今回は、2023年5月3日(水)、ロシアのクラスノダール地方のボルナにある石油貯蔵施設の燃料油タンクへの無人航空機(ドローン)攻撃によるタンク火災、および5月4日(木)イルスキー製油所内にある石油製品貯蔵施設のディーゼル燃料タンクへの無人航空機攻撃によるタンク火災、ならびに5月5日(金)イルスキー製油所内にある石油精製施設への無人航空機攻撃による設備火災の事故を紹介します。
< 発災施設の概要 (その1) >
■ 発災施設は、ロシア(Russia)クラスノダール地方(Krasnodar)テムリュク地区(Temryuksky)のボルナ(Volna)にあるタマンネフテガス社(Tamanneftegaz)の石油貯蔵施設である。民間運営会社タマンネフテガス社は、ボルナに貯蔵タンク30基以上で総貯蔵容量100万KL超の施設を有し、石油や製品の輸出と船舶燃料補給を扱うタマン海洋ターミナルにサービスを提供している。
■ 発災があったのは、石油貯蔵施設の容量20,000KLの燃料油タンクである。(グーグルマップで調べると、石油貯蔵施設のタンク群は直径約45m級がほとんどである)
< 事故の状況および影響
>
事故の発生
■ 2023年5月3日(水)午前3時頃、石油貯蔵施設で無人航空機(ドローン)攻撃があり、容量20,000KLのタンク1基で火災が発生した。
■ 住民によると、火災の直前に30分間隔で爆発音が2回聞こえたという。監視カメラでは、無人航空機が2機石油貯蔵施設に接近したとき、1機は撃墜されたが、もう1機がタンクへ命中したことが写っていた。
■ 発災に伴い、消防隊が5台の消防車で出動した。
■ タンクの上部の屋根が損壊し、全面火災の様相を呈した。火災の面積は1,200㎡になった。
■ 攻撃や火災による死傷者は出ていない。
■ ユーチューブには、タンク火災の映像が投稿されている。(YouTube、「Russia blames Ukrainian drone attack for oil depot fire」(2023/05/03)を参照)
被 害
■ 容量20,000KLのタンク1基が損壊し、タンク内の燃料油が焼失した。
■ 死傷者は出なかった。
■ 火災と黒煙が立ち昇り、大気の環境汚染を生じた。
< 事故の原因 >
■ 戦争による軍事行動である。(平常時の“故意の過失”に該当)
< 対 応 >■ 消防隊は、約85名の消防士と23台の資機材で火災現場で活動した。
■ タンク火災は5月3日(木)午後10時頃に制圧され、午後11時42分に鎮火した。最終的に同社の消防隊とクラスノダール地域緊急事態省の部隊を含む250人以上が消火活動に参加した。
■ 5月4日(木)、タマンネフテガス社は、前日に発生した石油貯蔵タンクの火災が鎮火したことを受け、タマン港の海洋ターミナルの操業が再開したと同社のウェブサイトで発表した。
■ 5月4日(木)、タマンネフテガス社は、貯蔵タンクに自動散水システムと防火対策が装備されており、隣接するタンクへの延焼やその他のより深刻な結果を回避することができたと同社のウェブサイトに掲載した。事業所の消防隊と生産担当者は緊急事態時の訓練を定期的に行っており、今回の事故でも、最初の数分間が決定的に重要だったが、この訓練と防火システムの運用の結果だと付け加えている。
< 発災施設の概要 (その2) >
■ 発災施設は、ロシア(Russia)クラスノダール地方(Krasnodar)にあるイルスキー製油所(Irsky Refinery)である。イルスキー製油所は精製能力133,000バレル/日(年間約660万トンの処理能力)を有している。
■ 発災があったのは、イルスキー製油所内にある石油製品貯蔵施設の容量5,000KLのディーゼル燃料タンクと石油精製施設である。
< 事故の状況および影響
>
事故の発生
■ 2023年5月4日(木)午前3時頃、石油製品貯蔵施設で無人航空機(ドローン)の攻撃があり、ディーゼル燃料タンクが炎上し、火災となった。
容量5,000KLのディーゼル燃料タンクには、油が85%充填されていた。
■ 無人航空機攻撃は5月4日(木)午前2時頃から始まった。最初の1機は爆発せず、イルスキー製油所内に落下し、製油所の警備員が残骸を調べている間に別な無人航空機が飛来した。無人航空機攻撃はほぼ1時間続き、製油所敷地内で3回の爆発音が轟いた。無人航空機3機によるもので、そのうち1機がタンクに命中したとみられる。
■ 発災に伴い、消防隊が出動した。出動したのは消防士48人と消防資機材16台である。
■ 火災面積は約400㎡だった。
■ 攻撃と火災に伴う死傷者はいなかった。
■ 翌5月5日(金)午前8時30分頃、同じ製油所の石油精製施設で無人航空機攻撃による火災が起きた。死傷者はいなかった。年間生産能力180万トンのCDU‐5塔の空冷式冷却器が攻撃を受けた。火災範囲は60㎡であったが、同日午前9時39分、火災は消された。
■ 発災に伴い、消防隊が出動したが、消火活動を行う前に、火災は制圧されていた。
■ 死傷者は出なかった。設備は数週間以内に交換できる可能性があるが、その影響はまだ分からないという。
被 害
■ 石油製品貯蔵施設の燃料貯蔵タンク1基が損壊し、タンク内の油が焼失した。
■ 石油精製装置の空冷式冷却器が損壊し、精製装置内の保有油が焼失した。
■ 死傷者は出なかった。
■ 火災と黒煙が立ち昇り、大気の環境汚染を生じた。
< 事故の原因 >
■ 戦争による軍事行動である。(平常時の“故意の過失”に該当)
< 対 応 >
■ タンク火災は消火活動によって、午前5時17分、2時間あまりで鎮火したという。消火活動に出動したのは、結局、消防士など167名と39台の消防資機材だった。
■ ツイッターには、火災直後のタンク火災と緊急車両が走っているビデオ映像が投稿されている。
(「Ukraine Reporter - A fire has erupted at the Ilsky oil refinery in Krasnodar Krai, Russia」を参照)
■ ロシア国内のウクライナに近い地域でインフラストラクチャーや軍事目標に対して頻繁な無人機攻撃だとロシアが言っていることに対して、ウクライナはその実行を主張していない。
■ 2度にわたるイルスキー製油所への攻撃により、重要施設の脆弱性が露呈し、エネルギー供給や価格への影響も懸念されている。これを受けて、当局は重要なインフラストラクチャーへのセキュリティ対策を強化することが求められる。しかし、ドローン技術は常に進化しているため、このような現場を防護することは継続的な課題が生じている。
補 足
■ 「ロシア」(Russia)は、正式にはロシア連邦といい、ユーラシア大陸北部に位置し、人口約1億4,600万人の連邦共和制国家である。2022年2月24日(木)、ロシアが、突如、ウクライナに侵攻し、軍事衝突が起こった。
ロシアがウクライナに侵攻して以降、両国のタンクへの攻撃を紹介した事例はつぎのとおりである。
●「ウクライナ各地で石油貯蔵所が攻撃によってタンク火災」(2022年3月)
●「ウクライナ各地の石油貯蔵所がミサイル攻撃によってタンク火災」(2022年4月)
●「ウクライナで化学工場の硝酸タンクがロシアの攻撃で爆発」(2022年6月)
●「ロシアのベルゴロド石油貯蔵所にヘリコプターによる攻撃」( 2022年5月)
●「ロシアのふたつの石油貯蔵所でタンク爆発・火災、テロ攻撃か」(2022年4月)
●「ロシアの2箇所の石油貯蔵施設を無人航空機(ドローン)で攻撃、タンク被害」( 2022年11月)
●「ロシアがウクライナのひまわり油タンクをカミカゼ無人機で攻撃」(2022年10月)
●「ロシアの石油貯蔵所で無人航空機によって燃料タンク3基が火災」(2022年11月)
●「ロシアの2箇所の石油貯蔵施設を無人航空機(ドローン)で攻撃、タンク被害」(2022年12月)
●「クリミア半島の石油貯蔵施設で無人航空機(ドローン)攻撃でタンク火災」(2023年4月)
「クラスノダール地方」は、ロシアの南部連邦管区を構成する地方のひとつで人口約540万人で、行政の中心はクラスノダール市である。
所 感
■ 無人航空機(ドローン)による貯蔵タンクへの攻撃が進化していることを表す事例である。クラスノダール地方ボルナの石油貯蔵施設のタンク火災は初めて全面火災の様相を呈した激しいものである。これまではタンク側板が狙われていたが、今回はタンク屋根を突き破る攻撃ではなかっただろうか。これまでの無人航空機による攻撃の被災状況は意外に大きくなかった印象であったが、これからは全面火災になることを想定しなければならないだろう。
■ ボルナのタンク火災は直径約45mの全面火災とみられ、放射能力10,000~20,000リットル/分の大容量泡放射砲システムが必要である。これに対して現場では、長いはしご車の先端に泡モニターを付けた放射距離を稼ぐ泡放射設備を使用しているが、火災時間は20時間超であり、有効には働かなかったとみられる。
■ イルスキー製油所内にある石油製品貯蔵施設の容量5,000KLのディーゼル燃料タンクの火災では、タンク側板上部に無人航空機(ドローン)の命中した穴の損傷部が見られる。側板は座屈していないが、塗装は大きく剥離しており、激しい火災だったことが伺える。タンクは油が85%充填されていたので、発災初期はタンク内の油が流出して、タンク火災とともに堤内火災が生じたとみられる。また、ディーゼル燃料の燃焼(降下)速度を20cm/時と仮定すれば、2時間で40cmの油面低下にしかならず、
側板の変色範囲と比べれば、2時間あまりで消火したという情報は疑問が残る。
■ イルスキー製油所のタンク火災に対する消防活動は明らかでないが、被災写真には防油堤外に消火泡を使用した残りの泡が見えるので、消火戦術としては泡消火方法がとられたとみられる。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Jp.reuters.com, ロシア南部の製油所に無人機、石油タンクが火災, May 04,
2023
・Newsdig.tbs.co.jp, ロシア南部・クリミア橋近くの石油貯蔵施設で大規模火災 独立系メディア「ドローン攻撃があった」 けが人なし, May 04, 2023
・Tokyo-np.co.jp, ロシア石油施設に再び無人機攻撃 クリミア対岸、火災発生, May 05,
2023
・Sankei.com, ロシアの燃料タンクで火災 3日連続 無人機攻撃と報道, May 05,
2023
・News.tv-asahi.co.jp, ロシア南部の製油所がドローン4機の攻撃受ける 現地メディア報じる, May
04, 2023
・Jp.reuters.com, 新たなドローン攻撃でロシアのイルスキー製油所で火災発生 , May
05, 2023
・Novayagazeta.eu, Second drone
attack in two days on oil refinery in Russia’s Krasnodar region, May 05, 2023
・Agenzianova.com, A drone strike causes a fire at the Ilsky refinery
in the Krosnodar region of Russia,
May 04, 2023
・Aljazeera.com, Russian drone attack in Ukraine after oil refinery
targeted, May 04,
2023
・Tass.com, Oil storage reservoir at Krasnodar Region refinery catches
fire after drone attack, May 04,
2023
・Pravda.com.ua, Oil refinery catches fire due to drone strike in
Kuban, Russia, May 04,
2023
・Newsweek.com, Russian Oil Refinery Hit With Second Drone Attack This
Week, May 05,
2023
・Bnn.network, Ilsky Oil Refinery in Russia Suffers Second Drone
Attack in Two Days, Causes Fire,
May 05, 2023
・Upstreamonline.com, Firefighters battle blaze at Russia oil depot
hit by latest drone attack, May 03,
2023
・93.ru, «Вторая неспокойная ночь». В поселке Ильском под Краснодаром загорелся резервуар с нефтепродуктами, May 04,
2023
・Ntv.ru, Из-за атаки беспилотника горит резервуар Ильского НПЗ на Кубани, May 04,
2023
・Rtvi.com, РИА Новости: причиной пожара на Ильском НПЗ стала атака четырех беспилотников, May 04,
2023
・Kommersant.ru, СМИ: причиной пожара на Ильском НПЗ стала атака четырех беспилотников, May 04,
2023
・Tass.ru, На территории Ильского НПЗ на Кубани из-за атаки беспилотника произошел пожар, May 05,
2023
・Krasnodar.bezformata.com,
Пожар на нефтебазе под Краснодаром произошел из-за атаки беспилотника, May 04,
2023
・Tamanneftegas.ru, НАЛИВНОЙ ТЕРМИНАЛ В ПОРТУ ТАМАНЬ ВОЗОБНОВИЛ РАБОТУ, May 04,
2023
後 記: 前回に引き続いてロシアの戦時下における無人航空機(ドローン)のタンク攻撃について調べました。どれだけ多くのことが報じられているか気にはなりましたが、今回はロシア国内に関する事故情報であるため、根気よく調べると、意外にローカルメディアによって報じられていました。ボルナのタンク火災では事業所のウェブサイトに事故関連のプレスリリースが掲載されていました。報道管制があるかと思っていましたが、モスクワから遠い地方だとまだ余裕があるのでしょうか。さらに、ツイッターなどソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)による情報は止めようがないといった感じです。
ところで、無人航空機の攻撃は進化していると書きましたが、2022年11月頃からタンクへの攻撃方法(どこに命中させれば被害が大きくなるかなど)を試しており、今回のタンク全面火災という結果に至ったように感じます。攻撃の実行者は、正確にいえば不明なのですが、単にドローンを飛ばしているというのではなく、意図をもっていますね。
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