今回は、2022年11月16日(水)と12月6日(火)にロシアの2つの石油貯蔵施設で無人航空機(ドローン)による攻撃があり、燃料タンクが火災や破損した事例を紹介します。
< 発災施設の概要(その1) >
■ 発災があったのは、ロシア(Russia)オリョール州(Oryol)スタルノイコン村(Stalnoy Kon)にある石油企業のトランスネフト社(Transneft)が操業する石油貯蔵所である。
■ 事故があったのは、石油貯蔵所の燃料タンクである。
<事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2022年11月16日(水)午前4時頃、無人航空機(ドローン)がオリョール州スタルノイ コン村にある石油貯蔵所を攻撃し、貯蔵タンクが損傷した。
■ 発災に伴い、消防隊が出動し、現場で対応した。
■ 発災に伴う死傷者は出なかった。村の道路には警察がパトロールを実施している。
■ 攻撃により、タンク側板の上部が破損し、穴が開いた。タンクには容量の四分の一(25%)しか油が入っていなかったため、火災は生じなかったと報じられている。
■ 別な報告によると、ドローンによる攻撃で深さ約12フィート(3.6m)のクレーターが残ったという。
■ この石油貯蔵所は、ロシアの石油企業であるトランスネフト社が操業しており、ロシアの石油を欧州に輸送するドルジバ・パイプライン(Druzhba Pipeline)のネットワークの一部である。ロシアによるウクライナ侵攻以降、パイプラインの機能は数回中断されていたが、11月23日(水)、トランスネフトは操業を一部再開したと発表した。
< 発災施設の概要(その2) >
■ 発災があったのは、ロシア(Russia)クルスク州(Kursk)のクルスク・ ボストーチヌイ空港(Kursk Vostochny
Airport)である。
■ 事故があったのは、空港区域にある石油貯蔵施設の燃料タンクである。
<事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2022年12月6日(火)午前5時頃、クルスク・ ボストーチヌイ空港の区域にある石油貯蔵施設で、無人航空機(ドローン)攻撃によって燃料タンクで火災が発生した。
■ 火災はタンクから渦巻く炎と黒煙が空に向かって上がった。
■ 発災に伴い、消防隊が出動した。消防士は500㎡にわたる炎に取り組んで消火活動を行っていると報じられている。市当局によると、モスクワ鉄道が3台の消火用列車を派遣した。各車両には 240トンの水と5 トン以上の消火泡を積んでいるという。
■ 発災により、近くの二つの村の学校では授業が中止された。
■ 12月6日午前10時時点で火災はまだ猛威を振るっており、さらに約10時間経過しても燃え続けている。火災の面積は約5,500㎡に拡大し、新たな消防隊が現場に出動した。
■ 事故に伴う死傷者は出ていない。
■ 12月7日(水)、燃料タンクの火災は消火された。クルスク地域の消防隊から200名以上が24時間以上にわたって消火活動を行った。
■ 空港は軍民共用だが、ロシアのウクライナ侵攻後は民間機は受け入れていない。クルスク・ボストーチヌイ空港には、スホーイSu-30SM戦闘機をもつ第14護衛戦闘航空連隊が駐屯している。
■ 攻撃はロシアの重要な戦略的軍事施設の脆弱性を示しており、無人航空機が軍事施設に近づくことができたという防空の有効性について疑問を投げかけている。
■ その前日の12月5日(月)の朝、ウクライナ国境から400km以上ロシア側に入ったリャザン州のディアギレボ空軍基地とサラトフ州のエンゲリス空軍基地が無人航空機(ドローン)に攻撃された。 リャザン州のジャギレボ空軍基地では爆発が起き、燃料タンク車などが炎上し、3人が死亡した。ロシアは、旧ソ連製の無人航空機(ドローン)によるウクライナ軍の攻撃だったと指摘した。
サラトフ州のエンゲリス空軍基地では、基地にいた兵士3名が死亡、4名が負傷したほか、 Tu-95 爆撃機2機に損傷を受けた。
ウクライナは、いずれの攻撃についても正式には認めていない。しかし、ウクライナの高官は、攻撃に関与した無人航空機(ドローン)はウクライナの領土から発射され、少なくとも1回の攻撃は基地近くの特殊部隊の助けを借りて行われたと述べた。
補 足
■「ロシア」(Russia)は、正式にはロシア連邦といい、ユーラシア大陸北部に位置し、人口約1億4,600万人の連邦共和制国家である。
「オリョール州」(Oryol)は、ロシアの西部に位置し、モスクワからは南南西へ360kmの距離にあり、人口約86万人である。
「クルスク州」 (Kursk)は、ロシア西部に位置し、人口約123万人の州で、州都はクルスク市である。
■「トランスネフチ社」(Transneft)は、1993年にロシア連邦政府によって設立され、ロシアを拠点とする石油とガス輸送を行う会社である。約70,000kmのパイプラインと500以上のポンプ場を運営し、バルチックパイプラインシステム、バルチックパイプラインシステム-2、東シベリア太平洋石油パイプライン、パープサモトラーパイプラインシステムなどの石油輸送システムを運営する。ポーランド、ハンガリー、スロバキア、ラトビア、中国、ウズベキスタン、ベラルーシなど、国内外の市場でサービスを提供し、国内に多数の子会社がある。
トランスネフチ社は、2022年4月、ブリャンスクにある石油貯蔵所がテロ攻撃で被災している。「ロシアのふたつの石油貯蔵所でタンク爆発・火災、テロ攻撃か」を参照。
■ オリョール地方スタルノイコン村にあるトランスネフト社の石油貯蔵所には、グーグルマップで調べると、大きなタンクが4基、中規模のタンクが3基、小さなタンクが7基以上ある。大きなタンクの直径は約33mであり、高さを20mと仮定すれば、容量は17,000KLクラスである。中規模のタンクの直径は約27mで、高さを20mと仮定すれば、容量は11,000KLクラスである。 「被災タンク」は被災写真から中規模のタンクの最も南側にあるタンクとみられる。
■ クルスク州のクルスク・ ボストーチヌイ空港をグーグルマップで調べると、同じ規模のタンクが5基ある。「被災タンク」は北側のタンク3基のうちのいずれかとみられる。これらのタンクの直径は約8mで、高さを8mと仮定すれば、容量は400KLクラスである。火災の面積は約5,500㎡に拡大しているので、北側タンクの3基全部が被災したとみられる。所 感
■ オリョール州スタルノイコン村にあるトランスネフト社の石油貯蔵所におけるタンク被災はよく分からないことが多い。攻撃により、タンク側板の上部が破損し、穴が開いているが、タンクには容量の四分の一(25%)しか油が入っていなかったため、火災は生じなかったと報じられている。タンク側板には大きな穴が開いているが、確かに火災跡はみられない。このような大きな損傷を受けて火災が発生しなかったとは考え難い。おそらく、タンクが空だったのではないだろうか。
一方、タンクの火災と消火活動の写真(下部)があるが、これは別な要因の事故だという。
しかし、2022年12月23日(金)に無人航空機(ドローン)攻撃の疑いで火災になったことを裏付けるビデオが投稿された。ビデオはぼかしなどで状況ははっきり分からない。記事によると、タンク群に対して2回の別々の攻撃が行われており、飛行速度の遅い無人航空機(ドローン)が爆弾を2回投下しているという。
当初からタンク火災の写真がインターネットに出ており、2回のうちのいずれかの無人航空機(ドローン)による攻撃でタンク火災があったと思われる。もう1回の攻撃がタンク側板の上部破損の事故ではないだろうか。
備 考
本情報はつぎの情報に基づいてまとめたものである。
・Nikkei.com, ウクライナ、ロシアをまた無人機攻撃 石油タンクで火災, December 07,
2022
・Mainichi.jp, ロシア南西部の軍用空港にもドローン攻撃か 近くの石油施設炎上, December 07,
2022
・Sankei.com, 6日も無人機攻撃? ウクライナ、露を長距離攻撃か, December 06,
2022
・Bbc.com, Ukraine war: Russian military airfields hit by
explosions, December 05,
2022
・Theguardian.com, Drone attack hits oil storage tank at airfield in
Russia’s Kursk region, December 05,
2022
・Aerotime.aero, New drone
attacks target Russian oil depots in Kursk and Bryansk, December
06, 2022
・Reuters.com, Drone strikes oil tank at airfield in Russia's Kursk
region, December 06,
2022
・Euromaidanpress.com, Oil
depot on fire after drone attack on airfield in Russia’s Kursk: VIDEOS , December
06, 2022
・Thedrive.com, Russian Airfield In Kursk Set Ablaze By Apparent
Ukrainian Drone Strike, December 06,
2022
・Tass.com, Fire at oil depot near Kursk airfield extinguished —
governor, December 07,
2022
・Saudigazette.com.sa, Drone
strike hits third Russian airfield near Kursk,
December 06, 2022
・Dailymail.co.uk, 'Ukraine drone attack' hits ANOTHER Russian airbase
a day after strike damaged two nuclear bombers,
December 06, 2022
・Scmp.com, 3 killed in Ukraine drone attacks on airbases deep inside
Russia, December 06,
2022
・Kommersant.ru, 3Беспилотник долетел до нефтенакопителя, December
06, 2022
・360tv.ru, Появилось видео повреждений нефтебазы в Орловской
области после атаки беспилотника,
November 16, 2022
・Neftegaz.ru, Украинский БПЛА ударил в нефтяной резервуар Транснефти в
Орловской области, November 16,
2022
・Freepresskashmir.news, Drone strikes oil depot in Russia’s Oryol
Region: Governor Andrey Klychkov,
December 06, 2022
・News.am, Drone 'allegedly' blows up oil depot in Oryol Oblast, November
16, 2022
・Dailymail.co.uk, Ukraine 'blows up Russian oil depot 190 miles from
Moscow in drone strike' hours after Putin's forces launched barrage of 90
missiles, November 16,
2022
・English.nv.ua, Video of alleged drone attack on Russian oil depot
appears online, December 23,
2022
後 記: 今回の事故情報によってはっきりしたことがあります。ひとつはロシアが完全に戦時下の情報管制になってしまって、事実が語られないことです。大体、州知事の記者発表がベースになっているので、州や国に不都合なことはいわないのでしょう。
もうひとつは、無人航空機(ドローン)によるタンク攻撃が進化しています。無人航空機(ドローン)が何百kmも離れたところから発射され、重要施設に容易に近づくことができるという防空の脆弱性があるのはロシアだけの問題ではないでしょう。そして攻撃側が発表しなければ、誰が攻撃したのか特定はできないという新たな問題が出てきています。日本は、日本海のすぐそばに原子力発電所があり、石油備蓄基地などの重要施設があります。今回の事故情報を教訓にすれば、従来の個人携行式の武器によるテロ攻撃を想定していた日本のテロ対策を見直す(無人航空機によるテロへの対策)方が、敵基地攻撃云々より先のように思いますが・・・