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2024年6月29日土曜日

ロシア各地の石油貯蔵施設が無人航空機攻撃でタンク火災、新型ドローンか?

 今回は、2024618日(火)~620日(木)、ロシアのロストフ州アゾフにある石油貯蔵施設およびタンボフ州ラスカゾフスキーにあるプラトノフスカヤ石油貯蔵施設などが、ウクライナとみられる無人航空機(ドローン)による攻撃を受け、タンク火災になった事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災施設は、ロシアRussiaロストフ州RostovアゾフAzovのアゾフプロダクツ石油貯蔵施設およびタンボフ州TambovラスカゾフスキーRaskazovskyにあるプラトノフスカヤ石油貯蔵施設である。

■ 発災があったのは、石油貯蔵施設内にある石油タンク設備である。

< 事故の状況および影響 > (ロストフ州アゾフの石油貯蔵施設)

事故の発生

■ 2024618日(火)早朝、アゾフで無人航空機(ドローン)による攻撃があり、石油貯蔵タンクが火災になった。

■ 発災に伴い、消防隊が出動した。消防車を含む70人以上の消防士が装備を整えて消火活動に当たった。

■ 攻撃のあった夜、地元住民は石油貯蔵施設が火災に見舞われる前に5回の爆発音を聞いたという。

■ 火災は3,200㎡のエリアに広がった。容量4,000KLの貯蔵タンクの火災を消火するために、多くの人員と49台の機材が投入された。  

■ 消防隊の努力にもかかわらず、火災は1日半以上燃え続けた。

■ アゾフにはアゾフプロダクツとドネフテプロダクツのという2つの石油製品ターミナルがあり、 2つの施設には合わせて22基の燃料貯蔵タンクがある。ウクライナ保安庁の情報筋は、ドローンがアゾフプロダクツとドネフテプロダクツの石油貯蔵施設を標的にしたことを認めた。

■ 石油貯蔵施設への攻撃には、ウクライナの無人航空機4機が関与したと伝えられている 

■ 発災に伴う負傷者は出なかった。

■ 火災の煙が消えた後に撮影された衛星画像では、攻撃により燃料タンク6基のうち3基が損傷したことが示された。

■ ユーチューブなどには火災の状況を示す動画が投稿されている。主な動画はつぎのとおりである。

 Youtube Russian oil depot hit after Ukrainian drone strike2024/06/18

   ●YoutubeUkraine‘s Drone Attack On Russia | Oil depots on fire in Russia’s Rostov region after drone attack2024/06/18

   ●News.liga.net Oil product tank catches fire in Russia‘s Rostov Oblast after alleged drone attack – video2024/06/18

< 事故の状況および影響 > (タンボフ州プラトノフスカヤの石油貯蔵施設)

事故の発生

■ 2024620日(木)朝、タンボフ州ラスカゾフスキーにあるプラトノフスカヤ石油貯蔵施設の石油タンクが、無人航空機(ドローン)による攻撃を受けて火災になった。タンボフ州プラトノフスカヤはウクライナ国境から約400km離れている。

■ 住民は午前4時頃にモーターかエンジンのような音を聞いたという。その後、激しい爆発が起こって石油貯蔵施設から煙が上がり、近くの家屋の窓が壊れたと証言している。

■ 発災に伴い、タンボス州の消防隊が出動し、消火活動を行った。 

■ 地元当局は、火災はドローン攻撃による可能性が高く、住民に対して注意を払い、広場にいることを避けるよう警告した。

■ 午後になって、火災は2基目のタンクに延焼した。石油製品が入ったタンク9基のうち2基が燃えているという。

■ 621日(金)、火災は消防隊の消火活動で鎮火した。

■ この攻撃による死傷者は報告されていない。

■ この施設はタンボフ州で最も古く、独立系の民間石油会社である。石油貯蔵施設には、5か所の積込みラインと22基のタンクがあり、ガソリンやディーゼル燃料が貯蔵されている。 タンク1基の最大容量は700KLである。

■ 620日(木)には、このほか、アディゲ共和国にあるロシアの石油貯蔵施設を標的とした無人航空機による攻撃があった。ロシアのアディゲ共和国エネム村にあるルクオイルの石油貯蔵施設が、620日(木)早朝、4機の無人航空機による攻撃を受けた。攻撃は午前240分頃に始まり、4機の無人航空機が現場に衝突し、鋼製のガソリン添加剤倉庫(AI-95ガソリン用)が爆発し、火災が発生した。火は約400㎡の範囲に広がったが、その後、消し止められた。

被 害

■ ロストフ州アゾフの石油貯蔵施設では、2基の石油貯蔵タンクが火災で被災し、内部の液が焼失した。このほかタンク1基が側板を損傷した。

■ タンボフ州プラトノフスカヤの石油貯蔵施設では、 2基の石油貯蔵タンクが火災で損傷した。内部の液が焼失した。

■ 火災により環境が汚染された。  

< 事故の原因 >

■ 戦争による軍事行動である。(平常時の“故意の過失”に該当)

< 対 応 >

■ ウクライナは一般的にこうした事件についてコメントを避けているが、2年前の本格的な侵攻を撃退するためロシア軍の燃料備蓄を減少させるため、ロシアのエネルギーインフラ、主に石油施設を標的に独自の無人航空機攻撃を行うことが増えている。ロシア当局は、ここ数週間、ウクライナ国境近くのベルゴロドとノボシャフチンスクの石油施設に対する複数回の攻撃はウクライナの無人航空機によるものだと非難している。

■ 報道によると、米国当局は世界の燃料市場の混乱を防ぐため、ウクライナに対し石油拠点への攻撃を控えるよう要請したという。国防総省の情報機関は先月、最近の攻撃の結果、ロシアの石油精製能力の少なくとも14%が混乱したと推定した。

■ モスクワ・タイムズは620日(木)、今年初めからロシアの石油貯蔵所や製油所少なくとも40カ所がドローンによる攻撃を受けており、その中には国内最大級のものも含まれていると報じた。

■ ウクライナは、66日(木)夜、ロシアのノボシャフチンスクとスラビャンスク・ナ・クバニの製油所とスタールイ・オスコル近郊の石油貯蔵施設を含む3か所をドローンで攻撃したとされる。

■ ウクライナは、ロシアのエネルギー・軍事・輸送インフラを標的にすればモスクワの戦争遂行への取り組みを弱体するとこれまで主張してきている。ロシア全土の石油貯蔵施設への無人航空機による攻撃はここ数日激化しているが、一方で世界の石油市場と価格にはるかに大きな影響を及ぼす製油所への攻撃は沈静化している。ロシアには約30の製油所があり、その操業が中断すれば国内市場と世界市場の両方にとって大きな問題となる。同国にはガソリンやディーゼル燃料など各種石油製品を貯蔵する石油貯蔵施設も数百か所ある。

■ ウクライナの大統領は、紛争におけるドローンの重要性について、つぎのように言及している。

「ドローンは我々が優位に立てる技術要素であり、そうなるだろう。無人システムの種類によっては、ウクライナはすでに世界をリードしている。このことは我々の友好国との交渉でも明らかである。すでにウクライナの戦士たちが持っている経験やウクライナで生産している装備について多くの国が興味を持っている」

補 足

■ 「ロシア」(Russia)は、正式にはロシア連邦といい、ユーラシア大陸北部に位置し、人口約14,200万人の連邦共和制国家である。2022224日(木)、ロシアが、突如、ウクライナに侵攻し、軍事衝突が起こった。

 ロシアがウクライナに侵攻して以降、両国のタンクへの攻撃を紹介した事例は、つぎのとおりである。

   「ウクライナ各地で石油貯蔵所が攻撃によってタンク火災」20223月)

  ●「ウクライナ各地の石油貯蔵所がミサイル攻撃によってタンク火災」20224月)

  ●「ウクライナで化学工場の硝酸タンクがロシアの攻撃で爆発」20226月)

  ●「ロシアのベルゴロド石油貯蔵所にヘリコプターによる攻撃」 20225月)

  ●「ロシアのふたつの石油貯蔵所でタンク爆発・火災、テロ攻撃か」20224月)

  ●「ロシアの2箇所の石油貯蔵施設を無人航空機(ドローン)で攻撃、タンク被害」 202211月)

  ●「ロシアがウクライナのひまわり油タンクをカミカゼ無人機で攻撃」202210月)

  ●「ロシアの石油貯蔵所で無人航空機によって燃料タンク3基が火災」202211月)

  ●「ロシアの2箇所の石油貯蔵施設を無人航空機(ドローン)で攻撃、タンク被害」202212月)

  ●「クリミア半島の石油貯蔵施設で無人航空機(ドローン)攻撃でタンク火災」20234月)

  ●「ロシアの石油貯蔵施設が2日連続で無人航空機(ドローン)攻撃によりタンク火災」20235月)

  ●「ロシアの軍組織が自国ボロネジの石油貯蔵所を攻撃し、タンク火災」20236月)

  ●「ロシアの石油貯蔵施設が無人航空機(ドローン)攻撃によるタンク複数火災」20241月)

「ロストフ州」 (Rostov)は、ロシア連邦を構成する州のひとつで人口約420万人で、南部連邦管区に属し、南東でウクライナと国境を接している。

「アゾフ」 (Azov)は、ロストフ州に位置し、ドン川沿いにあり、アゾフ海までは約6kmと近く、人口約82,000人の町である。

「タンボフ州」(Tambov)は、タンボフ市を州都とするロシアの州で、人口約982,000人の町である。人口は1989年の132万人から、減少が進んでいる。ウクライナ国境から約400kmの距離がある。

「ラスカゾフスキー」(Raskazovsky)は、タンボフ州にある地区のひとつである。地区の詳細はわかっていない。

■ ロストフ州アゾフにある石油貯蔵施設の「発災タンク」は容量4,000KLと報じられている。グーグルマップを調べると、タンク群は同径の固定屋根式で、直径は約20mである。容量4,000KLであれば、高さは約13mとなる。

 タンボフ州プラトノフスカヤの石油貯蔵施設には、タンクが22基あり、タンク1基の最大容量は700KLと報じられている。グーグルマップを調べると、タンク群は大中小の3種に分かれており、一番大きい径の固定屋根式タンクは直径約10mのものが10基ある。高さが約9mで、容量は約700KLとなる。この10基の中の1基が「発災タンク」で、午後に隣接するタンクへ延焼したものとみられる。なお、タンボフ州プラトノフスカヤはウクライナ国境から約400km離れている。

所 感

■ 前回20241月のブログの所感で、ドローンの活用を推奨しているが、戦争で使用される無人航空機(ドローン)が進化することは認めがたいと書いた。一方、貯蔵タンクを運営する事業者や公的機関にとって攻撃型無人航空機(ドローン)の動向は、テロ対応上、知っておく必要があろう。

 この点、テロ対応上から今回の事例を見てみると、ドローンが変化している。これまで、無人航空機(ドローン)による貯蔵タンクへの攻撃性が進化し、戦術上も進化していたが、この進化は飛行機型の無人航空機を使用することだった。無人航空機に搭載していた爆弾によって石油貯蔵施設で大規模な火災を起こす方法だった。一方、無人航空機攻撃への対策は電波探知妨害装置であり、高出力レーザーや高出力マイクロ波などとされている。

 FPV型(First Person View)ドローンは狙いの正確性であり、GPSGlobal Positioning System;全世界測位システム)を使用しないことである。これが電波探知妨害装置に対してどの程度有効か分からないが、対策を回避させる対応をし始めている。 FPV型ドローンの操縦者は、ゴーグルを装着し、ドローンの視点でリアルに景色や障害物を認識しながら操作できる。速度や航続距離が課題があるが、今回のロストフ州アゾフのタンク被災状況を見てみると、FPV型ドローンを使用したのではないだろうか。飛行機型からいわゆるドローン型へ回帰しており、テロ対策上からは厄介なドローンの攻撃性である。

 ■ 消火活動の詳細は報じられていないが、これまでの事例のような特殊消防列車の出動や現場のスクアート車の配置について言及されていないし、ロストフ州アゾフのタンク火災の被災写真を見る限り、消火資機材は整っているとは言い難い。実際、火災は隣接タンクへ延焼しており、1日で消火できていない。堤内火災と複数タンク火災になれば、対応がいかに難しいかがわかる。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

     Jp.reuters.com,   ロシア南部ロストフ州にドローン攻撃、石油貯蔵タンクが炎上,  June  18,  2024

     English.news.cn,  Oil tank in Russia catches fire in drone attack,  June  20,  2024

     Reuters.com, Fire at drone-hit Russian oil depot rages for second day,  June  20,  2024

     Newsweek.com, Ukraine Drone Strikes Set Two Russian Oil Depots Ablaze,  June  20,  2024

     English.news.cn,  Ukrainian drone attack causes fire at Azov oil depot in Russia,  June  19,  2024

     Rferl.org, Ukrainian Drones Struck Russian Oil Facility, Igniting Major Fire, Source Tells RFE/RL,  June  18,  2024

     English.nv.ua, It took three days to extinguish a fire that was ignited by a Ukrainian drone strike on an oil depot in the Russian town of Azov in Rostov Oblast on June 18, Radio Liberty reported on Telegram on June 22.,  June  22,  2024

     Voanews.com, Russian oil tanks burn after drone attack,  June  18,  2024

     English.news.cn, Oil tank in Russia catches fire in drone attack,  June  20,  2024

     Newsweek.com, Ukraine Drone Strikes Set Two Russian Oil Depots Ablaze,  June  20,  2024

     Kyivindependent.com, Fire at oil depots in 2 Russian regions after overnight drone attacks,  June  20,  2024

     Euromaidanpress.com, Two Russian oil depots on fire in russia’s Tambov Oblast and Adygea after drone strikes(video),  June  20,  2024

     Tass.com, Oil depot ablaze in central Russia’s Tambov Region, presumably after drone attack,  June  20,  2024

     Themoscowtimes.com, Overnight Ukrainian Drone Attacks on Russia Kill 1, Set Oil Depots Ablaze,  June  20,  2024

     English.nv.ua, A satellite image of the fire that broke out at the Platonovskoye oil depot in Russia’s Tambov Oblast after a drone attack was released by the Russian service of Radio Svoboda on Telegram on June 20,  June  20,  2024

     Regnum.ru, Второй нефтяной резервуар загорелся в Тамбовской области после атаки ВСУ,  June  20,  2024

     Rbc.ru, В Тамбовской области спустя сутки потушили открытое горение на нефтебазе,  June  21,  2024


後 記: このブログは戦争による軍事行動(平常時の“故意の過失”)は基本的に対象にしていませんので、前回のドローン攻撃で「無理にテロ対応からの視点でまとめていますが、終わりにしたいですね」と後記に書きました。逆に、だんだんドローンの武器化が進歩してきて終わりになりません。

 ところで、4年前の「横浜市の小柴貯油施設跡地の覆土式地下タンクに工事中に転落」20209月)事故を紹介したブログの後記に「私が住んでいる周南市(旧徳山市)にも、旧日本海軍が建設した覆土式地下タンク(最大は内径88m×深さ10m×容量50,000KL)が大迫田地区にありました。いまは緑地公園になっていますが、円形の広場が地下タンクの跡地だと聞いています」と記したのですが、もう少し詳しく紹介したユーチューブが10か月前に投稿されていることを知りました。10分間の余裕がある方はご覧ください (Youtube、【ゆっくり解説】なぜ周南市の緑地公園にはグラウンドが沢山あるのか?【大迫田地下油槽群】‐2023/08/27


2024年6月21日金曜日

イラクのクルド人自治区の石油施設でタンクが爆発、消防士14名が負傷

 今回は、2024612日(水)、イラク北部のクルド人自治区であるアルビルにある石油施設でタンクが爆発して火災になり、消火活動が行われたが、消防士14名が負傷し、消防車3台が火災に巻き込まれた事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、イラク(Iraq)北部のクルド人自治区であるクルディスタン地域のアルビル(Arbil)にある石油施設である。

■ 事故があったのは、アルビル・グウェル道路沿いにある石油施設内にある原油タンクである。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2024612日(水)午後830分頃、石油施設内にある原油タンクの1基が突然爆発し、火災が発生した。

■ 施設内にいた輸送トラックの運転手は、火災によって再びタンクが爆発するのを恐れて施設から逃げ出した。

■ 濃い煙は数百m上空まで上がり、黒煙と明るいオレンジ色の炎が施設の上に立ち昇り、すでに深刻だったアルビルの大気汚染をさらに悪化させた。

■ 火災現場から約5km離れたジャムカ村の住民は、石油施設の火災によって発生するガスの排出の影響が怖いと語った。

■ 発災に伴い、アルビルの民間防衛局の消防隊が出動した。火災の規模が大きかったため、12の消防隊が消防車36台をともない消火活動を行った。

■ 民間防衛隊は火災の拡大を防ぐため現場付近を封鎖した。

■ 火災はひとつの施設で始まり、その後別の施設に燃え広がった。火災の第一段階では、燃えているタンクがほかのタンクから1015m離れていたため火災の拡大防止に努めたが、火災の規模が大きくなり、第二タンクまで拡大した。最初の情報は「製油所内のアスファルト倉庫が火災になった」というものだった。

■ アルビル南部の地域には、原油の抽出と精製を行う石油施設や貯蔵所が多くあり、迅速に火災を消すのは難しいという。民間防衛局の消防隊は、36台以上の消防車が消火と延焼の防止に努めているとし、住民に燃えている施設に近づかず、遠くへ離れるよう指示している。

■ 火災は、今のところ原因が不明だが、前日の611日(火)夜に主要原油貯留層から発生し、アルビルの南西の道路に隣接する施設に到達したという。

■ 消火活動は16時間以上続き、30隊以上の消防隊が派遣されたにもかかわらず、13日(木)も火災は依然として猛威を振るっていた。

■ アルビル環境局の発表によると、燃えている施設は同様の施設が並ぶ道路沿いにあり、認可を受けていないという。施設の所有者が民間防衛局の指示に従わず、適切な安全対策を講じていなかったと非難している。

■ アルビルの知事は、消防車が火災に巻き込まれ、火災の発生した施設が被った損失は推定800万ドル(約126千万円)に上ると語った。知事は「今のところ原因は分からない」といい、引火源は電気的短絡の可能性があると述べた。知事によると、火災が起きたタンクには5,000KL以上の油が入っていたという。

■ 匿名を条件に話した地方政府当局者は、火災は電気系統の故障が原因と思われると語った。また、引火源は石油施設のひとつに接続されていた発電機の漏電だったと報じているメディアもある。

■ 事故に伴い、消防士14名が負傷、うち4名が火傷、もうひとりが煙を吸って負傷した。火傷を負った消防士のうち2名は重傷である。

■ アルビルの民間防衛当局は、この施設が認可されておらず、40以上の消防隊が消火活動に参加したが、3つの石油施設とアスファルトや燃料の倉庫を破壊したことを明らかにした。

■ 火災はアルビル市とグウェル町の間の施設で発生した。市長は、火災は以前に報じられた製油所ではなく、石油倉庫で発生したと説明した。

■ ユーチューブなどでは、火災の状況などの映像が投稿されている。主なものはつぎのとおり。

 Youtubeاندلاع حريق ضخم في مصفاة نفطية جنوب أربيل عاصمة إقليم كردستان العراق2024/06/13

 ●Euronewsادلع حريق هائل في منشأة تخزين الأسفلت لمصفاة نفط تقع على طريق أربيل-كوير في وقت متأخر من يوم الأربعاء. 2024/06/13

 ●TikTokصور مباشرة.. اندلاع حريق ضخم في مصفاة نفطية بـ #أربيل عاصمة #كردستان2024/06/13

 ●TikTokاندلاع حريق هائل داخل مصفاة نفط في #أربيل بكردستان #العراق.. التفاصيل مع مراسل العربي غسان خضر 」2024/06/13

被 害

■ 石油タンク4基が火災で損壊した。内液の油が焼失した。推定被害額は800万ドル(約126千万円)といわれている。

■ 消火活動中の消防士14名が負傷した。火傷を負った消防士2名は重傷である。

■ 消火活動に出動していた消防車3台が、火災に巻き込まれて焼損した。

■ 火災によって環境が汚染され、アルビルの大気汚染をさらに悪化させた。

■ 火災の拡大を防ぐため現場が封鎖された。

< 事故の原因 >

■ 発災前日の夜に主要原油貯留層から移送された原油がアルビルの石油施設に到達し、施設内の引火源(発電機や電気的故障など)によって火災が発生したとみられる。  

< 対 応 >

■ 火は約20時間にわたり燃え続けたが、翌613日(木)に消し止められた。消防隊は、施設にある大量の燃料が入ったタンク火災の制圧に成功した。火災は100%鎮火し、周囲の施設にもはや危険はないと民間防衛局の報道官が発表し、出動した消防士は150名だと付け加えた。

■ 民間防衛局の報道官は事故のあった石油施設の法的地位について適切な許可を得ているかどうかは明言しなかったが、民間防衛局によって課せられたいかなる安全基準も満たしていないと認めた。

■ 民間防衛局によると、火災は2つの施設の計4基の燃料タンクと消防車3台が焼失した。消火活動に参加していたアルビル空港所属の消防車が炎上したという。

■ クルド人の自治区はクルディスタン地域と呼ばれるが、イラクのクルディスタン地域には無認可の製油所や燃料貯蔵施設が約200箇所あるという。

■ イラクでは、ここ数週間で複数の火災が発生し、ショッピングセンターや倉庫、さらには病院にまで被害が出ている。5月にはアルビルのバザールで火災が発生し、少なくとも200軒の店舗と4つの倉庫が焼失し、100人が負傷した。気温上昇に伴い、焼けつくような外気温、不安定な電力、施設における安全基準の緩みなどによって火災が引き起こされることが多いという。

 特に建設部門や輸送部門における安全基準の不遵守が原因である。膨大な炭化水素資源にもかかわらず、イラクは何十年にもわたる紛争と汚職を伴うずさんな行政管理によって荒廃したインフラの老朽化に苦しんでいるという。

補 足

■「イラク」(Iraq)は、正式にはイラク共和国で、中東に位置する人口約4,022万人の連邦共和制国家である。首都はバグダードで、古代メソポタミア文明を擁した土地にあり、世界第5位の原油埋蔵国である。石油輸出国機構(OPEC)で第二位の輸出国で、日量平均400万バレルの原油を生産している。 民族はアラブ人(シーア派約6割、スンニ派約2割)、クルド人(約2割、多くはスンニ派)などから構成される。言語はアラビア語とクルド語が公用語である。

 イラクのクルディスタン地域では毎日数十万バレルの石油が生産されている。しかし、クルディスタン地域からの輸出は、法的および技術的紛争のため1年以上停止している。同地域で生産される石油のほとんどは、トラックでトルコとイラク国内に密輸されている。中央政府は、イラク国営石油会社を経由せずにアルビルから石油を輸出することは違法であると考えており、そのような取引に対する仲裁訴訟で勝訴している。しかし、クルディスタン地域には無認可の製油所や燃料貯蔵施設が約200箇所あり、これらの製油所は規制されていない方法で自動車燃料を生産している。この施設のほとんどは、与党とつながりのある複合企業や役人が所有していると報じられている。

「アルビル」(Arbil)は、アルビールとも表記され、人口約161万人で、イラク北部の都市であり、アルビル県の県庁所在地でもある。2003年のイラク戦争でフセイン政権が崩壊し、2005年に連邦制を規定した新憲法が制定され、2006年にクルド人の自治政府が正式に発足して、アルビルがクルディスタン自治区の首都となる。アルビルの旧市街の中心にはカラアトと呼ばれる古い城塞(アルビルの城塞)がある。そこから放射線状に街が伸び、同心円上にバイパス道路が通じている。旧市街地とは独立するかたちで、中心からやや離れた幹線道路沿いに新市街地が発展しており、高層ビルの建設ラッシュが続いている。

■ 火災が起きたタンクには5,000KL以上の油が入っていたというが、これが発災タンク1基の容量を言っているのか、火災のあった複数のタンクに入っていた総量を示すのかはっきりしない。グーグルマップ(グーグルアース)で調べると、< 発災施設の概要 >の地図でわかるように、アルビル南部付近の該当するような施設は灰色で塗りつぶされており、発災タンクはもちろん場所さえも特定できない。発災写真を見ると、精製装置があるような施設ではないし、容量5,000KLのタンクが炎上しているものには見えない。

所 感

■ 事故原因は、報道記事から「発災前日の夜に主要原油貯留層から移送された原油がアルビルの石油施設に到達し、施設内の引火源(発電機や電気的故障など)によって火災が発生したとみられる」としたが、軽質分が原油移送ラインを通じて多量にタンクへ入り、ベーパーがタンクからあふれて何らかの引火源によって火災を起こしたものではないだろうか。状況ははっきりしないが、「英国バンスフィールド油槽所タンク火災における消火活動(2005年)」20166月)「最近の貯蔵タンク過充填事故からの教訓」20158月)のタンク過充填による火災事故と類似性があるように思う。

■ 消防活動では「消防士14名が負傷、うち4名が火傷、もうひとりが煙を吸って負傷し、火傷を負った消防士2名は重傷」と報じられているが、実際の消火活動の詳細は分からない。しかし、タンク火災における基本である「発災状況を確認し、ハザード・エリアを決める。そして、消防隊の安全性を確保する」がまったくできていないという印象である。さらに、消火戦略が考えられていないと感じる。今回のような変化するタンク火災では、火災状況に応じて「積極的戦略」、「防御的戦略」、「不介入戦略」を選択しなければ、消防士の安全が確保できない。事故が起こる前に、民間防衛隊(公的消防隊)と石油施設の事業所(長)は消防計画や消火訓練の認識合わせをしておくべきだっただろう。消火戦略については「石油貯蔵タンク火災の消火戦略」201410月)を参照。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

     Afpbb.com,   石油精製施設で大規模火災、14人負傷 イラク,  June  14,  2024

     Tala-com.com, KURDISTAN D‘IRAK: 14 POMPIERS BLESSÉS DANS UN INCENDIE DE RÉSERVOIRS DE CARBURANT,  June  13,  2024

     Apnews.com, Firefighters battle massive fire at northern Iraq oil refinery,  June  13,  2024

     Newarab.com,  Major fire at unauthorised oil refinery in Iraqi Kurdistan leaves 14 injured, furthers air pollution crisis,  June  13,  2024

     Aljazeera.com, Battle to contain oil refinery fire in Iraq,  June  13,  2024

     Jordantimes.com, Fire at Iraqi oil refinery injures 13 — official,  June  14,  2024

     Wam.ae, Massive fire breaks out at oil refinery in Iraq's Erbil,  June  13,  2024

     Energy.economictimes.indiatimes.com, Huge fire at Iraq oil refinery injures 14,  June  14,  2024

     Arabic.euronews.com, شاهد: لا يزال مستمراً.. اندلاع حريق هائل في أحد مصافي أربيل  شمال العراق,  June  13,  2024

     Ajlounnews.net, العراق: حريق كبير يلتهم مصفاة للنفط في أربيل,  June  13,  2024

     Arabic.rt.com, مصادر تكشف تفاصيل جديدة عن مصفى النفط الذيتعرض لحريق هائل في أربيل,  June  13,  2024

     Arabic.cnn.com, العراق.. حريق هائل يندلع بمستودع للنفط في أربيل,  June  13,  2024


後 記: 今回も、前回のブログと同様、地図の検索に泣かされました。アルビルという町は広いところではないので、グーグルマップで貯蔵タンクのある場所を丹念に探していけば、発災場所は見つかるだろうと思っていました。ところが、マップを何度見てもアルビルにはタンクらしいものがありません。おかしいなと思ってグーグルマップをよく見ると、灰色で塗りつぶされているところがたくさんあります。初めは気が付かないほどカムフラージュがじょうずに作ってあります。(グーグルであれば、もっと分からなくすることもできるでしょうが、それだと“フェーク” になります) イラクの意向だと思いますが、こんなことをしてなんになるという気がします。マップの信頼性が薄らいでしまいます。それにしても火災の写真でもタンクの形状が分からない画像を提供していますので、さすがに「報道の自由度ランキング」で169位の国だと関心(?)します。

 ところで、イラクのタンク火災事故はこれまで何件かブログで紹介していますが、今回はイラクの中のクルド人の自治区という初めて聞く話だったので、「補足」の項でイラクやクルディスタン地域を紹介しました。

2024年6月14日金曜日

中国河北省で重油タンク5基が同時に爆発・火災、84時間炎上(2021年)

 今回は、今から3年前の2021531日(月)、中国河北省滄州市にある石油施設で、重油タンク5基が同時に爆発・火災を起こし、84時間炎上した事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、 中国河北省(かほくーしょう、フーペイーショー)滄州市(そうしゅうーし、沧州市;ツァンヂョウーシ)の南大港工業団地(南大港工业园区)にある定瑞石化有限公司(鼎睿石化有限公司)の石油施設である。

■ 事故があったのは、石油施設内の容量2,000KLの重油貯蔵タンクである。内液は希釈アスファルトだった。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 2021531日(月)午後230分頃、重油貯蔵タンクで爆発があり、火災となった。

■ 発災に伴い、南大港工業団地の自衛消防隊が出動した。

■ 近くの住民のひとりは、「ドーンという雷が鳴るような大きな音がして火災が発生しました。その後、消防隊がやってきたが、火は消えていません」と語った。

■ 火災は、2号タンク、3号タンク、4号タンク、5号タンクの上部でほぼ同時に発火した。その直後、1号タンクの上部が発火し、2号タンクの屋根が地面に噴き飛んだ。

■ 火災は複数のタンク火災になった。タンクは激しい炎で燃え上がり、炎が上空100m以上にまで達し、黒煙が立ち昇った。現場では時折爆発が起こり、破片が遠くまで飛び、現場の作業員たちは命からがら逃げた。タンクは少なくとも5基が火災に見舞われた。

■ 消防隊は、火災タンクに放水し、堤内火災に対応し、隣接する貯蔵タンクに冷却散水を行った。しかし、火災タンクに向けて噴射した消火用水は、火災の勢いが強く、消火には効果がなかった。現場には、滄州市の消防隊が到着し、消火活動を行った。燃え上がっている1号タンクから5号タンクを冷却し、流れ出る火災の対応に部隊を投入した。

■ 火災現場から1km以内にある企業は生産を停止し、従業員全員が避難した。周囲の道路は交通規制で閉鎖された。

■ 531日(月)の夜、3号タンクが噴き上げ、6号タンクが発火し、火災となった。

■ 火勢は衰えることがなく、6号タンクと隣接する企業の3,000KLの貯蔵タンク3基の間に水幕を設置して延焼しないように図った。また、土のうを輸送し、防液堤を築き、LNG貯蔵タンクを守った。 202161日、隣接していたLNG貯蔵タンクでは、内液を移送し、処理した。16時間後、タンク内のLNGは空になり、窒素注入の置換が実施され、LNG貯蔵タンクの爆発のリスクを排除した。

■ 消防士と消防車が徹夜で現場の消火活動を行ったが、 火災から1日経った時点でも、依然として火災が続いている。複数のタンクが火災になって長時間燃え続けたため、濃い黒煙が空の半分を覆った。

■ 事故当日、重油タンクまわりで火気工事が行われたといい、これが火災の原因とみられる。火気工事を行っていた作業員は現場から逃げ出し、無事だった。

■ 事故に伴う負傷者はいなかった。

被 害

■ 貯蔵タンク6基が火災で損傷したほか、まわりの設備が損傷した。

■ 長時間の火災により環境が汚染された。また、大量の消火排水や廃棄物が発生した。

■ 住民の避難はなかったが、現場近くの道路が閉鎖された。  

■ 直接的な経済損失は3,8721,000元と報じられている。

< 事故の原因 >

■ 直接原因: 石油・ガス回収配管の設計不良およびタンクまわりでの違法な火気作業による。 石油・ガス回収配管に本来付けておくべき逆火防止装置(フレーム・アレスター)と遮断弁を設置していなかった。その上、タンクまわりでの火気作業の安全手順を逸脱していたことによって、石油・ガス回収配管内およびタンク上部で可燃性ガスが爆発を起こし、タンク内の重油(希釈アスファルト)に引火した。

 間接的な理由: 事業者が許可を得ないでタンクに希釈アスファルトを貯蔵していた。また、事業所内における安全に対する責任が果たされなかった。 工事前に危険要因について検討されず、安全対策を講じておらず、タンク設備や配管の縁切りが行われていなかった。作業員への安全教育や安全説明は実施されておらず、安全を監視するための特別な人員を配置していなかった。

< 対 応 >

■ 事故翌日の61日(火)も依然として火災が続いた。その前の531日(月)の夜、3号タンクが噴き上げ、6号タンクが発火した。タンク火災は6基となった。

■ 62日(水)もタンク火災は続いた。

■ 63日(木)、タンク火災は弱まり始め、5号タンク、3号タンク、4号タンク、1号タンク、2号タンクが鎮火した。

■ 64日(金)、残っていた6号タンクの火災が鎮火した。

■ 65日土)、重油を輸送するタンクローリーから油のサンプルを採取し、性状を検査した。その結果、引火点が3.0℃、沸点が89.4℃であり、油は引火性液体であることが判明した。また、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタンが含まれていた。これにより、石油ガス回収配管と貯蔵タンクの上部にあったガスが爆発・火災の要因だと判断された。

■ 鎮火後、南大港工業団地の管理者は消火活動で出た排水と有害廃棄物の収集・処分に関する作業計画を策定し、611日(金)に事故現場に33,000KLの排水回収池と28,200㎥の有害廃棄物回収場所が緊急に建設された。また、違法保管されていた軽油相当の油2,667.3トンを移送し、612日(土)に全ての移送が完了した。火災タンクに残ったアスファルトや船舶用燃料油は貯蔵タンク内で冷えて固まっており、後日処理される予定になった。613日(日)、事故現場周辺の道路、緑地帯、タンクエリアにあった有害廃棄物が収集され、約6,200㎥の有害廃棄物が処分された。

■ 2021910日(金)、河北省非常管理局は事故原因について調査報告書を発表した。主な内容はつぎのとおりである。

 ● 2021530日(日)、定瑞石化有限公司の東工場では、石油ガス回収装置の設置作業を行っていた。東工場の工場長は、作業員Aに石油ガス回収装置の配管を貯蔵タンクの石油ガス回収収集配管に接続するよう指示した。作業員のリーダーAのほか作業員のBCDEが作業を行った。同日中に貯蔵タンクの石油ガス回収収集配管のブラインドプレートが外され、フランジ接続を完了した。

 ● 531日(月)午前中、作業員ABCDE5名は貯蔵タンクの防油堤の外側で接続配管をプレハブで組み立てた。作業が完了した後、午後220分頃、作業員ABのふたりが貯蔵タンクの防油堤内に入り、切断作業を行った。作業員B1号タンクと2号タンクの間にある石油ガス回収の収集管の切断点を決めた後、午後228分頃にガス溶断器で切断を開始した。数秒後、異常な音がして、2号、3号、4号、5号タンクの上部がほぼ同時に発火した。

 ● さらに続いて、1号タンクの上部が発火し、2号タンクの屋根が地面に噴き飛んだ。作業員ABのふたりはすぐに防油堤から逃げ出し、防油堤の外にいた作業員CDEとともに工場内の倉庫に隠れた。

 ● 531日(月)午後1113分、3号タンクが噴き上げ、6号タンクが閃光とともに発火した。

 ● 63日(木)午前12時、5号タンクの火は消し止められた。 午前1225分、3号タンクと4号タンクの火災が鎮火した。午後810分、1号タンクと2号タンクの火災が鎮火した。

 ● 64日(金)午前230分、6号タンクの火災が鎮火した。火災は発災から84時間続いた。

 ● 南大港工業団地の自衛消防隊、滄州消防隊のほか、天津消防隊、山東消防隊、石家荘消防隊、唐山消防隊、華北油田消防隊などの消防隊が滄州の火災現場に支援のため出動した。結局、消火活動に参加したのは消防士1,547名と消防車351台だった。

■ 中国の非常事態管理部は、この事故に関する教訓についてつぎのように述べている。

「定瑞石化有限公司は、法的認識が弱く、無許可で貯蔵タンクを使用し、希釈アスファルトを違法に貯蔵していた。また、火気作業前に危険要因を特定せず、工事の安全対策を策定・実施しなかった。さらに、火気作業に対して無資格の作業者に違法に指示した」

■ ユーチューブには、火災に関する動画の投稿はない。しかし、中国の動画共有サービス“Bilibil” には火災の発生から鎮火後の状況をまとめた動画が投稿されている。Bilibil「河北沧州鼎睿石化有限公司重油罐着火爆炸事故」2024/04/10 を参照)

補 足

■「中国」は、正式には中華人民共和国で、1949年に中国共産党によって建国された社会主義国家である。人口約139,000万人で、首都は北京である。

「河北省」(かほくーしょう、フーペイーショー)は、中国の東に位置し、省都は石家荘市で人口約7,460万人の省である。

「滄州市」(そうしゅうーし、沧州市;ツァンヂョウーシ)は、河北省の東に位置し、渤海湾を臨み、人口約680万人の市である。

「南大港工業団地」は、河北省滄州市の北東部に位置し、面積は296平方kmで、大港油田の主な生産地である。

■「定瑞石化有限公司」(鼎睿石化有限公司;ティンルイ)は、滄州市南大港管理区の株式会社で2012年に設立され、事業内容は重油、燃料油、石油アスファルトなどの製造・加工である。しかし、会社の実態はよく分からないし、事故の会社名としてはインターネット検索で出てくるが、そのほかはまったく出てこない。おそらく、事故後、会社(名)は変更されたものと思われる。

■「発災タンク」の重油タンクは容量2,000KLと報じられているだけで、そのほかの仕様は分からない。この容量だとすれば、直径14m×高さ14m相当だと思われる。グーグルマップで調べると、南大港工業団地付近にタンク群があり、タンク撤去されたところ(写真参照)があるが、ほかのタンク設備の配置が異なっており、該当する場所は特定できなかった。

 重油の燃焼速度(降下速度)1.7mm/分というデータがあり、時間あたり102mmとなる。発災タンクには軽質分が含まれた希釈アスファルトであり、燃焼速度は速いと思われるが、仮に全面火災時に102mm/時(=10cm/時)とすれば、火災時間の84時間にはタンク液面は8.4m降下することになる。各タンクに油がどのくらいの量(液面)が入っていたか分からないが、鎮火後のタンクは側板が座屈しており、ほとんどのタンクは燃え尽きたものと思う。

所 感

■ この事故は20215月に発生したものであるが、事故調査報告書が同年9月に発表され、その後も度々取り上げられている。20244月にも事故をまとめた動画が発表されている。事故原因を読むと、余りにもひどい(お粗末)事故であるという印象を持つ。工事が関わるタンク事故を回避するには、ルールを正しく守る、危険予知を活発に行う、報連相(報告・連絡・相談)により情報を共有化の3つが重要であるが、今回の事故は「ルール・危険予知・報連相」を指摘する以前の話である。

 中国では、「中国における石油貯蔵所の火災・爆発の事例分析」20197月)という秀逸な論文があり、このブログでも紹介した。この中で「安全に関するマネジメントが科学的な指針によって改善されれば、中国の石油貯蔵所における火災・爆発の多くは防止あるいは回避できる」と示され、ブログの「後記」に「指摘どおりに進むか見ていくこととします」と書いた。しかし、内在していた不安全の問題がこのような形で露呈するとは思ってもいなかった。

■ 消防活動の詳細はあまり発表されていない。消防隊は3日半にも及ぶ火災対応でよく負傷者も出さずに対応している。参画したのは、消防士1,547名と消防車351台だったということであるが、隊員や消防資機材の交代などはどのようにしたのか知りたいところである。

 容量2,000KLタンクの火災では、大容量泡放射砲システムは必要なく、3点セット(大型化学消防車、大型高所放水車、泡原液搬送車)でよいとされている。今回の場合、タンク5基が同時に爆発・火災を起こすという極めて稀な事例であるが、日本でも複数タンク火災は起こり得ると考えるべきである。消火活動の写真によると、大型高所放水車などが活動しており、消防資機材が貧しいということではない。容量の大きくない貯蔵タンクでも、堤内火災を伴う複数タンク火災において既存の消防資機材では太刀打ちできないことを示す事例である。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Soundofhope.or,  河北沧州多个油罐着火18个小时仍未扑视频,  June  01,  2021

    M.news.cctv.com,  河北沧州南大港产业园区兴工区油罐着火 周边疏散,  June  01,  2021

    Hb.dzwww.com,  河北沧州涉重油罐火灾企相关人已被控制 目击者:像天雷,炸了就着火了,  June  01,  2021

    Goohaha.com,  2021河北沧州鼎睿石化化5·31火灾故故,火灾持续84小时,  June  28,  2022

    Anquan.com.cn,  河北沧州一石化企重油生火灾 一公里范围内人被疏散,  June  02,  2021

    Baike.com,  5·31州油罐着火事故,  February  02,  2024

    M.163.com,  油罐火灾失达3872.1万元,事故期间火焰沸溢喷溅200,  September  14,  2021

    Anhuanjia.com,  河北应急管理公布州鼎睿石化5·31火灾事故调查报告,9人被追责,  September  14,  2021

    M.thepaper.cn, 中国骄 | 逆行:84小时火海鏖,  November  10,  2021

    Toutiao.com,  河北沧州南大港产业园区兴工区油罐着火 周边疏散,  June  01,  2021

    Bilibili.com,   河北沧州鼎睿石化有限公司重油罐着火爆炸事故, April  10,  2024  


後 記: 2021年のタンク火災の事故ですが、メディアによる報道記事はたくさんありました。中国語記事では、インターネットの翻訳機能が役立ちます。それでも首をかしげるような訳が出てきます。そのような場合の対処方法は、中国語を英語に訳し、その英語を日本語に訳すという方法があります。中国語と英語は語順が似ており、日本語とは異なっているということを実感しました。ところで、今回は発災タンクの場所(地図)で悩みました。地図検索だけで二・三日は費やし、結局、悩んだ末にあきらめました。さすがにグーグルマップも中国の地図の詳細は取り込みが難しいのでしょう。中国地図である“高徳地図”をダウンロードしてみましたが、タンク配置のような地図はダメでした。