本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Cosmo-oil.co.jp,
千葉製油所屋外タンクからのアスファルト漏洩事故調査委員会の経過報告, August 7, 2012
・Cosmo-oil.co.jp, 千葉製油所屋外タンクからのアスファルト漏洩事故調査委員会の経過報告(続報),
August30, 2012
・Cosmo-oil.co.jp, 千葉製油所屋外タンクからのアスファルト漏洩事故調査委員会の結果報告,
September 14, 2012
当該情報は事故原因のプレス・リリース用として出されているが、社外者から見ると、理解しずらい点があり、一部表現を代えている。
<事故の状況>
■ 2012年6月28日(木) 7時18分頃、千葉県市原市にあるコスモ石油千葉製油所においてアスファルトタンクが破損し、貯蔵していたアスファルトが外部へ漏洩する事故があった。発災したのは容量1,000KLの505番タンクで、漏洩したアスファルトは防油堤内に溜まったが、一部は排水溝を通って海上へ流出した。
タンクの位置図 (写真はコスモ石油HPから引用) |
■ 発災したアスファルトタンク
は、当時、点検および腐食開孔部の補修を目的に、常温だったアスファルトを6月14日(木)から加温し、他のアスファルトタンクに移送する準備をしていた。
事故発生の直前に、タンク上部から相当量の白い蒸気が出ているのを従業員が目撃していた。事故発生時には、タンクから鈍い破裂音が発するのを聞いている。これらの目撃証言、現場検証、再現実験結果、シミュレーション結果から、アスファルトタンク内に浸入した水の沸騰に伴い、アスファルトが上部へ押し上げられて、タンク上部の気体が通気口(ベント)から吐ききれず、タンクの内圧が上昇し、コーンルーフ式タンクの放爆構造であるタンク屋根と側板部の溶接線が破断し、上部が開口したものである。
■ 発災した505番アスファルトタンクの仕様:
タイプ: コーンルーフタンク 公称容量: 1,000KL
直径(内径): 11,620mm × 高さ(側板):
10,660mm
発災したタンクのアスファルトは、製品アスファルト(比重1.02~1.04)を生産する際にブレンド材として使用するもので、製品アスファルトよりも密度が小さく、比重は
0.97であった。
アスファルト生産工程図 (図はコスモ石油HPから引用) |
<事故原因>
■ タンク内に水が混入した原因
屋根板および側板上部付近の保温材下において、外面腐食による開孔が確認されたので、この開孔部から雨水がタンク内に混入したものである。当該タンク内のアスファルトは水よりも密度が小さく、水が混入した時は、製品アスファルトと異なり、アスファルト内に沈み込む。タンクは通常170℃に保持しているが、精製装置の稼働停止に伴い、1年以上常温の期間があったため、内部へ混入した雨水はアスファルト内に沈み込んだ状態であった。
■ タンク屋根が腐食開孔に至った原因
アスファルトタンクの検査計画の策定に不備があった上、計画の確認手順にも不備があり、タンク屋根板の検査が適切に実施されなかった。
■ タンク内に水が入ったまま、加温した理由
保温取外し時に、タンク屋根の腐食状況がわかり、腐食開孔部は応急処置を行った。この際、腐食開孔部の影響について、タンク内に水が浸入していたとしても少量であり、加温中に蒸発すると判断し、特に対応しなかった。
■ タンク上部が開口してアスファルトが流出した原因
当該タンクは、点検を目的として、常温状態であったアスファルトを加温して別タンクに移送する準備をしていた。加温に伴い、アスファルト内に沈み込んでいた水が底部に滞留、その後沸騰し、水蒸気によりアスファルトが上部へ押し上げられ、タンク上部の放爆によって、水蒸気とともにアスファルトが流出した。タンク開口までのメカニズムは図を参照。
タンク開口までのメカニズム (写真はコスモ石油HPから引用) |
■ 海上へアスファルトが流出に至った原因
アスファルトタンクの敷地には、防油堤を設置していたので、構外へ出ることへの危険認識が薄かった。定常運転時には、アスファルトが漏洩した場合を想定して、アスファルトタンクの敷地内に留まる量の在庫運用を計画するが、計画実行の前段階である移送作業の準備中であるため、運用しなかった。実際の漏洩事故時には、アスファルトの一部が防油堤を越えて近くの排水溝に流入した。
また、アスファルトタンクの敷地内にある油水分離槽の入口弁が開状態であったため、排水溝に流入したアスファルトが海上に流出してしまった。
<再発防止策>
■ アスファルトタンク屋根板の寿命予測を厳格に実施し、補修基準に達する前に検査を実施する。また、検査履歴を整備し、保全計画が抜けなく管理できる手順・要領・役割分担を具体的に明示した基準とする。
■ アスファルトタンク内に水がある状態で加温する危険性について運転管理基準に明示する。また、この危険性と基準について関係者へ周知し、教育を実施する。
なお、今後、常温まで冷却されたアスファルトを再加温する際には、水の沸点を超えない運用とし、他のタンクへ移送する。
■ 関係者に油水分離槽の設置目的および運用方法を周知徹底する。万が一、アスファルトが漏洩してもアスファルトタンクの敷地内に留まる容量で在庫運用する。
また、アスファルトがアスファルトタンクの敷地外に漏洩しても、海上に流出しないようにつぎの対策を実施する。
● 排水溝および側溝の密閉化
● 側溝へのシャッター設置
● 排水口へのオイルフェンスの常設化
■ 今回のアスファルト漏洩事故では、人身災害が発生しなかったが、アスファルトタンクの敷地内に人がいた際に同様な事象が発生した場合でも、速やかに避難できる歩廊を増設する。
所 感
■ 前回、当該事故情報を紹介した際、所感で「アスファルトタンクで注意すべきことは、軽質油留分の混入、運転温度の上げすぎ、屋根部裏面の硫化鉄の生成などであるが、最も基本的な留意点は水による突沸である。原因は調査で明らかになると思うが、水があっても徐々に加熱すれば、水は徐々に蒸発していくという予断があったのではないだろうか。まさに事故は弱点を突いてくるという印象を持つ事例である」と述べた。今回の原因調査結果を見ると、「タンク内に水が浸入していたとしても少量であり、加温中に蒸発すると判断」しており、まさに水の突沸に関する危険予知の不足であった。
水の突沸による危険性は誰もが認識しているはずである。しかし、当ブログで紹介した「安全警告;タンクの過圧」事故と同様、ちょっとした盲点や予断によって事故は起こっている。
■ 海上へ流出してしまったことに対して、前回の所感では「アスファルトタンク地区の排水系統も問題だった。防油堤内に留まっておれば、海上汚濁問題へは発展しなかったが、おそらく、ここでもアスファルトは漏れても固化して、排水系統から海へ流れることはないという予断があったのではないだろうか」と述べた。今回の原因調査結果の中に、「アスファルトタンクの敷地内にある油水分離槽の入口弁が開状態であったため、排水溝に流入したアスファルトが海上に流出してしまった」とある。今回の事故では、タンク上部の開口(放爆)に伴い、アスファルトがかなり多量に飛散してしまったため、再発防止策の中に排水溝や側溝の密閉化などが入っているが、重要なことは「関係者に油水分離槽の設置目的および運用方法を周知徹底する」という事項だけだと思う。
■ 今回の事故調査結果には、原因に関わる人の心理の背景が書かれており、貴重な情報である。近年、日本の製造業や建設業などの現場では、「危険予知活動(KY活動)」が行われ、実効が上がっている。今回の事故原因を見ていると、一人ひとりの「危険予知」を働かせることでしか、事故を防ぎえないと感じる事例である。
後記; アスファルトの海上流出事故の対応では、国や自治体の環境保護部署の動きが鈍かったことを思い出しましたが、先日、新聞に「環境関連4法改正し、放射能汚染も対象に」という記事が目に止まりました。海外では、環境保護法の対象に放射能汚染が入っています。放射能によって大気や水質や土壌の汚染が起こっているのに、日本では環境省の管轄外という矛盾から改正されることになりました。実際、福島の原発事故では、官庁の縦割り行政によって対応が機能していませんでしたからね。そのような状況を見ているのですから、本来は、立法府である国会の議員から法改正の行動があるべきだったのです。政治主導とは、法律に従って動く官僚を適切に導く法の制定・改正を行い、国民目線に立った政治を行うことでしょう。放射能汚染も環境保護法にやっと組み込まれるという遅い対応のニュースを見て、一歩前進かなと思っているところです。
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