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2022年12月24日土曜日

ロシアの2箇所の石油貯蔵施設を無人航空機(ドローン)で攻撃、タンク被害

 今回は、20221116日(水)と126日(火)にロシアの2つの石油貯蔵施設で無人航空機(ドローン)による攻撃があり、燃料タンクが火災や破損した事例を紹介します。

< 発災施設の概要(その1 >

■ 発災があったのは、ロシア(Russia)オリョール州(Oryol)スタルノイコン村(Stalnoy Kon)にある石油企業のトランスネフト社(Transneft)が操業する石油貯蔵所である。

■ 事故があったのは、石油貯蔵所の燃料タンクである。

<事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 20221116日(水)午前4時頃、無人航空機(ドローン)がオリョール州スタルノイ コン村にある石油貯蔵所を攻撃し、貯蔵タンクが損傷した。

■ 発災に伴い、消防隊が出動し、現場で対応した。

■ 発災に伴う死傷者は出なかった。村の道路には警察がパトロールを実施している。

■ 攻撃により、タンク側板の上部が破損し、穴が開いた。タンクには容量の四分の一(25%)しか油が入っていなかったため、火災は生じなかったと報じられている。

■ 別な報告によると、ドローンによる攻撃で深さ約12フィート(3.6m)のクレーターが残ったという。

■ この石油貯蔵所は、ロシアの石油企業であるトランスネフト社が操業しており、ロシアの石油を欧州に輸送するドルジバ・パイプライン(Druzhba Pipeline)のネットワークの一部である。ロシアによるウクライナ侵攻以降、パイプラインの機能は数回中断されていたが、1123日(水)、トランスネフトは操業を一部再開したと発表した。

< 発災施設の概要(その2 >

■ 発災があったのは、ロシア(Russia)クルスク州(Kursk)のクルスク・ ボストーチヌイ空港(Kursk Vostochny Airport)である。

■ 事故があったのは、空港区域にある石油貯蔵施設の燃料タンクである。

<事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2022126日(火)午前5時頃、クルスク・ ボストーチヌイ空港の区域にある石油貯蔵施設で、無人航空機(ドローン)攻撃によって燃料タンクで火災が発生した。

■ 火災はタンクから渦巻く炎と黒煙が空に向かって上がった。

■ 発災に伴い、消防隊が出動した。消防士は500㎡にわたる炎に取り組んで消火活動を行っていると報じられている。市当局によると、モスクワ鉄道が3台の消火用列車を派遣した。各車両には 240トンの水と5 トン以上の消火泡を積んでいるという。

■ 発災により、近くの二つの村の学校では授業が中止された。

■ 126日午前10時時点で火災はまだ猛威を振るっており、さらに約10時間経過しても燃え続けている。火災の面積は約5,500㎡に拡大し、新たな消防隊が現場に出動した。

■ 事故に伴う死傷者は出ていない。

■ 127日(水)、燃料タンクの火災は消火された。クルスク地域の消防隊から200名以上が24時間以上にわたって消火活動を行った。

■ 空港は軍民共用だが、ロシアのウクライナ侵攻後は民間機は受け入れていない。クルスク・ボストーチヌイ空港には、スホーイSu-30SM戦闘機をもつ第14護衛戦闘航空連隊が駐屯している。

■ 攻撃はロシアの重要な戦略的軍事施設の脆弱性を示しており、無人航空機が軍事施設に近づくことができたという防空の有効性について疑問を投げかけている。

■ その前日の125日(月)の朝、ウクライナ国境から400km以上ロシア側に入ったリャザン州のディアギレボ空軍基地とサラトフ州のエンゲリス空軍基地が無人航空機(ドローン)に攻撃された。

 リャザン州のジャギレボ空軍基地では爆発が起き、燃料タンク車などが炎上し、3人が死亡した。ロシアは、旧ソ連製の無人航空機(ドローン)によるウクライナ軍の攻撃だったと指摘した。

 サラトフ州のエンゲリス空軍基地では、基地にいた兵士3名が死亡、4名が負傷したほか、 Tu-95 爆撃機2機に損傷を受けた。

 ウクライナは、いずれの攻撃についても正式には認めていない。しかし、ウクライナの高官は、攻撃に関与した無人航空機(ドローン)はウクライナの領土から発射され、少なくとも1回の攻撃は基地近くの特殊部隊の助けを借りて行われたと述べた。


補 足

■「ロシア」(Russia)は、正式にはロシア連邦といい、ユーラシア大陸北部に位置し、人口約14,600万人の連邦共和制国家である。

「オリョール州」(Oryol)は、ロシアの西部に位置し、モスクワからは南南西へ360kmの距離にあり、人口約86万人である。

「クルスク州」 (Kursk)は、ロシア西部に位置し、人口約123万人の州で、州都はクルスク市である。

■「トランスネフチ社」(Transneft)は、1993年にロシア連邦政府によって設立され、ロシアを拠点とする石油とガス輸送を行う会社である。約70,000kmのパイプラインと500以上のポンプ場を運営し、バルチックパイプラインシステム、バルチックパイプラインシステム-2、東シベリア太平洋石油パイプライン、パープサモトラーパイプラインシステムなどの石油輸送システムを運営する。ポーランド、ハンガリー、スロバキア、ラトビア、中国、ウズベキスタン、ベラルーシなど、国内外の市場でサービスを提供し、国内に多数の子会社がある。

 トランスネフチ社は、20224月、ブリャンスクにある石油貯蔵所がテロ攻撃で被災している。「ロシアのふたつの石油貯蔵所でタンク爆発・火災、テロ攻撃か」を参照。 

■ オリョール地方スタルノイコン村にあるトランスネフト社の石油貯蔵所には、グーグルマップで調べると、大きなタンクが4基、中規模のタンクが3基、小さなタンクが7基以上ある。大きなタンクの直径は約33mであり、高さを20mと仮定すれば、容量は17,000KLクラスである。中規模のタンクの直径は約27mで、高さを20mと仮定すれば、容量は11,000KLクラスである。 「被災タンク」は被災写真から中規模のタンクの最も南側にあるタンクとみられる。

■ クルスク州のクルスク・ ボストーチヌイ空港をグーグルマップで調べると、同じ規模のタンクが5基ある。「被災タンク」は北側のタンク3基のうちのいずれかとみられる。これらのタンクの直径は約8mで、高さを8mと仮定すれば、容量は400KLクラスである。火災の面積は約5,500㎡に拡大しているので、北側タンクの3基全部が被災したとみられる。

所 感

■ オリョール州スタルノイコン村にあるトランスネフト社の石油貯蔵所におけるタンク被災はよく分からないことが多い。攻撃により、タンク側板の上部が破損し、穴が開いているが、タンクには容量の四分の一(25%)しか油が入っていなかったため、火災は生じなかったと報じられている。タンク側板には大きな穴が開いているが、確かに火災跡はみられない。このような大きな損傷を受けて火災が発生しなかったとは考え難い。おそらく、タンクが空だったのではないだろうか。

 一方、タンクの火災と消火活動の写真(下部)があるが、これは別な要因の事故だという。

しかし、20221223日(金)に無人航空機(ドローン)攻撃の疑いで火災になったことを裏付けるビデオが投稿された。ビデオはぼかしなどで状況ははっきり分からない。記事によると、タンク群に対して2回の別々の攻撃が行われており、飛行速度の遅い無人航空機(ドローン)が爆弾を2回投下しているという。

 当初からタンク火災の写真がインターネットに出ており、2回のうちのいずれかの無人航空機(ドローン)による攻撃でタンク火災があったと思われる。もう1回の攻撃がタンク側板の上部破損の事故ではないだろうか。

■ クルスク州のクルスク・ ボストーチヌイ空港の石油貯蔵施設のタンク火災は、無人航空機(ドローン)攻撃により1基が火災になり、堤内火災によってほかの2基も火災になったものとみられる。消防活動の状況は分からないが、比較的小型(400KLクラス)のタンクではあるが、堤内火災を引き起こしているので、極めて難しい消火活動だったと思われる。無人航空機(ドローン)の攻撃が激しいタンク火災になることを知ることのできる事例である。


備 考

 本情報はつぎの情報に基づいてまとめたものである。

    Nikkei.com,  ウクライナ、ロシアをまた無人機攻撃 石油タンクで火災,  December  07,  2022

     Mainichi.jp,  ロシア南西部の軍用空港にもドローン攻撃か 近くの石油施設炎上,  December  07,  2022

     Sankei.com,  6日も無人機攻撃? ウクライナ、露を長距離攻撃か,  December  06,  2022

     Bbc.com, Ukraine war: Russian military airfields hit by explosions,  December  05,  2022

     Theguardian.com, Drone attack hits oil storage tank at airfield in Russia’s Kursk region,  December  05,  2022

     Aerotime.aero,  New drone attacks target Russian oil depots in Kursk and Bryansk,  December  06,  2022

     Reuters.com, Drone strikes oil tank at airfield in Russia's Kursk region,  December  06,  2022

     Euromaidanpress.com,  Oil depot on fire after drone attack on airfield in Russia’s Kursk: VIDEOS ,  December  06,  2022

     Thedrive.com, Russian Airfield In Kursk Set Ablaze By Apparent Ukrainian Drone Strike,  December  06,  2022

     Tass.com, Fire at oil depot near Kursk airfield extinguished — governor,  December  07,  2022

     Saudigazette.com.sa,  Drone strike hits third Russian airfield near Kursk,  December  06,  2022

     Dailymail.co.uk, 'Ukraine drone attack' hits ANOTHER Russian airbase a day after strike damaged two nuclear bombers,  December  06,  2022

     Scmp.com, 3 killed in Ukraine drone attacks on airbases deep inside Russia,  December  06,  2022

     Kommersant.ru, 3Беспилотник долетел до нефтенакопителя,  December  06,  2022

     360tv.ru, Появилось видео повреждений нефтебазы в Орловской области после атаки беспилотника,  November  16,  2022

     Neftegaz.ru, Украинский БПЛА ударил в нефтяной резервуар Транснефти в Орловской области,  November  16,  2022

     Freepresskashmir.news, Drone strikes oil depot in Russia’s Oryol Region: Governor Andrey Klychkov,  December  06,  2022

     News.am, Drone 'allegedly' blows up oil depot in Oryol Oblast,  November  16,  2022

     Dailymail.co.uk, Ukraine 'blows up Russian oil depot 190 miles from Moscow in drone strike' hours after Putin's forces launched barrage of 90 missiles,  November  16,  2022

     English.nv.ua, Video of alleged drone attack on Russian oil depot appears online,  December  23,  2022


後 記: 今回の事故情報によってはっきりしたことがあります。ひとつはロシアが完全に戦時下の情報管制になってしまって、事実が語られないことです。大体、州知事の記者発表がベースになっているので、州や国に不都合なことはいわないのでしょう。

 もうひとつは、無人航空機(ドローン)によるタンク攻撃が進化しています。無人航空機(ドローン)が何百kmも離れたところから発射され、重要施設に容易に近づくことができるという防空の脆弱性があるのはロシアだけの問題ではないでしょう。そして攻撃側が発表しなければ、誰が攻撃したのか特定はできないという新たな問題が出てきています。日本は、日本海のすぐそばに原子力発電所があり、石油備蓄基地などの重要施設があります。今回の事故情報を教訓にすれば、従来の個人携行式の武器によるテロ攻撃を想定していた日本のテロ対策を見直す(無人航空機によるテロへの対策)方が、敵基地攻撃云々より先のように思いますが・・・

2022年12月14日水曜日

オランダの輸送車両施設のタンクから有毒物質が漏洩、負傷者8名

  今回は20221123日(水)、オランダのノールトブラバント州のムルダイク工業団地にあるGCA社の輸送車両施設で有毒物質が漏洩し、体調不良者が発生した事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、オランダ(Netherlands )ノールトブラバント州(Noord-Brabant )のムルダイク工業団地(Moerdijk industrial estate)にあるGCA社の輸送車両施設である。

■ 事故があったのは、輸送用タンク(コンテナ)とみられる。


< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 20221123日(水)午前850分頃、 GCA社の輸送車両施設から有毒物質が漏洩した。

■ 漏洩物に出くわした作業員8名が体調不良となり、病院へ搬送された。うち1名は重傷だという。当初、負傷者は5名と報告されたが、後に8名に修正された。

■ 事故発生に伴い、救急車、消防署、警察、ヘリコプターの外傷班が現場に出動した。

■ 化学物質はGCA社の輸送用タンクに関連した保守作業中に放出されたとみられる。

■ ムルダイク工業団地には、多数の化学会社の本拠地がある。漏洩の影響は、隣接するストールスヘブン社(Stolthaven)にも及んだ。

■ 漏洩した有毒物質は、殺虫剤などに使われる三塩化リンとみられる。三塩化リンは、腐食性があり、無色発煙性のある透明な液体で、眼、皮膚、呼吸器官に刺激を与え、深刻な肺疾患を引き起こす可能性がある。

■ 当局は、タンク内に有毒物質があったのかや、どのようにして漏れたかについてはまだ確定していないと述べている。

被 害

■ 負傷者(毒性物資による体調不良)が8名あった。うち1名は重傷である。 

■ 隣接する工場へも影響があった。影響度は不明である。

< 事故の原因 >

■ 負傷者が発生した原因は、有毒物質の三塩化リンが漏洩したためとみられる。

■ 三塩化リンが漏洩した原因は分かっていない。

< 対 応 >

■ 漏洩した有毒物質の対応や処理は報じられていない。

■ ムルダイク工業団地は、南ホラント州(Zuid-Holland)との国境にあるホランズ・ディエップ(Hollands Diep)に位置し、多くの化学会社が立地しているが、事故は今回だけでない。20146月、ムルダイク工業団地にあるシェル社(Shell)で大爆発があった。その衝撃はユトレヒト(Utrecht)やザ・ハウジ(The Hauge)でも感じられた。爆発は、反応器内の物質間の予想外の化学反応によって起こった。2人が負傷した。シェル社は、重大な事故を防ぐために十分な対策を講じなかったとして、250万ユーロの罰金を科された。

補 足

■「オランダ」(Netherlands)は、 西ヨーロッパに位置し、東はドイツ、南はベルギーと国境を接し、北と西は北海に面し、人口約1,740万人の立憲君主制国家である。

「ノールトブラバント州」(Noord-Brabant)は、オランダ南端部に位置し、人口約241万人の州である。

■「GCA社」は、1956年に設立した欧州の輸送会社で、主にバルク輸送、 鉄道輸送、 道路輸送、 タンク(コンテナ)輸送を事業の柱としている。オランダにあるGCA Nederlandは、Charles Andre Group (GCA) の子会社であり、欧州の化学、液体、ガス業界にバルク・ロジスティクス・サービスを提供している。ムルダイク工業団地(Moerdijk) に専用の車両施設がある。

 GCA社は、石油化学、危険物、非危険物について客先のニーズに応じた輸送を行っている。 また、化学物質 (危険物かどうかに関係なく)、食品、ドライバルク製品を輸送したロードタンカー、タンクコンテナなどの内部洗浄も手がけている。

 GCA社のブランドムービーがユーチューブに投稿されている。(YouTubeGCA Nederland brandmovie 2019/03/21を参照)

■「三塩化リン」は、リンの塩化物のひとつの無機化合物で、化学式はPCl3である。毒性、腐食性を持ち、常温・常圧において液体である。水と激しく反応する。工業的に重要な化合物であり、除草剤、殺虫剤、可塑剤、油への添加剤、難燃剤の製造に使われている。毒物および劇物取締法で毒物に指定されている。

■「発災タンク」については“貯蔵用タンク” と報じられているだけで、詳細な仕様は伝えられていない。GCA社が輸送事業を行っていることから、タンクコンテナなどの輸送用タンクとみられる。

所 感

■ 事故の状況や対応については、あまり報じられていないので、類推になってしまうが、つぎのようなことが考えられる。

 ● 輸送用タンク(コンテナ)保守のため、ドレン弁を開けた際、残っていた三塩化リンが漏れ出した。この処理をしようと水をかけたため、激しく反応して有毒ガスが発生した。

 ● 輸送用タンク(コンテナ)の洗浄を行うためタンク内部に水を入れた際、三塩化リンが激しく反応し、有毒ガスが発生した。

 ● 輸送用タンク(コンテナ)を洗浄しようと、内部に入った際、残っていた三塩化リンが水と激しく反応して有毒ガスが発生した。

 ● 保管している輸送用タンク(コンテナ)から漏洩した。

 ● 輸送用タンク(コンテナ)の保守メンバーは三塩化リンの毒性や物性について基本知識が不足していた。

 印象としては、輸送車両施設で働いている人が多種の化学物質や毒性物質について知識を持たなければならないということに対する盲点があったように思う。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Nltimes.nl,  Eight hospitalized in chemical workplace incident; One in critical condition,  November  23,  2022

      Dutchnews.nl,  Eight hospitalised after chemical leak from storage tank in Moerdijk,  November  23,  2022

      Tankstoragemag.com, Eight hospitalised after chemical leak,  November  24,  2022

      Transport-online.nl,  Acht mensen onwel door giftige stof op industrieterrein Moerdijk,  November  23,  2022

      Ruetir.com, Eight people injured due to release of toxic substance at Moerdijk industrial estate,  November  23,  2022


後 記: 今回の事故は、工業団地の貯蔵用タンクで起こったらしいという認識でした。それにしては、取り上げるメディアが少ないなぁと思っていました。 GCA社は化学会社と思い込んでいましたから、殺虫剤製造プロセスと三塩化リンの関係を調べたりしました。ところが、GCA社は輸送会社らしいという情報が出ても、三塩化リンと結びつきませんでした。 GCA社について調べていくと、輸送車両のタンクやコンテナの洗浄を業務のひとつとして行っていることが分かりました。これで、三塩化リンとの関係が類推できました。

2022年12月10日土曜日

ロシアの石油貯蔵所で無人航空機によって燃料タンク3基が火災

 今回は、20221130日(水)、ロシアのブリャンスク州スラジスキー地区にある石油貯蔵所でディーゼル燃料用の貯蔵タンクが無人航空機(ドローン)によって攻撃された事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、ロシア(Russia)のブリャンスク州(Bryansk)のスラジスキー地区(Surazhsky district)にある石油貯蔵所である。

■ 事故があったのは、石油貯蔵所内にあるディーゼル燃料用の貯蔵タンクである。

<事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 20221130日(水)午前6時頃、石油貯蔵所内で貯蔵タンクが火災を起こした。タンクの容量は5,000トンで、発災時は満杯であった。

■ 火災は、正体不明の無人航空機(ドローン)がディーゼル燃料タンクの1基に爆発物を落とした後に始まった。その後、容量5,000トンの燃料タンク2基に延焼した。

■ 発災に伴い、消防隊と救助隊が出動した。現場に出動した隊員は80名を超え、車両は30台にのぼった。また、緊急事態省の航空機動部隊も現場に派遣された。

■ 火災発生直後に撮影されたテレグラム・チャンネル(Telegram channels)のビデオでは、2 基の燃料タンクが黒煙と炎を噴き出していることがわかる。少なくとも1基は爆風による損傷の兆候を示しており、金属製の側板が外側に曲げられている。

■ 火災エリアは1,800㎡に及び、その後、さらに3,000㎡のエリアに広がった。

■ 事故に伴う死傷者は無かった。

■ ユーチューブにタンク火災の映像が投稿されている。

 ●В Брянській області загорівся резервуар з нафтопродуктами(ブリャンスク地方で石油製品のタンクが火災)(2022/11/30

 ●Fire at an oil storage tank in the Bryansk region of the Russian Federation2022/12/03

■ ロシアのウクライナ侵攻(ロシアのウクライナでの特別作戦)に関連して202210月以降、ブリャンスク地方などは中レベルの対応体制(黄色レベルのテロの脅威)が導入され、公の秩序の保護の強化、国家施設の運営のための特別体制、および出入りの制限がとられていた。

被 害

■ 貯蔵タンク1基が攻撃によって破損し、さらにタンク2基が火災によって被災した。内部の燃料油が焼失した。このほか、堤内火災によって設備被害が出ているが、詳細は分からない。

■ 負傷者は出なかった。

< 事故の原因 >

■ 原因は、無人航空機(ドローン)による攻撃である。

< 対 応 >

■ 1130日(水)、燃え広がった火災は制圧され、3時間後に鎮火したと報じられている。

補 足

■「ロシア」(Russia)は、正式にはロシア連邦といい、ユーラシア大陸北部に位置し、人口約14,600万人の連邦共和制国家である。

「ブリャンスク州」(Bryansk)は、ロシアの北西部に位置し、人口約128万人の州である。行政の中心地はブリャンスク市で、20224月には「ロシアのふたつの石油貯蔵所でタンク爆発・火災、テロ攻撃か」の事故があった。

「スラジスキー地区」 (Surazhsky district)は、ブリャンスク州にある27 の地区の1つである。州の西部に位置し、人口は約27,200人で、行政の中心地は スラーズ市である。

 ■「発災タンク」は、ディーゼル燃料タンクで容量5,000トンと報じられている。グーグルマップで調べてみると、スラジスキー地区には規模の大きい石油貯蔵所がある。固定屋根式(コーンルーフ)で直径が同じタンクが40基とやや直径の小さいタンク4基の計44基で構成されている。40基タンク群は直径約22mであり、高さを13mと仮定すれば、容量は5,000KLとなる。総貯蔵容量は5,000KL×40基=20KLクラスである。

タンク所有者の名前は報じられていないが、 20224月の「ロシアのふたつの石油貯蔵所でタンク爆発・火災、テロ攻撃か」の事故や、ブリャンスクがウクライナとの国境の北東154kmの地点にあり、ウクライナ侵攻でロシア軍の兵たん拠点の一つといわれており、軍事施設の石油貯蔵所とみられる。

所 感

■ タンク火災の原因は無人航空機(ドローン)による爆発物の攻撃である。20224月の「ロシアのふたつの石油貯蔵所でタンク爆発・火災、テロ攻撃か」の事故以降、ロシアでの攻撃がエスカレートしている。ブリャンスク州は中レベルの対応体制(黄色レベルのテロの脅威)が導入され、公の秩序の保護の強化、国家施設の運営のための特別体制、および出入りの制限がとられていたにもかかわらず、無人航空機(ドローン)による攻撃を受けており、石油貯蔵所がこの種の無人航空機(ドローン)の攻撃に対する防御に脆弱であるのが理解できる。

■ 今回の石油貯蔵所の規模(貯蔵タンク44基)に比べ、被災タンクが3基と報じられており、意外に少ないと感じる。その理由として、つぎのようなことが考えられる。

 ● 実際には被災範囲はもっと広いが、意図的に小さく報じられている。

 ● 無人航空機(ドローン)による爆発物の威力がそれほど大きくなかった。

 ● タンクの内液が軽油(ディーゼル燃料)で、ガソリンのような引火点の低い油でなかった。

 ● タンク間距離がタンク直径分とられ、またタンク24基でひとつの防油堤に囲まれており、タンクの配置計画が適切だった。

■ 消防活動は、出動人員・車両台数以外、報じられていない。火災写真も少ないが、主な被災のひとつは堤内火災である。これまでロシア国内の消火体制や消火資機材が充実していないことをうかがわせる事例が少なくなかったが、堤内火災は、高発泡の泡消火が有効であり、今回はこの種の消火資機材が整っていたのかも知れない。一方、タンク屋根または側板が破壊されている被災写真があり、鎮火まで3時間という報道は早すぎるという印象である。


備 考

 本情報はつぎの情報に基づいてまとめたものである。

   Tankstoragemag.com, Fire breaks out at Russian oil storage tank,  November  30,  2022

     JP.Reuters.com, Fire at oil storage tank in Russia's Bryansk region – governor,  November  30,  2022

     Mil.in.ua, Fire at an oil storage tank in the Bryansk region of the Russian Federation,  November  30,  2022

     Tass.com, Oil storage facility on fire in western Russia’s Bryansk Region,  November  30,  2022

     Ukranews.com, Tanks With Fuel On Fire In Bryansk Region. Russian Authorities Claim Ammunition Dropped From Drone, November 30, 2022

     Dailymail.co.uk, 'Ukraine drone attack' sparks inferno at Russian oil depot: Giant blaze hits critical resupply route for Putin's invading forces,  November  30,  2022

     Pravda.com.ua, Another large-scale fire at oil depot in Russia,  November  30,  2022

     Neftegaz.ru, В Суражском районе Брянской области загорелись резервуары с нефтепродуктами,  November  30,  2022

     Nangs.org, Губернатор сообщил о локализации пожара на брянском нефтехранилище,  November  30,  2022


後 記: 今回の石油貯蔵所に関する事故情報はロシアの報道規制がかかっているようです。前回の20224月のタンク事故では、ロシアのインターネットメディアのマッシュ(Mash)に投稿された動画やロシアのソーシャル・ネットワーキング・サービスのVKには、ロシア国営のイタル・タス通信の無味乾燥な報道にない自由さが残っていると感じましたが、今回はビデオ映像があるものの、報道の自由さは感じられません。タンク事故情報だけを調べているだけですが、ロシア-ウクライナの戦況を感じ取ることができます。