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2022年2月24日木曜日

東電福島原発 遮水壁の冷媒用タンク液位低下で冷媒漏洩を発見

 今回は、2022215日(火)、東京電力福島第一原子力発電所の地下水の流入を防ぐ遮水壁設備において冷媒タンクの液位が低下していることで冷媒の漏洩が分かった事例を紹介します。

< 問題施設の概要 >

■ 問題があったのは、東京電力福島第一原子力発電所において地下水の流入を防ぐ陸側遮水壁設備(凍土壁)である。

■ 予想されている北海道から岩手県の沖合にある千島海溝と日本海溝で巨大地震と津波が発生した場合に、陸側遮水壁設備の冷媒(ブライン)漏洩リスクの低減を目的として、冷媒配管に遠隔で操作ができる電動弁を20222月に設置した。この電動弁の動作試験を215日(火)に実施することとしていた。なお、冷媒配管は運転開始から約6年が経過している。

<問題の状況および影響 >

問題の発生
■ 2022215日(火)、冷媒配管の電動弁設置工事完了に伴い、午前1018分、動作試験のため、陸側遮水壁全体への冷媒供給を停止したところ、午前1040分頃、陸側遮水壁設備の冷媒タンク2基(プラント2系統の2A2B)において液位が低下していることを発見した。

■ その後、 23号機間西側のエリアで冷媒の塩化カルシウム水溶液とみられる水たまりが見つかったため、午前11時頃、冷媒タンクから冷媒を陸側遮水壁へ送り出す弁を閉操作したところ、液位低下は停止した。冷媒が供給されていない凍結管14本のいずれかに異常があるとみられた。

■ 東電によると、漏れ出たとみられる周辺はマイナス10℃程度で、遮水壁の機能に直ちに影響はないという。冷媒の漏洩量は約4KLである。

■ 現場を調査したところ、 215日(火)午後4時頃、冷媒2系統のうちの1系統の凍結管において漏洩を確認した。漏洩箇所は、6BLK-H1冷媒配管の直径450mmの母管送り側で、 23号機間山側道路横断部の下部からだった。

■ 216日(水)、冷媒が漏洩している箇所について保温材を取り外して確認した結果、配管接合部からの漏洩であった。今後、系統内の残液の回収を実施のうえ、当該箇所の復旧を行う予定である。

■ 218日(木)、陸側遮水壁の機能維持のため、当該箇所復旧までの暫定措置として、運転中のプラント1系から連絡弁を介して、停止中のプラント2系の一部へのブライン供給を実施した。
■ 東京電力によると、設備が停止しても陸側遮水壁が溶け始めるまでには数か月程度の期間があることから、直ちに陸側遮水壁に影響が出るものではないと評価しているという。

■ 構外への影響は無かった。

被 害

■ 物的被害としては、冷媒配管の接合部を補修する必要が発生した。

■ 配管内から冷媒(塩化カルシウム水溶液)が約4KL漏洩した。  

■ 人的被害は無かった。

< 事故の原因 >

■ 事故の原因は、冷媒配管の接合部に使用していたカップリング・ジョイントが配管のズレで隙間ができて漏れたものとみられる。

< 対 応 >

■ 2022215日(火)午前1100分頃、応急措置として冷媒タンクから冷媒を陸側遮水壁へ送り出す弁を閉操作したところ水位低下は停止した。当日予定していた冷媒配管の電動弁設置工事終了に伴う電動弁の動作試験は中止した。また、215日(火)午後408分、2系統に分かれている陸側遮水壁設備のうち、冷媒タンクの液位低下の無いプラント1系統については、起動操作を行った。

■ 216日(水)、福島県は、凍土遮水壁の冷媒配管からの漏洩に関して東京電力に対し申し入れを行った。福島県によると、「116日(日)にも、凍土遮水壁の凍結管継手からの漏洩が確認され、120日(木)に、同様の事象が発生しないよう、他の連結管の点検強化など水平展開を求めており、再び類似の事象が発生したので、より一層の安全管理の徹底を図るよう、東京電力に対し申し入れを行った」と述べた。

■ 218日(木)午前1115分、冷媒漏洩箇所復旧までの暫定措置として、運転中のプラント1系から連絡弁を介して、停止中のプラント2系の一部への冷媒供給を開始した。なお、午前1142分に運転後の設備に異常がないことを確認しており、引き続き温度等のパラメータを監視している。

■ 221日(月)、冷媒が漏洩した配管接続部について、配管の位置調整とカップリング・ジョイントの交換を実施し、復旧を終えた。同日午後1027分、冷媒供給を停止しているエリアへの供給を再開した。

補 足

■「冷媒」(ブライン)は、遮水壁を凍結させる冷却設備(凍結プラント)に使用される冷却液で、福島第一原子力発電所の遮水壁には塩化カルシウム水溶液が使用されている。塩化カルシウムは“塩カル” と呼ばれ、降雪時に道路に散布する融雪剤などに使用されるが、水に溶けやすく (82.8 g/100 g)、水溶液の凝固点が低くなる凝固点降下の性質を利用して、スケートリンクの冷媒として用いられる。

■「遮水壁」は、トンネル工事で使う凍結工法を用いて、発電所施設への地下水の浸入を防ぐために造成された凍結式の遮水壁である。福島第一原子力発電所の14号機を取り囲むように、約1m間隔で配置した地中の凍結管に冷却液の冷媒を循環させて周辺の地盤を凍らせる。壁の延長は約1,500mで、深さ約30mである。凍結管1,568本によって土を凍結させ、凍土量は約70,000㎥、造成に投じた国費は約345億円である。20163月に凍結を始め、20189月に作業を終え、継続している。


 福島第一原子力発電所の陸側遮水壁(凍土壁)は、(一般社団法人)日本建設業連合会の2020年土木賞を受賞している。建屋への地下水・雨水等流入量など汚染水発生量は、対策前に約490 KL/日であったが、陸側遮水壁の完成によって2018年度は65%減の約170 KL/日まで減少したといわれる。しかし、当初、地下水の流入量は無くなるという目論見だったが、35%は以前として流入し続けている。

■「冷媒用タンク」(ブラインタンク)は凍結プラントの冷媒(ブライン)を入れるタンクであるが、仕様は分かっていない。冷媒配管は、1,568本の凍結管のほか冷媒の送り側・戻り側の母管に多くのフランジ継手、カップリング・ジョイント、ねじ接続部が存在しており、運転開始以降、たびたび漏れが発生している。凍結管は保温されており、冬期は氷の結露が形成するため、漏洩を発見することが容易でない。凍結管には漏洩検知器が設置されているが、冷媒配管系は冷媒用タンクの液位低下で漏洩を察知せざるを得ない状況である。

所 感

■ 今回の事象を調べていて思ったのは、原子力発電所の事故がいかに多くの課題を長期にわたって引きずっているかを改めて感じたことである。後で述べるように、そのような現場の第一線で業務に携わっている人たちに敬服する。

■ 遮水壁は、トンネル工事で使う凍結工法を用い、土を凍結させようというものである。冷媒の配管は、深さ30m1,568本の凍結管のほか送り側・戻り側母管などに多くのフランジ継手、カップリング・ジョイント、ねじ接続部が存在している。化学プラントでも、このような漏れのリスクの高い配管系はなく、さらに道路横断部のような振動や温度変化の多い環境はない。6年が経過しており、漏れの頻度は多くなるだろう。現場の目視点検で漏れを発見する例はあるようだが、多くは冷媒用タンクの冷媒液位が低下することで漏洩を察知しており、タンク液位が冷媒の漏れを監視する役割を担っている。 タンク本来の機能ではないし、漏洩量が多くないと発見できない。

■ これまで福島第一原子力発電所について紹介したつぎのようなブログを見ると、共通しているのは設備に土木用の仮設タイプあるいはパイロットプラントのようなプロトタイプを実機に採用しているという根本的な問題がある。

 ●「東京電力福島原子力発電所の地下貯水槽から汚染水漏れ」20134月)

 ●「東京電力福島原発 汚染水処理施設のタンク漏れの原因(2) 20137月)

 ●「東京電力福島原発の汚染水貯留用組立式円筒タンクからの漏れ原因」20139月)

 ●「東京電力福島原発 汚染水処理施設のタンク不具合について」201310月)

 ●「東京電力福島原子力発電所の汚染水タンクから過充填漏れ」20143月) 

 今回の事例も凍結工法という実プラントでの実績のない工法である。しかも、12年持てばよいというものでなく、長期連続運転という過酷な運転条件である。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

  ・Tepco.co.jp, 福島第一原子力発電所 陸側遮水壁設備ブラインタンクの水位低下について (1)~(6,  February  1521,  2022

    Pref.fukushima.lg.jp , 福島第一原子力発電所 陸側遮水壁におけるブラインタンク液位低下について,  February  17,  2022

    Minyu-net.com, 凍結管が損傷、冷媒漏えいか 福島第1原発、凍土遮水壁の一部,  February  18,  2022


後 記: 今回の情報は、東京電力のツイッター(Twitter)で、「福島第一原子力発電所 陸側遮水壁設備ブラインタンクの水位低下について当社HPをご確認ください」とつぶやいたのをたまたま見て知ったものです。詳細内容を見たら、タンクの直接的問題ではなかったのですが、以前話題になった福島第一発電所への地下水流入を止める(実際には減じる)凍土壁に興味がありましたので、調べることにしました。うまく行きそうでない設備の採用を決めて「あとは現場で頼む」と言われた人たちの心情を察し、所感の中で「そのような現場の第一線で業務に携わっている人たちに敬服する」と書きました。

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