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2022年9月12日月曜日

パキスタンで洪水、国土の3分の1が水没、 3,300万人が被災

 今回は、20226月から9月までの雨によってパキスタン各地で激しい洪水が発生し、パキスタンの3分の1が浸水したという自然災害について紹介します。

< 被災施設の概要 >

■ 被災国は、パキスタン・イスラム共和国、通称パキスタンである。パキスタンは、南アジアに位置する連邦共和制国家で、東にインド、西にアフガニスタン、南西にイラン、北東に中華人民共和国と国境を接している。

■ 被災地区は、パキスタンの4州であるバロチスタン州、カイバル・パクトゥンクワ州、パンジャーブ州、シンド州の全土に及び、被害は家屋や農場のほか道路、橋、学校、病院、公衆衛生施設などの重要な社会基盤施設である。


< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 20226月から始まった雨によってパキスタン各地で激しい洪水が発生した。 2022829日(月)、パキスタンの気候変動相が「国土の3分の1」が浸水しているとした上で、「想像を絶する規模の危機だ」と語った。

■ 20226月中旬から9月初めにかけてモンスーンに伴う大雨が続き、政府の統計によると、全国の7月の平均雨量は平年の2.8倍の177.5mmに上り、1961年以降で最多だった。

■ 被害が大きかった地域の一つのカイバル・パクトゥンクワ州のカブール川近くの集落を92日(金)に訪れると、多くの家屋が損傷し、水圧によって壁にヒビが入った家も見られた。住民によると、8月末に近くの川のダムが決壊し、決壊から約1週間がたった今も一部の家や集落を通る道は冠水したままだという。住民のひとりは、「夜、寝ているうちに川が決壊して水が家の中まで入ってきた。避難して自分の命は助かったが、家財道具はすべて失ってしまった」と語っている。パキスタンでは、かねて食料品などの物価上昇が深刻で、洪水被害は庶民の生活苦に追い打ちをかけている。

■ 避難所に身を寄せる住民は、「牛を飼って牛乳を売って生活していたのに、牛は洪水で流され、家も壊れてしまった。どうやって家を修理しろと言うのだ」と訴えた。

■ 人口5,000万人で国の食料の半分を生産するシンド州では、年間の平均よりも464%も多い雨量を記録し、作物の90%がダメになっている。パキスタンの半分を占めるバロチスタン州の75%以上が被害を受けている。また、バロチスタン州は、30年間の平均の436%も大量の雨が降っており、州内の少なくとも12のダムが決壊し、主要な鉄道や道路網が流され、通信や電力の施設が壊れるなど広範囲にわたって被害が発生している。

■ パキスタン災害当局によると、6月中旬以降に住宅約146万軒が全壊または部分的に損傷した。また、5,000km以上の道路と243の橋が被害を受けたという。

■ パキスタンの洪水被害が深刻化している。災害当局は614日(火)~93日(土)までに全国で1,282人が亡くなったと発表した。洪水による犠牲者のほぼ3分の1は子どもだった。パキスタン政府は少なくとも3,300万人が被災し、被害総額が100億ドル(約14,000億円)に上ると試算している。94日(日)時点での死亡者は少なくとも1,314人となった。

■ 主要な河川の中には、堤防が決壊し、ダムが氾濫して、家屋や農場のほか道路、橋、学校、病院、公衆衛生施設などの重要な社会基盤施設が破壊された。

■ パキスタンの洪水は最悪と言われた2010年の洪水よりもひどい。山間部カイバル・パクトゥンクワ州では、「ボートやラクダなど使える手段は何でも使って、最大の被害を受けた地域に救援物資を届けている。最善を尽くしているが、この州の被害は2010年の洪水の時よりひどい」と語っている。

■ パキスタンに甚大な被害をもたらした豪雨の原因はパキスタン上空に居座り続けた寒気である。そこへインド洋から湿った空気が流れ込み、雨雲が発達しやすい状態が続いた。さらに、インドからの暖かい空気がヒマラヤの氷河を溶かし、洪水被害が拡大していったとみられる。パキスタンの気候変動大臣は、「氷河が溶けるのは地球温暖化の結果です。パキスタンのCO2排出割合は世界で1%以下です。世界の気候を生き地獄にする温室効果ガスの排出にはほとんど加担していません」 と語っている。 

■ 欧州宇宙機関(ESA)の衛星画像によると、インダス川が川岸をはるかに超えて流れ出し、幅10km以上、長さ100kmを超える湖を作り出していることを示している。パキスタンの3分の1以上の土地が水没しており、ひどい洪水が二次災害を引き起こす恐れがある。例えば、世界保健機関(WHO)によると、800以上の医療施設が被害を受け、そのうち180は完全に破損しており、多くの人がヘルスケアや医療を受けることができない状態となっている。

■ NASAは衛星画像による洪水の状況を発表した。画像は、それぞれ84日と28日にLandsat 8Landsat 9衛星に搭載されたOperational Land Imagersによって取得された。画像は、短波赤外線、近赤外線、および赤色光 (バンド 6-5-4) を組み合わせて、自然のチャネルを超えた洪水(深い青色) をよりよく区別できる。2022831日にNOAA-20衛星の可視赤外線イメージング放射計スイート (VIIRS)によって取得された上の画像は、この地域の洪水の範囲を示している。この画像は、近赤外光と可視光を組み合わせて使用​​し、川が堤防から離れて氾濫原に広がっている場所を簡単に確認できるようになっている。


■ ユーチューブにパキスタンの洪水の映像が投稿されている。主なものをつぎに示す。

 ●「パキスタン洪水 被害拡大の原因に多発する「山津波」の脅威」(2022/9/3)

 ●「パキスタンで続く洪水、水が引かず路頭に迷う人々」 2022/08/28

 ●Pakistan Flood 20222022/09/11

 ● Pakistan Flood 2022 Live | Pakistan Flood 2022 Update Today | Pakistan Floods2022/09/02

被 害

■ 災害当局は614日~93日(土)までに全国で1,282人が亡くなったと発表した。洪水による犠牲者のほぼ三分の一は子どもだった。パキスタン政府は少なくとも3,300万人が被災した。94日の時点での死亡者は少なくとも1,314人となった。

■ 6月中旬以降に住宅約146万軒が全壊または部分的に損傷した。また、5,000km以上の道路と243の橋が被害を受けた。家屋や農場のほか道路、橋、学校、病院、公衆衛生施設などの重要な社会基盤施設が破壊された。石油施設も被害を受けていると思われるが、被害が広範囲に及ぶので、報道されていないとみられる。

■ 復興には100億ドル(約14,000億円)以上を要する見通しである。


< 事故の原因 >

■ 6月中旬から9月初めにかけてモンスーンに伴う大雨が続いたのと、地球温暖化の影響で山岳地帯の氷河が溶けたことによる洪水による。

< 対 応 >

■ 830日(火)、パキスタン政府と国連はイスラマバードとジュネーブで「2022年パキスタン洪水対応計画」を共同で立ち上げた。この時点で、3,300 万人以上に影響を与えた壊滅的な雨、洪水、地滑りを背景に立ち上げられた。「2022年パキスタン洪水対応計画」 では、まず大きな被災を受けた520万人のニーズに焦点を当て、16,030万米ドル(224億円)の救命対応活動を行うという。これには、食糧安全保障、農業・家畜の支援、避難所と食糧以外のもの、栄養プログラム、一次医療サービス、水と衛生、女性の健康、教育支援などを含む。

■ 830日(水)、パキスタン軍は、軍用ヘリコプターで洪水の犠牲者を避難させ、遠隔地に食糧を届けている。救助と救援活動を支援するために6,500人の兵士が動員されている。

■ 91日(木)、欧州宇宙機関(ESA)は、救助活動を支援するため、地球環境モニタリング計画「コペルニクス」の衛星データを使用して宇宙から洪水の規模を測定したと発表した。6月中旬以降の降雨量は「通常の10倍」であり、これが国土の三分の一を水没させる洪水を引き起こしたと説明した。

 91日(木)、パキスタン当局によると、同国の7人に1人に当たる3,300万人以上が被災しており、復興には100億ドル(約14,000億円)以上を要する見通しだという。国連の事務総長は「気候大災害」だとして、16,000万ドル(約224億円)の緊急支援を各国に呼び掛けている。

■ パキスタン政府は2010年~2012年にかけて甚大な水害に見舞われた後、氷河融解の新たな監視システムに加え、洪水の早期警戒システムを整えると約束した。20228月の洪水では早期警戒システムによって救われた命もあった。しかし、2010年から5回の政権交代を経験し、多額の債務を抱えた同国は、約束した措置を全て実行したわけではない。

■ 2100年までに、世界が温暖化目標の1.5℃に抑えたとしても、パキスタンの上流にあるミャンマーからアフガニスタンにかけて広がる広大な山岳地帯の氷河の3分の1が消滅するという。気温がもっと上がれば、破滅の日が近づくが、分かっていても誰も口に出さない危機である。今回、パキスタンが経験した洪水は、この危機の兆候の一つである。気候の破局は、いまや誰の目にも明らかである。にもかかわらず、主要経済国は、排出削減に関する合意に達することができないでいる。数え切れないほどのサミットや国際会議が開かれてきたが、2050年までに正味ゼロを達成する道にはまだ乗っていない。パキスタンのように「気候変動に最も脆弱な国」という不運な国にとっては、気候サミットが失敗するたびに悪い知らせがもたらされる。豊かな国々が排出量の削減をめぐって駆け引きをしている一方で、私たちが命と暮らしに関わる代償を以前よりはるかに多くを払い続けていることに、いらだちを感じる。

■ 多くの国から援助が寄せられ、フランスからの最初の人道支援便が93日(土)の朝、パキスタンの首都であるイスラマバードに着陸した。しかし、パキスタン最大の慈善団体は、援助や救援活動が届いていない人々がまだ何百万人もいると語った。

■ 2010年の壊滅的な洪水は、1,800万人以上に影響を与え、2,000人近くの死者を出した。 今回の洪水被害は深刻で損害の費用は100億ドルという推定が出ているが、それよりもはるかに大きいという。正確な数字が判明するまでにはおそらく68週間かかるだろう。2010年の洪水と比較すると、浸水した土地は 4 倍になった。

 





所 感

■ 環境汚染に関する感度が段々悪くなっていると感じる。2010年の「パキスタン洪水に伴う油流出による環境汚染」では、パキスタンがモンスーンの豪雨による洪水に襲われ、石油貯蔵施設で油が流出した事故を紹介したが、今回の洪水の報道では、石油貯蔵施設の流出について報じたところは無かった。おそらく、無かったのではなく、「東日本大震災時の気仙沼オイルターミナルの壊滅(20113月)」あるいは佐賀県の大雨洪水で工場浸水して熱処理用の焼入油が流出(20198月)のような被害が起こっていたと思われるが、パキスタン全土における被害が甚大で、個々の石油貯蔵施設の被害に目が行き届いていないのだろう。油流出による環境汚染を考える余裕がないほど温暖化による気候変動の問題が大きいということである。

■ 今回の海外報道で特徴的なことは、洪水によってパキスタンが気候変動に最も脆弱な国であることが示されたこととともに、主要経済国が温暖化のガス排出削減に関する合意に達することができないでいることに対する意見を伝えるメディアが多かったことである。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

   Mainichi.jp,  パキスタン、洪水で1290人死亡 「国土の3分の1」が浸水,  September  04,  2022

   Yews.yahoo.co.jp, 「国土3分の1が水没」パキスタン史上最悪洪水日本も輸入している綿花が壊滅状態 パキスタン大臣「温暖化の結果」,  September  03,  2022

   Toyokeizai.net,  パキスタンの「洪水」ここまで深刻にした真犯人,  August  31,  2022

   Afpbb.com,  パキスタン洪水、雨量は平年の10倍 インダス川が「湖」に,  September  02,  2022

   Jp.reuters.com,  アングル:パキスタン大洪水の教訓、求められる多角的リスク対策,  September  01,  2022

   Cnn.co.jp,  洪水で幅100キロの「湖」が出現 パキスタン南部,  August  31,  2022

   Edition.cnn.com, A third of Pakistan is underwater amid its worst floods in history. Here‘s what you need to know, September  02,  2022

   Earthobservatory.nasa.gov,  Devastating Floods in Pakistan,  August  28,  2022Theguardian.com, Rich countries caused Pakistan’s catastrophic flooding. Their response? Inertia and apathy, September  05,  2022

   Reuters.com,  Pakistan flood toll rises with 25 children among 57 more deaths, September  03,  2022

   Fortune.com, Pakistan’s ‘biblical’ flooding is coming with a huge price tag: ‘Far greater’ than $10 billion and counting, official says, September  07,  2022

   News.un.or,  Pakistan: WHO warns of significant health risks as floods continue,  August  31,  2022

   Dw.com, Pakistan floods: Authorities breach largest freshwater lake,  September  04,  2022

   Thenewhumanitarian.org,  Pakistan floods pose urgent questions over preparedness and climate reparations,  September  05,  2022

   Dw.com, پاکستان: سیلاب کے بعد صحت کے بحران کا خطرہ (パキスタン:洪水後の健康危機のリスク),  September  01,  2022 


後 記: 今回の洪水による報道と被災写真は数多くありました。2010年パキスタン洪水で石油貯蔵施設の問題を指摘した報道がありましたので、今回も調べることとしました。しかし、被害地区があまりにも広すぎるため、高所(?)に立った記事が多く、石油貯蔵施設の問題としてとらえることができませんでした。被災写真については、こども達がボートで助けられている写真などは湖で舟遊びしているようにも見え、臨場感に欠ける写真になっていました。洪水の恐ろしさを伝えるような写真も少なく、激流を撮った写真(下)がありましたが、よく見ると、これは2010年のパキスタン洪水のときに撮られたものでした。迫力のある写真を求めたのでしょうが、こういうやり方は事実を追及するメディアの基本姿勢として感心しないですね。という訳で、多くの記事と多くの被災写真を見ましたが、骨折り損とは言いませんが、くたびれ儲けという気のする回でした。(被災者を思うとそんなことは言えませんが)






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