ湾岸では、今も新たにオーストラリアの企業が原油掘削・生産の事業を展開しているようですので、経済発展の一方、テキサス州の落雷によるタンク火災が減ることはないでしょうね。
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