今回は、2025年4月26日(土)、イランのホルモズガーン州バンダル・アッバースにあるシャヒド・ラジャイ港のコンテナヤードで火災が発生した直後、爆発が起こり、コンテナ群に燃え移って大火災になり、多くの死傷者の出た事例を紹介します。
< 発災施設の概要 >
■ 発災があったのは、イラン(Iran)ホルモズガーン州(Hormozgan province)のバンダル・アッバース(Bandar Abbas)近郊にあるシャヒド・ラジャイ港(Shahid Rajaee)の港湾施設である。
■ 事故があったのは、港湾施設内にある保管用のコンテナヤードである。
<事故の状況および影響>
事故の発生
■ 2025年4月26日(土)朝、港湾施設でオレンジ色の炎を伴った火災が発生し、その直後、火災は大爆発に進展した。
■ 爆発で発生した火災がコンテナ群に燃え移り、被災個所は広範に及んだ。爆発により近隣の建物の窓や屋根が吹き飛ばされ、車も破壊された。
■ 爆発の衝撃はすさまじく、爆心地の周囲数kmの範囲でガラスが割れるなどの被害が出た。港で起きた爆発は、数十km離れた場所でも音が聞こえるほどだった。
■ 港湾施設の近くにいた人は、「コンテナ群全体が煙と埃と灰であふれかえりました。わたし自身が爆発で投げ出されたのか、テーブルの下に潜ったのかよく覚えていません」と語っている。また、別な人は、「全身が震えていました。本当にひどかったです。戦争が始まったと思いました」と語った。
■ 発災にともない、消防隊が出動した。最初の爆発が起きてから数時間後、消火活動はヘリコプターが出動して火災に上空から水を投下した。
■ 国営テレビは、複数のコンテナが発火し、爆発したと報じた。この爆発により、港湾業務はすべて停止され、緊急対応チームが派遣されたと報じられている。
■ すぐに矛盾する報道が飛び交った。当初、爆発は港内の管理棟で発生したと報じたが、後に燃料タンクの爆発によるものと報じられた。憶測を鎮めるため、イラン国営石油精製配給会社(NIORDC)は、「爆発は、当該地域にある製油所、燃料貯蔵タンク、石油パイプラインとは一切関係がない」と発表した。
■ 発災にともない、少なくとも5人が死亡、700人が負傷したと報じられた。
4月28日(月)時点では40人が死亡したと報じられ、5月2日(金)時点で70人が死亡、1,000人以上が負傷したと報じられた。イランでは、土曜日は仕事の週の始まりで、港は忙しく、被災者が多かったとみられる。 5月4日(日)には、爆発による最終的な死者数は57人に修正された。
これまで報告されていた70人の死亡者数は別々の遺体袋に保管されていた体の一部が実際には同一人物のものだったことが明らかになり、死者数の修正が行われた。また、爆発後に医療機関を受診した人は計1,566人だった。
■ バンダル・アッバースなどでは市内の学校や公共施設が休業となった。
■ 爆発は、コンテナヤードにある化学物質の火災が発端と見られ、その後大規模な爆発へと発展した。イラン税関当局によると、爆発は危険物や化学物質の保管庫が発生源とみられるといい、可燃性物質の取扱いを誤り、港湾施設に保管されていたコンテナが爆発した可能性があるという。
■ シャヒド・ラジャイ港はイランの輸入品の約80%を扱っており、12万~14万個のコンテナが保管されているという。4月28日(月)になっても、被害の全容は明らかになっておらず、数千個のコンテナが全焼したと報じられている。
■ ソーシャル・ネットワーク・システム(SNS)では、爆発現場を撮影したとみられる動画や画像が拡散しており、巨大な黒煙が上がっている様子が確認できる。
■ 火災は4月26日(土)中に鎮火せず、4月27日(日)も消火活動が続いた。当局は火災が鎮圧されていると発表し、消防隊は日曜日遅くには完全に鎮火することを期待していると述べた。夜通し、ヘリコプターと大型貨物機が燃え盛る港の上空を繰り返し飛行し、現場に海水を投下した。4月29日(火)までに消防隊は鎮火したというが、依然として鎮圧作業が続いている。
■ 海外メディアのBBCが検証したビデオでは、大爆発の前に火の勢いが増し、その後人々が爆発から逃げ、煙を上げる残骸に囲まれた道路に負傷者が横たわる様子が映っている。また、依然として煙がくすぶる港の終末的な光景が映し出された。深さが数メートルと思われる爆発によるクレーターは、燃え盛る煙に包まれていた。コンテナはまるで捨てられた玩具のように壊されたり、投げ出されたりしており、トラックや車の焼けた残骸が現場のあちこちに放置されていた。
■ ユーチューブでは、事故に関する映像が投稿されており、主なものはつぎのとおりである。
●Youtube、「 Iran
Blast | Videos Show The Moment Blast Occurred At Iran‘s Shahid Rajaee Port」(2025/4/27)
●Youtube、「 Iran Explosion UNSEEN Video: Over 70
Dead, 1200 Injured | Watch Explosion Tear Through Iranian Port」(2025/4/29)
●Youtube、「 Drone footage shows aftermath of
deadly Iran port blast」(2025/4/29)
●Youtube、「 Moment of explosion at Shahid Rajaei
port in Iran’s Bandar Abbas city」(2025/4/26)
●Youtube、「 اویری جدید از لحظه انفجار بندر شهید رجایی」(2025/5/08)
被 害
■ 数千個のコンテナが全焼し、内部の貨物が焼失した。
■ 死傷者が出ており、57人が死亡、
1,566人が負傷した。
■ 爆発により近隣の建物の窓や屋根が吹き飛ばされ、車が破壊された。
■ バンダル・アッバースなどの市内の学校や公共施設が休業となった。
■ 火災によって環境汚染が発生したが、さらにバンダレ・アッバース市における大気汚染が爆発を受けて悪化しているという。
■ 損害は30億〜50億ドル(4,200億~7,000億円)とみられる。
< 事故の原因 >
■ イラン政府は、港における安全対策と予防措置が順守されなかった過失によるもので、港内に保管されていた危険な化学物質が引き金になった可能性があるという。具体的な物質名は明かしていないが、米国のメディアは過塩素酸ナトリウムの可能性があるという。
< 対 応 >
■ 4月27日(日)時点で、消防隊は、飛行機やヘリコプターなどを使って海水を現場に投下したりして消火作業を進め、現場の火勢の80%が制御されたという。しかし、火災は4月27日(日)夜になっても収まらず、複数個所から黒煙が立ち上った。火災はほぼ鎮圧されたというが、風やコンテナ内の可燃性貨物の影響で散発的に火災が発生し、一部では周辺地域に有毒ガスが放出されたとの情報も報じられた。
■ 4月28日(月)、ロシア大使館は、同国政府が消火活動を支援するために「専門家を乗せた複数の航空機を派遣した」と発表した。
■ 4月28日(月)、イラン当局は、港での安全対策などが順守されなかったことによる「過失」が原因だと発表した。「港における安全対策と予防措置が順守されなかったために不幸な事態が起きた」とし、爆発の原因が「過失」だったという。また、コンテナで火災が起きた際は、被害が広がらないように対処する必要があったと指摘した。
■ 4月29日(火)、イラン当局は、火災について消防隊によって鎮圧されたと発表した。
■ 爆発の当初、現場ではオレンジ色がかった濃い煙が上がっており、専門家はロケット燃料が関与している可能性を指摘しているが、イラン当局は事故原因について口を閉ざしていた。
■ 4月27日(日)、米紙ニューヨーク・タイムズは、爆発したのは過塩素酸ナトリウム(Sodium Perchlorate)が関与している可能性があると報じた。この化学物質はミサイルの固形燃料の材料などに使用される。
■ 米紙ワシントン・ポストによって確認された監視カメラの映像には、フォークリフトがコンテナに乗り入れ、そこから出ていく様子が映っている。数瞬のうちにコンテナ内で炎が上がり、煙が渦巻く中、急速に燃え広がった。 約90秒後、大規模な爆発が発生し、バンダル・アッバース港全体に炎と瓦礫が広がった。
事故のビデオを検証した爆発物専門家は、この事故は激しい化学反応によって火災が発生し、爆発に至った可能性が高いと述べた。炎の色は、爆発現場に硝酸塩を含む化合物、すなわち過塩素酸塩が存在していたことを示しているという。専門家によると、過塩素酸塩と一部の硝酸塩はロケット燃料として使用できるだけでなく、肥料として大量に家庭でも使用されている。どちらも、輸送コンテナ内のような乾燥した、密度が高く、高温の環境では急速に燃焼するという。
■ 米国メディアの CNNは、今年2月、イランのミサイル計画に関連する数百トンの化学物質がこの港に搬入されたと報じており、3月にも同様の化学物質の輸入記録があったという。情報筋によれば、これらの過塩素酸ナトリウムは、イランのケイバル・シェカン(Kheibar Shekan)弾道ミサイル約260発、あるいはハッジ・カセム(Haj Qassem)弾道ミサイル約200発の推進装置の製造に十分な量だという。
■ イラン関税総局は、港内に保管されていた危険な化学物質が引き金になった可能性があると述べたが、具体的な物質名は明かしていない。
イランでは、多くの人が当局の無能さを非難し、「これほど多くの可燃物が、なぜ十分な注意もなしに港に放置されていたのか」と疑問を投げかけている。
■ 化学物質を輸入していた会社は、フォークリフトに積まれていた化学物質を低危険物質であると誤って申告したと語った。
■ イランの報道によると、同港は安全管理上の欠陥が数多く発生しており、2021年から2024年の間に少なくとも3件の死亡事故が発生しているとのことだ。ある海上安全専門家は、この記録は懸念すべきものだと指摘している。
■ 爆発が大きかったことについて、標準サイズの輸送コンテナは、通常、最大約63,000ポンド(約2,800kg)の積載が可能で、大規模な爆発に十分な燃料である。2025年4月29日(火)の衛星画像と防犯カメラの映像から、最初の爆発が二次爆発、三次爆発を引き起こした可能性が示唆されている。危険物はしばしばまとめて保管されるため、最初の爆発現場付近の複数のコンテナに爆発性物質が含まれていた可能性があるという。
■ 5月3日(土)、ワシントン・ポスト紙は、爆発物専門家がクレーターの大きさや衝撃波を分析したところによると、爆発の威力はTNT火薬約50トン相当だったという。
■ 5月4日(日)、テヘラン消防署長は爆発現場の温度が1400℃に達し、水はすぐに蒸発してコンテナ火災の消火には効果がなかったと述べている。今回の火災は食品や自動車部品などさまざまな物資が入っていた密閉容器内で発生したが、消防隊が炎を鎮圧するためにはコンテナを開けなければならなかったといい、水をかけるのは難しかった。
■ 5月4日(日)、ホルモズガーン医科大学学長は、港湾都市バンダレ・アッバースにおける大気汚染が、最近の爆発を受けて悪化していると述べた。予備調査で有毒ガスと粒子が検出され、公衆衛生への懸念が高まっている。学長によると、保健省はこの問題を調査し、汚染が危険レベルを超えていないと結論付けた。「汚染は継続している」と述べ、保健機関および救急サービスと連携して監視活動を継続していると付け加えた。
■ 5月5日(月)、イラン政府は港での爆発は30億〜50億ドルの損害を引き起こした可能性があると述べ、この事件は国内のインフラの脆弱性と情報透明性の欠如の一例であるという。
補 足
■「イラン」(Iran)は、正式にはイラン・イスラム共和国といい、西アジア・中東に位置し、人口約9,156万人のイスラム共和制国家である。公用語はペルシア語である。
「ホルモズガーン州」(Hormozgan province)は、イラン南部に位置し、ペルシア湾をはさんでオマーンと相対する。ペルシア湾上に14の島を有し、海岸線は1,000kmに及ぶ人口約177万人の州である。
「バンダル・アッバース」(Bandar Abbas)は、ホルムズ海峡北岸に位置し、ホルモズガーン州の州都で、人口は約53万人の港湾都市である。
■「シャヒド・ラジャイ港」(Shahid Rajaee)は、2005年に建設され、2,400ヘクタール(約5,900エーカー)の広大なコンテナヤードで、石油輸送や一般貨物輸送を含め、年間7,000万トンの貨物を取り扱っている。シャヒド・ラジャイ港はイラン全港におけるコンテナの積み下ろし全体の最大85%を処理しており、近年、同港の重要性は高まっている。巨大な規模に加え、世界の石油生産量の5分の1が通過するホルムズ海峡に近いという立地が、その戦略的重要性を高めている。
■「過塩素酸ナトリウム」(Sodium Perchlorate)は、化学式 NaClO4 で表される無機化合物で、酸化性物質のため熱や火花、可燃性物質との接触により、火災や爆発の危険性がある。また、吸入や皮膚、眼への接触によって健康被害を引き起こす可能性がある。過塩素酸ナトリウムは、酸化剤、助燃剤、その他様々な用途に用いられ、特にミサイルやロケットの推進剤、火薬、花火など酸化力の高い物質の製造など様々な工業分野でも利用されている。火災時には、刺激性、毒性、腐食性のガスを発生するおそれがあり、消火方法としては火災区域に適度の距離をとって大量の水を散水する。
所 感
■ 事故原因は、港湾施設のコンテナに関する安全対策と事故防止措置が行われていなかったもので、管理ミスと作業ミスによるものだろう。一方、フォークリフトでコンテナ内の化学物質を運び出そうとしていたにしても、引火に至った要因や引火源ははっきりしない。しかし、爆発で深さが数メートルのクレーターを形成するほどの化学物質(米国のメディアの推測する過塩素酸ナトリウム)の怖さを認識する事例である。
■ 2023年12月に起こった「イランの簡易製油所で15基のコンデンセートタンク等が火災・爆発、48時間燃焼」( 2023年12月)では、コンデンセートタンクの火災による爆発の危険があるため、消防隊は500mの距離をおく必要があるとして一時的に現場から撤退している。今回の事例でも、初期の消火戦略は積極的戦略でなく、不介入戦略をとったものと思われる。実際、現場にいても、別なコンテナに同様の化学物質などが存在するかも知れないと思えば、近寄って消火活動をとるという判断はできない。
消防隊の消火活動について、最初の爆発が起きてから数時間後、ヘリコプターによる上空からの水投下が報じられているが、おそらく積極的消火戦略をとった最初の戦術であろう。コンテナ群の火災に関しても貴重な事例であろう。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Afpbb.com, イラン主要港での大爆発火災、制御下に, April 29, 2025
・Mainichi.jp, イラン南部の港で大規模爆発 少なくとも5人死亡、700人が負傷, April
26, 2025
・Japan.storm.mg, イラン・シャヒードラジャイ港で大爆発、40人死亡 原因はミサイル燃料か テヘランは沈黙, April
28, 2025
・Yomiuri.co.jp, イラン南部の大規模爆発、死者27人・負傷者900人…国営テレビ報道, April 27, 2025
・Newspicks.com, イランの港爆発、死者40人に ハメネイ師「徹底調査」指示, April
28, 2025
・News.goo.ne.jp, 「過失」が原因とイラン内務相が発表 大規模爆発の死者65人に, April 28, 2025
・Kagonma-info.com, イラン商業港爆発、死者40人に、1200人負傷=国営メディア, April
28, 2025
・Bbc.com, Huge blast at key
Iranian port kills 28 and injures 800,
April 28, 2025
・Washingtonpost.com, Iran port
explosion caused by chemicals catching fire, videos show, May
02, 2025
・Aljazeera.com, Iran’s
President Pezeshkian visits injured, site of deadly port explosion, April
27, 2025
・Apnews.com, Iran says fire
extinguished at a port rocked by explosion as the death toll rises to at least
70, April 29, 2025
・Csis.org, Iran’s Port Explosion, May
05, 2025
・Edition.cnn.com, Massive explosion at Iranian port kills 28 and
injures hundreds, April 27, 2025
・Lemonde.fr, In Iran, questions arise over explosion at the Shahid
Rajaee port, April 28, 2025
・Newarab.com, Everything we know about the massive blast at Iran's
Bandar Abbas port, April 27, 2025
・France24.com, Death toll rises to 70 in Iran port explosion as
interior minister blames 'negligence‘,
April 28, 2025
・Abc7.com, At least 40 killed,
about 1,000 others injured in massive explosion at Iranian port, April
28, 2025
・Iranintl.com, Final death toll from Rajaei port blast revised to
57, May
02, 2025
・Arabnews.com, Fire blazes day after Iran port blast killed 28,
injured 1,000, April 26, 2025
・Caliber.az, Media: Explosion at Iran’s Shahid Rajaee port triggers
conflicting reports, emergency response,
April 26, 2025
後 記: タンク火災ではありませんが、港湾の爆発・火災として世界に報じられた事故でしたので、調べてみることにしました。案の定、矛盾する報道が飛び交い、燃料タンクの爆発によるものと報じられ、憶測を鎮めるため、「爆発は、当該地域にある製油所、燃料貯蔵タンク、石油パイプラインとは一切関係がない」と発表されました。メディアでは、「シャヒド・ラジャイ港で起きた大爆発から数時間、イランは沈黙、否認、そして抑圧というおなじみのパターンをとった」といい、「当局がイランの経済動脈と呼ぶ場所で、家族が瓦礫の中から行方不明の愛する人を捜している間、政府は国民を支援したり、情報を提供したりすることよりも、言論の統制と目撃者の口封じに注力していた」と語っています。
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