(写真はNbcnews.comから引用)
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< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国テキサス州(Texas)ハリス郡(Harris
County)クロスビー(Crosby)にあるKMCO社(KMCO LLC)の化学プラントである。
KMCO社は1975年に設立された化学会社である。
■ 発災があったのは、クロスビーのラムジー通り沿いにある化学プラントの配管やタンク設備である。化学プラントは、ヒューストン(Houston)の北東にあり、3月17日(日)にタンク火災時のあったディア・パークから約20マイル(30km)しか離れていない。
テキサス州ハリス郡クロスビー付近 (写真はGoogleMapから引用)
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< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2019年4月2日(火)午前10時45分頃、KMCO社の化学プラントの移送配管で爆発があり、火災になった。すぐに、近くのイソブチレンで一杯のタンクに延焼し、さらに近くにあった貯蔵倉庫に延焼した。貯蔵倉庫の中には、固体で燃焼性のあるケミカルが入っており、火が移ったものとみられる。空には黒煙が立ち昇った。
■ KMCOのプラント構内にいた従業員によると、最初、ガス漏れがあり、急いで避難しようとしたという。プロセス区域から出たところで、誰かが「タンクに火が着いた」と叫び、プラントが爆発した。このとき、門は閉まっていたので、門の下を這って出た。「とにかく、できるだけ早く遠くへ逃げることしか考えられなかった」と話している。
■ ある住民は 「大きな音が聞こえた途端、家が揺れました」といい、別な住民は
「家全体が震えました。窓が振動し、飼っていた犬が吠えていました」と語っている。
■ 事故発生に伴い、ヒューストン消防署、クロスビー消防署などの公設消防隊が出動した。
KMCO社は緊急事態対応の指揮所を開設した。対応チームと公設消防は、火災を封じ込めようと活動した。
■ 火災発生に伴い、
KMCO社の化学プラント周辺の道路が交通規制で閉鎖された。
(写真はAbc.comから引用)
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■ 発災に伴い、1名が死亡し、2名の重傷者が出た。亡くなったのは、KMCO社の運転部門の従業員で、現場において死亡が確認された。爆風で亡くなったものとみられる。ケガをしたふたりは救急ヘリコプターで病院に搬送された。
■ 事故発生により、当局は工場から1マイル(1.6km)以内の住民と学校の生徒に屋内に留まるように勧告した。クロスビーの学校では、校内の暖房、換気、空調システムのすべてを止め、さらに追加の安全予防策として、できる限りドアの密閉を強化した。
■ 米国環境庁は大気中に有害化学物質を検出していないと発表した。これを受け、約4時間後に屋内待機の勧告は解除された。
■ 火災の消火に当たっていた消防士が数名負傷したと報じているが、真偽は不詳である。
■ 火災は、約5時間半経った午後4時20分に消された。しかし、消防隊はホットスポットによる再引火に留意した。
■ 午後2時30分までの消防活動は明らかに制御下にあったが、午後4時20分まで消火できなかったのは、消火水の圧力が低下したためである。この水圧低下の問題は、3月17日に起こったディア・パーク火災のときと同じである。
■ KMCO社の会長は地域社会に心配と迷惑をかけたことを陳謝した。
■ 火災は当初、イソブチレンが引火したもので、その後、燃焼源はエタノールとアクリル酸エチルだった。この3つともプラント内で燃料に添加されるケミカルや溶剤である。
■ KMCO社は事故後、火災はイソブチレンから火の手があがり、それからエタノールとアクリル酸エチルによって燃料が供給され、タンクが火災に巻き込まれ、さらに乾燥したケミカルが詰まっている近くの貯蔵倉庫に燃え始めたと語った。
被 害
■ 化学プラント内の配管やタンクが焼損した。また、貯蔵倉庫が内部に保管されていたケミカルとともに焼失した。被害設備の詳細は不詳である。
■ 3名の死傷者が出た。1名が死亡したほか、2名は重傷である。このほかに、消防隊に数人の負傷者が出たといわれている。
■ プラント近隣の住民と学校の生徒が一時、屋内待機した。影響した人数は不詳である。
発災の経過状況 (各写真の左上は現地時間)
(写真はAbc.comから引用)
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(写真はYoutube.comから引用)
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火の手は2箇所から上がっている
(写真はNbcnews.comから引用)
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(写真はAa.com.trから引用)
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< 事故の原因 >
■ 原因は調査中である。
■ KMCOによると、予備調査では、最初にタンクから漏れたものではないとみている。KMCO社は事故後、火災はイソブチレンから火の手があがり、それからエタノールとアクリル酸エチルによって燃料が供給され、タンクが火災に巻き込まれ、さらに乾燥したケミカルが詰まっている近くの貯蔵倉庫に燃え始めたと語っている。
< 対 応 >
■ 4月2日(火)、テキサス州環境品質委員会は火災の初期評価を行うために調査係官を派遣した。また、米国CSB(化学物質安全性委員会)が事故調査を行うことを表明した。
■ 4月3日(水)、プラントの操業はすべて無期限に停止され、消防の管理下におかれた。また、テキサス州は、KMCO社に対してテキサス州大気浄化法違反で訴状を出した。
■ プラントの爆発後、多くの住民が健康と安全について不安を抱いていた。火災が消えた後もメタノール・タンクとエタノール・タンクに関連したプラントでは、まだくすぶっている区域から不快な臭いがしていた。消防隊は、臭いの放散を防ぐためにその区域に泡を追加して覆った。
■ 住民だけでなく、数年前からプラントで働いている従業員のひとりは、「とても怖かった。2・3週間前にディア・パークの火災事故があり、これ以降、私たちの職業というものに悩み始めていました。そして、身近なところで事故が起きたのです。しかし、ほかのどこでも常に起こりうることなのです」と語っている。
■ 4月4日(木)、残っていたホットスポットはすべて冷却されて無くなった。KMCO社はドローンを使用して、消防署と連携してホットスポットが無くなり、完全に消火できたことを確認した。
■ 4月8日(月)、ヒューストン地区の化学プラントで働いている請負者が、KMCO社に対して訴訟を出した。訴えは、火災事故で負傷者が出たが、KMCO社は致命的な火災が発生する前に、可燃性ガスの漏れていることを知っていながら、避難を命じなかったというものである。ケミカル貯蔵施設で爆発前に、高圧のガス配管のバルブから漏れ、ガスが放出していたことをKMCO社は知っていたと主張している。
なお、逆止弁が故障して漏れたと報じているメディアもある。
消火活動する消防隊
(写真はAbc.comから引用)
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焼け落ちた貯蔵倉庫とみられる
(写真はNbcnews.comから引用)
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(写真はHoustonchronicle.comから引用)
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発災中心部跡
(写真はChron.comから引用)
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補 足
■ 「テキサス州」(Texas)は、米国南部にあり、人口約2,870万人の州である。
「ハリス郡」(Harris County)は、テキサス州南東部に位置し、人口約470万人の郡である。この事故の2週間前の2019年3月17日(日)に起こったディア・パーク市のタンク火災事故「米国テキサス州で13基の貯蔵タンクが6日間火災」は、同じハリス郡だった。
「クロスビー」(Crosby)は、ハリス郡東部に位置し、人口約2,300人の町である。
テキサス州クロスビー周辺 (写真はGoogleMapから引用)
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■ 「KMCO社」(KMCO
LLC)は、1975年に設立した化学会社で、クーラント(冷却剤)、ブレーキ・フルード製品、油田業界向けの化学薬品などを製造している。クロスビー工場は2012年に買収して保有したもので、従業員は180名である。工場施設には、貯蔵タンク600基、鉄道タンク車250台、反応塔28基などがある。
KMCO社のクロスビー工場
(矢印が発災箇所付近だが、今は配置が変わっている)
(写真はKmcoinc.client.artisandm.comから引用)
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■ 発災設備のプロセス装置について報じられておらず、またKMCO社のウェブサイトでも明らかにされていないので分からない。発災後の設備跡とグーグルマップの設備配置を比較すると、明らかに改造されていることが分かる。また、イソブチレンが一杯入っていたという発災タンクの仕様も分からず、グーグルマップでも特定できなかった。
左が今回の火災跡、右が以前のプラント配置
以前の建家跡に新しい竪型タンクが3基追加されている
(写真は、左;
Chron.com、右;GoogleMapから引用)
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■ 「イソブチレン」(Isobuthylene)は化学式C4H8で、イソブテン(Isobutene) とも呼ばれ、通常、石油分解ガスからの分離か、イソブタンの触媒による脱水素化によって製造される。空気より軽く、比重は0.6
g/cm3で、極めて可燃性が高く、常温常圧で無色の気体である。漏洩すると、発火、爆発する危険性がある。タンク(容器)が加熱されると爆発するおそれがあり、ガス漏れを止められないときは、漏洩ガスの火災は消火しない。
所 感
■ 今回の事故は化学プラント内で起こったもので、
最初にタンクから漏れたものではなく、高圧のガス配管のバルブ(逆止弁が故障して漏れたという情報もある)から漏れ、放出してガスに引火し、爆発したものだと思われる。燃焼源は最初にイソブチレンで、その後、エタノール、アクリル酸エチル、貯蔵倉庫内のケミカルに延焼していったとみられる。漏れの異常に気がついた従業員が対応をとっていた際に、爆発したものではないかと思われ、複数の死傷者が出るという不幸な出来事だった。何らかの別な対応がとれなかったのかと感じる。
事故の原因は調査中だが、KMCO社は2012年にクロスビー工場を取得した後、事故のあったプラントの一部を改造しており、改造設備や運転マニュアルに問題があるのかも知れない。
■ この事故の2週間前の2019年3月17日(日)に、同じテキサス州ハリス郡にあるインターコンチネンタル・ターミナル社のタンク火災事故は、一旦消火後、再引火したり、ベンゼン放出で大気汚染の問題が生じたりしたため、地元の関心事は発災状況より再引火や大気汚染の懸念にあった。ハリス郡庁としては、インターコンチネンタル・ターミナル社のタンク火災事故が一段落した4月2日(火)に再びプラントの火災事故が起き、多忙な日々を送ることになったが、学習効果か、今回は後手後手の対応にはならなかったように思う。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Reuters.com,
Texas Chemical Plant Fire Kills One, Injures Two, April
3, 2019
・Edition.cnn.com,
Chemical Plant Fire near Houston Kills 1, April
2, 2019
・Marketwatch.com, 1 Killed, 2 Hurt in Fire at Texas
Chemical Plant, April 2, 2019
・Time.com, Fire at Houston-Area Chemical Plant
Leaves 1 Dead, At Least 2 Injured,
April 2, 2019
・Khou.com, 'It Was Terrifying' | Deadly Chemical Plant
Fire in Crosby Is Contained, April 2,
2019
・Aa.com.tr, Blast,
Fire at Texas Chemical Plant Kills 1, Injures 2, April
3, 2019
・Nzherald.co.nz , Texas Inferno: One Dead as Tank Catches
Fire at Texas Chemical Plant, April 3, 2019
・Simmonsandfletcher.com, KMCO Plant Explosion Update –
Shelter In Place, April 2, 2019
・Abc13.com, Cause of Deadly KMCO Explosion in Crosby Still
Unknown, April 4, 2019
・Abc13.com, Houston's ‘Tox-Doc' Explains The
Dangers of The Smoke from Crosby Plant Fire,
April 3, 2019
・Abc13.com, 'Get out as fast as you can' Workers Crawl
under Gate to Escape Blast at KMCO Plant in Crosby, April
3, 2019
・Abc13.com, KMCO chemical plant fire in Crosby kills 1,
injures 2, April 3, 2019
・Chron.com, KMCO Identifies Worker Killed in Explosion at
Crosby Chemical Plant, April 3, 2019
・Fox26houston.com,
Lawsuit Filed against KMCO Following Plant Fire, April 3, 2019
・Starcouriernews.com, Explosion, Fire at KMCO Plant in
Crosby, April 4, 2019
・Crossroadstoday.com, KMCO Knew of Valve Leak before Texas
Plant Fire, April 8, 2019
・Insurancejournal.com, Workers Injured at Texas Chemical
Plant Damaged by Fire File Suit, April
8, 2019
・Fox26houston.com,
Contractors File Lawsuit against KMCO LLC after Deadly Fire, April 8, 2019
・Fairfieldcurrent.com, The Newest: Texas company, April
17, 2019
・
Kmcoinc.client.artisandm.com, Press Release,
April 2-5, 2019
後 記: 米国のプロセス・プラントの事故は、発災事業所が十分把握していないためか、あるいは情報を意図的に出していないためか、タンク事故に比べて内容に乏しいことが多いと感じていました。さらに最近、米国の事故情報を見ていて、メディアによる報道の姿勢が甘いと感じます。メディアに関わる人材が少なくなり、相互に記事を融通しあうことが多いように思います。インターネットの事故情報は同じ記事が目立ちます。そのため、インターネット検索すれば、多くの記事が出てきますが、内容が同じということを知るだけの無駄な時間を費やすことが結構多いと感じます。
それでも、内容に工夫を施すメディアもあります。画像や動画は現場の状況を把握するのにとても参考になりますが、大抵は撮られた時間が分かりません。今回、ABCニュースの動画では、画面に時間を明示しています。この場面はブログ本文で紹介しましたが、状況がよく分かります。
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