今回は、2024年8月14日(水)、米国ユタ州ダッシェーン郡マイトンにあるユインタ・ワックス・オペレーティング社の油田掘削施設で爆発があり、掘削装置と油タンクが完全に炎にさらされ、負傷者1名を出した事例を紹介します。
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国ユタ州(Utah)ダッシェーン郡(Duchesne)マイトン(Myton)にあるユインタ・ワックス・オペレーティング社(Uinta Wax Operating)の油田掘削施設である。
■ 発災があったのは、マイトンの町から東に約4.3マイル(6.9km)離れたところのスコウファス・トライバル・ウェスト(Skoufus Tribal West)油田掘削基地にある油井装置やタンク設備である。
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2024年8月14日(水)午前6時40分頃、マイトンにある油田掘削施設の油井で爆発があり、火災が発生した。
■ 発災にともない、ひとりの男性作業員が爆発に巻き込まれた。男性はすぐに近くにいた別な作業員に助けを求めた。緊急作業員がすぐに現場に駆けつけ、油井敷地の主要機器を巻き込んだ激しい火災と闘いながら、男性を助け出した。消防の救急隊員が現場に到着する前に、作業員らは男性を地元の病院に運んでいたが、火傷の程度がひどかったため、救急ヘリコプターでソルトレークシティーの病院に搬送された。事故にともなう負傷者は他にはいなかった。
■ ダッシェーン郡消防緊急管理局が午前7時頃に電話を受け、消防隊が出動した。
■ 消防隊は、現場に到着すると、掘削装置、貯蔵タンク、油井地区で火災が発生しているのを確認した。消防士18名が消防車4台と水タンク車3台で対応した。
■ 火災発生後、一時、掘削装置と油タンクが完全に炎にさらされ、油井地区が部分的に油に浸かった。
■ 火災発生時、現場には、掘削装置(リグ)2台、ホットオイラー(Hot oiler)と呼ばれる油加熱ユニット車1台、クルード・オイル・ハウラー(Crude oil hauler)と呼ばれる原油運搬車1台が置かれ、13名の作業員が通常業務の準備中だった。ホットオイラーは、原油を加熱するために使用され、専用のトラックなどに搭載されている。寒冷気候では、油井の温度が低いため、重質原油がワックス沈殿を起こしやすくなるため、ホットオイラーは油井の上部の坑井部分からワックス堆積物を除去するために日常的に使用される。
■ ユインタ・ワックス・オペレーティング社はユタ州東部のダッシェーン郡とユインタ郡に600以上の稼働中の油井を保有している。
■ユーチューブでは、事故について報じているニュースが投稿されている。
● Youtube、「Worker severely burned in Duchesne County oil field explosion」(2024/08/16)
殺された
■ 掘削装置2台、ホットオイラー、原油運搬車、貯蔵タンクなど油田掘削施設が一時的に火災にさらされ、被災した。
■ 負傷者1名が出た。
< 事故の原因 >
■ 火災の原因はわかっていない。
< 対 応 >
■ 消防隊は、午前9時までに油田掘削施設のすべての設備と油井地区から火災を制圧し、現場は安全になった。対応した消防隊員に負傷者はいなかった。
■ ユインタ・ワックス・オペレーティング社の社長はつぎのような声明を発表した。
「今回、油井で事故が発生し、当社の油田チームのひとりが重傷を負ったことを心からお詫び申し上げます。負傷者とその家族に心からお見舞い申し上げます。当社は、現在、情報収集と調査を続けており、事故の原因を解明しようとしています。現場にいた油井チームは迅速に対応し、負傷者の手当をし、現場は落ち着きました」
■ 労働安全衛生局(The Occupational Safety and Health Administration;OSHA)が事故の調査を主導している。現場の作業者はリスクを十分に認識しており、リスクを防ぐための訓練を受けている。今回のような事故は極めて稀である。ユタ州の経済にとって石油産業は重要であり、徹底的な調査が必要である。
■ 地元では、マイトン東部の油田掘削現場で起きた爆発・火災で重傷を負った男性作業員が病院で命の危機と闘い続けており、地域住民が家族を支援するためにまとまっているという。
■ 被災したのはクルード・オイル・ハウラーと呼ばれる原油運搬車の運転手だった。2024年8月27日(火)、重度の火傷を負った油田掘削の男性作業員の家族によると、被災者は重傷からゆっくりと回復しているという。この情報を伝えるニュースがユーチューブに投稿されている。Youtube、「‘We’ve seen a lot of miracles : Crude Oil hauler injured in explosion slowly recovering」(2024/08/24)
■ 火傷で病院のベッドに横たわる被災者とその家族のためにGoFundMe(ゴーファンドミー)が立ち上げられた。 GoFundMeは、2010年5月に運営開始した米国のクラウド・ファンディング・サイトで、イベントや事故・病気などの困難な状況に対する支援などのために資金を集めることができる。
被災者と妻にはふたりの幼い息子がいる。GoFundMeのページには被災者の妻が募金活動を企画し、
「夫の回復と子供たちの世話に集中できるよう、経済的負担を少しでも軽減するために、この GoFundMe を立ち上げました。寄付、シェア、祈りなど、どんな形であれ、皆さんからのご支援は、私たちにとって今、とても大きな意味を持ちます」
といい、「私たちのふたりの息子にとって、何よりも彼を愛する最高の父親です。息子たちが父親に何が起こっているのか理解しようとしているのを見るのは、本当に胸が張り裂けそうです。私は息子たちのためにも強くいようと最善を尽くしていますが、これからの道のりは計り知れません。夫の回復には長い時間がかかり、困難が伴うというのが現実なので、皆さんに助けを求めています。夫は複数回の手術、広範囲にわたる治療、リハビリを必要とします。すでに費用はかさんでおり、それに加えて、息子たちのために家計を維持する必要があります」と語っている。
■ 専門家は、油田掘削施設に関する危険性について、つぎのように指摘する。
● 爆発と火災; 油田掘削装置は、原油や天然ガスなどの非常に可燃性の高い物質を扱っている。揮発性化学物質の存在と高圧の掘削機械が組み合わさると、漏れ、火花、機器の故障が発生した場合、壊滅的な火災や爆発につながる可能性がある。小さな故障でも大規模な爆発を引き起こし、現場の作業員全員を危険にさらすことになる。
● 重 機; 油田掘削施設には、デリック、ポンプ、掘削装置などの重量のある複雑な機械が必要である。これらの機器の操作とメンテナンスには、特に機械が適切にメンテナンスされていない場合や安全規則が無視されている場合に、大きなリスクが伴う。重機に関連する業務では、機器の故障、圧迫損傷、高所からの落下などの事故が発生する恐れがある。
● 高圧システム; 油田採掘には、高い圧力下で地表を掘削する作業が含まれる。これらの圧力システムが不安定になったり、適切に管理されなかったりすると、噴出や漏れが発生し、爆発、有毒ガスへの曝露、火災につながる可能性がある。高い圧力を安全に管理するには、高度な知識・技能と経験を備えた作業員が必要ある。
● 有毒化学物質やガス; 油田掘削装置からは、硫化水素などの有毒化学物質やガスが頻繁に放出される。これらは吸入すると有害であり、命にかかわることがある。こうした物質に長時間さらされると、呼吸器系の問題、化学火傷、その他の長期的な健康障害を引き起こす。適切な安全装備を装着していない作業員や換気の悪い場所で働く作業員は、重大な健康リスクに直面する。
● 遠隔地および危険な場所; 油田掘削施設は陸上や海上の遠隔地に設置されることが多い。このため、医療施設から遠く離れていることが多く、事故が発生した場合に緊急対応を迅速に行うことが難しい場合がある。
● 疲労と長時間労働; 油田掘削施設の作業員は長時間労働を求められることが多く、12時間シフトが一般的であり、掘削装置の多くは24時間365日稼働している。このため作業員は疲労が蓄積し、人為的ミスや事故の可能性が高まる。肉体的に過酷な作業、限られた休憩時間、さらに孤立による精神的ストレスが相まって、危険な環境が生まれやすい。
● 落下物と高所作業; 多くの油田掘削に関わる作業員は、デリックやプラットフォームの足場など高所で作業する必要がある。このような高所からの転落は重傷や死亡事故に結びつく。さらに、工具や機器または部品の破片が高所から落下する可能性があり、その下の作業員は落下物に当たる危険にさらされている。
● 複雑なチーム調整; 油田掘削作業では、掘削装置のオペレータ、エンジニア、保守作業員など、さまざまなチーム間の緊密な連携が必要である。情報の伝達が円滑にいかないと、特にリスクが高くプレッシャーのかかる環境では、事故やミスにつながる可能性がある。
● OSHA違反と安全上の欠陥; 労働安全衛生局 (OSHA) によって厳格な規制が定められているにもかかわらず、石油会社や請負業者では安全規則を適切に施行できていないことがある。場合によっては、機器が時代遅れであったり、作業員に安全装備が提供されていなかったりして、事故や怪我の可能性が高まっている。
● 緊急避難; 噴出、爆発、ハリケーン(沖合掘削施設の場合)などの緊急事態が発生した場合、作業員の避難経路が限られるため、救助活動が遅れる可能性がある。
補 足
■ 「ユタ州」(Utah)は、米国の西部に位置し、人口約327万人の州である。州都はソルトレイクシティで州の総人口の80%以上がソルトレイクシティを中心とするワサッチフロントと呼ばれる地域に住んでいる。このために州内の大半の地域にはほとんど人が住んでいない。
「ダッシェーン郡」(Duchesne County)は、ユタ州の北東部に位置し、人口約18,600人の郡である。ダッシェーン郡は、ダッチェイン、ドゥーシェイン、ダチェスニなどと呼ばれている。
「マイトン」(Myton)は、ダッシェーン郡の東部に位置し、人口約600人の町である。
■「ユインタ・ワックス・オペレーティング社」(Uinta Wax Operating)は、原油、天然ガス、その他の関連製品を生産・探査する企業で、主にユタ州など米国全土で事業展開している油田掘削会社である。
■「発災場所」に関してはマイトンから東へ4.3マイル(6.9km)と報じられているが、グーグルマップで調べても特定できなかった。その辺りは石油生産施設が複数あり、発災した油田掘削施設は新しく開発中のものではないだろうか。被災設備の中には貯蔵タンクが含まれており、「発災タンク」の大きさは分からないが、直径を2~3m、高さを4~6mとすれば、1基の容量は12~42KL程度である。
所 感
■ 油田掘削施設に関する危険性について専門家による指摘があるが、初期の発災状況が報じられておらず、原因を推測する情報はない。今回、油田掘削施設の事故について紹介したが、予想した以上に危険性の高い施設だという印象をもった。
■ 今回、「作業員が爆発に巻き込まれ、近くにいた別な作業員に助けを求めて、緊急作業員がすぐに現場に駆けつけ、油井敷地の主要機器を巻き込んだ激しい火災と闘いながら、作業員を助け出した」という。この救出活動で二人目の負傷者が出なかったのは不思議である。消火ホースによる水の噴霧をしながら、救出したのではないだろうか。危険性の高い施設であり、自然と防御の方法を身に着けていたのかも知れない。
■ 今回の事故では、地元メディアが被災者の支援について報じている。 GoFundMe(ゴーファンドミー)という米国のクラウド・ファンディング・サイトで、被災者の妻が募金活動を企画している。米国らしい独立心の旺盛さを感じる一方、健康保険制度や労災保険制度などについて考えさせられる事例である。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Kutv.com、デュシェーン郡の油田爆発で作業員が重度の火傷を負う、2024年8月16日
・Kslnewsradio.com、デュシェンヌ石油施設で爆発、作業員が重傷、2024年8月15日
・Kherkhergarcia.com、ユタ州ダッシェン郡の石油掘削装置爆発で作業員が重傷、2024年8月22日
・Abc4.com、ユタ州東部の油田で突発火災、作業員が重度の火傷を負う、2024年8月15日
・Ksltv.com、石油掘削装置の爆発で作業員1人が病院に搬送、2024年8月15日
・Hoodline.com、ダッシェン郡油田の爆発で石油作業員が重傷、ユタ州で安全基準が精査される、2024年8月16日
・Isssource.com、石油基地火災、爆発で作業員が重体、2024年9月6日
・Schmidtlaw.com、ユタ州の石油掘削作業員が爆発で重度の火傷を負う、2024年8月27日
・Gofundme.com、ベンが壊滅的な火傷から回復できるよう支援、2024年8月17日
・Basinnow.com、コミュニティが集結し、石油掘削装置の火災で重傷を負ったマーベリックの運転手を支援、2024年8月19日
・Ksl.com、「私たちは多くの奇跡を見てきました」:爆発で負傷した石油掘削作業員がゆっくりと回復中、2024年8月24日
後 記: 今回の事例では、地元メディアが被災者の支援について報じており、
GoFundMe(ゴーファンドミー)という米国のクラウド・ファンディング・サイトで、被災者の妻が募金活動を企画しているという米国らしい独立心の旺盛さを感じます。所感の中で健康保険制度や労災保険制度などについて考えさせられると書きましたが、この公助に頼る発想が日本的なのですよね。マイトンは人口約600人の小さな町ですが、米国の石油産業を支える実態が垣間見える気がします。
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