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2022年2月18日金曜日

欧州における自律型ドローンによる石油ターミナルの検査

 今回は、2021112日、“Drone Watch”に掲載され、そのあと2021111日に“Tank Storage Magazine”にも載った“The automatic inspection drone is taking off”(自動検査ドローンが離陸している)を紹介します。これは、欧州における自律型ドローンの規制状況と石油施設への適用について現況を示しています。

< はじめに >

  日本では、経済産業省がプラント保安分野におけるドローンの活用を促進しており、その状況は「ドローンによる貯蔵タンク内部検査の活用」20204月)で紹介したが、今回は欧州における状況を紹介する。

< 概 要 >

■ 目視外飛行(BVLOS Beyond Visual Line of Sight)の検査用ドローンは、タンク施設のオペレーターに多くの利点をもたらす。

■ オランダのソフトウェア会社ファルカー社(Falcker)と自律型ドローンを製作しているイスラエルのパーセプト社(Percepto)が共同して、ロッテルダム港にある原油の総貯蔵容量450KLのマースブラクテ・オイル・ターミナル(Maasvlakte Oil Terminal)の施設で自動運転の検査用ドローンを使用して日常の点検や災害時対応の検証テストのデモンストレーションをやってから2年が経過した。当時、オランダでは初めてのことであり、1回限りのデモンストレーションとして環境・運輸検査局(Human Environment and Transport InspectorateILT)が特認したものだった。当時、規制の面では、ドローンを見えないところで飛ばすことには、まだかなりのハードルがあった。しかし、それも変わりつつある。

■ 自律型ドローンは自動運転の自走式ドローンであり、 人がドローンを操縦する場合よりも安価で効率的である。ドローンには高感度のカメラや赤外線カメラなどを搭載し、損傷した部品の画像を撮影し、漏れを検出し、熱を検出することができ、ドローンを使用したデータを収集し、ファルカー社の検査ソフトウェアで判断しようというシステムである。また、ドローンは、構内で不審者を検出し、逮捕されるまで追跡し続けることもできる。

■ 自動で作動するドローン・イン・ボックス(Drone-in-a-box)を見たことがある人なら、このシステムの可能性をすぐに理解できるだろう。ドローン・イン・ボックスは、飛行を終えたドローンが自分で充電を行うための箱に入り、自動で充電を行い、充電が終えれば、再び飛行することができる。ドッキング・ステーションで24時間年中無休で待機し、中央制御室で監視されるドローンは、産業現場において施設の日常点検やセキュリティのための巡回飛行を行ったり、事故や不審な状況への臨機応変な対応など多くの用途に使用することができる。 

■ しかし、従来のようなドローンを手動で制御しなければならないのはともかく、規制当局へのコンプライアンスのためだけに、飛行中にドローン・パイロットを現地に待機させるのは効率的ではない。技術的な観点からも、これは必要ではない。今日のシステムは独立して飛行を行うことが完璧にできるため、リモート・オペレーターが状況を見守り、必要であれば介入することができる。しかし、立法府にとって目視外(BVLOS)のドローン飛行は、依然として非常に挑戦的課題である。

■ 2019年のマースブラクテ・オイル・ターミナルでのデモンストレーション以来、欧州ではドローン規制に関して多くの変化があった。最も重要な変化は、2021年時点でルールベースの手法が廃止されたことである。これに代わって、リスクベースの手法が採用された。つまり、オペレーターがSORASpecific Operations Risk Assessment ;特定運航リスクアセスメント)の手法にもとづく詳細なリスク分析を通じて、特定のドローン運用を安全に実行できることを証明できれば、関係するEU加盟国の航空当局がこの活動に対して運用認可を発行することができるようになった。この新しい規制は欧州から出ているので、この認可は基本的に他の加盟国におけるドローン運用にも適用することができる。

構想の実証

■ 残念ながら、新しい規制ができたからといって、すぐに飛行を開始できるわけではない。当局側だけでなく、エンドユーザーやオペレーター側でも、まず多くの課題をひとつずつ解消させていく必要がある。そこで、ファルカー社は、デモンストレーションのフォローアップとして2つの解決のためのシナリオを開発することにした。 ひとつは、軽量のドローンと旧国家規則に準拠した許可をベースにした構想の実証シナリオであり、もうひとつは、重量のあるシステムと新しい欧州規則に則ったシナリオの2つである。

■ 構想の実証シナリオの実施にあたっては、ファルカー社に加え、マースブラクテ・オイル・ターミナルとLNG貯蔵のゲート・ターミナル(Gate Terminal)、ロッテルダム港湾局、セキュリタス社(Securitas)が参加した協同体制がとられた。その際の技術パートナーはオランダのマプチャー・エイアイ社(Mapture.ai)である。マプチャー・エイアイ社は中国広東省にあるディー・ジェイ・アイ社(DJI)の機種“Mavic 2 Enterprise Advanced” をベースにドローン・イン・ボックスを開発した。このシステムの利点は、ドローンの重量が1kg未満でありながら、「RGBカメラ」(コンピューター・ディスプレイ用)と「赤外線カメラ」(物体から放射される赤外線を可視化)の両方を搭載していることである。軽量であるため、この機種はドローン・イン・ボックスのシステムで事前定義されたリスク分析(PDRA Predefined Risk Analysis )の範囲内に収まっており、オランダで開発された。

■ ファルカー社のデュコ・ボーア氏(Duco Boer)は、このプロセスについて「この構想実証のアイデアは、主にテクノロジー(技術)と認可の組み合わせが実現可能であり、価値ある用途や適用を生み出すことにあります。この場合、タンクや埠頭の施設点検、災害が起こったときの配備、監視によるセキュリティなどを考えてみてください。このシナリオでは、ロッテルダム・ハーグ空港の管制空域外のマースブラクテ地区の端にあるターミナルの上空のみを飛行することにしました。これにより、規制の観点からは少し複雑さが軽減されました」と説明する。

■ 目視外(BVLOS)飛行を行う許可を11月に環境・運輸検査局(ILT)から取得した。飛行システムをインストールし、テストを行った。

■ ファルカー社のボーア氏は、「私たちは緊急時の手順と通信するために策定された手順を検証しました。インストール後、データ接続とGPS (全地球測位システム)受信が良好かどうかをテストする必要があり、マースブラクテ・オイル・ターミナル/ゲート・ターミナルの建物とファルカー本社に遠隔監視と制御する場所を設置しました。私たちは飛行計画とフォールバック手順のプログラミングを行い、現在、点検した撮影写真の評価を行っています」と語った。(注;フォールバック(Fallback)は、障害が発生しても、必要最小限の機能を維持して処理を続けられるようにしようとする縮退運転のことである)

二番目のシナリオ

■ 二番目のシナリオとして、ファルカー社はパーセプト社のほか、オランダの貯蔵施設のクーレ・ターミナル社(Koole Terminals)と協同体制をとった。

■ ファルカー社は、「このときのユースケースは、製品のごまかしや漏れ量発見時に、ラインアップのチェックを実行することに関するものです。また、ISPS(船舶保安システム)のような管理要件を技術で満たせるかどうかをロッテルダム港と連絡を取り、確認しているところです。このシナリオのために、私たちは欧州モデルに切り替えています。パーセプト社のドローンは重量が10kgとかなり重いため、ロッテルダムのCTR(コントロールゾーン) 内で運用するためには、 SORA(特定運航リスクアセスメント) を作成する必要があります。そのため、多くの書類作成などの事務処理と環境・運輸検査局(ILT)やオランダ航空交通管制局との調整が必要です。例えば、オペレーション・マニュアルは欧州の様式に変換する必要があります。私たちは95%くらいはできていると思いますが、SORA(特定運航リスクアセスメント)が承認されるにはまだ時間がかかるでしょう」とボーア氏はいう。 (注;ユースケース(Use Case)は、ソフトウエアやコンピューターシステムの開発段階で作成するもので、利用者の要求や利用目的を明確に定義したもの)

■ 202110月、ドローン・イン・ボックスの設置場所、緊急着陸が可能な場所、私道の横断、飛行禁止区域など新システムのすべてのパラメーターを決定する作業が開始された。当初、U-pace(ドローンの無人運航技術の運航管理システム)が導入されて無線連絡が不要になるまでは、ファルカー社の事務所から航空管制との無線連絡を含めたシステムを制御するつもりだった。

■ ファルカー社のボーア氏によると、難しいのは技術的なことよりも、規制の側面が大きいという。

■ ボーア氏は、「一番難しいのは法規制の適用と実施です。それは関係者全員にとって新しい課題だからです。エンドユーザー、ファルカー社、環境・運輸検査局(ILT)、オランダ航空交通管制(LVNL)、関係省庁、港湾当局のいずれにとっても新しく出てきた問題です。したがって、すべてをうまく調整する必要があり、忍耐が必要です。また、多くのことを考え、ときには苦難にあっても恐れない勇気も必要です。これは新しい時代への第一歩ですが、欧州のルールは手続きや技術を導入するための良い枠組みを提供してくれています」という。


 今後の計画

■ ファルカー社の計画は、ロッテルダム港周辺へのドローン・イン・ボックスの設置にとどまりません。

■ ファルカー社のボーア氏は、「私たちはドローン製造者パーセプト社のオランダにおける付加価値を高めた販売会社です。また、他の欧州地域にも力を入れていきます。また、石油・ガス産業における施設の点検に関してだけでなく、他の分野でのドローン・イン・ボックスの応用も視野に入れています」という。

■ また、長期的には、地上で活動するロボットの可能性も見据えているとボーア氏はいう。

■ ボーア氏は、「パーセプト社のシステムは1機のドローンをコントロールするだけではなく、もっと遠くを見据えています。ドローンの艦隊全体を制御できますし、米国のロボット研究開発を手がけるボストン・ダイナミクス社(Boston Dynamics)の有名なロボット犬スポットSpot)などの地上ロボットも制御できます。私たちは新しい時代に入ったのです。今は人間が行っている困難な作業や危険な作業も、将来的にはロボットに引き継がれることが期待されます」と締めくくる。


補 足

■「ファルカー社」(Falcker)は、2015年に設立されたオランダのロッテルダムを本拠地にするソフトウェア企業で、高度な写真測量、3Dモデリング、赤外線イメージング、ロボット工学、人工知能などの技術を有しており、石油・石油化学業界に対してドローンによる検査サービスを実装するのを支援している。ファルカー社は、化学会社サビック社(SABIC)のタンクの内部検査を、「ドローンによる貯蔵タンク内部検査の活用」(20204月)で掲載したフライアビリティ社(Flyability)のELIOS2(エリオス2)を使用して実施している。

■「パーセプト社」(Percepto)は、2014年に設立されたイスラエルの企業で、ロボット工学、産業用自動化を行うほか、主として自律型ドローンを製作している。

■「マースブラクテ・オイル・ターミナル」(Maasvlakte Oil Terminal MOT)は、オランダのロッテルダム港にある石油タンク貯蔵施設で、原油の貯蔵と積替えを専門としている。ターミナルには直径は85m×高さ22m×容量114,000KLのタンクが 39基あり、総容量は450KLである。ターミナルは、シェル社(Shell)、BP社、エッソ社(Esso)、アラムコ社(Aramco)、ボパック社(Vopak)、ジーランド・リファイナリー社(Zeeland Refinery)の合弁事業である。ターミナルには 2基のバースがあり、着桟能力は最大40DWTで、大型タンカーから原油をタンクへ荷揚げしたり、あるいは積替えたり、パイプラインを介して製油所へ送油する。ロッテルダム港では最大の貯蔵タンクを有しているが、2011年に3基が増設された以外のタンクは1960年代~1970年代に建設されたもので、マースブラクテ・オイル・ターミナルは検査や保全に関心をもっていた。

■「マプチャー・エイアイ社」(Mapture.ai)は、2018年に設立されたオランダの企業で、オランダのノールトウェイク (Noordwijk)に拠点をもち、 ドローン・インボックス(Drone-in-a-box)などのドローン開発を行っている。地元の消防署Brandweer Twenteの訓練場で目視外飛行(BVLOS)テストを24時間年中無休のセキュリティと監視を行っている。

■「ディー・ジェイ・アイ社」(DJI)は、 2005年に設立された中国広東省深圳にある企業で、民生用ドローンと関連機器の製造会社である。高性能カメラを備えた空撮/産業用ドローンを製作しており、ドローンの世界シェア1位といわれている。

■「U-スペース」(U-Space) とは、ドローンの無人運航技術あるいはドローン運航管理システムを指すが、米国で2012年頃から立ち上がっているUTMUnmanned Air System Traffic Management)もあり、定義は明確ではない。 U-スペースについては「欧州のドローン運行管理システム研究開発動向から」(中村裕子、Technical Journal of Advanced Mobility, Vol. 1, No. 1, 2020)を参照。

所 感

■ 欧州におけるドローンの開発状況を知ることができた。自律型ドローンを使用したタンク施設の点検や監視を行うものである。日本の 「ドローンによる貯蔵タンク内部検査の活用」では、実証実験の内容を見ると、まだやや保守的なように感じると書いたが、欧州では果敢に攻めているようだ。ただし、資料にあるように「難しいのは技術的なことよりも、規制の側面が大きい」といい、「すべてをうまく調整する必要があり、忍耐が必要です。また、多くのことを考え、ときには苦難にあっても恐れない勇気も必要です」というのが印象的である。

■ 今回の資料を読むためにドローンやロボットについて調べたが、この23年の間に思った以上に開発が進んでいる。ロボット犬スポットの動画などは技術的な理論抜きに面白い。また、ドローン分野の横の連携や情報の共有化が進んでおり、 「ドローンによる貯蔵タンク内部検査の活用」で紹介したフライアビリティ社のドローン;エリオス2によるタンク内部検査は広がっているようだ。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

  ・Tankstoragemag.com, The automatic inspection drone is taking off,   January 11, 2022

  ・Dronewatch.eu,  The automatic inspection drone is taking off,  November 2, 2021

Pzc.nl,  Bijzonder! Deze drone inspecteert zelfstandig een terminal in de Rotterdamse haven,  December 9, 2019

Linkedin.com, Falcker, Non-entry drone inspection SABIC  Geleen,  June, 2021


後 記  この資料は貯蔵タンクの雑誌;Tank Storage Magazineに載ったものですが、元はDrone Watchというドローンの専門情報誌に掲載されたものです。そういう訳で原文はドローンに関する規制や運航などに関する略語が頻繁に出てきます。そのたびにインターネットで検索を行い、意味を理解しながら読み進めて行きました。インターネットが無ければ、到底、文章の内容は分からないでしょう。逆にいえば、インターネットがあるから専門誌も読むことができるのだと実感しました。貯蔵タンクの読者なので、読みやすいようにドローン分野の特殊な用語には解説らしい言葉を加えながらまとめました。 

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